R-18展開になる時は注意書きを入れます。
戦争開始
聖杯戦争。
およそ二百年前、アインツベルン、マキリ、遠坂、後に始まりの御三家と呼ばれる魔術師達は互いの秘術を持合い、万能の願望器『聖杯』を召還する事に成功する。が、それは血で血を洗う闘争への幕開けに過ぎなかった。
聖杯は土地の魔力を吸って一定周期で降誕する。聖杯はその意思によって七人の魔術師を選定し、彼等にその膨大な魔力の一部を与えて『サーヴァント』と呼ばれる英霊召還を可能とさせる。聖杯を得るに相応しい一人を死闘をもって決させるために。
七人の魔術師に七騎の英霊。超常の存在を率いた殺し合いの儀式。
それを聖杯戦争と呼ぶ。
およそ十年前、一人の若者が聖杯戦争に参加した。彼はそこで夢を見る。
これはその続きの物語である。
魔術師達の最高学府、ロンドンの時計塔は一つの話題で持ち切りだった。誰も彼もが次の聖杯戦争に参加する人間の事で言い合っている。その内容は決まってこうだ。時計塔が誇る二人の講師、交霊科の双璧、天才オーギュストと麒麟児ウェイバー。どちらが聖杯戦争に参加するのか?
時計塔所属の魔術師、須山円がその話題に特段の興味を示したのは、話題に上っている人物が自分の恩師であるからに他ならなかった。否、ただの恩師では無い。
彼女は恩師であるウェイバーに特別な感情を抱いていた。
「何だ、スヤマか。どうした?」
彼女がノックをして部屋に入ると、ウェイバー・ベルベットは書きかけの書類の手を止めて振り返った。彼女を見る顔は今日も不機嫌そうだ。
「ねぇ、先生。今、学内で生徒が何の噂をしているか知ってらっしゃいます?」
ウェイバーの不機嫌そうだった眦が更に上がる。
「さぁな。生徒がしてる噂なんて僕が知るか」
「時計塔の天才と麒麟児のどちらが聖杯戦争に参加するのか? 皆それを気にしてます」
マドカは言いながら勝手に椅子を出すと腰掛ける。
「それは学部長が決める事だ。暇なのか? この間出した課題は済ませたんだろうな?」
「参加出来そうなのですか?」
ウェイバーは憮然として言った。
「さぁな。分からん。だが、無理でも行くつもりだ。ああ、これは学部長には言うなよ? コーヒーを飲むなら勝手に飲んでくれ。僕は出てくる。学部長と話があるんだ」
ウェイバーはそう言うとマドカを残して部屋から出て行った。マドカは部屋のコーヒーメイカーを取るとマグカップに注ぐ。勝手に彼女がウェイバーの部屋でコーヒーが飲めるようにと持ち込んだ物だ。籠の中には、他にも幾つかのマグカップがあった。それぞれ別の女生徒の物である。
むぅ、と腕を組むとマドカは窓の外を見る。ガラスに自分の姿が映っていた。
黒い髪と真っ白な肌、そして整い過ぎたその容姿の半分は生来の物ではない。マドカの半身は精巧な人形で出来ている。幼い頃、彼女は雪崩に巻き込まれ半身を失った。
遠い異国から来た人間。片言でしか喋れず、おまけに半身が人形とあっては忌避されるのは当然と言えた。そんな中、唯一彼女に対して他の人間と同じ様に接してくれたウェイバーに彼女が好意を抱くのは至極当然の流れだったと言えよう。
ウェイバーの机の上を見る。そこには綺麗に梱包された赤い布と一枚の書き掛けの手紙があった。マドカは躊躇する事無く中を見る。そこには他の講師にあてたメッセージが書かれていた。内容は自分が聖杯戦争に参加出来る様協力してくれ、という物だった。
彼はどうあっても聖杯戦争に参加したいのだろう。
過去に聖杯戦争を生き抜いた麒麟児か、失敗を知らぬ天才か。生徒はその様に囃し立てているが、実際の所、学内政治に興味を持たなかったウェイバーは厳しい立場だという噂を、マドカは耳にしていた。ウェイバーは生徒からの人気は高いが講師からの人気、取分け学科長連中からの評価は低い。古い血統を重視する連中は彼を毛嫌いしていると聞いた。血統を鼻にかけたオーギュストとは真逆の評価だ。
何とか彼に協力してあげたかった。しかし、彼女には何も無い。
およそ十年前、まだ時計塔の生徒だったウェイバー・ベルベットは何のとりえも無い人間だったという。当時の彼を知る年配の講師からマドカはそう聞いた事があった。大した事のない血統の小さな少年。彼は何を血迷ったか自らの師であり、時計塔の代表として聖杯戦争に参加する予定だった講師ロード・エルメロイの聖遺物を盗んで単身聖杯戦争に参加したのだった。
