魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

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ミカヤのカラーイラストを初めて見たとき黒髪だと思っていたが青髪だったw

では、十話目入ります。


十話“合宿と思考の交差”

 ―――マンション

 

「で、どうだった?」

 

俺はテーブルの前に胡坐をかいて座っていた。俺の視界に映っているのは正座をしたSt.ヒルデ魔法学院の制服を着ているアインハルトだ。緊張した面持ちで俺を見ている。オリヴィエはベッドに腰掛けて俺たちを見ていた。

 

「こ、これが結果です」

 

一枚の紙がテーブルに置かれた。俺はそれを手に取り眺めた。書かれていた内容は前期試験の内容だ。5教科の点数が記載されている。

 

100・100・100・98・100。

 

惜しくも五教科満点に届く事が出来なかったようだ。

 

「一つ間違えたんだな」

 

俺は見終わった紙をテーブルに置いた。

四日前に前期試験の勉強会をこの部屋で行った。ヴィヴィオとコロナ、リオにアインハルトの四人が来て一生懸命勉強していた。そこでアインハルトが帰り際に満点だったらご褒美が欲しいと言ってきた。

 

「悔しいです」

 

アインハルトは表情を曇らせてテーブルに置いてある紙の点数を見ていた。一つ間違えただけだがアインハルトは優等生だとこの成績が物語っている。

 

「でもいい点数だな。俺はあまり教えていなかったが、アインは頭がいいんだな」

「文武両道です。片方が優秀でも意味がありません」

「そうですね。アインハルトの言っている事は間違いじゃありません」

 

オリヴィエが柔らかな頬笑みを作ってアインハルトの苦労を労うようにして見る。王家育ちのオリヴィエにとっては文武共に優秀でなければならないのだろう。そうしなければ名家の名が廃ってしまう。

なので、アインハルトの話に頷いたのだろう。

 

「まあ、褒美は満点だったらの話だがこれくらいなら……」

「いえ、ダメです」

 

満点に近い点数なので褒美というモノをやろうと言いかけた俺の言葉をアインハルトが割り込んで遮った。アインハルトは何にも動じない凛とした表情をしていた。

 

「約束は約束です。満点でなければ意味はありません」

「……アインが言うんならそうしようか」

 

アインハルトの純粋で真っ直ぐな瞳を向けられた事に俺は同意した。

 

「ですが、アインハルトは何が欲しかったのですか?」

「そ、それは……内緒です」

 

オリヴィエが聞いた言葉にアインハルトは凛とした表情が一気に柔らかくなり、頬を赤く染めて視線をそらした。

 

「何か欲しかったのか?事前に言ってくれれば用意とかできたんだけど……」

「ひ、秘密です!!この話は終わりにしましょう!!」

 

アインハルトが必死な表情でこの話を終わりにしたがっていたので無理に聞く事もないと思った俺は話を変えることにした。

 

「わかったわかった。それじゃ、これからノーヴェと合流して、なのはさんの所に行かないとな」

 

今後の行動はノーヴェと合流して、なのはさん宅へ行き、そのまま首都から臨行次元船で無人世界カルナージへ行く予定だ。なのはさんに誘われて休暇訓練をカルナージでやることになった。“聖杯戦争”が始まる前の強化訓練には丁度良い訓練だ。

 

「ノーヴェとはうまく話を通せると良いのですが」

「カラーコンタクトしていれば問題ないと思うけどな」

 

オリヴィエは一度ノーヴェに虹彩異色で会ってしまった。そのためにノーヴェにオリヴィエの正体がばれてしまうのではないかとオリヴィエ自身が懸念している。

 

「あ、ガイさん。そろそろ出ないと時間が……」

「ん?お、もうこんな時間か」

 

壁に掛けてある時計を見る。そろそろ出ないとノーヴェとの待ち合わせ場所に間に合わなくなる。

 

「アインは準備大丈夫か?俺らは昨日のうちに用意したけど」

「大丈夫です。私服に着替えて取ってきます」

 

アインハルトは立ち上がって部屋を後にした。オリヴィエも紅いカラーコンタクトをつける。

 

「まあ、うまく話を合わせればノーヴェも気にしないよ」

「だといいですけど……」

 

俺の言葉に少し不安げな表情をしているオリヴィエは小さくため息をついて微笑返してきた。その瞳はどちらも紅。これならフリージアと名乗っているオリヴィエが聖王家である事がバレる事はぐっと低くなる。

オリヴィエの不安を取り払うように俺もオリヴィエに笑みを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な、さっきの不安は杞憂に終わったろ?」

「ええ」

 

俺は隣を歩いているオリヴィエにだけ聞こえるように声のボリュームを小さくした。前には薄赤いショートヘアのノーヴェが隣に居るアインハルトと話をしながら歩いている。

先ほどノーヴェとオリヴィエの2人は挨拶を交わした。ノーヴェはオリヴィエを見て何か思い当たったような素振りを見せたがオリヴィエの目を見て、その素振りは無くなり普通に2人で会話を始めた。

やはりノーヴェが気にしていたのは目なのだ。聖王家だけに表れる左眼が紅く、右眼が翠の虹彩異色。それが出会った時に強く印象に残っていたのだろう。今のオリヴィエはカラーコンタクトで虹彩異色ではない。だからノーヴェは助けてもらった時の人物と容姿が似ていても、追及はしてこなかった。目が違うだけで別人だと認識したのだろう。

ノーヴェを騙してしまったことに罪悪感は残ったが、何処から情報が漏れるか分からないこの現状、いたしかたないと俺は思った。

 

「ガイは私がばれないと確信していたのですか?」

「ん~、まあ何となく。騙してしまった事に対してはちょっと罪悪感が残ったけどな」

「申し訳ありません」

 

オリヴィエは俺が心に罪悪感が芽生えてしまった事に対して苦虫を噛みしめたような表情で俺に謝罪した。

 

「気にするな。情報の重要性は高い事は分かっている。ノーヴェには悪いが嘘を言うしかない」

「……気遣い感謝します」

 

俺はオリヴィエの表情を和らげようと笑みを向けてオリヴィエをフォローした。

 

「おい、着いたぜ」

「ん?もうか」

 

前からノーヴェの声が聞こえたので正面を向く。そこにあるのは一戸建ての家。なのはさんの家だ。

ノーヴェは俺らに一言言った後、再び前を向いてインターホンを押した。

 

「はーい」

 

チャイムから少しして、玄関のドアが開きヴィヴィオが顔を出した。

 

「こんにちは」

「アインハルトさん!?ガイさん!?フリージアさんまで!?それにノーヴェ!!」

「“それに”ってなんだよ“それに”って」

 

ヴィヴィオが俺たちを見た瞬間、声のボリュームが一気に跳ね上がって笑みを絶やさない。まるで思わぬ客が来たような素振りだ。

 

俺たちが行くことを聞いていなかったのか?

 

「異世界での強化訓練とのことなのでノーヴェさんからお誘い頂きました。同行させていただいても宜しいでしょうか?」

 

少し頬を赤らめて同行することの旨を言ったアインハルト。

 

「はい!!も~全力で大歓迎です!!」

 

目に星を輝きさせながらアインハルトの手を掴んで必死に振っている姿は本当に嬉しそうだ。

 

「ガイさんも来るのですか?」

 

ヴィヴィオは視線をアインハルトから俺に向けて質問してきた。

 

「ああ、少し鍛え直そうと思ってな。いい経験にもなりそうだし。部外者で悪いが俺とフリーも一緒に行かせてもらうよ」

「ううん、全然部外者じゃありませんよ。ガイさんもフリージアさんも大歓迎です!!」

 

ヴィヴィオは未だにアインハルトの手を握ったまま笑っていた。

 

「ほらヴィヴィオ、上がってきてもらって」

「あ、うん♪」

 

奥から来たフェイトさんの言葉に未だにアインハルトの手を掴んでいたヴィヴィオがその事実に気づいて慌ててアインハルトから手を離した。

 

「アインハルトさん、ガイさん、フリージアさん、どーぞ」

「お邪魔します」

「お邪魔します」

「失礼します」

 

そして、ヴィヴィオが手招きをしてなのはさんの家に入った。

 

「あの子やガイが同行するって教えなかったの正解だったね」

「はい、予想以上に」

 

先頭を歩くヴィヴィオがフェイトさんを過ぎてから笑みを浮かべてノーヴェに耳打ちをした。それを聞いたノーヴェは苦笑いして返した。それを聞いた俺は言葉を投げた。

 

「俺やアインが来ることをヴィヴィに言って無かったのですか?」

「うん。その方がヴィヴィオ、驚くかなって思って」

 

フェイトさんが優しく頬笑みを浮かべ俺の事を見た。

 

「……」

 

やっぱり駄目だ。フェイトさんの笑顔を見ていると脈が速くなる。自分でも顔が赤くなるのがわかる。やっぱりフェイトさんの事が好きなのかな?

