魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

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半年に一回の恒例イベントのために東京ビックサイトに行ってきたので上げている暇が無かったorz

ネタ探しにvivid本を買いに行ったら10冊ぐらいあったから良かった良かったw

色々とイメージしやすくなりました。

……はい、どんな言い訳をしても投稿が遅れていたことに関しては誠にすいませんm(_ _)m

では、17話目入ります。


十七話“学園と非日常の交差”

―――St.ヒルデ魔法学院 中等科 教室

 

「え~、ですからiを使った虚数式は……」

 

先生が黒板に高等科ぐらいに習う虚数のiを使った数式を書いている。生徒達もその授業に真面目に取り組んでノートにその数式を写していた。

 

普段、ふざけている生徒もこの日はとても真面目になる。いや、真面目で無くても真面目なふりをしていなければならない。

 

「……」

 

私ことガイ・テスタロッサは何故かこのSt.ヒルデ魔法学院中等科の教室で一番後ろに立ってぼんやりと黒板を眺めている状況に立たされている。

 

周りにはここのクラスの生徒たちである親御さん達がひそひそと話をしながら授業を見学している。

 

そう、今は授業参観なのだ。子供たちが学校でどのような生活態度を送っているのかを授業の時に親御さんは見学して確認するための行事。

 

ふざけている生徒も親が後ろに立っているとなると、後で何を言われるか分からないから真面目なふりをするわけだ。

 

「あの~貴方、とても若そうに見えますけどどちらのお子さんのお父さんですか?」

「いえ、兄です。両親とも仕事が忙しいので代わりにアインの事を見学しに来ました」

 

隣に居た化粧をして小奇麗な恰好をしている親御さんに疑問の色を表情に出して、授業の邪魔にならないように小さく声で俺に問いかけてくる。

 

確かに周りの親御さん達は見た目でも3~40歳代の人たちだと分かる。その中でも俺は18という成人にもなっていない年なので見た目からしても少し浮いているのだろう。親御さん達から見れば疑問に思う事だろう。

周りの親御さんもちらちらと俺に視線を向けてくる。

 

「アインってアインハルトちゃん?あの窓際に居る可愛い子のこと?」

「ええ、あの子ですね」

 

その親御さんが窓際に視線を移したので俺もつられて窓際に視線を移す。

 

後ろ姿だが、背もたれに背を付けず姿勢を正したアインハルトが真剣な表情で授業を受けている光景が視界に入る。

文武両道と言っていたアインハルトは“文”においてもしっかりとしているようだ。

 

「家の子はアインハルトちゃんが好きなのよね~」

「は、はぁ……」

 

どうやらクラスの中にアインハルトに好意を持っている生徒が居るようだ。確かにアインハルトは顔も整っているし、物静かだし、成績も優秀だ。モテる理由はいくつもある。

 

「それにしても、あの子本当に可愛いわよね~。あの赤くて大きなリボンもとっても似合ってるし」

「アインはクラスでモテているのかも知れませんね。それは兄としてちょっと嬉しいし、ちょっと嫉妬したりもしますけど」

 

いかにも兄妹っぽい話をしようと俺は頭の中で必死に言葉を探して会話に出す。

 

「ふふ、兄弟愛か過保護なお兄さんってやつかしらね。でも、それにしても貴方、本当にアインハルトちゃんのお兄さん?髪も眼の色も全然違うけど?」

「自分は養子なんです」

「あら、そうだったの~」

 

隣に居る親御さんと小声で雑談を続けた。

 

で、なぜ俺が授業参観でアインハルトの親の代わりにでここに居るかというと、昨日帰って来た時にアインハルトからこんな話があったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――マンション 夜

 

「授業参観?」

「はい」

 

俺とオリヴィエは俺の部屋に帰ってアインハルトの美味しい料理を食べて、一息ついていたところにアインハルトから授業参観の話を持ちかけてきた。

 

そのアインハルトは座って、少し頬を赤く染めて視線を斜め下に逸らし体をもじもじとしている。

 

「あ、あの、もしよろしければ……ですが、ガイさん、来ませんか?」

「ええと、アインの親御さんはどうしたの?」

「……あ、え……えと」

 

何やら言いにくそうな表情を見せてくるアインハルト。そう言えば海岸第六警防署でノーヴェと喧嘩両成敗にした時にアインハルトの親が来なかったとノーヴェから聞いた。

 

という事はアインハルトの親は……。

 

「ああ、悪い。失礼な事を聞いた」

「?」

 

アインハルトは先ほどの表情から一変、戸惑いの色を表情に出して首を傾げて俺を見上げてくる。

 

俺はアインハルトと親の話はやらないようにしようと思った。

 

そして、いろいろと表情を変えてくるアインハルトがやっぱり面白いと感じてしまう。そこに笑いの表情があれば一番良いが今のアインハルトにはそれが無い。

 

アインハルトは周りのクラスメイト達には親が居るから羨ましく思っているんだろうな。親たちと話をしているクラスメイトを見て寂しい気持ちが胸に残るんだろう。それを感じたくないために俺を授業に呼ぼうとしているのかな。

 

「まあ、明日は土曜日だし俺でいいんなら行くよ」

「……はい。ありがとうございます」

 

俺から了承の言葉を受け取ったからか、アインハルトはその場で頭を下げた。そして、再び頭を上げて今度はオリヴィエの方を見る。

 

「あのオリヴィエも良かったらどうでしょうか?」

「……いえ、私は……」

 

今まで沈黙を保って俺たちの会話を聞いていたオリヴィエが少し重みのある沈んだ声で声を出した。

 

「すいません、アインハルト。明日は大事な用事があるので私は出る事が出来ません」

「そう……ですか」

 

オリヴィエも表情が少し硬く元気がない。

 

玄関前ではアインハルトの前でしけた表情はやめろと言ったんだけどな。

理由は分からないがあの殺気を出していた人物と何かあったのだろう。

 

そして、元気がないオリヴィエに行けないと言われ、残念そうな表情で顔を伏せるアインハルト。

 

「俺が明日行ってやるから、そんな残念そうな表情をするなよ」

 

そんなアインハルトを見ると何とかしてやりたいと思ってしまい、アインハルトの頭を撫でながら笑みを向ける。

 

「こ、子供扱いしないで下さい……」

 

口で否定しながらも頬を赤く染めて俺から視線を離す。俺の手を振り払わない限り、まんざら子供扱いされても嫌でもなさそうだ。

 

