魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~ 作:ガイル
いろいろ調べていろいろ考えていろいろな結論が出ました。
今回はその一つの結論を簡単に表示していこうと思います。
魔法と魔術の価値観や観点の違いはキャラクターによって考え方が違いますからね。
では、十一話目入ります。
―――アパート
「なるほどね………」
私は黒い縁の丸い眼鏡をかけて、丸いテーブルに向かってペンを走らせて座っていた。丸いテーブルの上には様々な本が開いた状態で重なっていた。
私がこちらの世界にきて1~2週間ぐらい経つだろう。最初にこちらの世界にきて買った物は言葉辞典だ。こちらの世界の文字がまったく読めない。言葉は通じるのに文字は互いに別ものであるのは少しおかしい。
ともあれ、言葉辞典で何とか言葉を読めるようになっていき、この世界の在り方についていろいろと考えることにした。最初はこの都市が出来る成り立ちを調べるために歴史の本を買おうと考えていたが、都市の中を歩いていると所々に“魔法”という単語が言葉や文字などに含まれていて目や耳を疑った。
この世界では“魔術”の上位互換でもある“魔法”が当たり前のように存在して、その技術を応用して発展していっている。秘匿情報の“魔術”の上をいく“魔法”が日常生活に溶け込んでいる事に驚きを隠せない。それと同時に“魔法”を使い続けているのにこの世界の魔力(マナ)はほとんど失われていない事に疑問が残る。
なので、私は“魔法”に関する様々な本を買って“魔法”に対して徹底的に調べることにした。
「とりあえず疲れたわ~」
私はずっと文字と睨めっこしていたので目が疲れた。本から視線を離して眼鏡を外してそのまま後ろへ倒れた。はあ、と息をついて天井を見上げる。視界に入るのは丸い電灯が付いているだけの天井だ。
「奏者よ、だいぶ疲れているようだの」
そこに、声とともにこの部屋のもう1人の住人であり私のサーヴァントである赤いセイバーが私を見下ろすような形で逆さまに映って視界に入る。
「やっと山場を越えて張りつめていた緊張の糸が切れて、脱力感が一気に来たって感じよ」
私はふう、と息を吐いてセイバーを見た。そんな様子を見たからかセイバーが子供のような無邪気な笑みをした。
「奏者はずっと調べモノばかりで部屋を出ていないのだ。気分転換に何処かに出かけようではないか」
「ダメよ。この“魔法”というモノを調べ終わるまでは安心できないわ。山場を越えたと言ってもまだ全てのからくりは理解していない。今回の聖杯戦争は“魔法”を使うマスターが多いはず。それの対策をしないと不利になるわ」
出かけたがっているセイバーの意見をきって、私は徹底的に調べたいと主張する。
この世界は“魔法”が基準となっている。“魔法”を根本から理解しないと対策を取る事が出来ない。いつ始まるかもわからない“聖杯戦争”があるのだから、それまでに何とか対策を取らないといけない。
しかし、自分の意見をきられてしまったのにセイバーは表情を変えずに今の現状を上げてきた。
「だが、今のマスターを見ると、研究があまり進んでいるようには見えないのだが?」
「っぐ……」
痛いところを突かれた。確かに文字が読めるようになるまで3日ぐらいかかったが、そこから“魔法”を理解しようと今まで調べ続けていたがあまり進んでいない。“魔術”と“魔法”の思考観点が違うから理解するのに時間がかかるが、このままのペースでいけば“聖杯戦争”が始まる前にきっと“魔法”を根本から理解することが出来ないだろう。
山場を越えたとはいえ、それはやっと“魔法”がどのような成り立ちで出来ているかを理解できただけだ。
まだ、根本的な理解から対策まではほど遠い。
「そもそもマスターは“魔法”の何に対して困惑しているのだ?“魔術”の知識なら多少、“魔法”に関しては知識はあまり無い余だが、整理がてらに余に話して見るがよい。その結論から第三者からの意見を述べよう」
「……そうね」
私は第三者の視点から新たな情報があるかもしれないので、今まで調べたモノをセイバーに話してみるのも良いと思い、セイバーの言葉に同意して上半身を起こした。目の前には丸いテーブルの上で私の理解の外にある情報を開いて待っている本の山が視界に映る。対面にセイバーは座った。
私は一度、部屋を見渡した。ここに来てから“魔術”の実験道具をいくつか購入しているため机にはビーカーや試験管などが置かれているが、他は来て掃除した時の状態のままだ。
特に飾りを付けるような事をするつもりは無いし、金も配られただけだから最低限の生活品と必要な物しか買えないわね。嗜好品である紅茶も節約しないと。
セイバーは部屋を飾ろうとしない私に対して不満を言ってきたが、現状は贅沢を行う事は出来ないと根気良く説得して何とか理解してもらった。あれだけしつこく迫って来たのだから、このセイバーの英霊は成金生活をしてきたのではないだろうかと思ってしまう。
「で、“魔法”の事についてなんだけど」
私は思考を切り替えてセイバーに今まで調べてきたモノを語り始めた。
「“魔法”ってのは“世界に元々存在する概念”を媒体として、生成した術の構成を対象となる概念に渡し、術の発動そのものは術者ではなく概念側でやってもらうというもの」
「ほう、つまりは“魔法”って言うのは“術者”と“概念”の二つで成り立っているのだな」
ええ、と私はセイバーに相槌を打ち、話を続ける。
「特性としては、どうしても“設計図を渡して術を発動してもらう”という手順が必要になるの。だから術者の力量がどれだけ上がっても、詠唱完了から発動までのタイムラグをゼロには出来ない。けど、発動に必要な“概念”の使役さえ出来れば、時として術者の力量を超える術を使用出来るわ。また、その性質上、複雑な術でも決まった構成を渡してやれば、ある程度までは補完できる」
「なんだ、“魔法”というのは“概念”とやらに頼りっぱなしではないか」
うむ、と何故か誇らしげにセイバーは頷く。
このセイバーは“魔法”に何やら興味津々のご様子だ。セイバーにとっても“魔法”は新たな領域の知識なので知りたいのだろう。
私はまあね、と言って続きを説明する。
「“概念”を使用するってことは使用した分だけ“概念”は消費していくの。元の値に戻すにも長い年月が必要。“魔術”の視点から見ると、この“概念”というのは魔力(マナ)に値するわ。言い方は変わるけど“概念”と魔力(マナ)は同じモノよ」
「言葉が違うだけで同じモノか。だが、それだと……」
「そう、“魔法”の都市なのにこの世界に来た時に調べてみた魔力(マナ)が膨大に残っているのはおかしいの」
来た時に調べた魔力(マナ)はほとんど手づかずの状態。これほど“魔法”が日常生活に侵食しているというのに。
「なら“魔法”を発動させる触媒は魔力(マナ)ではないのではないか?」
