魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~ 作:ガイル
一人の二人称をやってみたかった。
では、二十三話目どうぞ~。
―――???
「いたぞ!!仕留めろ!!」
オリ……ヴィエ……オリヴィエ!!
どうして……どうしてあなたは……たった一人で全てを背負おうとして俺を置いて行った。
「ゆりかごを始動させるな!!」
俺では……あなたの力にはなれなかった……。
「「「うぉぉおおお!!」」」
兵士たちは威勢のある声と共に怒涛の如くこちらに向かってくる。
それがあなたの強さというのなら……孤独に逝くことが本当の強さだと言うのなら……俺もその道を……。
俺の右手に魔力を込める。背を向け進みだした愛しき人に向かっていく兵士を倒すために。その背に背を向けて。
「うわああああああぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁ!!」
雄叫びには程遠い、悲鳴にも嘆きにも近い叫び声で敵兵へと突っ込んでいった。
その英雄のような背中を見せた愛しき人を守るために。
オリヴィエ、俺は君の事を……
“心から愛している”
―――中央第4区公民館 ストライクアーツ練習場
「はぁ!!はぁ……はぁ……」
私は息を荒くしながら夢から目覚める。
「だ、大丈夫か、アイン?」
「はぁはぁ……えっ?」
横になっている私が見上げると心配そうな表情のガイさんが私を覗き込んでいた。
私は……眠っていた?そして、ガイさんが近くにいる?
「……」
何秒ぐらい私の思考が停止したのだろうか?頭の中がしばらく真っ白になっていた。そして、思考が段々と復活していくととある結論に達していた。
と言う事はガイさんが……私の寝顔を見て……いた?
「ーーーーーっ!!」(声にならない)
「うわっ!!」
私は声にならない様な悲鳴を上げながら勢いよく起き上がる。危うくガイさんにぶつかるところでしたが、ガイさんはうまく避けてくれた。
何度か寝顔を視られてしまった場面もありますが、やはり見られるというのは慣れないものです。
「元気だね~、アインハルトちゃん♪」
「……うぅ~」
寝顔を見られた事に恥ずかしさを覚えながらも周りを見渡すと、ガイさんの他になのはさん、フェイトさん、ベンチに座っているオリヴィエ、その隣に眠っているヴィヴィオさんがいた。
でも、なぜ私はここで眠っていたのだろうか。
「私はなぜ眠っていたのでしょうか?」
「わかんね。皆気を失っていたからな。眠っていたのかもしれないけど」
「……」
ガイさんが言っている言葉には嘘が見えた。また何かを隠している。
「そうですか」
ですが、そこで追及する事もなく私は頷いた。
「んんっ……」
「ヴィヴィオ、目が覚めましたか?」
「んっ……あ、フリージア……さん?」
少しすると、ヴィヴィオさんも眼を覚ました。
「私、眠っていました?」
「ええ、ぐっすりと眠っていました。疲れているのでは?」
「そうかな~?」
ヴィヴィオさんが寝ぼけた眼で周りを見渡すと、ガイさんに目がいった。そして、その寝ぼけた眼が一瞬にして開いた。
「ぐっすり眠ってたな」
「ガ、ガイさん!!も、もしかして私が眠っている時もいました?」
「ん、まあ」
ガイさんが肯定すると、ヴィヴィオさんの頬がみるみる赤くなっていき、顔を伏せてしまった。
理由は私と同じだろう。
「……」
私は赤くなっているヴィヴィオさんを見つめていた。ヴィヴィオさんと出会いって以来、悲しい夢はあまり見なくなった。
ですが、あそこまで酷い夢を見たのは久しぶりだ。ヴィヴィオさんに何かあったわけでもない。
そして、最後の一言だけ心に響いた。
「……“心から愛している”」
「!?」
無意識に呟くように小さく口に出してしまった。だが、それを聞いたのかガイさんが驚いた様子で私の方を振り向く。
「え、あ、ど、どうしました、ガイさん?」
今の言葉を聞かれた?そ、それって、つ、つまり……その言葉からすると私がガイさんにこ、告白!?
「あ、い、いや。その言葉はどこで聞いたのかなって?」
「え?」
ガイさんも何か混乱しているような様子で私に言葉をかけてくる。
どうやら、変に誤解はされませんでした……もし誤解されてもその結果は凄く気になりますが。
「い、いえ、夢で言っていた言葉を思い出しただけですので」
「そ、そうか。覇王の記憶か?」
私はその言葉に頷く。そこでガイさんは何に安心したのか息をついた。
「??」
何故安心したのか分からなかった。本当にガイさんは何かを隠している。
オリヴィエが現世にいる時点ですでに怪しいのは確かだ。そして、合宿の後、皆とは一歩離れて行動しているような感覚。
「あっ……」
ですが気がつくと私はガイさんを見つめていた。吹っ切れてたような表情。ガイさんの表情はここ最近のよりも明るくなっている事に気付いた。
「ガイさん……何か良いことでもあったのですか?」
自然と声に出してしまった。
「……ああ、とても嬉しいことがな」
「……」
久々に見た気がする。ガイさんの何の曇りもない笑顔。どこか影のある笑顔ではなく、正真正銘の明るい笑顔。
それが見れた事に私の心は温かくなったのが分かった。気になる人が本当に喜んでいる事が原因で嬉しい感情に満たされているのかもしれない。
「ふふっ、アインハルトちゃん。ガイ君の変化を見つけられるなんて結構鋭いね~」
「あ、え、ええと……」
なのはさんの言葉に口籠もる。
「俺、ポーカーフェイスが無理みたいです」
「ガイさん。どんな嬉しい事があったんですか?」
やっと頬が肌色に戻ったヴィヴィオさんがガイさんにその内容を聞いてくる。
「……内緒だ」
「ふぅん……あれかな。気を失っているフェイトちゃんにあんなことやこんなことを……」
「ふぇ?ガ、ガイ……私にあんなことやこんなことを!?」
「いや、なのはさんの冗談を真に受けないで下さい、フェイトさん。騙されすぎです」
「あんなことやこんなこと?何をするんですか?」
「……」
純粋無垢なヴィヴィオさんの質問にガイさんは言葉が出ない。
「前はこんな冗談でもガイ君は慌てていたのにね~、今は冷静になってるからガイ君じゃ弄べないな~……ほんと良い事があったんだね」
なのはさんの言葉にガイさんは迷いのない笑みを浮かべて頷く。
その内容はとても気になりますが、ガイさんのプライベートにまで突き進むわけにはいきませんね。
私は心の中でガイさんのその内容についての明確な線引きを引いた。
―――なのは宅
結局、なぜ皆が倒れたのかは謎でした。なのはさんとフェイトさんは管理局に連絡をしたらしいですが、特にあの周辺で事件などが起きたわけではないようです。
一応、管理局があの周辺を捜索するそうです。捜索すると言っても聞き込みぐらいしかないとなのはさんは笑顔で話していましたが。
ガイさんは何かを隠しているように見えましたが……もしかしたら、気を失っていなかったのかも知れない……少し気になりますが考えるのは止めましょう。
多分、私の理解の範囲を超えているに違いない。すでにオリヴィエが現世にいる事態すら常識の理解の範囲を超えているのだら。
私はガイさんの隠していそうな事に対して考えるのをやめて現実に戻る。
練習の後、皆さんと一緒になのはさんのお宅でご飯を食べる事になりました。
「いっぱい作ったから、たくさん食べてね」
「「「ありがとうございます」」」
先ほどのメンバーにコロナさん、リオさん、ノーヴェさんも混ざっての食事。
なのはさんとフェイトさん、ガイさんが作った料理がテーブルを埋め尽くすほど色とりどりに飾っていた。
明日のSt.ヒルデ魔法学院は創立記念日で休みなので、コロナさんとリオさんはお泊りのようです。
私も誘われましたが……どうしましょうか……。
チラリとガイさんを見る。ガイさんは温かい食卓を囲みたいことも知っている。このような食事も嬉しいはずだ。
表情がとても嬉しそう……ガイさんもヴィヴィオさんの家に泊まったりするのでしょうか?
