Fate Zero After ##   作:焼肉大将軍

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騎兵と槍兵。そして

 同刻、デパート屋上へと舞い降りたライダーとそのマスター、須山マドカはランサーのマスター狗城直衛と相対する。マドカは足元に転がった自らの魔術礼装へと目をやった。

 何れも頭蓋を砕かれた三体のカラベラ人形。マドカは冷汗を流す。

 強襲した人形の数は四体。狗城を取り囲む形で舞い降りた彼等はそれぞれその手に斧、ナイフ、槍、拳銃と違う武器を持ち、その目には蒼い炎が宿っていた。

 須山マドカの降霊術『御魂降し』によって動く彼等は、それぞれ武術の達人である生前の頭蓋の主達の動きを再現し、驚くべき程正確な連携を得意とする。また死をも恐れぬ彼等は手足が千切れようと戦い続ける狂戦士だ。唯一の弱点はその頭蓋だが、魔力と家伝の漆によって保護されたそれは銃弾さえも跳ね返す程の強度を持つ。

 しかし、一蹴。

 目の前の男が恐るべき魔術師である事に疑いの余地は無い。

 しかし、その手に狙撃銃を構えた男の顔には死相があった。

 男は今、サーヴァントも従えずライダーの前に立っているのだ。ライダーの気迫に動じた所を見せぬのは立派だが、絶体絶命の窮地である事に間違いは無い。

 

「聞こえなかったか? 余はサーヴァントを呼ぶが良いと言ったのだぞ、魔術師よ。それとも、その豆鉄砲で余に相対して見せる気か?」

 

 ライダーは獰猛な獣の様な笑みを浮かべ、対する狗城は渇いた笑みを返す。

 

「く、クハハ……。それも良いかも知れないな」

 

 狗城は銃把に掛けた指を上げ、セレクターを押し込む。フルオート射撃へと切り替えたのだ。その行動の意味は、ライダー、マドカ共に分からなかったが、彼等は狗城の表情から抵抗の意を察した。

 

「止めておけ。そんな物で余の一刀は防げんぞ」

 

 ライダーが静かに告げる。その顔に笑みは無かった。

 

「それは、やってみなければ分からない」

 

 言いながら、狗城はその手の令呪をちらと見る。無論、彼もライダーと真っ向勝負と洒落込むつもりは毛頭無かった。そんな物は自殺と全く変わらない。しかし、言い成りに令呪を使う事もまた出来そうも無かった。武人然としたライダーの言葉に嘘は無くとも、今も彼を睨み付けているライダーの隣に立つ少女が易々とそれを許すとは、彼には思えなかったからだ。

 先程の人形共の手並みから、狗城はマドカの技量を把握していた。

 

「令呪を以って、我がサーヴァントに――」

「させると思う? アンタはここで叩くッ!! 『精霊降し』」

 

 狗城が令呪に魔力を込めると同時に、マドカの半身に青白い炎が宿った。その左足がコンクリートの床面を踏み砕き、彼女は跳んだ。狗城とマドカの間にあった間合いは一瞬で消失し、彼女は振り被った腕を真っ直ぐに突き出す。

 彼女の半身は人形で出来ている。幼き日の事故で半身を失ったからだ。そこへ自身の降霊魔術『精霊降し』で地霊、魍魎の類を憑依させ剛力を得るマドカの十八番。その一撃は岩石をも粉砕し、鉄板に拳の跡を残す程の威力を誇る。先程、遥か上空、ライダーの宝具『神威の車輪』から飛び下り、ビル屋上へ着地せしめたのも、魔術による気流制御等の類では無く、ただ『精霊降し』に拠って落下の衝撃に耐えただけの話であった。

 その恐るべき魔拳は、空気の唸る音を残し、空を切る。

 拳が着弾する直前、狗城の身体が霞の様に掻き消え、マドカは在り得ぬ物を見た。振るった腕に狗城は乗っていた。紙一重で拳を避けて跳躍し、伸び切ったその腕に着地。言うは易いが、如何程の技量がこれを可能とするのか。しかも、軽気功に拠る体重操作で、着地の瞬間すらその重さを感じさせぬのだ。

