魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

20 / 30
ああ、気づかなかった……社会人ってこんなにも……































大変だったんだ。

by働き出した○○志貴






どうもガイルです。

会社が忙しい。忙しい時期は本当に10時間残業とか発生するんだな~(´・ω・`)

それでも合間をぬってちょこちょこ書いていたので何とか纏められました。

この小説を読んでくださる人も少しずつ増えていますので何とか頑張って行きたいものです。

作者の日常なんかどうでもいいから読ませろ?

全くですねw

では、二十話目入ります。


二十話“練習と戦争の交差”

 結界が解かれた後、いつの間にかバーサーカーとトレディは姿を消していた。

左右は高いビルによって光が遮られ、入口の夕日の光が少しだけ照らしているうす暗い路地裏に私は居た。

 

耳に周りの都会の音が戻ってきた。

 

人々の話し声。車のエンジン音。携帯音。それらが重なり合って1つだけの音が分からないような雑音が路地裏の入口から聞こえてくる。

 

先ほどまでとは無縁の音達が戻ってきて私はホッと一息をついて夕日の照らされていない壁に背中を預けた。

 

『大丈夫か?アルトリア?』

『ええ、寧ろゼスト。貴方の方こそ大丈夫ですか?』

 

結界が解かれたと同時にゼストは霊体化して、私の脳に直接語り出した。私も結界が解かれたと同時に服装をダークスーツに戻した。

 

『アルトリアがタイミング良く来てくれたから私は大丈夫だ』

『すいません、ゼスト。あなた1人でバーサーカーに立ち向かわせてしまって』

 

バーサーカーが現れた後、凛とシロウもあの戦場に現れたので少しの間、バーサーカーの相手をゼストに任せて、2人に会おうとした。

久々に2人の姿を見て、驚いたがそれ以上に会いたい気持ちが抑えられなかった。

 

『気にするな。別れた友に会いたいという気持ちは誰にでも持っているモノだ。その気持ちを大事にする事だ』

『……ゼストもその気持ちを?』

『……ああ、あった』

 

ゼストにも親友という者が居たらしい。その親友を思い出しているのだろう。ゼストの低い声が柔らかくなっていた気がした。

 

『……今は休んでいて下さい。バーサーカー相手に1人で対決していたのですから』

『ああ、言葉に甘えさせてもらう』

 

その言葉を最後にゼストからは何も言ってこなくなった。やはりバーサーカー相手に1人は厳しいようだ。

 

前の聖杯戦争でもヘラクレスの英霊がバーサーカーとして現れて、一対一で対決したことがあった。あの暴力の嵐に捌き切れずに負傷した。

 

バーサーカーは並大抵の実力と覚悟では対等に戦う事は無理に近い。

 

「なあ、セイバー」

「はい?」

 

思考の渦に入りいっていた私に声を掛けられた。目の前にはシロウがマジマジと私の全体を見るように視察していた。

考え事から離れて周りを見た。この路地裏にはシロウ以外に他の人はいないようだ。

 

「そのスーツ似合うな」

「……いえ、このスーツは私には似合いません」

 

シロウは私のダークスーツに興味を持ったようだ。

 

「……ですが、これはあの方が選んでくれた服装ですから」

「ん?何か言ったか?」

「……いえ。何でもありません、シロウ」

 

小さな呟きにシロウは拾いかけていたが私はこの服装の話を膨らませる気はなかった。この服装を着ていた頃の思い出はあまりいいモノでは無かった。

 

だが、この服装はあの切嗣の理解人であった今は亡き人の心優しいアイリスフィールが選んでくれたモノだ。

 

そこは誇りを持って胸を張って着こなしたい。

 

「しかし、また聖杯戦争が始まったな……」

「そうですね……」

 

シロウは私の服装から視線を離し、神妙な表情になって私を見た。

 

「俺も気がついたら右手に令呪が刻まれてサーヴァントが居た。いつの間にか巻き込まれたようだ」

「巻き込まれた!?」

 

と、私たちの話に女性の驚いたような高い声が聞こえてきた。私とシロウは声のした方に顔を向けると、凛が居て驚きの表情でシロウの方に顔を向けていた。

 

「あんた、自分から参戦したんじゃなかったの?」

「い、いや、気がついたら何処かの道場の庭で倒れていて、そこの人に助けてもらった。今はそこに住まわせてもらっている」

「……それっていつ頃?」

「ん~、10日ほど前ぐらいかな」

「……」

 

シロウの言葉を聞いて、凛は驚きから真剣な表情になって顎に手を添えて考え始めた。

 

「どうかしましたか、凛?」

 

そんな様子に私は声をかける。

 

「ん?ええ、ちょっとね。私がここに来たのはそれよりも大分前だから、時間軸が私と士朗ではちょっとズレているわ。セイバーはサーヴァントだから時間跳躍したと言っても理屈は通るけど、私と士朗は同じ時間軸で来ないと説明が出来ない」

「……それも聖杯の力だとしたら?」

「聖杯の……力……」

 

シロウの指摘に再び考え込む凛。今回の聖杯は冬木の聖杯ではない。管理者の話だと冬木の聖杯は不純物が混ざり欠陥品だとが。

しかし、この世界の聖杯は純粋なモノだと。

 

だから、前の聖杯よりも予想外の出来事が起きるのかもしれない。

 

「今回の聖杯は冬木のとは思わない方がいいのかもしれないわね。予想外の事が起きそう」

 

凛も同じ結論に達したのか私と同じ考えの事を話した。

 

「とりあえず、これからは俺たちは手を組んでこの聖杯に……」

「え、あ?ああ、もう五月蠅い!!」

 

シロウが何か手を組もうと言ってくる音を凛の怒鳴り声でかき消された。シロウは目を大きくして凛を見る。凛は誰もいない隣に顔を向け怒った表情をしていた。

 

「凛のセイバーですか?」

「え、ええ。やっぱりあんたとは組みたくないってゴネてるのよ」

 

凛のセイバー……赤いセイバーは私と瓜二つの容姿を持った人物。唯一違うとしたら胸の大きさですか。しかもあちらの方が大きい。

 

「ええい、いくら騎士王といえども余の瓜二つの顔を持たれていては困る!!」

「い、いきなり出てくんな~!!」

 

気高き声と共に赤セイバーが凛の隣に実体化して現れた。容姿は本当に私に似ている……

胸以外は。

 

この者とは名誉ある戦いが出来ると思っていたが、このように接してみると自分の意見に対しては直進的なモノが多いので人間的には微妙な人物だと分かった。

 

「本当にセイバーと似ているよな。ああ、でも……」

 

マジマジと赤いセイバーを見るシロウ。特に胸を見ていないだろうか?そして私を見る。いや、正確には私の胸のあたりを見ているのがわかる。

 

「……シロウ、変な事を考えていませんか?」

「え、い、いや……変なことなんて考えてないぞ」

 

私の問いにシロウは顔を引きつらせて若干慌てる。

 

「奏者よ。本当にこの者たちと組むのか?」

「ええ、異論は?」

「……むぅ、異論はあるが奏者に嫌われるのも嫌じゃ。いたしかたない。寛大な余がそなた達との同盟をすることを許そう」

「「「……」」」

 

えっへんと胸を張って威張る赤いセイバーに私たちは呆れ顔でため息を吐いた。

 

まあ、これが凛のサーヴァントなのだろう。我儘で唯我独尊なサーヴァント。

 

「……何でしょうか。凛にピッタリなサーヴァントな気がします」

 

我儘なあたりが。

 

「え?どういう意味よ?」

「いえ、深い意味はありません。所でシロウのサーヴァントはどのような人物なのですか?」

「俺のサーヴァント?」

 

急に話しを振られて少し驚き視線を逸らすシロウ。ああ、うん、と聞こえてくるあたり、サーヴァントと話し合っている様子だ。

 

そして、少し間を置いてから答えた。

 

「クラスはアーチャー。真名は一度見たらわかると思うがこの世界のエースオブエースだ」

「アーチャー……で、その真名は……ああ、“高町なのは”ね。雑誌で見たことあるわ。となると“英霊タカマチ”か。でも、アーチャー……ねぇ」

 

その単語に凛は少し遠くを見つめた。凛が言っているアーチャーというのはたぶん前のサーヴァントであった“英霊エミヤ”の事だろう。

 

切嗣の影響を受けて出来たシロウの理想。それを貫いた未来の姿。“誰でもが幸福であってほしい願い”。その願い叶える為に“正義の味方”を演じ貫き通して、しかし、その果てに残ったモノは後悔だけだったと。出来るだけ多くの人間を救うために多くの人間を殺すという矛盾に悩み続けて、それでも突き進んだ英霊。

その無意味さを理解し、シロウの前に現れて自分殺しを行い全てを無かったモノにしようとしたアーチャー。

 

……あのアーチャーは私が消えた後どうなったのか後で凛に聞いてみたいですね。

 

聖杯を破壊しようとして凛を待っていたら、凛を助けるために“投影”で作りだした武器で聖杯の不純物に妨害されていた凛の進む道を作ったのだから、あの聖杯では私よりもまだ後に居たのは確かだ。

 

「“アーチャー”って本当に一癖も二癖もある英霊ばかりね」

「その“英霊タカマチ”とは凄い人物なのですか?」

「別にそんなんじゃないんだけどね」

「!?」

 

音もなく士朗の隣にその“タカマチ”が笑みを浮かべながら実体化して現れた。

おそらくゼストと同じの防護服姿だろう。同じく白と青の強調した服装。あの栗色のサイドテールをしている。

 

「……ごくっ」

 

私は近くでこの人物を見たとき、思わず喉を鳴らした。膨大な魔力がタカマチから感じ取れるのだ。タカマチは先ほどの戦いではかなり高度な場所で見下ろしていたので魔力の数値が測る事が出来なかった。しかし、目の前に居るとその驚異的な量の魔力や質の高さが嫌というほどに伝わってくる。

 

これほどの魔力の持ち主では“キャスター”にクラス分けされなかったのでしょうか?

