Fate Zero After ##   作:焼肉大将軍

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最強対最凶

 突如として出現した金色の英霊。それがライダーの挑発に乗ってきた五騎目のサーヴァントである事に疑いの余地は無い。その場の全員が固唾を飲んで、新たに出現した英霊の挙動を見守っていた。五騎もの英霊が一同に会した戦場。最早事態は全く予測が付かぬ方向へと推移している。

 下手な動きは命取りだと、その場の全員が実感しているのだ。

 この場で複数のサーヴァントを敵に回せば、それは即ち死を意味する。

 しかし、そんな状況を歯牙にも掛けず、金色の英霊、アーチャーは言い放つ。

 

「相変わらずだな、征服王。お前の声は良く響く」

 

 彼は戦車を駆る赤銅の英霊、ライダーのみを真っ直ぐに見据えていた。対するライダーも真っ直ぐにアーチャーを見据え、獰猛な笑みを返す。

 

「フン、貴様の傲岸不遜な態度も変わらぬな、英雄王」

 

 ライダーは腰の銅剣を抜き放ち、続ける。

 

「まさか再び相見えるとは、正に僥倖。此度の遠征もまた、随分と心躍らせてくれおるわ」

「フン、再び我に挑むか? 良かろう。挑戦を許すぞ、征服王。幾度なりとも挑むが良い。何度でも、この我が手ずから理を示してやろう」

「抜かせ、今度は負けぬ」

 

 彼等の間の空気が次第に張り詰める。その剣呑な空気、互いの気迫が重圧と成って周囲を襲った。ライダーの背後のマドカは、ライダーの外套を握る手に自然力を込める。彼女は恐る恐る聞いた。

 

「ライダー、あの英霊を知ってるの?」

 

 マドカの言葉に、ライダーは応と頷く。

 

「ん、ああ、ウェイバーから前回の聖杯戦争の事は聞いているのだったな? アレは嘗ての聖杯戦争で余を降したアーチャー、バビロニアの英雄王ギルガメッシュよ」

「「英雄王ギルガメッシュ!?」」

 

 その場の何人かが言葉を漏らした。

 それも致し方ない事であろう。

 神代、その中でも最も古き時代、この天地に並ぶ者無しとまで呼ばれた伝説の英雄王。恐らくは英霊の極致。限りなく神霊に近い存在である。増して、過去の聖杯戦争において、先程から各々その力量を目にしている眼前の恐るべきライダーを倒しているとあっては彼等の驚愕も致し方あるまい。

 

「フン、しかし、有象無象共を相手に存外梃子摺っている様では無いか。既に幾分消耗している様に見えるぞ、征服王」

「ああ、此度の聖杯戦争もどうやら一筋縄では行かぬ様でなぁ。そういう貴様こそ、態々戦場に顔を出すとはどういう風の吹き回しだ。前回は、この我と相見えるのは真の英雄のみで良い、等と抜かしておったと言うのに」

「たわけ、我を差し置いて王を称する愚か者の顔を見物に来たに過ぎん。お前が参戦しているとは予想外であったがな。しかし、他にも居るのだろう? 王を称する不埒者が」

「ふむ、そうさなぁ」

 

 ライダーは言いながら、ちらとランサーへと目をやった。釣られてアーチャーもランサーへと目をやる。当のランサーは薄く微笑むと親指を一舐めし、恭しく頭を垂れた。

 

「お初にお目に掛かる、バビロニアの英雄王よ」

「フン、その欺瞞に満ちた眼、気に入らぬな。臓物の腐臭が漂っておるわ」

 

 アーチャーはランサーを睨み付けると、膠も無く言い捨てる。ランサーはアーチャーの言にも薄い笑みを返し、槍を肩に担ぎ上げる。

 

「ハハ、これは手厳しい。しかし、この白指の予言を覚えておかれると良い。今、貴方の傍らには死の影がある。それは如何に貴方が金色の如き輝きを放とうとも消せぬ物です。否、貴方がその輝きを増せば増す程に、影はその濃さを増すでしょう」

「我は、詐欺師の言葉には耳を――」

 

 言葉の途中で彼等は同時に動いた。

 直後、二十の魔弾が闇を切り裂いて飛来する。

 火矢であった。炎を纏った矢が空中に赤い軌跡を描いて飛来したのだ。その様は正に流星の如し。否、威力もその物である。それが二十、その場のサーヴァントとマスターへと襲い掛かった。