 

「どうしました、ガイ?顔が赤いですよ?」

「あ、ああ、いや、何でもない……」

「風邪ひいちゃった?」

 

そう言って、心配そうな表情で近づいて俺のおでこに手を当ててくるフェイトさん。視界に入ったのはフェイトさんの心配そうな表情の顔と胸。胸元が少し開いているような服だから胸に目がいってしまう。気になっている人がこんな至近距離に居るからさっきからドクンドクンと心臓の音がうるさく感じる。

 

「ん~、熱は……少し……ある?」

「い、いえいえ!!大丈夫ですから!!」

 

そう言って、俺はフェイトさんの手から離れた。

 

「何ともありませんから、本当に大丈夫です」

「……はっは~ん、ガイ。お前、もしかしてフェイトさんの事……むぐう!!」

 

何か言いたそうな表情で話そうとしていたノーヴェの口を俺は必死に手で塞ぎ込んだ。

 

「にゃ、にゃにしゅやう!!」

「え、えっと、大丈夫?」

「はい、お気になさらずに!!」

 

俺はそう言って、ノーヴェの頭をヘッドロックしてずるずるとダイニングへと連れて行った。この合宿訓練はいろいろと大変そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――車内

 

皆で一緒のトレーニング&旅行ツアー。クリスとの遠出も初めてだし、アインハルトさんやガイさんも一緒だし。

 

私は自分でも笑みが消えることが無いくらいの喜びを覚えているのが分かった。今回の旅行は前回とはまた違う楽しさがある。

 

アインハルトさんとも練習できるし、ガイさんとも本格的に対戦できるし、もしかしたらフリージアさんともぶつかり合う事が出来るかも知れない。

 

「アインハルトさん。四日間よろしくお願いしますね」

 

私は座席の後ろを振り向いて後ろに居るアインハルトさんに声をかける。

 

「はい。軽い手合わせの機会などあればお願いできればと」

「はい。こちらこそぜひ。あ、ガイさんは寝ているんですね」

 

アインハルトさんの両サイドにはノーヴェとガイさんが居る。ガイさんは寝ているようだ。左肘を車の縁に掛けて、体重を左側に掛けるようにして目を瞑っている。本当はガイさんともお話ししたかったけどガイさんはフェイトママが車を走らせたときから眠っていた。

 

結構疲れているのかな?それならそっとしておこう。

 

「車動かしたときから、ずっと寝てますね」

「そっとしておきましょう」

 

私は受け答えしてくれたアインハルトさんに笑みを作って喜んだ。少し前までは無視されたりしたけど、全力でぶつかったあの対決からアインハルトさんとは少しずつ仲良くなった。

 

こうして気楽に話を出来るのって、ガイさんが勉強会などでアインハルトさんを呼んくれたおかげだよね。

 

私はアインハルトさんの隣に居るガイさんにありがとうございますと小さく言って、座席に座り直した。隣にはフリージアさんの膝の上に乗っているコロナが顔を赤くして笑っていた。ちょっと恥ずかしがっているけど嫌がっているわけではない様子だ。リオもその隣で笑っている。

今回の合宿訓練の四日間、私はとっても楽しくなりそうな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――無人世界カルナージ

 

「みんないらっしゃ~い♪」

 

首都から臨行次元船で約四時間。一年を通して温暖な大自然の恵み豊かな世界。それがカルレージの世界だ。この世界は無人の世界ではあるが2人の住人が住んでいた。それが今、笑顔で出迎えてくれている人物だ。

メガーヌ・アルピーノとルーテシア・アルピーノの2人の親子である。ロングヘアーの紫の髪に赤薄い瞳。ルーテシアは後ろにリボンをつけている。容姿も髪型もここまでそっくりな家族は珍しい。

ルーテシアは古代の本や知識などに詳しく、年が近いヴィヴィオ達と仲が良いらしい。

 

「こんにちは~」

「お世話になりま~すっ」

 

2人の言葉に来た人たちはそれぞれ頭を下げたり手を振ったりしてアルピーノ家族に挨拶いた。

 

「皆で来てくれて嬉しいわー。食事もいっぱい用意したからゆっくりしていってね」

「ありがとうございます!!」

 

スバルさんやティアナさんとは航空で待ち合わせをしていた。今日のメンツは元六課メンバーのフォワード陣が集まるとの事。あの最強とも言われていた六課メンバーが一つに集まるのはなかなか無い。今回の合宿は来て正解だろう。

 

「ルーちゃん!!」

「ルールー!久しぶり~!!」

「うん、ヴィヴィオ、コロナ」

 

子供たちも挨拶を始めた。ルーテシアはリオへ視線を向いた。

 

「リオは直接会うのは初めてだね」

「いままでモニターだったもんね」

 

ルーテシアはリオの頭に手を置いて撫でた。

 

「うん、モニターで見ているより可愛い」

「ほんと~?」

 

子供同士はすぐに打ち解けやすいモノだな。

 

 子供たちのあいさつを見ていると微笑ましくなった。

 

「あ、ルールー!!こちらがメールでも話した……」

「アインハルト・ストラトスです」

 

そこにアインハルトが加わる。ぺこりとアインハルトは挨拶をして頭を下げる。

 

「ルーテシア・アルピーノです。ここの住人でヴィヴィオの友達、14歳」

 

にっこりとアインハルトに笑って答える。

 

「ルーちゃん、歴史とか詳しいんですよ」

 

えっへん、とワザとらしく威張って笑うルーテシア。

そして、今度は俺とオリヴィエに視線と笑みを向けてきた。

 

「そちらの方々はガイ・テスタロッサさんとフリージア・ブレヒトさんですか?」

「ああ、よろしくな。ルーテシア」

「よろしくお願いします」

 

俺らも軽く挨拶した。

 

「ヴィヴィオからはよく聞いています。ヴィヴィオはガイさんの事が……」

「わーわー!!」

 

ヴィヴィオがルーテシアに近づいて、大声を出してルーテシアの発言を止めた。

 

「どうした、ヴィヴィ?」

「な、なんでもないよ!!」

 

ヴィヴィオは何とか必死に作ったような笑みをらこっちに向ける。その必死な表情に俺は深く追求するのをやめておく事にした。

ルーテシアは口元をヴィヴィオの手で押さえられているが表情は笑っている。ヴィヴィオは、ははは、と乾いた声で笑っていた。2人は笑っているのだが同じ笑いではなかった。

 

「あれ、エリオとキャロはまだですか?」

「ああ、2人は今ねぇ……」

「おつかれさまでーすっ!!」

 

そこに、後ろから高い声がした。振り返ると男女の2人が薪を集めていたのか両手に持って歩いてきた。

 

「エリオ、キャロ♪」

 

フェイトさんの声が嬉しそうに弾んでいた。この2人に会えるのがよほど嬉しいのだろう。

赤髪に薄青い瞳の男の子がエリオ・モンディアル。ピンクの髪に蒼い瞳のキャロ・ル・ルシエ。フェイトさんの養子だ。どのようにして養子にしたかは聞いていないが、フェイトさんには夫は存在していない。その事にちょっとホッとしている自分が居る。

俺は2人の事はモニター越しで話をしたことはあるが会ったのはこれが初めてだ。

 

「わーお!エリオまた背が伸びてる!!」

「そ、そうですか?」

「わ、私も少し伸びましたよ!!1.5㎝!!」

 

