魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

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合間を縫ってちょこちょこ書いてはいたんですが、なかなか時間が。

まあ、何はともあれ16話目入ります。


十六話“現代と未来の交差”

―――798航空隊 隊舎

 

なのはさんの訓練が厳しく、体が動かないというを部隊長に話を通して休みをもらってから一日が経ち、俺は自分の部隊に出勤するために玄関口である自動ドアを開いて中に入った。

空調が聞いているからか外との気温差があり、中からのひんやりとした空気が五月中旬の強い日差しの中を歩いて熱くなった体を冷やしてくれる。

 

ゼストから受けたダメージはほとんど完治している。今まで知らなかったが俺はどうやら自己治癒能力が高いようだ。

あれほどの重傷だった傷も二日経つとほぼ塞がっている。

 

「おお、ガイ、来たか」

 

と、冷たい空気に触れてホッと一息をついて体の事を考えていた時に、玄関の隅に置いてあるソファーにドカッと座っていた人物が入ってきた俺に気付いて、とても明るい笑顔で右手を上げて声を掛けてきた。

 

「おはようございます、隊長」

 

その人物は部隊長だった。見た目は30歳前後。長い青を一つに繕った髪に青い瞳。右頬には刀の傷跡がクロスする様に傷ついているのが第一印象で残る印象だろう。

俺はソファーまで歩いて行って敬礼した。

 

「ああ、別にいちいち敬礼なんてやらなくていいぜ。まだ仕事も始まってないし、楽にしとけ」

「では、お言葉に甘えて」

 

俺は部隊長から許可(?)が下りたので敬礼していた手を下ろして、ソファーに座って足を組んだ。

 

「……順応が早いな。俺の前で堂々としてやがる」

「気のせいですよ」

 

この人は上司という感じがしない。フレンドリーに会話をするからか、この人の前だと軍の規律を気にしなくても良いので気楽だ。

しかし、この人は確かに尊敬できる人物ではあるが一つだけ難点がある。

 

と、不意に機械の扉が開く音がした。俺が入ってきた自動ドアが開いたようだ。

そちらに顔を向けると2人の人物が室内に入ってきた。部隊長はその人たちを見た瞬間、ドカッと座っていた態度から一変、ソファーから立ちあがり背筋を伸ばして表情を凛々しくしてその人たちに敬礼した。

 

「高町教導官、ヴィータ教導官、おはようございます!!」

 

その声は10歳代前半のスポーツをしている少年が言葉を発するような爽やかさがある。とても落ち着き感を持ち始める30歳代で聞けるような声ではない。

 

玄関から入って来た人物は青と白を強調している教導官の服装を着たなのはさんとヴィータさんだ。肩からはショルダーバックを下げている。

 

2人を見ると額などに汗をかいている。今日は五月中旬にしては猛暑日だ。

部隊長の大きな声を聞いてその2人はこちらを見た。

 

部隊長は思いを募らせているなのはさんと会うたびにカッコよく決めるためにこのような行動に出る。

先ほど説明した難点はここだ。なのはさん絡みになるとかなり暴走してしまうのがこの人の悪いところだ。

 

それさえ無ければとても尊敬できる人物なんだがな。

 

部隊長が立って敬礼しているのにその部下である俺がソファーで座っているのもよろしくないので俺も立ち上がって部隊長の横に動く。

なのはさん達もこちらに来たようだ。

 

「おはようございます、高町教導官、ヴィータ教導官」

「おはようございます、部隊長、ガイ二等空士」

「あぁ、おはよう、部隊長、ガイ」

 

ヴィータさんは相変わらずぶっきら棒だ。そして、愛嬌のある笑みをニッコリと浮かべるなのはさん。

 

ああ、なのはさん。そんな表情を部隊長の前でしてしまうと部隊長が……。

 

「そげぶ!!」

「「「!?」」」

 

部隊長は意味の分からない言葉を発してこの場からものすごい勢いで離脱して、曲がり角をスピードを緩めることなく曲がり見えなくなった。デバイス無しであれほどの速度を出せるのが凄い。

 

「な、なんだったの……」

 

なのはさんは走り去って行った部隊長の方を向いて苦笑いのまま表情が固まっていた。

 

『俺はトイレに行ってくるとなのはさん達に言っておいてくれ!!』

『そんな事で念話使わないでください!てか、自分で言え!!』

 

念話で先ほどの不可解な行動の言い訳を言っておいてくれと来たので俺は怒鳴り返して一方的に念話を切った。

そんな念話で俺は大きなため息をついた。

 

「また大きなため息ついてるね。何かあったの?」

「いえ、今思えばあんな隊長でよくここの部隊が纏まったなって改めて思いまして。これまでの行動を思い出すと……ため息が」

 

なのはさん絡みになると暴走してしまう部隊長だが、部隊長になるためにもそれ相応の努力が必要だ。

あの年で部隊長に上り詰めたのだ。きっと俺の気づかない所で頑張っているのかもしれない。

 

しかし、“また”大きなため息……ね。俺はため息つきすぎかな。

 

ため息を少し意識しようと俺は思った。

 

「まぁいいんじゃねぇ?あれはあれで個性が溢れているしな」

「悪い人ではありませんからね」

 

ヴィータさんが意地悪そうな笑みを浮かべて言っているので俺はそれに何の迷いもなく同意した。

 

「そういやガイ。オーバーSランクの槍使いの人物なんだけどな」

 

と、俺の顔を見て何かを思い出したのかヴィータさんが目の前にモニターを開いてくれた。

 

「該当した人物はやっぱり“ゼスト・グランガイツ”一人だけだ。首都防衛隊のストライカー級魔導師」

 

モニターに現れたのはゼスト・グランガイツの顔写真と局に入ってからの実績などが映し出されている。

 

その顔写真を見た瞬間、俺は確信した。一昨日に戦った人物と同一人物だ。ランサーはこの人物で間違いないだろう。

 

「調べてくれたのですか?」

「仕事のついでにちょこっと槍使いとの戦い方を纏めただけだ。ガイ、お前のためじゃねえよ。あたしが槍使いとの戦い方に不慣れだから調べただけだ」

 

そう言いつつ、少し頬を染めているヴィータさん。

 

「もう、ヴィータちゃんは素直じゃないね。ガイ君のために調べてくれたんでしょ」

 

なのはさんがヴィータさんに小悪魔のような笑みを浮かべてくる。

 

「そ、そんなんじゃねぇよ!!変な事言うんじゃねぇ!!」

 

更に真っ赤になった顔でなのはさんを怒鳴る。なのはさんはそれに怯むことなく、はいはい、と受け流す。

 

「ガイ、勘違いすんなよ。お前のためじゃねえからな。あたしが槍使いとの戦い方をシュミレートするために纏めただけだからな」

「わかってますよ。そんなムキにならなくても」

 

本当だろうな、と、顔を真っ赤にしつつもその凛とした蒼い瞳で睨んで言ってきたので少し怖かった。

 

そして、ヴィータさんは一息つけてから再びモニターを操作する。

 

「戦闘訓練の映像も残っているぜ。良かったら持っていくか?」

「貰ってもよろしいのですか?」

「ま、あんまりよろしくないけど、ガイが練習熱心だからこのぐらいはしてやろうとあたしはひと肌を脱いだわけだ。ただし、こんな無理は今後出来ないからな。そのデータは大事にしろよ」

 

本局のサーバーから個人データをコピーするのはあまり良くない。しかし、今回のは殉職している人物だったので秘匿義務はそれほど制限を受けていないのか、ヴィータさんの位だと何とか許可が下りたのだろう。

 

俺の位では無理なハッキングをしないと取れるものではない。そう考えるとヴィータさんの位ぐらいが少し羨ましかった。

 

「ありがとうございます。参考にさせていただきますね」

 

俺はそんな考えを頭の隅に置いてヴィータさんに頭を下げた。

 

しかし、ヴィータさんが持ってきたデータは俺の嘘を信じて調べてくれたモノ。やはり後ろめたさが残る。まるで騙しているような……騙していることに間違いはないか。

 

「お、おう。そんなに喜んでくれるとは予想外だったぜ」

 

顔をあげるとヴィータさんが今の俺の反応にちょっと困ったような表情を見せてはいるが、表情には嬉しそうな色も表れている。

そんな表情を見ると後ろめたさというより罪悪感に近いようなものを感じた。

 

「そう言えば、今日のニュースもまた嵐が発生したってあったね」

 

なのはさんが何かを思い出したかのように言葉を出して話題を変えてくる。

 