「ええ、答えは多分この雑誌に書いてあるモノだと思う」
私は開いている一冊の雑誌をセイバーに見せた。
タイトルは“独占!!エース・オブ・エースの実態!!”と書かれている。表紙には栗色の長い髪をサイドテールにして、白を特徴的に表している服やロングスカートを着て、凛とした表情で長い杖を構えている人物が映っていた。
「これは?」
「中を読んでみたけど“デバイス”というモノがこの人の魔力(イド)を調整して徹底的にサポートしているの。“デバイス”はこの杖の赤いコアのこと」
とんとん、と杖の部分を突いてセイバーに教える。セイバーはそれを見て頷き雑誌を手に取りパラパラとめくる。
しかし、すぐに表情を頑なにして怒った表情を見せる。
「読めぬではないか!!」
「まあ、この世界のミッドガル語を覚えないと読めないわね」
私は雑誌に書かれている文字が読めずに口をへの字にして怒っている表情のセイバーに子供を甘やかすような頬笑みを向けて苦笑した。セイバーはその雑誌を様々な本が散乱している丸いテーブルに置く。
「この人はオーバーSランクの魔力の持ち主なんですって。この世界は魔力にランク付けされているのね」
セイバーはほう、と呟き、私の話に再び耳を傾けてくる。私はそんなことどうでもいいけど、と付け足してその雑誌の表紙の人物を見た。詳しくはその人物が持っている杖を見ていた。
「ここからは私見なんだけどこの“デバイス”が“概念”の代わりになって、“設計図”を発動させる事が出来るんじゃないのかなと考えているの」
「その“デバイス”が“概念”の役割を果たしているのか」
「推測の域だけどね」
まだ確たる証拠はないし、一度、この“デバイス”というモノが見れる機会があればいいのだけど。
私は丸いテーブルに肘をついて右手を顎に付けて、右手に体重をかけて雑誌からセイバーに視線を向ける。
「それに、この世界は“魔導”というモノが存在する。独自のエネルギー運用技術が存在して、時空管理局という所で活用されているわ。この雑誌に載っている人物も時空管理局の一員で“魔導師”と呼ばれているらしい」
容姿も結構な美人よね。“エース・オブ・エース”という肩書も付いている。時空管理局の切り札なのかしら?
「たぶん、“デバイス”を使わないで魔力を行使すると、それは私が提示した理論の“魔法”になると思うの。で、“デバイス”を使う事によってそれは“魔法”ではなく“魔導”になるって感じね。だから、大気に存在する魔力(マナ)はほとんど使われることが無いって結論なんだけど、何か異論ある、セイバー?」
私は肝心な所で凡ミスをする悪癖がある。先祖代々の遺伝らしい。実に困ったスキルだ。失敗をそれを阻止するために、大きな事をした後は周りに確認することが大事だ。
「おおむね、“魔法”については理解したつもりだ。“魔導”というモノは“デバイス”を見ないと何とも言えぬが」
それには同意するわ、と、言って私はセイバーに賛同した。
でも、それは科学の技術らしい。私とは相容れぬものかも知れないわね。
そう考えているとセイバーが先ほどの雑誌の人物に指をさして質問してきた。
「1つ疑問がある。この人物の魔力ランクはどのように決定したのだ?」
「人にはそれぞれ“リンカーコア”というモノが存在するらしいの。それの量や質によってランク付けされているわけ」
ほう、とセイバーは興味津々な様子で私に詰め寄る。私はそれに左手を置いて制し、肘を丸いテーブルから離して姿勢を戻す。
「まあ、“魔術”の観点から考えてみるとそれは人の魔力の源、もしくは生命力の部分ってとこかしらね。私たち“魔術師”はそれを疑似神経の“魔術回路”を作って精製して魔力(イド)にして術を行使しているわけだし。元をたどっていけば原点は“魔法”も“魔術”も同じだというわけ」
「用は原点の使い方次第で“魔法”にも“魔術”にも化けるのだから、奏者も“魔法”が使えるのではないか?」
「そこは何とも言えないわね」
私は軽く笑って首を振り、セイバーの意見を可とも不可ともしない言葉で返す。
「“魔法”と“魔術”は扱うチャンネルが違うから両方使える人物はたぶん存在しないと考えているわ。1つの入れモノにそれと同じ質量で異なるチャンネルが2つあっても、2つは入らないもの。でも……」
そこで、私は“聖杯戦争”のルールを思い出して口にした。
「マスターになるための最低限の条件は“魔術回路”が有ること。これが無いと参加資格である“令呪”を聖杯から受け取れない」
「だが、この世界の住人達は“魔法”に特化しているのだろう?それだと“魔術回路”など元々チャンネルが違うのではないか?」
「そうなのよね~。もしかしたら、この世界の住人がマスターだってことはないかも知れない。地球から私のように呼ばれた“魔術師”だけかもね。でも、“魔法”はまだ未知数だから何とも言えないわ」
私はこの矛盾を解けないから先へ進めない。もし、“魔法”と“魔術”両方を使うとしたら……。
「両方使えたら化け物かもしれないけど“魔術”が暴走するわよ。きっと」
私はセイバーから視線を離し、天井を仰いだ。
“魔術”の術の発動は“魔法”とは違い、術者自身が完全に制御しなければいけない。“魔術”の特性としては術の構成を練る際に自分以外の魔力……要は大気中に存在する魔力(マナ)を集めて、自分自身の魔力(イド)と一緒に練り上げる。
しかし、限界以上に魔力(マナ)を集めようとすると自滅するから術者が自分の力量をしっかり把握しておくことが必要。
ここに“魔法”を行うためにの“概念”としている魔力(マナ)を大気から取り込んだら、“魔術”と併用して集め過ぎて自滅する。自身で精製するモノが魔法分野で存在していとしていも“魔術回路”と併用できるモノとは思えず、暴走してしまうだろう。
この2つは相容れぬ存在、1つのモノに同じ質量の異なるチャンネルは2つと入らないのだ。
「確かに“魔法”というモノはもう少し調べた方が良さそうだな。しかし興味深いモノでもある。うむ、美しいモノだとしたら尚更だ」
「……あなたは結局そこにたどり着くのね」
私は誇らしげに微笑むセイバーを見てため息を吐いた。
ここ1~2週間、セイバーと共に過ごしてきて分かった事だが、このセイバーは美術の心得でもあるのか美しいモノを好む性質のようだ。美しいものなら男も女も愛でるという寛容なお方だ。
どうやら私も美しいモノの分類に入るようだ。それは嬉しいのかどうかは分からないけど。
「まあ、とりあえず、今後も“魔法”に関して調べていくわよ」
「うむ、どのようなものか期待しておるぞ」
そう言って、セイバーは満足したのか霊体化した。
「結局、第三者の意見は聞けなかったわね。まあ、『美しいモノだとしたら』がセイバーっぽい第三者の意見よね。さ、続きやろうかな」
私は軽く笑って、ん~、と言いながら腕を思いっきり伸ばして、黒く丸い眼鏡をかけて再び丸いテーブルに開かれている本に目を通し始めた。
―――???