最初モニターで見た時は驚きを隠せなった。こんな小さな子が六課チームの前線メンバーで戦っていたのだから。よほど才能があったのかレアスキルを持っていたのだろう。

しかし、驚きもしたが、それと同時に当時この子達が10才くらいで戦っていた事に少し胸を痛めた。子供が武器を持って前線に立たせたやり方の六課に憤りを感じた。常に人手不足な時空管理局は幼い子でも能力が高いと雇われることも多々ある。管理局のやり方だがどうも俺にはそのやり方に賛同しかねる。

俺が798航空部隊に所属したのは13歳の時。訓練校の期間と合わせても11歳の時に軍に所属している身だ。人手不足であるがために雇用年齢が低いのは確かに認める。

それでも体格も精神年齢もまだ幼い子供たちが軍に所属しているというのは良くないと思っている。こういう子共達には軍服を着て頑な表情をしているよりも私服を着て笑顔で笑っているような光景に居てほしいと思う。

 

「アインハルト、フリージア、紹介するね。2人とも私の家族で……」

「エリオ・モンディアルです」

「キャロ・ル・ルシオと飛龍のフリードです」

 

フェイトさんが初対面のアインハルトとオリヴィエに家族を紹介してくれた。キャロの上には小さな龍が飛んでいた。キャロの召喚獣らしい。

 

「アインハルト・ストラトスです」

「フリージア・ブレヒトです」

「うん」

「よろしくねアインハルト、フリージアさん」

 

4人は挨拶をすました。

そして、エリオとキャロが俺へ視線を向ける。

 

「ガイさん。モニターでは何度かお話をしましたが実際に会うのは初めてですね」

「そうですね、ガイさん」

「ああ、そうだな」

 

2人とも笑って語りかける。何というか、ここの人たちは部外者である者に対して簡単に打ち解けやすい。俺もアインハルトもオリヴィエも例外ではない。

 

「!!」

「!?」

 

そこに近く草むらからかすれる音がして、そこから何かが現れた。明らかに人ではない何か。人のような形をしているが、目が四つあり、尻尾も付いており、体全体が何か硬いモノで覆われているような姿。右手には細長く鋭い刃のようなものが付いており、背中には山菜が詰まった籠が……。

 

「ん?籠?」

 

俺やアインハルトは驚いてそれに構えていたが、敵だと思ったわりには山菜が入っている籠を背負っている場違いな装備だとわかると、ちょっと気が抜けた。

 

「あー!!アインハルトさん!ガイさん!ごめんなさい!大丈夫です!!」

「あの子は……」

 

2人が俺たちにあれは敵じゃないと必死に言ってくる。

 

「私の召喚獣で大事な家族、ガリューって言うの」

 

主が挨拶したからかスッと右手を胸の前に持ってきて頭を下げるガリュー。

 

「し、失礼しました」

「わ、悪かった」

「私も最初はびっくりしましたー」

 

俺とアインハルトはルーテシアの家族に構えてしまった事に悪気を感じて謝った。ルーテシアはそんな事は気にしないような素振りで笑った。

オリヴィエは殺気が無いと分かったからか何も行動しなかったのだろう。俺とアインハルトを見て笑みを溢していた。

 

「さて、お昼前に大人の皆はトレーニングでしょ。子供達はどこに遊びに行く?」

「やっぱりまずは川遊びかと。お嬢も来るだろ?」

「うん!」

 

子供達は川遊びのようだ。保護者的なモノでノーヴェが付いて行くらしい。

 

「アインハルトも来いな」

「はい……」

 

アインハルトはあまり満足げな表情はせず俺をチラリと見た。トレーニングに参加したがっている顔だ。

 

「私はトレーニングの方でよろしいのですか?」

「ん~、フリージアさんは子供達と遊んでいてもいいですよ。管理局に所属している人達が行う訓練ですから」

 

そうですか、とオリヴィエは言って少し考える。

そして、笑顔をなのはさんに向けて言った。

 

「では、子供たちと少し遊んできます」

「うん、楽しんで来てね♪」

 

なのはさんも笑って答える。

 

「じゃ、着替えてアスレチック前に集合しよう!」

「「「はい!!」」」

「こっちも水着に着替えてロッジ裏に集合!」

「「「はーい!!」」」

 

水着!!っとアインハルトが顔を真っ赤にして言った気がしたが、遊ぶメンバーに男性は居ないんだからそんなに恥ずかしがらなくても。しかし、男って俺とエリオしか居ないんだな。

 

改めて皆を見ると男女の比率が明らかに変であるのを認識した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――水辺

 

「あたしいちばーーーん!!」

「あーリオずるい!」

 

水着を着たヴィヴィオとコロナとリオとルーテシアが走って川に入っていく。私は川辺に立っていて隣には水着の上に上着を羽織ったノーヴェとアインハルトが居た。私は着替えていない。水着を使うとは思っていなかったのでガイとの買い物の時に買わなかった。それでも子供たちの笑顔を見ているだけでも満足できる。

 

「アインハルトさんも来てくださーーーい!!」

「ほれ、呼んでるぞ」

 

ノーヴェが川に入っている子供たちを指しながら上着を脱ぐことに照れているアインハルトに声をかける。

 

「ノーヴェさん。出来れば私は練習を……」

「まあ、準備運動だと思って遊んでやれよ」

 

2人はコソコソと話をする。

 

「それにあのチビたちの水遊びは結構ハードだぜ」

 

その言葉にアインハルトは少し困惑した表情になった。私も多分同じ表情だろう。アインハルトは私に顔を向けた。

 

「遊ぶ時は遊ばないと損ですよ。アインハルト」

「え、ええ。わかりました」

 

アインハルトはそう言って上着を脱いで水着姿になって川に入り始める。

 

「あ、アインハルトさんどーぞー!!」

「気持ちいいよ~♪」

 

それに気付いた子供たちが手招きをしてアインハルトを歓迎した。

 

「アインハルトもいい友達を持っていていいですね」

「お前もそれに含まれているんだろ?」

「……そうですね」

 

ノーヴェが笑顔を向けて言った言葉にどう返したらいいか一瞬悩んだが、アインハルトとは友達であることに間違いではないので頷いた。

 

「しっかし、フリージア。お前の事を見た時は路上喧嘩の時に助けにきてくれた奴かと思ったんだけどな。容姿がそっくりだし」

「ですが、その人の目は虹彩異色なのですよね?」

 

ノーヴェは今朝話をした事を持ちかけてきた。前に路上であったこと無かったか?と質問された会話だ。

 

「ああ。もしそいつにあったらお礼を言わないとな。それにあの虹彩異色の色は聖王家にしか現れることのない色だった」

「……」

 

やはり、ノーヴェに秘密をばらすわけにはいきませんね。情報はどこから漏れるか分かりませんから。でも、お礼をしてくれるという気持ちは私の胸の中にしまっときましょう。それはきっと現実になる事はありませんから。

 

「ですが、本当にアインハルトにいい友達が出来て良かったと思っています」

 

私は路上喧嘩で助けた人物の話を終わらすためさっきの話に戻した。それにノーヴェが軽く苦笑した。

 

「お前って結構アインハルトの肩を持つよな。なんかあんのか?」

「ガイの部屋にホームステイした時から隣に居たアインハルトにもお世話になりましたから」

 

私はにっこりと笑って子供たちから視線を離してノーヴェに顔を向ける。

 

「アインハルトはたぶん格闘技が好きなんだと思うんだ。フリージアも格闘技してるんならアインハルトの相手になってやれよな」

「そう……ですね」

 

アインハルトの中の覇王の悲願は私に向けるべきものではない。私が死んだことによって出来た悲願を私が受け止めては矛盾が生じる。アインハルトの覇王の拳をぶつけるべき相手は現代の私の複製体であるヴィヴィオだ。

 

「そんな固い顔すんなよ。別に覇王の拳をぶつけさせてくれって言ってるわけじゃねんだ。ただ単純に格闘技戦をしてくれってことだ」

「……あ」

 

ノーヴェの言った言葉に私は頭にハンマーを叩かれたような衝撃を受けた。確かに覇王としてぶつかり合うのでは無く、“ただ”の格闘技戦なら悲願云々は関係ない。覇王も聖王も関係ないのだ。

 

「……今度、アインハルトとひと勝負しますか」

「そうしてやれ。アインハルトも喜ぶ」

 