 

などと、驚きと疑問が頭の中で交差していた。

 

だが、赤いセイバーは……

 

「何と美しい容姿をしておるのだ!!」

「ふぇ?」

 

眼を輝かせながら喜んでいた。凛はまた始まったと頭を抱えながら呟く。タカマチはキョトンとした表情で首をかしげた。

 

「お主の美は素晴らしい!!」

「え、あ、ありがとう」

 

タカマチは困惑した表情でしかし、顔を赤くして赤いセイバーにお礼を言った。

 

「それにしても流石は“エースオブエース”ね。魔力値がオーバーSランクと言われても過言ではないわ」

 

凛はマジマジとタカマチを観察する。

 

「“エースオブエース”なんて周りから勝手に言われた評価だよ。私以上の実力を持った人物だっているし」

「ふぅん、そうなの?あ、そうだ。魔法か魔導を使う貴方からその事について聞きたいんだけど」

「魔法か魔導ですか?私の場合は魔法ではなく魔導ですね」

 

ええ、と凛は頷く。

 

「構いません。ですが一つ私からもお願い事があるの」

「ん?何かしら?」

「私にも魔術というモノを教えてほしいの」

「魔術を?」

 

タカマチは真剣な表情でこくりと一回首を縦に振る。その強い眼からは感情の深い何かがあったのが私には分かった。

 

「……う~ん、魔術は本来は秘匿するものなんだけど相手はサーヴァントだし……等価交換ってとこか。うん、私の家系の魔術は教えられないけど基本的なものなら教えてあげられる。それでいいかしら?」

「うん、十分だよ。ありがとう」

 

タカマチは愛嬌のある笑みを浮かべて頭を下げた。

 

「ぬうううぅぅぅぅ……この者をお持ち帰りしたい」

 

赤いセイバーはその仕草に見とれたのか唸りを上げて手をソワソワさせながら何か変な事を言っていた。

 

「それじゃ、その件はまた後でね。それとセイバーのサーヴァントはランサーなのかしら?」

「ええ」

 

赤いセイバーの唸りを無視した凛が私に声をかける。私はその言葉に頷く。

 

「光の皇子・クー・フーリン?」

「いえ、前のランサーではありません」

「そう……あの英霊は結構気に入っていたんだけど今回は出てこないか」

 

凛が残念そうな表情を浮かべて思い出しているのか眼を瞑った。凛の思っている時間帯とは違うと思うが私もランサーとの出来事を思い出す。

 

シロウに召喚された時に目の前にランサーが居た。何合か斬りあったが決着はつかず、ランサーは宝具を解放した。

 

あのランサーの一撃は凄まじい。

 

必中必殺の呪いの槍を使用して因果を逆転し “敵の心臓に命中している”という事実を作った後に攻撃を放つ対人宝具 “刺し穿つ死刺の槍(ゲイボルク)”。

 

あれを避けられなかったら冬木の聖杯戦争では最初に脱落していただろう。

保有スキル“直感”が無かったら避けられなかった。

 

あのランサーはとても強かった。

 

「まあ、とりあえずここは三人で何とか乗り越えていきましょう」

「待って下さい凛」

 

思い出に浸っていると凛が私たち三人で同盟するような声が聞こえてきたので割って入る。

 

三人で同盟を結ぼうと凛は話を進めたが私は1つ賛成できない部分があった。

 

「どうしたのセイバー?」

「私はガイとの同盟を組んでいます。なのでガイもこの同盟に加えてほしいのですが」

 

ガイという単語にタカマチの表情が一瞬変わったのが分かった。タカマチもガイに何かあるのだろうか?

 

それはさておき、先の戦いが始まる前に私とガイは同盟を結んだ。そうしなければあの凶悪なキャスターに勝てる見込みが薄かったからだ。

 

「ガイ?」

 

凛の頭の上には?マークが浮かび上がっているのだろう。脳裏にガイという少年の姿が浮かばないようだ。

 

「あの者か。余とキャスターとの戦いに水を指して……はおらんか。だが、微妙な少年だったの」

「ああ、あの冴えなさそうな男の子?」

「にゃ、はは……ガ、ガイ君、凄い言われようだね」

「まったくだ」

 

ガイが居ない前で言いたい放題の凛と赤いセイバー。だが、そのうち凛が神妙な表情になって考え込む。

タカマチとシロウは苦笑いしながら笑っていた。

 

「でも、あの男の子、会うたびに不思議な感じがしていた。うまく説明できないけど、違和感があるのが分かった」

「ガイが……ですか?」

 

そんな違和感があっただろうか?少なくとも私には分からなかった。魔術師的な何かを凛は感じたのだろうか。

 

「ええ、だからそのガイって人とは手を組めない。その違和感が無くならない限り」

「そうなりますと必然的に凛とも同盟を組むことが出来ない。同盟というモノは全ての者たち同意を得て組むものだから」

「まあ、確かに」

 

ガイと組んでいる以上、ガイを否定している凛の違和感を払拭しない限り凛とは組むことが出来ない。

 

「余は別に構わぬが?」

「あんたにとっては都合がいいでしょうけどね……はぁ~」

 

赤いセイバーはむしろ喜んで、それを見た凛は深いため息をついた。そして、シロウの方を見る。

 

「それじゃあ、セイバーとの同盟は保留って事にしておいて私と士朗でひとまず手を組んでおくわ」

「ああ、そうだな」

「う~ん、出来ればガイ君達と組みたかったけど仕方ないかな」

 

タカマチは少し納得のいかなそうな表情をしていたがマスターのシロウが凛と組むことになったので了解した。

 

「すいません、凛。一度契約したモノはそう簡単には解約できません」

「まあ、しょうがないわよ」

「うむ、仕方あるまいな」

 

凛は苦笑して私に温かい笑みを向けてくるが、赤いセイバーは上機嫌なのか声が弾んでいた。

 

タカマチと同じく少し納得がいきませんが仕方ありませんね。

 

「では、シロウ、凛。ご武運を」

 

私は2人に一礼をしてその場から離れて表通りへと歩き出した。

 

シロウと凛との同盟はひとまず保留となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――マンション

 

「はふぅ……」

 

俺はオリヴィエと共にマンションへと戻りテーブルの前に座ると、緊張の糸が切れて気が抜けたからか疲労感が一気に押し寄せてきた。息を吐くと強張っていた体が少し柔らかくなったような気がした。

 

「今日の戦いは複雑でしたね」

「ああ。キャスターとの対決だと思ったら全てのサーヴァントが集まったからな」

 

最初はアルトリア達と手を組んでキャスターと対決するはずだった。だが、セイバーが現れ、バーサーカーが現れ、アーチャー……“なのはさん”が現れて、アサシンが現れて……。

 

「まあ、そのおかげで少し情報が多くなったな」

「ええ、情報が手に入っただけでも今日の戦いの収穫はありました」

「しかし、キャスターはアサシンが苦手なのか?俺たちが束になっても汗一つ掻かなかったキャスターが明らかにアサシン相手に慌てていたような気がする」

「キャスターに関しては謎が多いですね。そして、キャスターを押していたアサシンも」

「だな。それにバーサーカーの正体も知っておきたいところだが……」

 

と、アルトリアと今日の戦いの話をしていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。

 

「ん?誰だろう?」

「油断しないで下さい」

「ああ、分かってる」

 

俺は立ち上がって玄関先まで歩きだす。先ほどまで聖杯戦争をしていたので俺たちは警戒心が高くなっている。

 

俺は緊張感を高めて用心してドアを開けた。

 

「あ、ガ、ガイさん、こんばんは」

「アイン?」

 

だが、ドアを開けて居たのは同じく緊張気味な様子で少し頬を赤くしたアインハルトだった。俺は聖杯戦争と関係ないと分かって警戒を緩めた。

 

アインハルトはステンレスの鍋を両手で持って俺の事を見上げていた。

 

「あ、あの、ガイさん。御夕飯はもう食べましたか?」

「ん?ああ、そう言えばまだ何も用意していないな」

 

時計を見ると、いつの間にか外の日は落ちて夕食の時間帯だった。

 

「あ、あの、もし、よ、良かったらこれどうぞ。ビーフシチューですけど」

 

アインハルトは視線を俺から逸らしながらズイっと鍋を前に差し出す。

 

「アインが作ったのか?」

「……はい」

 

頬を染めたままモジモジしている姿は愛嬌があっていい。こういうアインハルトの姿を見ると日常に帰ってきたと実感する。

 

