魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

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これを書き始めてから約一年たちました。

最初の頃と比べれば文章力は多少上達したかな。

まだまだってのはわかります。

日々向上心ですね。

では、二十四話目入ります。


二十四話“部隊と魔術の交差”

 「んっんん……」

 

深い眠りから脳がうっすらと覚醒し始める。少し瞼が重いのは多分寝不足だからだろう。昨夜はアインハルトが覇王の悲願の深い想いをオリヴィエにぶつけた後、オリヴィエと聖杯戦争の話を深めていた。それが原因の一端だろう。

 

今、何時だ……?

 

俺はその重い瞼を何とか開ける。

 

「すーすー」

「……」

 

俺は再び瞼を閉じる動作を行った。今のは現実から逃げるような心理的な動作が無意識に働いたからだと思う。

 

え~と、この場合はどう対処しようか?

 

先ほどの視界に入った違和感だらけのモノを考えて整理してみよう。

 

まずは場所。いつも寝ている自分の部屋ではない。これは昨日、なのはさん宅に泊まる事になったから起きて見る部屋の雰囲気が違うのは分かった。

 

次にベッド。俺の部屋にあるベッドよりも低反発性なのか多少硬い。だが、このくらいが体を程良く休める硬さでもあり、その証拠に寝不足なはずなのに体はいつも起床する時よりも軽く感じる。

 

ちょっと欲しいとか思ったりもした。

 

で、一番の違和感は……。

 

俺は再び眼を開ける。

 

「すーすー」

「……またか」

 

オリヴィエが俺の隣で規則正しい静かな寝息をたてて眠っていた。オリヴィエはこちらに顔を向けて眠っている。それもかなり顔が近い。こうして見ると確かにオリヴィエは顔が整っていて美人な分類に入る人物だろう。もし、聖王女では無く普通の女性として出会っていたら俺は好意を寄せていたかもしれない。性格もちょっとズレてはいるが明るくて穏やかで一緒にいて楽しいし。

 

と、今の状況でどうでもいい事を考えてしまう。俺は今の現状に意識を戻した。

 

オリヴィエがベッドを恋しいと思っているのは知っていた。低反発性の少し硬めなベッドでもオリヴィエは布団で眠るよりもベッドで寝たいのだろう。

 

昨夜はなのはさんにフリージアさんと同じ部屋で寝てね、と言われた。部屋数はあまり無いのでただ一人の異性である俺は誰かと一緒の部屋にならなければならなかった。

 

そこで、ホームスティと言う建前で俺の部屋に同居しているオリヴィエを一緒の部屋に割り振らせて、ベッドのある部屋に布団を一組ひかせてもらった。

 

オリヴィエは自分から布団で寝てみたいと言って、布団で眠っていたのだが……。

 

結局、ベッドで寝たかったんだな……。

 

と、心の中でため息を吐く俺が居た。

 

そして、必死に視界に入るモノを逸らそうとしていたがやはり無理だった。

 

オリヴィエは下着姿で眠る習慣がある。それに困った俺は俺の部屋に居る時は俺のパジャマを貸していた。しかし、ここはなのはさん宅なのでそのようなモノは無い。

なので、寝る時になのはさんのパジャマを借りていた。だが、オリヴィエが来た時にはぶかぶかし過ぎて寝ずらそうな恰好となってしまった。背丈の違いもあるし、胸の部分がやたらとぶかぶかだったような……。

 

なのはさんの胸って大きいんだな……じゃなくて。

 

今、一瞬だけ考えてしまった邪な事を無理やりにカミングアウトする。

 

だが、今のオリヴィエの姿はおかしかった。確かなのはさんのピンクのパジャマを借りて着ていたはずだ。

しかし、薄い毛布は掛かって全身は分からないのだが、毛布から出ている顔から下は何も着ていない様に見える。いや、肩が少しだけ見え、そこには白い線が胸部の方へ伸びているのでオリヴィエはきっと下着姿なのだろう。

 

「ん、んん……」

「……っ」

 

オリヴィエが規則正しい寝息を乱して、寝苦しいのか無意識に体を少しだけ動かす。その行動だけでも俺が驚いてしまうには十分だった。

オリヴィエに掛っていた毛布が少し下がり、胸が見えるか見えないかと言う男性の本能を刺激してしまうチラリズムな光景になってしまったのだから。

 

オリヴィエの細い両肩から白い線が胸元までいき、その終着点には程よい大きさの二つの白い山が見え隠れ……。

 

『マスター、また視姦ですか?』

「……」

 

……デジャブかな?前にもこんな事があった気がする……と思ったこの事もデジャブだったような。

 

男性としての本能から何とか切り離して、オリヴィエを見ない様にベッドから降りる。

 

「ああ、なるほどね……」

 

床にはオリヴィエがなのはさんから借りて来ていたパジャマが乱雑に脱ぎ捨ててあった。

 

……やっぱサイズの違う服って着づらくて疲れるよな。それでパジャマを脱いで、無意識に好きなベッドに移ったのか。

 

前に一度あった行動と似ていたのでオリヴィエの行動を理解するのには容易に出来た。

 

今のオリヴィエは下着姿のままだ。そこを何とか意識しない様に見ない様に毛布をかけ直す。

 

「目、覚めたな……」

 

寝不足で眠たかった脳は今の状況を見て完全に覚醒した。オリヴィエは目覚まし時計代わりになる……悪い意味で。

 

いい目覚め方じゃないよな~。

 

そんな事を思いつつ、少し重い腕を伸ばしながら窓の外を見る。日は昇っている。そして壁に掛けてある時間を見ると、いつも起きる時間帯より少し早い。

 

かと言って、下着姿のオリヴィエが寝ているベッドで二度寝するわけにも精神的に辛いし、布団で眠ろうにも脳は完全に目覚めてしまったのでそう簡単には眠れないだろう。

 

「プリムラ、オリヴィエはまた夜中に移動したのか?」

『はい、夜中にオリヴィエがマスターの眠っているベッドに移動したのを確認しました。パジャマは布団に入った時には既に脱いでいました』

 

プリムラはコアを点滅させながらオリヴィエがベッドに入った経緯を話してくる。

 

「やっぱりオリヴィエはベッドに寝かせないとダメだな」

『刺激的でいいのでは?』

「……どうかな」

 

このプリムラの言葉も前に聞いたような気がした。

 

俺は苦笑して再び窓の外を見る。二階に位置する部屋なので住宅街を軽く見渡せる。なのはさん宅の前を横切る道路にはジョギングをしているジャージ姿の人や、犬の散歩をしている人たちがちらほらと見える。

 

「おっ、あいつ等……」

 

そして、そこには見慣れた人物達がジョギングで横切った。ヴィヴィオ、アインハルト、コロナ、リオだ。

 

大会に向けてのトレーニングを頑張っているね~。この町内を回っているのかな。

 

子供たちの向上心に感心した。もうあの子供たちに勝つのは無理なんじゃないかな?昨日の組手だってギリギリだったし。

 

「……」

 

俺はそんな事を考えながら違う事も考えていた。

 

親父が俺の体に施した魔術回路。使うと自分の体じゃないんじゃないかって思うぐらい違和感のあるモノ。

 

あれの扱いにも慣れておいた方がいいよな……それに親父……今この世界に居る“現代”の親父に会いたいな。

 

昨日のキャスター……“未来”の親父との会話を思い出していた。

 

“現代”の親父に会うと俺が“死ぬ”という世界が決めた“因果律”が確定してしまう。だから現代の親父には会う事が出来ない。

 

会いたい気持ちはある。だが、この運命から逃れるために親父は必死になって俺の為に永劫の時を彷徨っている……俺を生かすために。

 

この世界に居るのに会えないのは辛いな。会って今度こそ“親父”って言いたいのにな。

 

会いたいのに会えない状況になっている今の状況に悲痛の気持ちで胸を痛めながら、再び親父から貰った魔術回路について考えるため俺は目を瞑る。

 

魔術回路が使えるようになったのは心臓を剣で突き刺すイメージをした時。何でこのイメージで使えるようになるのかはわからない。もしかしたら、ただのきっかけかも知れない。

 

俺は脳裏で心臓に剣を刺されるイメージを浮かび上げた。

 

その時にドクン、と心臓が一回大きく脈を打ったのが分かった。

 

「っつ!!」

 

それと同時に心臓を中心に何かが波紋のように広がる。温かい温もりみたいなモノではあるがそれに伴い心臓を握りつぶされるような激痛もあるので、感覚的には熱い痛みと言うべきだろうか。そして、その波紋も痛みも体全体に侵食された。

 

思わず、右手で胸を押えながら片膝をついて窓の縁を左手で思いっきり握り締める。

 

この激痛に耐えなければ魔術回路は使う事は出来ない。

 

……だが、一回目の時よりかは痛みは気休め程度だが和らいでいるような気がする。体が馴染んできているってことか?