「でも、何で眠ってたのかな?」
「うん、確かガイさんと話をしていたら急に意識が途切れたような」
「俺もそんな感じだったぞ」
コロナさんとリオさんも眠っていたようだ。ガイさんもその話に加わる。
「料理がおいしいです」
「まったくだ。ガイもなかなかなレベルだな」
オリヴィエとノーヴェさんは食事に手を付けて料理に好評を付けていた。
「家がこんなに賑やかなのは久しぶりだね」
「うん。本当に賑やか」
「こういう日はお酒飲もうよ、なのは」
「……ん~、まあ、たまにならいいかな」
ちょっと悩みながらもなのはさんは大きな冷蔵庫からとても高そうな瓶を取り出す。
「ガイも飲む?」
「いえ、未成年なんで」
「そっか。フリージアとノーヴェは?」
「はい、頂けるのなら」
「あたしも貰うかな」
ガイさんはお酒を断ったけど、オリヴィエとノーヴェさんはお酒を頂く事に。四人はお酒を飲み始めた。
「アインハルトさん、今日は練習お疲れさまでした」
「あ、ヴィヴィオさん。お疲れ様です」
隣に座っていたヴィヴィオさんが笑顔で私に声をかけてくる。
「いつのまにか眠っていましたね」
「ええ。理由は分かりませんが」
ニコニコと笑いながら語りかけてくるヴィヴィオさん。
私はヴィヴィオさんからオリヴィエに向きかえる。
改めて思うと凄い光景だと思う。複製母体と複製体。同じ世界でオリヴィエとヴィヴィオさんが存在している。この事自体が奇跡でもないと成り立たない。
……ガイさんは何か奇跡を起こした?
最初のころはオリヴィエがこの世界に存在する原因を調べてはいたが、何を考えてもあり得ない事だった。
実は昔に仮死状態で長い眠りにつけるような技術があったとして、それをガイさんが起こしたとか考えてはみたが、覇王の記憶で見た限りではそのようなモノは無かった。
オリヴィエが現世にいることは奇跡の類でもない限り起こりえない事なのだから。
本当に常識の理解の範囲からかけ離れていますね。考えるのも疲れてきますので、これは切り離したほうが良い。
「あ、あの、アインハルトさん」
「……はい?」
私はオリヴィエに視線を向けていたのでオリヴィエと話を終えて隣にやってきたヴィヴィオさんの言葉に少し遅れながらも返事を返し、視線を戻す。ヴィヴィオさんの表情は少し戸惑いの色を見せていた。そして、そのまま口を開く。
「た、たまたまだったんですけど合宿の時にアインハルトさんの呟いた言葉を聞いてしまった事があるんです」
「えっ?」
予想外な話に私は思わず言葉を詰まらせる。
それでもヴィヴィオさんは話を続ける。
「“ガイさん……オリヴィエ……あの二人なら……きっと……”って呟きながら涙を流していたんです。オリヴィエって私の複製母体の人ですよね?その人とガイさんに何か関係があるのですか?」
「……」
あの時に呟いていた言葉をヴィヴィオさんは聞いていた?あの時、ヴィヴィオさんは起きていたわけですか……これは失態ですね。
私は一息ついて眼を瞑る。
そして、再び眼を開け、周りに……なるべくガイさんには聞こえないぐらいに声のトーンを下げて話し出す。
「……オリヴィエは私の覇王の記憶ではとても明るい人でした。そして、ガイさんも明るく優しい人だと思います。この2人はとても似ている」
私はガイさんを見る。視界の端にはオリヴィエを捕えている。
「たまに思う事なのですが、フリージアさんはオリヴィエにとても似ている雰囲気を持っています」
「そうなのですか?」
似ているも何も本人その者ですけどね。ヴィヴィオさんの言葉に頷く。
「……私はフリージアさんをオリヴィエとして見ているのかも知れません。なので、あの二人ならきっと……“私が後悔の気持ちに潰されない支えとなってくれる人たち”だと思ったのです。覇王の数百年分の後悔という気持ちに。身勝手な話ですいませんが、フリージアさんとガイさん、そして……」
話を真剣に聞いているヴィヴィオさんの眼を見る。この先の言葉少し言いづらかった。だけど言っておきたい言葉でもあった。なので話を繋げる。
「今は……ヴィ、ヴィヴィオさんもいますし……」
「え?あっ、え、ええと……」
顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かった。ヴィヴィオさんも少し戸惑いの色を表情に出して、少し硬い笑みを浮かべる。
私はヴィヴィオさんから視界を外して周りを見る。
「それに、リオさん、コロナさん、なのはさん、フェイトさん、ノーヴェさん……いろんな人とも出会えることができました。今までは覇王の悲願を叶えるため裏舞台で突き進むべきだと思っていました。ですが、皆さんと格闘技を始めた事によってこの輪の中で鍛えて表舞台で突き進みたい……そのように考えるようになりました。そのように考えるようになってから後悔という気持ちが少しずつ喜びの気持ちへと変わって言っているような気がするのです」
「アインハルトさん……」
私を見ているヴィヴィオさんの瞳は喜びを訴えていた。
今の言葉が嬉しかったのでしょうか?この気持ちを他人に伝えるのはかなり恥ずかしかったですが、呟いた言葉は何とか誤魔化せたでしょう。話している事も事実ですし。
本当は……あの二人ならきっと“この覇王の悲願を理解してくれる”と思ったのですけどね。
特にオリヴィエには理解して欲しい。この悲願が出来たのはオリヴィエの死が原因だ。矛盾してしまうがやはりオリヴィエにはこの悲願を理解してほしいというのがこの体に流れている覇王の血が騒いでいる。
……ですが、この気持ちはクラウスなのか私からにじみ出た気持なのかはわかりません。
「ありがとうございます。アインハルトさんがそのように考えてくれているのはとても嬉しいです。これからも一緒に頑張っていきましょう!!」
「……はい、こちらこそ」
ヴィヴィオさんが笑顔で私の両手を掴んで激しく上下に振るう。
「あ、ご、ごめんなさい」
「あ、いえ……」
必死に手を振っていて我を忘れていたのか、サッと手を離して顔を赤くしてしまう。私も釣られて顔を赤くしてヴィヴィオさんから視線を外す。
それでもヴィヴィオさんは笑顔だった。しかし、
「……でも、一緒に頑張っていくことは嬉しいですけど……」
「?」
ヴィヴィオさんは何か歯切れが悪そうに語尾を濁して呟く。
「アインハルトさんはガイさんの事が好き……なんですよね?」
「っ!?」
ヴィ、ヴィヴィオさん!?いきなり変な事を言わないで下さい!!