「で、では、明日、四限目の時間帯に来てください。一応、私の兄として振舞ってください」

 

そう言って、アインハルトは俺の手から離れて立ち上がり、赤面のまま逃げるようにして俺の部屋を後にした。

 

「“兄”……ね」

 

そのフレーズにはヴィヴィオ達に言われてちょっと違和感が残ったのを覚えている。明日がちょっと不安になった。

 

ついでに玄関からまた何かがぶつかった音がした気がするが気のせいとしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なので、虚数というiは二乗するとマイナスになるのです」

 

ああ、そういえばこんなのやったな~。

 

俺は隣に居た親御さんとの雑談を終わらせて、再び黒板に書かれている数式を眺めていた。

存在しない数字“ⅰ”を使った数式だ。

 

通常、数字はマイナスでも二乗することでプラスになる。だが、虚数というⅰは二乗したらマイナスになる存在するはずのない数字だ。

 

訓練校の高等科に出てきた公式だ。今ではノートを見返さないと確信が持てないぐらいにおぼろげな公式だったが黒板を見て、確信が持てた。

 

と、そんな事を考えていると教室のスピーカーから鐘の音が鳴り響いた。

 

「ん、もうそんな時間か。では、今日はここまで。宿題ちゃんとやっとけよ」

 

鐘の音が鳴り響き、教師は教卓の上にある書類を整理して授業の終わりを告げた。教師が出ていくと、静かだった教室は緊張の糸が緩んだ生徒たちの雑談の声で活気が溢れた。

 

親たちも教室から出て行ったり、自分の子供に声をかけたりして雑談の活気は更に大きくなった。

 

俺も行事が終わったし帰るかなと考えて、ふと、アインハルトの居た席を見ようとそちらに顔を向けると、いつの間にか目の前にアインハルトが俺の事を見上げて立っていた。周りからも視線がちらちらとこちらに向けられている。

 

あの人誰?とかアインハルトから近寄っていくなんてとかが聞こえる。

 

まあ、アインハルトは物静かでありちょっと内気な女の子でもあるから自分から寄って行く行動が珍しいのだろう。

 

「お昼です」

「ん?ああ、確かに四限目が終わったからお昼休みだな」

「ええ」

「俺は授業参観も終わったことだし帰ろうかなと思っているんだけど」

「……?いえ、まだ授業参観は終わってませんよ」

「え?」

 

授業参観は終わっていない?どういう事だ?確か今、授業が終わったはずだよな?

 

俺が疑問が湧いて首を傾げるとアインハルトは何かを思い出したかのように申し訳なさそうな表情をして視線を右下にそらした。

 

「も、申し訳ありません。昨日は確かに四限目に来て下さいと言いましたが、授業参観はお昼休みを挟んで四限目と五限目にあるので、まだ終わっていません」

「あ、そうだったの?」

 

どうやらここの学院の授業参観は二限分あるらしい。アインハルトは俺に視線を戻した。

 

「それにお昼休みに親子がコミュニケーションを取るのも目的の一つらしいです」

「なるほどね」

 

ああ、それには確かに納得できる。最近、子供への虐待行為を行っている親が増えてきているとニュースで視た事がある。その原因はやはり親と子のコミュニケーションがうまく取れていない事も原因の1つだと言っていた。

 

「ん~、となると飯を持ってきてないな。アイン、ここに学食や購買部なんてものはあるのか?」

 

まあ、アインハルトとのコミュニケーションはひどいわけではないと俺は思っているのでそこの話は横に置いといて、今は午前で終わると思っていた授業参観が午後にもあると聞いて、お昼ご飯を用意してこなかった現状をどうしようかとアインハルトに問いかける。

 

すると、アインハルトはとても言いにくそうな表情で頬が赤くなっていき、先ほどよりもさらに右下に視線を再び逸らした。

 

「も、もしよければですが、私のお弁当を食べませんか?」

「ん?アインの?」

「え、ええ」

 

アインハルトのお弁当を二人で分けるとアインハルトの分が少なくなってしまう。今が成長期のアインハルトなのだから食事はしっかりと取った方がいいだろう。

 

しかし、そんな表情で問いかけられるとその好意を断るに断りづらい。

 

「そうするとアインの食べる量が少なくなるよ?」

「あ、え、えと、ガイさ……兄さんの分も作ってありますので大丈夫です」

 

俺の事をガイと呼ぼうとしたアインハルトは訂正してお兄さんと言い直す。どうやら俺の分も作っていたらしい。

“兄”のフレーズを聞いて背中が少しムズムズしたしたけど今は考えないでおこう。

 

「……用意してくれたのなら頂こうかな」

「はい」

 

アインハルトは俺が食べる事になって嬉しかったのか、急いで自分の席に戻って弁当を鞄から取り出す。

 

しかし、五限目にあった事を忘れて弁当は用意してくれて……わざとか?

 

ちょっと疑問に思ったが、アインハルトは天然だと思ってその考えを終わりにした。

 

そして、アインハルトと話を始めた時に感じた生徒たちの視線は今は俺に集まっている。男女問わず、俺の事に関しての話し声が聞こえる。賛否両論だが。

 

「あれがアインハルトさんのお兄様?あまり上品では無さそう」

「でも、あの物静かなアインハルトさんとは仲が良さそうですね」

「アインハルトさんとは全然似ていないわね」

「あのアインハルトさんがあそこまで気を許せるなんて……その兄の立場を寄こせ」

「顔が赤くなっているアインたん、マジ天使」

「アインハルトさんの兄か……一度ご挨拶をしておくかな。そして、その背後から……くっくっく」

「俺のアインたんが~!!」

 

特に男子生徒たちからは批判の声が耳に入る。てか、最後の奴、アインハルトはお前のモノではないよ。

俺は乾いた笑みで表情が固まっていたのが自分でも分かった。アインハルトはやはり人気者のようだ。

 

「お待たせしました……兄さんどうかしましたか?」

 

弁当箱を手に持って戻ってきたアインハルトが俺の表情を見て疑問を投げかけてくる。

 

「……いいや、何でもない。それじゃ、行こうか」

「え、ええ」

 

俺は年下でもある生徒達に殺気に近い視線を向けられたので、その場を逃げるために疾風の様に素早く教室から出ていく俺をちょっと戸惑いながらもアインハルトもついて来た。

 

出て行った後の教室の雑談がさらに大きくなったのはきっと気のせいだろう。

 