 

痛みは僅かに減っている感覚はあった。それでも10tトラックから8tトラックに変わって激突したような、あまり大差のない変化だが。

 

その波紋も痛みも少しすると感じる事は無くなった。熱い痛みから冷めていく自分の体に残ったのは、何かが体全体に張り巡らされたような感覚のある自分の体とは思えない違和感。

 

この神経のように張り巡らされたのが魔術回路なのだろう。

 

「はぁはぁ……」

 

俺は息を切らしていた。かなりの苦痛だった。心臓を握りつぶされてしまうと言う痛みなどこれを使う時以外は経験したことがないので分からないが、たぶんこのような感覚なのだろう。

 

こんな恐怖に近い感覚だと背筋に嫌な汗を掻くよな。

 

俺は息を整えながら立ち上がり、触覚を確かめるために手を開いたり閉じたりする。

 

違和感バリバリだな。これが魔術回路……。

 

「プリムラ、今の俺の魔力の潤滑はどうなっている?」

『いつもより量は増えています。量的に言えばBランク相当のモノです。ですが、それは魔力と言って良いのか判断しかけます』

「……やっぱり、違うのか」

 

あの時の“未来”の親父との対決の時もプリムラは魔力が“別のモノ”になっていると言っていた。

 

魔力とはまた別のモノ……リンカーコアから出力されているのだろうか?それともまた別の……。

 

「プリムラ。俺のリンカーコアはどのようになっているか分かるか?」

『特に問題なく魔力が出力されています』

「別のモノではく?」

『はい。ですが、出力された後すぐにその別のモノへと変換してしまっています』

「……ほう」

 

つまり、別のモノになったと言っても元はリンカーコアから出力された同じ魔力ってことなのか?そうだとしたら今の状態でも魔導は使えるか?

 

俺は一発の魔弾を作成するため魔法陣を展開させようとした。

 

「……っつ!!」

 

だが、展開させようとしたが、その前に全身の神経が暴れるような感覚が襲ってきて激痛が走り、魔法陣の展開は中断せざるおえなかった。全身の毛細血管が千切れてしまったのではないかと思うぐらいの痛覚だ。

 

「プ、プリ……ムラ……今の俺の……状態……は?」

『詳細は分かりませんが別のモノが暴走したような感じでした。もう少し暴れていたらマスターの体全身から血が吹き出してしまったかも知れません。マスター、無理をなさらずに』

「あ、あぁ……」

 

この激痛が収まるまで時間が少し掛りそうだ。その間に今の事象について考えた。

 

神経が暴れるような感覚……つまりは張り巡らされている魔術回路が暴走したという事か。

 

魔術回路を使っている時は魔導を扱うのにリスクが大きいようだ。元となっているはずの魔力が変換され別のモノになっているのでそれを魔導で使うと魔術回路が拒絶して暴走してしまうと。

 

となると、魔術回路を展開している間は魔導を使う事が出来ないというわけか。なら、この魔術回路で何が出来るのだろうか?

 

主に感じたのは親父の動きがスローモーションになったり、活路が見出せたりとかした。

 

『話は変わりますがオリヴィエが召喚された時に私が未知の力が溢れて来たと言った時の事を覚えていますか?』

 

思考中の時にプリムラから話が振られる。俺は意識を思考から離してプリムラの言葉に耳を傾ける。気づけば激痛の痛みもだいぶ和らいでいた。

 

「ああ、覚えてるよ」

『今、マスターの中を潤滑しているモノはその時のと同等の質を感じます』

「……それが、今俺の中にある」

 

自分の体の感触を今一度確かめる為に手や足を動かしてみる。やはり違和感だらけで何とも言えない。戦闘の時は気にしている暇は無かったが、自分の意志で動かせている辺りは戦いに支障はないのだろう。だが、やはりこの違和感には戸惑いを拭いきれない。

 

これが魔術回路に使われている魔力が変換した別のモノを使用した時の感覚ってことか?

 

「……それは俺たちが使っている魔力とは異なる、魔術回路で必要な力ってことか?」

『おそらく』

 

プリムラもこれには分からないようだ。きっと魔術回路も聖杯戦争と同じで隠蔽されているのかは分からないが調べても出てくるものではないのだろう。

 

なら、わかる人に聞くしかない。

 

「……アルトリアなら分かるかな?」

 

少し考えて脳裏に浮かび上がったのはアルトリア。マスターでもあり元サーヴァントだったという異例の人物。

 

どちらの経験もあるのならわかるだろう。今は同盟状態だから今のうちに聞いとかないと。いつ、それが破れて敵同士になるのかは分からない。出来れば敵同士にはなりたくない人物ではあるが……。

 

俺は今後の方針を考えて込んでいた。だから、背後の起きている状況に気付くのが遅れてしまった。

 

「ガイ!!ガイからの供給されている魔力量が上がりましたよ。魔術回路を使っているのですか?」

「えっ……あ……」

 

オリヴィエの声がしたので特に気にもせずに振り向いた……振り向いてしまった。オリヴィエは起きてベッドから離れて笑顔の表情を浮かべながら立っていた……下着姿のままで。

 

俺はすぐに窓の外へ視線を移す。下着姿で寝ていたという記録が脳から消え去っていた。脳の片隅にでもその事実が残っていたら振り向く事は無かっただろう。

 

「ふ、服を着ろよ!!」

「なのはから頂いたパジャマは少しぶかぶかし過ぎて寝ずらかったので脱ぎました。それにガイから突然魔力が注がれたので少し寝ぼけながらも目が覚めました。いきなり魔力が供給されるので魔術回路を使う時は一言言ってくださると助かりますね」

「ま、まあ、使わないときはオリヴィエに魔力が低くて霊体化すらできないからな……じゃなくて、早く服を着ろよ!!」

 

オリヴィエが魔術回路について話し出したので内容がずれ始めていたがオリヴィエには兎にも角にも、服を着ていただきたい。

 

「それに……」

「っ!?」

 

背中に温かいぬくもりが感じ取れた。俺のお腹にオリヴィエの手が回る。俺を背後から抱きついているのだろう。

 

「今のガイにくっ付いていれば魔力が更に供給されます」

「い、いやいやいやいやいや!!そ、そそそ、それは不味いから!!」

 

下着を着ているだけのオリヴィエが俺に抱きついている……ああ、違和感を感じるこの体でも分かる。柔らかい温もりをやたらと主張している二つの何かが背中に当たっている。

 

お、男としては嬉しい事態なんだが……こんな所を誰かに見られたりでもしたら……。

 

「ガイ君、起きてる~?朝食の準備が……」

「!!」

 

更に背後からオリヴィエでもない別の女性の人物の声が聞こえてきた。その優しい清らかな声を聞いただけでも分かる。なのはさんだ。

それと同時に血の気が引いていったのが分かった。昨日もなのはさんはこういう光景の時に介入してきたから、今度はなんて言われるのか。

 

でも、戸惑いの声が時折聞こえてくるので多分、今のこの状況を見て思考が追い付いていなく固まっているのではないだろうか?

 

下着姿のオリヴィエが居るのでドアの方を振り向く事(勇気?)が出来ない。

 

「あ、なのは、おはようございます」

 

そんな状況下でもオリヴィエは何の驚きもなく、俺に抱きついたままなのはさんに挨拶をする。

 

「……あ、ああ~、え、え~と、おは……よう?」

 

なのはさんもとりあえずは戸惑いながらも疑問形で挨拶を返す。

 

「え、えっと、そのお楽しみ中だった?」

「お楽しみ中?何がです?」

 

なのはさんの困惑にオリヴィエの純粋な言葉が飛んでいく。

 

「え?あ、あぁ……そうだね。人の家でそんなことしないもんね」

「そんなこと?」

 

オリヴィエはなのはさんの言っている内容を理解できていないようだ。なのはさんはその言葉を聞いて安堵の息を吐いたのが分かった。

 

「……とりあえず、ガイ君?」

「は、はいぃぃ!?」

 

そして今度は俺に話を振りだすなのはさん。

俺は返事はちゃんと出来なかった。優しい声が背中にかけられているのはわかるのだが……。

 

「これはどういう事……かな?」

 

表情もきっと優しい笑みを浮かべているのだろうだが、背中にはふつふつとオーラを感じとっていた。怒りのオーラが。それによって俺はテンパってしまい返事もうまく返せず、今の質問にもすぐに答える事が出来なかった。

 

「あ、え、ええと……」

 

俺はなのはさんが納得いくような内容を必死に言い訳を考えていた……背中に当たる二つの感触を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ううっ……頭痛い」

「あたしも……だ」

 

そんなこんなの出来事を終えて、俺とオリヴィエはダイニングルームへ入ると、大人2人がかなりグロッキーな状態で席になっていた。表情はかなり青い。

 