赤くなっていた肌が更に紅くなっていくのが分かった。眼も大きく開いてしまっただろう。ですが、大声を出さなかったのは良かった。こんな話をガイさんが聞いたら……。
「うまいな、なのはさんの料理も」
「ガ、ガイさん!!」
私の前に置いてある料理を取るため、いつの間にか隣にガイさんがお皿を持って料理をお皿に盛っていた。
「ん?どうした?随分と顔が真っ赤だぞ。風邪でもひいたか?」
「あ、い、いえぇえふぃええひぇ!!」
「……言葉が変だぞ。どっか悪いのか?」
「ううっ……」
ガイさんから本気で心配そうな眼で見られて、私は顔を伏せることしかできなかった。
「あ、大丈夫ですよ、ガイさん。アインハルトさんは照れ屋なだけですから」
「何に照れてるんだ?」
「……っ」
もうこの状況では何も言えない。ヴィヴィオさんは何か分かったかのように解釈のある笑みでガイさんと話している。
「ま、何ともないならいいけど、無理するなよアイン」
「……はいっ」
私の言葉を聞いて、ガイさんは自分の席へ戻って、コロナさんとリオさんと話をしながら盛った料理を食べ始める。
「ふうっ」
自然と安堵の付いた息を吐く。
「アインハルトさんはやっぱりガイさんの事が……」
「そ、それ以上言わないで下さい」
私は鋭い視線でヴィヴィオさんに何も言わせない様に釘をさす。それでもヴィヴィオさんは笑みを崩さない。
「アインハルトさんとは色々な好敵手になりそうですね」
「い、いえ、別に私は……大会とかではヴィヴィオさんとぶつかり合いたいですが」
ヴィヴィオさんは私がガイさんに好意を抱いていると思っている……まあ、否定はしませんが言葉で言い表すには羞恥心が大きい。
「……ええ、こちらこそ負けません!!」
「格闘技戦で……ですよね?」
「ん~、いろいろとですね」
満足げな満面な笑みを浮かべながら私に力強い純粋な瞳を向けてくる。その瞳を見て考える。
ヴィヴィオさんもガイさんに好意を抱いているのは薄々気づいていた。もしも、ガイさんとヴィヴィオさんがお付き合いをしたら……。
「あれ?ガイさんの立場が悪い?」
「え?何がですか?」
ガイさんとヴィヴィオさん。大人モードになれば良いカップルには見えますが、今のヴィヴィオさんだと、ガイさんが世間から冷たい目線を受けてしまいそうです。
「……私も同じ……ですか」
「??」
私も大人モードになればガイさんと同じぐらいの背丈になりますが、今のままではヴィヴィオさんと同じですね。
私は何処となくため息を吐く。
もう少し早く生まれていれば良かった……でも、あと数年したら私もガイさんと同じぐらいに成長するはず。今のままで成長が止まる事は無いはずだ。そしたら……って私は何を真剣に考えているんですか!?
「アインハルトさん」
「は、はぃ!?」
ネガティブな思考から妄想を始めていた私にヴィヴィオさんが声をかけられて変な声をまた出してしまった。
「いろんなことを考えているようですけど、その考えは隣に置いといて」
隣に置くような手のジェスチャーをして笑みを向けてくる。
「私はアインハルトさんとガイさんがどのように知り合ったのか教えてほしいです」
「私と……ガイさんがですか?」
ヴィヴィオさんは頷く。
「……」
私は話す事に少し躊躇いを持った。ガイさんとの出会いを他人に話をして良いのかと。
「……わかりました。少し長くなりますがよろしいですか?」
「もちろん」
ヴィヴィオさんになら話しても良いだろうと結論に達した。屈託ない笑みを向けてくるヴィヴィオさん。私はそれに頷いて記憶の渦からガイさんとの出会いの場面を思い出し、語り始めた。
―――半年前 マンション
「ここが、新しく住む家」
昼過ぎ。
私はマンションを見上げるような形でマンションの真正面に立っていた。今年から中等科になる私は少し早いが、このマンションで一人暮らしを始める事になった。
「……浮かれていますね」
覇王の悲願という気持ちを持っていると言うのに新しい住居に楽しみと不安という気持ちが交差している。
私は一度頭をふって意識を変えマンションへと入っていく。私の部屋は三階の一室。そこまで階段で登っていく。
折り返す階段で三階まで上るといくつかのドアが無機物なコンクリートに均等に一列に並んでいた。対面は手すりが付いていてここから景色が見渡す事が出来た。もっと上の階なら更に景色はいいのだけど、別に景色が見たいからもっと上の階にしたいというわけでもないのでここで良い。
私は足を進めてドアの隣についているプレートを一つずつ確認していく。
「ここは無人……ガイ・テスタロッサ……アインハルト・ストラトス……ここだ」
その作業はすぐに終わった。三つ目のドアが私の部屋だ。
「荷物は届いていますし、今日一日は荷物整理で終わりそうですね」
鞄から預かった鍵を取り出し、ドアノブに差し込みドアのロックを外して開ける。
中に入るとなかなかの広さを持ったワンルームだ。事前に下見をしていたのでいくつかのトレーニング器具もスペース的に置けると分かり段ボールに入れていた。
日々のトレーニングを怠るわけにはいかない。
積まれた段ボールのほとんどはトレーニング器具だ。私生活のモノはあまり無い。
「……荷を解く作業をしますか」
積まれていた段ボール山を一つずつ開けていった。
荷物を整理していたら夜の時間になってしまいました。見渡すとトレーニング器具ばかりの部屋になっていた。
後はご近所さんに一言挨拶をしないといけませんね。
覇王の悲願もそうですが、ここの生活に支障が出ないようにしませんと。最初が肝心です。孤独に突き進む事も重要ですがやはりプライベートの空間は気の休まる場所がいい。そのためにもここの人達と悪くならない様にしませんと。
「確か、手土産のモノがここに……」
段ボール箱から包装した四角いお菓子缶を二つ取り出す。
名前は白恋人(はくこいびと)。
確か少し前に面白恋人(めんはくこいびと)とかの商品がパクリだとかで騒がれたようなニュースを聞きましたね。
白恋人……確かにこれは美味しい。
「夜だとご迷惑ですが、朝だと皆さん忙しいと思いますから今しかないですね」
私は立ち上がって、紙袋にお菓子缶を入れて部屋を出る。この階には2人の人物が住んでいることも調査した。それなのでご挨拶のお菓子缶は二つ用意したのだ。
隣を見ると明かりがついていた。人は居るようだ。プレートにはガイ・テスタロッサって書いてあった。
テスタロッサさん……どんな方だろう。
「初めての人に挨拶をするのは少し緊張しますね」
戸惑いながらも一呼吸置いて呼び鈴を鳴らした。
「はーい、どちら様でしょうか?」
聞こえてきた少し低い声とともにドアが開く。
男性だった。
見た目は黒い髪に黒い瞳。幼さが少し残るくらいの童顔。私より背丈は断然に高いが、成人を超えているとも思えなかった。
「あ、あの、今度隣に引っ越してきたアインハルト・ストラトスと申します。一言挨拶にお伺いしました。よろしければこちらをどうぞ」
私は少し脈が速い心臓を何とか堪えながら紙袋から包装されたお菓子缶を取り出してテスタロッサさんに差し出す。
「あぁ、隣に引っ越してきた人ね。これはわざわざどうも」
それを受け取りながら、笑みを浮かべて軽く頭を下げる。
「俺はガイ・テスタロッサ。ここで困った事があったら何でも言ってくれ。一応ここには長年住んでいる。わからない事があれば相談に乗るし、俺に出来る事があれば何かするよ」
最初に挨拶した人がとても優しい人に見えてホッと一安心した。ここでの生活は幸先が良いのかも知れない。
「はい、新しい生活にいろいろと不安な事があります。もし困った事がありましたらお伺いしてもよろしでしょうか?」
「ああ、構わないよ。でも、ここのマンションはワンルームだよ。君は1人暮らし?ちょっと失礼な事を言うが見た目は十歳を超えたぐらいの年齢に見えるけど」
「……ええ、まあ、いろいろとありまして」
「……そっ」
そこの事についてはあまり話せる内容ではないので、私の言葉には歯切れが悪かった。
この人は私のプライバシーに土足で入り込む事に躊躇っているのかどのように話をするか迷っている表情だった。
「ま、人の事言えないか」
「えっ?」
テスタロッサさんは片目を瞑って笑みを浮かべた。
「ああ、俺の事はガイとでも呼んでくれ。ええと、名前はアイン……ハルト・ストラ……トスだっけ?」
テスタロッサ……ガイさんの途切れ途切れの言葉に私は頷く。
「アインと呼んでも?」
「……馴れ馴れしいです」