「ああ、アラル港湾埠頭廃棄倉庫区画に続いて今度は廃棄都市区画の市街地の所ですね」

 

そのニュースは今朝見たモノだ。アラル港湾埠頭で戦闘が起こったことがねつ造されてニュースに報道しているので、毎日ニュースを視ることにした。

そして、今朝方、突然の嵐が今度は廃棄都市区画で発生したと報道されていた。その原因はやはり“聖杯戦争”だ。そこでどの組が戦闘を行っていたかはわからないがその余波が建物の崩壊を招いた事に違いはないだろう。

 

後でオリヴィエと捜索に行こうと決めている。

 

「最近多いよな。異常な気象現象」

「そうですね」

「突然に起こる嵐らしいから十分に気をつけないとね。さて、それじゃあ今日も訓練頑張ろう」

「今日こそガイの腐った根性を徹底的に叩き潰さねぇとな」

「……お手柔らかにお願いします」

 

今日の訓練はまた一段と厳しくなりそうだ。意気込んで俺にニヤリと笑みを浮かべているヴィータさんを見てそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――お昼休み

 

『マスター。メールが着ています』

「おう、開いてくれ」

 

何時ものベンチでコーヒーを飲んでいるとメールが来たようだ。

先ほどの訓練は予想通り、一段と訓練が厳しくなっていた。主にヴィータさんが俺に厳しく接してきた気がするが。

 

そんな事を考えているうちに目の前にモニターが現れた。

 

差出人………ミカヤ・シュベル

件名………最近

本文………こんにちはだな、ガイ。こうやってメールするのは初めてだ。して内容だが、最近、道場に足を運んでこないが仕事が忙しいのか?時間に余裕があればたまに顔を出してくれると嬉しいぞ。ガイのような我流の使い手との試合をしたいしな。

 

「ミカヤからか。珍しいな」

 

メールの差出人は抜刀術天瞳流の師範代であるミカヤだ。確かに最近はいろいろあって道場に行っている暇が無かった。

 

不定期ではあるが毎週一回は道場に通っている俺だったが、ここ二週間ぐらい寄っていない。“聖杯戦争”を調べるために都市のあちこちの書店に立ち寄ったり、合宿が始まったり、聖杯戦争が始まったりしてしまったから道場に行く時間が無かったのだ。

 

俺は少し考えた。道場までは少し距離があるが人目が多いところにあるので聖杯戦争に巻き込まれることは少ないはずだ。

 

「たまには顔を出すか」

『そのほうがよろしいです』

 

プリムラも行くことに肯定したので返すメールを作成する。

 

To………ミカヤ・シュベル

件名………Re:最近

本文………久々だな、ミカヤ。ああ、最近は少し忙しくてななかなか道場に顔を出せなくてすまない。今日あたり寄って行こうと思うが大丈夫か?

 

メールの内容を作成してプリムラに送信を命令した。少ししてメールが帰ってきた。

 

差出人………ミカヤ・シュベル

件名………Re:Re:最近

本文………そうか。今日来てくれるか。楽しみにしているぞ。

 

短い文章だったが脳裏には微笑んで嬉しそうな表情をしているミカヤが想像できた。

 

「……自惚れ過ぎだな」

 

俺は軽く頭を振ってモニターを閉じた。

 

ミカヤは凛として威風堂々たる態度でいてこそ、ミカヤだ。無邪気に喜んでいるミカヤは

脳裏ではイメージしずらい。たまに年相応の笑みを浮かべてはくるが。

 

俺は今考えていたミカヤの性格に終止符を打って、空を見上げた。朝は快晴だったが今は少し雲が現れて快晴とはいかないが晴れだ。

そして、やはり暑い。今日は猛暑日なので日の当たるこのベンチは座っているだけでも汗を掻いてしまう。

俺はタオルで顔を拭き、コーヒーを一口飲む。

 

「ここはガイ君のお気に入りな場所なんだね。こんな暑い日にもここで座ってるし」

「あ、高町きょ……なのはさん」

 

と、そこに俺の座っている長ベンチの後ろから背もたれに手をつけて身を乗り出し、俺にひょいっと顔を向けているなのはさんが居た。

昼休みは“なのはさん”でいいという事なので高町教導官と言いそうになったところを訂正した。

 

「まあ、ここはのんびり出来ますからね」

「うん、確かにここは落ち着くね」

 

なのはさんは腕を組んで背もたれに両肘をつけてベンチに体重を預けて、前かがみになるような形になって俺を覗き込んできた。

 

「何か俺に用でもありましたか?」

「うん。まあ、用ってほどのモノでも無いんだけどね」

 

なのはさんは笑みを作って俺の方を見た。その笑みは安心感を抱けるような優しく温かい。包容力というのだろうか。

 

「なんかガイ君、顔つきが変わったなって思ってね」

「顔つき……ですか?」

「うん。何か吹っ切れたって感じで。今はとても頼もしく見えるかなって。朝見た時にちょっと思ってたんだ」

「……」

 

なのはさんが少し頬を染めてそれでも先ほどの笑みを絶やさずに俺を見る。

聖杯戦争での覚悟を改めて決めたからだろうか。改めて覚悟を決めた事が顔に出ているようだ。

 

まったくもって俺はポーカーフェイスがダメなようだな。

 

だが、なのはさんのような高位ランクの魔導師からそのように言われて内心はとても嬉しかった。

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

俺も笑みを返した。

 

「ほぇ?別にお礼を言われるような事は言ってないよ?」

「いえ、なのはさんにそのように言われて嬉しかったので」

「え、そ、そうなんだ」

 

なのはさんは視線を逸らしてにゃはは、と、ちょっと戸惑いながらも軽く笑った。

 

「っ!?」

 

その時、背後から何か背筋の凍るような鋭い視線を感じた。そのおかげでゾクッと一瞬体がビックリしたようだ。

 

聖杯戦争の参加者の誰かが俺を狙ってるのか!?

 

アインハルトとカラーコンタクトを買いに行った帰りの殺気に満ちた視線を思い出す。だが、今回の視線は殺気を感じない。

俺はなのはさんに気付かれないよう、なるべく表情に出さずに振り向く。

そこには木の影から部隊長が羨ましそうに、しかし、さらにその上から恨めしそうな色が二乗で上書きされた複雑な表情で俺に鋭い視線で射抜いてる。

聖杯戦争に関係ないと分かってホッとしたが部隊長の持っているモノが目に入った。

 

右手に持ってるのって……藁人形!?こええぇぇ!!左手は木に隠れて見えないけど、釘でも持っているんじゃないか!?。

 

「ん?どうしたのガイ君?」

「い、いえ、なんでもないです」

 

なのはさんと話している時はいつも部隊長に鋭い視線で視られていたのだろう。聖杯戦争が始まって、視線に敏感になったからこそ、今日初めて気付いた。

 

そして、ある意味、身の危険を感じた俺は残っているコーヒーを飲みほしてベンチから立ち上がった。

 

「ご、午後も頑張りましょう、なのはさん」

「うん、いっぱい訓練してあげるからね」

 

なのはさんの悪意のない清潔な頬笑みを見て俺は午後も頑張ろうと決めた。

後ろから木に何かを叩く音が同じリズムで聞こえててくるが聞かなかったことにした。

 

後日。

部隊長が一枚の写真を見せてきた。長ベンチの後ろから背もたれに手をつけて身を乗り出し、俺に顔を向けているなのはさんを後ろから……むしろ下半身に重点を置くようにローアングルで写っており、生々しい太ももがニーソックスとスカートの間で強調されて、もう少しでそのスカートの中が見えそうだった。

部隊長がもっとなのはさんに腰を低くしてと言っておけよ、と、真顔で言われたので俺はその写真をバラバラに破り捨てた。

 

部隊長はまだ複製していないのに~、とか言って血の涙を流していた。俺の部隊から犯罪者が現れるのもそう遠くない未来にあるなと俺はこのとき確信した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ミッドチルダ南部 抜刀術天瞳流 第4道場

 

「久々だな、ガイ」

「久しぶり、ミカヤ。それに、悪いな。最近顔を出せずにいて」

 

俺はデスクワークを終わらせて、久々にミカヤの道場に訪れた。袴に着替えて今は互いに正座をして居合の試合前のように見あっている。お互いの座っている横には得物が置かれている。

 

「いや、それでも来てくれて嬉しいよ。ガイのような剣術とも試合たいからな」

 

普段は凛として威風堂々なミカヤだが今は年相応の笑みを浮かべている。

 

「そうか。あ、そう言えばミカヤはインターミドルに参加するんだっけ?」

「ああ。今年はガイも参加するから楽しみだ」

「え?」

 