後から聞いた事なのだが、どうやらここの学園には非公認のアインハルトのファンクラブが存在しているとの事。

 

アイドルに近い存在のアインハルトなのだと分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――中庭

 

この学園の中庭には大きな木があり、その下の木陰になっている何個かのベンチが今の暑い時期に外に出るには涼しい場所だ。

 

毛虫とかの虫が落ちてこないらしく、定期的に薬剤を巻いているのだろう。

 

そのベンチの1つに俺とアインハルトは座っていた。

 

「木漏れ日がいいな」

 

俺はベンチから日の光を手で軽く遮って真上を見上げる。木々から漏れる日の光が何とも言えない幻想的なモノだ。

 

うちの隊舎のベンチの裏にもこんな大きな木があれば良かったんだけどな。

 

「そうですね」

 

隣に居たアインハルトも俺と同じような姿勢で見上げる。

 

少し風が吹けば葉と葉の擦れる音がまた良い。

 

「さて、飯でも食べるか」

「はい、お口に合うか分かりませんがどうぞ」

 

俺は視線をアインハルトに向ける。膝の上には弁当を包んである布を開いて、同じ形の弁当箱が二つ並んでいた。

アインハルトはそのうちの一つを俺に渡してくる。

 

「ありがと。んじゃ食べるか」

 

細丸いピンクの弁当箱の蓋を開ける。中は許容量の半分がご飯で詰められて、卵焼きにタコのように切ったウインナー二つ、そして、野菜炒めが詰められていた。

 

おかずの色が様々なので見た目がとても美味しそうだ。食欲をそそられる。

 

「いただきます」

「はい、いただきます」

 

俺は箸を持って、卵焼きを挟み口に入れる。アインハルトは自分のを食べずに俺の方を見ていた。どんな感想が聞けるのか気になるのだろう。

 

「うん、美味い」

「ほ、本当ですか?」

「嘘はつかないよ」

 

美味い事が嘘でないとわかり、ホッと一息ついて自分の料理に手を付けた。

 

お世辞抜きでうまいのは確かだ。アインハルトは料理の腕がある。

 

「卵焼きにはやっぱりマヨネーズと水を入れているのか?」

「はい、ふっくらとした卵焼きを作りたいと思いましたので」

「うん、美味いわ」

 

アインハルトの卵焼きはやはり美味い。ご飯が進む。

 

「これならいい嫁さんになれるよな」

「むぐっ!?」

 

ご飯を食べていたアインハルトは俺の言葉に喉を詰まらせてしまい、急いで紙パックのジュースに挿してあるストローを口に付ける。

 

「だ、大丈夫か?」

 

俺はアインハルトの背中を軽く擦ってやる。アインハルトは口を右手で押さえつつ、左手で大丈夫だと手でレクチャーして真っ赤な顔をしたまま呼吸を整える。

 

そして、喉を鳴らして一呼吸を入れて未だに顔が赤いまま俺の方を睨みつけるように見る。

 

「へ、変な事言わないで下さい」

「……?何か変な事言ったか?」

「……い、いいお嫁さんになれる……とか……」

 

最後の方の言葉が小さくなって聞き取りずらかったが何とか拾えた。

 

「フリーも言っていただろ?いいお嫁さんになれるって」

「で、ですが……そ、それは……ガ、ガイさんの……」

 

小さかった声が更に小さくなって殆ど聞こえなくなった。

 

「ま、別に変なことではないだろ?」

「……べ、別に変ではないですが……」

 

アインハルトは自分の言っている事が正論では無いと思い始めたからか、少し俯いて視線を逸らす。

 

「だろ?別に変なことではないと思うぞ」

「そ、それは確かにそうですが……」

 

アインハルトは語尾を濁して何か納得のいかない表情で考え込んでしまう。あまりこの話はしないほうがいいかなと思い、話を変える事にした。

 

「あ~、そう言えば昼ごろに帰ると思っていたからフリーに昼飯を作って無かったな」

「え、そうだったんですか?」

 

アインハルトは納得していない表情から一変、オリヴィエの話になると俺に顔を近づけてきた。

相変わらずオリヴィエに対しては興味津々のようだ。これもアインハルトの中の覇王の血が原因だろう。

 

「まあ、最近のフリーは食事を作る事が出来るから大丈夫だとは思うけどね」

「なら良かったです」

 

お粥を作ってくれた事があったが、キッチンを見ると荒れ果てた戦場になっていた。

次の日の朝のキッチンの掃除が大変だったのは覚えている。あれは誰も教えていなかったからで、今は俺が簡単な料理のモノは教えているから今は大丈夫だ。

 

俺たちは雑談をそこそこに弁当箱に視線を戻して箸を進める。沈黙が続いたが居づらい雰囲気ではないので黙々とアインの料理を口に運ぶ。

 

「ガイさん」

「ん?」

 

少ししてアインハルトから声を掛けられた。

 

「ガイさんは何故親元から離れて1人暮らしをしているんですか?」

「えっ……」

 

意外な話に俺は一瞬言葉を詰まらせた。この沈黙を破りたいから何かを話そうと無意識にか気になっていたモノを話題にして振って来たのかもしれないが、その話題はちょっと困った。

 

「あ、言いたくなければ別に……」

「そういえば、アインには1人暮らししている理由を話していなかったかな」

「え、ええ」

 

俺は弁当箱に箸を置いて姿勢を正しているアインハルトを見る。アインハルトも静かな雰囲気を出してこちらに視線を向けていた。

 

「まず一つの訂正があるんだけど、俺は親元から離れたわけじゃないんだ」

「え?」

「気づいた時には孤児院に居た。園長から聞いた話だと玄関前に赤ん坊の俺が捨てられていたらしい」

「あ、す、すいません……変な事を聞きました」

「俺は気にしてないし、別にアインが謝る事じゃないよ」

 

アインハルトが悪いことを聞いたと思ったのか謝り始めたので俺は気にするなと声をかける。

 

「そんな訳でずっと孤児院生活を送っていたけど、10歳頃にいつまでも迷惑をかけるわけにいかないと思い始めた」

「い、意外と幼い時から自立心をお持ちなのですね」

「意外は余計だけどな」

 

俺が笑いながら言い返すとアインハルトは慌てて顔を真っ赤にして謝り始めた。まったくもってアインハルトの表情がコロコロ変わるのが楽しくて仕方ない。

 

「で、その頃に孤児院に魔力検査の人たちが来たんだ」

 

その楽しみもそこそこに話を戻す。

 