「……あ~、うん、確かにね。ごめん、それじゃアインハルトでいいかな?」
「はい。私はガイ……さんと呼べば?」
妙に馴れ馴れしいが親しみを覚え人柄的に良い人物だとは思えた。
「あぁ。隣同士だしよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
ガイさんは笑みを浮かべて隣に越してきた私を出迎えてくれた。ガイさんへの挨拶が終わり、今度は反対側の隣人の人に挨拶をしに向かった。
出だしは順調。ここでの生活に支障が無いようにしないと。隣人の人たちとのコミュニケーションも大事です。
そんなふうに考えている内に反対側の隣人の人の前のドアについた。プレートにはエルラルド・ハワードと記入されている。
ハワードさん……どんな方だろう。
私はガイさんのドアと同じく呼び鈴を鳴らした。少し緊張していますがこれも経験です。
「へ~い」
気迫のない声とともにドアが開く。見た目は四十代くらいのお腹が少し……というよりもかなり出ている中年男性だ。白髪が少し目立つ髪はボサボサ。とても清潔な方とは思えなかった。
「あ、あの、今度隣に引っ越してきたアインハルト・ストラトスと申します。一言挨拶にお伺いしました。よろしければこちらをどうぞ」
私は少し戸惑いながらも、手土産をハワードさんに差し出す。
「……」
だが、ハワードさんは何を考えているのかジッと私の事を見ていた。私の体全身を見定めているような観察する眼。
正直、その眼つきには生理的に受け付けられなかった。
「あ、あの……」
「あ、ああ、いや、すまんね。可愛いお嬢ちゃん」
少し不気味な笑みを浮かべながら差し出しているお菓子を掴もうとした。
「っ!?」
だが、その時……手土産を掴むのではなく私の手にハワードさんの手が添えられていた。そして、私の手を味わうかのように撫でていた。正直、気持ち悪いです。
「どうだい、お嬢ちゃん。家でお茶していくかい?ここでの生活はまだ不安だろ?いろいろと手取り足取り教えてあげるよ」
「あ、い、いいえ。おかまい……なく」
本能から分かった。この人は危険だと。部屋に入ってしまっては何をされてしまうのか分からない。
私はハワードさんの手を振り払った。
「ふむ、まあいい。これからよろしくね、お嬢ちゃん」
「……はいっ。失礼します」
すぐに返事は出来なった。ハワードさんの笑みがとても不気味だったのだから。
ですが、ここで否定したらここでの生活も悪くなってしまう。幸先が良かったと思ったのはさっきまでだけだった。
この人はあまり好ましくない方だ。先ほどのガイさんとは大違いにも程がある。
ドアが閉まり、私は無意識に肺に溜まった息を吐いていた。
さっきの人とはあまり良い関係を持てなさそう。ここで分からない事があったらガイさんに聞く方が得策ですね。
「……ですが、これからですね」
私はこの程度で歩みを止めてしまっては覇王の悲願など成就出来ないと思い、気を取り直して自分の部屋へ戻った。
ここでの生活で分からない事はガイさんに尋ねた。ガイさんは親切に教えてくれる。ここの生活は特に不自由もなく暮らせた。ただ一つを除いて。
「え?ハワードさん」
「はい、どのような方なのでしょうか?」
引っ越しをしてから月日が経ち、私はガイさんの部屋に上がってお菓子を頂いていた。ハワードさん相手だと上がれませんが、ガイさんなら大丈夫だと考えていた。
もし襲われたら武装形態して返り討ちです。
などと考えてしまうけど、それは無いと思った。ガイさんは親身なって私の事を支えてくれる。原因は分かりませんが、邪な考えは持っていないとわかった。
そして、部屋に気になるものが一つあった。電子ピアノだ。
ガイさんはピアノを弾くのでしょうか?覇王の記憶の中ではクラウスがオリヴィエに聴かせていた。ガイさんも誰かに聴かせるために弾いているのかな?
「ん~、あの人はいつも部屋にいるんだよね。仕事も何をしているのか分からないし。話を掛けても無視されるし、あまり外交的な人じゃないよな~」
「そうなのですか?」
ピアノの話をいつか振ろうと結論付けて、今、話をしている内容に戻る。
無視される?私の時はあんなに話をしていたのですが……。
「見た目は不健康だし、自堕落な生活を送っているんじゃないかな」
「そう……かもしれませんね」
私はふうっとため息をついてコップに注がれているコーヒーに視線を落とす。ここでの生活に何不自由なく暮らせる。ただ、あの人の関係だけはどうもうまくいかない。
「……何かあったん?」
ガイさんが何か原因が有ったのではないかと探ってくる。
言えない。この事は他人に言えない。目の前の人に相談出来たらどれだけ楽なのだろうか。
最近、ハワードさんの行動がおかしい。朝、学院行く時に部屋から出ると、必ずと言っていいほどハワードさんが不気味な笑みを浮かべて通路に立って私の事を見ている。
『やあ、お嬢ちゃん。今日も可愛いね』
『あ、お、おはようございます』
私が挨拶をするとハワードさんは更に二割増しの不気味さを持った笑みを浮かべて私を見る。
とても、スッキリした朝ではない。この人と朝会うだけでも精神的にかなりきつい。
『お、アインハルト。おはよう』
『あ、おはようございます、ガイさん』
たまにガイさんも同じ時間帯で部屋を出るのでガイさんと会う事もある。この状況でガイさんが出てきてくれると大変に助かります。
それを見ていたハワードさんの表情から笑みが消えたのが分かった。
『ハワードさん、おはようございます』
『……ふんっ』
ハワードさんは機嫌が悪くなったのかドアを思いっきり閉めて自分の部屋に戻った。
『なんなんだか』
ガイさんはあまり気にする事もなく、階段へと歩き出す。
朝、そのような事があって、その日学院から帰ってくるとハワードさんは通路で待っていた。
まるで私の私生活のサイクルを知っているかのように。
『お帰り、お嬢ちゃん。美味しいお菓子があるんだ。食べていかないかい?』
『あ、い、いえ、結構です』
私は一言言っただけで自分の部屋に逃げるように入った。朝はたまにガイさんと遭遇するのでいいのですが、ガイさんは帰りは遅いのでこのようにハワードさんに出会うと対応に困る。
『……覇王の子孫として恥ずかしいです』
このように逃げていてばかりでは覇王の悲願を成就できるのだろうか?などと考えてしまう。
「まあ、何があったのかは聞かないけど、もしもの時にアドレスでも交換しないか?」
「え?アドレス?」
考えごとに没頭していた私にガイさんが声を掛けてくる。
「相談や悩み事を打ち明けたいと思ったらメールでもしてくれれば離れていても話は出来るし」
「……」
その提案に私は乗るか考えた。この人にアドレスを教えて本当に良いのかと。
「この提案に乗るかはアインハルトが決めるといいよ」
「……お願いしてもよろしいでしょうか?」
少し考えた後、この人なら大丈夫だろうと思い私は端末機器にガイさんのアドレスを登録した。
ガイさんにも私のアドレスを登録させた。
「あいよ、登録完了」
「こちらもです」
そう言えばこの端末機器にアドレスが登録されたのは初めてだった。
初めての人がこの人……ガイさん……まあ、悪くはないと思います。
不思議とモヤモヤとした気持ちは晴れていった。
「……アインハルトってさ」
「はいっ?」
ガイさんがテーブルに肘を付けて笑みを溢しながら私の顔を覗いてくる。
「いつも冷静沈着っというか、落ち着いているよな。本当に初等科五年生?」
「はい、私はSt.ヒルデ魔法学の初等科五年。アインハルト・ストラトスです」
「……の割には、ほんと落ち着いてるよな」
「そうでしょうか?」
このくらいの落ち着き感があっても悪くはないと思うのですが。
「アインハルトはまだ親とかに甘えたい年頃だと思うんだけどね。何と言うか……無理してない?」
「……いえ」
その言葉を否定するのに少しの間を置いてしまった。その事にガイさんはどのように思ってしまったのだろうか。
「1人で生きていくというのも経験ですから」
「……そっか」
ガイさんは苦笑していた。
「……やっぱ、アインハルトも俺と一緒か」
「え?」
ガイさんが何かを呟いたと思うのだがうまく聞き取れなかった。だが、その時のガイさんの瞳は何か悲しい色に染まっていたのが分かった。
そして、ガイさんは目を瞑って軽く首を横に振った。少しして目を開ける。
「いいや、何でもないよ」
「……」
何でもないと言う人がそのような悲しい笑みを溢すのだろうか?