 故に、マドカの反応は遅れ、彼女の身体はその勢いのまま、拳を突き出した体勢のまま前進する。その顔に向け、狗城の足が跳ね上がった。

 カウンターで入る。防御も回避も不可能だ、とマドカは判断した。

 狗城の蹴りは正に神速を誇る物だったが、死の直前にのみ顕れる極限の集中状態が彼女にその判断を可能にした。故に、マドカは死を悟る。全ての時間は緩やかに流れ、しかし、蹴り足がマドカの顔に触れようとしたその刹那、横合いから野太い腕が割って入った。

 

「無事か、嬢ちゃん?」 

 

 ライダーの腕が狗城の蹴りを難なく払いのけていた。

 狗城は跳び退き、着地と同時に銃口をライダーへと向ける。その顔には苦々しい物が浮かんでいた。必殺を期して放った蹴りを難なく叩き落とされたのだ。先の蹴り、内功に拠ってその脚は鋼と化し、軽気功に拠って文字通りその全体重を乗せた物だった。その威力は高速で打ち込まれる数十キロの鉄槌に等しい。ライダーが助けなければ、マドカの首から上は無くなっていた筈だった。

 彼女の背に冷たい物が奔る。

 

「あ、ありがと、ライダ――ひゃ」

 

 死の実感に竦んだマドカの頭を、ライダーの大きな手がくしゃくしゃと撫でた。

 

「な、何するのよッ!?」

「お転婆なのは結構だがな、余り先走るな。まぁ、この場は余に任せておけ」

 

 堪らず抗議の声を上げるマドカに笑って答え、ライダーは狗城へと向き直る。 

 

「フハハ、しかし、やりおる。今のは少し痺れたぞ」

 

 ライダーは笑い、狗城は笑わなかった。

 ライダーはその腰の剣の柄に軽く手を乗せるのみ、抜剣すらしていない。一方狗城は銃を構え後は引き金を引くのみの体勢。その銃口は真っ直ぐにライダーを捉えている。

 しかし、狗城に勝ち目は無い。それは相対する彼等自身が最も良く分かっている事だった。

 

「もう一度だけ言う。サーヴァントを呼ぶが良い」

 

 ライダーの言葉に、狗城は身体の力を抜く。

 

「流石は英霊。アレを難なく防ぐか。だが――」

 

 狗城は一度たりともライダーから視線を切らなかった。一度たりとも殺気を放たなかった。

 だが最小の動きと共に、その手に構えた銃口は空中を滑るかの様に移動した。

 

「これは防げるか?」

 

 銃口がマドカを捉え、狗城はその引き金を引いた。

 

「この、愚か者がッ!!」

 

 ライダーは一歩踏み込み、その身体で火線を切る。自ら盾となってマドカを護るべく、銃口前へと身を躍らせたのである。同時にVSSが火を噴いた。VSSのフルオートでの発射速度は秒間十五発を誇る。その銃弾一発一発に気を込めるには余りに短い。

 しかし、死の直前にのみ顕れる極限の集中状態が、狗城に在り得ぬ操気を可能にした。今や鉛の弾はその威力を増し、霊体であるライダーの身体をも貫くだろう。しかし――

 

「そんな物で余の一刀は防げぬと言ったッ!!」

 

 狗城は見た。射出された三発の弾丸がまるで意思を持つかの様にその軌道を変え、ライダーから逸れたのだ。ライダー、征服王イスカンダルの逸話の一つに、戦場にて彼に降りかかる幾千の矢の雨がただの一つも当たる事は無かったという物がある。これぞライダーが持つ『矢よけ』のスキル。あらゆる投擲攻撃は彼に届く事は無い。

 咆哮の如き一喝と同時に、ライダーの一斬が煌いた。

 四発目の弾丸が叩き斬られた銃身から虚空へ向けて放たれる。その銃火と共に蒼月が瞬き、一際大きな火花が散った。

 

「危機一髪、と言った所かな。視た以上に危うかったが、無事かい? マスター」

 