「リンカーコアの異常がないかを調べる行政機関の人たちですね」

「ああ。俺もそこで初めて魔力検査を行った。魔力の色は黒、ランクはE。魔力制御は安定しているので問題なかったんだが、魔力の色に機関の人たちは驚いていたよ」

「確かにガイさんの魔力の色は珍しいですよね」

「まあな。そして、その話が時空管理局に渡って訓練校にお呼ばれする事になった。訓練校は全寮制だし、卒業すれば軍で働けるから食いぶちに困らないしな。園長達に迷惑をかけたくない……そんな理由で1人暮らしを始めたようなものだ。そして、今に至るって感じかな」

「……ガイさんはしっかりしていますね」

 

そりゃあどうも、とアインハルトに相槌を打つ。

 

「もし……もし、今親に会えるとしましたらガイさんはどうしますか?」

「……もし、か」

 

俺は地面を見るように視線を移して膝に肘を置いて手に顎を乗せて少し考えた。

 

もし、今親に会えることが出来るとしたら……俺は……。

 

「一発殴るかな」

「ええっ!?」

 

俺は再びアインハルトに視線を向けて笑いながら思っていることを言葉にした。

 

ビックリした声を無意識に出してしまった為か、その後すぐに口を押さえて周りを見る。今は周りに生徒が居ないようなので誰にも聞かれていなかったようだ。

 

その事にアインハルトはホッと一息つけて、少し頬が赤いまま俺に視線を戻す。

 

「いや、だって、生まれて間もないのに孤児院に捨てられていたんだから一発ぶん殴りたいだろ。何で俺の事を捨てたんだって」

「そ、そう言うモノでしょうか?感動の再会をするかと思ったのですが」

「親の顔なんて知らないんだ。あっても親だと実感が沸かないと思う。まあ、殴った後はたぶんアインの言った感動の再会をするんだろうね」

「そうだと思います。それが親子の形ですよ」

「……」

 

アインハルトはそう言って、少し儚げな表情で木漏れ日が射す空を見上げた。

その悲しみが入り混じっている儚げな表情を見ると不安な気持ちがこみ上げてくる。

 

アインも親が恋しいのかな?聞けない事だけど、アインの親は既にお亡くなりになっている可能性が高いしな。今日の授業参観に来れないのもその可能性が高い。

 

「あ、ガイ君とアインハルトちゃんだ」

 

そこに、聞きなれた声が校舎から中庭に入るドアから聞こえてきた。

 

「ガイとアインハルトだ」

「こんにちは!!」

 

そちらに視線を向けると、ヴィヴィオとなのはさんとフェイトさんがいた。

なのはさんとフェイトさんも他の親御さんと一緒で服装をバシッと決めている。

 

特にフェイトさん。なのはさんは他の親御さんみたいに軽い服装なのだが、フェイトさんは黒いサングラスを胸元にかけて、ハイヒールに黒いストッキング。タイトスカートの切れ端から黒ストッキングを掴んでいるガーターベルトがちらちらと見える。

 

とても授業参観にきた親御さんの服装とは思えないんだがな。

 

そんな視線をなのはさんが気づき悪戯な笑みを向けてくる。

 

「そんなにフェイトちゃんの服装が気になる~?特にこのタイトスカートの切れ端から見えるガーターベルトが気になっちゃうよね~」

「ぶっ!?な、なのはさん!へ、変な事言わないで下さいよ!!」

 

今思っていた事がなのはさんの言葉で全て外に出てしまった。

 

「ふぇ?ガ、ガイ……そんなとこを見てたの?」

 

フェイトさんは顔を真っ赤にしながらスカートの端を手で押さえてガーターベルトや見えている太ももを隠す。

 

「いえいえいえ!そんなこと思っていませんから!!」

「早口で言うと自滅しちゃうよ~♪」

 

天使な笑みを向けてくるなのはさんだが表情が笑いをこらえるのに必死な顔をしていた。

 

「……ガイさん」

「ガイさん」

 

そして、なのはさんでもなくフェイトさんでもない、俺の名前を呼ぶ低い声が前と後ろから聞こえた。

 

前にはヴィヴィオが、後ろにはアインハルトが何かに対して怒っているような表情をして俺を見上げている。

 

「ちょっと大変そうだね、ガイ君」

 

そんな中でもなのはさんは天使的な笑みを崩さずにいた。怒っているヴィヴィオとアインハルト、笑みを向けて笑いを堪えているなのはさんに顔を真っ赤にしているフェイトさん。この変な状況に俺は苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なのはさんも聖杯戦争に参戦している?」

「ええ。正確には“未来”のなのはですが。クラスはアーチャーです」

 

アインハルトに明日授業参観に行くと言って、帰ってからオリヴィエと聖杯戦争の事を話しあった。そして、なのはさんが参戦している事を聞いて驚きを隠せないでいた。

 

「あの殺気を放っていた人物がなのはさん?」

「いえ、あれとはまた違う人物がなのはですね。それにマスターは“衛宮士朗”という少年です」

「衛宮……士朗……」

 

さらにそのマスターはミカヤの道場に居た衛宮士朗だと言う。瞳に映っていた感情の色が分からなかった少年だ。

 

何故かまたどこかで会うような直感はしていたがまさか“聖杯戦争”で会う事になるのか。

 

どちらも衝撃的な事実で表情を隠せないでいた。

 

「何か心あたりでも?」

 

俺がなのはさんだけではなく衛宮士朗の名前にも反応したのが分かったのかオリヴィエは問いかけてくる。

 

「俺の通っている道場に衛宮士朗がいる。まさかマスターだったとは……これからは道場に行きづらくなったな」

「相手もガイの事を知っているようだったので道場に行くのは控えた方がよろしいかと」

「ミカヤと衛宮士朗の料理を食べてみたかったけどな」

 

今度、ミカヤと衛宮士朗が作った料理にお呼ばれしようかと思ったけど、それが叶うのは多分無いか。

 

「……俺の事を知っているのはなのはさんが居るからか?」

「かも知れません。推測の域は越えられませんが」

 

“未来”のなのはさんがいるから俺の事を知っているのかも知れない。しかし、疑問が浮かび上がる。

 

「もしそうだとすると、“現代”のなのはさんが俺が聖杯戦争に参戦しているってこと知らないといけない」

「確かにそうですね」

 

そう、俺がこの聖杯戦争に参戦している事を知らなければ俺の事は分からない。俺が事をどのようにして知ったのかはわからないが、この推測が正しいと……

 