「飲み過ぎだよ、フェイトちゃん、ノーヴェ。はい、お薬」

 

この2人はどうやら二日酔いのようだ。フェイトさんはあんなに飲んでいたは分かっていたが、ノーヴェもかなり飲んでいたようだ。

 

なのはさんから二日酔いの薬と水の入ったコップが2人に渡される。

 

「あ、ありが……とう、なのは……」

「わ、わる……い」

 

2人は薬を受け取ってそれを水で飲み干す。

 

「フリーは大丈夫なのか?」

「ええ、それほど飲んではいませんので」

 

私服に着替えたオリヴィエは笑みを零して答えてくる。

 

オリヴィエもなのはさんも昨夜はお酒を飲んではいたが、なのはさんは何とも無さそうだし、オリヴィエも特に二日酔いと言うわけではなさそうだ。

 

そんな2人を尻目に俺とオリヴィエは席に着いた。朝食はなのはさんが作ったオムライスが人数分並べられていた。

 

「美味しそうですね、なのは」

「にゃはは、お口に合うか分からないけどね」

 

オリヴィエはなのはさんの手料理に高評してなのはさんはそれに笑顔で喜んでいる。

 

笑顔は笑顔なんだがさっきの出来事を思うと鬼の笑顔に見えてしまう。

 

『ガイ君、今変なこと考えていなかった?』

『……っ!?い、いえ何も考えていません!!』

 

いきなりなのはさんから念話が飛んできて驚いてしまった。

 

こっちを見ていないと言うのに俺の心境がわかるなんて……。

 

なのはさんの洞察力はもはや人の領域を凌駕しているのではないのだろうか?

 

『昨日はフェイトちゃんとあんなことしてたし、今朝はフリージアさんとあんなことを……』

『……誤解を招くようなこと言わないで下さいよ』

『フリージアさんはただ抱きつきたかっただけだってことは分かったけど……ガイ君って意外と女たらし?』

『いやいやいや!!そんな訳ないですから。た、たまたまです。フリーが寝ぼけて俺を抱きまくら代わりしただけですから』

『本当?』

『はい』

 

流石になのはさんから変な事を言われてしまったのでそこは必死に否定する。

 

オリヴィエが朝弱く寝ぼけたまま起き上がって俺に抱きついてきたという、かなり苦しい言い訳を先ほどなのはさんに言った。なのはさんは信じてくれたかはわからないが。

 

なのはさんの表情を見ると、オリヴィエと笑顔で話をしている。なんで念話で怒ったような素振りをして現実ではそんなに笑顔なんだ?そのマルチタスクはポーカーフェイスが難しい俺にはちょっと羨ましいかも。

 

「ノーヴェ、そんなんで仕事大丈夫か?」

「あ、ああ。流石に昨日はハメを外し過ぎたかも知れねえ。けど大丈……夫……だ」

 

なのはさんとの念話を終わらせようと近くでグロッキーな状態のノーヴェに言葉をかけた。

 

しかし、ノーヴェよ。かなり辛そうな表情でそんな事を言われても大丈夫そうには見えないんだが。

 

『あ、まだ話は終わってないよ』

 

念話からなのはさんの声が聞こえてきたが無視するしかない。これ以上変な事言われ続けると精神的にちと辛い。

 

「まあ、程々にな。子供たちのコーチもあるんだから」

「あ、あぁ……わかってる」

 

ノーヴェは昨日はお酒を飲んで直ぐに寝ていたからな。酔いすぎてすぐに寝てしまったのか、あまりお酒には強くなさそうだ。

 

「え……っと、昨夜の事をあまり覚えていないんだよね」

「……っ」

 

と、フェイトさんがボソッと呟いていた。それを聞いた俺は少し心臓の脈が早くなったのが分かる。

 

「……何も覚えていないのですか?」

「う、うん。お酒を飲んだあたりからあまり記憶が……ガイが私のことをベッドに連れていったのは覚えているんだけど」

「……へぇ~」

「……なんだ、ノーヴェ?」

 

フェイトさんの言葉にノーヴェは何を思ったのか、辛そうな表情だと言うのに小悪魔的な笑みを浮かべている。確かにノーヴェは早々にダウンしてしまったので俺がフェイトさんを2階まで連れて言った事は知らないはずだ。

 

言いたい事は分かる。それで昨日もなのはさんとアインハルトに入らぬ誤解を受けてしまって、部屋に入って来たのだから。

 

決して俺とフェイトさんはそんな関係では……いや、そういう関係になれば嬉しいと思うけど、今はそんなんじゃ……。

 

「楽しめたのか、ガイ?」

「どういう意味で?」

「バ、バカっ!!あたしに言わすんじゃねえよ!!……っつ」

 

変に戸惑うとどのような言葉攻めが来るか分かったものでは無いので、お楽しみとはどのような事なのかノーヴェにストレートで返す。

するとみるみる表情が赤くなって、顔が昨日のお酒を飲んでいるように赤くなった。少し大きく声を発してしまって頭に響いたのか二日酔いの頭痛に痛みに頭を押さえる。

 

ノーヴェは振るうのは得意だけど自分に振られたら困るようなタイプかね。

 

たまにノーヴェにからかわれたりするのでこういう返しを出来てちょっと満足した。

 

「楽しめた?ガイが?私をベッドに連れて行って?……は、はぅ……」

 

そして、ノーヴェの発言にフェイトさんが変な方向へと想像したのか要らぬ誤解を受けてしまった。こちらもノーヴェと同じくみるみる表情が赤くなっていく。

 

「い、いえ、フェ、フェイトさん。そんな事は決してしていませんから!!誤解しないで下さい」

「え、あ、そ、そう……なの?」

 

フェイトさんの不安げな疑問に俺はうんうんと必死に首を縦に振る。また、変な誤解をしてしまうと色々とマズい。

 

「そ、そう。それは……よかった……のかな?」

「えっ?」

 

何とか誤解を解けたと思ったが、フェイトさんは赤い顔のまま不安な表情から残念そうな表情へと切り替わっていた。

 

「ガ、ガイも男の子だもんね。し、したいのなら……」

「フェイトちゃん、そこまでにしようか。朝からそんな甘い言葉を言っちゃダメだよ」

「な、なのは……私は別にそんな事……」

 

傍から見ていたなのはさんの指摘にフェイトさんは否定するがどうも歯切れが悪そうだ。

 

もしかしたら、フェイトさんは俺に好意が……そんな訳ないか。

 

今、自分で思っていた事を諦めるかのように否定した。もし、フェイトさんに好意を抱かれていたとしても俺はどうしたらいいか分からない。俺は確かにフェイトさんの事が気になるけどこれは好きに繋がるのだろうか?

テスタロッサ家の親戚の存在に近いフェイトさん。だがら、無意識のうちに血が気にしていたのかも知れない。

 

本当の気持ちって……意外と分からないモノだな。

 

「「「ただいま~」」」

「只今戻りました」

 

と、そんな考え事をしているとダイニングルームに元気な声が響き渡った。

 

開かれたドアの先にジャージ姿の少し湯気が出ているヴィヴィオ達が居た。ジョギングから帰って来たのだろう。

 

「あ、ガイさん。フリージアさん。おはようございます」

「ああ、おはよう」

「おはようございます、ヴィヴィオ、コロナ、リオ、アインハルト」

 

ヴィヴィオが元気よく挨拶をすると他の子供たちは笑顔で頭を下げる。アインハルトは笑顔ではないが。

 

「皆の朝食の分これから作るから、その間にシャワー浴びてきなよ」

「うん、ありがと、なのはママ~♪」

 

そう言えば確かに子供たちの朝食の分が無い。

 

ああ、St.ヒルデ魔法学院って今日は創立記念日で休みか。なら子供たちは少し遅れた朝食を取るのだろう。朝の早い社会人達にわざわざ合わせる必要はない。

 

「朝からジョギングってのも精が出るね~」

「日々の精進が実力へと結び付くものです」

 

アインハルトの凛とした声でそのような言葉を聞くと説得力はある。俺はアインハルトの文武両道や一生懸命さや切磋琢磨な姿勢をしているのを知っているのでそれが更に説得力のゲージを上昇させる。アインハルトに限らず、ヴィヴィオ、コロナ、リオもそのような姿勢なので他の子達が言ってきても納得するだろう。

 

「そうだな」

 

だから俺はその言葉に賛成した。

 

「はい」

 

アインハルトもそれにきっぱりと答える。そして、子供たちはシャワーを浴びるためにダイニングルームを後にした。

 

アインハルト……落すモノを落しきったのか表情が前よりも少し……ほんの少しだが明るくなった気がする。昨日のオリヴィエの本当の心境を聞けたからだろう。

その結果がいい方向へ向いたのか分からないが今のアインハルトは前よりも輝いているように見える。新たな目標でもあるインターミドルもあるしな。

 