 アーチャーが街灯を蹴って跳躍し、ライダー、ランサーは背後のマスターを護りながらその手の得物で飛来した火矢を切り落とす。避けられた火矢がビルの外壁を打ち抜き、弾かれた火矢が地を抉り、アスファルトを爆砕する。

 着弾したアスファルトの地面が畝の様に掘り起こされ、アスファルトの熔けた嫌な臭いが鼻を刺す。衝撃にトラックが横転し、倒れた電柱に引かれて千切れたケーブルが断続的に火花を散らす。

 飛散した瓦礫と粉塵が晴れるに従い、周囲の惨状が目の当たりになるにつれ、その場に集った魔術師等はその表情を険しくする。それは先の攻撃を難なく凌いで見せた英霊達も同様だった。

 怒りと驚愕、そして、恐れ。皆、その顔に余裕は無い。冗談では無かった。己が英霊がそれぞれ庇わなければマスター達は皆死んでいる。彼等は眼前の惨状の中に、千切れ飛んだ己を見た事であろう。その矢の恐るべき正確さと威力に、彼等は身震いが止まらなかった。

 火矢の着弾の轟音から一拍の静寂の後、

 

「え? な、なんで……?」

「助太刀感謝する、で良いのか? この状況は」

 

 バーサーカーと武丸が頓狂な声を上げた。

 火矢が飛来した瞬間、バーサーカーと武丸は咄嗟に互いを庇うべく動きながら、同時に悟っていた。無傷で凌ぎ切るのは不可能であると。彼等に迫り来る火矢は八本。逃げ場は無い。全て弾く事など出来そうも無かった。故に彼等は腕の一本も覚悟していた。

 が、結果的に彼等は無傷だった。

 彼等の前に立った白銀の英霊、セイバーがその全てを切り落としてのけたからである。

 

「女性には優しくする主義でね。それに――」

 

 セイバーは矢の飛んできた方角を見据えて続ける。

 

「どうにも、この手の不意打ちはいっとう嫌いでねェ」

 

 その言葉にセイバーの放つ殺気と剣気が混ざり合い、矢の主へと飛んだ。同時に、ビシリ、と音を立ててその足元のアスファルトに亀裂が入る。剣の英霊の臨戦態勢。その何と凄まじき事か。

 否、更なる殺気と怒気、そして魔力のうねりがその背後より巻き起こる。

 

「痴れ者が……。天に仰ぎ見るべきこの我を、同じ大地に立たせるかッ!!」

 

 怒声と共に、アーチャーの背後の空間が歪んだ。

 水面の揺らぎの如く、空間が波打ち、数多の武器が顔を出す。

 抜き身の剣と槍、槌、斧、それらは多種多様にして、一つとして同じ物は存在しない。その輝きの何たる眩しさか。そのどれもが眼を奪われる程の美しさを誇り、そして、恐るべき魔力を放っている。明らかに尋常の武器ではなく、その全てが宝具の域にある代物。否、その刀身に秘められた強大な魔力の気配は明らかに宝具その物としか思えない。

 それが十余、アーチャーの背後の中空にて解放の時を待っている。

 通常、宝具とはその英霊の武勇、逸話の中でも取分け有名な物が具現化した物である。

 セイバーの剣にせよ、ランサーの槍にせよ、そこに例外は無い。

 で、あるならば、この英霊は一体どれ程の逸話を持つ英霊だと言うのか。

 その異常な光景に、その場の全員が瞠目する。

 否、その種を知るライダーとランサーの二騎を除いてである。

 

「この不敬、万死に値する!!」

 

 アーチャーが吼える。その眼は、数百メートル先の虚空、先程ライダー達が戦闘を行っていたデパート屋上に立つ騎影を既に捉えていた。

 彼がその腕を掲げ、

 

「最早肉片1つも残さぬぞ!!」

 

 天に吠えると同時に、その背後に浮かぶ十余の宝具が空を切る。音を越えて飛来する十余の金刃は、正に闇を裂く彗星の如し。夜の中天にその眩き残影を残して獲物へと突き進む。