ミカヤの言葉からおかしな表現があったような気がした。俺は困惑してミカヤに聞いた。

 

「俺が参加?」

「ああ」

「インターミドルに?」

「参加者リストにガイの名前が載っていたぞ。知らなかったのか?」

 

俺はその言葉に頷く。いつの間に俺は参加していたのだろうか。勝手に受付をされてしまっているようだ。

まあ、確かに“聖杯戦争”で生き残って終われば参加できなくもない。ノーヴェ辺りが勝手に受付してしまったのだろう。

 

「……ガイは参加しないのか?」

 

ミカヤが子犬のつぶらな瞳のような眼で見上げて、少し寂しそうな表情をして俺を見てくる。今日は珍しい日だ。いつも凛としているミカヤの表情がいろいろと見られる。

 

俺の中のミカヤのイメージが変わるな。

 

昼休みに思っていたモノよりもミカヤは表情豊かのようだ。

 

「今の仕事が忙しくてな。それが終わる時期によっては出れなくなるかもしれない」

「そうか、仕事では仕方ないな。ガイとも大会でぶつかり合ってみたかったが」

「悪い。ぬか喜びさせてしまって」

「気にするな。ガイの好きなようにするといいさ」

 

ミカヤは寂しげな表情をしていたが、それを奥にしまって相手を安心させるような笑みを浮かべてくる。

 

「ミカヤ~、この荷物はあっちに置いておけばいいのか?」

 

そこに、道場のドアが開いて両手で段ボールを抱えている1人の少年が現れた。薄い赤のかかった短髪に薄い黄色い眼が特徴的である。

 

「ああ、それは向こうの部屋に置いといてくれ。後で私が整理しないといけないモノだから」

「わかった。訓練中にすまない」

 

そう言って、薄い赤髪の少年はミカヤに向けていた視線を俺を向けた。

 

「……」

「……」

 

俺たちは互いを見つめた。その薄い黄色の眼からは何か深い感情の色が見えているような気がした。

 

そして、少年から視線をそらした。

 

「衛宮。訓練中だ」

「あ、ああ、すまない。邪魔したな」

 

そう言って、その少年は一度段ボールを置いてドアを閉めて視界から消えた。

俺は一度見た少年が気になった。

 

あの眼に映し出されている感情の色はなんだろうか。

 

そして、死線を掻い潜ってきたような……初めて会ったオリヴィエの時と似ている雰囲気があった。

 

「どうしたガイ?」

「ああ、さっきの少年は誰かなって思ってさ」

 

俺が入口のドアをジッと見ていた事にミカヤが不審に思って声をかけて来たのだろう。一応ここの通っている生徒たちの事は全員覚えているがあの少年は初めて見た。

 

「ああ、さっきの少年か。あの少年は衛宮士朗。10日ほど前にここの屋敷の庭で倒れていたのを発見してな。地球という所の惑星に住んでいたようだ。どのようにしてここに来たのかはわからないが、この世界では住む場所がないと言っているのでここにある空き部屋を使わせる事にした」

「衛宮……士朗……ね」

 

何故かまたどこかで会うような気がした。直感というモノだろうか。

 

「衛宮の作る料理はおいしいぞ。今度私と衛宮が作った時に食べに来るといい」

「そうだな。機会があったら行くよ」

 

楽しみにしてる、と付け足して、俺は隣に置いてあるプリムラに手を付ける。ミカヤも愛用のデバイス“晴嵐”に手を付ける。

 

それだけで次のやる事は決まっていた。雑談は終わりだ。

これからはここに来た本来の事情に入る。

ミカヤとの試合。この道場で主にやるモノはこれなのだから。

互いに得物を持って立ちあがる。

 

「久々で楽しみだぞ、ガイ」

「お手柔らかに」

 

ミカヤが軽く微笑んで構えたので、俺も笑みを作ってそれに答え構える。久々の居合の特訓。俺もミカヤと同じく胸が高鳴って楽しみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――街頭 夜

 

ミカヤとの試合を満足に行った俺は道場からマンションへと歩を進めた。帰り道は人気の多いところを通って歩く。

平日なので仕事帰りのサラリーマンやOLの人たちばかりだったが、中には変則勤務のフリーターをしているようなアクセサリーをいろいろな所に付けている若者たちも混ざっている。

 

「あ、ガイさんだ!!」

「ん?」

 

と、そこに後ろから元気な声が聞こえてきた。俺はそれに気付き振り向くと、そこに居たのはヴィヴィオ達だった。

ノーヴェやアインハルトも居る。そして……

 

「なんで、フリーもいるんだ?」

「“ストライクアーツ”をやっていたからに決まっているではないですか」

 

オリヴィエも居た。

 

「フリージアさんは凄いんだよ。私たちの格闘が全然通用しないし」

「うん、常に先を読まれているって感じだったね」

「う~、もう一回勝負したいです!!」

「ええ、また機会がありましたら」

 

初等科組は今回の特訓でオリヴィエの事をとても尊敬したようだ。表情が輝いている。

 

「ガイもあたしたちの訓練に参加すればよかったのに」

「今日は久々にミカヤの所へ行って居合の方をやって来た」

「ああ、ミカヤさんの所に行ってたのか。ミカヤさん、最近ガイが来ないなって呟いていたからな」

「まあな。訓練前にも言われたよ」

 

そう言いつつ、俺は手を組んで腕を伸ばす。

 

「ミカヤさんって、今度私がスパーリングの相手をしてくださる人ですか?」

「ああ、まだ時期は決まっていないが居合の達人で結構強いぞ。頑張れよアインハルト」

 

口を挟んできたアインハルトにノーヴェは笑みを浮かべて答える。

 

「ガイさんと同じ居合の達人……」

「あ?俺は達人なんてモノじゃないから。我流の居合だし」

「い、いえ、そんな事はないです。ガイさんは立派な居合の達人です!!」

「あ、ああ」

 

アインハルトが珍しくグッと両手を握って熱を込めて力説しているので俺はちょっと戸惑いながらも肯定する。そして、自分が熱くなっている事に気付いたのかアインハルトはハッとした表情をして頬をみるみる赤い色に染めていき視線を逸らした。

 

普段お淑やかなアインハルトがいろいろな表情をするので、そんなアインハルトが面白いとやはり感じてしまう。

 

俺はコロコロと表情が変わるアインハルトを見て笑ってしまった。

 

「な、何笑っているんですか?」

 

頬を少し染めながらもアインハルトは笑われている事に気づき眉間を寄せて怒ったような表情を見せた。

 

「いいや、別に」

 

深く関わるともっと怒られそうなので俺は軽く受け流す。アインハルトは何か満足できていない様子でジッと俺の事を見てくる。

 

その時、ドクンと心臓が一回跳ねた。アインハルトの視線とは別の視線が俺に向けられている。ここに居る他の人物でもないようだ。

 

視線には途方もない量の殺気も含まれており心臓を掴まれているような感覚に近い。

その視線は経験したことのあるモノだ。

 

「……ま、帰ろうぜ。今日は疲れたよ」

「そうですね。帰ってガイの料理が食べたいです」

 

俺はその視線で受けた影響を何とか表情に出さずに歩きだした。その視線を感じたときに一瞬だけ驚いてしまったが。

 

この視線にオリヴィエは気づいているだろうか。

 

チラリとオリヴィエの方に視線を移す。オリヴィエは俺の視線に気づき小さく頷く。どうやらこの視線に気付いているようだ。

 

「ガイさん、聞いてますか?」

「ん、ええと、なんだっけ?」

 

何かに引っ張られているような感覚を受けたので、オリヴィエの反対側に視線を移すとヴィヴィオが俺の裾を掴んで軽く引っ張って見上げていた。

 

「もう、聞いてなかったんですね」

「ああ、悪い悪い。何だっけ?」

 

どうやら俺は上の空だったようだ。ヴィヴィオの話がまったく頭に入っていなかった。

しかし、ヴィヴィオは俺の一瞬の変化に気づいていないようだ。その事に少し安心感を持てた。

 

ポーカーフェイスが下手な俺でも何とか表情に出さずに出来るもんだな。

 

アインハルトとも視線が合った。

 

「……」

 

だが、先ほどの怒っている表情ではなく、俺の事を見て何か複雑な表情を浮かべて困惑しているように見えた。

 

俺の一瞬の変化に気づいたか。前にこの視線を感じた時もアインハルトが隣に居たし気づくか。

 

他を見ると、俺が一瞬驚いた事に気づいていないようだ。気づいたのはアインハルトとオリヴィエのみ。

 