「“現代”のなのはさんがマスターなのか、それとも何かの理由で巻き込まれたか」

「可能性は無いとは言い切れません。“現代”のなのはにも注意を払ってください」

「……あまり敵として意識したくないんだけどな」

 

“現代”のなのはさんも聖杯戦争に関係があるのかもしれない。

 

「それにガイの事を知っていたのは士朗たちだけではないようです」

「あの半端ない殺気を出していた人物の事か?」

「はい。その人物はキャスターのマスターと名乗っておりました。私の真名も知っていましたしマスターがガイだと言うことも」

「……情報が駄々漏れだな」

 

どうやら俺の事を知っているのは士朗たちだけではないようだ。キャスター組もかなりの情報量を持っている。それにオリヴィエの事も知っている。

 

「それにキャスターのマスターはなのはも衛宮士朗の事も知っている素振りを見せていました」

「キャスター組は要注意しないとダメか」

 

俺は肘をテーブルに乗っけて手首に顎を乗せてキャスター組に対して考え込む。

 

「ええ。そしてマスターとは思えないほどの実力を持っています。私では敵わないほどに」

「……マジか?」

「……ええ」

 

オリヴィエも敵わないほどの人物がマスターで参戦している。キャスターのマスターもランサーのマスターもサーヴァントであるオリヴィエと渡り合える。なんて規格外な人物たちだ。

 

そして、今のオリヴィエはとても申し訳なさそうな表情をしている。

 

「私が弱いばかりに……申し訳ありません」

 

オリヴィエは自分の弱さに気持ちが沈んでいるのだろう。表情が暗くなっている。

 

「……いや、オリヴィエは強いよ。ただ相手が悪かっただけだ。そんなに落ち込むな。俺はオリヴィエの事を強いと思っているから」

「……ガイ……ありがとうございます」

 

オリヴィエの表情から少し暗さが無くなった。俺だけではまだオリヴィエの落ちこんだ事柄に対して拭いきれないだろう。だけど、落ち込んでいる時も近くに居てやるのも必要だと俺は思う。

 

俺はオリヴィエに笑ってやった。それだけでもきっと違うだろう。

 

「だけど、キャスターのマスターは俺を狙っているかもしれないな。あの殺気は俺に向けられていたものだし」

「ええ。キャスター組は警戒を怠らないようにしましょう」

 

俺はああ、と答えて今後の動きについて話し合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はい、ヴィヴィオ。お弁当だよ~」

「ありがとう。なのはママ」

 

俺とアインハルトが座っているベンチの隣のベンチになのはさんとフェイトさんがヴィヴィオを挟むように座ってお弁当箱を広げていた。その光景はやはりほのぼのとした家族に見える。

 

やはり温かな食卓を家族で囲めるのはちょっと羨ましくも思える。

 

「“未来”のなのはさん……か」

「……?何か言いました、ガイ?」

 

俺は仲の良い三人家族を見て……特になのはさんの事を見て、昨夜オリヴィエとの会話で思った事をぼそりと小さく呟いていた。それをアインハルトは拾いかけていた。

 

「いいや、何でもない」

 

俺はベンチに座り直して、残り少ないお弁当箱の中身に手を付ける。

 

“現代”と“未来”のなのはさんにも注意を払わないといけない。でも、今のなのはさんを見ている限り、とても敵としてのイメージが沸きにくい。

 

出来れば敵として俺の前に現れないでほしいが、“未来”のなのはさんは近いうちに俺の前に敵として現れるだろう。

 

「あ、あの~、ガイさん」

「ん?」

 

少しして俺の名前を呼ぶ声がしたので、聞こえてきた方に首を向けるといつの間にかヴィヴィオが俺の横に座って俺の持っているお弁当を見ていた。

 

「これガイさんが作ったお弁当ですか」

「いや、アインが作ったお弁当だよ」

「え……アインハルトさんが?」

 

ヴィヴィオがお弁当から俺の隣に居るアインハルトに驚いた表情をしながら視線を移した。

 

「はい、私が作りました」

「お弁当……ガイさんに……むむむっ……」

 

アインハルトもヴィヴィオに気付き、ヴィヴィオの言葉に頷き返答した。するとヴィヴィオは何やら難しい表情をして唸り声を上げて視線を下ろした。

 

「どうかしたか、ヴィヴィ?」

 

そんなおかしな行動に俺は疑問に思って、ヴィヴィオに声をかける。ヴィヴィオは俺の事絵を聞いて俺の事を見上げた。

 

「ガイさん……今度私が作ったお弁当を食べていただけますか?」

「お弁当?ああ、別にいいけど」

「本当ですか!?」

 

複雑な表情をしていたヴィヴィオはぱとても明るい笑顔になった。何か嬉しかったようだ。

 

「それでは今度一緒に練習するときに持ってきます♪楽しみにしていてください」

「ああ、わかった」

 

ヴィヴィオの声はかなり弾んでとても嬉しそうな表情をしてなのはさん達の所へ戻って行った。

 

「……ガイさん」

「ん?」

 

今度はアインハルトに呼ばれたのでアインハルトの方を向く。アインハルトは両手の人差し指をツンツンと突きあいながら俺から視線を逸らして地面を見ていた。

 

「もしよろしければ、私も今度ガイさんと一緒に練習するときに、またガイさんのお弁当を作ってきてもよろしいですか?」

「皆の時にか?」

「ええ」

「そうなると、ヴィヴィのお弁当も食べないといけないから二つはちょっとキツイかな」

「……ダメですか」

 

肩をがっくりと落として暗い雰囲気がアインハルトから溢れてくる。

 

そんな姿を見ると先ほどの行動に対して罪悪感を感じてしまう。

 

「ヴィヴィオさんはよろしくても私はダメですか……」

「うっ……」

 

その上、そんな事を言ってくるので胸の中に感じた罪悪感がさらに大きくなる。

 

『ガイ君。女の子をあんまり虐めちゃダメだよ』

『な、なのはさん!?』

 

そんな光景を見ていたのか更に追い打ちをかけるようになのはさんが念話を繋げて俺のやったことに対して批判した。

 

『いえ、先にヴィヴィと約束してしまったので無理だと思ったので』

『男の子なんだからお弁当二つぐらい余裕なの!!』

『……結構キツいと思うのですが』

『女の子の好意を無碍にしちゃダメだよ』

 

「……」

 

