Fate Zero After ##   作:焼肉大将軍

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最初の脱落者

 アサシンの前に進み出た二人の男女。

 バーサーカーとそのマスター、金剛地武丸。

 男のその足取り、やや重いか。

 軽やかな足取りのバーサーカーに比べ、マスターである武丸には先程のランサーとの死闘の影響がありありと見て取れる。しかし、その眼光に翳りは無い。いや、より一層鋭くアサシンを射抜いている。先程ランサーに負わされた傷も塞がっていた。

 完全に、とは行かぬまでも、戦闘をこなせる程度には回復したと見て間違いあるまい。バーサーカーの狂化スキルも今は発動していない様だ。彼女は再び言語能力を獲得していた。

 

「ッと、まだ、少し血が足らんな」

 

 言いながら、武丸は奥歯で口に含んだ丸薬をバリバリと音を立てて噛み砕く。滋養強壮に効く諸々の薬草と蛇や魔獣などの生血を混ぜ合わせた代物であった。先程から武丸はダース単位で飲み込んでいるが、本来一粒で一昼夜休み無く動き回れると言われる程の物である。常人ならば過血症とアドレナリンの過剰分泌、高血圧のトリプルコンボで心臓疾患の危機である筈だが、ランサーとの死闘で血と共に多量の魔力を失った武丸にはまだまだ足りぬらしい。

 

「アンタは回復に努めなさいよ。コイツの相手は私がやるわ」

 

 少女、バーサーカーが言いながら軽く手元の綱を引くと、アサシンの腕を切り裂き、コンクリートの壁面に柄まで埋まっていた筈の大鉈がパッと空を切って彼女の元へと返った。大鉈はその勢いのままバーサーカーの傍らを通り過ぎ、その綱を握った少女の両手を起点に弧を描く。

 ひうん、ひうんと風切音を鳴らして旋回する大鉈は鎌首を擡げた蛇と同じ。主の手の中で力を溜め、敵に喰らいつくその時を待っている。

 

「それにしても、この状況、こちらにとっては好都合ね。アサシンと、ライダーのマスター、二人も倒せるなんてツイてる」

 

 バーサーカーはそう言って無邪気な笑みを見せる。

 

「やめとけ、ライダーのマスターには先程の借りがある」

 

 武丸は顔を顰め、自らのサーヴァントに釘を刺した。

 ランサーとの戦闘の直後、魔術戦の気配に釣られて遥か後方、デパート屋上を仰ぎ見た瞬間、バーサーカー組の視界に飛び込んできたのは、上空から轟音を立てて落下したライダー達と、それに相対する狙撃銃を持った魔術師の姿であった。

 数百メートルの距離があるとは言え、鬼火に照らされた彼等を視認するのはバーサーカー組にとっては造作も無い事である。その光景を見た瞬間、彼等は全てを理解した。

 狙撃銃片手にこちらを狙っていたランサーのマスターを、ライダー組が強襲したのだ。そして、それによってランサーは戦闘を切上げ、主を守る為に離脱した。

 それだけでは無い。

 それだけならば、タイミング的にランサーが間に合った筈は無い。ランサーのマスターが助かり、今猶ランサーとライダーが戦っている筈は無いのだ。

 アサシンの邪魔が入ったから?

 それこそ有り得ない。

 この程度のアサシンに、あのライダーが手間取る道理が無い。

 つまり、あの派手な登場は、警告だ。

 彼は勝利を掠め取る様な真似をしなかった。

 遠目から見ただけだが、武丸はそう断じた。彼はそう信じたのである。

 

「だから借りなんて無いってば。どうせ、漁夫の利を得ようとして失敗。令呪使われてランサー呼ばれ、仕留め損なっただけでしょ」

「ッ~、どうしてお前はそう野暮天なんだ? もうちょっとだなぁ……。いや、まぁ、良い。それより、ありゃあどうなってる? どうやら正気とは思えんが」

 

 呆れ顔のバーサーカーに武丸は仏頂面を返し、それからマドカの方に顎を刳って言った。バーサーカーはマドカの身体に纏わり付いた青い炎を暫し眺め、その生気を失った眼を見ると口を開いた。

 

「降霊術ね。憑依させた悪霊に振り回されてるみたいだわ」

「分かるのか?」

「一応ね。似た様な事も出来るから」

「ふむ、なら、そっちは任せた。俺は、アサシンを殺る――」

 