成長していく子供を見ていると自然と笑みが零れる。今の俺は笑っているのが自分でもわかる。

 

「ガイ?何に笑っているのですか?」

「いや、親や上の兄弟ってこんな気持ちを持っているのかなって」

「……?」

 

オリヴィエは俺の言った言葉の意味を理解できなかったのか可愛く首を傾げる。

 

「さ、朝食を食べようか」

 

俺はドアから視線を外して目の前にあるなのはさんの料理に手を付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガイ君と出勤するのって初めてだね」

「所属も部署も違いますから基本的に一緒になる事は無い筈ですけどね」

 

俺はなのはさんの車に乗せてもらい798航空隊へ移動していた。なのはさんは今日はうちの航空戦技戦を行うので行先は一緒だ。

乗っていきなよと言われたので、お言葉に甘えることにした。なのはさんが運転席で運転をして俺は助手席に座っている。

 

オリヴィエは祝日で休みの子供たちと一緒に格闘技の練習に付き合うようだ。もし、何かあれば令呪を使ってすぐに呼んでくれとの事。

 

そう使えるものでもないからここぞって時に使わないともしもの時は何も出来なくなるな。

 

「で、念話の続k……」

「それはもう勘弁して下さい」

 

なのはさんから念話と言う言葉を聞いた瞬間、脊髄反射で瞬時に謝った。ここが家とかだったら土下座もしていただろう。

 

「しょうがないな~わかったよ~」

「……」

 

本当に分かっているような口調では無いので多分、今後も聞かれるかもしれない。俺はなのはさんにテンポを持っていかれたので一度落ち着かせるために他の話を振った。

 

「なのはさん、ありがとうございます、乗せていただいて」

「気にしないで。目的地は一緒なんだから」

 

ハンドルで運転しながらこちらに顔を向けることなく笑みを溢すなのはさん。その横顔は優しい表情で綺麗と言って間違いは無い。もう鬼の笑顔とは言わない、思わない。

 

やっぱり、なのはさんも美人だからな~。

 

「でも、部隊長が……」

「ん?何か言った、ガイ君?」

「あ、いえ、なんでもありません」

 

そして、たぶんこのまま隊舎に向かったらなのはさんに好意を持っている部隊長に何言われるか分からない。着く手前で下ろしてもらわないと不味いかもしれない。

 

なのはさんと一緒に通勤してきたなんて事がバレたらリアルに俺の部屋が砲撃で吹き飛ばされるかもしれない。それは困る。

 

「……ガイ君」

「はい」

 

そんな事を考えるとなのはさんから俺の名前が呼ばれた。その声にはいつもの優しさに包まれた雰囲気ではなく、先ほどの弄ぶような明るいモノでもなく、真剣さを孕んだ雰囲気を晒し出していた。なので俺も真剣に返事をした。

 

「隠し事……私に言えないかな?」

「……」

 

隠し事……つまりは聖杯戦争の事をなのはさんに話すという事。だが、それは不味い。

 

部外者であるなのはさんにこの事を話したら管理者に掟で消されてしまう。

 

でも、“未来”のなのはさんが参加しているんだよな……いや、関係ないか。

 

「申し訳ありません、なのはさん。前にも言いましたが話す事は出来ません」

「だね。ダメ元で言ってみたんだけどやっぱり駄目か」

 

なのはさんは舌を出して片目を瞑って笑った。

 

「でも、最近のガイ君を見ていると危なっかしいんだよね」

「危なっかしい?」

 

俺のオオム返しの言葉になのはさんは頷く。

 

「ガイ君はヴィヴィオ達と一緒に居る時、そこが自分の居場所でホッとしているような感じに見えるの。まるで危険なことから帰って来て安堵感ってものを得たような感じかな」

「いえ、そんな事は……」

 

なのはさんの洞察力は半端なく、その考えは的確だ。的確に突かれた事で俺はうまく返事を返せなく語尾を濁す。

ヴィヴィオ達との日常が楽しくてそこに居たいという気持ちがある。聖杯戦争から戻った時に皆の中に入るとホッともするし、同時に俺の中で守りたい世界でもあった。

 

親父にも似たような事を言われたっけな。

 

“あの子供たちを守っているつもりかもしれんが、実は、その逆だ。あの子供たちから離れればとめどない孤独感がお前に襲い寄せて、その逃げ場としてあの子供たちに守られているのだろう?結局は人に頼らねば何もできない存在。それがお前だ”

 

この親父の言葉は本物だろうか?偽物だろうか?今となっては分からないが、たぶん本物なのだろう。俺が守っていると思っているヴィヴィオ達の存在が逆に俺の心の中で大きくなっている。ヴィヴィオ達と離れたらとめどない孤独感に耐えきれず、その重さに潰されてしまうかもしれない。

 

俺のメンタル面は弱いかもな。

 

そんな結論に達してしまった。

 

「でも、昨日から吹っ切れた表情になったよね?その時は弄べなかったけど……何かあったのかな?」

「……いえ。特には。ただ気の持ちようで変わるモノだと思いますよ」

「ふ~ん、そっか。でも無理しないでね」

 

なのはさんは納得していなさそうではあるがこれ以上この話を続けるような事はしなかった。なのはさんの配慮に感謝しつつ、窓の縁に肘を当て、顎に手を乗せて流れゆく外の風景をぼんやりと眺めていた。

 

そして、信号が赤になったので車は大通りの停止線の手前で停止した。前に視線を移すと通勤、通学する時間帯なのでサラリーマンや学生など多くの人たちが横断して駅やバス停を目指している。

 

「っ!?」

 

だが、その中で見慣れた人物が紛れ込んでいたのが見えた。身長は150センチぐらいで、翠色の瞳に結い上げていてもなお軽さと柔らかさが見て取れる美しい金髪の人物。

 

アルトリアか……今すぐ会っていろいろ聞きたいけど、つい先ほどなのはさんに聖杯戦争の事に関して関わらせない様にした意味が無くなってしまう。ここで降りるような事をしたら後でまたなのはさんに色々と心配をかけてしまう。

 

横断していく人たちが疎らになっていきアルトリアも横断して姿が見えなくなった。そして、信号が青になって車は走り出した。

 

後でここに来てみるか。

 

そうすれば再びアルトリアと会えるかもしれない。そしたら色々と聞いてみよう。

 

俺は仕事帰りにここに寄ってみようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――798航空隊 訓練場

 

「それじゃ、模擬戦始めようね」

「てめぇら、気を引き締めろよ」

 

なのはさんとヴィータさんの航空戦技戦が始まり、今は最後の締めである部隊全員となのはさんとヴィータさんとの模擬戦が始まるところだ。

 

「隊長、高町教導官に見惚れないでちゃんと動いて下さいよ」

「ああ、当たり前だ。ちゃんと高町教導官を見ながら戦ってやるさ!!」

「……駄目だこいつ、はやく何とかしないと」

 

なのはさんに好意を持っている、やる気満々な部隊長が呆れきった隊員とこんな会話をしている。これではチームも纏まらず今日もなのはさん達に一太刀浴びせる事が出来ないかもしれない。

 

いや、一太刀浴びさせてみるか……魔術回路を使うには良い機会かもしれない。

 

今朝方はなのはさんが部屋から出て行った後、魔術回路を切った。違和感だらけの体でずっと過ごすのは少し厳しい。切った時にオリヴィエがまた悲しい表情をして魔力が~、とか言っていたが。

 

頃合いを見計らって使うか。

 

今日の部隊の人数は俺と部隊長を含めて15人。剣や槍やハンマーなどの近距離戦型7人と砲撃とビットの遠距離戦型4人、補助サポートのサポート護衛型3人というバランスの良いチームではある。

 

因みに俺は当たり前だが近距離。部隊長は遠距離だ。

 

「それじゃあ、開始!!」

 

なのはさんが空中で掲げていた左手を下げて模擬戦開始の合図をした。

 

「のおぃ!!」

 

それと同時に奇怪な声が隣から聞こえてきた。近距離の1人が先ほどまでなのはさんの隣に居たはずのヴィータさんにハンマーで横殴りされて飛ばされていた。そのまま木に激突して気を失った。あれはもう脱落だ。

 

相変わらず速いな。

 

俺たちは距離を取るために少し後ろへ下がる。

 

「おせえぞてめぇら!!チンタラしてんじゃねえぞ!!」

「「うおおおぉぉお!!」」

 

そこに下がらずにいた近距離の2人がヴィータさんを挟むように各々の得物を振るう。槍とハンマーだ。

 

だが、ヴィータさんは片目を瞑ってその場を動かずにでかいハンマーを肩に担いで笑みを零していた。

 

「それもおせぇ」

「「!?」」

 

ヴィータさんを挟むように動いていた2人は遠距離から飛んできた高速のピンクの魔弾がヒットして大きく飛ばされた。なのはさんの魔弾だ。あの2人も脱落だろう。

 