どうするかと考えつつ俺はマンションへと歩を進めた。ヴィヴィオ達と雑談して進んでいるが、背中から刺さる視線が筋肉を緊張させて冷や汗を掻いてしまう。

 

「ガイさん、暑いんですか?結構汗を掻いてますよ?」

「今日は少し暑いからな」

 

リオに指摘されたが何とか誤魔化す。今日が猛暑日でよかったと、今日の気温に初めて感謝した。

 

「あ、ガイ。そういえばシャンプー切れていましたよね。私が買ってきますよ」

 

と、突然のオリヴィエの声に俺はオリヴィエに顔を向ける。一瞬だがオリヴィエが頷いて合図をした。

 

「……ああ。頼むわ。小銭渡しておくよ」

「お任せください」

 

胸の前に握りしめた右手を持ってきて自信満々な表情で頷いた。そして、俺は小銭を預けて、オリヴィエは来た道をUターンして皆から離れる。

ヴィヴィオ達が別れの挨拶をしているのでオリヴィエは笑顔で振り返ってそれに手を振って答え、雑踏の人ごみの中へと消えていった。

 

「……」

 

見失ってもアインハルトはオリヴィエが消えた人ごみをじっと見つめていた。何か感じているのか分からないが、その表情から感情が読み取れない。

 

そして、背中越しに感じていた殺気の篭った視線は薄らいでいった。オリヴィエに注意が向かったのだろう。

その殺気の篭った視線が薄らいだおかげでホッと一息をつける事が出来て、汗をタオルで拭いた。

 

しかし、こうして皆と居るのに俺だけに殺気を集中させる事が出来るのだろうか?オリヴィエはその殺気に気付いたようだが。

“殺気”は放つと四方八方に放たれて、周りの人達に降り注いでしまうモノだが、この視線の殺気の人物は俺だけにその殺気を注ぎ込んでいる。

 

本当に可能なのか?

 

しかし、現実はそれをしている人物がいる。それだけでも分かる。その人物はかなりの強敵なのだろう。

 

俺も後からサポートに行かないとな。そんな危険な人物にでも負けるとは思わないがオリヴィエ1人で向かわせるわけにもいかないし。頃合いを図って俺も皆と別れるか。

 

「……帰ってご飯の準備をしておくか」

 

俺は嘘の言葉を呟いて皆と帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ビルの屋上

 

私はガイ達と別れてビルの屋上へと歩を進めた。

 

ガイ達と別れてからその視線は私に向けてきている。途方もない殺気を込められており、ガイはよくこれに粘れたと思う。

常人ではこの殺気は一分と持たないうちに失神してしまうでしょう。私は戦場で殺気に対しての免疫力は付いていますので、臆することなくその殺気の発生源である場所へと歩を進める事が出来ます。

 

コンクリートの階段を上り、ガムテープで四方に張ってある“立ち入り禁止”と書かれている紙の付いたドアを開ける。

 

ドアを開けると、そこは何もなかった。四方を全てフェンスで囲んでいる。地面には長年設備を整えていないのか所々にひびの入った灰色のコンクリートの海。

植木の木やベンチも無く、何の捻りもない無愛想な殺風景で少し寂しかった。ここをデザインする設計者が悪かったのかもともと何も考えていなかったのかはわからないが、あまり人が好ましいと思える場所ではない。だが、そのおかげで人の目に触れる事はほぼ無いだろう。

そして、その殺風景に似つかわないモノが目の前でこちらに目を向けていた。

 

1人の人物。

だが、全身から漂う刺々しい雰囲気が只者ではないと直感で感じた。

 

この人物こそが先ほどの途方もない殺気を含んで視線を送っていた張本人で間違いないだろう。

 

その者の背中には大きな星が二つ輝いており、こちらから見ると相手は逆光で薄暗くて見えにくく、より一層不気味な雰囲気を醸し出す道具と化している。

 

「何者です?」

 

私の声に反応したのかその者が一歩ずつ近づく。

 

「止まれ!!それ以上近づくな」

 

私は魔力で一瞬にして長年愛用している騎士甲冑の姿に変えて構える。その様子を見て相手は動きを止めてマジマジと私の事を視察し始めた。

距離は7メートル弱。そのくらいの距離なら薄暗くても相手の全体像が確認できた。

見た目は整ったセミショートの黒髪で黒い瞳の30~40歳代ぐらいの男性。上着である灰色のスーツを脱いで左腕にかけて、灰色のネクタイに白い長そでのワイシャツに袖なしの黒いセーターを着込んでいる。

 

第一印象とすればこの現代の社会人に見えますね。ですが、あの者から放たれる殺気の量が半端ない。

 

戦場を駆け巡って殺気に対して免疫が付いていた私でさえ、あの者とマトモに対峙すると背中に冷や汗が流れているのが分かった。

 

原因はあの眼ですね。何か強い意志を持っているようにも見える。それが闘志となって途方もない殺意を生み出す。その意志が何かの鍵を示すのでしょうね。

 

「もう一度言う。貴方は何者ですか?」

「……オリヴィエ・ゼーケブレヒト……だな」

「!?」

 

こちらの質問には答えず、帰ってきた返答は私の質問の答えではなく私の正体の名前だった。

 

声には何の感情も篭ってなく機械と話しているような感覚だ。

 

しかし、私の事を私の名前で呼ぶなんてことはこの世界でガイとアインハルト以外に居るとは思えなかった。

情報戦はしっかりとしてきたはずだ。私が外出するときはフリージア・ブレヒトとなっているので、決して私がオリヴィエだと世間が認識を持つなんてことは無かったはずだ。

 

なのに目の前の男は私の正体を知っていた。カマ掛けかと一瞬思ったが、私の他にも歴史で女性の名を残す者が多数いるのでそれは考えにくかった。

 

何処かで情報が漏れた?いえ、そんなはずは……。

 

「ガイ・テスタロッサのサーヴァント。クラスはファイター」

「……!!……そこまで知っているのですね」

 

情報が漏れている筈がないと考えていたが、どうやら相手はこちらの情報がほとんど分かっているようだ。どこから漏れたのかはわからないがとにかく目の前の男を抑えないと情報がどんどん枝分かれ状に広がって戦況が不利になっていく。

 

「私の存在を知りたいか?」

「“聖杯戦争”のマスターですか?それともサーヴァント?」

 

その男は決して表情を崩すことなく笑みもなく怒りもなく無表情のまま、しかし、殺気は消えないまま答える。

 

「キャスターのマスターだ」

「キャスターの……マスター……」

 

マスターでこれほどの殺気を放つなんて……この聖杯戦争はマスターが強すぎですね。ランサーのマスターもサーヴァントである私と対等に渡り合えていましたし。

 

「キャスターはそこに居るのですか?」

「キャスターは傷を負ったから休養中だ。現れんさ」

「マスターである貴方がサーヴァントである私に勝てると思っているのですか?」

「現にランサーのマスターも君と渡り合えただろう」

「……」

 

キャスター組は情報が豊富すぎる。先の戦いもキャスター組に漏れている。とても危険な組だ。早急に手を打たなくてはならない。

 

「……」

 

と、キャスターのマスターに異変が起こった。キャスターのマスターから刺々しい雰囲気が無くなり、静かな雰囲気に変わって右腕を前に出して内側に曲げ、右手を横にして手の内側をこちらに向けるように構える。

 

雰囲気が変わった?

 

私は今までのどす黒く感じていた雰囲気からいきなり穏やかな雰囲気に変わった事に戸惑いを感じた。しかし、そんな戸惑いは一瞬だった。

 

私は反射的に……いえ、本能的に横へと避けた。避けた瞬間、先ほどまで立っていた私の場所に何かが高速で通り過ぎて、入ってきた後ろのドアに何かがブツかってドアが破損した。

 

視認している暇が無かった。あれは……なんでしょうか?魔弾?それにしてもなんて速い!!