 それら射出された宝具群は常人の反射神経を遥か凌駕するその場の魔術師達にすら光の奔流としか映らなかったに違いない。

 衝撃に遅れて轟音が鼓膜を叩き、爆発に遅れて彼等は振り返る。

 そう、それは爆発と呼ぶのが正しい。 

 アーチャーの射出した宝具群は、その恐るべき速さと威力で以て、着弾したデパートの屋上から数えて上階二階分を消し飛ばしていた。巻き上げられた粉塵と共に破砕した瓦礫の山が大通りへと降り注ぐ。

 

「な、なんて……」

「何て威力だ……!!」

 

 マドカと狗城が口々に言った。この金色の英霊の齎した恐るべき光景に、彼等は背筋に冷たい物が奔るのを止められなかった。

 続けてセイバーと武丸がその表情を固くする。

 

「ハハ、信じられないね」

「全くだ。奴さん、アレを避けやがった!!」

 

 言葉と同時に、砕けたコンクリート片と舞い上がった粉塵の影を一筋の光芒が奔った。その光は真っ直ぐにデパートの壁面を駆け降りると、その速度のまま大通りを疾走し、彼等へと向かって突き進む。

 風に棚引く蒼と黒の衣を纏った流線形のフォルム。ヘッドライトの明かりの影に浮かび上がる武骨な威容。乾式クラッチのけたたましい音と車体後方に備えたマフラーから吹き出る爆音を駆って、それは現れた。

 今宵最後の参戦者、英霊、アヴェンジャーである。

 彼が駆るは悪魔の名を持つイタリア、ドゥカティ社製大型二輪ディアベル。見ればアベンジャーの纏っていた蒼衣がそのフレームを包んでいた。彼等サーヴァントの武具とは魔力によって編まれた物。それを自らが駆るバイクに纏わせる事で性能の底上げを図るとは。

 アヴェンジャーの駆るディアベルは、その科学と魔術の融合によって通常考えられぬ速度と旋回性を実現している。その荒々しき威容とは裏腹に、上空より降りかかるコンクリート片を速度を落とすことなく巧みにかわすその操縦技巧は芸術的でさえあった。

 

「ほォう、騎乗兵の英霊である余を差し置いて、あれほど見事な手綱捌きを見せるとは」

「下手に近寄らないほうが良い。第二波が来る」

 

 それを見て獰猛な笑みを見せるライダーと薄い笑みを返すランサー。

 その言葉の直後、疾走するアベンジャーと迎え撃つアーチャー、彼等、黄金と蒼黒の二騎の英霊は互いを見据え、同時に構えた。

 オートバイを両足で操りながら、アベンジャーは背より引き出した弓に矢を番える。対するアーチャーが片手を掲げると同時に、その背後の空間に二十余の刃が顔を出す。

 巻き上がった粉塵の煙りの奥、黄金の英霊の朱眼が妖しく揺らめいた。

 アーチャーは両腕を組み、飽く迄も傲然と鼻を鳴らして言い放つ。

 

「フン、狂犬めが、狗は狗らしく大人しく地に伏しておけば良いものを。この我に弓を向けるか、雑種。その無礼、その愚行、死を以て知るが良いッ!!」

「ククッ、あくまで待ち受けるつもりか。逆上せるな。その油断が命取りよ」

 

 アベンジャーが束ね射つべく構えた五矢がその手の中で不意に燃え上がり、空に五つの魔星を描く。火矢は炎の軌跡を残し、真っ直ぐにアーチャーへと向かって空を切った。

 アベンジャーの火矢は音を超えて飛び、コンクリートのビル壁をも容易く貫く程の威力を誇る。増して高速で走行するバイクを駆りながら、針の穴を通すかの様なその精密な狙撃は正に魔技と言わざるを得まい。

 しかし、対するは弓の英霊。

 遠距離戦で弓の英霊アーチャーに、否、この英雄王に火力で勝る者など存在しない。

 アーチャーはその掲げた腕を横に振る。ただそれだけの動作で以て、彼の背後に控える数多の宝具達は恐るべき彗星となって彼の眼前に立ちはだかる全てを粉砕するだろう。

 アーチャー、英雄王ギルガメッシュの持つ宝具『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』。これは王律鍵バヴイルに依って、時空を繋げた自らの宝物庫から自在に宝物を取り出せるという、それだけの代物である。本来であれば攻撃力は無い。