 武丸の眼光が剃刀の様に鋭く光った。彼が腰に佩いた太刀の鞘に手を掛け、一歩アサシンの方へと進み出る。同時に、

 

「あははははははははあああははっははははは!!」

 

 辺りを劈く様な高笑いが響いた。天を仰いで哄笑したマドカの身体が前屈みに倒れ、彼女はその身体を獲物を前にした肉食獣の如く丸め――跳んだ。

 炎が一層揺らめき、マドカはその炎に命じられるまま武丸へと躍り掛かった。

 凡そ人体の限界を完全に超越した速度。そこから繰り出されるは岩盤をも打ち抜く魔拳である。

 しかし、ここに二つ問題があった。

 先程アサシンに人形部の右腕を折られた彼女が振るうのは、当然生身の左手だ。

 本来、彼女が戦闘において生身の肉体を本気で使う事は無い。振るう拳は右、蹴り足も右。生身の部位はあくまで補助に徹し、常に半身の人形部を降霊術で操作して戦っている。理由は単純だ。過ぎたる力は身を滅ぼす。その強過ぎる拳打の威力に、彼女の生身の肉体は耐えられ無いからである。本気で撃ち込まれた拳は岩盤を打ち抜くと同時に、砕けて赤い染みへと変わるだろう。

 問題は、不幸にも彼女がそれを気にする正気を失っている事。

 突き出されたマドカの腕が空を切り、武丸の眼前数センチの距離で停止する。

 そして、幸運にも彼等には全く通用しない事だ。

 バーサーカーの手にした二本の大鉈、その柄に結び付けられた綱が空中で弧を描き、絡め取ったマドカの腕を止めていた。

 

「任されたわ。私が相手よ、お姉さん」

 

 バーサーカーが微笑みながら綱を引き、マドカは空中、武丸の眼前から引き落とされる。しかし、彼女も然る者、腕を引かれながらも空中で体勢を整え着地、と同時に、その腕の炎が膨れ上がり、綱を伝ってバーサーカーへと迫った。

 

「舞いなさい」

 

 バーサーカーの手の中で大鉈が回転し、迫った炎を振り払う。と同時に、その柄に結ばれた綱が回転に拠って縒り合わされ、マドカの腕に一層強く巻き付いた。間髪入れず、バーサーカーが腕を、大鉈の柄を大きく横に振る。

 柄に巻き付けられた綱がピンと張り詰め、腕を引かれる形でマドカの身体が宙を舞う。バーサーカーを中心にマドカは空中にて弧を描き、恐るべき速度で背中からアスファルトの地面へと迫った。

 数瞬の後、彼女の身体はミートパテか、さもなくば地面の染みへと変わるだろう。

 

「あの馬鹿は殺すな、って言ってるけど、マスターを殺そうとした以上、死んで――」

 

 しかし、不意にバーサーカーが弾かれた様に距離を取り、

 

「来る。避けてッ!! マスターッ!!」

 

 上空を仰いで叫ぶ。

 同時にその場に二つの影が落ちた。

 一つ、傍らへと落下した蒼影はそのまま横へと走った。担いでいるのは人と槍、ランサーである。

 次いで、眼前へと落ちた巨影。巨大な魔力と共に大気が唸り、巨大な戦車が落下する。ライダーの駆る宝具『神威の車輪』であった。宙を舞うマドカと落下した巨影が一瞬交差する。バーサーカーからマドカを護るべく、その間に割って入る形で落下した戦車はアスファルトを爆砕して停止した。衝撃に瓦礫と噴煙が巻き上がり、断裂した電線が火花を散らす。

 

「嬢ちゃん、無事かッ!?」

 

 戦車上の巨漢、ライダーが言った。

 その野太い腕に、マドカが抱き抱えられていた。そして、マドカを抱き止めているのとは逆の手に抜き放たれた剣がある。マドカの腕に巻き付いていた綱は切断されていた。

 如何なる神業か。地面へと叩き付けられようとしているマドカを、それを遥かに上回る速度で落下するライダーが、その交差の一瞬に、彼女の腕に絡み付いた綱を叩き切り、救出してのけたのである。正に間一髪のタイミングであり、そして、それが合図となった。