俺はそういうアインハルトを見て嬉しくなって頭を撫でた。

 

「え?え?」

 

アインハルトは何故、頭を撫でられたのか分からない様子だったがそれでも良かった。

 

「ああ、食べるよ。一緒に食べるか?」

「あ、はい」

 

決して笑う事はないが表情は嬉しそうだろうとわかった。アインハルトを部屋へ入れた。

 

「アインハルトですか」

「オリヴィエ、ご飯を作ってきました」

 

アインハルトが中に入るとオリヴィエが頬笑みを向けてきた。それにアインハルトは頬をさらに赤くしてご飯を作ってきたことを述べた。

 

「今度は俺が料理を作らないとな」

「あ、そんなこと気にしないで下さい。それではすぐ温め直します」

 

そう言って、アインハルトはキッチンへと向かった。

 

「アインハルトの手料理は美味しいです」

「ああ、アインの料理は確かに美味しい。今日の授業参観の時に弁当を作ってもらったけど、本当に美味しかった。これなら良いお嫁さんになれると言ったら、アインは驚いていたけどな」

「……それは確かに驚くのではないでしょうか?」

「え?そうか?」

 

オリヴィエとアインハルトの話をしていると気が楽だ。戦いとは別の話だからだろう。

 

「お待たせしました」

 

話で盛り上がっていると、アインハルトがビーフシチューを盛った皿を運んできた。

 

「へぇ~、美味しそうだ」

「ええ、食欲がそそられます」

「ガイさん。パンはありますか?」

「ああ、戸棚に入ってるよ」

 

アインハルトは俺の話を聞くと戸棚から食パンを持ってきた。

 

「んじゃ、食べるか」

「ええ」

「どうぞ」

 

俺とオリヴィエはスプーンでビーフシチューを一口食べる。アインハルトは俺たちの感想を待っているからか食べずに俺たちの事を見ている。わかっていた事だが、やはりアインハルトの作った料理は美味しい。

 

「うん、美味い」

「ええ、とても美味しい」

「あ、ありがとうございます」

 

頬を少し赤くしてお礼を言うアインハルト。

 

「むしろ、夕飯を作ってくれてお礼を言いたいのこっちだけどね」

「で、でも、作ってくれたモノに美味しいと言ってくれるのは嬉しいですから」

「まあ、確かにな」

 

喋りながらもスプーンを持った手は止まらなかった。パンにつけるとこれまた違った感触でビーフシチューを味わえる。

 

そんなこんなであっという間に俺とオリヴィエは皿を空にしてしまった。

 

「ふ、2人ともよほどお腹が空いていたのですね」

 

まだ半分も減っていないビーフシチューの皿で食べているアインハルトは驚きを隠せないでいた。

 

「ええ、お腹が空いていたもので」

「俺もな」

 

聖杯戦争ではかなりカロリーが消費されたからか体が栄養を求めていた。主に精神からカロリーが消費したんじゃないかと思うが。

魔力補給の出来ないオリヴィエも食事の栄養で補おうとしているし、俺と同じく戦いに参加していたからお腹も減っているのだろう。

 

「お粗末さまでした」

『マスター。メールが来ています』

 

少しして、アインハルトも皿を空にした。それとほぼ同時にテーブルの隅に置いておいたプリムラがメールが来たと伝えてきた。

開いてくれと言うと、目の前にモニターが現れた。

 

差出人………高町ヴィヴィオ

件名………明日

本文………こんばんはガイさん、ヴィヴィオです。あの、明日なんですけど中央第4区公民館のストライクアーツ練習場で格闘技の練習しませんか?大会に向けて有段者であるガイさんとストライクアーツの練習をしたいのです。お時間があればお相手したいのですがダメでしょうか?

 

ヴィヴィオからの練習のお誘いだ。

 

「ヴィヴィからか」

「ヴィヴィオさんからですか。どんな内容ですか?」

 

アインハルトもヴィヴィオから来たと分かって興味があるようだ。

 

「明日、大会に向けて練習しないかって話だ」

「え?ガイさんも練習に来るのですか!?」

「い、いや、今誘われたんだが」

 

アインハルトは少し声を高くして早口になっていた。それにすぐ気づき、顔がすぐに赤くなった。

 

「まあ、特に予定もないし大丈夫か……」

「なら私も行きましょう」

「ああ、オリヴィエも来てくれ」

 

聖杯戦争が起きている今、パートナーであるオリヴィエともあまり離れない方が良い。先ほどの戦いで理解した。

いつどこで起こるか分からないのだから、なるべくオリヴィエとは別れない方が良い。オリヴィエを呼ぶためにこの紋章……“令呪”を一回使ったしな。

 

「アインもヴィヴィ達の練習には参加しているんだよな?」

「あ、はい。“チームナカジマ”で頑張らさせて頂いてます」

 

まだ、顔が少し赤いが俺の話に答えてくる。で、今、アインハルトから変な単語を耳にした。そのままオウム返しで聞き返すことにした。

 

「チームナカジマ?」

「ヴィヴィオさん達と考えて決めたチーム名です」

「……」

 

何故だろう。不機嫌そうな表情で顔を赤くしながら目を背けているノーヴェが脳裏に浮かんだ。

 

まあ、ノーヴェもナカジマ家に養子で入ったとか言ってたからな。コーチであるノーヴェを名前に入れてのチームね。単純というかやはり子供の発想というか……チームノーヴェよりはマシか。いや、ニュアンス的にノーヴェチームか?

 

「今、私たちのチームの名前に笑いませんでしたか?」

「いや、気のせいだ」

 

いつの間にかアインハルトは表情を不機嫌にし口を尖らせて俺の事を見ていた。そして一呼吸置いてから話を続けた。

 

「ガイさんも入りませんか?」

「チームナカジマにか?」

 

こくりと頷くアインハルト。不機嫌な表情は消えていた。

 

「……ま、大会に出れたらな」

「わかりました。ガイさんが来てくれることを心から楽しみにしています」

 

やんわりとお世辞的な事を言ったがその言葉は本当の気持ちで言っているように聞こえた。

 

「ああ、出れるように仕事を頑張るから」

 

そう言いつつ、ヴィヴィオに返信用のメールを作成した。

 

件名………Re:明日

本文………それじゃあ、お誘いに乗らせてもらおうかな。あとフリーも付いて行くけどいいか?それとヴィヴィ達の練習内容や相手はコーチであるノーヴェが決めているんじゃないか?

 

メールの内容を打ちながら練習内容はノーヴェが決めていたはずだったと思いだし、付け足した。

 

この内容で送信した。

 

「ところでガイさん」

「ん?」

 

モニターを消すとアインハルトに声を掛けられたのでそちらを向く。表情は何やら真剣なのだが迷っているように見えた。

 

そして、口を開く。

 

「今日の帰りにお会いした黒いスーツを着た人は誰なんでしょうか?」

「……あ~、あれね」

 

アインハルト達との帰り道に出会ったのはダークスーツ姿のアルトリア。聖杯戦争の関係者だから皆から半ば強制的に離れたけど、その時に起きたと思われる不信感は残ったままなのだろう。

 

「ん~、仕事関係の人……かな」

「……随分と歯切れが悪いですね」

 

聖杯戦争と言えるわけでもないので嘘の考えを口にしたが考えながら発してしまったので語尾を濁したような口調になり、アインハルトは何か納得のいかない表情だった。

 

「仕事関係さ。企業秘密だから深くは言えないけど」

「それはそうですが……あんな綺麗な人がガイさんと……」

「ん?何か言ったか?」

「何でもないです!!」

「あ、ああ……」

 

最後の方が声が小さく聞き取れなかったので聞き返したが、何かに怒ったような声で強くして否定されてそっぽを向いてしまったので追求できなかった。

何か気まずい雰囲気が部屋に漂った。

 

『マスター、メールです』

 

ちょうど良い所にメールが返ってきたようだ。俺は少しホッとしてモニターを目の前に開いた。

 

差出人………高町ヴィヴィオ

件名………Re:Re:明日

本文………もちろんフリージアさんも歓迎です!!では、明日楽しみにしてますね♪集合時間は朝9時で。それと、この事ですが既にノーヴェに教えています。ガイさんも誘えたら誘えっと言っているので。たぶんガイさんが来たらガイさんを含めた練習内容に変更になるのではないかと。あ、それと丸1日練習なのでお昼御飯が必要だと思います。もし良かったらこの前約束したお弁当を作ろうと思うのですがいいですか?

 

……ノーヴェからの連絡はないんだけどな。

 

しかし、俺が来たら俺も含めた練習内容に変更ね……ノーヴェならやりそうだ。ノーヴェは本当にコーチって天職なんじゃないか?