 しかし、これを永延たる旅路の果て、この世全ての宝物を手中に収めた最古の英雄王が使用した時、この世のありあらゆる宝具を状況に応じて展開し、弾丸として射出する、比類なき超火力宝具と化すのである。

 アーチャーとアベンジャー、彼等の距離は既に先程の半分以下にまで詰まっていた。増して高速で接近するアベンジャーの速度自体が射出する宝具の速度に加算されるのだ。

 最早アーチャーの放つ剣林弾雨、その掃討射撃より逃れる術は無い。

 その筈だった。

 しかし、アーチャーが腕を振る刹那、別方向、彼の背後より複数の光が奔った。矢だ。闇の中より飛来した無数の矢が、アーチャーの背後、虚空にて待機し、繰り手の号令を待つ彼の宝具群を次々と撃ち落としたのである。

 

「何ッ!?」

 

 アーチャーが驚愕と共に振り返り、彼は見た。

 その眼前数センチに迫る矢を。その視界の半分が鏃で埋る。死の音は聞こえない。彼の耳に届いたのは矢と宝具が打ち合わされる無数の残響音のみであった。恐らく刹那の後に彼は聴くに違いない。頭蓋の裏側から響く終わりの音色を。

 気配は無く、音は無かった。

その一射はそれら全てを置き去りに、敵に一切の反応を許さぬ魔弾である。

 しかし、次の瞬間、火花の瞬きと共に上がったのは誰あろうアーチャーの天を突く怒声であった。

 

「痴れ狗がッ!! 何処の鼠だッ!!」

 

 吼えるアーチャーの手には一振りの曲刀が握られていた。

 それなるはクトネシリカ。またの名を虎杖丸。

 持ち主の凶事に反応し、危機を切り払う宝剣、その原典である。

 正に刹那の攻防。射出するべく展開していた王の財宝が降り注いだ矢の雨によって次々と撃ち落された先の一瞬、アーチャーは虚空に浮かんだクトネシリカを引き抜き、迫り来る矢を切り払っていたのである。

 

「この我に――」

 

 尚も闇の奥へと吼えるアーチャーの声が不意に途切れ、怒声が夜の大通りに木霊する。アーチャーは舌打ちを一つ残し、そのまま背後に剣を振るいながら、横へと跳躍していた。

同時に火花が散って、アーチャーに切り払われた五発の火矢がその勢いをそのままに左右に軌道を逸らされ、彼の横を擦過して背後のビルへと着弾した。

 その何と凄まじき威力である事か。アベンジャーが放った火矢はビルの外壁を貫通し、突き刺さったアスファルトの地面を衝撃で爆砕する。

 その様は正に発破か隕石か。

 否、アベンジャーの魔弓が放った火矢はビルに大穴を開け、大通りに巨大な弾痕を作り出しただけではない。着弾と同時に、その矢は炎へと変わっていたのである。

 見よ、矢に貫かれたビルがその穴から一息に燃え上っていく様を。抉れた地面を炎が嘗め尽くして行く様を。炎の明りが周囲を紅く染めていく。

矢 から自らの身体へと、炎に照らされ尚一層朱く染まったアーチャーの瞳が動いた。見ればその金色の鎧の、火矢が掠めた部位が熔けている。その黄金の鎧はアーチャーの持つ数ある財宝の中でも最堅を誇る不朽の宝甲。例え宝具であろうとも生なかな攻撃では傷一つ付かぬ神代の一品である。それを容易く溶解させるとは。

 アーチャーの顔色がさっと変わり、額に青筋が浮かび上がった。

 正に恐るべしと言わざるを得まい。アベンジャーの魔弓の威力と、次の瞬間アーチャーから放たれた全てを押し潰さんとする超然とした圧意。それは共に尋常ではない。

 アーチャーの手の中でクトネシリカが妖しく瞬き、アベンジャーは真っ直ぐにアーチャーへと向かって突き進みながら、再び身体を大きく反らしてその手の弓を引き絞る。

 

「クハハ、やる。今のを弾くか。だが――」

「死ね」

 