「ああ、もうこんな時間か。飯でも食べていくか?」
ガイさんが時計を見る。私も釣られて時計を見ると良い時間帯だ。私はゆっくりと立ち上がる。
「いえ、そこまでご迷惑になるわけにはいきません。では、そろそろ失礼します。いろいろと分からない事を教えて下さいましてありがとうございます」
「わかった。ま、こっちも話をしてて楽しかったさ。またな、アインハルト」
「お邪魔しました」
私はガイさんに一礼してガイさんの部屋を後にした。
「……っ」
ガイさんのドアから出ると私のドアの前にモヤモヤとした気持ちにした張本人が不機嫌そうな表情で私の事を見ていた。
「お嬢ちゃん!!何でそんな男の所から出て来たの!?もしかして、何かされたのかい?」
「あ、え、えっと……」
ハワードさんだ。
そして、なぜハワードさんはそんなに血眼になって私の事を見てくるのだろうか。
正直怖いです……。
「あの男に穢されたんだね!!そして、周りには誰にも言っちゃいけないと口止めされて……むむむ、許さん!!おじさんが怒鳴ってやる!!」
この人……正気の沙汰じゃない。余り関わりたくない。
避けたい一心にハワードさんの戯言を聞き流して急いで自分の部屋のドアに逃げ込もうとした。
「っ!?」
しかし、ドアノブを握ろうとした瞬間、腕を掴まれてしまった。
かなりの力……!?くっ……武装形態を……。
私は魔力を込める。
「何をそんなに慌てているんだい?そうだ、もう良い時間帯だし家でご飯を食べていきなよ。そして、あの中で何をされたか検証してあげるからさ」
ハワードさんの不気味な笑みが零れる。
……あれ?魔力がうまく働かない?何かに妨害されている?あっ……。
私は気付いた。私の腕を掴んでいるハワードさんの手首に丸いブレスレットが付いているのを。そこから私に向かって魔力を流している。
対抗魔力?逆流の魔力をぶつけることで相手の行動を制限させるやり方。この人……魔導師!?
「何をしようとしているのかな、お嬢ちゃん?もしかして、おじさんに何かしようとしたのかな?そんな悪い子にはお仕置が必要だよね」
「い、嫌!!」
そう言って、強引に私の腕を引っ張りながらハワードさんの部屋のドアまで動く。
「大丈夫、お仕置と言っても痛いモノじゃないよ。むしろ気持ちいいかもしれない」
「は、離して下さい!!」
私の腕を掴んでいるハワードさんの手を振り払おうとしたが魔力の流れを止められて、蹴りや覇王断空拳を打てる体制でもない。
……せ、せめて武装形態が出来たら。
「ひぃ!!」
ハワードさんの掴んでいない手が私の胸を乱暴に揉みだす。
ひ、人の胸に、さ、触らないで下さい!!
「おじさんこのくらいの大きさが好みだからね、可愛がってあげるよ」
これから何をされるのかこの行動だけで十分に理解してしまった。とても嫌な事をされる。
「アインハルト!!」
「あっ?」
私の名前を声高く呼ぶ声が聞こえた。その声の方向を見ると、ガイさんが部屋から出て私たちの光景を見ていた。
ガ、ガイさん……。
「外が騒がしいと思って出て見たら……ハワードさん!!何をやっているのか分かっているのですか!?」
「……うるさい若造だ」
「っい!?」
ハワードさんはガイさんの話を聞くこと無く、魔法陣を展開させて、数発の魔弾をガイさんに飛ばした。
大人が横に三人並んだら歩くことが困難なこの狭い通路の中、数発の魔弾が飛んでいく。常人ならそれを避けるのは難しいだろう。
「……えっ!?」
だが、ガイさんは最初はいきなり魔弾が飛んできた事に驚いていたが、無駄な動きは無く、それらを避けた。
す、すごい……この狭い通路の中で魔弾を紙一重でかわした。
「っち」
ハワードさんは苛立ちを隠すことなく顔に出していた。
「……一応、俺が管理局員ってことは知っていますよね?地上だと俺の管轄外になりますが、強姦罪で地上本部に突き出しますよ。同じマンションに住んでいるよしみで今なら俺は目を瞑って見過ごしてもいいです。まだ間に合いますよ」
「なら、お前をぶっ飛ばして黙らせれば全て終わる」
「……」
ガイさんのデバイスが鞘と刀になった。ガイさんはそれを掴んで無言で構える。これ以上話をしていても無駄だと思ったのでしょうか。
「!?」
私にはバインドが掛けられた。このバインドにも対抗魔力が流れている。完全に捕縛用だ。
私の腕を掴んでいるハワードさんの手が離れ、待機状態のデバイスを杖にして構えた。
「魔術師崩れですか?」
「……ふんっ」
ハワードさんは再び魔法陣を展開させて先ほどよりも倍の数の魔弾を生成した。ガイさんは特に慌てている素振りはない。
「飛べ!!」
ハワードさんの掛け声で魔弾は一斉にガイさんに向かって飛んでいく。
「!?」
ですが、またしてもガイさんはそれらを全て避け、一気にハワードさんとの距離を0にして抜刀した。
「ぐべっ!!」
抜刀した刀はハワードさんの腹部にクリーンヒットしたのか一撃で膝から落ちて前のめりに倒れ込んだ。
「強姦罪未遂で逮捕する」
そう言って、ゆっくりと刀を鞘に収める。
ハワードさんの意識が失ったのか私にかかっていたバインドは解かれた。
「大丈夫か、アインハルト?」
「……ええ、助かり……ました。ありがとうございます」
ホッと安堵の息を吐く事が出来た。ガイさんには感謝です。
「ああ。ハワードさんは地上本部へ突き出しておくから」
ガイさんはそう言いながらモニターを開いて、地上本部と連絡していた。時折、愚痴らしきものが聞こえましたが。
少しして、モニターが閉じられる。
「ほんと、空と地上は仲が悪いよな~。空に所属しているだけで嫌な目で見られる」
そう言えば聞いた事がある。時空管理局には空、地上、海の部隊があって、仲が悪いところがあると。
空と地上が仲悪いんですね。
「それにしてもガイさんは凄いです。あれだけの魔弾を狭い通路の中で紙一重で避けれるなんて」
「動体視力と反射神経は鍛えているからな。魔力値は低いけどさ」
と、ガイさんは笑いながら言ってくる。
……もしかしたら、この人は覇王の悲願を受け止めてくれるのかも知れない。ですが、こんな親身になってくれている人に拳を向けていいのでしょうか?