 

それと今日のお昼に約束したお弁当の話がここで上がってきた。まあ、否定する理由もないしヴィヴィオにお弁当を作ってもらおうかな。

 

「……ヴィヴィオさんからですか……お弁当……」

 

そこに先ほどまでそっぽを向いていたアインハルトがモニターに覗きこんできた。お弁当と表示されていたのが気になったのか口に出てきた。

 

「まあ、否定する必要もないし頼もうかなと」

「な、なら私も作りましゅ!?」

 

アインハルトは何に慌てたのか分からないが言葉が早口になり、誤って舌を噛んで涙目になりながら顔を真っ赤にして口元を押さえてた。

 

「そんなに慌てるなよ……」

「あ、あにゃわてにゃどと……うう……」

 

多分『慌ててなどと』と言っていると思うのだが、上手く呂律が回らず喋れないのか落ち着くまで俺に背を向けてしまった。

 

「ふふっ……2人を見てると楽しいですね」

「見物人に見せるような見世物じゃないよ」

 

ベッドに腰掛けながら俺たちの事を静かに見ていたオリヴィエは静かに笑みをこちらに向けていた。

 

「今のアインハルトは……覇王とか聖王とか忘れているように見える……ガイのおかげでしょうか……」

「ん?なんだって?」

 

何かを呟いていたような気がしたが声が小さくて聞き返した。

 

「何でもありません」

 

オリヴィエは何かに納得したような笑みを浮かべたまま目を瞑った。

 

「ガイさん……私もお弁当を作ります」

 

オリヴィエからアインハルトの方を向くとまだ少し涙目になりながらも先ほどの言いきれなかった内容を口にした。

 

「ああ、分かったから。楽しみにしているよ、アインの弁当」

「……はい」

 

アインハルトともお昼にお弁当の約束をしたので否定する理由はない。

笑みこそ見せないがアインハルトからは嬉しそうなオーラが漂ってきたのが分かった。

そして、アインハルトは立ち上がった。

 

「では、私は部屋に戻ります。ビーフシチューはまだ余っていますので良かったら朝食にでもどうぞ」

「ああ、ありがとな」

 

俺がお礼を言うとアインハルトは一度頭を下げたあと俺の部屋を後にした。

 

……と、ヴィヴィオにメール返しておかないと。

 

俺は再びモニターを開いた。

 

件名………Re:Re:Re:明日

本文………明日9時ね、わかった。あとお弁当頼むわ。楽しみにしてる。

 

受信してから少し経って送ったがすぐにメールが返ってきた。

 

差出人………高町ヴィヴィオ

件名………Re:Re:Re:Re:明日

本文………楽しみにしてて下さい♪ちなみに何か苦手なものとかアレルギーなモノとかありますか?

 

苦手なものもないしアレルギーなど起きたこともないな~。孤児院の時も特に野菜とかも気にすること無く食べれたし。

 

そんな昔の事を思い出しつつ内容をまとめて送る。

 

件名………Re:Re:Re:Re:Re:明日

本文………いや特には無いよ。

 

送って、一分ぐらいで帰ってきた。

 

差出人………高町ヴィヴィオ

件名………Re:Re:Re:Re:Re:Re:明日

本文………わかりました。頑張って作りますね^^あ、それと1つ聞きたい事があるのですが、今日会った黒いスーツを着た金髪の人って誰なのですか?

 

「……」

 

だが、その内容に少し困った。ヴィヴィオも学院帰りに会ったアルトリアの事が気になったようだ。

 

……とりあえずアインハルトと同じ回答で答えるか。

 

件名………Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:明日

本文………ああ、よろしくな。それと黒いスーツの人の事なんだけど、あの人は仕事関係の人だよ。企業秘密が多いから細かい事は言えないけど。

 

最近言い訳が多いな。聖杯絡みだと仕方ない事か。

 

そう思いつつ送信する。

 

今度は送って、十秒足らずで帰ってきた。早っ!!

 

差出人………高町ヴィヴィオ

件名………Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:明日

本文………なら、仕方ないです。では、明日楽しみにしてますね^^

 

ヴィヴィオにしては引き際があっさりしている気がした。まあ、深く追求してくれないのはありがたい事だが。

 

「……お湯沸かして風呂入って寝るか。オリヴィエ、先に入るか?」

「ええ、先に頂きます」

 

あいよ、と言って俺は風呂場へ行って洗ってお湯を入れ始めた。オリヴィエが先に入って出た後に俺も風呂に入った。

 

風呂から出た後もかなりの疲労感が体全体に感じたので今日はベッドで寝ることにした。オリヴィエは潔く受け入れてくれてソファーで寝てくれるようだ。くれぐれも寝ぼけて忍び込んでこないようにと釘を刺してはおいたがちょっと不安だ。

 

そして、明日は格闘技の練習だ。頑張るか。

 

弁当は二つか……やっぱり朝食は抜いておくべきかな。ごめんなアインハルト。ビーフシチューは明日の夜にでも食べるよ。

 

昼間に導いた結論を思い出しつつ、さっき貰ったビーフシチューを食べれなくなった事に関してアインハルトに心の中で謝りながら俺の思考は闇へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――次の日 中央第4区公民館 ストライクアーツ練習場

 

「よし、みんな揃ってるな?」

「「「はい!!」」」

 

ノーヴェの言葉に子供たちは元気に答える。今日はここで練習のようだ。

 

「元気だね~」

「また年寄りのようなセリフを」

 

その様子を見ていた俺の隣で白いジャージ姿のオリヴィエが呆れたような表情で俺の言葉に返事を返した。

 

「んじゃ、もう年か」

「それだと私たちはもうオバサンだよね」

「あっ……え、ええと……す、すいません」

 

その反対側にはなのはさんとフェイトさんが苦笑しながら立っていた。なのはさんはピンク、フェイトさんは黒いジャージ姿だ。

 

2人は今日は保護者としてこの訓練に来たようだ。

 

なのはさんを凝視して見たが、いつものなのはさんで特に変化はない。

 

なのはさんは……“現代”のなのはさんで間違いないかな。

 

俺は結論付けた。

 

そして、そのジャージ姿は女性としての魅力が損なわっていないのか周りから注目の的になっている。その注目の的に容姿端麗なオリヴィエも視界に入るのだから注目度は更に倍増している。

 

……俺にはどす黒い殺気がふつふつと伝わっているんだけどな。

 

「私たちはガイから見たらもうオバサン?」

「い、いえ、そんな事は……なのはさんもフェイトさんもまだまだ美しいですよ!!オ、オバサンなど……」

 

少し寂しげな表情をして言ってくるフェイトさんを見て、俺は必死に早口で返す。だが、途中で何か恥ずかしい事を言った気がして言葉が詰まった。

 

「そ、そう?そう言ってくれるなら嬉しいな」

「……っ」

 

先ほどの表情からは一変、少し頬を赤くしながら笑みを零すフェイトさんの表情に俺は何も言えなくなった。

 

やっぱり俺はこの人の事が好きなのかな?

 

「でも、この前ネットで見たんだけど、19歳でオバサンって呼ばれちゃうこともあるんだってよ」

「えっ!?」

 

そこになのはさんから何か変な言葉が飛んできた。

 

19歳でオバサンと言われてしまう……だと……!?

 

フェイトさんも驚く事ながら俺も驚きを隠せなかった。そんな話があるとすると俺も後一回年を取ったらオッサンになってしまう。

 

「それは本当なのですか?なのは?」

「う~ん、ネットで見つけたモノだから信憑性は薄いと思うけど、一部ではそんな事を言う人もいるらしいね」

「ガイも私の事をオバサンだと思いますか?」

 

なのはさんに向いていた21歳のオリヴィエが俺の方を向いて子犬のように俺の事を見上げて首を少し傾けてくる。その仕草にちょっとドキッとした。

 

「い、いや、そんな事は……無いぞ」

「そうですか。なら良かったです」

「……ふ~ん」

 

俺の言葉に何か嬉しそうなオリヴィエだった。それを見ていたなのはさんは何を思ったのか模索しているような表情をしている。

 

「よし、それじゃ練習始めるぞ」

「「「はい!!」」」

 

子供たちは練習を始めたようだ。子供たちの元気な声を聞いて練習場へ顔を向ける。子供たちは2人組を作ってストレッチを始めたようだ。

 

「んじゃ、俺も練習するかな」

「では、私も」

「頑張ってね」

「頑張れ」

 

俺とオリヴィエはなのはさん達から離れて練習場へ足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガイ君はやっぱり隅に置けないよね~」

「え、そうなの?」

「ふふっ、鈍いね~フェイトちゃん」

 

私の主観で見た限りだとフリージアさんもガイ君に好意を持っている気がする。2人を見ていると本当にそう思う。

 

「そっか。ガイ……モテモテだね。子供たちもガイの事が好きなんだよね」

「うん。でも、ガイ君が好きなのは……」

 

そう言いつつとフェイトちゃんの方を振り向く。それでフェイトちゃんに伝わったのか徐々に頬を赤く染めていく。

 

「ま、前の温泉の時に言ったよね。私なんかよりもフリージアの方が良いって」

「でも、フェイトちゃんの本心を聞いたこと無いよ~」

「え、そ、そそそ、それは……内緒だよ!!」

 

そんなに慌てなくてもいいのに。

 

「じゃあ、話をちょっと変えて……ガイ君の事が好き?」

「え、えっと……」

 

今のフェイトちゃんから聞くと誤魔化せられそうなので単刀直入に聞いてみた。

 

「そ、それも内緒」

「あ~、ずるいよ~フェイトちゃん」

 

私はわざと頬を膨らませて怒ったように言う。

 

「じゃ、じゃあなのははどう?ガイの事好き?」

「ふぇ?」

 

思わぬ返しに私は間の抜けた声を出してしまった。

 