 

キャスターのマスターは魔法陣の展開も無しに“何か”を作成して発射まで一瞬で行ったのだ。

 

私はその事実に驚きつつ、再びキャスターのマスターを視る。キャスターのマスターは特に表情に色を表すことなく、静かな雰囲気のまま私の事を見つめている。

 

しかし、あの雰囲気は何処かで感じた事がありますね。雰囲気……というよりも似たような風景に。

 

そんな考えもしていたが私は一先ず今考えていた思考をやめて、予備動作もなくあの速度の“何か”を撃ってくることに留意し、手甲を握りしめてキャスターのマスターを見据えて構えた。

 

「行きます」

 

私はキャスターのマスターに向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――マンション

 

俺は途中で皆と別れる事が出来ずに部屋まで戻って、先ほどの嘘の言葉が現実となってキッチンに立っていた。

部屋に戻ってすぐにオリヴィエの後を追って行こうとしたのだが、行けなかった。その原因は……俺は隣を見た。隣には……

 

「……」

 

トントンとリズムよく包丁で野菜を切っている、制服の上にエプロンを着たアインハルトが居た。

先ほどドアの前で別れようとしたらアインハルトが何故かこっちのドアに来て、一緒に料理を作りたいと言ってきた。

俺は否定してすぐにオリヴィエの後を追いたかったが、アインハルトの瞳を見ると何か別の強い意識を持っているように見えたので否定することが出来なかった。

 

「……?ガイさん?どうかしましたか?」

 

と、俺の視線に気付いたのか包丁で野菜を切るのを一度やめて、アインハルトは顔をこちらに向けて首を傾げて聞いてきた。

 

「いや、何で一緒に料理を作りたいのかなって」

「オリヴィエに料理を作りたいと思いまして」

 

即答で帰ってきた。だが俺は嘘だとすぐに分かった。いや、オリヴィエに料理を作りたいと思っているのは少しはあると思うけど、それが全てじゃない。

 

「なら俺が居なくても料理は作れるだろ」

「そ、それはそうですが……ガ、ガイさんの作る料理も参考にしたかったので」

「……本当の理由は?」

「うっ……」

 

少し声を低くしてアインハルトの真意を確かめる。アインハルトは言葉を詰まらせて包丁をまな板に置いて顔を少し伏せた。

 

「……オリヴィエと別れた時、覇王の記憶に残っていた一番悲しい時の……オリヴィエと死別した時の面影が被って見えました。その悲しい気持ちが私の胸を満たされてしまって……」

「……」

 

アインハルトは眼から一筋の涙を流していた。

その光景はオリヴィエの記憶を見た時のやつだろう。ゆりかごにはオリヴィエが乗る事になったあの時の光景。

オリヴィエにとっても辛い記憶のはずだ。

 

「だから、ガイさんにどうしたら良いかなって。なかなか口に出しずらくてズルズルとしてしまいまして申し訳ありません」

 

アインハルトは涙を手で拭って、ペコリと俺に向いて頭を下げた。

 

「……心配するな。今からオリヴィエを迎えに行ってくるから、アインは美味しい料理を準備しててくれ」

「で、でも……」

 

ニッコリと俺は笑って頭を撫でてやり、アインハルトの気持ちを紛らわそうとした。

 

アインハルトは何か言いたそうな表情で俺を見ていたが俺の笑顔を見て口を結んだ。

 

「……ズルいですガイさん」

「何か言ったか?」

「いえ」

 

ボソッと何かを言った気がしたが気のせいだったようだ。

 

「それじゃあ、俺はオリヴィエを迎えに行ってくるから」

「はい。では、私は美味しい料理を作って待ってます。ちゃんとオリヴィエと一緒に帰ってきて下さい。約束です」

 

俺は、ああ、と言ってアインハルトに料理を任せて部屋を出た。

 

そして、玄関のドアを閉めて夜空を見上げる。大きな二つの星が輝きが欠けることのない晴天だ。昼間の雲は移動したようだ。

 

俺はアインハルトの話を聞いてから胸騒ぎが収まらなかった。オリヴィエに何かが起こっているのかは分からないが急いだ方がよさそうだ。

夜道で他のサーヴァントに会う可能性もあるがオリヴィエをほっとく訳にも行かない。

 

「頼むぜ、相棒」

『死力を尽くします』

 

首に掛けてあるプリムラの心強い言葉を聞いて、俺は階段を飛び降りるくらいの勢いで駆け下りて、夜の街へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ビルの屋上

 

視界に映るのは灰色一色のみだった。

 

その原因は私は今、うつ伏せになってコンクリートの味を噛みしめているような状態だったからだ。五体満足ではあるが体の腹部と背中に激痛が走る。

 

私は気絶しそうなその激痛に何とか耐えて顔を見上げる。眼の前にはキャスターのマスターが無表情のまま、黒い瞳で私の事を見下ろしている。

 

鉄の味が広がる……どうやら唇を切ったようです……ね……っつ、腹部が痛む。

 

だが、痛みを感じている暇はない。今のキャスターのマスターは私を死の淵へ戻す“死神”と化している。それを避けるために今私は頭をフル回転させている。

 

私はあの時確かにキャスターのマスターに向かって今まで共に戦って来てくれた手甲をブツける気で殴ろうとした。

その時に何かを感じた。うまく言葉にはできないが何か違和感を感じた。

 

そして、私の拳が当たる瞬間、キャスターのマスターは何の呼び動作もなく私の拳をかわし、上着を持っていない右手で私の腹を殴った。

 

その拳はとても重くて衝撃は凄まじく、中の内臓が全て外に出てしまったのではないかという錯覚に陥ってしまうぐらいだ。

 

その間、0.05秒にも満たない速さ。人の反応速度を超えている。

 

何とか僅かに反応出来て、私は後ろへ下がったがそんなのは気休め程度。

その衝撃で私の体はへの字に曲がり、キャスターのマスターは私の背中にひじ打ちを上からかまされて、私はコンクリートの海に叩きつけられた。

 

「“聖王女”とやらも、こんな程度か」

「っぐ!!」

 

侮辱されて黙っていられるほど王家は温厚ではない。その侮辱を受けて私は激痛を忘れるくらいに頭に血が上り、その満身創痍の体を無理やりに起こして立ち上がり大きく後ろへ下がる。

 

「まだ動けるのか」

「ま、まだ、始まったばかりです!!」

 

私は後ろに一発の魔弾に威力を込める“聖王聖空弾”を練成した。

 

「だが、遅いな」

「!?」

 

キャスターのマスターの声が後ろから聞こえた。その時にまた何か違和感を感じたが、それを模索している暇は無く、キャスターのマスターは後ろ向きで私の後ろへ回り込んでいて、後ろ襟を右手で掴んで大きく振り投げるような形で私をフェンスへと投げ飛ばした。魔弾は集中することが出来なかったので消滅してしまった。

 

「がはっ!!」

 

ガシャンとフェンスの音が響き、私を中心にフェンスにクォーターが出来て、磔にされた。何とか金網が外れなかったので漆黒の闇へ落ちる事は無かったが、目の前には右手を横にして手の内側をこちらに向けるように構えるキャスターのマスターが冷酷無比な表情で今、動けずにいる私に止めを刺そうとしていた。

 

私はまた何も守れずに終わるのでしょうか?こんなにも力が弱いから……大した実力もないのに“聖王女”になって、武技において最強とも言われた私は過去の人物。現代の人物においても最強とは限らない。

 

私は……なんて弱い……。

 

『いや、俺はこれほどのサーヴァントが居るならとても心強いと思ったが』

 

でも、ガイはこんな私の事を心強いと言ってくれた。こんな私に……自分の背中を預けなければならない弱い私にその言葉をかけてくれて、私は温かい気持ちが籠って嬉しく感じた。

そんなガイのために私は死力を尽くしたかった。

 

だから、こんなところでは終われない。終わるわけにはいかない!!

 

しかし、そう思っていても体がもう動かせるような状態ではなかった。いくら力を入れてもぴくりと動かない。そして、キャスターのマスターから“何か”が放たれた。私にたどり着くまで0.1秒もかからないだろう。その“何か”が私の活動する肉体を破壊してこの体はただの肉塊と化す。

 

だが、その“何か”は0.1秒たった今でも私に届く事は無かった。

 

“何か”は真上から飛んできた白と青の強調された人ぐらいの大きな“盾”が私とキャスターのマスターとの間に……私を守るようにして私の命を削り取るはずの“何か”を防いだ。

 

「……」

 

キャスターのマスターは僅かに表情を曇らせ空を見上げる。私も痛みをこらえて何とか上空を見上げた。

 

そこに1人の人物が居た。先ほどの攻撃を防いだ盾と似ている二枚の盾を浮遊させ、そのコアであるのか剣の切っ先のように鋭く紋章のような何かが盾よりもその人物の隣で浮遊している。その人物の左手に砲撃のような銃みたいな物を手にしている。

そして、バリアジャケットなのか盾と同じく白と青の強調した服装をしている。

 

ですが、あの栗色のサイドテールをしている人物は……。

 

その人物の特徴をとらえようと見据えたが脳裏には過去にあった1人の人物が浮かび上がってきた。

 

「なの……は?」

 