ですが、もしガイさんに覇王の悲願を伝えて拳をブツけてもいいって事を承諾していただければいつかは……。
「ま、ハワードさんはバインドで縛って、と」
私が考え事をしているうちにガイさんはハワードさんにバインドが掛けていた。
「あ、あの、ガイさん」
「ん?」
ガイさんは私に顔を向ける。
「助けていただいたお礼をしたいのですが」
親身になってくれるし、先ほどは助けてもくれた。貰ってばかりでは腑に落ちません。何かお返しをしたいです。
「いや、別にそんなこと気にしなくても」
「借りを作ってばかりではあまり良い気分ではありませんので」
「……ん~、じゃあ」
と、ガイさんは何を思いついたのか私の頭に手を乗っけた。
「アインって呼んでいいかな?」
「えっ?」
優しい笑みを浮かべながら私に問いかけてくる。
最初は馴れ馴れしいと思って否定した名前の呼び方。ですが、今はそのように呼ばれてもいいと思った。
「ええ、構いません。ですが、そんなのでいいのですか?」
「ああ、十分だよ、アイン」
そう言って、私の頭に乗っけていた手で撫でた。
何故でしょうか。アインと呼ばれた事に少し喜びを覚えました。ですが、今の状況は……。
「こ、子供扱いしないで下さい」
「子供だろ」
私が否定してもガイさんは笑みを溢したまま手を止める事は無かった。
「ガイさんとの出会いはこのような感じでした」
「ガイさん、凄いですね~」
私とガイさんの過去話にヴィヴィオさんはしっかりと聞いてくれていたようです。
「ガイさんは動体視力と反射神経は並の人ではありませんからね。ガイさんに攻撃を当てるには一工夫しないと」
「ええ、本当に」
覇王の悲願の為に対決をしてくれた時もなかなか攻撃が当たらなかった。不意を突かないと当たることは出来ないと思うくらいに。
私は一息つけるためにジュースを飲む。そして、周りを見渡す。
「ガイ~、ガイがいっぱい居るよ~」
「フェ、フェイトさん。酔い過ぎですよ!!」
「……!?」
フェイトさんが既に出来上がっていました。ガイさんの隣に座っていたフェイトさんがガイさんに寄りかかっているような体制になっています……あの豊富な胸が当たっている態勢で。
「フェ、フェイトさん。む、胸が……」
「ふふ~、あ、て、て、る、の」
語尾にハートマークが付いているのではないかと思うくらいの甘い声だった。
「と、とにかく離れましょう!!」
ガイさんはフェイトさんの両肩を持って、グイッと離す。
……ちょっとホッとしました。
「ええ~ガイ~私のこと嫌い~?」
「え、ええと……」
ガイさんは戸惑いを隠せていない。
そう言えば、ガイさんはフェイトさんの事が好きとか言う話がありました。その真実はかなり知りたいです。
「も~、フェイトママ~!!ガイさんに迷惑でしょ!?」
「あん、ヴィヴィオ~、ちゅめぇた~ぃ」
フェイトさんは少し呂律が回っていない様子。ヴィヴィオさんに指摘されて酔っていながらちょっと悲しそうな表情をしてしまった。
そして、うつらうつらとして眼を瞑ってテーブルに突っ伏くしてしまった。
「すーすー」
眠ってしまったようですね。
「ガイ君。フェイトちゃんは今日家に泊まる予定だから二階の部屋に連れて行ってくれないかな~?」
「なのはさん……なのはさんも少し酔ってますね」
「ええ~、そんな事ないよ~」
そう言いつつも、なのはさんの頬は少し赤い。再び周りを見ると、ノーヴェさんはソファーで眠ってしまっているし、コロナさんとリオさんはオリヴィエと雑談しているが、ガイさんとフェイトさんとのやり取りに気になっているのか耳を傾けているのが分かる。
オリヴィエ……貴方も少し酔っていますね。
オリヴィエの頬も少し赤かった。それでもまだ、フェイトさんのように酔っているわけでもない。
「……とりあえず、フェイトさんを二階の部屋に連れていけばいいですか?」
「うん、お願いね。フェイトちゃん専用の部屋は階段を上がって左側のドアだから。でも、いくらフェイトちゃんが眠っているからって悪戯しちゃダメだよ」
「ええ、しませんよ」
「もう、ガイ君じゃあ弄べないかな~」
ガイさんはなのはさんの言葉に苦笑しながら、フェイトさんの肩をゆする。
「フェイトさん、起きて下さい。ここで寝たら風邪をひきますよ」
「うにゅ~、そだね~」
ガイさんは何とかフェイトさんを起こして、肩越しに担いでダイニングルームから出ていく。階段を上る音がするので二階に上がったのだろう。
「もう、フェイトママは多忙な仕事をしているからお酒を飲んでストレスとかを解消するのもいいけど、度が過ぎて周りに迷惑かけちゃダメですよね」
「……ガイさんは迷惑ではなさそうでしたけど」
「えっ?」
フェイトさんの胸が当たっている時、ガイさんが少しニヤけていたのが分かりました。胸は大きい方が好みですか?だとしたら、今のままでは……。
「フェイトさん、お酒飲むと凄い積極的だね」
「そうだね。でも、ちょっとガイさんが嬉しそうな表情をしていたのは気のせいかな」
コロナさんとリオさんも私たちの話に入ってきた。コロナさんも私と同じ所に気付いていた様子。
オリヴィエはなのはさんの所へ行き、お酒を飲み交して雑談していた。
「やっぱり、ガイさんはフェイトママの事が好きなのかな~?」
「そうなると……うわ~、全部フェイトさんに敵わないよ」
リオが涙目になる。
「魔法だろうと胸だろうと何もかも」
「うん……」
コロナさんも釣られて少し涙目になる。
「なになに~?恋バナ?ママで良かったら相談に乗るよ~?」
「恋する乙女って奴ですね」
そこに少しほろ酔いななのはさんとオリヴィエも会話に入ってきた。
「でも、ガイさんって私たちの事どのように思っているのかな?」
「う~ん、やっぱり子供として見ている……かな?」
リオさんの言葉にヴィヴィオさんが少し考えて言葉を返す。
「私が客観的に見た感じだと」
オリヴィエの言葉に皆が注目を集める。
「妹的な感じで接しているように思えます。傍から見ているととても仲の良い兄弟のように」
「妹……」
オリヴィエが繋げた言葉にコロナさんは少し落ち込んでいた。
「……やっぱり私たちの事、異性として見てくれてませんよね」
「まあ、コロナちゃんとかリオちゃん、アインハルトちゃんに家のヴィヴィオの誰かがガイ君と付き合う事になったて、世間から冷たい目で見られちゃうしね~」
「あ、い、いえ、別に私はガイさんの事をそのようには……」
「にゃはは~、アインハルトちゃ~ん、嘘言っちゃいけないよ~」
否定しようとした言葉を遮られてしまう。
「アインハルトちゃんもガイ君の事好きだよね~?」
「あ、あの、そ、その……」
いつの間にか皆の視線が今度は私に向けられていた。そのように視線を向けられると否定するのもかなりの勇気がいる。
私は俯いて静かに一回だけ頷いた。
「やっぱり~」
「うぅ……恥ずかしいです」
ガイさんに小悪魔的な笑みを浮かべていたなのはさんの笑みを今度は私が受ける事になった。
ガイさんの気持ち……良く分かります。
周りからはやっぱり~、とか聞こえてくる。
「そういえば、フリージアさんは婚約者がいるんだよね?」
「ええ、私には生涯伴侶となる人物がいます」
なのはさんは私を軽く弄んだ後、今度はオリヴィエに話を振った。
オリヴィエの伴侶となる人物はクラウスでしかない。決してガイさんではない。
……その事に気持ちがちょっとホッとした気がします。ですが、恐ろしくて聞けないことが一つだけある。
「え?じゃあ、フリージアさんってガイさんの事どのように思っているのですか?」
「私ですか?私は……理由は様々ありましたが……」
リオさんの言葉にオリヴィエは少し考える素振りを見せたあと口を開いた。
「良きパートナーであり、良き親友であり、とても尊敬の出来る人物だと思っております」
「……」
とても清々しい透き通った声で呟いた。その言葉に嘘偽りはなかった。聖王女が本当にガイさんの事を尊敬している。
「うん、ガイさんは尊敬できる人ですよね」
「ええ、とても」
ヴィヴィオさんもオリヴィエに同意する。
ガイさんの家系って聖王との関係性があったのでは無いのでしょうか?そのように思うくらい2人からの信頼を得ている。
……少し羨ましいです。
どっちに対して羨ましいのかは分からなかった。ガイさんとの関係を築けている聖王へなのか。聖王に対してそこまで介入しているガイさんへなのか。自分の気持ちが分からなかった。
「それにしてもガイさん、遅いですね」
コロナさんが呟きながら天井を見上げる。
「様子を見てきましょうか?」
「うん、お願い。アインハルトちゃん」
なのはさんから了承を得て、私は立ち上がり、ダイニングルームから出て階段を上る。
確か、上ってすぐ左側のドア……ここですか。
二階に上がるといくつかのドアがあり、左側には一つしかないドアがあったのでここで間違いないだろう。
「あ、フェ……ェイト……ん……」
「ふふ……い……」
「?」
中からガイさんとフェイトさんの声が微かに聞こえてきた。
私はドアに近づく。その声も聞き取れてきた。
「フェ、フェイトさん……気持ちいいです……」
「ガイのここ……凄く硬い……」
「えっ!?」
私は今の驚いた声を抑えるために両手で口を塞いだ。中からはまだ2人の声が聞こえるので私の存在には気づいていないようです。
え?ええ?こ、こここ、これってもしかして……よ、夜の営みというものでしょうか!?