 横合いから突き出された蒼い槍がライダーの剣を阻んでいた。狗城の危機を救ったのは、壁面を駆け上がって彼等の間に割り込んだ最速のサーヴァント、ランサーである。

 硬直は一瞬に、ランサーとライダー、互いの視線が錯綜する。相対した二体の英霊は、互いの得物を跳ね上げ、弾かれた様に距離を取った。

 片や強力な宝具を持つライダーに片や最速を誇るランサー。片やケルトの大英雄フィン・マックールに片やマケドニアの征服王イスカンダル。共に戦闘に特化したクラスを得た二人の英霊。

 尋常ならざる闘気が重圧となって視る者全てに降り注ぎ、これから始まる激闘を予感させる。

 しかし、ライダーは、にやりと嬉しそうに笑い――

 

「ほう、意外だな。その狙撃手が貴様の主か。まぁ、良い。我が名は征服王イスカンダル!!此度はライダーのクラスを得て現界した。槍の英霊よ、貴様も名乗るが良い」

 

 自らの真名を名乗り上げた。

 不意の事態にマドカと狗城は反応出来なかった。

 時に情報とは千金にも代え難い物となる。

 本来、聖杯戦争において英霊の真名とは絶対に明かしてはならない、秘匿するべき物である。彼等召喚された英霊は過去の存在であり、有名な逸話を持つが故に英霊なのだ。真名を知られればその能力や宝具、弱点までも敵に知られる事になる。

 それは聖杯戦争という生存戦では絶対的不利な状況に陥る事を意味する。

 少なくとも、プラスに働く事はありえない。

 しかし、この英霊は臆面も無く自らの真名を名乗り上げたのである。

 

「ば、バカーーーー!!?? 真名名乗り上げるとか、アンタ、な、何考えてんのよッ!? さっき、負けられないって言ったでしょーがッ!?」

「まぁ、そう熱り立つでない。この征服王イスカンダルの威名に、余の名の何処に名乗るに憚られる事があると言うのだ」

「じょ、状況を考えなさいよ!!!」

 

 豪放磊落を地で行くライダーに叫ぶマドカ。

 既に先程までの闘争の空気は雲散霧消している。

 

「なぁに、負けなければ良いであろう。それに、嬢ちゃんは余が敗北すると思うのか?」

「そ、それは……思わない、けど……」

 

 豪快に笑うライダーに口篭るマドカ。

 暫し唖然として彼等の様子を眺めていた狗城は苦い顔をし、ランサーは薄い笑みを浮べる。

 

「ランサー、お前――」

「知っているのに敢えて問うか。いや、卑怯とは言うまい。我が名はフィン・マックール。フィアナ騎士団長、白指のフィン・マックールだ」

 

 止めようとする狗城を制してランサーは応える。彼は既に、自らの真名をライダーが知っている事を知っていた。ライダーは知っていて敢えて名乗りを上げたのだ。

 

「ほう、見物していた事に気付いていたか。おうとも、これは戦場の倣いに他ならぬ。先程のバーサーカーとの一戦、実に見事であった。地上に月を観るとは思いもよらぬ収穫であったわ。して、ランサーよ。貴様、余の軍門に降らぬか?」

 

 続いてライダーが口にしたのはまたもや突拍子も無い言葉だった。その正気とは思えない提案に、改めてマドカは自らのサーヴァントがつくづく規格外なのだと思い知る。無論、悪い方向にではあったが。

 

「ふふ、正気かい? いや、だから名乗ったのかな?」

 

 ランサーは楽しそうに返す。どうやらこの状況を楽しんでいるらしい。

 

「無論であろう。名乗りもせぬ者の言葉等響くまい。貴様が聖杯に何を望むのかは分からぬが、その願望。共に天地を喰らう大望に比して猶重いと申すか? 我が軍門に降り、聖杯を譲るのであれば、余は貴様を朋友として遇し、世界を征する快悦を分かち合う所存である」

 

 腕を組み胸を張るライダーにランサーは首を振り、

 

「悪いが、それは出来ない相談だ」

 

 その手の中で槍が回転して翻る。それに呼応するように、ライダーは剣を引き抜いた。

 