「好きだよ、ガイ」
「……え?」
目の前にはフェイトさんが真剣な表情でその迷いの無い赤黒い瞳を向けて好きだと発言してきた。いきなりの告白に俺は戸惑った。
「だから、ね……」
「フェ、フェイトさん……」
フェイトさんは恥じらいながらも服を自分から脱いでいく。俺の目の前で服の脱ぐ音をしながらフェイトさんが一枚一枚服を脱いでいく。
そして、なぜかバスタオル姿になって勢いよく俺に抱きついてくる。フェイトさんの胸が当たる感触が何とも言えない。
「ギュってしたいな………そのまま……」
「あっ……」
急接近して頬を赤く染めて俺の事を見た後、目を瞑ったフェイトさんの姿を見て俺は……。
「っつ……」
ゴンッと、いきなり後頭部にハンマーで叩かれたような強く重い刺激を受けた。それと同時に視界からフェイトさんが消えて、部屋を90度回転させたような光景が広がった。
「……ゆ……め?」
俺はベッドから落ちていた。先ほどの刺激はベッドから落ちた時に受けた衝撃だ。毛布も一緒に落ちていたので多少は衝撃を和らげたのだろう。横向きで目が覚めたので視界が90度ズレていたのだろう。
「あれは……」
先ほどの夢の出来事を思い出す。フェイトさんに告白されて服を脱いでいき抱きつかれて、その後は……。
「うわぁ……」
最悪な夢を見たと認識した。
いや、最高の夢だろうか。夢は寝ている間に脳の整理を行っている時にたまに見れると聞く。あの夢を見た原因は昨日、温泉でフェイトさん達に合ったことだろう。その時にチラリと見えてしまったフェイトさんとなのはさんのバスタオル姿を見て脳で映像が残って、あの夢を見てしまったわけだ。
あんな夢を見た後にフェイトさんの顔を平常心のままで見れるだろうか?
「……怪しいな」
多分、無理だろう。俺ははあ、とため息をついて窓の外を見る。まだ薄暗い時間帯だがあと三十分もすれば日の出が現れるだろう。
そういえば昨日、チーム戦を行うためにメンバー表が配られた紙が渡された。昨日は疲れて寝て確認してなかったが、どのようなチームになっているだろう。
俺は二度寝する気もおきなかったのでテーブルに置かれていた一枚の紙を取るために起きた。紙を手に取りチームを確認する。
赤組
FA………アインハルト、ノーヴェ、ガイ
GW………フェイト
WB………コロナ
CG………ティアナ
FB………キャロ
青組
FA………ヴィヴィオ、スバル、フリージア
GW………エリオ
WB………リオ
CG………なのは
FB………ルーテシア
「前線メンバー多いな~」
俺も前線メンバーに加えられている。オリヴィエも前線メンバーのようだ。
そういえば、オリヴィエとは戦った事が無い。“聖杯戦争”の前に実力を知っておくのも悪くはない。
まあ、人数も同じだし1対1で対決するだろう。ヴィヴィオかスバルさんかオリヴィエか。
「少し体を動かしておくか」
これから始まる大きな模擬戦に少なからずも気持ちが弾んでいる。子供が親におもちゃを誕生日に買ってくれると約束してくれて、それまでの日を毎日のように数えて楽しみにしているような気持ち。
このような楽しみを待つ気持ちは久々に感じだ様な気がした。
「浮かれてるな。いろんな人と対戦できるかもしれないこの状況で」
俺は苦笑いしながらも、今の自分の気持ちがわかっていた。
『私も精一杯のサポート致します』
「ああ、頼むぜ、プリムラ」
これから行う模擬戦はいろいろと経験を積めることは出来そうだ。“聖杯戦争”が始まるまでにやれるだけの事はやっておこう。
俺は朝錬を行うために着替えて部屋を後にした。
―――森
「ブランゼルはいい子だね。賢いし私に合わせてくれるし」
『ありがとうございます』
私は昨日の夜にルーちゃんから渡されたインテリジェントデバイスの起動調整のために朝早く起きて、森の中で調整していた。この子は本当に賢い。見た目は短剣にバラのような形をした造形品が鍔の部分についた形をしている。
この子はすぐ私の魔力に合わせてくれるし、ゴーレムも私が想像したものとほぼ同等な出来上がりだ。
「うん、これなら今日の模擬戦頑張れるね」
『そうですね』
私は笑ってブランゼルを待機モードに戻した。後は模擬戦で頑張るだけだ。
「戻ろうか」
『ええ。ですがこの近くに魔力反応がありますね。誰かいるんでしょうか?』
「え?誰だろう?」
ブランゼルから魔力反応有りと言われたので誰が居るのか少し気になった。
「ちょっと挨拶して行こうか」
『こっちです』
近くに人がいたのなら挨拶ぐらいはしておかないとね。
私はブランゼルに言われた方向に歩を進めた。少し進むと広がった空間が出来ている場所に出た。そこに1人の人物が背を真っ直ぐにして胡坐をかいて、手を組んで目を瞑っていた。
「あ、ガイさんだ」
私はその人物がガイさんだと知って、少し脈が早くなったのが分かる。近くにガイさんが居たことに嬉しさを感じた。ガイさんがしている胡坐の上には鞘に納めている刀が寝かせてあった。
ガイさんの周りの雰囲気は何処となく穏やかで静かだ。まるでガイさんの周りだけ周囲とはかけ離れていて、別世界に存在しているのではないかと思うくらいだ。ガイさんは先ほどから動かない。
寝ているわけではないようだけど何をしているのかな?