遠距離型の奴らは何をしているんだ?なのはさんの魔弾がこっちに来ているぞ。

 

「そこか!!」

「はん。来たか、ガイ」

 

そんな事を思いつつ、俺はヴィータさんの僅かな隙を見つけ、足の裏に魔弾一発分の魔力を溜めこみ、それを一気に発散させてヴィータさんに高速で近づきながら抜刀しようとした。だが、その隙は囮だった。ヴィータさんは俺の行動に笑みを崩さず余裕で反応して、半歩右にズレる。

 

「っ!!」

 

その後ろからは3発のピンクの魔弾が真っ直ぐ飛んできた。俺は反射的に体を捻る。一発目の魔弾は紙一重で何とか避け、2発目は地面に手を付けて跳ね上がって避け、3発目は跳ね降りたと同時に鞘で防いだ。

 

そのまま、後ろを見ずに180度転回するように抜刀を行った。そこには大きなハンマーがあり俺に襲いかかってくる瞬間だった。それを何とか刀で受け止め鍔迫り合いな状態に入る。

 

「ちぃ、分かっていたか」

「なんとなく……です……っ」

 

だが、純粋な力勝負ならランクが上のヴィータさんには敵わない。現に先ほどまで拮抗状態な鍔迫り合いから俺が押されつつある。

 

そこにヴィータさんの背後から3人の近距離型が俺の位置に合わせて四方を塞ぐように攻めてくる。

 

「へっ、アイゼン!!」

『了解』

「っ!?」

 

ハンマーからガシュっと一発の銃弾が排出されてる。カートリッチシステムだ。それを見た瞬間、俺は鍔迫り合いのベクトルを動かし離れられるような体制をとり、ヴィータさんから大きく後ろへ下がる。

 

「おりゃあああぁぁああぁあ!!」

 

ヴィータさんはそのまま遠心力を利用してハンマーを回転させながら囲んできた3人を纏めて吹き飛ばす。

 

あの3人はいきなりの攻撃に反応すら出来ずに飛ばされたのだろう。ヴィータさんの一撃は重い。あれを一発食らっただけで脱落モノだ。あの三人も例外ではない。

 

やがてその威力も弱まりつつ、肩にハンマーを担いで俺を見て回転は止まった。

 

「たく、反射神経だけは一人前だな、ガイは」

「どうも」

 

ヴィータさんの褒められているのか分からない言葉に取りあえず礼を言いながら刀を納刀する。

 

ヴィータさんとなのはさんの実力は凄まじい。開始2分足らずで俺以外の近距離戦の部隊は脱落してしまった。それになのはさんとヴィータさんの連携プレイがウマい。

 

流石は機動六課のエースってところか。

 

「高町教導官も大分片づけちまったようだな。てめえらまだまだ実力が付いてねぞ」

「高町教導官とヴィータ教導官が強すぎだと思います。それに砲撃戦の敗因の原因は……」

 

俺は空を見上げた。つられてヴィータさんも見上げる。そこにはなのはさんが困惑の色を表情に出して戸惑いを隠せていないし、怒っているようにも見える。

 

「何考えているんですか、部隊長!!」

「好意を抱く。興味以上の対象だという事さ!!」

「「……」」

 

俺とヴィータさんは呆けたような表情をしてしまった。

 

部隊長が朝礼でこんな事を言っていた。

 

『俺は今日、なのはさんを積極的に攻める!!攻めて攻めて押し倒す!!』

 

と、豪語していた。

 

『通報しますた』

 

と、部隊の誰かがつっこみを入れていたが部隊長は聞く耳を持たず無駄にテンションを上げている。

 

そんな事言っていた部隊長は今、模擬戦でなのはさんを口説き中だ。なのはさんに対してあんなに積極的にアプローチをかけている。しかも口説き中ながらもなのはさんの魔弾を華麗に避けながら時折、自分の魔弾を打ち出す。

 

他の砲撃の隊員は落とされたようだ。あんな自分勝手に動いてしまった部隊長が原因で連携を崩し各個撃破されてしまい脱落したのだろう。

 

援護型の2人も脱落している。残っているのは俺と部隊長のみ。

 

同じ部署でしかも上司があんなことをしていると、部下である俺はかなり恥ずかしいのだが、部隊長はそんな事はどうとも思っていなく、なのはさんに釘づけなんだろうな。

 

「ちゃんとやってください、怒りますよ」

「君の視線を釘付けにしてみせる!!」

「……なあ、ガイ。あれ、何かに取りついているのか?」

「部隊長はなのはさんに好意を抱いてはいますけど、ちょっと感情が出すぎかもしれませんね」

 

そんな光景を見てしまったからか、模擬戦の緊張感と緊迫感が吹く風に吹かれて何処かに行ってしまった感じになってしまった。俺とヴィータさんの間にはそれらが無くなり白けた雰囲気が漂ってしまった。

 

「俺と君は、運命の赤い糸で結ばれている」

「それは違います」

 

プチッ……。

 

「「あっ……」」

 

今、人間の中にある大事な線が切れる音が聞こえた気がする。それはきっと部隊長から聞こえたのだろう。

 

なのはさんがハサミで物を切るようにバッサリと赤い糸を断ち切った事が部隊長の心に傷を負わせてしまったようだ。

 

部隊長はあんなに華麗に飛び回っていたのに今は糸の切れた操り人形のようにぐったりしていた。表情も口を開いたまま一点を見つめているだけだ。

 

「あ、あ~、え、ええと……」

 

なのはさんも先ほどバッサリと切った事に罪悪感を感じたのか目の前の部隊長にどう言葉をかけたらよいのか困っていた。

 

「おりゃ!!」

 

そこにヴィータさんが跳び上がって部隊長にハンマーを軽く振り下ろした。部隊長は何の反応もすること無く、そのハンマーに叩き落とされて地面に激突した。手加減はしてくれたので大事には至らないだろう。

 

あれ?また俺が最後?

 

気付けば俺がこの部隊の最後の一人となっていた。

 

「高町教導官。詰めが甘いですよ」

「あ、え、え~と、あんな状況は経験したこと無かったからどう対処したらいいか分からなくて」

「たぶん今後もないと思うからその対処は生かさなくていいぞ」

 

そんな雑談を二言三言交わした後、2人は俺のを見る。

 

「さて、またガイ君が最後だね」

「はっ、覚悟はいいか?」

 

2人は笑顔を向けて自分のデバイスを構える。

俺は軽く冷や汗を掻いていた。ヴィータさんの強力な近距離戦を何とか凌ぎながら、その後ろから援護射撃の飛んでくるなのはさんの魔弾を避けなければならない。最低でもこの二つに意識を集中させないとあっという間に脱落だ。

 

……っ、魔術回路……繋がったか。

 

そのため、俺は2人が言葉を交わしている間に魔術回路を展開させた。痛みは朝よりかは和らいでいる。8tトラックから漸く乗用車に撥ねられるぐらいの痛みだ。暖かい心地よさもあって心臓の握りつぶされる感覚もだいぶ和らいだ。

 

表情に出さないぐらいは何とか耐えれるくらいの痛みだ。

 

「行くぜ」

 

と、掛け声とともにヴィータさんが俺に向かって音速に近い速度で俺に向かって突進してくる。

 

俺はハンマーの軌道を正確に一寸の狂いもなく読み取り、それを避けつつカウンターのような形で刀を抜刀する。

 

「なっ!?くっ……」

 

予想外の攻撃だったのかヴィータさんの表情が驚きの色に染まっていたのが分かった。

 

だが、そのカウンターで放った抜刀はヴィータさんに当たる計算だったが、空中でうまく軌道を変えてヴィータさんは俺の横を通り過ぎて地面に着地する。

 

「……あたしの動き見えてるようだな」

「ヴィータ教導官もかなりの反射神経をお持ちで」

「はっ、教え子に負けるとなっちまったら、立つ顔も立てねえだろ」

「まあ、確かに……」

 

ヴィータさんの言葉に答えつつも、先ほど俺が判断した動きに対して戸惑いを覚えていた。

 

あれほどまでに敵の武器の軌道を完璧に予測できるような事は今までになかった。まあ、ヴィータさんの反射神経も高かったから最後の結果だけは違っていたが。

 

……こうなったのも魔術回路が原因か?

 

思考が高速回転しているのがわかる。妙に頭の中がスッキリして今なら厚さ10センチぐらいの論文ぐらいなら直ぐに丸暗記出来そうな勢いではある。

 

つまりはこの魔術回路は思考速度を速めて相手の動きを計算して予測を完璧に近づけられる、という事か?

 

だがら、親父の時にも思考速度が速くなり活路を無意識に見出せたと。

 

俺はこの魔術回路の使い方を理解しはじめた。

 

これは予測思考、と言えばいいか。

 

……なんだ、これ?