「交渉決裂か。至極、残念だ。しかし、気変わりしたならばいつでも言うが良い。こちらはいつでも大歓迎なのでな」

 

 闘争の空気ではない。そうライダーが変えてしまった。

 しかし、至極当然の様に、彼等は向かい合う。

 

「ふむ、消耗は無いようだな」

「へぇ、随分と甘い事を言う」

 

 ライダーの言葉にランサーは不敵に笑う。そこに連戦の疲労は見えない。

 ランサーの宝具『蒼月血槍(レイン・ビルガ)』は血を吸う魔槍である。その吸い上げた血、魔力は当然繰手であるランサーへと還元される。詰まり、先程のバーサーカー戦での疲労はランサーには存在しない。こと継戦能力においてこの英霊は頭抜けた存在なのである。

 で、あるならば、勝負を分けるのは彼等互いの技量のみ。

 ライダーとランサー、互いに高いレベルで纏まったステータスではあるが、両者の差は明確だった。力はライダー。速さはランサー。後は天と地ほどの幸運の差か。

 

「では、主殿に剣を向けた事、後悔してもらおうか。なに、今はコイツも満腹でね。枯渇死はしないだろうから心配いらない」

「先に嬢ちゃんに銃を向けたのはそちらであろう。そもそもだなぁ、こそこそと戦士の戦いを汚すような事をしておる貴様のマスターが悪いのだ」

 

 闘争の予兆はまるで無かった。

 行動の起こりも全く無かった。

 ただ、火花と剣戟の音で以って、何が起こったかを知る。

 

「ぐ、う……や、やるね」

「ふん、少々、油断が過ぎるぞ、ランサー」

 

 ライダーの一刀をランサーが柄で受けていた。否、柄で受ける形で辛くも持ち堪えていると言った方が正しいか。さしものランサーもライダーを相手に力勝負は分が悪い。その怪力に押し込まれる形でランサーは膝を付き、剣は猶も圧力を増してその肩口まで迫っている。

 ほんの僅かでも気を抜けば、ライダーの剣はそのまま肩口からランサーを圧し切るであろう。

 狗城は咄嗟にランサーを助けるべく動く。しかし、彼は驚愕を隠せなかった。

 先の一合、先手はランサーだったのだ。

 前触れも無く、恐るべき速度でランサーの槍がライダー目掛けて跳ね上がった。それに遅れる形で振り被ったライダーはどうしようもなく遅過ぎた。次の瞬間、槍がライダーの咽を貫き、それで終わる――筈だった。

 詰まりは、その一斬が速過ぎた。

 その轟雷の如き一刀は、自らの咽を貫く筈だったランサーの槍の穂先を弾き、その勢いのままに槍ごとランサーを両断せんと迫った。咄嗟に圧された槍の柄を取って両腕で堪えるランサー。しかし、その一刀は止まらない。押し切る形で圧倒し、その恐るべき圧力に足場のコンクリートが砕け、ランサーが膝を付く。

 それは自らの槍を捧げ頭を垂れる臣下の姿に他ならない。

 

「ランサー、合わせろッ!!」

 

 横手より接近すると同時に、カラベラ人形から拾い上げた手斧を振り被り、狗城はライダーへと飛び掛った。ライダーが狗城へと注意を向ければ、その瞬間にランサーは窮地を脱せる。否、隙あらばその首を獲る事すら出来るだろう。しかし、

 

「片腹痛いのぅ。その様な小細工で、このイスカンダルが殺れると思うたかッ!?」

 

 一喝と共にライダーの野太い脚が翻る。身動きの取れぬランサーに避ける方法等ある訳もなく、その蹴りはランサーの胴を捉え、その身体を軽々と空中へと跳ね上げた。衝撃にランサーの身体がくの字に曲がり、中空を舞って、ライダーへと飛び掛る狗城へと迫る。

 

「な、何だとッ!?」

 

 予想外の事態にも、狗城は咄嗟に手斧を放し、ランサーを空中でキャッチする。しかし、その衝撃に身体は後方へと流れた。先は地上四十メートルの空中である。咄嗟に狗城は片足を欄干に引っ掛け、落ちるのを拒否した。欄干に絡めた足と腹筋の力のみで身体を支える。そこへ、