私はガイさんに近づく事にした。
「私が近づいても目を覚まさないね」
『寝ているのでは?』
「……寝ているわけじゃないんだがな」
「ひゃう!?」
突然ガイさんが発言してきたので私は驚いて変な声を出してしまった。
ううっ、結構恥ずかしい。
「ね、寝てたんじゃないんですね」
「座禅を組んでいた。精神統一するためにな」
私は顔が赤い事に自分でも分かっていた。さっきの変な声をガイさんには聞かれたくなかった。
ガイさんはそんな私の気持ちも知らずに静かに目を開けた。
「……コロの新しいデバイスか?」
「あ、うん、私のデバイスだよ。ブランゼルって言うんだ」
私の手に持っているブランゼルに興味があるのかガイさんの目がそちらに向いていた。
「いい名前だな」
「えっ……」
ガイさんはブランゼルという名前が良いと言って笑ってくれた。最初は一瞬何を言ったのか分からなかったがそれが褒められている事だと認識すると、とても嬉しく感じた。それは私が付けた名前なのだから。
「あ、ありがとうございます、ガイさん。ガイさんのデバイスもいい名前ですよね。たしか、プリムラって花の名前ですよね?」
「男には似合わない名前だよな」
ガイさんは苦笑しながら私に笑みを向けてくれる。
「ま、でも花言葉は“運命を切り開く”だからプリムラって名前は好きだね」
『ありがとうございます、マスター』
「そうだったんですね。知らなかった」
運命を切り開く……なんか、ガイさんにピッタリ合うような言葉ですね。
何故そんな風に思ったのかはわからない。ただ、単純にそう思った。それだけ。
「今日の模擬戦は私たちチームですね」
「そうだな。よろしくなコロ」
ガイさんはそう言って、立ちあがる。
今回のチームはガイさんと一緒。それがとても嬉しいと思っているのはガイさんには内緒だよ。
「そろそろ戻るか」
「はい」
私はその思いを胸の中にしまって、私たちは宿泊ロッジに戻るため歩きだした。
「ガイさんは模擬戦前に精神統一していたんですね」
私は当たり前のような事を聞いた。たぶん私は少しでもガイさんと長く話をしたいからこんな当たり前なことも聞きたいのだと思う。
それはYesと答える質問しかないと思っていたがガイさんからは予想外な言葉が返ってきた。
「あ~、いや模擬戦のためにしたわけじゃないんだよね。模擬戦に向けて朝練はしといたけど」
「え?」
精神統一は気持ちを引き締めるために行うもの。それを模擬戦の前にやるのだから、模擬戦に向けて行っていたものだとばかり思っていた。
「えっと、では何のために?」
「……自分の整理したものにちょっと嫌気がしてね。平常心を保つ為に行っただけさ」
「?」
良く言っている意味が分からなかった。私が困惑した表情をしていると、ガイさんは軽く笑って、気にしないで、と、優しく声をかけてくれた。
「あ、ガイとコロナ。おはよう」
宿泊ロッジに戻ると、フェイトさんが笑顔で出迎えてくれた。他にもティアナさんやキャロさんが朝食の準備をしていた。
「おはようございます、フェイトさん」
私は頭を下げて挨拶をした。
しかし、いつまでたってもガイさんの挨拶が聞こえなかった。私は頭を上げて、ガイさんの方を見た。
「あ、え、えっと……」
何故か目を泳がせて言葉に出来ない様子で顔を赤くしていた。
緊張しているのかな?この前の無限書庫に行った帰りにヴィヴィオの家でガイさんはフェイトさんにメロメロのような感じがしていたし。ガイさんはフェイトさんの事が好きなのかな?それはちょっと嬉しくない。
「どうしたの、ガイ?あ、も、もしかして昨日の夜のこと思い出しっちゃった///?」
き、昨日の夜!?ガイさんとフェイトさんはいったい何をしていたんですか?す、すごく気になるんですが!!
「フェイトさん、その言い方ちょっと誤解を招きかねますよ。それとも、ほ、本当に……」
「え?あ……ち、違うよ」
フェイトさんは近くに居たティアナさんに指摘されて、とても恥ずかしい事を言ったのを自覚したのか赤くしていた顔がさらに赤くなって困ったような表情をした。
私はものすごく気になって仕方がない。
「あ、あの、御二人は昨日の夜、何を……」
「「なんでもない(の)!!」」
2人の言葉が見事に重なった。私はびっくりして次に出す言葉の声が出なかった。気になる事を聞きたかったのにこれでは聞けそうもない。まあ、後で聞いてみるのもいいかも。
そして、しばらくの間、2人の間の空気はちょっとぎこちないような雰囲気だった。
―――訓練場
「はい、全員揃ったね」
訓練場には俺を含め、大人子供の計14人が居た。
「じゃ、試合プロデゥーサのノーヴェさんから!」
「あ……あたしですか?」
ノーヴェはちょっと戸惑ったような表情で皆前に出てくる。
「えー……ルールは昨日伝えた通り、赤組と青組、七人のチームに分かれたフィールドマッチです」
そして、ポケットから小型の端末機械を取り出した。
「ライフポイントは今回もDSAA公式試合用タグで管理します。あとは皆さん怪我のないよう、正々堂々頑張りましょう」
ノーヴェの簡単な説明が終わった。ライフポイントが無くなったら負けというライフ戦の模擬戦だ。
「じゃあ赤組元気に行くよ!」
「青組もせーの!」
「「「「「セットアップ!!」」」」」
2人の合図で皆がセットアップを始めた。皆が一瞬にしてバリアジャケットの姿に変わる。俺もバリアジャケット姿になり、左手にいつもの感触があるかを確かめる。しっかりとデバイスであるプリムラの刀を握っている。
「ガイさんと勝負したかったです」
俺の隣で少し悔しそうな表情をしている大人モードのアインハルトが居た。
「あっちにはフリーやヴィヴィが居るぞ。相手にとって不足はないと思うが」
「……そうですね」
アインハルトは一度目を閉じて再び開いた。そこには気合いをこめた目をしていた。考えを切り替えたのだろう。
「ガイさん、頑張りましょう」
「ああ、頑張らないとな。魔法戦になったら俺が一番足を引っ張りそうだ」
反対にいたコロナはガッツポーズを俺に見せて意気込みを見せてくる。魔力ランクはチーム内でも皆の中でも最下位だ。オリヴィエはどのくらいかはわからないけど、“聖王女”と言われているくらいだから相当高いと思う。
