結構省いているので、原作を読んでおくことをオススメします。
三門市にあるボーダー本部から遥か西に、その支部は有る。
いや、支部というより、第二本部と表現したほうかが適正か。役職は支部長となっているが、別に本部からの命令に従う必要はないし、本部長とほぼ同等の決裁権限を擁している。
ボーダー神崎支部。通称第二本部。
そこの支部長を勤めているのが、なにが巡り巡ってこうなったのか、俺であった。
いやなんで? という疑問は今さらか。いや、まだ遅くないはずだ。
「いまだに納得いかないんですけど、ねえ鬼怒田さん?」
目の前に居るというのに、先程から手元のメカをいじり続けているオッサンに話しかける。俺には何の為の機械かサッパリ分からんが、この真剣な顔は大事なものに違いない。
「ワシに聞くんじゃない。城戸司令か忍田本部長に聞くんだな」
一旦作業を止めて返事をしたかと思うと、素っ気ない回答でまた直ぐに作業に戻ってしまった。つれないタヌキだ。
このオッサンの名前は鬼怒田さん。技術畑の人で、開発室長なんていう役職に就くかなーり偉い人だ。
「いやだって、おかしいと思いませんか? 確かにトリオン量は普通の人より少し多いし、そこそこの戦果をあげたと自負していますが、俺はまだ二十七歳ですよ?」
こんな若造には重すぎません? 部下は少ないが、四の部隊を一応預かっている。
「なんにもおかしくないわい。あれだけのトリオン量に大規模侵攻での戦果、加えてその副作用ときたら、まさに適任じゃろう。ほれ、これのメンテナンスも終わったし、さっさと行った。ワシも忙しいからな」
もう用はないと言わんばかりに俺を部屋から追い出す鬼怒田さん。くそ、この似非タヌキめ。覚えてろよっ!
忙しいのは事実なので、先程から鬼怒田さんが弄っていた物を受け取り大人しく出ていく。俺もこの後に別の用事があるしな。
廊下をコツコツと歩いていると、前方から二人の女性が歩いて来ているのが見えた。
一人は金髪の女性で、スラリとした体躯に優雅な振る舞い、不敵な瞳に綺麗な鼻筋のセレブな人だ。もう一人は髪を二括りにした子で、可愛らしい顔立ちに少し生意気そうな態度の、セレブな人とは対象的にちっちゃい女の子だ。
名前は確か……過去さんと、えー、現在ちゃんかな? すまん、どっかで会ってるなら、君の名前は忘れてしまったよ。
「あら? お久しぶりですね、支部長」
向こうも俺に気付いたようで、こちらに話し掛けてくる。
「ああ、久しぶり過去さん。元気だった?」
正直、俺は特に用はないので無視しても良かったのだが、話し掛けられたのなら答えない訳にもいくまい。面倒だが適当に話題を振っておく。
「その名前の発音はまだ治ってないのね……そうね、元気にしていますよ」
その後、ランク戦がどうだの、今度十本勝負をしようだの少し世間話をしていたら、さっきからこちらをチラチラ見ていた現在ちゃん(仮)が、話に割り込んできた。ちゃんと後ろに並びなさい。
「あの、その方は……?」
その言葉に、過去さんはあら? と声をあげた後、ポンと手を打ち納得顔でこう言った。
「そういえば、自己紹介がまだだったわ」
うぉおい。通りで俺が知らないわけだ。だって初対面なんだもの。よし紹介してくれたまえ過去さん。
「この子は黒江ちゃん。ワタシの隊の攻撃手をしているわ」
黒江ちゃんね。よし、ボク覚えた。それでは俺も自己紹介をと意気込んだところで、不意に俺の右足が震えだす。……バカな、封印がもう解けたというのか? 戦慄しながらも俺は右のズボンのポケットから携帯を取り出す。そこには本部長(真)の文字が。
げっ、忘れてた。本部長さんにこの後お呼ばれしてたんだった。過去さんとの会話が弾み過ぎて結構時間が経っているようだな。俺は喉の調子を確かめた後、渋い声で応答した。
「俺だ。新しい任務か?」
『三分以内に会議室に来い』
ガチャ。プーップーッ。
なんという冷たい反応。しかし遅刻したのは事実。悪は俺で間違いないだろう。だがそこで俺は、唐突に先程の自らの考えを思い出した。厳然たる事実として、俺は本部長さんの命令に従う必要はない。それが許されているのだ。
そして今の本部長さんからの電話は命令であった。来いだってよ。テメエがきやがれってんだい。
つまりあれだ。俺は神崎支部長という特殊な立場にあり、独裁者となるべく必要な権限及び裁量が与えられている。その俺は今回の会議に出席する必要がないということであり、すなわち帰ってよいということになる。だって遠いんだよ。新幹線で四時間、電車で二時間かかるんだぜ。
というわけで。
「神崎支部長っ、ご命令により馳せ参じましたぁっ!!」
大きく肩を上下させ、息も絶え絶えに俺は言葉を捻り出した。タイムはっ!?