なのはさんを見る。念話の中では説教モードだけど、表面上は戻ってきたヴィヴィオとフェイトさんと楽しく雑談をして笑っている。そのマルチタスクはやはり凄いと思ってしまう。そして、目が合うとニッコリと笑みを向けてくる。

 

その笑みは何故か断るに断りきれない静寂な威圧感を感じた。

もし、女の子(アインハルト)の気持ちを無碍にしたら後で承知しないと言わんばかりな圧倒的なモノがなのはさんからビシビシと伝わる。

 

その笑みを見ただけで冷や汗を掻いてしまう。

 

「……まあ、二つでも食べれると思うから、お願いするよ」

「え?ほ、本当ですか?」

 

俺の言葉を聞いて、すぐにこちらに顔を向けてくるアインハルト。

 

「無理しなくても……」

「まだ俺も成長期だと思ってくれればお弁当の一つや二つぐらいは」

「……ありがとうございます」

 

アインハルトはその場で頭を下げる。

 

『ガイ君、良くできました』

『……はい』

 

念話から聞こえてくるなのはさんからOKを貰ったので心の中でため息をついた。

 

しかし、こんな風に接してくれる“現代”のなのはさんは敵でないと思いたい。やはり親しい人と戦うのは避けたい限りだ。

 

そして、話の結果としては今度一緒に練習するときはヴィヴィオとアインハルトのお弁当を食べる事になった。

 

その時は朝食を抜かないとな。

 

俺がそのイベントをうまく切り抜ける為には、その日は朝食を抜く事だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――街頭

 

土曜日なのに五限目まである授業を参観して、俺は学園を後にした。

 

俺は賑やかな声が聞こえる後ろを振り向く。

 

「それでねリオがね……」

「わ、コ、コロナ!?そんな事、ヴィヴィオとアインハルトさんとガイさんに言っちゃダメだよ」

「え?何の話?気になるよ」

「ええ、私も」

 

そこにはヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオが居る。

 

帰りに公民館の練習場でインターシップの為に練習していくらしい。俺もたまには皆とやりたかったので一緒に行くことにした。

なのはさん達は聖王教会に用事があるとの事で一緒にいない。

 

後ろはリオがお茶目な行動をしたのかそれを口にしようとしているコロナを必死に止めているリオ。

 

ヴィヴィオとアインハルトはその話に興味があるのか聞こうとしている。本当に仲が良い4人組みだ。

 

そんな皆の声を聞きながら俺は皆と歩いていた。

 

「ガイさん」

「ん?」

 

ヴィヴィオが皆から離れて俺の所へ寄って来て複雑な表情で見上げてくる。

 

「まだ困っていることがあるのですか?」

「……」

 

また唐突な質問に俺はすぐに言葉を出す事が出来なかった。

 

「……どうしてそんな事を聞くんだ?」

 

どうにか言葉を絞り出して話す。ヴィヴィオは悲しげな表情をして俯く。

 

「ガイさんが……合宿が終わってから様子が変でしたから。お見舞いのときも言いましたが何か困っている事があったら言って下さい。私で力になれることがありましたら力になりますから」

 

悲痛な表情でその虹彩異色の瞳を俺に向けてくる。

 

アインハルトだけではなくてヴィヴィオにも心配されているようだ。お見舞いのときにも言ってくれたのだが、何だが申し訳なく思ってしまう。

 

「そうだな。それじゃあ、ヴィヴィにお願いしたい事がある」

「あ、はい!何でしょうか!?」

 

待っていたと言わんばかりに、嬉しそうな表情で透き通った声を大声で発するヴィヴィオ。

 

俺の頼みごとを聞くのがそんなに嬉しい事なのだろうか?

 

ヴィヴィオの後ろに居る三人も聞き耳を立てて、こちらを見ていた。

 

俺はヴィヴィオの頭に手を乗せて話す。

 

「笑っていてほしい」

「ふぇぃ?」

「……なんだ、その気の抜けた声は?」

 

何かとても間の抜けた声がヴィヴィオから聞こえてきた。

 

予想外すぎる願い事に意気込んでいた分、大きく拍子抜けしてそんな声が出てしまったのだろうか?

 

「え、えっと、だって、ガイさんからのお願いだからもっと真面目なものかと思ったんですけど……」

「大真面目で言っているんだけどな。ヴィヴィ達の笑顔は行き詰っている時に見ると、温かな気持ちが胸の奥からこみ上げて来るんだ。だから、笑っていてほしいな。それに俺の夢もそんな感じだから」

「ガイさんの夢?それはいったい何ですか?」

 

俺はまだ茜色に染まるには早い青空を見上げて片手を伸ばす。

 

「魔法で誰もが不幸にならない世界を作る。それが俺の夢さ」

 

俺は青空に伸ばしたその掌をグッと握りしめた。

 

「誰もが不幸にならない世界……」

「それがガイさんの夢なんですね」

「始めて聞きました」

 

後ろに居た三人も俺に近づいてきた。俺の夢を聞いたようだ。

 

「隠していたつもりはなかったんだが言う機会が無かったしな」

「その夢が叶う事はあるのですか?かなり曖昧な夢な気がします」

「まあ、な。曖昧な夢だとは分かっているさ。でも……あの時、決めたことだから」

 

アインハルトが曖昧だと聞いてくるが俺はそれに頷くしかない。何が基準なのか分からない夢なのだから。

 

だけど……だからこそこの夢を拠り所に俺は頑張れる。この目標が達成できるのいつなのかはわからないがメンタル面が強ければ挫けずに向上心は高まる。

 

多分俺はメンタル面は大丈夫だと思う。

 

「「あっ……」」

 

と、そこに偶然なのか必然なのか目の前に1人の人物とバッタリ会い、俺とその人物は先ほどのヴィヴィオと同じぐらいに間の抜けた声を出してしまった。

 

身長は150センチぐらいで、翡翠色の瞳に前回に見た結い上げていたお軽さと柔らかさが見て取れるセミロングの美しい金髪は後ろで一つに縛って下ろしている。

 

ランサーのマスターだ。

 

服装は最初の戦いの前の時と同じで濃紺のドレスシャツにネクタイ、フレンチ・コンチネンタル風のダークスーツ。

その服装が凛とした硬質の雰囲気で引きしめられているのがわかる。

 

そんな人物と街中で出会ってしまった。聖杯戦争での敵。しかし、聖杯戦争は人前では行われてはいけない。今はヴィヴィオ達が居るので俺たちは戦いあう事は出来ないだろう。

 