ノーヴェは歯を出して笑った。そういった結果になったことに嬉しかったようだ。私の事をオリヴィエだと知っているわけではないが、単純にアインハルトが格闘技でぶつける相手が出来た事に喜んでいるのだろう。

 

「……ガイから聞いた話ですが、ヴィヴィオは聖王女の複製体。アインハルトは覇王の血が含まれているんですよね?」

「ああ。アインハルトの中の覇王の血はやはり聖王女に惹かれていると思うんだ。だから、私は2人を合わせるようにした」

 

そうですか、と私は軽く笑って水遊びをしている子供たちに向き直す。ノーヴェも子供たちに向き直す。アインハルトも水遊びをしているが、皆より出遅れているような気がする。むしろ他の子供たちが水遊びに慣れている感じがした。

 

「それにあいつは何だかほっとけないしな」

「アインハルトは現代に生きている人物ですからね。覇王や聖王などに縛られず忘れて、年相応の笑顔をしてくれるといいのですけどね。ガイもアインハルトには心から笑ってほしいって言っていました」

「そうだな」

 

アインハルトの中にある覇王の悲願はそう簡単に消えるものではない。ですが、私の隣に居るノーヴェはアインハルトを現代の子達に拳を交えさせてくれている。

 

私はそのことに心の中でノーヴェに感謝した。

 

「で、話は変わるがフリージアもガイの事が好きなのか?」

「……も?」

 

ノーヴェは悪戯な笑みを浮かべて私を見てきた。“も”ってところにちょっと違和感があった。とりあえず、最初の言葉に私は返答した。

 

「いえ、私には婚約者が居ますから」

「いっ、こ、婚約者!!」

 

ノーヴェは驚きを隠せないでいた。

 

私に婚約者がいることにそんなに驚く事なのでしょうか?ああ、オリヴィエだとは知らないから無理もないですね。

 

「私のことはさておき、私“も”というのは?」

「あ、ああ。あたしの主観だけどヴィヴィオやアインハルトはガイの事を好きそうな気がすんだが気のせいか?あの2人だけじゃなくてコロナやリオもな」

「そうでしょうか?私には仲の良い兄弟に見えましたが」

 

私には少なくともガイとアインハルトが接している時は仲の良い兄弟だと思っていた。しばらく観察していればヴィヴィオもコロナもリオも兄弟に見えてくるだろう。そのような雰囲気を勉強会の時に感じだ。

 

「兄弟ねぇ……でも、あいつらがガイと居る時はなんだか嬉しそうな表情をしているんだけどな」

「頼れる兄に見えるからでは?」

「頼れる兄!?ガイが!!ぶぶっ!!」

 

頼れる兄という言葉にノーヴェは笑いを堪えてオウム返しをしてきたが、押さえることが出来なかったのか吹いてしまったようだ。

 

「そうでしょうか?ガイを見ている限りでは面倒見が良い気がしますが」

「あ、あいつには似合わねえよ」

 

未だにぷるぷると体を震えて必死に笑いをこらえている。そして、少しして落ち着いてきたノーヴェは口を開く。

 

「で、フリージアはどう思っているんだ、ガイの事?」

「信用できるパートナーです」

 

私は即答で答えた。召喚されてから二週間ぐらい経つがガイは信用できる人物だ。困ったときに色々手助けしてくれるし、皆からの信用も厚い。

 

「……ガイを信用しているんだな」

「ガイは良い人ですよ」

「私も、そうおもい、ます」

 

そこにアインハルトが息を切らしながら川から上がってきた。他の子達よりも先に体力が無くなったのだろう。よたよたと歩いて、私たちの近くにある岩の上に座った。

 

「なあ、アインハルト。アインハルトはガイの事が好きか?」

「え?」

「いきなりですね」

 

ノーヴェがアインハルトに温かいお茶を注いだ紙コップを渡しながら隣に座って、さっきの話をアインハルトに向けた。疲れていてその質問の意図に最初は分からなかった様子だが脳が先ほどの言葉を理解し始めたのか、どんどんアインハルトの頬が赤くなっていった。

 

「べ、べ、別にそんなものではありません!!ガイさんは兄のような人です」

「あらま、フリージアと同じ答えが返ってきた」

 

ノーヴェは私と同じ回答をした事に先ほどのリアクションよりも反応が薄かった。

 

「じゃあ、ガイがフェイトの事を好きかもしれない事には気にしないか」

「っ!!」

 

アインハルトは何に反応したのか分からないがものすごい速さでノーヴェに顔を向けて、知りたくもない真実を告げられて驚きを隠せないような表情をしていた。

その表情にノーヴェはニイっと笑った。確信したようだ。

 

「なんだ、やっぱりガイの事が好きなのか?」

「あ、い、いえ、そんなことは……」

 

先ほどの反応が墓穴を掘ったと分かったのか、アインハルトは否定しようにもどのように否定すればいいのか分からない様子だ。

 

「その水着姿もガイに見せたかったんだろ?」

「あ、あう……」

 

撃沈して、もはや何も言い返せなくなったアインハルト。アインハルトの水着は黒いビギニに近く、胸は前で、下は横で縛るようなやつだ。大人の雰囲気を持ち出す水着である。

 

「まあまあ、ノーヴェ。アインハルトを虐めるのもそのへんで」

「ちぇ、結構気になっていたんだがな」

「うぅ……」

 

アインハルトは縮こまってしばらく何も言えなくなってしまった。その後は“水斬り”というモノをアインハルトは教わって、ヴィヴィオとお昼近くまでやり続けていた。私はそれを見て微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さーお昼ですよー!皆さんー♪」

「はーいっ!」

 

メガーヌさんの言葉で子供たちが走ってこちらに向かってくる。

俺たち大人組はアスレチックでなのはさんの訓練の後、昼食の準備をしていた。やはりというか、フィジカルトレーニングだけどなのはさんの訓練はかなりキツかった。なのはさんやスバルさんはあまり疲れていなかったが、他は息を切らしてしまった。なのはさんの訓練は厳しい。

 

「おかえりー」

「みんな遊んで来た?」

「もーバッチリ!!」

 

子供たちは元気だ。そこに今朝ぶりのオリヴィエがこっちに向かってきた。

 

「ガイは訓練どうでした?」

「キツかったよ。流石はなのはさんってとこだ」

「これでも教導戦技官ですから」

 

えっへんと分かりやすく威張ったなのはさん。

 

「ふむ、サボっていましたら私が地獄の特訓メニューをガイにさせるところでしたのに」

「……」

 

どうやら、本当にこの四日間の間、オリヴィエに“虐め”鍛えられるようだ。一昨日の夜に俺に言った言葉を思い出した。

 

「フリージアさんの訓練もキツいのですか?」

「いえ、教導戦技官である貴方には敵いませんよ」

 

ふふっ、とオリヴィエは笑う。

 

「う~ん」

 

なのはさんは何を思ったのか、そのオリヴィエの笑みを見て顎に手を添えて考え事をした。

そして、他の人と話をしながら俺に念話してきた。

 

『ガイ君はフリージアさんのことどう思っているの?』

『どう、とは?』

『好きなの?フリージアさんの事?笑っている姿もそうだけど、フリージアさんはかなり美人だし』

 

なのはさんは俺がオリヴィエに対してどのような感情を持っているのか興味があるらしい。

 

『世話の掛る同居人ってとこですかね』

『……それだけ?』

『恋愛云々はありません。フリージアには婚約者がいるらしいので』

『こ、婚約者!?』

 

なのはさんは念話の中で驚いていた。それでもチラリとなのはさんを見ると平穏を保っている表情で皆と笑ってる。その同時処理できるマルチタクスは凄いと思う。

 

『ま、まあでも、それは部外者である私が聞くべきではないね』

『そうですね。フリージアもそこを聞かれると戸惑うでしょうし』

 

「あらあら、ヴィヴィオちゃん、アインハルトちゃん、大丈夫?」

「いえ……あの」

「だ、大丈夫……です」

 

念話を終わらせて周りを見ると、メガーヌさんがアインハルトとヴィヴィオの事を心配していた。俺はそっちに視線を移す。2人ともなんだか体をプルプルさせて、あまり動けない様子だ。