 アベンジャーの言葉を殺意が断った。

 直後、アーチャーの手の中でクトネシリカが翻り、アベンジャーへと向かって空を切る。

 それは軽い投擲だった。手首の返しのみで放られた曲刀は、しかし空中にて不意に旋回し、直後まるで意思を得たかの様に加速して、向かい来るアベンジャーへと奔った。

 アベンジャーの顔に初めて驚愕の表情が浮び、旋回する刃が蒼黒の機影を両断する。両断された蒼衣と共に車体が前のめりに宙を舞い、空中にて爆発炎上した。

 炎はその勢いのまま直進する。一方、敵を両断せしめた宝剣は凡そ五十メートルほど飛ぶとその速度を落としながら上空へと舞い上がり、空中に大きく弧を描くと加速しながら舞い戻る。

 同時に両断された大型バイクの残骸が上げる炎を裂いて、一つの影が横へと走った。纏った炎に照されながら、蒼黒の機影は真っ直ぐに大通り沿いのビルへと奔る。

 バイクであった。先程確かに両断され、炎上した筈の蒼黒の大型二輪をまるで何事も無かったかの様にアベンジャーが駆っている。それは有り得ぬ光景であった。そう、有り得る筈がない。その証拠がアーチャーへと向かい来る。

 両断され炎上するディアベルの残骸が止まる事無く、その勢いのままアーチャーへと突っ込んで来たのである。それは時速、重量、共に凡そ二百キロを超えて迫る鋼鉄の塊だ。人間を挽肉に変えるには十二分過ぎる代物である。

 その直撃の瞬間、空間の揺らぎより顕現した糸がアーチャーの手首へと巻き付き、

 グシャリ、と鋼鉄の潰れる音がした。

 同時に変形したディアベルの車体が浮き上がり、そこに飛来した矢が撃ち込まれる。

 

「おのれ、鬱陶しいッ!! その程度で、この我を殺れるとでも思ったかッ!?」

 

 アーチャーの怒声が轟き、金色の奔流が瞬いた。

 アーチャーの射出した十余の宝剣、宝槍が燃え盛るディアベルの車体をバラバラに引き裂き、矢の飛来した先、闇に紛れた弓手、そして、アベンジャーへと向かって空を切る。

 一瞬の攻防。

 アーチャーは突っ込んで来たディアベルへと拳を撃ち込んで止めると、それに併せた後方からの狙撃を即座にディアベルを空中へと放り上げ、盾とする事で防いだのである。更に、その鉄塊の盾を死角に『王の財宝』を展開、狙撃に寄って潜伏位置の露見した弓手とアベンジャーへと宝具を射出。

 この恐るべき英霊は瞬きの間にそれをやってのけたのである。

 それを可能としたのが彼の手首に巻き付いた紐。持ち主に無双の剛力を齎す大士師の髪で編まれた輪であった。

 一方、方向を変え、ビルへと走るアベンジャーは更に速度を上げて、飛来する宝具の雨を掻い潜る。ビルの壁面を前に一切その速度を緩める事無く突き進み、その前輪が歩道の段差で大きく跳ねた。空中で車体を傾け、その後輪で電柱を蹴って方向を変え、アベンジャーはビルのガラス張りの正面玄関へと突っ込んだ。

 直後、その影を貫いて奔った魔槍、魔剣の弾丸がビルの壁面を貫いて周囲に瓦礫をぶち撒ける。周囲に散らばる瓦礫、粉塵の奥より返礼とばかりに火矢が飛んだ。それも一つ二つではない。巨大な魔力の畝りと共に、アベンジャーは大通り沿いに立ち並ぶビルの一階をぶち抜いて疾走りながら、同時にアーチャーに向って次々と火矢を放つ。

 流鏑馬の要領で、バイクを駆りながら敵を射る。問題は敵の魔力と動きを読み、ビルの外壁越しにそれを行っている点であろう。そして、アベンジャーにはそれを行うに足る能力がある。

 外壁を貫いた火矢がアーチャーへと迫った。轟音と魔力の気配で大まかなアベンジャーの位置が分かっても、出所は愚か矢自体が壁を貫くまで見えぬ分、当然アーチャーの反応は遅れる。

 火矢が肩を掠め、炎がアーチャーの黄金の鎧を溶かし、その背後のビルを貫いていく。先程、突進するディアベルを受け止め傷一つ付かなかった鎧が溶けていた。直撃すればアーチャーとて只では済むまい。