「できたら、サポートしますね」
「でも、序盤は多分ポジション同士の1on1よ」
「均衡が崩れるまでは自分のマッチアップ相手に集中ね」
フェイトさんとティアナさんにそう言われてコロナはちょっと悲しんだが、すぐに笑顔になる。
「コロ、頑張るか」
「はい」
俺の言葉に頷いてくれた。
『それではみんな元気に……』
そして、皆の前にメガーヌさんが映っているモニターが現れた。後ろにはルーテシアの召喚獣ガリューとキャロの召喚獣フリードリヒが居て、ガリューが銅鑼を叩くハンマーを持っていた。
『試合開始!』
メガーヌさんが試合開始の合図をしてガリューが銅鑼を叩いた。ついに始まった、陸戦試合の模擬戦。俺は腹の底に響き渡るような低い銅鑼の音を聞いて思考を切り替えた。これから行う戦いに集中するために。
「“エアライナーッ!!”」
ノーヴェが掛け声とともに足元から魔法で作られた黄色い道、“エアライナー”が会場全体に縦横無尽に駆け巡り空中での道を作った。
ノーヴェと同様に、あちら側の陣営からも青い道がノーヴェの作った道と入り組んで会場全体を覆った。
「んじゃ、姉貴と対決してくるわ」
ノーヴェは一足先に先陣を切って“エアライナー”に乗り走って行った。青い道はどうやらスバルさんが作った物らしい。
ともあれ、これで足場はかなり出来た。
「さて、アイン。ノーヴェに続くか」
「はい」
俺たちFWもノーヴェに続くために“エアライナー”の上に乗って進み始めた。
「もし良かったらですけど、ヴィヴィオさんの相手をお願いしても?」
「お?意外だな。アインはヴィヴィと対決するのかと思ったが」
「フリージアと対決してみたいのです」
アインハルトがヴィヴィオではなくオリヴィエと対決をしたいらしい。俺は少し考える。多分、覇王の悲願とは関係ないと思う。ただ単純にオリヴィエと拳を交えたいのだろう。
「いいよ。思いっきりブツけて来いよ」
俺はアインハルトを激励して笑みを向けた。
「ありがとうございます」
それを受け止めて、アインハルトの表情が引き締まった。
俺はヴィヴィオ、アインハルトはオリヴィエの相手だ。相手にとって不足はない。むしろ魔法戦なら俺の方が不足だ。俺も気を引き締めないとな。
そして、俺たちは別れた。
「ヴィヴィか」
「ガイさんが相手なんだね」
黄色い道に俺が、青い道には大人モードになったヴィヴィオが立っていた。サイドテールにして黒いインナーに黒く薄い装甲の鎧を着てなのはさんと同じ白いバリアジャケットを羽織っている。
「アインじゃなくて残念か?」
「ん~、アインハルトさんとも勝負したいけど、ガイさんとも勝負したいし。どっちでも私は嬉しいよ」
ヴィヴィオは笑顔で答える。
「なら、期待に添えるように頑張らないとな。そういや、魔法戦だとヴィヴィとは初めての対決だな」
「うん、負けないよ」
ヴィヴィオは静かに右拳を握り、左手には魔力を込めているのか虹の魔法を収束して構える。
「お手柔らかに」
俺もいつものセリフを吐きながら右に体を捻って、刀に右手を添えて構えた。
そして、強烈な音が轟く。ヴィヴィオの突進だ。一歩で互いの距離が0になった。踏み込みの強い突撃。そのまま右拳のストレートを俺に向けて放つ。それを俺は半歩、右に動いて紙一重で避ける。
そして、すれ違う時に抜刀しようと思った時、さらにヴィヴィオの速度が上がり驚いた。これでは抜刀してもヴィヴィオに当たらない。
「っ!?」
そして、俺の周りに何時の間にか虹のバインドが存在して、今にも俺を縛りつけようと収束している。すれ違いざまにヴィヴィオが設置したのだろう。バインドが体に触れる瞬間、俺は跳んでそれを避ける。
そこにヴィヴィオが真上から右足を振り下ろした踵落としで蹴りをブツけてくる。早い連撃だ。相手に攻撃をする隙を与えてくれない。
自由の利かない空中戦。魔法で飛ぶにも目の前にヴィヴィオが居るので間に合わない。そのため俺はその蹴りを鞘で何とか受け止める。
しかし、威力が強くて、大きく下へと落ちて行く。このままだと地面にぶつかるので飛行するために足に魔力を込める。
「一閃必中!」
だが、さらに追撃を行うヴィヴィオは今まで使われなかったヴィヴィオの左手を前に出して、拳に溜まっている魔力が解き放つ。ヴィヴィオの目の前に小さく丸い球体の魔弾が現れる。それを右拳で思いっきりぶつけた。
「ディバインバスター!!」
なのはさんもよく使う、高速砲の“ディバインバスター”だ。魔力が砲撃のように俺目掛けて飛んでくる。飛行する暇も与えてくれない。
「っく」
俺は避ける事は無理だと悟ったので、刀を鞘走りして抜刀した。その刃は黒く、そりは白い刀の切っ先が砲撃に当たる瞬間、刃を一番鋭い砲撃の垂直角度からズラすように手首を捻った。
その結果、砲撃が右にズレて地面にぶつかり大きな衝撃が辺り一面に広がった。
「いっ、砲撃を逸らした!?」
ヴィヴィオは驚きながら青い道に着地する。俺も鞘に刀を納刀してヴィヴィオの乗っている青い道の下段に流れている黄色い道に着地して安堵の息を吐いた。
「ふぅ、あの砲撃は早いな。少しかすったよ」
砲撃の軌道をズラす為に無茶をした。それでも、冷静さを保って相手に何ともないように思わせる。
しかし、あの砲撃の軌道を完全にズラすことが出来ずに右肩から肘にかけて外側のバリアジャケットが砲撃によって削り取られていた。
それでも、それで冷静さを保っているように見せかければ相手に二度目は通じないと思わせる事が出来る。
ガイ:3000→2500
かすっただけで俺のLIFEが500も奪われた。あれをマトモに受けたら一発KOだ。
さっき砲撃を捌ききれたのもまぐれに近い。刃が当たる瞬間など本当に一瞬だ。その一瞬のうちに魔力の威力を外へ逃がすため、手首を捻って何とか軌道をズラしたのだ。
同じことをもう一度やれと言われたら出来ないと思う。経験と時間が足りない。それに何度も使っていると手首を痛める原因になるしな。