 

「また、同じ事が出来るかしら?」

 

 マドカが迫る。振り上げた拳から青白い炎が一層激しく逆巻き、

 

「ぐぇ」

 

 その襟首をライダーが掴んで止めた。

 

「な、何すんのよッ!? 折角のチャンスを――」

 

 抗議の声を上げるマドカの言葉が途中で止まる。音も無く飛来した数本のナイフが次々と目前のコンクリートの床へと突き刺さった為である。ライダーが止めていなければ、飛来したナイフに全身を貫かれていた筈だった。

 咄嗟にナイフの飛来した後方を振り返るマドカ。

 

「新手ッ!? そんな、私とライダーが接近に気付かないなんて」

「そりゃあ嬢ちゃん、当然だろうな。ありゃあ、どう見ても――」

 

 そこに在ったのは暗闇の空中に浮かぶカラベラ人形。狗城に破壊されたマドカの魔術礼装の残りの一体である。それがずるり、と八つに裂かれて地に落ち、代わりに中空に現れたのは白い面。漆黒の風貌は闇に溶け込み、その白い面のみが中空に浮いている。

 

「アサシンに違いなかろうて」

 

 アサシンのスキル『気配遮断』。サーヴァントの感知能力すら無効化する魔術師殺しに特化したサーヴァント。反面そのステータスは低く、真っ向勝負であればライダーに敗北はありえない。

 しかし、マドカは怖気が止まらなかった。

 アサシンが口を開く。全く抑揚の無い声音だった。

 

「このライダーは難敵だ。協力を、ランサー」

 

 弾かれた様に前を向くマドカ。

 そこには既に欄干から屋上へと降り、槍を構えるランサーとそのマスターの姿があった。

 

「全く信用出来んが、またとない好機には違いない。ランサー、ライダーの足を止めろ。マスターを殺る」

「だ、そうだ。さて、絶体絶命だね。凌げるかい、征服王?」

 

 口端から流れる一筋の血を指で拭い、ランサーは槍を担ぎ上げる。

 

「ふむ、挟撃か。まったく、どいつもこいつも詰まらぬ真似をしおってからに。何故二体一となったなら、その数の利を以って余へと向って来んのだ。騎士の名が泣くぞ、ランサー」

 

 ライダーは言いながら、マドカを背に庇いつつ、視線をランサーへ、意識を背後のアサシンへと向ける。空気が変わる。ライダーの気迫は、背後のアサシンが動くのを止まらせるに十分過ぎる程の圧威を備えていた。しかし、ランサーは止まらない。

「ラ、ライダー……、このままじゃ……」

「心配するな、嬢ちゃん。余の軍略スキルは伊達ではないぞ」

 

 背後のマドカにライダーはにやりと笑い、同時に巨大な魔力が畝る。直後、稲光が瞬き、雷鳴と共に強大な魔力は巨大な質量と成って天空より降り注いだ。

 

「来い、神の仔らよ!!」

 

 ライダーの咆哮と共に、雷を纏って天空より駆け下った戦車はその勢いのままランサー達を轢き潰すべくデパート屋上へと落下した。ライダー達が飛び降りた後、そのまま上空にて待機させていた『神威の車輪』を呼び寄せたのだ。

 突如突っ込んできた二頭の雷牛に牽かれる戦車は、相手にしてみれば暴走する大型トラックの如し。否、威力はそれの何十倍か。デパート屋上は着地の衝撃に半壊し、飛んだ稲妻が地を裂いて奔った。大災害の如き様相を呈する戦場で、しかし、彼等に動揺は無い。

 ライダーはマドカを抱え上げ、走り来る戦車に飛び乗ると手綱を掴む。最早戦況は一変した。空中に逃げればただの的である以上、攻防一体の宝具『神威の車輪』の蹂躙走法を前に、狭いデパート屋上では逃げ場は無い。彼等は勝利を確信する。