 

「2人で水斬りの練習、ずーっとやってたんですよ」

「あらー」

 

メガーヌはノーヴェの補足で内容が分かりあらあらと言った表情で苦笑していた。ふと、アインハルトと俺は視線が合った。

しかし、アインハルトはすぐにフイッと顔を赤くして逸らした。

 

「?」

 

ちょっと変だったが特に気にせずに料理の盛りつけを続けた。

そして、盛り付けも終わり皆で俺が望んでいた温かな食卓のような雰囲気でお昼を食べ終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ベルカの歴史に名を残した武勇の人にして初代の覇王」

 

私達は今、書籍で一冊の本をテーブルに置いて皆で見ている。その本の内容は……。

 

「クラウス・G・S・イングヴァルト。彼の回顧録。もちろん現物じゃなくて後世の写本だけどね」

 

婚儀の儀を交わす予定のあったクラウスの回顧録だ。その開いているページにはクラウス自身の挿絵が描かれている。クラウスを描いた人はうまい。クラウスそっくりだ。

私はそれを見て微笑んだ。

 

「ルーちゃん、アインハルトさんの事は?」

「ノーヴェから大体聞いてるよ。覇王家直系の子孫で初代覇王の記憶を伝承してるって」

 

そう言って、ルーテシアはページをめくる。そこにはまた違う挿絵が写されていた。

 

「オリヴィエ・ゼーケブレヒト。聖王家の王女にして後の“最後のゆりかごの聖王”」

 

そこには私自身の姿が描かれていた。

 

私にとてもよく似ている。これを描いた人には褒美を差し上げたい。

 

そんな事を考えているとルーテシアが私を見る。

 

「こうして見ると、フリージアさんってこのオリヴィエって人に似てますよね」

「確かに」

「うん」

 

残る2人も私の事を見る。似ているも何も本人その者だから描いている人が下手くそじゃない限りは似ているだろう。

 

「オリヴィエの回顧録を見たことのある人には似ているねって言われることがあります。ですが、私はオリヴィエではありませんよ。聖王家の証である目が虹彩異色ではありませんし」

「そうだよね。オリヴィエが生きていた時代は古代ベルカ諸王時代だもんね。生きていたとしたらかなりのお年寄りさんだよ」

 

そうですね、と私は相槌をうつ。確かに時間軸を跳躍してきたこの身は今の時間軸に合わせると年齢はとうに三ケタを超しているだろう。

しかし、この姿でいられるのも“聖杯戦争”の恩恵を受けているからでもある。

 

「話を戻すけど、クラウスとオリヴィエの関係は歴史研究でもいろいろな諸説あるんだよね」

「そもそも生きた時代が違うって説が主だよね」

 

いえ、コロナ。私とクラウスは同じ時代に生きていました。訂正したいところですが、私がオリヴィエだと知ってしまっては意味がないので黙るしかないですね。訂正したい気持ちはいっぱいですが。

 

「うん……でもこの本では2人は兄弟みたいに育ったってなってる」

 

ええ、ルーテシア。それが真実ですよ。決して私とクラウスは別々ではない。

 

「オリヴィエって確かヴィヴィオの……複製母体だね」

「まあ肖像画とか見る限りあんまり似てないし普通に“ヴィヴィオのご先祖様”でいいと思うけど」

 

だよね、とリオは相槌する。

 

そうなるとヴィヴィオは私の遠い孫みたいなものでしょうか?それはそれでちょっと複雑ですが。ここで何も言えないのは仕方ないですね。クラウスの回顧録を見れると聞いたのでついてきたのですが訂正できないのはちょっと辛い。

 

「でも、なんで聖王家の王女さまとシュトゥラの王子様が仲良しだったんだろうね?」

「あ、そういえば」

「オリヴィエがシュトゥラに留学って体裁だったみたい。シュトゥラと聖王家は国交があったしね。ただ、オリヴィエはゆりかご生まれの正統王女とはいえ継承権は低かったみたいだから、要は人質交換だったんじゃないかな」

 

ルーテシア、人質交換ではないですよ。戦争時代の人質交換なんて印象が悪い。現にコロナとリオが手を握り合ってブルブルと震えているではありませんか。

 

「戦国時代の人質ってアレだよね?歴史小説にもよく出てくる……」

「裏切ったら人質を処刑しちゃいますって……」

「それそれ」

 

ルーテシアは怯えている2人を見て微笑んで肯定する。

 

そこを笑って肯定しないでいただきたい、ルーテシア。ああ、否定したいが言えいのが辛い。

 

そう思っていたが、ルーテシアは次のページをめくってその言葉を打ち消すくらいの事を言った。

 

「でも、2人にはそんなこと関係なかったみたい。この本の途中はオリヴィエ殿下とのことばっかり」

「……そうですか」

 

私はクラウスが私の事ばかりを思っていてくれている事実に唇が緩んで微笑んだ。

 

「嬉しそうですね。フリージアさん」

「……ええ、こんな時代でも国は対立しているのに仲が良いとはいいと思いまして」

「そうですね」

 

肯定してくれたコロナに嬉しさを私は感じだ。後世にはこのように記述されて残っているモノがあるのは嬉しかった。それを読んでくれている人もいるのも嬉しい。私はいろんな意味で歴史に名を残したが、良い結果に残ってくれてよかったと思う。

私達はしばしその本を読んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――訓練場

 

「はああぁぁぁぁ!!」

「早いね、シュート!!」

 

午後の訓練は模擬戦だ。俺はなぜかなのはさんと一対一で勝負することになった。当然勝てる見込みはない。

今、一太刀を入れるために少ない魔力を浮遊するために使用してなのはさんに向かって飛んでいるが、前方からはピンクの魔弾が目視で確認しただけでも10個以上存在して俺に目がけて飛んでくる。

 

『数は13です。注意してください』

「細かい数字ありが、とう!!」

 

俺はプリムラに礼を言いながらピンクの魔弾を避けつつ進む。刀モードになっているプリムラを左手で握りながら、目の前で魔弾を操っているなのはさんの行動を3手、5手、7手先の予測を立てていく。

 

「両サイド!!」

 

俺は飛行を止めて空中で急停止した。その目の前で両サイドからピンクの魔弾が俺の事を挟撃するために飛んできて互いにぶつかり合い白い煙が視界を覆った。予測どうりの魔弾の軌道が走ってきた。

 

この攻撃が命中しなかった場合の次の手は……。

 

俺は目を瞑る。魔弾が飛ぶ音がこちらに向かって数発飛んできているのが聞こえた。

 

『二時と三時、それに十一時の方角からです。距離は二時から三時、そして十一時の順に早いです』

 

プリムラが魔弾の熱源反応を時計の向きで教えてくれた。視界がダメなときはデバイスが役に立つ。視界が見えないのに動くのは恐怖が邪魔をするが俺はそれを振り切って、この煙から出るため一気に前へと出た。

俺は煙から出てきたが二時の方向には目と鼻の先にピンクの魔弾が迫っていた。

 

「っく!?」

 

俺はそれを紙一重で避けて、三時の方向の魔弾を鞘走りをして抜刀し切り捨てた。十一時の方向から来た魔弾は無視して、視界に入れているなのはさんに向かって一気に飛ぶ。

それにより十一時の魔弾は簡単に避けることが出来た。そのまま、なのはさんの所まで……。

 

「っと」

 

進めなかった。俺はなのはさんと一定の距離を置いて空中で停止した。

 

「ガイ君はよく先を読んでるね」

「なのはさんの魔弾がいつもより少し遅かったです。ここに誘っていましたね」

 

俺は鞘に刃は黒く、そりは白い刀を納刀して居合の構えに入る。レイジングハートを構えて標準を俺に定めているなのはさんの前には見えない設置型のバインドが二つ、罠として設置されていた。

肉眼では確かめられないが、これまでのなのはさんの行動からここに誘われていたことが分かった。バインドにかかったら最後、いっきに攻められて終わってしまう。

 

「ガイ君の動体視力や反射神経は並の人間じゃないからね」

「魔力ランクは低いですから他で補っているだけです」

 

俺はそう言いつつ全神経を集中してなのはさんを見た。なのはさんはその行動に対してにっこりと頬笑んで右手を上げた。

 