相手はそれが分かっているからか最初から構えている様子はなかった。

 

「……?ガイさん、この人とお知り合いなのですか?」

「ん?あ、ああ。まあちょっとな……」

 

コロナが聞いてきたので俺は少し言葉を濁しながら答えた。

 

「……少し話をしていきませんか?」

 

コロナの言葉に返しているとランサーのマスターからお誘いの話が持ち上がった。

 

ランサーのマスターを見ると殺気や闘志は見受けられない。このマスターは聖杯のルールをしっかりと守るようだ。

 

「……ああ。わかった」

「ガ、ガイさん。皆と一緒に練習しないのですか?」

 

このマスターの情報も知りたかったので俺は受け入れた。しかし、リオが受け入れた俺を見て慌てて反論してきた。

 

「悪い。ちょっとこの人と重要な話があるんだ。練習はまた今度で」

「ガイさん……困っている事があるのですか?」

 

アインハルトが悲しそうな表情で俺を見てくる。

 

「いや、重要な話だけど困っている事ではないから気にしないで」

 

俺は無理やりに笑って皆を心配かけさせないと努力した。

 

「……はい、わかりました」

 

何かを言いたそうな表情をしていたが口を塞ぎ込んで、何か納得できなさそうな表情をしながらも4人は頷く。

 

「一緒にやろうと言ったのに悪いな」

 

俺は最後に4人に謝ってランサーのマスターに顔を向ける。ランサーのマスターも何か申し訳なさそうな表情をして視線を俺から逸らしていた。

 

それを見て思った。このマスターは悪いやつではないと。敵である俺に対して自分から誘って他の人の予定が狂ってしまい申し訳なさそうにしてしまうあたり、優しさがあるのかも知れない。

 

「喫茶店でいいか?」

「え、あ、はい」

 

俺の言葉にランサーのマスターは俺に顔を向けて頷く。

 

「じゃあ、行こうか」

「ええ」

 

俺とランサーのマスターは子供たちと別れて、近くの喫茶店へと移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――喫茶店

 

俺とランサーのマスターは4人で座る窓際のテーブルに対面に相手がいるよう座った。少しして、ウェイトレスがお盆にお冷やを二つ乗せて運んできてテーブルに置いた。

 

「あ、俺はコーヒーで」

「私も同じモノを」

 

俺たちはその時に注文を頼んだ。ウェイトレスはかしこまりました、と言って厨房へ戻って行った。

 

「さて、君は俺に何の話があるんだ?」

「それはあの場から離れるための嘘にすぎません」

 

俺はテーブルに両肘をつけて手を絡ませて、ランサーのマスターを見据える。

ランサーのマスターは背中をソファーに付けず姿勢を正して、俺を静かに見返していた。

 

どうやら話があるのは俺をあの場から離れさせるための口実らしい。

 

「……隣にはランサーがいるのか?」

「ええ」

 

隣には霊体化したランサーが居る。俺はランサーのマスターに対して警戒心を強めて眉間を寄せた。

 

「警戒しなくても大丈夫です。ここで戦うなどルール違反ですから」

「律儀だな」

 

人気の多いところでは聖杯戦争を行ってはいけない。そのルールをこのマスターはしっかりと守っている。

 

融通が利かないのか、それとも自分の意志は曲げるつもりがないのか。直感ではあるがこのマスターは真っ向勝負を好んで行う人物なのだと思う。暗殺や卑怯な手などは使わないだろう。

 

「名前……聞いてもいいか?」

 

敵ながらも武士道的な意思を持つこのマスターの名前を聞いてみたくなって俺は言葉を出した。

 

「……私の名を名乗っても良いですが、貴方も名乗ってくれますか?偽名ではなくて真名を」

「ああ、約束する」

 

少し渋りながらもこのマスターは瑠璃色の瞳を俺を睨むようにして真剣に見る。俺はこのマスターの言葉に頷く。

 

「お、おまたせしました~」

 

と、そこにコーヒーのカップを二つ乗せたお盆を持ってきたウェイトレスが少し硬い営業スマイルでテーブルにカップを二つ置いて、ごゆっくりどうそ、と言い慣れているはずの接客用語の言葉を早口で言って逃げるかのように俺たちから離れていった。

 

「私の名はアルトリアです」

「アルトリア……」

 

ランサーのマスター……アルトリアは自分の名前を発言してカップに手を付けて一口飲む。

 

ウェイトレスが居た時も俺たちは真剣で表情が変わらなかった。第三者から見ればかなり入りずらい雰囲気を出していただろうけど、ウェイトレスの人も注文と料理を運ぶのが仕事なので俺たちの雰囲気に怖気ついては入れないなどは言えないのだろう。

 

さっきのウェイトレスの人に申し訳ないと思いつつも、俺もアルトリアと同じくコーヒーを一口飲む。

 

飲みながらアルトリアを見て考えた。このマスターの名前はアルトリア。予想だが正当法で戦うマスター。オリヴィエから聞いた話だとサーヴァントからマスターになったと。

 

そうなると何処かの英雄なのだろう。俺が調べた歴史の中でアルトリアという人物がいたか頭の中で検索する。しかし、その名前は一つも浮かび上がってこなかった。

 

「私の名は出しました。今度は貴方です。ファイターのマスターよ」

「ああ」

 

俺とアルトリアはカップを皿に置いた。今考えていた事は一先ず端に置いておき、今度は俺の名前を出す番なので言葉を出す。

 

「俺の名はガイ・テスタロッサだ」

「ガイ・テスタロッサ……嘘ではないですね」

 

瑠璃色の瞳が俺を鋭く見ている。その色は綺麗としか言いようがないほど透き通った色をしているが、まるで心の中まで見られているような鋭い眼力を感じる。その眼力が俺の戸惑いや後ろめたさがあるかどうか見ていたのだろう。

 

「よろしくとは言わないぞ。俺たちは敵同士だからな」

「ええ。それは分かっています」

 

俺たちは敵同士。慣れ合う事は先ず無いと考えるだろう。

同じ釜の飯を食べた仲間と殺し合うような事は無い。最初から敵同士なのだから戦いあうしかない。

 

「1つ聞いてもいいか?」

「はい。私もガイに聞きたい事がある」

 

アルトリアは頷いてその上に俺にも質問をしたいようだ。

 

「アルトリアの願望って何なんだ?」

「私の願望ですか……それは言えません」

「そうだよな。そこを狙って落としえることだって出来るしな」

 