私はガイ君の事が好きなのか……そう言われても良く分からない。確かにガイ君は何事も諦めない不屈の心がある。子供たちとも仲が良いし悪い印象はない。

 

「あ~、ヴィヴィオがガイ君の事が好きだから」

「それは温泉の時に聞いたよ。私が聞いているのはなのはの本心」

「え、あ、う、う~ん……内緒?」

 

私の恋人がガイ君……ちょっと想像してみたけど結構いいかもしれない。でも、それは何か違う気がした。その違和感も分からないのに好きと口に出すのは変なので、フェイトちゃんには内緒として貫き通すことにした。

 

「なのは……」

「あ、う、うん。ごめんね、変な事聞いて」

「もう、なのはもじゃない」

「にゃ、はは」

 

フェイトちゃんはフェイトちゃんと同じ答えだったのか呆れていたようだ。

 

苦笑しながらガイ君達の方を見る。ガイ君はリオちゃんの頭を撫でているようだ。何かうまく言った事でもあったのだろう。リオちゃんは嬉しそうだが周りにいる子供たちは何か不満そうな表情をしているのが離れていても分かった。

 

「……ほんと、モテモテだね」

 

そんな状況下でもガイ君は自然とそこにいる事が嬉しいのか笑っていた。まるで自分の居場所に戻ってきたような……。

 

「……でも、私にも皆にも話せないモノがあるんだよね……」

「え?何か言った、なのは?」

 

フェイトちゃんが私の小さな呟きを言葉を拾いかけていたが、首を横に振ってなんでもない、と言い返す。

 

話せない内容はきっとフリージアさんが関係していると思うんだけどね。確証できる材料は揃っても無いし……。

 

そして、私は再びガイ君達を見る。

 

子供たちに囲まれて笑っているガイ君は本当に楽しそうな表情をしていた。

 

自分の居場所に戻ってきたような……ね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「へぇ~、リオは春光拳の技をまた一つ習得したんだ。すごいな~」

「えへへ~、ありがとうガイさん」

 

リオが新しい技を覚えたからしく、それを俺に言ってきた。“技”は習得するのには差こそあれども習得するにはそれなりの時間がかかる。習得できたのなら褒めてやるのがいい。

 

だから、俺はリオの頭を撫でて褒めてやった。それによってリオは頬を少し染めて上目使いで嬉しそうな表情をしながらお礼を言ってきた。

 

やっぱりこの子達の笑顔はいいモノだ。

 

それを見て、俺も自然と笑顔が零れる。

 

「む~、リオばっかり」

「負けられない」

「……」

 

周りからは何か不満そうな声が聞こえてきた。

 

「よし、ガイとフリージアも来た事だし、まずは組手をやるぞ」

「「「はい!!」」」

 

それでも、今は練習中。コーチであるノーヴェの指示が来ると皆はそれに従う。

内容は魔力抜きの組手だ。ストライクアーツ専用のグローブナックルに足から膝までカバーをしている膝当てを付けて準備万端だ。

 

「ガイさん、よろしくお願いします」

「ああ、ヴィヴィ。お手柔らかに」

 

最初に組手をしたのはヴィヴィオだ。体格差こそあれどヴィヴィオはそれを気にすることもなく真っ直ぐな攻撃で俺にしかけてくる。

 

ヴィヴィオの拳を受け止めるたびにパシッパシッと乾いた音が響く。周りも組手を始めたようだ。

 

そういえば、ヴィヴィオとの出会いってここのイベントの時だっけな。

 

ヴィヴィオと組手をしながらあの時の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――1年前

 

「トーナメント?」

 

公民館のストライクアーツ練習場の掲示板に張り出されていたのは“開催アーツトーナメント”というタイトルの文字をでっかく書いてその下に詳細が書かれているA4サイズの紙だった。

 

俺はその紙を眺めていた。

 

開催日は今日?まあ、相手は誰でもいいんだけど面白うだし出てみるか。

 

そんな軽い気持ちで受付を済ませてそのトーナメントに出た。公民館で行われるようなものなのでそこまで華やかな大会ではないし、ストライクアーツの有段を取った俺にとっては強い相手が居なく、難なく決勝戦まで上り詰めてしまった。

 

「決勝戦にはあの子が出るんだってよ」

「マジかよ。あの子強かったけど、まさかここまで上り詰めてくるとは凄いな」

「ああ、俺たちも負けてらんねえよな」

「まったくだ」

 

廊下を歩いていると反対からやってきた男二人がそんな事を言いながらすれ違って行った。

 

決勝戦は俺も出るんだが話に夢中になっていた2人は俺の事に気付かなかったのだろう。

 

決勝戦の相手か……どんな人だろうか。まあ、今までの奴らより強いと信じたいところだが。

 

そんな事を考えながら会場に足を進めた。

 

そして、決勝戦。決勝戦と言うだけあって観客はそれなりに居た。公民館といえども興味があるものがあれば人は集まるモノだ。

 

「なっ!?」

 

そして、対戦相手を見た時は驚きを隠せなかった。左眼が赤く右眼が緑の虹彩異色の小さな女の子だったからだ。

 

「では、決勝戦。ガイ・テスタロッサと高町ヴィヴィオの対決を始めます。射撃砲と拘束は無しの4分ラウンド。1本取ったら勝ちです」

 

レフリーがルールの説明を軽くした。

 

「よろしくお願いします」

「あ、ああ。お手柔らかに」

 

その子は丁寧に頭を下げる。実によく出来た子だ。そして、デバイスを取り出した。

 

あれはなのはさんが使っているデバイスに似ている?名字も“高町”……まさかな。

 

「セットアップ!!」

 

だが、今考えていた事がどんどん確信に近づいて来たのが分かった。

 

その子……ヴィヴィオは変身魔法で大人になった。なのはさんと同じサイドテールだし。なのはさんの関係者で間違いないと思った。

 

とりあえず、この話は頭の隅に置いておくことにした。

 

そして、俺とその子は構える。トントンと足でリズムを作っている。

 

「試合開始!!」

 

レフリーの気合の籠った声が練習場に響き渡る。と、同時にヴィヴィオは何の躊躇いもなく俺に体制を低くして突進してきた。

 

速いが……見える。

 

動体視力を鍛えていた俺にはその動きが見えていた。ならその動きに合わせてカウンターを合わせようと、そのギリギリまで待つ。

 

「はああぁぁぁあ!!」

 

ヴィヴィオは突進したまま右ストレートを放つ。それを俺は右に避けたと同時に左回し蹴りを合わせた。

 

「!?」

 

ガンッという音が響いた。クリーンヒットしたらこれで一本で終わっただろう。だが、ヴィヴィオはそれを左拳で顔面に当たる前にギリギリ止めた。なかなかな反射神経だ。

 

「っぐ!!」

 

そして、左手で俺の左足を掴み今度は右拳廻打で俺に放ってくる。左足が掴まれているので避けるという選択肢は無く、それを受け止めるか受け流すしかない。

 

ガシッとそれを左手で掴む。そして、ヴィヴィオの両手が塞がっていたので右掌打でヴィヴィオの胸部に放つ。

 

「きゃ!!」

 

それが軽くヒットしてヴィヴィオは擦り下がった。レフリーが一本と言わないってことは確実に当たったわけではないようだ。当たる瞬間、ヴィヴィオは僅かながら避けたのだろう。

 

キレのある攻撃に良い反射神経。この子は大きくなったら化けるな……今は大きいけど。

 

最後に変な事を思ったが、俺は対戦相手の将来性に楽しみが出来ていた。今だけでもこれほど強いのにもっと成長したらどうなるのだろうと。

 

ワクワクした気持ちは向こうも同じなようだ。俺の事を嬉しそうに見ている。

 

そして、今度は俺から仕掛けた。空いていた距離を数歩で縮めて、その勢いに乗せて右拳を居合のようなモーションで内側から放つ。格闘技にも居合の癖が出てしまうが、寧ろそれが俺にとっては型に合っている。

 

だが、それは簡単に避けられた。ヴィヴィオはそれをカウンターのように左拳で的確に俺を狙っていた。

 

避けるのは無理だとわかり、ならそれをこちらからも相手にはばれない様に頭突きをしてワザと受けることにした。

 

こめかみが痛い……。

 

だが、頭突きによって何割かの痛みを減らせたので次の手を放つ。ヴィヴィオはクリーンヒットしたと思い込んで、喜びの表情を見せて一瞬の隙が出来ていたのが分かった。

 

俺は右拳を直ぐに戻し、両手を開いて合わせて指先を左右に開けるような形の掌停を作り、それをヴィヴィオの胸部に向かって放った。

 

「!!」

 

ヴィヴィオはその動きに気付いたようだが一歩遅い。その放たれた拳はヴィヴィオにクリーンヒットして放物線を描くようにして宙を舞った。

 

「一本!!それまで」

 

試合はギリギリ勝つことが出来た。周りから歓声の声と拍手が送られてくる。ヴィヴィオは何とか着地して肺に溜まっていた空気を一息で吐いた。そして、俺の事を尊敬の眼差しで笑みを浮かべながら見てきた。

 

そのまま変身魔法を解いて俺に小走りで近づいてきた。俺の前で立ち止まる。

 

「お手合わせありがとうございました。とてもお強いんですね」

「いや、お前の方こそ強いよ」

「あ、ありがとうございます!!」

 