「いくよ。シュート!!」

 

なのはさんの周りに浮遊していたピンクの魔弾が全て俺に向かって放たれた。その数は数えるだけでも面倒だ。俺は下がる気はなかった。足に少ない魔力を貯め込み、それを一気に放つ。

ドンッと瞬間的な爆発を起こし、エネルギーを拡散させた。それに乗って俺は一気に前へ飛ぶ。魔弾と魔弾の間、設置型のバインドとバインドの間をすり抜けた。そして目の前には……。

 

「バスター!!」

「っぐ!!」

 

ちょうどなのはさんが俺に向かって砲撃を放っていた。俺の予測ではまだチャージ中だと思っていたが、なのはさんは俺の予測のさらに上を読んでいたようだ。前もってチャージしていたのだろう。

俺は避けることは不可能と判断して鞘と黒いプロテクションを展開させてそれを受け止める。

 

「まだまだ行くよ!!」

 

ガシュガシュっと弾を込めた音が聞こえた。すぐになのはさんのレイジングハートから二つ銃弾が排出された。カートリッジシステムを使ったのだろう。その恩恵は砲撃の威力の底上げだ。俺は受けに回ったことを後悔したが時すでに遅し。その威力は俺の防御をすでに上回っていた。

プロテクションは一気に破壊されて、鞘で受け止めながらも砲撃の衝撃を受けて大きく後ろへ飛ばされてしてしまった。

 

「~~~っつ」

 

俺は苦痛の表情で左腕を右手で押さえた。鞘を持っていた左手に衝撃が伝わった。左手から左腕にかけて、砲撃の威力を受け止めきれずに残った衝撃で未だにビリビリとした感覚が残っている。

 

『はい、いったん終了ね~。それだと、すぐには私の魔弾を避けられる事は出来ないでしょ?』

 

そこに、目の前になのはさんが映っているモニターが現れて、優しく声をかけてきてくれた。

 

「え、ええ、なのはさんの砲撃の威力は絶大ですよ。生半可な覚悟じゃ止められないですね」

 

俺は表情を苦くしていたがなんとか笑みを作って答える。それを見てなのはさんは笑みを向けてくれた。

 

『ふふっ、ありがとね。でも、私もちょっと危なかったな。前もってチャージをして無かった危なかったかも』

 

そうですか、と俺は相槌をうつ。

結局、今日もなのはさんに一太刀を浴びせることが出来なかった。

 

何かが足りない。一番最初の時は一度だけ通ったがあれはただの偶然だろうか?初心に帰るのが重要かもしれない。

 

『この後はウォールアクトをやるんだよね?』

「はい、フェイトさん達と行う予定です」

『じゃあ、フェイトちゃんの指示に従ってね』

 

そう言って、モニターが切れた。俺は左手で握っている刀を見る。

 

「大丈夫か?プリムラ?」

『ダメージの損傷はほぼありません。ただ、マスターの魔力残量があまり無いですね』

「ま、それは仕方ないさ。魔力ランクはまだまだ低い。それに後はフィジカルトレーニングが主だし、ほとんど魔力は使わないさ」

 

俺は頭をかいて、フェイトさんが居るビルの構造物の所まで飛んで行った。何かが足りない。それを見ける事が出来たらきっと何かが変わると思う。今のままでは聖杯戦争では生き残れない。

 

「あ、ガイ。これからウォールアクトやるよ。準備して」

「はい」

 

俺は思考を切り替えてフェイトさんの指示に従ってその後のトレーニングを行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、午後のトレーニングはここまで!!」

「「「「「お疲れさまでした!!」」」」」

 

日も傾き、空が茜色に染まるころ、なのはさんの訓練は終わった。締めの合図が終わった途端、緊張の糸が切れて体にどっと疲れが押し寄せてきた。

 

「……つ、疲れた」

 

俺は挨拶が終わった後、その場で座り込んだ。今日のなのはさんの訓練はいつも以上にハードなトレーニングだった。六課のトレーニングだと聞いた。

しかし、疲れを見せているのは俺だけのようだ。他の人たちを見ると皆、涼しい顔をしている。流石は元六課メンバーと言うべきか。

 

「大丈夫ですか、ガイさん?」

「簡単な治癒魔法なら掛けられますよ?」

 

エリオとキャロが心配そうな表情で俺に近づいてくる。俺は首を振って、大丈夫、と一言だけ言って立ち上がった。

 

こんな子供たちよりも先にバテるのは良くないな。これは単に俺の練習量が足りないだけだ。元六課メンバーとか関係ない。練習量の比率だ。

 

「ガイ君には、まだ六課のトレーニングは辛かったかな」

「うちの部隊でやっている航空戦技訓練とはレベルが違いますね」

 

俺は笑いながらもストレッチを始めて乳酸を残さないように筋肉の緊張を無くす。

 

「さ、上がって上がって。ここは明日の準備があるから」

「はい」

 

ストレッチを軽くやったので多少は筋肉への疲労が取れたと思う。俺はストレッチを終わらせて、スバルさん達の後をついて行った。

 

「おつかれさまでーす」

「あー、おつかれ」

 

帰り道に訓練を見学をしていたのかコロナやリオ、ルーテシア、オリヴィエ、ノーヴェが待っていた。

 

「あれ?ヴィヴィオとアインハルトは?」

「2人で一緒に練習中です。多分まだ夢中でやっていると思いますよ」

 

ヴィヴィオとアインハルトは随分と仲が良くなった気がする。気軽にメールを送れる仲になれたのかな。

 

「ガイ。あの動きはなんですか?」

「え?」

 

オリヴィエは俺の前に来ると突然怒ったような表情をして俺のこと叱ってきた。声を荒くしているオリヴィエに周りにいた人たちは驚いて、オリヴィエを見た。

 

「あんな動きをしていたら、命を落としますよ」

「……確かに突っ込み過ぎた気がした。すまん」

「全く……」

 

 俺が間違った行動をした事を謝ると、オリヴィエは怒った表情から柔らかくなって笑みを溢す。

 

「今後、気をつけてくださいね」

 

ああ、と俺は頷く。戦争はこんなものじゃない。目の前に居るオリヴィエがその戦争の中で活動していたのだ。説得力は十分にあった。

だから、オリヴィエの近くに居ると安心できるのも事実。温かな食卓みたいに温かな気持ちにさせてくれる。包容力があると言うべきか。

 

「なんかフリージアってガイの姉さんのような存在だな」

「……ああ、そうかもね」

 

もし、上の兄弟がいたらこんな感じなんだろうか。無い物ねだりしていても仕方ないけど俺は想像した。

 

オリヴィエ姉さん……やっぱりお金がかかりそうだ。

 

俺は今、脳内で色んなものに散財しているオリヴィエの姿を見て苦笑してしまった。

少し歩くと、森の中でヴィヴィオとアインハルトがミッド打ちをやっていたところを発見した。

 

「やっぱり、ずっとやっていたんだ」

「あははー、ちょっと気合入っちゃって」

 

帰り道も随分と賑やかになった。

 

「近代格闘技のミッド打ちもなかなか面白いだろ?」

「はい……良い練習になりました」

 

アインハルトはヴィヴィオと特訓して満足げな表情だった。

 

「ママ達はまだ?」

「少し残って練習の仕上げだって」

「2人で飛んでいるんじゃないかな」

 

あの練習量の後にまだ動いて準備をしているのか。流石元六課のエースだ。練習量が半端ない。

 

「さて、お楽しみはまだまだこれからよ。ホテルアルピーノ名物、天然温泉大浴場にみんな集合ね!!」

「温泉?そんなものまであるのか?」

 

俺が驚いたようにして口を開くとルーテシアは得意げな表情で笑う。

 

「まあ、ちょっと大きく作っちゃって一つだけなの。先に女性陣でいいですよね?」

「ああ、女性の方が多いしな」

「そうですね」

 

男が2人しかいないこの合宿訓練。何をするにも女性が優先になる。

 

「じゃ、俺たちは晩飯を作っているメガーヌさんの手伝いでもするか」

「はい」

 