俺は目を瞑った。俺は先ほど行った行動の考察を考えるのをやめ、思考を切り替え、目を開いた。今度は俺からヴィヴィオに向かって跳んだ。ヴィヴィオも表情を険しくして構え、背後に虹の魔弾がチャージを始める。
「魔法は使わせないさ。格闘戦技に持ち込む」
俺はヴィヴィオの手前に流れている青い道に一度、足を付けて速度を上げるために魔力を足に溜めて一気に跳び、ヴィヴィオに向かって鞘を握っている左手で左拳廻打を放つ。
今度はヴィヴィオが速度を上げた俺に驚いた様子で、背後にある虹の魔弾のチャージをやめ、すぐに俺の左拳を受け止めるためにヴィヴィオは腕をクロスしてガードする態勢に入った。
「~~~っ!!」
ヴィヴィオが痛みを耐えるような苦い表情をして俺の左拳廻打を受け止めた。
拳の中に石を入れていると硬さを増すように今の俺は鞘を握っているのだ。いつもより拳は硬い。
そのまま、俺は刀を抜いて、刃を返して横斬りを行う。それはヴィヴィオの虹のプロテクションで止められた。
ヴィヴィオ:3000→2600
今の二つの行動で400削れたようだ。
「っく。この!!」
ヴィヴィオはこの防戦一方の状況を覆そうとしているのか空いている足で垂直に足を振り上げる。
俺はそれが見えた。そのため、次の行動をすぐに行う。鞘と刀をヴィヴィオから離して、一歩下がりそれを避ける。
そして、再び勢いをつけてヴィヴィオに近づき、右足の前蹴りを蹴る。ヴィヴィオが蹴りを振り上げるのを予め見えていたので俺の行動のほうがワンテンポ早く、ヴィヴィオは右足を振り上げてを終わった状態だったので俺の蹴りをガードすることが無理に近く、それをまともに受けて大きく後ろへ下がる。俺は鞘に刀を収めながら追撃をしようとした。
「っつ」
しかし、それは左肩にある衝撃が加わってバリアジャケットが削り取られ、追撃の機会を失った。
「あの無理な体勢からカウンターか。ヴィヴィもなかなかな動体視力を持ってるな」
俺が前蹴りをヴィヴィオに当てた瞬間、ヴィヴィオの左拳のストレートが放たれて俺の左肩にクリーンヒットした。俺はそのカウンターは予測できなかったのでマトモに受けてしまった。
少し離れた所にヴィヴィオが黄色の道に何とか着地して息を整える。
ガイ:2500→1600
ヴィヴィオ:2600→2200
「ガイさんはやっぱり凄い!!」
ヴィヴィオは息を整えながらも満面の笑みを俺に向けて楽しそうな声をして褒めてきた。
「ヴィヴィの方が凄いよ。あの体勢からカウンターを狙えるのは流石だよ」
俺も笑いながらヴィヴィオの事を褒める。あのカウンターであのダメージ。俺の魔力値が低いのも原因かもしれないが、ヴィヴィオはやっぱり強い。
「ガイさんだって砲撃を逸らすような事が出来るんだもん。凄いよ」
互いに褒め合う。
そして、お互いに再び構えた。
「ヴィヴィと対決するのも何だかんだで楽しいよ」
「え?あ、ありがとうございます」
俺は笑みを零してヴィヴィオと戦えたことに純粋に楽しかったと思えたことを伝える。違う事を褒められたからかヴィヴィオはちょっと戸惑いながらも礼を言ってくる。
「行くよ」
そのせいでヴィヴィオの集中力を一瞬失わせてしまったので、これから動く事をヴィヴィオに言う。ヴィヴィオはそれを聞いて、気をひき締め直して笑顔から真剣な表情に変えた。
『ヴィヴィオから魔力反応有り』
「な、いつの間に溜めた!?」
プリムラの魔力検知にヴィヴィオの魔力が反応して知らせてくれた。それを聞いた俺は驚いた。終始、ヴィヴィオを注意深く見ていたが、魔弾をチャージする工程を見ていない。
俺の驚いた表情を見たヴィヴィオは真剣な表情を崩して笑みを向ける。ヴィヴィオの後ろには魔弾が数発、作られていた。魔法陣も魔弾と同時に現れてチャージが完了している状態。どのような原理を行ったのかはわからない。
「“ソニックシューターアサルトシフト”!!」
『全部で五発です』
「あ、ああ」
俺は驚きながらもヴィヴィオが放った魔弾の弾幕をどのように受け止めるか考える。アインハルトなら俺の魔弾を止めた時のように“旋衝破”で返してくるだろう。俺はそんな高等技術は持ち合わせていない。砲撃をズラしたのもマグレに近い。
俺は避けとガードする態勢に入りながら後ろに黒い魔弾を二つをチャージし始める。俺の魔力だと満タン状態から作れる魔弾は八発。一度に作れる魔弾は二つ。魔法で飛行するとその間は他の魔法が使えない、といろいろ制限が掛る。先ほど足に魔弾一個分の魔力を込めて飛んでしまったので残りは七発分の魔力しかない。
貴重な魔力を消費するのであまり使わないようにしているがこの状況は必要なので二つ分チャージを始める。
その間に魔弾の弾膜が飛んでくる。一発目の魔弾を避け、二発目は鞘走りから抜刀して切り捨てる。残り三発。
ちょうど、チャージが完了したので魔弾をブツけて相殺した。残り一発は鞘で受け止めた。
「隙ありですよ!!」
「!?」
流石に魔弾に集中しすぎたようだ。俺の隣には左拳の左拳廻打を放ったヴィヴィオが居た。
鞘は魔弾を受けた衝撃で動かすのに遅れて間に合わない。刀も抜刀した状態でヴィヴィオに合わせている暇がない。魔弾も放ってしまった。プロテクションも遅い。出来るとしたら……。
「がはっ!!」
ヴィヴィオの左拳が思いっきり俺の溝に当たった。そのまま勢いよく俺は大きく飛ばされて後退して青い道に何とか着地する。
「っつ」
しかし、ヴィヴィオの胸部に大きく一太刀が斜めに刻まれてバリアジャケットがはがれた。あの一撃を当たった後、俺は抜刀している刀を斜めに斬り込んだ。刀は引きながら斬ると威力が増すのでヴィヴィオの打撃の威力を利用して飛ばされながらもヴィヴィオの体に一太刀入れた。肉を切らせて骨を断つ……まではいかないが、ヴィヴィオにも相当なダメージを与える事は出来たはずだ。
ガイ:1600→200
ヴィヴィオ:2200→1100
あの一撃がかなりでかかったようだ。ヴィヴィオに1000以上のダメージを与えることが出来た。
『ガイさん。このままだと負けてしまいます。前半戦からFW陣を失うわけにはいきませんので戻りましょう』