強いと言われて嬉しかったのか天使のような笑みを作って頭を下げた。

 

愛嬌のある子供だな。それにこんなに強い子だ。

 

「また、組手の相手が出来るといいな」

「あ、ではアドレスを交換しませんか?お互いに組手をしたい時に連絡すれば会えますし」

「……知らない人にはついて行っちゃ駄目だって親に言われなかったか?」

「あ~、確かに“なのはママ”から言われました。でも、ついて行くというわけではなく、ここで会ったりするわけですから大丈夫だと思います」

 

……ああ、やっぱりなのはさんの関係者なんだ。デバイスもレイジングハートそっくりだからな。今度、会った時に一言言っておくか。

 

「……初対面の相手に対して警戒しないの?」

「ん~、でも対戦している時にこの人はきっと頑張っている人なんだな~、って伝わってきました。だから大丈夫です」

 

何処からその根拠が出てくるのだろうか?俺の技だって人間の中心に衝撃を与えた方が威力がいいとはいえ、大人のヴィヴィオの胸辺りを狙って放った拳だ。

 

胸の感触を感じている暇はなかったが、触れてしまった事は事実なんだぞ。

 

それなのにこの子は……そんな事を気にせず、人見知りすることもなく積極的な上に一生懸命な子だ。

 

出会って、数十分ぐらいだがヴィヴィオにとても好感を持てた。今時珍しい子だ。

 

「……とりあえずアドレスだけでも交換しておく?不必要になった消せばいいから」

「あ、はい。交換しましょう♪」

 

これが俺とヴィヴィオが交差した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから1年か。随分と最近のような気がしたが時間は立っていたようだ。

 

ヴィヴィオと組手をしながら昔の事を思い出していた俺は現実に戻ってきた。今のヴィヴィオの組手は1年前とは比べ物にならないほど上達している。子供の上達は早いって聞くがその話はどうやら本当のようだ。

 

一心不乱に一生懸命、真面目に俺と組手をしているヴィヴィオ。その姿勢があるからこそここまで上達したのだろう。

 

魔法戦でも勝てないのに格闘技戦も抜かれてしまったら俺の威厳ってのは無くなっちゃうな。

 

……あの交差が無かったら俺はこいつ等とも出会う事もなかったのかもしれない。

 

少なくともオリヴィエとは会う事は出来なかっただろう。ヴィヴィオが持って来てくれたブレスレッドが無かったら、偶然とはいえオリヴィエを召喚することなんて無かったのだから。

 

でも、逆に考えるとそれが無かったら聖杯戦争に足を踏み入れる事は無かったのではないだろうか?

 

そんな事を考えてしまったが、その考えはすぐに止めることにした。この戦いは参加しておかなければ犠牲者は増えるかもしれない。何を考えているか分からないキャスターや明らかに正気の沙汰を持っていないバーサーカー辺りが勝ち残り、変な願い事で人々が苦しめられることだってあるかもしれないのだがら、勝ち残って変な願い事をさせない様にしないと。

 

「ガイさん……考え事ですか?」

「ん?」

 

と、組手をしていたヴィヴィオから声をかけられた。

 

「少し動きが鈍っていました」

「そうか。悪かった」

「……それも相談できないものですか?」

「……まあ、な」

 

俺が肯定するとヴィヴィオは寂しげな表情をしてしまったが、すぐに笑顔に戻った。

 

「でも、私は笑っています。ガイさんはそうしていて欲しいって昨日言われましたから」

「……ああ、ありがとな、ヴィヴィ」

「ガイさんの夢、“誰もが不幸にならない世界”……頑張って下さい!!ガイさんならきっと出来ます!!応援しています!!」

 

ヴィヴィオからの激励は何か心に響いた。ヴィヴィオの言葉にとても嬉しく感じたからだろうか。

 

俺は組手をいったん止めてヴィヴィオの頭を撫でてやった。

 

「うにゃ~、ガイさんに頭を撫でられるのって何かいいです」

「ん?そうか?」

 

それでいいのなら俺はいくらでも撫でてやるけど。

 

ヴィヴィオは表情をトロンとして本当に気持ちよさそうだった。

 

「おい、そこ。組手を止めてねえでやれ」

「あ、悪い」

「ご、ごめん、ノーヴェ」

 

ノーヴェに指摘されてハッと表情を戻すヴィヴィオ。こういう仕草も愛嬌があっていいし面白い。

 

「応援してくれてありがとな、ヴィヴィ。それじゃ、続きやるか」

「うん!!」

 

今日一番の大きな声で返事をした。元気な子供で何よりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「で……」

 

自分でも顔を引きつられせていると分かっていた。目の前の光景が予想よりも斜め上に行く光景なのだから。

 

「……なんで、弁当が四つ?」

「私も作りました」

「私も作ったよ~」

 

お昼の時間。俺たちは特訓を終わらせて昼食を取ることにした。自由に使える食堂の一角を占領して皆で弁当を広げる事になったのだが、なぜか俺の目の前には弁当が四つあった。

 

内二つはヴィヴィオとアインハルトで間違いない。

で、残り二つはどうやらコロナとリオのようだ。2人は手を上げて各自の弁当に指をさして作って来たことを主張してきた。

 

「……マジで?」

「マジです♪」

「大マジだよ~」

 

2人ともなぜか嬉しそうだ。

 

「ぜひ食べて下さい」

「きっと美味しいですよ~」

 

何故こうなった?弁当二つだと予想していたから朝食を抜かして来たのだが、これでは意味がない。朝食は抜いていたので腹は減っていたが、流石に四つは入らないだろう。

 

「あ、あの、私はガイさんにお弁当を作るって昨日メールしたら、『私も作る』ってコロナとリオから返信が……」

「そ、そうか……」

 

ヴィヴィオが何か申し訳ないように視線を俺から外して説明してくれた。

 

ああ、だからか。コロナとリオからは昨日のアルトリアの事に関して話してこなかったのは。ヴィヴィオからその時に聞いたわけか。

 

まあ、こっちも深く追求してくれなくて助かるけどな。

 

で、話を戻すが、つまりはヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオが俺にお弁当を作ってきてくれたのだ。四っつとも色とりどりのお弁当箱でいかにも女の子っぽいモノだ。

 

気持ちは嬉しいのだが……弁当四つか~。キツいな。

 

「ガイ君、ご飯がいっぱいだね♪」

「あ、ははは……」

 

なのはさんが天使のような笑みを見せてくるのだが、小悪魔な思考を孕ませて笑っているのではないかと思う。いや、絶対あの思考が孕ませている。

 

『女の子の好意を無碍にしちゃダメ、だよ♪』

 

やっぱり。なのはさんから念話が飛んできた。

 

『でも、弁当四つは流石に……』

『男の子なら余裕なの!!』

『フードファイターじゃない限り、普通の人の胃袋では無理ですよ!?』

『……ヴィヴィオは朝早く起きてガイ君の為に台所に立って、一生懸命料理をしていたんだよ』

『うっ……』

『きっと、アインハルトちゃんやコロナちゃん、リオちゃんだって……』

『ううっ……』

 

何故、念話で俺は怒られているのだろうか。肉眼でなのはさんを見ると、笑みを絶やすことなく俺にニコニコ顔を向けていた。

 

その笑顔がとても怖いですよ、なのはさん。

 

「ガイ、それとヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオ」

 

と、そこに今までの様子を見ていたオリヴィエが俺の事を呼んだ。皆がオリヴィエに振り向く。

 

「私も皆のお弁当を食べてみたいです。もし宜しかったら私も食べても?」

 

オリヴィエが助け船を出してくれた。ありがたい。

 

「俺は構わないけど他は?」

「あ~、うん、フリージアさんにも食べてもらいたい……かな?」

 

何か納得のいかないような表情を見せるヴィヴィオ。

 

「……でも、ガイさんはいっぱい食べて下さい」

 

ちょっと不機嫌そうな表情になったアインハルト。

 

「ん~、ガイさんがそう言うのでしたら」

 

コロナは少し困惑した様子だが笑みは崩していなかった。

 

「まあ、フリージアさんにもお世話になってるから……いいかな」

 

少し無理やりに自分を納得させたリオ。

 

え?何で皆そんなに微妙な反応なの?