一瞬で心臓が早くなったのがわかった。顔も一気に赤くなった。中で何が行われているのか。その好奇心を押さえる事が出来ずに両手を口から離して耳をドアに付けて声を拾った。
「ここはガッチガチだね~気持……い~?」
「フェ、フェイトさんの……が気持ち良すぎです」
「ふふ~……抜いてあげるね~」
「~~っ」
立っているガイさんにフェイトさんが跪いて……中で行われている事を想像してしまい、たまらず耳をドアから離した。
こ、こここの場合、どどどどうしたら良いのでしょうか?なのはさんに報告?で、ですが、もし御二人がお付き合いをしていたとしたら、このような行為も……って、違います!!皆さんが下にいる状況で何をしているのですかと怒らないといけないのでは!?
私の頭の中は混乱していてまともな思考が働いていなかった。
「アインハルトさん、ガイさんは何をしていたかわかりましたか~?」
と、階段を上って来たヴィヴィオさんとコロナさんとリオさんに私は焦った。
こ、この行為を知るにはまだヴィヴィオさん達には早すぎます!!
三人が歩く道を遮るように私は仁王立ちをした。
「……え、え~と、アインハルト……さん?」
今の行動がヴィヴィオさん達を困惑させてしまった。
「い、いえ、ガ、ガイさんはあの部屋に有った本が面白くて今読みふけっています。じゃ、邪魔をするのもよろしくないかと思いまして」
「ん~、あそこに本なんてあったっけ?」
とっさの嘘も通用出来るものでは無かった。
「何してるの~?」
「~~っ」
更にここの家主であるなのはさんも階段を上って来た。これはもう庇う事が出来ない状況。
「なのはママ~。あの部屋に本ってあったっけ?ガイさんはそこで本を読んでいるらしいんだけど」
「う~ん、なかったと思うよ~」
なのはさんは歩みを止めること無く、私たちの横を通り過ぎてガイさんとフェイトさんが居る部屋のドアの前までやってきた。
そして、中から聞こえてくる声を聞き取り、ほろ酔いな状態だったなのはさんの表情から笑顔が消えた。
「これは……」
なのはさんもきっと私と同じ結論へ達したのでしょう。
「な、なのは……さん?」
「……アインハルトちゃん、ヴィヴィオ達を下へ連れて行ってほしいのだけど?」
「え、あ、は、はい……」
なのはさんは笑みを浮かべてはいたが笑っているとは思えなかった。
少し怖いです……。
私はヴィヴィオさん達をダイニングルームへと誘導して、そして、やはり気になったためトイレに行くと言って、再び階段を上る。
なのはさんはまだドアの前で立っていた。
「んっ?アインハルトちゃんも気になる?」
「え、ええ」
「流石に人の家でそのような事をするのはどうかと思うんだけどね」
本当に笑顔なのに笑っていないってこのような表情なのですね。今のなのはさんの顔を直視することが出来ない。
見たら、背筋に冷や汗を掻いてしまいます。
ですが、ガイさんとフェイトさんがそのような関係だったら……私は引くしかありません。
「開けようか」
「……はい」
その真実を確かめるべくなのはさんの言葉に頷いた。なのはさんはドアノブを握り、そして、一気に開け放つ。
「ガイ君、フェイトちゃん、お楽しみ中なところ悪いけど……あれ?」
なのはさんが先に入って中の状況を見て困惑していた。私もなのはさんの後から部屋を覗き込む。
ガイさんはもいきなり入ってきた私たちの事を見て驚いていた。フェイトさんは驚いた様子はない。
夜の営みをしているわけでは無かった。
ガイさんはうつ伏せになって、フェイトさんはその上に跨り、腰に手を添えていた。
「え、え~と、何してるの?」
「あ、にゃのは~、ガイにマッサージしているの~」
未だに呂律が回っていないフェイトさんが話をする。
「ガイのここ~、凄く硬いんだよ~乳酸が溜まってるんだね~抜いてあげないと~」
フェイトさんがガイさんの腰や背中を指差す。
「マ、マッサージ?」
「うん、そのようだね」
私となのはさんは歯切れを悪くして視線を2人から離した。
「て、てっきり、あっちをシているのかなって思っちゃって」
「あっち~?」
「そ、それは……」
なのはさんの言葉にフェイトさんは素で悩み、ガイさんは理解したのか表情が少しずつ赤くなっていた。
「フェ、フェイトさん、大分楽になりました。もう大丈夫ですよ」
「そお?また疲れた時は言ってね。マッサージは得意だから~」
そう言って、ガイさんから離れ、そのままガイさんの隣に横になって
「すーすー」
眠ってしまった。
ガイさんはベッドから降りて、フェイトさんに薄い毛布を一枚掛ける。
「まあ、その、お騒がせしました」
何かバツの悪そうにガイさんは私達に謝る。
「まあ、私達も早とちりだったし、お相子で」
「……はい」
2人とも何か気まずそうな雰囲気を出してぎこちない笑みを浮かべていた。
ですが、ガイさんとフェイトさんはそのような関係ではない。これは嬉しい事ですね。
そんな中、私は心の中で安心感を得ていた。
結局、私はなのはさんのお宅でお泊りすることになりました。ノーヴェさんもガイさんもオリヴィエも泊まる事に。
明日も仕事らしいですが、制服は向こうにもあるとの事で朝はここから仕事場へ行くようです。
「んっ……」
私は浅い眠りから目が覚めた。一つの大きなベッドにヴィヴィオさんとコロナさん、リオさんと一緒に寝ていた。
窓の外を見ると大きな星が二つ、夜空で他の星の光に負けないくらいに輝いている。その星光の光が薄暗く部屋を照らしているので明かりをつけること無く、部屋を見渡せる。
「喉が渇きました」
私は部屋を出て、無断で申し訳ありませんがキッチンでお水を飲もうと思い階段を下りるとダイニングルームのドアから光が零れていた。
誰かいるようですね。
私はそっとドアを開いて中を覗き見た。
「あっ……」
そこに居たのはガイさんとオリヴィエだった。何かを話している風に見える。
……先ほどから盗み聞きな事ばかりしていますが。
私は耳を傾けて声を拾った。
「傷は癒えましたか?」
「ああ、痛みが無い。フェイトさんにマッサージするって言われた時は痛むんじゃないかなって思ったけど、もう完治している」
「ガイの治癒力が高いのは助かります」
「ああ、親父には感謝しても足りないくらいだ」
ガイさんは怪我をしていた?
怪我をしたら痛みを堪えるために何処か押さえてしまうはずだ。しかし、そのような素振りを見せること無く普通に接していた。
それに親父?ガイさんのお父様?孤児院で育ったガイさんはお父様にお会いすることが出来たのでしょうか?