 

高速で予測したイメージの中には不可解な出来事が起きているモノがあった。

 

「行くぜ、ガイ」

 

ヴィータさんが再びハンマーを構えて突っ込んでくる。

 

やってみるか。

 

俺はヴィータさんの音速に近い速度を見定めつつ、魔術回路に流れている別のモノを放出するようなイメージをして、そのモノを体外に晒し出す。

 

「なっ!?」

 

ヴィータさんは今の俺を見て速度を一気に減速して0にし、俺の事を凝視していた。

 

「それはなんだ?」

「……わかりません」

 

分からないわけではない。

 

俺の体からは黒い霧が現れていた……いや、これは霧ではなく粒子だ。親父も黒い霧を纏っていたからそれに近い存在なのだろう。

 

黒い粒子が体内から放出して俺の周りを囲むように纏わりついていた。

 

不可解な出来事とは俺の体内から晒し出た別のモノを展開している事だ。親父みたいな事をしている。

 

親父の時はこれが武器になって飛ばしていたが……このパターンを見た限りだと、そのような用途は見当たらない。

 

俺は理解が追い付いていないヴィータさんに向かって走り出して、鞘走りをしてタイミングよく抜刀する。

 

「っと!?」

 

ヴィータさんは反応が遅れてしまったからか、防御するのが間に合わないと判断して空中へ避けるために飛んだ。

 

ヴィータさんが避ける事はパターンで分かっていた。俺は纏わりついている黒い粒子を目の前で固定化する。俺は速度を落とさずにそれを思いっきり踏み込んで三角飛びのようにしてヴィータさんを追撃する。

 

俺の周りに纏わりついている黒い粒子は固定化も出来るのだ。

 

魔術回路を行使している間は魔導を使う事は出来ない。飛行は魔導で行うので魔術回路では飛ぶことはできない。

しかし、このやり方なら飛ぶという表現は合わないが、空中戦も行う事はできる。メリットも存在する。

飛行の場合、旋回しないと通り過ぎた場所へ戻る事は出来ない。この時間帯はどうしても埋める事の出来ないラグだ。しかし、これの場合、旋回する必要性もなく直進的に戻るのでその分のタイムラグを減らす事が出来る。

 

このわずかな差は戦場ではかなり大きい。

 

「ちっ!!」

 

現にヴィータさんは思わぬスピードで跳んできた俺を見て驚きを隠せていない。

 

これなら、ヴィータさんに一太刀入る。

 

俺は抜刀したままの刀で下からすくい上げるように振り上げる。ヴィータさんはそれをハンマーで受け止める。

 

魔力を行使して飛んでいないため俺は重力の引力によって落ちていくことになる。それを防ぐために足元に黒い粒子を固定化させてそこに留まらせる。

 

そして、俺は更に俺とヴィータさんの周りに黒い粒子を展開させた。

 

「てめっ、ガイ!!何をする気だ!?」

「攻めるだけ、です!!」

 

語尾を強調させたと同時に俺は行動に移す。ヴィータさんは未だに動揺を隠し切れていない様子だ。攻めるなら今しかない。

 

動揺していたからかヴィータさんのハンマーをそれほど苦もなく弾き返して、俺は跳ぶ。跳んだ先には固定化して留まっている黒い粒子がある。そこに足を踏み込みながら刀を納刀し、力のベクトルを三角のように120°変化させて、ヴィータさんに向かって抜刀して追撃をかける。

 

俺の跳んだ位置が少しずれていたからかヴィータさんを横切るような動きで刀を抜刀していた。

 

「てめっ!!」

 

それをヴィータさんは何とかハンマーで受け流す。だが、これで終わりではない。俺のスピードを止めるための遮蔽物は存在しないのでそのまま、ヴィータさんから離れて直線上に存在する固定化した足場を納刀しながら踏み込んで、力のベクトルの角度をヴィータさんへ向かう向きに直して再び追撃をかける。

 

旋回分のタイムラグが無いため、ヴィータさんも防戦一方に為らざるおえない。反撃しようとしても直ぐに俺の次の一手が存在する。それほど今の俺の移動速度は速い。魔術回路による脚力が上がっているのか違和感だらけの体は思いのほか軽い。

 

追撃を何手かくわえた所で、

 

「バスター!!」

 

なのはさんの砲撃が飛んでくる。が、それは黒い粒子を少し大きめにして固定化し、盾のようにそれを防ぐ。

 

「硬い……」

 

この粒子が固定化した物質はかなり硬化している。なのはさんの砲撃も防げるほどだ。

 

その後もものすごい量の砲撃や魔弾が俺に向かって飛んでくるが、黒い粒子がその度に固定化して防いでくれる。

 

ここまで行けば視えたパターンの終着点に行ける。最後はヴィータさんに一太刀入れることのできる終着点に。

 

俺はヴィータさんに一太刀入る事に確信を得ていた。パターンを見たからでもあるのだろう。

 

「なめんな、ガイ!!アイゼン!!」

『了解』

「っな!?」

 

しかし、そのパターンは音をたてて簡単に崩れていった。

 

ヴィータさんはハンマーを瞬時にデカくしたのだ。

 

「ギガントシュラーーーーク!!」

 

突然、ハンマーの体積が拡大したおかげで、下から斬り抜けるはずだった俺の動きは、そのハンマーの腹に激突してしまいヴィータさんを追撃することが出来ず隙を生んでしまった。

 

その衝撃を受けてしまったからか黒い粒子は固定から元の粒子に戻ってしまった。

 

「そのまま落ちやがれ~!!」

「っく!!」

 

ヴィータさんがハンマーを下へと叩きつけるように力を加える。

 

俺もそれに対抗するべく力を加えていたが、ヴィータさんの膨大な力の前では俺の力など紙きれのようなものだ。

 

ハンマーに押しつけられたまま降下していく。このままでは地面に激突だ。

 

ひ、飛行が使えない……。

 

と、俺はこの叩きつけられるものの数秒の間に必死に対策を立てようとしていた。

 

「!?」

 

だが、突然ブツかっていた感触が無くなった。俺はそのまま引力に引き寄せられて地面へと墜ちるがハンマーにぶつかってはいないので何とか着地をした。

 

何が起きた?

 

頭の中の疑問を解消するべくヴィータさんの居る上を見上げた。

 

ヴィータさんは未だにデカいハンマーを振り下ろしている態勢のままゆっくりと下がっていた。

 

周りには黒い粒子が散布されている状態。

 

「……」

 

親父の時にもこんな事態があったのを思い出す。俺の心臓を貫くときに魔術回路が発動してスローモーションになった出来事。

 

あの時は周りが黒の色に埋め尽くされていたから分からなかったけど、あの時も黒い粒子が発生していた?だから、親父の動きが遅くなった、と?

 

あの黒い粒子は時間を制御できるという事なのだろうか?

 

だが、そうなると少しおかしい。

親父には“現時間”というスキルがあると親父の記憶の中にはあった。あれは時間のズレに縛られること無く“現時間”でそこの空間に介入できる。だからあの時に速度が遅くなるのはおかしい。

 

とすれば、あの時は俺の体感速度が異常に早くなっていたからか?

 

親父の視線からでは現時間で介入できるが、俺の視線からではあの粒子が時間の流れを高速化させて、その中にいた俺もその速度になっていたと。

 

親父の“現時間”のスキルは遅い時間の中では有利に立てるが、早い時間の中では不利になってしまう諸刃の剣のようだ。

 

話がズレたが用はあの粒子はその場の時間の流れを制御できると言う事か。

 

「ーーーーーーーーーれれれえれぇれれれぇ!!」

 

考え事をしていたがヴィータさんが黒い粒子の渦から飛び出してきて、始めから出していた掛け声が戻り、速度も上げ俺の立っている場所にハンマーを叩きつけるように襲ってきた。たぶん、まだ俺があのハンマーにぶつかっていると思っているのだろう。

 

今のあの中の空間は時間が遅く進んでいたようだ。

 

だが、俺があの中に居た時、速度は上がっていた。逆だった。ヴィータさんはその時影響を受けていたのだろうか?それともオートで時間の流れを変化させる事が?この黒い粒子は時間制御をすることは分かったが詳細はまだよく分からない。

 

俺は考え事をしながら落ちてくるデカいハンマーに潰されない位置へ身体を動かす。紙一重で先ほど俺の居た場所にデカいハンマーが落ちて、周りに大きな衝撃と爆音を響きかせる。

 

あんなの喰らったらタダではすまない気がするんだが……。

 

あれを食らったらと言う考えをして身震いをしながらも、俺は落ちてハンマーの上に着地して隙の出来たヴィータさんに刀を抜刀して攻める。

 

「なぁ!?ガイ!!」

 

ヴィータさんはハンマーの下に俺が居ると思っていたからか、目の前に現れた俺に戸惑いと焦りの色が表情に浮かび上がっていた。

 

ヴィータさんは今、完全にフリー。この一太刀入る!!