『ヴィヴィオも結構ダメージ受けすぎたわね。ガイさんも戻るようだし、一旦戻った方がいいわ。ガイさんを落とせればかなり戦況が変わるんだけどね、悔しいけどキャロの方が召喚魔法の速度は速い』
これからこのLIFEでどのように戦えばいいかと考えていたら、俺たちの間にモニターが二つ現れて互いの陣のFBが戦いに挟んでくる。
「ああ、頼む」
「うう、ガイさんと決着付けたかったよ~」
ヴィヴィオは苦笑いしながらも悔しそうな表情を俺に向けてくる。
「また対戦するだろ。こんな序盤に落ちるわけにもいかないしな」
「うん、次こそ決着付けるね」
そして、俺の真下にピンクの魔法陣が現れてた。ヴィヴィオの真下にも紫の魔法陣が現れている。
「互いにこの模擬戦で生き残れたらまた対決だな」
「うん!!」
無邪気な笑みを俺に向けてきた。それほど次に対戦することが出来ることが嬉しかったようだ。
俺も笑いながらキャロの召喚魔法によってFBへと戻って行った。
「私の相手はアインハルトですか」
「はい」
私は黄色い道の上に立っていた。オリヴィエも青い道の上に乗って私の事を見つめている。オリヴィエは白と青を強調した騎士甲冑を着けて、ライトブラウンの髪はシニヨンのようにして後ろに縛っている。
その姿は紛れもなく覇王の記憶の中に残っている姿、戦闘服のバリアジャケットだ。記憶にも残っている。
だが何故、オリヴィエが現代の今ここに居るのか分からない。オリヴィエと初めて会った後にいろいろ調べたが昔の人物がどのようにして今の現代に居るのか分からない。
ガイさんが答えてくれるのが一番いいですけど、それは無理な話。ですが、目の前にオリヴィエが居る、それが現実なのだ。
「……フリージア、私個人としては貴方と拳を交えたい。あなたを超えたい」
「ええ、構いませんよ」
「え?」
オリヴィエの即答に私は目を丸くした。オリヴィエは私と拳を交えることはないと思っていた。私の中には覇王の悲願が存在する。この悲願はオリヴィエの死が原因で出来たモノ。オリヴィエ自身に向けるモノではないのだが、拳を交えることがあればその悲願にも触れてしまうかもしれないだろう。
しかし、オリヴィエはそれでも拳を交えることに頷いてくれた。
「そんな変を顔をしなくても。悲願を受け止める事は出来ませんが、ただ拳を交えるだけなら受けて立ちますよ」
「ただ拳を交える……」
オリヴィエは悲願云々でもないと言っている。ただ拳を交えたいだけのようだ。私は考えた。
覇王の悲願、私の願い。覇王流を証明すること。あのゆりかごの日のオリヴィエより強くなって私たちの悲願を叶える為に。
そして、目の前にはそのオリヴィエ自身が居る。これはオリヴィエ自身に向ける悲願ではない。
しかし、ただ単純に拳を交えるだけなら悲願も関係ない。悲願を考えなければオリヴィエはヴィヴィオさんと同じぐらいの好敵手だろう。
「ええ、わかりました」
私の提案を受け入れてくれたオリヴィエに感謝です。
「では、行きます」
「はい」
オリヴィエは左手を前に出して、指と指の間を閉じて手とうのようにして手首を上げ、体を右に少しひねって右拳を後ろに下げ構える。
構えは“聖王流”でも“覇王流”でも変わらない。でも、オリヴィエの構えまでの動きが完璧で私は見惚れてしまった。やはり“聖王女”と言われていただけの事はある。
私もオリヴィエと同じようにして構える。
「“聖王聖空弾”」
「“覇王空破断(仮)”」
オリヴィエの右拳から虹の魔弾一発だけだが飛んできた。だが、その速度は速い。私も拳から魔法の真空刃を放つ“空破断”でそれをなんとか相殺する。まだ完成していないので魔力の安定はしないがなんとか形には出来た。
その間にオリヴィエが私の目の前までに来て、左足の回し蹴りを振り放っていた。それを右腕でガードする。とても重い蹴りだ。私は歯をくいしばって何とか受け止める。
そのままの体勢で左拳廻打を放つ。オリヴィエはそれを右手で握り受け止めた。逆に考えれば片腕と片足を封じ込めたので、オリヴィエ自身の体重を支えている一本の足に脚払いを行う。
オリヴィエは脚払いをすることが分かったのか、その一本の足で後ろに跳んで一気に下がった。
そして、青い道の上で一呼吸を置いて私の事を見据えた。
アインハルト:3000→2800
オリヴィエの左足の回し蹴りは強力だった。ガードしてもダメージを受けた。私が放った左拳廻打はダメージを与える事は出来なかったようだ。
「アインハルトと戦っているとクラウスを思い出しますね。やはり“覇王流”は強いですね」
「ありがとうございます。」
オリヴィエは私の事をクラウスと同じだと言ってくれた。
嬉しいけど私はクラウスもオリヴィエも超えないと“覇王”の名を……覇を成すことが出来ない。
「ですが、私は貴方を超えたい」
私はそう言うとオリヴィエは微笑む。私は構える。
「ええ、望むところです。私を越えて見せて下さい」
「行きます」
今度は私からオリヴィエに向かって突撃して右拳のストレートを放つ。オリヴィエはそれを受け流す。
そして、右拳廻打を放ってくる。私はそれをまともに受けた。
「!?」
しかし、その代償として、受けた後その受けた右拳を左手で掴みオリヴィエの体中にバインドを巻いた。私は防御を捨てカウンターバインドでオリヴィエを縛った。私は右拳に魔力を込めた。
「そうでした。防御を捨て、攻撃に特化したモノ……それが“覇王流”」
「そうですね。これが“覇王流”です」
私は右拳の魔力を解放した。
「“覇王断空拳”」
「っぐ」
オリヴィエの背中に私の“断空拳”を思いっきりブツけた。クリーンヒットしたのが分かった。私の“断空拳”の衝撃で青い道が壊れて、その青い道の上にいたオリヴィエと共に重力に沿って落ちて行く。
アインハルト 2800→2300
オリヴィエ 3000→600
オリヴィエをここで落としておけばこの戦いは有利になる。
『アインハルト、ストップ!!』
追撃のために動こうとした矢先に目の前にティアナさんの写っているモニターが表示された。両手に銃型のデバイスを持って常にオレンジの魔弾を飛ばしている。その魔弾はここからも目視できるがそれは逆方向からのピンクの魔弾と相殺している。