 戦車落下の齎した恐るべき大破壊と奇跡の救出劇。誰もがそれに瞠目し、意識を奪われた瞬間に、アサシンは一層強くナイフを握り込んだ。そして、武丸へと向って跳びかかる。

 否、跳ぼうとした。その時には、武丸はアサシンへの接近を終えていた。

 ライダーの乱入。恐るべき魔力と共に眼前に落下した『神威の車輪』は確実にその場にいた者の意識をそちらへと奪った筈である。互いにこれを必殺の好機と見た武丸とアサシン。意図は同じなれど、敏捷性においてアサシンは武丸の上を行く。しかし、先んじたのは武丸であった。

 戦車落下を見て取り、直後の隙を突くべく動いたアサシンに対し、武丸はただ敵手であるアサシンだけを見ていた。その眼前数センチの距離までマドカの拳が迫ろうと、僅か数メートルの距離にライダーの戦車が落下し、アスファルトが砕け、稲妻が地面を裂こうとも、彼は瞬き一つせず、必殺の機会を待っていたのである。最早、狂人の域ともいうべき、胆力、集中力であった。

 否、それだけではない。

 彼はバーサーカーに任せると言った。故に任せた。それが故の集中である。

 結果、彼は必殺を得た。

 アサシンの意識がほんの僅か逸れると同時に、武丸は地面を滑る様に跳躍していた。

 人の移動動作には構造上必ず、上肢下肢の上下運動が伴う様になっている。それを極限まで殺し、足運びを服で隠す。結果、初動は隠匿され、四肢の駆動を悟らせぬ事に拠って、敵に接近を悟らせぬ移動術。諸所の武術で運足、歩法と呼ばれる物、その極致。対した相手はまるで地が縮んだ様に錯覚する。

 故にそれは縮地と呼ばれる。

 一歩で数メートルの距離を詰める速度をそのままに、武丸の身体は滑る様に移動した。 

 錯覚はほんの一瞬。しかし、その時には全てが終わっている。

 

「――鞍馬金剛流抜刀術・火蜂」

 

 ただ、火花のみが瞬き、納刀の際に鯉口を鍔が打った音のみが響いた。

 アサシンはナイフを逆手に握って掲げ、武丸は柄に手をやったまま、彼等は動かなかった。否、動けなかったし、動き終わっていた。

 火花の出所はアサシンの握ったナイフであった。ナイフの刀身が落下し、奇麗な切断面を覗かせる。次いで、アサシンの上半身がゆっくりと、ゆっくりと落下した。

 神速の抜刀と、同じく納刀。返り血すらも置き去りに、武丸の恐るべき一刀は火花の瞬きのみを残して、アサシンを横一文字に両断したのである。

 ここに初戦にして聖杯戦争最初の脱落者が発生した。

 マスター殺しの英霊、アサシンがマスターに殺されるという異常事態。

 この異なる聖杯戦争の開幕は、これより更なる混迷を見せる。

 

「今度は流石に再生出来んだろう? 俺の勝ちだ」

 

 武丸が言った。それから彼は振り返り、落下してきたライダー、そして、ランサーへと目をやる。

 

「ほう、見事――」

 

 感嘆した様子で呟くライダー。その背後からバーサーカーが躍り掛かる。

 

「余所見とは余裕ね、ライダーッ!!」

 

 大鉈がその首筋へ迫り、突如軌道を変えて跳ね上がった。柄だ。ライダーは振り返ると同時に、柄頭で迫り来る大鉈の腹を突き上げ、弾いてのけたのである。

 

「ふん、その程度か、バーサーカー」

「なッ!? 馬鹿なッ!?」

 

 これにはバーサーカーも驚愕の呻きを上げた。

 それもその筈、バーサーカーの攻撃は全くの死角からの強襲だった。

 しかし、バーサーカーの強烈な闘気に反応し反転したライダーは、その剣を傾け刀身に迫り来る敵を映す事で、彼女の攻撃の軌道を正確に把握していたのだった。

 刹那の機転と恐るべき技量である。

 即座に振り下ろしの一撃をバーサーカーへと返すライダー。初撃が弾かれた事で体勢を崩したバーサーカーは、からくももう一方の大鉈でそれを受ける。

 しかし、そこは空中。踏ん張りも利かず、そもそも今のバーサーカーの膂力はライダーを遥かに下回る。当然の如く、その剣圧に押されるままに、バーサーカーは地へと勢い良く叩き落された。