 それを油断と呼べるかは解らない。

 戦車に乗ってしまえばマスターであるマドカの危険は激減するし、一方的に敵を蹂躙出来る。また、あのまま戦えば二体のサーヴァントからマスターであるマドカを護り切る事は難しい。故に、『神威の車輪』による奇襲からの流れに一切のミスは無い。しかし、ライダーはマドカを戦車の御者台に引き上げる為、彼女を抱えなくてはならなかったし、戦車を操る為に手綱を握らなくてはならなかった。つまり、剣を振るえなかった。

 それはどうしようもない隙だった。

 そして、それを見逃すランサーでは無い。

 突っ込んできた戦車を回避したランサーはその勢いのまま跳び上がり、空中よりライダーへと襲い掛かった。振り上げられた槍の穂先が蒼く輝き、空に三日月を描き出す。その恐るべきシャムシールは吸い込まれる様にライダーへと向かった。

 咄嗟に、ライダーはマドカを抱く手に力を込め、

 

「ッ、ライダー!! 信じてるわよ!!」

 

 マドカはその腕を引き剥がした。ライダーとマドカの視線が一瞬だけ交錯し、当然の如く彼女は疾走する戦車から落下し、戦車が巻き上げた土煙の中に消える。そして、

 

「AAAAAAAAAA――」

 

 ライダーは自由になった腕で剣を抜き放つ。

 一際大きな火花と共に剣と槍、力と力がぶつかり合って拮抗し、

 

「AALaLaLaLaaaaie!!」

 

 咆哮と共に、ライダーの一刀は蒼月を打ち払った。槍を弾かれたランサーは、その衝撃で後方に跳ね飛ばされ、『神威の車輪』を牽く二頭の雷牛、その一頭の背へと着地する。

 その瞬間、雷牛が背の異物を振り落とすべく戦慄きながら大きく身体を揺らした。しかし、その背に立つランサーは悠々と槍を回し、穂先をもう一頭の雷牛へと向ける。元より時速二百キロ近い速度で高速疾走している雷牛である。超人的なボディバランスと言わざるを得まい。

 

「この戦車は確かに脅威だが、牽く牛がいなければ無用の長物。さて、征服王、こうされると、君はどう凌ぐのかな?」

「やってみるが良い。余を前に、その余裕があればの話だが」

 

 ライダーの闘気が立ち昇り、同時にその剣に魔力が渦巻く。

 その暴風の如き、恐るべき魔力の波動は正しく奇跡の具現である宝具のみが備え得る物。ライダーが掲げたあの剣こそ、彼の東方遠征の折にゴルディアスの結び目を断ち切った物と見て間違いあるまい。ライダーも本気である。

 本来は騎乗兵の英霊であるライダーが剣の宝具は持ち得ない筈であるが、それを見てもランサーは気にしなかった。それは彼も同じだからだ。

 ランサーは満足そうに薄く微笑み、その親指を一舐めする。

 

「悪いが時間が無いのでな。いや、それはそちらも同じ事であろう?」

「さて、どうかな? こちらはもう少し時間を掛けさせてもらうよ」

 

 ライダーとは対象に、ランサーに焦る様子は全く無い。

 それは本来在り得ない余裕である。ランサーもまた、ライダーと同様にアサシンの前に自らのマスターを一人立たせてしまっているのだ。まさか、先程追撃を防いでくれたと言うだけで、アサシンを信用した訳ではあるまい。

 であるならば、この余裕は最初からアサシンと組んでいたと考えるのが自然である。

 ライダーは怪訝な顔付きでランサーを見据え、首を振る。目の前の英霊の表情からは何も窺い知る事が出来なかった。何れにせよ、一刻の猶予も無いと見るべきだ。ライダーはそう断じ、目の前の敵手へと集中する。

 

「一瞬で決めさせてもらうぞ、ランサー」

 

 飛蹄雷牛がコンクリートの地面を蹴って空を駆け、ライダー対ランサー、その第二幕。その恐るべき空中戦の火蓋が切って落とされた。

 






気が付いたら空中戦が始まっていた。
何が起こったのか分からねーと思うが、何が起こったのか分からなかった。
プロットがどうにかなりそうだった。

まぁ、強力なサーヴァント同士が互いの手の内を見つつ戦うのは序盤の華だよね。
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