浮かび上がった人物は私の複製体であるヴィヴィオの母を務めている高町なのはだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――街頭

 

俺はオリヴィエと別れた場所へと向かっていた。斜め上から殺気を感じていたのであの周辺のビルの内部か屋上辺りから放っていたと予測できるので目的地は必然とそこになる。

 

「……人が居ない?」

 

俺は周りの異常な雰囲気に気付いた。さっき皆で帰った時には様々な人たちが行きかっていたはずだ。

しかし、今俺の周りには誰一人居なかった。

 

「きゃは……」

 

何処から声が聞こえた。笑い声とも言うのだろうか。その声を聞いて一瞬、背筋が震えあがったのを覚えた。

まるで相手の事をどうとも思っていなく、四肢を一つ一つ刀や剣で切り裂いていき玩具のようにして笑っているような人物が漏らす残忍な声が連想された。

少し高い声からして女性だろう。

 

「きゃははは~。君がファイターのマスター?何か弱そうだね~。心臓に~一刺ししたら死んじゃうくらいに脆そうだね、きゃははは!!」

 

そして、邪悪な感情的な笑みを表情に出して高笑いしながら目の前に1人の少女が現れた。

 

見た目は身長160センチぐらいでブラウン色でセミショート。瞳は薄汚れているような黄色で残忍な笑みとぴったり似合っていた。

 

服装はピンクと白のアオザイを着ている。顔も整っているので残忍な笑みが無ければそのアオザイはその少女を引き立たせて美少女になるアイテムになっただろう。

 

しかし、あの視線の途方もない量の殺気を放っていないことからこの人物は先ほどの殺気を含んだ視線の張本人ではないと結論付ける。

今俺の事を見ている少女にも殺気を感じるが、あの視線の殺気の質とはまた異なる。

 

「君は何者なんだ?」

 

俺は高笑いしている少女に声をかける。

 

「私ぃ~?私は何だかわかる~?」

「いや、分からないから聞いている」

「しょうがないね~。おバカなファイターのマスター……ガイに教えてあ・げ・る♪」

 

ウインクしながらも残忍な笑みを隠さずにいる少女の横に人物が音もなく現れた。

 

「……!?あの時の!?」

 

その人物は全身プレートアーマーを付けており、白色の甲冑は、何の特徴もない没個性だ。

 

「バーサーカー!!」

「きゃは、きゃはははは。そうだよ、私がバーサーカーのマスター、トレディよ。覚えといてね、ガイ。ああ、でもこれから直ぐに死んじゃうから関係ないか。ここ一帯は人避けの結界張ったから大声出しても人は来ないしね。きゃはははは!!」

 

その目障りな笑い声が耳に響いて不愉快だった。

しかし、今はこのバーサーカーを相手にしないといけない。バーサーカーに集中しているので不愉快なのは二の次だ。

そして、あのトレディと名乗る少女もどんな力を秘めているか分からない。

 

これは絶対絶命……か。

 

俺は絶望的な状況下に居ると判断したので直ぐにセットアップして居合の刀になったプリムラを構える。

 

いや、なんとしても血路を切り開いてオリヴィエと合流しないと。

 

「え?なに?ガイ1人でバーサーカーと戦う気なの?随分と自分の腕に自信があるんだねぇ。そんなガイを見てると私はいろんな所が濡れちゃいそうだよ、きゃははは!!」

 

トレディの戯言は聞くだけ無駄だ。今はバーサーカーの情報が欲しい。

バーサーカーから放たれる禍々しく黒いオーラが凄まじい。

 

邪悪な思念を持っているのか?

 

バーサーカーを見れば見るほど分からなくなっていく。

 

「きゃは、殺っちゃいな、バーサーカー」

 

更に口元を歪めて笑いバーサーカーに指示を出すトレディ。その指示によって、バーサーカーは構えも無しに俺に向かって弾丸のような速度で突進して拳を放ってきた。

俺はそれを何とか反応し紙一重で避けて、鞘走りして抜刀した勢いで横斬りを行う。

だが、バーサーカーはしゃがんで俺の横斬りを避ける。そして、アッパー気味に拳を突き上げてくる。俺はそれを半歩下がって避け、左手に持っていた鞘でバーサーカーに横振りを行った。

バーサーカーはそれも避けて、大きくバックステップを取り距離を取った。

 

この動き……まさか、な。

 

俺は刀を鞘に収めながら考えていた。このような戦闘スタイルを行った人物と戦った事があった。

 

「きゃははは、ガイは意外と動けるのね~。ちょっと惚れちゃいそぉ~」

 

トレディの戯言は無視して、バーサーカーを見据える。先ほどの動きを見る限り、地上戦の白兵戦に特化した英霊なのだろうと理論づける。

 

だから、こいつは多分空を飛べないと思う。

 

俺はそう思って、空に舞い上がった。

 

「ふ~ん、ガイは空中戦をご所望なのねぇ~」

「!?」

 

俺は驚いた。全身に白いプレートアーマーが付いているバーサーカーが空を飛んで俺を追っていた。バーサーカーも空を飛べるようだ。

 

そして、バーサーカーは右の回し蹴りを俺に向かって下から放つ。

 

「っぐ!!」

 

それを何とか鞘で受け止めるが、その間にバーサーカーの左拳のストレートが俺の顔面を下から狙っていた。

 

プロテクションをギリギリ発動させる事が出来たのでそれで受け止める。が、威力が凄まじく、プロテクションが壊れ俺はさらに上空へと強制的に飛ばされた。

 

バーサーカーも一度体制を整えて少し離れた距離に居る俺を追ってきた。

 

「っく、プリムラ、セカンドモードだ!!」

『了解しました、マスター』

 

こうなってはまだ不安定な状態ではあるがセカンドモードで戦うしかない。俺は飛ばされながらプリムラに指示をした。

プリムラはすぐに答えて、セカンドモードに移行した。

 

刀が光り出して、一瞬にして形を変えた。いや、形を変えたと言うよりかは“伸びた”と言った方が正しい。

 

赤い鞘が約四倍に伸び、刃が黒くそりが白い刀身もそれに伴って伸びている。これでは普通に抜く事は出来ないだろう。普通なら。

 

「行くぞ、バーサーカー」

 

俺は向かってくるバーサーカーに対して急降下した。そして、そのまま鞘走りを行った。人間の構造上、鞘から抜刀するためには右手と左手が伸ばせる距離までの刀身と鞘が無いと抜く事が出来ない。

 

そして、このセカンドモードの刀は明からに右手と左手が伸ばせる距離を超えている。どのようにして抜くか。

 

答えは簡単だった。

 

俺は鞘走りから抜刀した……鞘をバインドして。

 

「!!」

 

トレディは驚いている様子が視認出来たが、俺はバーサーカーに注意を向けて、そのまま刀身の長い刀を横斬りした。

 

バーサーカーはそれを右腕で防いだ。

 

「はああああぁぁぁ!!」

 

しかし、バーサーカーは受け止めた刀の衝撃が強くて、手のプレートが壊れて横に大きく飛んで行った。

 

鞘を持つ必要が無くなった左手も柄を握っているので両手持ちで居合抜きを行ったのだ。威力が高くなるのも当然の事だ。

 

「へぇ~、なかなかやるじゃない、ガイ」

「!?」

 

さっきまで地上に居たトレディだったが、いつの間にか目の前に居て、俺に踵落としを喰らわそうとしていた。

トレディも空を飛べたのだ。

 

「っぐ!!」

 

俺は両手持ちで刀を握っていたのでガードする暇が無く、踵落としを左肩にまともに受けてしまい地面へ落ちていく。

 

俺は必死に飛行を行い、何とか地面にぶつかること無く着地した。

 

「はぁはぁ、プ、プリムラ、ファーストモードに……」

『分かっています』

 

息が上がっていた。やはり戦況はまずい方へと傾いている。

 

俺は自分の身長以上ある刀を最初の状態に戻した。

あれほど長い刀と鞘は地上で使うのはかなり難しい。バインドをうまく使えばやれなくはないが、長いすぎるので行動に制限が掛ってしまう。

本当に空中戦で使う武器だ。

 

音もなくトレディは俺より少し離れた地上に降りてきた。バーサーカーもトレディの隣に降りる。

 

再認識したが現状は1対2だ。どちらにも注意を払わないといけないのはとてもキツい。

 

バーサーカーが中距離で構えてきた。俺はなるべくそっちに留意して警戒した。正直、あのバーサーカーは何をしてくるか全く予想が出来ない。

そして、バーサーカーは拳を右拳を回転するように放った。

 

無数の……かまいたち!?