……それはとても嬉しいことだと思います。
「なあ、オリヴィエ……せいは……」
と、ガイさんが何か言おうとしたのをオリヴィエがガイさんの口に人差し指を付けて言わせないようにした。
そして、こちらに顔を向ける。
「アインハルト。そこに居ますね?」
「……っ!!」
バレていた。私はゆっくりとドアを開ける。私の姿を見たガイさんは驚きを隠せていない。
「……よう、アイン。眠れないのか?」
「……いえ、喉が渇きましたのでお水を……」
二回もガイさんの事を覗き見しているせいか、ガイさんと視線を合わせずらかった。
それに、あの時、何かを言おうとしてオリヴィエに止められた。何かを隠しているのは知っていたがその内容だったのかも知れない。せいは……その後に続く言葉は何でしょうか?
「アインハルト、お水です」
「あ、ありがとうございます、オリヴィエ」
私はオリヴィエから水の入ったコップを頂く。よほど喉が渇いていたのかコップの中身が一気に空になった事に驚いた。
「オリヴィエ、聞きたい事があります。よろしいですか?」
「ええ、何を聞きたいですか?」
優しい笑みを浮かべて私を見据えるオリヴィエ。手に持っていたコップをテーブルに置いた。
この機会に聞いておきたいことを聞こうと思う。
オリヴィエに聞きたくても恐れていた事。気を失った時に見た夢。それらを思い出して私は胸の前に拳を置いて話を始めた。
伝えないと伝わらない事もある。
「何故、聖王のゆりかごに乗ろうとしたクラウスを置いてたった一人で行ってしまったのですか?」
「……」
オリヴィエから笑みが消え、悲しい表情が浮かんできた。
気を失っていた時に見た夢。あれは久々に見た一番悲しい夢だ。なぜあの時にクラウスを置いて行ったのか気になった。
俺では……あなたの力にはなれなかった……。
クラウスの言葉が脳裏をよぎる。
それがあなたの強さというのなら……孤独に逝くことが本当の強さだと言うのなら……俺もその道を……。
「何故……ですか……」
私はいつの間にか泣いていた。覇王の血が悲しい感情をこみ上げさせてくる。あの出来事があり、オリヴィエが死んでしまってからこの覇王の悲願は出来上がってしまった。
そして、オリヴィエに聞きたくても恐れていた事……本当はクラウスの事が好きではなかったのではないかと。
オリヴィエ、俺は君の事を……
“心から愛している”
クラウスは確かに言った。
だが、オリヴィエは本当はクラウスの事をどのように思っているのだろうか。覇王の記憶の中では確かにオリヴィエがクラウスの事を“好き”と言っている場面もあった。だが、決定的に何かが足りなかった。
それは覇王の記憶の欠けている部分で見れるかもしれないが、今の私には目の前のオリヴィエにしか聞く方法しかない。
「アインハルト……いえ、覇王の血の中に眠っている……クラウスの意思よ」
「……っ!?」
私の中の血が一瞬だがドクンと暴れたような感覚があった。
「あの時はどちらかの王が残らなければならない状況でした。そして、王として相応しかったのは私では無く、クラウス、貴方でした。私には王としての資格は無かった。前聖王の兄のような事を出来ればよいと思っていましたが私にはそのようなカリスマ的な能力は無かった。だから、あの時は私がゆりかごに乗るしかなかった。クラウス……決してあなた乗るべきではない」
「……で、ですが」
「クラウス。今のこの時代はどのように思いますか?血を血で洗うことしか出来なかった時代から“青空と綺麗な花をいつまでも見られるようなそんな国”になっているではありませんか。雲に覆われた薄暗い空と枯れ果てた大地など無く」
「……」
そのまま、そっと私の事を抱き抱える。
「確かに未だに犯罪なども起きてはいますが、大きな戦争のような事は起きていない。このような世界になる事が出来たのもクラウス、貴方に託した気持ちが引き継がれているからです。貴方のような不屈の魂を持っているからこそ、私はそこに魅かれた。クラウスが平和な世の中にしてくれると信じられた」
「……っ」
私はオリヴィエの胸に顔をうずめた。泣き顔をガイさんに見られたくないという心境もあるが、オリヴィエのぬくもりがとても心地よいので体を預ける。
「私はクラウスの事を……“心から愛している”」
「……あ、ああ」
血が騒いでいた。喜びの感情が込み上げてくる。
私は……ワタシハ……。
クラウスの気持ちが私の気持ちと一致した。
「ああ、ああぁぁああぁ……」
私は涙を抑えることは出来ず、しばらくオリヴィエの胸の中で小さく泣いていた。
ダイニングルームから出て、再び皆さんが眠っているベッドへ戻り、横になった。オリヴィエとガイさんはまだ少し話があるそうなのでダイニングルームにいるようです。
……今日は随分と疲れたような気がします。
眼を瞑りながら今日の出来事を振り返る。
皆さんで格闘技の練習をして、お弁当を食べて、いつの間にか気を失って。それでもその後もガイさんやオリヴィエと会話をして、ヴィヴィオさんに過去話をして、ガイさんとフェイトさんが……へ、変な関係で無くてホッとして……。
自分の胸に手を当てる。
そして、恐れていた事があって聞けなかったオリヴィエの気持ちがこの体に流れている覇王の血を喜ばせる事も出来て。
本当に濃厚な一日だったと振り返って改めて思った。
そのような事を考えているうちに睡魔が押し寄せて来て意識が朦朧としてくる。
これなら、きっと明日からより一層練習に打ち込めることが出来そうですね。
心の中で温かい気持ちが溢れて来たのを実感して私は意識を手放した。
その日。私は夢を見ました。気を失ったときに見たあの一番悲しい夢を。私は第三者としてその場に立っていた。
またこの夢ですか……。
この夢を見るたびに気持ちが沈んでいくのがわかる。私の中で見たくない記憶の第一位だ。
オリヴィエがクラウスに背を向けてゆりかごへ歩きだし、クラウスが悲痛の声を上げながら必死に手を伸ばしている光景。
私はオリヴィエと対面できる位置に居た。その後ろに涙を流しながら叫んでいるクラウス。
音は無かった。声も無かった。だが、何度も見ている光景なので脳内では自然と再生されていた。
「あっ……」
そして、私は気づいた。
オリヴィエも泣いていたのだ。クラウスからでは決して見える位置ではない角度で。クラウスに見られないように泣いていた。
そして、口が動いた。声が聞き取れることは無かったが私は口の動きを見て確信した。
怖い……クラウス……助けて……。
オリヴィエは怖がっていたのだ、この戦争を。
「オリヴィエ……」
決してクラウス視点からではわからなかったこと。あんなに強がっていたオリヴィエの内面の弱さを見ることが出来た。
そして、オリヴィエは吹っ切れたかのように表情を引き締めて涙を止めた。背中からはクラウスの叫び声が刺さっているのだろう。
再び口が開く。
クラウス……“心から愛している”。
オリヴィエはもう歩みを止めることなくゆりかごへと進んでいった。
……私は勘違いしていたのかもしれない。この光景はもしかしたら悲しい記憶ではなく、嬉しい記憶だったのだ。
このとき、二人の気持ちは一致したのだ。
お互いがお互いのことを心から思っていた……“心から愛している”と。
「オリヴィエ……クラウス……」
私はその光景を見て、悲しいはずの気持ちが喜びへ変わっていったのが胸の中でわかった。
やってみたかった、アインハルト主観の話w
オリヴィエとクラウスの関係性って難しいですね。
漫画のほうでもあまり情報ないし。
聖杯戦争から一度離れて日常風景にしました。
次回から再び聖杯戦争に戻ります。
何か一言、感想がありますと嬉しいです。
では、また(・ω・)/