話をしているうちに宿泊ロッジに辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 温泉には女性陣が先に入り、出てきた時に晩飯が出来たので先に夕食を済ませた。夕食も温かな食卓で食べることが出来て満足だった。

そして、今の温泉は男性陣が入ることになっている。陣と言っても俺とエリオだけだけだが。右手の甲に浮かんでいる紋章を隠すために体に巻くタオルの他にもう一枚、タオルを持って右手に巻いていた。

 

「あ~、温まるわ~」

「そうですね~」

 

俺たちは湯船に肩まで浸かって、訓練で頑張ってくれた体を癒していた。

 

「なあ、エリオ。1つ聞いてもいいかな?」

「はい、なんでしょう?」

 

隣で座っていたエリオが爽やかな笑みをこっちに向ける。

 

あの訓練の後だというのに元気だな。

 

「エリオってどのような経緯でフェイトさんの養子になったの?あ、話したくなければいいけど」

 

俺は家庭内の事だからあまり部外者に話すものではないと思い、付け足し補足した。フェイトさんが養子を取った経緯を知りたかった。気になる人の事はちょっと調べたくなる。

 

「いえ、別に隠すようなものでもありませんから」

 

だが、エリオは特に気分を損ねた様子もなく、笑ったまま語り始める。

 

「“プロジェクトF”って知ってますか?」

「ん~、知らないな」

「正確に言えば“プロジェクトF.A.T.E”ですね」

「フェイト?」

 

俺の言葉にエリオは頷く。フェイトさんの名前と同じだというのは偶然なのだろうか。

 

「内容は大雑把に言えばクローン技術ですね。別の物に“記憶転写”を施し、新たな生命を誕生させるモノです。僕はそれによって生まれてきました」

「じゃあ、エリオはクローン?」

 

エリオは笑いながらも頷く。それに俺は驚いた。

 

どうして、クローンだと相手に知られても笑っていられるのだろうか?自分がクローンだと他人に知られてしまうと忌み嫌われてしまうだろうに。

 

「こうしてクローンの事を話すのはガイさんを信用してますからですよ。ちなみにフェイトさんもその技術で生まれたクローンです」

「……!?」

 

頭の側面から硬い何かがぶつかった衝撃のようなモノが走った。エリオには悪いけど驚きを隠せない。クローン技術は人権の尊重を著しく悪くさせるもであり、命を弄ぶようなもだと言う事なので禁止されている。その禁忌によってフェイトさんもエリオも生まれてきているのだ。

そんな驚きの表情をしている俺を見てエリオは語り始める。

 

「僕のモンディアル家には1人の子どもがいました。その子の名前もエリオ・モンディアル。僕のオリジナルですね。その子が病死した時に秘密裏でプロジェクトFの技術を行って僕を誕生させました。しばらく一緒に親と生活をしていましたが、局にその技術がバレて、親と引き離されてしまいました。親は必死に抵抗していましたが、僕がクローンであることを突き付けられたとたんに親が抵抗を止めてしまい、また、研究施設での非人道的な扱いを受けて一時期極度の人間不信に陥っていたこともありました」

 

言っている事はすごく重く暗い話だ。それをエリオはいい思い出話のように語っている。フェイトさんの教育が良くてもあまり思い出したくない話だと思うのだが。トラウマ級の昔話を簡単に語る事が出来るのはエリオの精神が強いのだろう。

 

俺の周りにはどうしてこう、俺よりも年下の子達がこんなに強いんだろう。ヴィヴィオにしろアインハルトにしろ。

 

「研究施設でフェイトさんが僕の事を見つけてくれて保護してくれて、医療センターへ治療していた頃も極度の人間不信だったので誰も信用できなくて」

 

エリオは一度、温泉のお湯を手ですくって顔にかけた。ふー、っと息を吐いて続きを語る。俺は静かに耳を傾けて次の言葉を待つ。

 

「あの時はとにかく悲しくて自分の不幸を誰も分かってくれないって怒ってて。だけどフェイトさんが、まだ僕の保護責任者になってくれる前の本当は僕のことなんて無視しても良かったはずのフェイトさんが会いに来てくれて、八つ当たり気味でぶつけた魔法を……あの人はバリアも張らずに受け止めてくれました。自分も同じように生まれたんだって」

 

フェイトさんが過保護すぎる理由はこの時も発動していたのか。これほどまでに過保護なのはフェイトさん自身が何か経験した事が教訓になっているのだろう。

 

「それで正式に保護責任者になってくれて、本当にずっといろんな面倒を見てくれて。会いに来てくれるたびいつもにこにこして、うれしそうで、いろんなことを教えてくれて、遊んでくれて……なのにワガママを言ったりもして。たくさん心配かけて優しくしてもらって、それがどれくらい幸せだったのかもやっと分かってきました。フェイトさんには感謝しても足りないくらいです」

 

流石にエリオの辛い過去話だ。殊勝に笑いながら話しかけていたが、エリオの表情に少し曇った。当時、フェイトさんに迷惑を掛けてしまった事が申し訳なかったのだろう。

 

「……いい母親を持ったな。エリオ、フェイトさんを泣かせるような事はしちゃダメだぞ」

「もちろんですよ」

 

エリオが爽やかな少年の笑みを作り、瞳には強い意志が籠っていた。フェイトさんのために色々と何かしてあげたいのだろう。親孝行みたいなものか。

 

「なあ、“プロジェクトF”ってフェイトさんに関係が合った技術なのか?」

「フェイトさんの親がその技術を作り出したと言っていましたね。私のオリジナルが死んだから、とか言ってました」

 

クローンである2人の生まれ方はその技術を使った人物の寂しさを埋めるために作られた命だ。これは命を弄んでいるとも言い換えられる。そう考えると2人の事が可哀想だと思ってしまう。

 

「すいません、そろそろ上がりますね」

「ああ、話してくれてありがとな」

 

いえ、とエリオは相槌を打って笑みを浮かべながらお風呂から上がって行った。俺はふう、と息をついて夜空を見上げる。ここも星が大きく見える。

エリオがフェイトさんの養子になるまでの過去話を聞いてしまったが、そこの内容にフェイトさんがクローンだったというのは驚きを隠せなかった。“プロジェクトF”はあまり良い技術ではない。

しかし、2人を見るとクローンだとは思えないほど明るい。

 

「……クローン、か」

 

俺は孤児院で共に生活をしていた今は亡き子供たちを脳裏に思い浮かべた。もし、その子供たちのクローンが作れるとしたら。JS事件のあの時の日だったら俺は、子供たちが再び笑ってくれたらと思うと、その技術に手をつけている自分が居るだろう。

禁忌だと知っていても。フェイトさんやエリオの親がしてしまった事には同情を得ることは出来る。だがそれは人の領域を一歩踏み外したものだ。決して良いものではない。

クローン技術の世間の影響と反抗など、その事について少し考え込んだ。

 

「……ん?」

 

考えごとにふけっているとガララッと入口の扉が開いた音がした。

 

エリオが忘れ物でもしたのだろうか?考え事をしてから十分位たったか?そろそろのぼせるし出るか。

 

俺は入口へ視線を向けて出るためにタオルを持った。

 

「あ、ガイ」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は脱衣所で服を脱ぎ始めた。

 

お風呂よりもクラウスの回顧録を読みたく、食事の後も見続けて温泉に入るのに少し遅れていしまいました。まあ、この時間帯なら誰も入っていないと思いますから、のんびり入りますか。カラーコンタクトはまだ外さない方が良いですね。他にも入っていない人がいるかも知れませんから。

 

私は下着も脱いでタオルを持って扉を開けようとした。

 

「あ、フリージアさん」

「まだ入ってないのですか?」

 

そこになのはとフェイトが脱衣所に入ってきた。

 

「なのは、フェイト、訓練お疲れ様です」

 

私は2人を労った。夕食ギリギリまで明日の準備をしていたらしいのでメンバーの中では一番、疲労度が高いだろう。

 

「うわ~、フリージアさんっていいスタイルしてますよね~」

 

なのはは私の生まれたままの姿を見て率直な感想を言ってきた。

 

「そうでしょうか?私が見る限り、なのはもフェイトも良いスタイルをしていると思いますが」

 

そんなことないですよ、となのはが軽く否定する。フェイトは心配そうな表情をして私に声をかける。

 