「よし、二分四十七秒か。間に合ったようだな」
ちっ、ワールドレコードの更新はならなかったか。そんな俺の態度にヤレヤレといった感じで本部長さんが肩を竦める。それにより停滞していた会議室の時が進み始めた。新手のスタンド使いか?
「君はそこに座ってくれ。では、会議の続きを始める」
端の方に俺の席が用意してあったので、大人しく椅子に座る。それから、いかにも秘書っぽい人が会議を進め始めた。妙に俺に(冷たい)視線を送ってくるのは俺のことが気になるからか?
会議の内容としては、最近ボーダー本部の設置場所である三門市の警戒区域外に門が発生している、というものであった。
俺としてはふーんという感じだ。神崎支部管轄では、そういったイレギュラーな門の発生報告はないからな。というか、あのタヌキの調整ミスじゃないの?
神崎支部長としての意見を求められたので、ちょうど会議に出ていない鬼怒田さんのせいにしてみた。さっき相手にしてくれなかった腹いせだ。俺はガキか。
あーだこーだ憶測が飛び交うも、結論はでないまま引き続き調査するということで会議はお開きになった。じゃあもう帰って良いよね?
ということで。
「お先に失礼しまーす。っつあれっしたー」
俺は我先にとボーダー本部を飛び出した。途中で知り合いらしき人に何人かすれ違ったが、全て適当に挨拶してかわした。で、その帰り道。
「おおう、これが噂のイレギュラー門か……」
警戒区域外にある駅に向けて歩くこと数分。不自然なトリオンの力を感じた為、そちらに向かってみるとアラ不思議。目の前には青白い小雷を小刻みに放ちながら、ポッカリと先の見通せない闇の丸窓が広がっていた。
今だ周囲に新しい破壊の気配が無いことから、まだトリオン兵が出てきてないと推測する。その答え合わせのようにその暗闇から白い物体が姿を現した。
ヌルリと出てきたのはムカデとダンゴムシを掛け合わせたような、この世界には存在しないもの。
「モールモッドが三体か」
モールモッドと呼ばれる、トリオンで構成されたゴーレムのようなものだ。鋭い二振りの前鎌に、高い機動力を持つ十くらいの尖った足。甲虫のような連結された装甲が意外と硬い、一般的なトリオン兵だ。いわゆる歩兵のような役目を持つと言えよう。
ただしデカイ。
デカイっていいよね。俺は百八十はあるが、余裕で見上げている。三百くらいあんじゃねーの? そして見下ろすは、いかにもな弱点である前面の球体を晒したモールモッド。いいのかそれで。弱点狙い放題だぞ。
まあ一々そんなことはしないけどね。帰りも長いし、ちゃっちゃと終わらせますか。
「トリガー、オン……」
そう呟きながら、俺は右足のポケットへと手を突っ込む。……んんっ? おかしいな、一向に変身しないぞ?
不審に思いつつも、俺は右手にある確かな感触を与える物体を眼前に持ってくる。これ、携帯ですやん。そういやトリガー、ベッドに置きっぱだったか。
―そんな致命的な隙を、敵が見逃すはずがなかった。
モールモッドの右鎌が勢い良く振られる。それに対して咄嗟に俺は、トリオンの壁を張った。
ギィンと、金属の擦れる音が響く。耳が痛い。
忘れたんなら仕方ない。ちょいと使うか。
トリオンの壁を張り続けながら、俺は右手に意識を集中させる。
すると、徐々に俺の右手の近くが淡い光を放ち始める。ボンヤリとした白から、綺麗な黄緑色へ。やがてそれらがしっかりと形を作り始め――一本の剣となった。
その間に残りの二匹も俺を射程に捉え、その自慢の鎌で攻撃しだすが、俺の眼前に展開する壁には全く傷を付けられないようであった。
そして、準備完了とばかりにトリオンの壁を消すと、俺を殺さんと腕を振り上げるモールモッドを前にして、ただ右腕を地面と水平に振るった。
「さて、帰って漫画の続き……は無理か。仕事が残ってるんだよねー」
トボトボと肩を落として歩く俺の後ろには、綺麗に上下に分かれたモールモッドの残骸が三セット分あった。
原作よりトリオン兵の出現が多い設定。