 

俺はそう確信した。

 

「はい、捕獲~」

「!?」

 

だが、俺の腕はピンクのバインドで絡められて、刀を動かす事が出来なかった。そして、バシッバシッと気持ちの良い乾いた高い音を立てながら俺の体全体をバインドしていく。

 

その間にヴィータさんはハンマーを元のサイズに戻して俺から離れる。

 

「“ストライク・スターズ”!!」

 

真横から凄まじいピンクの砲撃と音がその存在感を物語っている。合宿の時にアインハルトが受けたなのはさんの砲撃だ。

 

急いで黒い粒子を固定化させようとしたが間に合わず、俺はその砲撃に飲まれて意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふぅ……」

 

昼休み。

俺はいつものベンチに腰を下ろしてコーヒーを一口飲み、青空を見上げていた。

 

意識を取り戻した時は医務室のベッドで横になっていた。全身が痛みを主張していたが、起き上がる事は容易だった。

 

そして、隣になのはさんが椅子に座っておれの事を見ていた。何か言いたそうな、それでも心配している色を晒し出し複雑な表情で。

 

しかし、なのはさんの眼は俺を真剣に見ていた。その眼は心の中まで見透かされてるんじゃないかと思うくらいに綺麗な眼だった。そして、少しだけ俺を見つめて笑みを溢して、大丈夫だね、と言って医務室から出て行った。

 

黒い粒子の事について聞きたかったのだろうか。それでも聞かなかったのはなのはさんなりの気遣いなのかもしれない。

 

黒い粒子はたぶん魔術回路に流れていた別のモノだ。

 

「魔術回路は今は繋がっていない」

 

医務室で目覚めた時から、体の違和感は消えていた。プリムラにもリンカーコアからの魔力の変化はないと言っている。

 

気を失えば自然と魔術回路は消えてしまうようだ。戦場で気を失うわけにはいかないがこれの使い方も少しずつ分かっては来た。

 

「もっと具体的に教えてくれよな……親父……」

 

呟きながら息を吐く。結局、先ほどの模擬戦ではヴィータさんに一太刀入れる事が出来なかった。

 

これの使い方をもっと熟知すればいずれは届くかもしれない。でも、なぜ最初の時は一太刀入れれることが出来たのだろうか。

 

あの時はどんな状況下だったっけ?

 

と、最初の模擬戦の事を思い出していると機械の効果音が鳴り響き目の前にモニターが表示された。全部隊に繋がる報告通信だ。

 

映しだされた人物は部隊長だ。表情はかなり真剣だ。眼が座っている。先ほどなのはさんに振られてしまった脱力感は無い。

 

訓練中もそのくらい真剣さがあれば俺も一太刀入れれる隙がなのはさんとヴィータさんに出来たと思うんだけどな。

 

部隊長の活躍で最初の模擬戦は一太刀入れれたのかも知れないと結論付けた。

 

『部隊全員に告ぐ。ミッドガル郊外東部の開拓前の密林内にてアンノウン生物を複数確認。陸士部隊が調査に入った模様だが人に被害を加える凶暴な性格で部隊が大打撃を受けている。管轄外の場所ではあるが、人手が足りないのか応援要求がこちらにも来たため俺たちも迎撃に向かう。全てを送れるわけではないため、アルファ分隊とベータ分隊の4小隊で向かう』

「俺の部隊か」

 

俺は部隊長が隊長のアルファ分隊に所属している。そのためあまり出動することは無いのだが、今回は部隊長が自らの部隊で出動すると。

 

それほどそのアンノウンと言うのはかなり凶暴なのだろうか?

 

『出動は1300。集合場所は会議室。詳細は出動前に知らせる。以上』

 

そう言い残して、モニターは閉じられた。

 

「……もう30分も無い。コンディションもクソもねえな」

 

少し愚痴気味な事を呟きながら残りのコーヒーを飲みほして、午前中の模擬戦の疲れを少し残したまま俺は出動準備のため隊舎へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ミットチルダ東部 廃墟した家

 

『近くで大型のアンノウンが確認された。今、陸士部隊と交戦中だが、状況は芳しくない』

「そうですか」

 

私は昼食を終えた後、霊体化しているゼストの声が脳内で響いた。

因みに昼食はご飯を炊いてみました。炊飯器や電気などが無かったので、焚火を作ってレジャーで使うお米を炊くステンレス製の箱みたいなものに水を入れてお米を入れて炊いてみた。

 

味はまあ上出来だろう。しかし、あったおかずは漬け物のみ。少し物足りないですが、ゼストがここに残してあった数少ない資金で買ったもの。無駄には出来ません。

 

ご飯を食べるとシロウの作ったおかずを食べたくなる。シロウは本当に料理上手だ。

 

この世界にシロウが居るのなら機会があれば作ってもらいましょうか。

 

「迎撃に向かった方がいいですね。ここも危なくなる可能性もある」

 

と、変な方向へ思考が働いてしまったのでゼストの言葉に対して対策を練る。

 

『ああ、それに死者も出てきている。急いだ方がいい』

「……戦場ですね」

『……あぁ』

 

ゼストの言葉の歯切れの悪さに私は戸惑いを抱いた。

 

「そのアンノウンは凶悪なのですか?」

『霊体化して視てきたがあまりにも現実離れした光景があった……あれは地獄絵図に近い』

「……」

 

ゼストの言葉に私は言葉を詰まらせる。地獄絵図と言う表現を使って説明している。そんな光景を作り出すモノが近くに生存している。

詳細は言わないので想像は出来ないが、それは本当に凶悪なのだろう。だが、そこで臆してはいけない。まだ見ぬ敵だが攻めなければ得られる勝利もない。

 

私は座っていた椅子から立ち上がりゆっくりと外へ向かって歩き出す。

 

「そのアンノウンはどうしてこのような場所に突然?」

『……聖杯戦争が絡んでいるのかもしれん。誰かが呼び出した可能性もある』

「そんなものを呼び出して、人の霊魂を食べさせてサーヴァントを強くさせる……“魂食い”が目的かも知れません」

 

前の聖杯戦争の時もキャスターがそのような事をして魔力を蓄えていた事がある。人の精気を抜き出してそれを糧に魔力にしていた。今回もやり方が違えど“魂食い”に似ている。今回も行われないとは限らない。

 

『ああ、急いだ方がいい』

 

ゼストは同じ言葉を二度繰り返した。いつも冷静沈着なゼストも少し焦っているような声をしている。このアンノウンは何かがありそうだ。

 

私は歩から走りへと変え、密林地帯へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おう、ガイ。準備が早いな」

「常に必要なモノは一通り揃えてありますので」

 

武装にセットアップして集合場所の会議室に行くと、部隊長が武装して隊長の証であるマントを羽織りながら少し強張った表情で出迎えてくれた。

 

「他はまだの様ですね」

「まあ、な」

「……」

 

部隊長の言葉には少し戸惑いと恐怖の感情が込められていたのが分かった。

それでも真剣な表情でいつもの様にチャラけた雰囲気を晒し出す事は無く、周りの空気を冷たい雰囲気で張りつめらせている。

 

真正面からその雰囲気にあてられると冷や汗を掻いてしまう。

 

このような雰囲気を晒し出している部隊長の時はかなり凄いのだ。戦場でもこの人は人とは一線を画している。

 

そんな部隊長が戸惑いや恐怖の感情を少しだが晒し出している。

 

「……そのアンノウン生物はどのくらい危険なのですか?」

「全身が10メートル級」

「っ!?」

 

何?今、部隊長は何と言った?10メートル級?ビルの7~8階建て分の高さだぞ。誰かが召喚獣でも呼んだのか?