 

『ガイ君、65点』

『何の点数です?』

『内緒♪』

 

念話からも良く分からない話が飛んできた。

 

「ガイ、良かったら食べる?皆で摘めるように作ったサンドイッチだけど」

「ああ、はい。頂きます」

 

そこにフェイトさんからバスケットに入ったタッパーを取り出して、中に入っているサンドイッチを見せてきた。

 

フェイトさんが作ってくれた料理と聞くだけで食べたくなってきた。

 

「む~」

「……なんで、即答……」

「やっぱり、ガイさんは……」

「……勝てない」

 

その行動で何故か子供たちは各々の反応を示した。

ヴィヴィオは唸って頭を抱えているし、アインハルトは冷たい目で俺の事を見てくるし、コロナは何か思い出したのか思い耽っているし、リオは大きなため息を吐いている。

 

『ガイ君、それは0点』

 

念話からも意味の分からない採点が飛んでくる。

 

「あ~、子供たちの心のケアもコーチの務めか?」

「ん?何を言ってるんだノーヴェ?」

 

そんな俺たちの光景を微笑んで眺めていたノーヴェが口を挟んでくる。

 

「い~や、なんでもねえよ。ただ、第三者から見ると面白いな~、と思っただけだ」

「?」

 

ノーヴェは軽く笑いながら自分の弁当を食べ始めた。

 

俺は困惑しながらも皆から貰った弁当をオリヴィエと一緒にちょこちょこと食べ始めた。

 

「あ、うまい」

「ええ、ほんとに」

 

俺とオリヴィエがお弁当の事を褒めると子供たちの機嫌の悪さも無くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後からはインターバルの模擬戦って事で本格的に対戦が始まった。ただし格闘技戦限定でのこと。主に制限を受けたのは俺とコロナだ。刀とゴーレム操作が使えないからだ。

 

「よろしくお願いします、ガイさん」

「ああ、よろしくな、アイン」

 

そして、俺の対戦相手はアインハルトだ。

 

「ガイさんとは全力で勝負をしたかったのですが……」

「ま、そのうち出来るだろ。コーチのノーヴェもそんなふうに考えていると思うさ」

 

アインハルトは未だに俺との対決を心待ちにしているのかな?してもいいけど、覇王の悲願云々は無しでやりたいものだ。

 

「……武装形態」

 

アインハルトは不満げな表情をしていたが、気を取り直して碧銀のベルカ式の魔法陣を展開させて大人モードへと変わった。

 

「……あれ?」

 

だが、そのアインハルトの大人モードになった姿を見て、違和感を感じて思わず口に出てしまった。

 

「ガイさん、どうかしましたか?」

「……ああ、いや、アインの武装形態の姿って赤いリボンが付いていなかったか?」

「?……いえ、赤いリボンはこのモードでは邪魔なので付けていないですよ」

「……そうなのか?」

 

確か、前見た時は赤いリボンが付いていた気がした。何故だろうか。たったそれだけの事なのに拭いきれない違和感を感じた。

 

……何か歯車がひとつズレているような感覚だ。

 

「……ガイさん?」

「あ、ああ。悪い、何でもない」

 

考えごとに耽ってしまった俺に戸惑ったような表情で声をかけるアインハルト。その声で再びアインハルトを見る。

 

その姿は確かに間違いなくアインハルトだ。ちょっと内気だが、覇王の悲願を成すために一生懸命な頑張り屋さんな女の子。

それの何処に違和感が現れてしまうのだろうか?

 

「……ま、考えても仕方ないか。アイン、格闘技戦は初めての対決だが負けねえぞ」

「ええ、こちらこそ」

 

アインハルトは右へ体を捻らせて、左手を手刀のようにして前に出し、右手を胸の前で握りこめ下げて構える。これが覇王流のスタイルなのだろう。

 

俺は居合の癖があるからか、左へ体を捻り、左手を握り、右手は開いて左手の前で構える。本当にそこに納刀している刀があるような構えだ。

これがストライクアーツでの俺の構え。

 

「……そう言えばガイさんも有段者でしたね。楽しみです」

「アインは覇王流のスタイル……そう言えば、最近は覇王の悲願とか言わなくなったな。新しい目標が出来たからか?」

「……いえ、覇王の悲願は未だに私の中にあります。覇王流の強さを証明すること。ですが、ヴィヴィオさん達から教えてもらったインターミドル。そこで私はそれを証明したい!!」

 

表情もより一層閉まり、その言葉には気迫が籠っているのが分かった。

 

覇王流の強さを証明するために公式魔法戦に目を向けたわけだ。街灯試合などのチンピラがやるようなものではなく、公の場での戦いに……その曇りのない真っ直ぐな気持ちを持って。

 

ああ、いつの間にかこの子も本当に強くなったな。最近の若者は成長スピードが速くていいな……俺もまだ18なんだけど。あまり成長していると実感出来ないし。

 

「……うん、そっか。頑張れよ、アイン」

「……はいっ」

 

ひとまず俺の事は頭の隅に置いておいて、アインハルトに激励をとばしておいた。アインハルトからは気合の籠った返事が返ってきた。

 

「では、改めてよろしくお願いします」

「ああ、お手柔らかに」

 

そして、俺とアインは拳を交えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「はぁ……」

 

休憩時間、俺は自動販売機の隣にある長椅子に座って缶ジュースを飲んでいた。座って気を抜く体中の疲労がどっと押し寄せてきた。

 

昨日の戦いでは重傷を負うような傷は追っていないが精神的にも疲れが残っているようだ。自己治癒能力は高いようなのでゼストから受けた傷は完治していた。肉体は治っても精神からの疲れはそう簡単に取れない。

 

俺は壁に頭を預けて天井を見上げた。

 

「ガイさん」

「ん?」

 

呼ばれたので再び正面を見ると、コロナとリオが居た。何やら複雑そうな表情だ。

 

「どうした?」

「今のガイさんは何か疲れているように見えます」

「……」

 

今、思っていた事がコロナの口から告げられてしまった。その事に一瞬頭が真っ白になり思考が止まってしまった。

 

「そう……見えるか?」

「はいっ」

 

リオが俺の言葉に頷いてくる。

 

「合宿の後からガイさんの様子が変わった気がします」

「うん、常に周りを警戒している気がして殺伐としている雰囲気を持っているような感じです。それでも、ガイさんから寄ってきて褒めてくれたのは嬉しかったです!!」

 

リオはさっきの事を言っているのか八重歯を見せて笑みを見せてくる。いい笑顔だ。

 

「そうか、そんな風に思われていたか。悪かった」

 

子供たちとの“日常”は楽しいんだけど、“非日常”の聖杯戦争がある。この二つの境界線を跨いでいる俺は向こう側の影響があればこちら側に表れてしまうことだってある。

 

例えば、戦闘で追った傷。向こうで受けてしまえばこちら側でもその傷は残ったままだ。

 

例えば、向こう側で決めた覚悟。それがこちらにも影響して表情や雰囲気に出てしまう事もある。

 

コロナやリオが言っているのはこの後者の事を言っている。

 

聖杯戦争で決めた覚悟が子供たちとの日常にも表れてしまう時もある。それをコロナやリオは感じ取っているのだ。

 

ヴィヴィオもアインハルトも例外じゃない。もちろん、勘の鋭いなのはさんだって。

 

「でも、あの時、ガイさんが笑顔でいてくれと言ってくれたのって、私たちへの初めてのお願いごとだったんですよね。とっても嬉しいかったです。だから、私達は笑顔でいようと思います」

「無理強いはしなくていいんだぞ?自然な笑みを見せてくれれば」

「……ガイさんと居れば自然と……」

 

コロナは最後の方は俺から視線を離してボソボソと喋っていたので良く聞き取れなかった。

 

「ん?何か言ったか?」

「い、いえ、何でもありません!!」

「でも、ガイさんも笑顔でいて下さいね。ガイさんが楽しそうにしてくれると私達も嬉しいですから」

 

コロナは慌てていたが、リオが誰が見ても100点満点を付けるような笑みを見せた。それを見て俺は安心感を持つ事が出来たので笑みを零した。

 

やっぱり、ここの居場所はいいな~。心が落ち着く。

 

こいつらと一緒にインターシップに向けて練習して大会に出る……そんな光景を思い浮かべる。それはきっと楽しい事なのだろう。そして、その未来はあるかも知れないのだ。

 

そのためにも聖杯戦争……勝ち抜いて生き残らないとな。

 

こちら側でもあちら側の方へ影響を与えるモノがあった。こちらの事象であちら側への覚悟が固まったこの工程だ。

 

コロナとリオには感謝だ。なので頭を撫でてやった。

 

「ありがとな、2人とも」

「あ、は、はい」

「えへへ~」

 

2人とも撫でられてとても嬉しそうな表情だ。

 

「!?」

 

だが、突然大きな地響きがこの会場を襲った。地の底から何かが唸るような、そんな錯覚さえ覚える大きな振動の地響き。

 

あのキャスターが次元を割いて出来た黒い“穴”が現れたような地響きに似ている!!

 

俺はまさかと思って皆の所へ戻ろうとして、コロナとリオを見た。

 

「なっ!!」

 

2人ともいつの間にか前のめりになって地面に倒れていた。

 

「コロ!!リオ!!っく……プリムラ!!」

『迅速に診断します!!』

 

俺はその2人を仰向けに直してプリムラと叫んだ。プリムラも俺の指示が分かっていたのか早速診断を始めた。プリムラは魔力の状態や人体の症状などの簡単な診断は行える。

 

俺は肉眼で2人の様子を観察する。呼吸は小さいが息はしている。だが、少し顔色が悪い。

 

『マスター、診断終わりました』

「どうだった!?」

 

本当に迅速で診断したようだ。言われてから10秒も経っていない。

 

『体に影響はありません。ですが、魔力が少しずつですが搾りとられています。徐々にですが外部へと放出されています』

「何……!?」

 

魔力を絞り取られている?何故?