 背中から地面に叩き付けられたバーサーカーの身体が鞠の様に弾んだ。一方、バーサーカーを打ち払ったライダーは、腕の中で黙り込むマドカへと目をやった。彼女の気性にしては厭に静かだと思ったからだ。無論、魔力のパスが繋がっているライダーには、彼女が無事だという事は分かっている。

 その認識が甘かったという他は無い。

 

「すまんな、嬢ちゃん。ちと遅れた。しかし、見直したぞ。やるではないか」

 

 腕は折れ、傷はあるが深くは無い。マドカは薄く微笑み、ライダーを見詰めていた。何処か焦点の定まらぬ眼である。しかし、マドカが無事と見るとライダーは破顔した。豪快で、温かな心底からの笑みだ。それが、不意に曇った。

 轟、と音を立て、ライダーの身体が燃え上がった。怨霊の炎がライダーに牙を剥いたのである。今のマドカは正気では無い。否、意識すら無く、自らに降霊した悪霊、魍魎の悪意に従い、ただ眼前の敵に襲い掛かる狂戦士なのだ。

 至近距離で放たれた怨霊の炎はライダーに絡み付き、彼を見る間に火達磨に変えた。本来ライダーの実力であれば避ける事も、切り払う事も容易い魔術であっただろう。しかし、助けた主からの零距離攻撃は全くの予想外だったに違いない。そして、ライダーの対魔力では怨霊の炎を完全に防ぐ事など出来はしない。

 

「ぐうぅお、おおおおおおおおおお!!」

 

 全身を焼かれながらライダーが吼えた。

 同時に雷牛が空へと駆け出すべく地を蹴って、ライダーの乗る戦車が回転する。戦車が回転した事で車輪に付いた大鎌が空を切り、背後からバーサーカーの頭部へと迫った。

 地面へと叩き付けられた衝撃によろめき、咄嗟に振り返るので精一杯だったバーサーカーにそれを避ける術など存在しない。刹那の後に、両断されるか、柘榴となるか。

 そこへ彼女のマスターである武丸が奔った。

 豹の如き前傾姿勢で右の車輪に付けられた大鎌を掻い潜り、それを遥かに凌駕する勢いのままにバーサーカーを押し倒す。頭部を引き裂く筈だった大鎌は僅かに武丸の肩口を抉るに止まり、戦車は空中へと舞い上がった。

 

「無事か、バーサーカー?」

「う、うん、ごめんなさい。それより――」

 

 縺れ合い倒れた二人。凡そ眼前三十センチ程の距離にいるマスターに向って赤ら顔で謝罪の言葉を口にするバーサーカー。武丸は彼女の無事を確認すると、その言葉を遮った。

 

「ああ、それより、早く立て。どうやら先の雪辱戦に臨めるらしい」

 

 立ち上がった武丸の視線の先にはランサーがいた。

 そこにある光景に、バーサーカーは息を呑む。

 百舌鳥の早贄か、串刺刑に掛かった罪人か。

 ランサーの長槍が掲げられている。そこに貫かれたアサシンの上半身があった。咽の鳴る音と共に、蒼槍は一層輝き恐るべき魔力を放つ。やがて、アサシンの上半身が光と共に魔力に還り、雲散霧消するとランサーは槍を一振りし、言った。

 

「悪いが回復させてもらった。そろそろ良いかな?」

 

 マスターである狗城を背後に庇って進み出ると、ランサーは銀髪を振り翳し、槍を構える。

 

「いや、役者がまだ揃っていない」

 

 武丸はそう言うと、上空を指差す。それから、彼等は互いに上空を見上げた。

 その視線の先、天駆ける戦車上の炎が風に揺られて空に尾を引く。怨霊の青き鬼火はライダーの全身に纏わり付き、その身体を焼き焦がしていた。息をする度に咽が焼け、焼けた皮膚から染み込んで来るのは、怨霊の謳い上げる呪詛の大合唱。これは身体だけでなく、精神を焼く炎なのだ。

 

「うふふふふ、あは、あははははっはあはっはははははっはははっはは!!」

 

 天を仰いでマドカが笑う。この時の彼女が気付く筈も無いが、炎に巻かれて猶、その身体を抱く腕には再び取り落とさぬ様にと終始力が篭っていた。

 

「うふふ、うふ、あは、あははあはははははっは――」

 

 ベチィ、という音と共に、マドカの哄笑が途絶える。ライダーが指先でマドカの額を強かに弾いたのだった。所謂デコピンである。しかし、その威力はマドカの顔を跳ね上げ、その額に赤く腫れを残す程の物だった。