 

「で、デカすぎでは?」

「映像も送られてきた。視るか?」

 

決してフザけた表情をすること無く真剣な表情で俺を見定める。俺はその言葉に押され気味ながらも頷く。

 

「……いや、やはりこれは視ない方がいいな」

「ど、どうしてですか?」

 

しかし、部隊長は自分から振ってきた話を自分で否定して話を終わらせようとした。

 

「皆が来たから作戦会議で話す」

「わかりました」

 

納得のいかない事だったが、他の隊員も集まってきたので整列する。そして、部隊長が皆の前に出て話を始めた。

 

「ミットチルダ東部の郊外の端に位置する開拓前の密林内で大型のアンノウン生物が目撃された。今は陸士25部隊・陸士98部隊・陸士159部隊が交戦中だ。我々798航空隊のアルファ分隊とベータ分隊はこれより陸士部隊の援護に向かう。対象のアンノウン生物はこれだ」

 

部隊長の隣に少し大きめのモニターが表示され、アンノウン生物の全体像が表示された。それを見た時、整列していた俺たち隊員はどよめいて驚きを隠せなかった。

 

映し出されていたのは巨大な生物。急な出現だったのでちゃんとした資料が無く、その場で撮られた映像のようだ。画像が少し荒い。全長は先ほど部隊長が言った通り、10メートルはある。

 

それほど大きいにもかかわらず重力に負けないほどの力を持っているのか2本足で立ち、丸い胴体で全身をドロドロの赤黒い何かで覆われており、一番上には大きな口があった。

 

「人に接触するとき、胴体の赤黒い部分から触手の様なモノを無数に晒し出して人を捕える」

 

更に人を捕獲する知性を持ち合わせているようだ。

 

「そしてっ……」

 

部隊長の口調が急に弱まった。その次の展開を話す事に躊躇っているようだ。表情もかなり弱々しい。

 

部隊長はモニターを操作した。

 

『いやああああぁぁあああぁぁ!!』

『や、やめろろろろおおぉぉぉ!!』

『は、は、離せええぇぇえぇ!!』

「「「……っ!!」」」

 

モニターからは人の叫び声や呻き声や断末魔などが聞こえてきた。応援要請に動画も送られて来たのだろう。その動画は最近のホラー映画やモンスターパニックよりもリアルで斬新な光景だった。

 

そのアンノウン生物は触手で捕らえた隊員を大きな口に放り込んで“食していた”。

 

ゴリッボリッバキッと骨が砕ける音がその口が動くたびに聞こえてくる。この生物は“人”を“捕食”しているのだ。

 

「うっ!!」

 

隊員の一人が口を押さえて前屈みになった。こんなモノをいきなり視てしまっては嘔吐してしまうのも無理もない。

他の隊員たちも表情はかなり怯えている。無意識のうちにあの食べられている人物を自分として想像してしまったのだろう。これから向かう敵は俺たちを“食べる”そんな生物なのだから。

 

「この生物は我々人間を食べるようだ。そして、この生物の近くでは魔法陣の展開を行う事が出来ないAMFのような無効化するものも存在する。なので、地上で魔導に頼らなくても攻撃を素早く行う事の出来るアルファ分隊とベータ分隊に集まってもらった」

 

部隊長の言葉が隊員全員に重く深くのしかかる。この悪夢のような出来事が起きている惨状に俺たちもこれから行かなければならないのだ。誰だって嫌だろう。

 

「これを見て問う。俺たちはこれからアンノウンの居る森へ向かわないといけない。命を落としてしまう可能性が高い凶悪な戦いになるだろう。だが俺はここでお前たちにこの任に下りることのできる道を作ろう。下りたい者がいれば下りると良い。咎めはしない」

「「……」」

 

再び俺たちアルファとベータの隊員たちはどよめきを隠せなかった。部隊長の部下に対する優しさが俺たち隊員全員に伝わったからだ。

 

ここで下りても良いと。魔導が使えない環境下でも戦えるこの状況で適切な俺たちに対して強制的な事はしないと。

 

その気持ちは部隊長に敬意を表するに値するものだった。

 

しかし、これを倒さなければ首都クラナガンやミットチルダ東部にこのアンノウンは来る可能性がある。そうなるとミットチルダ全土は混乱と被害が招かれるだろう。まだミットチルダ全土ではこの混乱は起きていない。このアンノウン出現を公表していないようだ。

 

無駄に公表して混乱を招いてしまうよりかはマシか。

 

治安や平和を守る事も俺たち軍の仕事でもあるのだ。隠蔽。それも一つのやり方だろう。その間に俺たちが仕留める。

 

ヴィヴィオ達の居る世界にあんなものを存在させてはいけない。

 

脳裏にはヴィヴィオ達との日常風景が映し出されていた。そこにあのアンノウンが現れて……。

 

俺は脳裏に浮かんだイメージを半ば強制的に忘却した。そんな未来にさせないと誓いながら。俺は覚悟を決めていた。

 

「隊長。一つ質問いいですか?」

「……なんだ、ガイ?」

 

俺は疑惑がいくつか浮かんできたので部隊長に問いかけた。

 

「このアンノウンはどのように現れたのですか?」

「突然現れたとしか資料が送られていない。そのために情報が不足し過ぎている」

「召喚魔導師が近くにいるかも知れませんね」

「それも一理ある。それも含めて戦闘補助・索敵・調査が我々の仕事となる」

 

この凶悪な生物を呼び出して何をする気なのだろうか?もしかしたら、聖杯戦争の誰かが行っているのかも知れない。もしかしたら、ただ理由もなく現れたのかも知れない。

 

ともあれ、そのような情報不足の憶測は真実にたどり着く事はほぼ不可能なので考えを切り替える。

 

「で、だ。下りたい奴はいるか?」

 

部隊長の優しい声が会議室を緩やかに包み込んだ。その声は本当に部下を危険な目に遭わせたくないような思いやりのある感情が込められているのが分かった。

 

「「「……」」」

 

少しの間の静寂。誰も手を上げようとはしない。

そして再び部隊長が言葉を吐く。先ほどの優しい声では無く、張りつめた雰囲気を発して低い声で部隊長らしい言葉を。

 

「……お前たちは上司から死ねと言われたら死ねるのか?」

「死に……たくありません!!」

「そうか……皆、良い表情だ」

 

誰かが言った。それは本音だろう。しかし、部隊長はそれを咎める事は無い。

 

俺以外の隊員全員にも覚悟があったようだ。部隊長に敬礼をする。

俺と同じく誰もが胸の中で思っている事。大切な人たちにこのアンノウンを遭遇させてはいけないと。中には恐怖で震えている隊員もいる。表情も不安の色を隠せていない。だが、下りなかった。

 

こいつらは立派な隊員……命を本当に張れる猛者たちだ。こいつらとなら安心できる。

 

俺の心の中ではこの惨状に向かわず任を下りる事のが出来たのに、下りなかった隊員達が一緒で安心感を得ていた。

 

部隊長は俺たちが敬礼している真剣な表情を見て敬意の敬礼を表する。

 

「俺は死ねとは言わん。一番の任務は生きて帰る事だ。わかったか!?」

「「「はい!!」」」

「部隊798航空隊。アルファ分隊、ベータ分隊、これよりミットチルダ東部郊外の開拓前の密林内で交戦中の陸士25部隊・陸士98部隊・陸士159部隊の支援・索敵・調査に向かう!!」

「「「はい!!」」」

 

俺たちの勇ましい声が会議室内を響きかせた。

 

「失礼します」

 

と、そこに気高い優しい女性の声がドアの開く音と共に聞こえてきた。皆がドアの方へと視線を向ける。そこに居たのはなのはさんとヴィータさんだった。表情は凛としまっていて、部隊長と同じく張りつめた雰囲気を持ち合わせている。

 

今日は午前中だけの訓練だったのでもうここには居ないと思ったのだが、部隊長の報告通信を聞いてあちらでも調べていたのだろうか?

 

「高町教導官、ヴィータ教導官。何故ここに?」

 

部隊長が疑問を投げかける。しかし、それに答える事は無くなのはさんとヴィータさんは部隊長へ近づいて行き、一定の距離を保って止まり敬礼した。

 

「航空戦技教導隊5番隊2班、高町一等空尉、ヴィータ二等空尉。これより部隊798航空隊アルファ分隊・ベータ分隊に入り現場に赴きたい所存です。指揮は部隊長に全任致します」

「……いいのですか?」

「はい、この出来事は見過ごすことが出来ません」

 

部隊長は言葉を失っていた。位が部隊長よりも上ななのはさんが部隊長の下で指示を仰ぐ立場で向かうと。

 

なのはさんとヴィータさんが加わるのなら必然的に部隊長の位置はなのはさんとヴィータさんになるのだが。

 

部隊長が言葉を失うには十分な理由だった。少しして部隊長が思考回路が戻ったのかなのはさんとヴィータさんに敬礼を返した。

 

「ありがとうございます。高町教導官、ヴィータ教導官が加わるのなら私たちの士気も上がり、生存率も高くなります」

「ああ、そのために来た」

「ですが、このアンノウンは危険極まりない生物です。十分に注意をしていきましょう」

「はい!!なのはしゃん!!」

 

あ、チャラけた部隊長に戻った。本当はなのはさんも加わって別の意味で良かったのではないかと思っているのではないか?いいや、きっとそうだ。

 

部隊長がチャラけてしまったことにより、会議室の張りつめた雰囲気は途切れて白けた雰囲気が漂ってしまった。

 

まあ、部隊長なりの緊張の解し方だと思えばいいか。

 

何はともあれ管轄外でありながらも俺たち798航空隊+なのはさんとヴィータさんは地上のミットチルダ東部郊外へ足を踏み入れることとなった。




さて、これからがもっと大変になりそうです。

これを書くのも二年目に突入。頑張りますか。

何か一言感想をいただけるとありがたいです。

では、また(・ω・)/
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