愚問な事を聞いてしまった。願望もバレてしまったらそこを付け込んで来る可能性もある。でも、他のマスターがどのような願望を持っているのかも知ってみたかった。皆、何の願望を持ってこの戦いに参戦してきたのかを。

 

ランサーの夢である願望も知らない。それを貫き通すためにランサーもここに居る。

 

「私も聞いても?」

「ああ」

 

今度はアルトリアから俺に問いかける番だ。

 

「ガイは前の時とは雰囲気が違う。本当に覚悟を決めたかのように気を引き締めている雰囲気だ。何かあったのですか?」

 

聞いて来たのは俺が最初の戦いまでに中途半端な気持ちでこの戦いに参戦した時の感じと今の俺の感じが違っていてその理由を知りたいようだ。

 

嘘を言っても、あの眼力の前ではバレてしまうだろう。俺にも黙秘権はあるがこの事柄に関してはアルトリアに言っても良いと思った。いや、言っておきたかった。

 

「アルトリア達と戦ったのが最初の戦いだった。それまでは俺は心のどこかで聖杯戦争を甘く見ていた。そして、アルトリア達に負けて俺は覚悟を決め直した。変かもしれないがあの戦いが俺を気持ちを固くした。このことに関してはアルトリアとランサーに礼を言う」

 

あの戦いで本当の覚悟を決めた。それはアルトリア達のおかげだ。

 

「いえ、それはガイ自身が見つけた覚悟です。その覚悟を忘れずに気を引き締めて戦場に立つべきです」

「……親しくして来るんだな。敵同士だと言うのに」

「貴方はどこか“ある人物”に似ている。だからかもしれません」

「ある人物……」

 

アルトリアは俺をその“ある人物”に被せて見ているようだ。その人物も俺と似ているというのなら色々と考えていたのかな。

 

「ランサー」

 

と、アルトリアは突然、低い声で自分のサーヴァントのクラス名を呟く。

 

すぐにランサーが実体化した。黒い髪に青い瞳は据わっている巨躯な体の男性が立っているだけでも威圧感が凄まじい。

 

「結界か……」

 

その巨躯な体に合った図太い声で短く言った。まだ、ヴィータさんから貰った資料を見ていなかったが、貰った顔写真がこの大男と一致するので、この人物はゼストで間違いない。

 

「ああ、周りから人が消えた」

 

俺も分かった。人避けの結界がこの喫茶店を中心に展開されている。対象の人物だけを結界内に閉じ込めて外部からの干渉を断ち切るモノ。

 

しかし、そんな結界を街中で行って管理局に知られないのだろうか?俺とトレディが戦った時も結界が張られていたが。

 

まあ、管理者が元帥レベルで地上の騒動は揉み消せると言っていたし、下っ端の者たちは気づけないのかもしれない。

 

「ガイとアルトリアか」

「「「!?」」」

 

結界について考えていたが、突然窓の外から1人の男性が渋い声でこちらを静かに見据えて立っていた。

 

見た目は4~50歳ぐらいの少し年配の掛った男性。セミショートの黒い髪にも少し白髪が混じって入るがそれをオールバックにしているため年配という感じがしない。黒いズボンに黒いインナーを着て黒いロングコート。ロングコートには僅かに装飾品が付いている。

右手にはデバイスなのか杖を握っている。

 

だが、その人物の瞳を見てゾクリとした。放たれる殺気が半端ない。この感覚は過去に二度味わったものだ。

 

「キャスターの……マスターか?」

 

俺はその放たれる殺気に何とか震える口を抑えつつ言葉を口に出す。

 

「……」

 

だが、その人物は何を思ったのか俺が言った言葉に対して一瞬だが殺気が消えた。しかし、すぐに先ほどの殺気を表す。

 

「……俺はキャスターだ」

 

その言葉と同時にキャスターの身体全体からオーラなのか闘志なのか、そのようなモノが放たれ窓ガラスが割れる。外からの衝撃なので内側に居る俺とアルトリア達にガラスの破片が襲ってくる。

 

俺たち三人はガラスの破片を避けるため喫茶店の内側へ下がる。

 

「ガイ、ここは一旦停戦協定を結びましょう。あのキャスター、只者ではない」

「ああ。三竦み状態になるのも面倒だしな。それにアイツが一番やっかいなのも分かる。状況は三対一だがそれでも何故か五分五分だと感じてしまう」

「アルトリアがそう言うのならそれに従おう」

 

俺たちはすぐに同盟を結んだ。

 

割れた窓ガラスからキャスターが喫茶店の中へと音もなく悠然とした足取りで向かってくる。

 

その歩き方だけでも物凄い威圧感がヒシヒシと伝わる。

 

「ガイと言ったな。足手まといにはなるなよ」

「ああ、分かってるよ。ゼスト」

「……俺の真名を知ったか」

「ヴィータさんが調べてくれたんでな」

「……あの時の騎士か」

 

ゼストの声からはいつもの図太い声ではなく、優しげで懐かしいようなモノを感じた。ゼストを見ると表情が少し緩んでいた。

 

ヴィータさんも一度戦った事があると聞いた。もしかしたらその時の事を思い出しているのかも知れない。

 

「来ます。ランサー、ガイ」

 

キャスターは少し距離を置いて杖を構えてきたのでいつの間にか騎士甲冑の姿に代わっていたアルトリアが話し合っていた俺たちに注意を促す。

 

「ああ、行くぞ」

「プリムラ、セットアップ」

『了解、マスター』

 

俺もバリアジャケット姿になって、構える。

 

距離は五メートルもない。そして、誰かが動き出したかはわからないがそれに連動して皆が動き四つの影がぶつかり合って衝撃が波紋のように広がり喫茶店は戦場と化した。




後書き
三人称をやる予定でしたが、一人称と二人称を使っているのでそこに三人称も入れたら分かりづらくなるので、やらない方向に。

戦闘シーンは三人称の方が読者にはイメージしやすいんですけどね~。

恋愛絡みだと一人称の方がいいですし。

あれ二人称はw?



今回は戦闘シーンを入れるともの凄く長くなりそうだったので戦闘前までにしました。

なんかキャスター組みが謎だらけだな~。

フラグは一応立てているんだけど、その後の展開をうまく書けるかどうか。

そのときこそ俺の筆力が試されるわけですね^^

……もっと頑張ろうw



何か一言感想がありますとありがたいです。

では、また(・ω・)/
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