そこで彼に何があったのか、詳しくはマドカは知らない。ただ、当時のウェイバーとでは比べるべくも無い実力者であったロード・エルメロイはその半ばで命を落とし、彼は聖杯戦争を生き残った。それから彼は数年世界を放浪した後、時計塔に帰ってくる。
その後のウェイバーの活躍は目覚ましかった。自身の魔術研究、編纂で講師になったかと思えば、アーチボルト家の魔術刻印を持たぬ身でありながら秘伝の月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)を修めてロード・エルメロイの魔術研究を纏め上げ、聖杯戦争での失敗により没落したアーチボルト家を再興させてのけたのである。
昔、彼の部屋で綺麗に飾られている汚い布を見て、マドカは聞いた事がある。その時、彼は不機嫌そうな顔をしただけで何も言わなかった。それがウェイバーが召還したサーヴァント縁の品だったと彼女が知ったのは少し経ってからだった。
珍しく酒に酔ったウェイバーが教えてくれたのだった。彼が語ったのは聖杯戦争で出会った自らのサーヴァントの事ばかりだった。少し嫉妬した事を思い出す。
コーヒーに口を付ける。
マズい。コーヒーは完全に煮立っていて風味も何もなかった。
マドカは暫く黙り込んでいたが、やがて笑顔になると、メモ帳に手を伸ばした。
その日、部屋に戻ったウェイバーが見つけたメモにはこう記されていた。
『先生、私とっても良い方法を考えました。たまたま里帰りで日本に帰った私が、たまたま聖杯戦争に参加する事になって、たまたまサーヴァントを召還した上で、たまたま親日家で日本を訪れた先生にマスター権を譲れば良いんです。
先生は無理矢理参加すると仰ってましたけど、絶対学科長やオーギュスト先生の邪魔が入るでしょう? 一旦、聖杯戦争が始まってしまえば監視も解けるんじゃないかしら?』
「ファック!! あの馬鹿野郎!!」
##
練成陣を描く手を止めて、マドカは腕を組んだ。
考えてみれば、ウェイバーと全く同じ事をしているとマドカは思う。彼もこうして師の聖遺物を持ち出して勝手に聖杯戦争に参加したのだ。して見ると、ウェイバー先生が私に文句を言う筋合いは全く無いし、それどころか先生が聖杯戦争に参加する手助けをしている自分に感謝してしかるべきだ。いつもはつれない態度の先生も、今回ばかりは私の気持ちと私が先生にとってどれだけ重要な存在か気付いてくれる事だろう。泣いて喜ぶに違いない。ウェイバーのそんな姿は全く想像出来なかったが気にしない。
自然と笑みがもれる。
「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ」
恐れはあった。無謀だと思っている自分もいる。
「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」
だが気にしない。恋する乙女は無敵なのだ。
マドカは練成陣を書き終えると、ウェイバーの部屋から勝手に持ち出した赤い布を取り出す。これで目的は成る筈だ。ウェイバーが語る所の最高の英霊は召喚される。マドカは陣の中心に向けて右手を突き出し、呪文を紡ぐ。
その右手の甲には既に三画の朱色の紋様、令呪が顕現されていた。
「抑止の輪より来たれ。天秤の守り手よ!!」
右手に痛みが奔ると同時に、閃光が辺りを満たし、一陣の風が吹く。
眩んだ眼が徐々に視界を取り戻した先には、果たして、一人の男が立っていた。赤い巻き毛に赤いマントを羽織い、赤銅色の鎧を着込んだ天を突く巨体。その男の発する気迫と恐るべき魔力の余波とが相まって、ある種神懸り的な威圧感を放っている。
彼女の才能が、否、本能がこれは人間では無いモノだと理解していた。
男が口を開く。
「問おう。貴様が余を招きしマスターか?」
こうして、須山円は聖杯戦争に参戦した。
作品についてのQA
Qこの設定(その他諸々)は(頭)おかしいんじゃry
A:考えるな感じるんだ
では亀の歩みで出発します。