 

「ふん、どうやらちいっとばかし厄介な事になっておるようだのう」

 

 マドカの身体を抱きかかえ、足を手綱に絡めて器用に雷牛を操りながら、炎の奥でライダーは不敵に笑った。そして、マドカの額を弾いた指で、腰の剣を掴むと、彼は斬った。

 マドカの背後、その虚空に浮かぶ怨霊の炎の群を、自らに纏わり付く炎を、その一刀の元に斬り裂いたのだ。糸が切れた人形の様に意識を失い倒れ込むマドカ。

 

「ふん、怨霊如きが余の覇道を阻もうなどと片腹痛いわッ!!」

 

 ライダーは剣を収めて手綱を取り、眼下、戦場であった道路上へと目を向ける。

 そこにはマスターを背後に庇い、バーサーカー達と対峙するランサーの姿があった。否、彼等は互いに対峙しながらも、ライダーへと視線を送っている。ランサーと武丸、彼等は互いに笑っていた。戦場に相見えた幸運を誇る武人の笑みだ。

 対照的に狗城とバーサーカーは渋い顔である。

 

「ふむ、まだ先程の続きを望むか。何とも嬉しい誘いではあるが。この状況、どうしたもんかのぅ」

 

 ライダーも彼等と同種の笑みを浮かべ、そうごちた時、腕の中でマドカがもぞりと動いた。

 

「ぅ、ん、ラ、ライダー……、何で!? 私、今、ランサーのマスターに……」

 

 意識が覚醒し、ライダーに抱き止められている事に気付くと、マドカは弾かれた様に距離を取ろうとする。ライダーは身を離しつつ腕を取った。

 

「おいおい、嬢ちゃん、暴れるな。また落っこちるぞ」

「あ、アレはあの場を切り抜ける為に仕方なく――」

 

 不意にマドカが黙り込む。節々が焼け焦げ傷だらけのライダーの姿、自らの意識の断絶から、状況に思い至ったのだ。恐らく、ランサーのマスターに敗北し、意識を失って暴走した自分をライダーが救ってくれたのだろう。それだけではない。彼の火傷の原因は自らの魔術に違いなかった。そこに思い至ったマドカは、言葉を探して目を伏せる。

 マスター失格だと、そう思った。

 今日だけで何度助けられただろう。

 慙愧の念ではない。ただ、彼女は自分が弱い事がどうしようも無く許せなかった。

 

「ライダー、ゴメ――」

 

 マドカが謝ろうとした時、ライダーの言葉が遮る。

 

「すまなかったな、嬢ちゃん。申し開きのしようもない失態だ。余が付いていながら危険に晒してしまった。で、だ。非常に言い難いんだがな、もう少し付き合ってくれるか?」

 

 マドカはぽかんとした顔でライダーを見上げる。そこには常の豪放磊落な笑みがあった。マドカは何か言い掛けて止め、代わりにライダーを指差して叫ぶ。

 

「ッ、何馬鹿な事言ってんのよッ!? 行くわよ。さっきの借り、絶対返してやるんだからッ!!」

「その気性、誠に重畳」

 

 ライダーが笑い、マドカはバツが悪そうに押し黙る。

 

「では行くぞ」

 

 ライダーが言葉と共に手綱を振るい、雷牛は再び戦場へと向けて疾走を開始した。

 その先で待つ二騎と二人が互いに口を開く。

 

「さて、来るか。バーサーカー、酔いはどれ程持つ?」

「もう暫く。今更だけど、アレ、離脱するチャンスだったんじゃないの?」

「そう言うな。本調子とは言い難いが、気分は良いんだ。もう暫し、俺の好きにやらせてくれ」

「まぁ、良いけど……。約束は忘れないでね」

 

 呆れ口調のバーサーカーと、からからと笑う上機嫌の武丸。

 

「この状況、勿論何か考えがあるんだろうな? 賢人王」

「ふふ、さてさて、どうだかね」

 

 苦虫を噛み潰した顔で青筋を浮べる狗城と、薄く微笑むランサー。

 武丸が瓢箪の酒を一口呷り、バーサーカーは大鉈を構え直す。ランサーは親指を一舐めし、狗城は懐から拳銃を取り出した。

 かくして、三つ巴の戦いが再び始まろうとしていた。

 





アッサシーン。
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