 とは言え、ただ射られている様な英雄王では無い。回避と同時に攻撃に転ずるべくアーチャーは『王の財宝』を起動する。しかし、その一瞬、アーチャーの眼前の空間が波打ち、その視界が揺らぎ、宝具に隠れる瞬間を、アベンジャーは逃さなかった。

 狙い澄ましたかの様に、三本の火矢が外壁を貫いてアーチャーへと迫った。

 アーチャーは即座に回避方向を誘導された事を悟る。矢が壁を貫いて出現したのは、アーチャーが回避の為に地を蹴ると同時であった。アーチャーの回避動作を見てから射たのであれば間に合わぬ道理である。

 その絶体絶命の状況に、しかし、アーチャーは不遜に笑った。

 

「フン、読み損なったな」

 

 空間の揺らぎより出現したのは目映く輝く巨大な鏡であった。アーチャーの姿を後ろに丸々隠す程の大きさを誇る。勿論ただの鏡では無い。見よ、火矢が鏡に触れた瞬間、鏃、箆、矢羽と見る間にその鏡面へと吸い込まれ、代わりに鏡面に写った火矢が鏡面を越えて撃ち出されたのだ。

 同質、同速、方向のみを百八十度反転し、火矢は射手へと舞い戻る。

 全てを反射する絶対防壁。アイギスの盾、その原典であった。

 

「最早、投擲武器は我には届かぬぞ。痴れ狗めが、己の愚挙を悔いながら死ぬが良いッ!!」

 

 アイギスの盾の後方に陣取ったアーチャー、その背後の空間が歪み、十余の宝剣宝槍がその刃を覗かせ、空を切った。舞い戻った火矢が三つ、新たに射出された宝剣宝槍が十二、それぞれ大通りに紅色金色の輝線を描き、次々とアベンジャーの魔力の気配を追ってビルへと撃ち込まると、爆炎と成ってビル内を蹂躙し、破砕された瓦礫粉塵がビルを抜けて通りへと降り注ぐ。

 直後、支柱を砕かれた事でビルが轟音と共に崩壊を開始し、自重で押し潰れながら大通りへと倒れ込む。と、同時に空を切った宝剣宝槍が次々にその上階へと撃ち込まれ、爆ぜた。

 魔力の織り成す暴風が四方に吹き荒れ、まるでアーチャーを避けるかの様に、ビルは左右に砕けた瓦礫を撒き散らしながら、両隣のビルを巻き込み倒壊する。

 その何と凄まじい光景か。

 

「フン、他愛無い――」

 

 両腕を組み、そうごちるアーチャーの言葉を切って、ガラスの砕ける音と共に、倒壊するビルの上階から蒼黒の機影が跳んだ。

 

「何を勝ち誇る? 俺は此処にして、貴様は其処にいる。まだこれからだ。愉しい戦争はここからだ。さぁ、貴様の力の果てを見せろッ!!」

 

 ビルの五階だった部分から宙へと跳び出した蒼黒の機影はその勢いのまま真っ直ぐにアーチャーへと躍り掛かった。

 

「チッ、猪口才な!!」

 

 即座にアーチャーの展開した宝具が空を切り、空中にてアベンジャーの放った火矢と打つかり合って、互いにその軌道を逸らし合う。一方が虚空へ駆け上がり、もう一方がアスファルトを砕いて大地へと弾痕を残す。

 最早遮る物は何も無く、アベンジャーの駆る大型バイクの前輪がアーチャーの眼前へと迫った。崩壊するビルが巻き上げた粉塵が一瞬、対峙する二人を包み隠し、そして晴れた。

 アーチャーとアベンジャー二人の位置に変化は無い。

 

「ぐ、く、貴様ッ!!」

「『天の鎖(エルキドゥ)』。驕るな、痴れ狗。この世全てを手に入れた我の力に底は無い。まして貴様如きが見ようなど思い上がりも甚だしいわ」

 

 アベンジャーが彼の駆る大型二輪毎、空中に縫い止められていた。交差の直前、その周囲の空間の揺らぎから出現した鎖がアベンジャーを絡め取り、縛り上げていたのである。

 

 

 

 

 




え~、長らくお待たせしました。
アーチャーVSアベンジャー戦。
ルーラーが出てくるとこまで進めたかったんですが、この体たらくです。
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