 

「あっ……」

 

俺はコロナとリオに気を取られて周りが見えていなかった。廊下を見ると他にも何人か倒れている姿があった。

 

この感覚……。

 

「結……界?またか?」

『おそらく』

「くっ……!!」

 

その事実に自分の心臓が跳ねたのが分かった。また聖杯戦争が始まったのだ。しかも今度はコロナとリオを巻き込んでしまった。

 

「ヴィヴィ達はどうなってる!?」

『わかりません。ですが急いだ方が良いかと』

「くっ……!!」

 

俺は歯ぎしりを鳴らして、この状況を招いてしまった事に悔しさと後悔を感じた。あの時、ヴィヴィオの誘いを断っとけば良かったのではないかと思ってしまった。

 

だが、その事を考えるのは後にしてコロナとリオを長椅子に寝かせた。

 

「悪い。少しの間、そこに居てくれ」

 

俺は意識のない2人に言葉をかけてヴィヴィ達の所へ走って行った。

 

この結界の感覚……あいつか。

 

脳裏には1人の人物が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うっ……」

 

練習場に戻ると、そこは先ほどの風景とは全く異なっており思わず吐き気を感じた。俺は口に手を押さえて何とか落ち着かせる。

 

練習場に居た人は皆倒れており意識が無いのか誰も動いていない。

 

死んでいるのではないかと一瞬思ってしまったが、コロナとリオを見た限りだとそんな事は無いはずだ。

 

だが、この光景だって見方を一つ変えるだけで死屍累々の地獄絵図にだって成り替わる。

 

「ガイ!!」

 

その中で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。その聞こえてきた方角を見るとオリヴィエが切羽詰まったような表情で俺の元へ駆けつけてきた。

 

「フリー!!無事か!?」

「はい。ですがこの結界は……」

「ああ、あいつで間違いないだろう。ヴィヴィ達は?」

「長椅子で横にさせておきました。ヴィヴィオもアインハルトもなのはもフェイトもノーヴェも……皆を聖杯戦争に巻き込んでしまった」

 

オリヴィエは後悔の色を表情に出し、がっくりと項垂れてしまった。

 

「後悔するのは後だ。今はこの結界を……」

「どうする気だ?」

 

後ろから突然聞こえた言葉にゾクリと背筋が凍った。目の前にいるオリヴィエも緊張の色を表情に出していた。

 

俺はゆっくりと振り向いた。そこに居たのは……

 

「キャスター……またか」

 

やはり先ほど想像していた通りの人物、キャスターだった。いつの間にか音もなく先ほどまで地獄絵図にもなろうとしていた口径の真ん中に立っていた。

 

そして、キャスターと目が合った瞬間、空気が凍った。

 

比喩表現では無く、本当に大気が凍ったのではないかと思わせる。そこまで冷酷な殺気を放つ人物はそうそういない。

 

このキャスターの正体は本当に一体……。

 

「なっ!?」

 

ここに来てもう何度目の驚きだろうか。数えるのも面倒だ。だが、これが今日の最大の驚きだろう。

 

キャスターの右腕の中にはヴィヴィオ、肩に担いでいるのはアインハルトだど分かったからだ。2人とも気を失っているからか動いていない。

 

非日常という世界の人物が日常の人物に侵食を始めた。そう思わせる光景だ。

 

「ヴィヴィオ……アインハルト……先ほどまで長椅子に寝かせていたはずだ!!貴様とすれ違った記憶など無いぞ!?」

「……」

 

オリヴィエが皆を寝かせた長椅子の場所はこの練習場の場所と一本の廊下で繋がっている。オリヴィエがこっちに来るまでにキャスターに遭遇しないはずが無かった。

 

「……てめぇ、その2人をどうするつもりだ?」

 

だが、そんな事はどうでもよい。今は目の前の状況が最悪なのだから。

 

そして、苛立っているからかなり低い声で話していたのが自分でも分かった。

 

「“聖王”と“覇王”……後は分かるな?」

「その力をその子たちから奪うのか?」

「教える気はない……だが……」

「あぁ!?」

 

キャスターは俺の事を頭のてっぺんから足のつま先まで目を通した。

 

「ふっ……」

 

そして、鼻で笑った。バカにされたのだろうか?だが、そんな事よりも……

 

「その2人を離せっ!!」

「武装形態!!」

 

俺は瞬時にバリアジャケットに切り替え、オリヴィエも騎士甲冑に変わる。

 

「そんなに大事か?この2人は?」

「てめぇには関係ない」

 

刀になったプリムラの鞘を掴んで立ち居合構える。オリヴィエも拳を握り込めて構える。

 

「……邪魔だな」

「「!?」」

 

キャスターを中心に何かが衝撃が波紋の様に広まった。激しい突風のような衝撃に目を閉じる。眼を閉じていてもその衝撃は体でまともに受けた。

 

「ガイっ!!」

 

だが、それも少し和らいだ。視界で確認していないがオリヴィエが俺の前に立ってくれたのだろう。オリヴィエは目を開けているのか?

 

そして、その衝撃は徐々に弱まり、少しして終わりを告げた。俺は眼を開ける。

 

「……っ!!」

「こ、ここは!?」

 

驚きは今日の内に後、何回体験すればいいのだろうか?

 

俺は目の前の光景に言葉が出なかった。

 

「……ここが“世界の実存外(アウトオブザワールド)”だ」

 

キャスターが何かを言っていた。

 

一言で言うのなら“漆黒の世界”。地面も黒ければ空も黒い。360度見渡す限り、漆黒の闇だ。近くにいるオリヴィエでさえ目を凝らさないと見えないくらいに黒という色の密度は高い。こんな所にズッと居ると平衡感覚が危うくなってくる。

 

しかし、先ほどまで練習場に居たのにここは一体?

 

「……二重結界……やはり負担は大きかったが、取れた魔力が良かったな」

 

漆黒の闇の中、キャスターの渋い声が耳に響く。

 

「……取れた魔力?」

「あの練習場の中にも優秀な魔導師が居たわけだ」

「……」

 

その魔導師というのはきっとなのはさんやフェイトさんのことだろう。

 

「てめぇ……」

 

怒りが体の全体から込み上げてくる。皆を巻き込んでしまった自分も苛立ちを感じるが、巻き込む原因となったキャスターにも苛立ちを覚えた。

 

「ふんっ……“固有結界”というのを知っているか?」

「……なに?」

 

漆黒の闇の中、キャスターの言葉が脳に響く。

 

「“固有結界”……心象風景を具現化し、現実を侵食する大禁呪……」

「心象風景……つまりお前の心の中は漆黒の闇とでもいうのか」

「まあ、正解に近い。だが、少し違う。そして、先ほどの結界内にこの固有結界……“世界の実存外(アウトオブザワールド)”を展開させた。良い補給源が一つ目の結界内に居るので作りやすかったがな」

 

世界の実在外……世界の外側って意味か?となるとここが世界の外側……なんて殺風景な景色だ。

 

そして、パチンと指を鳴らす音が漆黒の中に響き渡った。その音に俺とオリヴィエは警戒心を高めた。

そのうち視界に何かが浮かび上がってきた。白い十字架だ。それも二つ。そこに張り付けられているのは……

 

「ヴィヴィオにアインハルト?」

「ヴィヴィ!!アイン!!」

「あ、ま、待って下さい!!ガイ!!迂闊に動いては……!!」

 

張り付けられているヴィヴィオとアインハルトを見て俺は後先を考えずその十字架に向かって走り出した。

 

「っぐ!!」

 

だが、腹部に何か重い衝撃が当たった。その衝撃で来た道をリターンする様に飛ばされた。

 

「ガイ!!」

 

飛ばされたがオリヴィエが俺の勢いをうまく殺してキャッチしてくれたようだ。

 

「我を失っては勝てる勝負も勝てません!!しっかしして下さい!!」

「……っく、あ、ああ。悪かった」

 

眼の前にヴィヴィオとアインハルトが気を失って捕まっているというのに何も出来ない事に不甲斐無さを感じたが、確かにオリヴィエの言う通りだ。冷静さを失っては勝機も無くなってしまう。

 

俺は一度落ち着かせて周りを確認した。白い十字架のおかげで、少しだけ周りが明るくなっていた。

 

俺が衝撃を受けていた場所にはキャスターが立っていた。キャスターに殴られたか蹴られたのだろう。

 

「この2人はとても貴重な魔力だ。慎重に絞り取らねばなるまい」

「……」

 

ダメだ、冷静になれ。怒りの沸点の限界地は越えていたが、何とか自分自身を制御した。

 

ヴィヴィオ……アインハルト……巻き込んで本当にゴメンな。

 

俺は心の中で2人に謝った。

 

「後はこの中でお前たちを仕留めて一気に聖杯戦争を勝ち抜く」

 

そう言いつつ、キャスターは自分の周りに黒い霧を発生させる。周りが漆黒の闇なので肉眼ではその霧が見づらい。

 

「オリヴィエ……助けるぞ、あの2人を」

「ええ。絶対助けましょう」

 

俺とオリヴィエは拳をブツけて構えた。

 

絶対にヴィヴィオとアインハルトを助けてやる。

 

その思いを胸に刻み込んでキャスターを見据えた。




キャスターがマジでチートっぽい。

固有結界まで使い出しましたよ。

キャスターはそろそろネタバレをする時期になってきたな。

何か一言感想がありますと作者の気力がかなりとり戻ります(割と事実w

今年中に後三回は更新することを目標として頑張ります。

では、また(・ω・)/
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。