 

バーサーカーの拳からあり得ない量の真空刃が飛んできた。全ては俺を切り裂く死神の鎌と化して。

 

俺はセカンドモードに魔力を使ったので、残りの魔力値は少ない。その残り少ない魔力を全て絞り出して、プロテクションを目の前に展開した。

 

ガリガガガッ、と、プロテクションに真空刃がぶつかる音が響く。そのプロテクションにひびが入った。

 

「っく!!」

 

そして、パリンとプロテクションが割れて、まだ新品状態の真空刃が俺を襲う。

 

顔を伏せて両手をクロスして頭や心臓などの急所の部分を何とか防ぐ。しかし、その他の至るとこに刀で斬りつけたのような斬り傷がについてしまった。

魔力をすべて使ってしまったのでバリアジャケットが維持できなく、航空部隊の制服に戻っている。

航空部隊の制服がボロボロだ。

 

「!?」

 

俺は足に力が入らなく、片膝をつく。魔力も肉体も限界なようだ。

 

「あらん、ガイはもう限界ねぇ~。これはこれは絶対絶命ねぇ~。この戦争の最初のリタイアはガイかしらん~?」

 

何とも楽しそうな声で残忍な笑みを溢すトレディ。

 

「……楽しそうだな、トレディ」

「楽しいわね~。相手に止めを刺す時が何とも言えない快感よねぇ~。こいつはまるで私に殺されるために生まれてきたんだってねぇ~、きゃはははは!!」

「……」

 

こいつは危険な思考を持っている。

人殺しを何とも思っていない。そこら辺に生えている雑草をむしり取るような感覚で人殺しを行っている。

 

トレディが居るだけでも不幸になる人物は現れる。こいつは手放しに放っておいてはいけない。

 

「それじゃあ、ガイ、バイバ~イ」

 

トレディはニッコリと悪魔な笑みを浮かべ、手を振りながらバーサーカーに指示を出した。バーサーカーは俺に向かって走り出し、右拳を放ってきた。

その速さは見切れたが体が限界なのか動かす事が出来なかった。

 

目の前には避けることのできない死の感触。

 

俺は死ぬのか?まだ何も成し遂げていないのに……夢を実現させないままで終わってしまうのか?

 

『私がガイに召喚された時からこの拳はガイの勝利のために振ると忠誠を誓っています』

 

不意にオリヴィエの言葉が蘇ってきた。

 

弱い俺のために、昔の王家で羞恥心をあまり持たず、武技において最強を誇っていた王女が勝利を誓ってくれた。その言葉を聞いた時とても心強いと思った。

 

『では、私は美味しい料理を作って待ってます。ちゃんとオリヴィエと一緒に帰ってきて下さい。約束です』

 

アインハルトの言葉も蘇った。料理を作って俺とオリヴィエの帰りを待ってくれている。

 

帰らないと。アインの居るマンションへ。アインとのオリヴィエと帰る約束を守らないと!!

 

俺は細胞の一つ一つに動けと脳から電気信号を送って、動かすことのできない体を無理やり動かし、鞘走りをしてバーサーカーの右拳に合わせて鍔迫り合いの状態に持ち込んだ。

 

「まだ、そんな力が残ってるの~?しぶといね~」

 

だが、それもただの悪足掻き。鍔迫り合いも俺が押される形になる。

 

「っぐ!!」

「きゃははは!!早く死んじゃいなよ~」

 

トレディのテンションは更に上がっていた。早く俺に止めを刺したいのだろう。

 

しかし、突然目の前のバーサーカーが視界から消えた。俺は一瞬何が起きたのか理解できなかった。

 

「……」

 

眼の前にはバーサーカーの代わりにフードを深くかぶって顔を晒さずに、バーサーカーに横から拳を入れたのか、正拳を放ったモーションのまま立っていた。

 

「なにぃ、あんた誰ぇ~?」

 

トレディは楽しみが奪われてしまったからか声を低くして不機嫌な声になっていた。

 

「Aaaa……Aaaaa!!」

「!!」

 

だが突然、飛ばされて少し離れているバーサーカーが枯れきった声で雄叫びを上げた。その雄叫びを聞いて、フードを深くかぶった人物は僅かだが何かに反応した気がした。表情は相変わらず見えないが。

 

「ちょ、ちょっとぉバーサーカー!?何、雄叫び上げてんのよぉ~」

「Laa……AaaaaLaa……Aaaa!!」

「ええい、まだバーサーカーのコントロールがまだ安定しないわねぇ~。まあいいわ~。ガイ、殺すのはまだ後にしてあげる。今日は引いておくから次会う時まで自分の死に際を決めといてね。焼死、水死、圧死、斬死。何でもいいわよ~、きゃははは!!」

「……」

 

そして、トレディは最後に残忍な笑みをこちらに向けて、バーサーカーと共に飛んでこの場から消えた。

 

この場に残ったのは俺と突然現れたフードを深くかぶった人物。

 

こいつは何者だ?まあ、ここに居るってことはやはりこの聖杯戦争のマスターかサーヴァントか?

 

俺はフードを深くかぶった人物が何者か知りたかった。しかし、助けてくれたのは事実なので礼だけも言っておくことにした。

 

「さっきは助けてくれてありがとう。おかげで生き残れたよ」

「……」

 

その人物は決してフードを取ること無く、俺の返事の代わりに首を縦に振った。

 

「でも、君が何者かはわからないけどここに居るってことはマスターかサーヴァントか?」

「……」

 

だが、その質問には何も反応を示さず、俺に近づいて、手を握る。その手はとても暖かい温もりを感じた。

 

傷が僅かに癒えた?魔力も少しだが回復した。

 

そして、その人物は手を離し走り出して、あっという間に見えなくなった。

 

「悪い奴じゃなさそうだが」

 

俺はよく分からない人物が現れて困惑してしまった。

 

俺を助けてくれた上に傷を少しだが癒してくれた。敵であることに間違いは無いのだが、ここまで敵に塩を送るとは。

 

「っと、急いでフリーと合流しないと」

 

俺は傷が少し癒えても笑っている膝に喝を入れてオリヴィエと別れた場所へ歩き出した。こんな状態でオリヴィエの援護に行けるかはわからないがとにかくオリヴィエが心配だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ビルの屋上

 

しかし、何故なのはがここに?しかも合宿の時に見た武装とはだいぶ違う。

 

「……“アーチャー”か」

「うん、私のクラスは“アーチャー”だよ」

 

キャスターのマスターが質問した返答にアーチャーは自分のクラスを隠さずに公表した。まあ、左手に持っている砲撃のような銃から簡単にアーチャーだと想定されてしまうだろう。

そして、その声は紛れもなくなのはの声だった。

 

「そして“高町なのは”か」

「まあ、この世界じゃ結構名が知れ渡っちゃっているから隠し通せないもんね」

 

やはり浮遊している人物はなのはだった。

 

なのはも英霊になっていたのでしょうか?ですが、現代になのははまだ生存している……ということはあのなのはは未来のなのは?あの武器は初めて見ますし。盾が三つに見たこともない銃。

 

私は何とかフェンスから体を離して、左手で右肘を押えながら空を見上げる。やはりどう見てもなのはだ。見間違えることはない。だが、その武器は見たことも無い武装だった。

 

「そこまでだ」

「……」

 

と、更にキャスターのマスターの声でもなくなのはの声でも無い、第3者の声がこの戦場に響いた。

 

私はその声の発生源へ視線を移した。

そこには白と黒の二本の剣を持っている薄い赤のかかった短髪に薄い黄色い眼をした少年が、キャスターのマスターの後ろから片方の剣をキャスターのマスターの首筋に切っ先を当てていた。

 

「……衛宮士郎か」

「俺の名前までも調べているのか」

「魔術師の端くれでもありながらも大禁呪である“固有結界”を使う事が出来る」

「……そこまで調べているとはな」

 

その少年の頬に汗を掻いていたのが分かった。驚きを隠せないでいるのだろう。

 

「1つ聞きたい事がある」

「……何だ?」

 

衛宮士郎という少年がキャスターのマスターに質問した。

 

「あんたは何のためにこの聖杯戦争に参加している?」

「……」

 

キャスターのマスターは考えているのか即答で帰ってこなかったが、少し顔を伏せたのが分かった。そして、答える。

 

「……因縁を断ち切るためだ」

 

私は耳を疑った。その言葉はとても優しい声に聞こえたからだ。

 

いや、実際に優しげな声なのだろう。さっきまでは何の感情もないような声ばかりだったのが、今の言葉に優しさがあったので私は耳を一瞬疑ったのだ。

 

「それは周りを巻き込まないと出来ない事なのか?」

「それ以上答える義務はない」

 

しかし、再び何の感情もこもっていない声に戻り、キャスターのマスターは突然に動きだした。

 

「!!」

 

私はキャスターのマスターが移動したその時にも何か違和感を感じていた。

 

うまく説明できないこの違和感は何でしょうか?