『今のダメージならフリージアさんは一旦下げられる。この隙に先陣突破で斬りこんで!!ガイはヴィヴィオとほぼ相討ちで互いにFBに下がっているからFBからの邪魔はされないと思う。そのまま青組のCG、なのはさんの所へ!!』
ガイさんはヴィヴィオさんとほぼ相討ちで下がっている?ちょっと心配ですが、ガイさんが再び復帰した時にやりやすい環境にしておくのも良いですね。それになのはさんの魔弾を止めることが出来ればその分ティアナさんの魔弾がいろいろな場面でサポートに回せますし。
「……はい!!」
私はティアナさんの提案に頷いた。
そして、チラッとオリヴィエが倒れている場所を向いた。オリヴィエはまだ立ち上がらない。
何かオリヴィエと戦っていて少し違和感があった。あの“聖王女”であったオリヴィエが私のカウンターバインドを読めなかったのだろうか?クラウスとの戦いも覇王の記憶の中では何度かやっているのだから“覇王流”がどのようなスタイルなのか分かっていたはず。さっきの言葉も演技のように思えてくる。まるでワザと負けたような気がしてならない。
しかし、私は今考えることではないと判断して、思考を切り替えて先陣突破の任を受けて走り出した。
私はアインハルトの“覇王断空拳”を受けて、地面に叩きつかれていた。体全体に痛みが走る。あの攻撃も受け止める事は出来た。
しかし、ガイとうまく魔力の補給が出来ていないこの現状、“聖杯戦争”に向けて体内に存在する魔力を温存しておかなければならない。それなので、私の戦い方もいろいろと制限が付いてしまう。
ガイの魔力値が上がれば魔力のラインが安定することが出来ると思いますけど。
「無い物ねだりしても仕方ありません」
私はアインハルトが走り去って方向を見た。すでにアインハルトの姿は無い。
こんな闘いではアインハルトは満足していないでしょうね。
『フリージアさん大丈夫ですか?』
私の目の前にルーテシアが映っているモニターが現れる。
「ええ、ちょっとダメージはデカいですがなんとか大丈夫です」
私は表情を苦くして上半身を起こす。それと同時に私の真下に紫の魔法陣が展開された。
『とりあえず治療するからいったん戻しますね』
「ええ、ありがとうございます」
私はルーテシアの治療を受けるために提案を受け入れた。
そして、召喚魔法によって私は今居る場所からFBまで下がった。
「あ、フリージアさんも戻って来たの?」
そこにはそわそわしながら再出撃を待っているヴィヴィオが居た。ダメージも私ほどではないが結構受けている。たぶん相手はガイだろう。
「ええ、アインハルトは強いですね。あの子はきっと強い子に育ちます」
「アインハルトさんも強いんだ。う~、再出撃したらガイさんとアインハルトさん、どっちとも戦いたいな~」
「ですが作戦があるのでしょう?」
「そう、あの作戦があるわ」
話を聞いていたルーテシアが私たちの会話に入ってきた。
そして、戦場に出ている青組全員のモニターがルーテシアの周りに現れる。
「青組一同、ヴィヴィオとフリージアさんが復帰したら例の作戦に移ります。いつでも動けるようにお願いします♪」
「「「了解!!」」」
モニターに映っている全員から了承を得た。
『あ、アインハルトちゃんが来たね』
アインハルト、もうなのはさんの所へ来たのですか?早いですね。
『ヴィヴィオさんのお母様!一槍お願いいたします!!』
『私でよければ喜んで!』
なのはのモニターからアインハルトの声が聞こえる。私との対決後、そのままだと思うのでライフもあの時から変わっていないだろう。
『青組CG高町なのは各員に報告。まもなく赤組FAアインハルトちゃんと接敵!射砲支援が止まります。赤組CGとFBの支援攻撃に要注意!』
『「了解!!」』
なのはの砲撃支援が無くなりましたか。その間にティアナの砲撃にチャージする時間を与えてしまいますね。
私は陣形の表が映っているモニターを見る。ヴィヴィオがガイとほぼ相討ちで2人ともFBに下がっている。FBのスバルは相手のノーヴェとGWとWB同士も未だに一対一だ。
私とアインハルトの対戦以外は場の流れは変わっていない。アインハルトがなのはに対してどのような結果になるかで流れは大きく変わる。
「……まるで戦場の陣形の一部ですね」
ボソッと私は誰にも聞こえないように呟く。このような陣形表などを見て、思案することはよくやった。戦時中は常に先を見据えなければ不利な状況になり味方の死が絡んでくる。脳裏に浮かんで来たのはかなりの数の味方の死体が転がっていた焼け野原に私が涙を流しながら手で一生懸命、味方の死体を埋める墓を掘っている時の戦場の跡地の光景。私の判断が一つミスるだけで味方が死んでいくことを実感した。
あれが戦場なのだ。だが、今は違う。事件は存在するが戦争は起きていない。
「守りませんとね……」
「ん?何を守るんですか?」
隣でヴィヴィオが今呟いた言葉を拾っていたようだ。笑みを向けながら聞き返してきた。私は先ほど思い出していた思考をやめて切り替えた。
「……いろいろですよ」
「そうですか。なんか思いつめているような表情でしたので、ちょっと心配します。何か困ったことがありましたら言って下さいね」
ヴィヴィオが満面の笑みに切り替えて笑う。
これが今、現代に生きている私の複製体。思いやりのある優しい子。この子なら特に心配もいりませんね。
「ありがとうございます、ヴィヴィオ」
私はヴィヴィオに礼を言って頭を撫でる。ヴィヴィオは撫でられた事に嬉しかったのか少し頬を赤く染めながらも笑みを絶やす事は無かった。
この笑顔を守るために“聖杯戦争”を勝ち抜かないといけませんね。
私は陣形表のモニターを見ながらこの模擬戦の今後の動きと“聖杯戦争”の行動をどのように行うか色々と思考を回し始めた。
模擬戦を全部書くとかなり長くなるので二つに分けました。
と、言ってもプロットはありますが書いている時間が無いw
仕事が忙しいくなってきた。
魔法と魔術の価値観や観点の違いはやはり難しい。
今回は魔術視点からの考察です。
今度説明するときは魔法視点からの考察かな。
何か一言感想があると嬉しいです。
では、また(・ω・)/