「ごめんね、フリージア。そのままじゃ風邪ひいちゃうよね。先に温泉に行ってて。私たちもすぐ行くから」

「わかりました。ご厚意ありがとうございます」

 

私が笑って、フェイトも微笑む。

そして、私は扉を開けた。開けた先に見えた光景。それはとても広い温泉浸かっていた男性が視線をこちらに向けて温泉から出ようとしていた。その人物はすぐに分かった。

 

「あ、ガイ」

「……は?」

 

ガイは一瞬何が起こったのか分からなかった様子だが、裸体の私を見るとすぐにその視線を逸らして背中を向けて温泉に入り直した。

 

「な、なんでここに居るんだよ!!入ったんじゃないのか!?」

「いえ、少し読みたい本がありましたので読みふけってしまいまして」

 

そう言いながら、ポチャンと音をたててガイの隣に入る。ガイは私に視線を向けようとはしない。いや、向かないように必死に耐えていたの方が表現に合う。そんな必死な行動に私は軽く笑った。

 

「そんな恥ずかしがらなくても」

「少しは恥ずかしがれよ……俺は出るぞ」

 

ガイは温泉の中でタオルを下半身に巻いて私のほうを向かないように上がろうとした。

 

「さ、お風呂入ろう、フェイトちゃん」

「さっき、フリージアが入って行ったし、少しお話でもしようかな」

 

そこに先ほど脱衣所に居たなのはとフェイトが入ってきたようだ。位置的にガイの真正面に2人は居るはずだ。

 

「あれ?ガイ君?」

「え?」

「な、なのはさんとフェイトさん!?」

 

なのはもフェイトもガイの存在に気付いた。私は2人に視線を向ける。バスタオルを体に巻いている姿だ。

 

「あ、ガ、ガイ、まだ入ってたの?」

「す、すいません、すぐに出ますんで」

 

フェイトは異性であるガイが居た事に恥ずかしかったからか、少し頬を染めてバスタオルをギュッと締め直す。私には理解できない事ですが。

 

「なのはもフェイトも入らないのですか?」

「う~ん、ガイ君が居ると、ね」

 

なのはも少し頬が赤くしながらバスタオルの結び目に手をかけて、後ろを向いているガイに何ともいえないような笑みを浮かべる。

 

「す、すぐにで、出ますので」

「そんなに焦らなくても」

 

ガイは私の言った言葉を聞いているような素振りは見せず、タオルで下半身を覆っている格好で温泉から出て、なのはやフェイトを視界に入れないようにして風呂場から出て行った。

 

「う~ん、ちょっと恥ずかしかったかも……」

「だ、だよね~」

 

そう言いつつ、2人は私の入っている温泉にゆっくりと浸かった。

 

「はあ~、あったかい~」

「そうだね、癒される」

「確かにいいお湯です」

 

2人は温泉に肩まで入った。2人は疲れが溜まっていたのか、表情が緩んでいる。完全に気が抜けたのだろう。

 

「でも、ガイ君ってさフェイトちゃんの事好きなんじゃないの?」

「え?そ、そうなの?」

 

ガイがフェイトの事が好き?それは初耳ですね。

 

私は2人の会話に耳を傾けた。

 

「何というか、ガイ君はフェイトちゃんが居るとなんだか嬉しそうな表情をするし、フェイトちゃんと話している姿は楽しそうだったよ」

「で、でも、それだけじゃ好きだとかはわからないでしょ?」

 

フェイトはちょっと戸惑ってい様子だ。

 

「それにさっき、去り際にチラッとフェイトちゃんの姿を見たような」

「ふえ!?」

 

フェイトはバスタオルを巻いていたとはいえ体を見られた事に驚きを隠せない様子。

 

「ですが、ガイは私の裸体を見た瞬間、視線を逸らす純情過ぎな人ですよ。そんな人が去り際にフェイトの姿を見ますかね?」

「あ、嘘がばれちゃった?」

 

なのはは片目を閉じて、舌を出して笑った。私は先ほどの言葉はなのはの嘘だと分かった。自分も恥ずかしがっていたのだから、ガイを見ている暇はないと思ったからだ。

 

「……ガ、ガイは私の事が好きなのかな?」

「ん?フェイトちゃん、ガイ君と付き合いたいの?」

 

なのはがそう言うとフェイトは首を横に振る。

 

「私なんかよりもフリージアの方がガイの事詳しく知っていそうな気がするから、付き合うならフリージアの方がいいんじゃないかな?」

 

フェイトの自分よりも私を選んだ方が良いという事を聞いたなのはは笑いながらも少し暗い表情をしてしまった。

 

「ですが、私には婚約者がいますので」

「こ、婚約者!?」

 

やっぱり、となのはから聞こえた気がした。フェイトは知らなかった様子で驚いていだ。

 

「名前は秘密です」

「いいですね~フリージアさん。私にもそんな人いないかな~」

「なのはもガイはどう?」

 

今度はフェイトがなのはにガイのを進めてきた。だけど、なのはは少し困った表情をした。

 

「う~ん、ガイ君も悪くないんだけどね。不屈の心を持ってるし。でも、ヴィヴィオがね~」

「ああ、そっか」

 

フェイトはなのはが皆まで話していないが納得した表情をした。私には分からない。だがら聞いてみる。

 

「ヴィヴィオがどうしたんですか?」

「ヴィヴィオはガイ君の事が好きなんだよ」

「……そうなのですか?」

 

まだ観察している時間は短かったが、兄弟のような雰囲気を出していたガイとヴィヴィオだと思っていただけになのはの言葉は衝撃を受けた。

 

「ま、でも、ガイ君のほうはヴィヴィオ達に兄弟のように接しているような雰囲気を持っていたけどね」

「ええ、確かに」

 

なのはが私と同意見だった事に嬉しさが胸に膨らんだ。やはりガイとヴィヴィオ達は周りから見れば兄弟のように見えるようだ。

 

「……」

 

フェイトはふう、と息をつき夜空を見上げる。何を思っているかはわからない。

 

「ガイは幸せ者ですよ。こんなにガイのために考えてくれている人がいるなんて」

「ガイ君は過去に苦い経験をした事があるからね」

「うん。だから、1人暮らしをしているガイが寂しいと思うからこっちに来てもいいよって何時も言ってるんだけどね」

 

フェイトは過保護すぎだとガイは言っていたが、この状況からすればなのはも過保護な性格だ。

 

「ガイには幸せになってほしいね」

「うん」

「……」

 

私はその事に素直にうんと頷けなかった。これから始まる聖杯戦争で彼は幸せを掴めるのかはわからない。もしかしたら死という絶望になってしまうかもしれない。それを防ぐために今回の訓練に参加したのだ。

 

2人からガイの幸せを願っている事を聞いたので私はそれを確実に叶えさせるために、ガイをこの合宿で“虐め”鍛えませんとね。

 

「人徳が厚いですね、ガイは」

 

私は2人に微笑んだ。2人もその言葉を聞いて軽く笑ってかもね、と頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――部屋

 

「はあ~、びっくりした」

 

俺はベッドにうつ伏せで枕に顔を埋めていた。先ほどの出来事が脳裏に浮かんできた。

オリヴィエが温泉に入ってきて、その後になのはさんとフェイトさんが入ってきた。チラッと見えてしまったが、なのはさんもフェイトさんもバスタオル姿でありながら浮かび上がるラインは整ったスタイルと認識するには十分だった。

 

「……心頭滅却だな」

 

俺は脳裏に浮かんでいた先ほどの光景を振り払って考えることをやめた。明日は練習会が行われる。大人も子供も皆混じった陸戦試合。ようは皆で模擬戦だ。先ほどチームメンバーを割り振られた紙を貰った。

確認しようと思ったが……。

 

「眠い……疲れたな」

 

疲れを取るための睡魔には勝てることが出来ず、そのまま意識を手放した。明日に支障が出ないようにしっかりと睡眠を取ることにした。




やっと十話。されど聖杯戦争はまだ始まらないw

のんびりと時間軸は進んでいけばこんなものですかね。

何か一言感想いただけると嬉しいです。

今後もこの小説を読んでくだされば幸いです。

では、また(・ω・)/
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