 

そして、衛宮士郎は相手が突然動いたので手に持っている得物を急いでキャスターのマスターに振ったがただ空を斬っただけだった。

 

キャスターのマスターは衛宮士郎の後ろに回り込んで、背中にあのとても重い右拳を放つところだった。

 

だが、それはガシャンとキャスターのマスターと衛宮士郎の間に降りてきた盾によって防がれた。

 

「っく!!」

「マスター!!」

 

キャスターのマスターは拳が届かなかったことに表情を曇らせて、空中に待機していたなのはは衛宮士朗の所へ急降下してくる。私の目の前にあった盾も再び動き出して衛宮士郎の所へ飛んでいく。

 

「同調、開始(トレースオン)!!」

「!?」

 

だが、私は飛んでいく盾よりもあの少年の動きに驚きを隠せないでいた。手に持っていた二本の剣を手放して、素手で戦うのかと思ったら何もないところから武器が現れた。

その武器は鞘と刀のガイが居合で使うようなモノだった。

 

衛宮士郎はそれを居合のように構えて、キャスターのマスターに鞘走りしながら抜刀した。

 

「“水月”!!」

「っく!!」

 

“水月”?あれは天瞳流抜刀居合“水月”か?ガイが使っていた技と同じ?

 

居合は抜刀の瞬間こそ最速が完成する。静止した姿に勢いが秘められているモノ。天瞳流抜刀居合は抜刀時の最速が底上げされている流派だとガイから聞いた。

 

キャスターのマスターは避けようとしたようだが、周りにはいつの間にか三つの盾がキャスターのマスターの進路を防ぐように囲んでいたので身動きが取れなかった。目の前だけは開いていたが、そこには衛宮士郎の抜刀術が放たれているので、避ける事は出来ない。

 

キャスターのマスターはそれをプロテクションで何とか受け止める。

 

「っく、なかなかやるな、衛宮士郎。偽善者のくせに」

「確かに俺はこのまま理想を貫けば偽善者になるだろう。だけど俺は“あいつ”のように理想を抱き続ける。夢の果てにあるモノが偽物だとしても最後までその理想を貫き通したように。“あいつ”は自分には持ちえない理想だからこそ、その尊さに涙し憧れた。借り物の理想だとしても貫き通せばそれは……」

 

夢の果てにあるのは偽物……借り物の理想……あの少年は何か特別な理由が多そうですね。

 

さまざまな思考を巡り合わせている少年がとても儚げに見えた。

 

「……ふんっ」

「!?」

 

まただ。また何か違和感をキャスターのマスターから感じた。

 

「なっ!!」

「消えた……」

 

それと同時にキャスターのマスターが消えて、衛宮士郎となのはは驚いていた。

 

『そんな理想を抱いているからこそ……己自身を捨てる運命になると言うのに気付かないのか?』

 

そして、キャスターのマスターの声が脳に直接聞こえてきた。

 

「俺は自分の理想を貫き通す。何が何でもな」

『……お前の理想、皆が幸福であってほしい願いなどおとぎ話だ』

 

その言葉を最後にキャスターのマスターの声は聞こえなくなった。衛宮士郎はそれを聞いて歯切りを鳴らしていた。

 

「“あいつ”と同じことを言いやがって」

「……マスター。あの人物はかなりの情報を持っていると思うよ。早めの対策が必要だね」

「……ああ、そうだなアーチャー」

 

衛宮士郎は歯を喰いしばっていた事に気付き、一度冷静になって、そう言いつつ、手に持っていた刀を消した。なのはは私の方を見て複雑な表情をした。

 

「貴方はフリージアさんだよね?」

「……ええ。あなたはこの世界だと……未来から来たなのはでしょうか?」

 

このなのはは私の本名を知らないようだ。そして、私の質問にこくりと頷く。

 

「うん、私はこの世界だと未来の人になるね」

「お、おい、アーチャー。情報を少し漏らしすぎだぞ」

「あ、マスター。ごめんね」

 

衛宮士郎に指摘されて朗らかに笑うなのは。

 

「……どうか、ガイ君をちゃんと守ってあげてね」

「わかっています。ですが……なのは。私は貴方と敵同士になるし、ガイも貴方の敵になる」

 

私は少し視線を斜め下にズラした。マスターがガイだとバレている。このアーチャーが“高町なのは”だからか?

 

「それはしょうがないよ。でも、もしぶつかり合う事になったら容赦しないからね」

「……望むところです」

 

満面な笑顔を見せてくるなのはは、やはり現代に居るなのはと同じ笑みだ。

 

「行こう、アーチャー。ああ、それとフリージアだっけ?」

 

衛宮士郎はなのはを霊体化させて、私の方を振り向く。

 

「はい、何でしょうか?」

「ガイの理想……叶うといいな」

「……」

 

その問いに私はなんて答えればよいか分からなかった。

 

『皆が幸福であってほしい願い』

『誰もが不幸にならないような世界』

 

衛宮士郎とガイの願いは何処となく類似点が多かった。

 

「そう……ですね」

「ああ、きっと叶うさ」

 

衛宮士郎は笑って、ビルの屋上を後にした。

 

私は夜空を見上げた。大きな二つの星が戦いの始まりの時と変わらず、輝きを失わずにこのビルの屋上を少しだけ照らしている。

 

「衛宮士郎の理想……ガイの理想……そして、私の理想……」

 

しかし、そんな光景など頭には入らず私の心中はかなり複雑だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺はオリヴィエと別れた場所までやってきた。先ほどは人避けの結界を張っていたとトレディが言っていたので人はいなかったが、ここはまだそれなりに人がいるようだ。

 

「どのビルだ?」

 

俺は周りを見渡す。ビルが道路に沿って延々と並んでいる。それを一つ一つ調べるのはかなり骨が折れる作業だ。

 

「ガイ……」

「ん?」

 

そこに、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。しかし、その声には何か覇気が無い。振り向くとオリヴィエが居た。

 

オリヴィエが生きていた事に俺はホッとした。

 

「……無事か?」

「ええ」

 

だが、やはり覇気が無く元気も無さそうだ。こんなに落ち込んでいるオリヴィエを見るのは初めてだ。

 

「……とりあえず、帰ろうか。アインが待ってる」

「アインハルトが?」

「美味しい料理を作っているってさ」

「そう……ですか」

 

俺は人がまだ行きかっているここでいろいろ聞くのも良くないのでマンションに帰る事にした。オリヴィエも俺の後をついてくる。

 

今日の事を互い話し合わないと。俺の出来事も濃厚な内容だったが、オリヴィエの方が上かもしれないしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――マンション

 

俺とオリヴィエはドアの前に立っていた。

 

「アインが居るんだ。そんなしけた顔はするなよ」

「ええ、分かっています」

 

オリヴィエは笑顔で答える。だが、まだ考え事をしているのか少し表情が浮かない。

 

「……開けるぞ」

「はい」

 

俺は少し心配したがいつまでも玄関前に立っているのもしょうがないので、ドアを開けた。

 

「ただいま」

「ただいま戻りました」

 

そして、中からアインハルトが出迎えてくれた。

 

ここは俺の部屋なんだけどな。

 

とりあえず、俺はアインハルトとの約束が守れたことにホッとした。

そして“ただいま”の言葉に返してくれる言葉がとても温かった。

 

「“お帰りなさい”ガイさん、オリヴィエ」

「アインハルト、お腹が空きました。ガイがアインハルトが美味しい料理を作ってくれると聞いたので楽しみにしています」

「はい、テーブルに並べてあります。皆で食べましょう」

 

俺とオリヴィエは日常と非日常の拠点となる俺の部屋へと戻った。




士郎さんが正式にマスターとし登場しますた。

トレディと言うマスターも登場しますた。

未来のなのはさんがサーヴァントとして登場しますた。

やりたいことにまっしぐらな作者です、はいw

しかし、キャスターもキャスターのマスターもバーサーカーもフードを被ったキャラも未だに謎めいているキャラですけどね、フラグだと思ってくだされば。

そこまで俺の筆力で書けるかは分かりませんが。

何か一言感想がありますと、とても喜びます。

では、また(・ω・)/
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