魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

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EXVSFBが稼動し始めてからゲーセンへ入り浸っていてw

エロゲーやる時間がEXVSFBになっちまったw

仕事も忙しいし。

時間が欲しいです。

と、ぼやくはここまでにして、楽しみに待っていた方々(居るんかなw?)お待たせしました。

では、二十五話目どうぞ~。


二十五話“偽善と真実の交差”

 「……子供の頃、僕は正義の味方に憧れていた」

 

縁側で隣に座っていた爺さん……衛宮切嗣はぼそりと呟きながら、その虚ろな瞳でただ遠い空の月を眺めている。その瞳には何が宿っているのか俺には分からなかった。いや、もしかしたら何もないのかも知れない。

 

俺も月を見るために見上げる。

満月の月。やたらと大きく見えるその月に雲などかかっていること無く、どこも掛けていない円の星がどの星よりも神々しく地上を照らしている。

 

本当に今日の月は綺麗だ。

 

「なんだよそれ。憧れてたって、諦めたのかよ」

 

しかし、そんな綺麗な思いが胸をよぎっても先ほどの爺さんの言葉は胸に引っかかったままだったので言葉を返す。

俺は爺さんが自分を否定するような言葉が嫌いだ。爺さんは偉大な人物だ。俺に“魔術”というモノを教えてくれた。とは言っても何とか習得できたのは“強化”だけだったが。

 

爺さんは月を見つめながら苦笑する。

 

「うん、残念ながらね。ヒーローは期間限定で、オトナになると名乗るのが難しくなるんだ。そんなコト、もっと早くに気が付けば良かった」

 

ヒーローは期間限定でオトナになると難しい……か。爺さんは爺さんだし名乗るのは無理な歳なわけか。

 

「そっか。それじゃしょうがないな」

「そうだね。本当に、しょうがない」

 

俺の痛みの篭った言葉に爺さんも痛みを込めて返した。爺さんが成し遂げたかった事は大人になって出来なくなってしまったと。

 

そして、俺たちは魅力に魅かれるように月を見上げる。

 

ほんと、いい月だな~。

 

魅かれるという言葉はあながち間違いではないだろう。現にさっきから俺と爺さんは月に釘付けた。本当に魅かれている。

 

こんなに綺麗な月の日の会話はきっと奥深く俺の脳に記憶されるのだろう。

 

だから俺は誓いを立てたかった。記憶の残りやすい今日という日に。

 

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ」

 

爺さんの眉が一瞬だけ動いた。爺さんの事は見ていないので分からないがそんな気がした。

俺は月を見ながら誓いを立てる。

 

「爺さんはオトナだからもう無理だけど、俺なら大丈夫だろ。まかせろって、爺さんの夢は……俺がちゃんと形にしてやっから」

「そうか。ああ……安心した」

 

その声は本当に安心した気持ちが込められているのかとても温かった。

 

「……爺さん?」

 

しかし、次の言葉が聞こえてくる事は無かった。

 

染み入るような月明かりの中、そのまま眠るように安らかに爺さんは息を引き取った。

その表情はやっと安堵を得たような安心感を抱いていたのが分かった。

 

あの時の俺を救った、初めて会った時の心の底から喜んでいる、まるで自分が救われたような表情で。

 

そして、俺は爺さんと誓いを立てた夢を走り続けるようになった。

 

 

 

“正義の味方”という理想へ。

 

 

 

「お前は本当に英雄になりたいのか!?」

「なりたいんじゃない!!絶対になるんだ!!」

 

風景は突如に変わった。

場所はアインツベルンの城。今は華々しさの無くなった瓦礫だらけの玄関口でアーチャー……“英霊エミヤ”と剣戟を繰り広げていた。

 

俺とアーチャーの二刀流の剣がぶつかり合う音をこの玄関口に高く響きかせながら俺たちは息荒く会話を続けていた。

 

隅の方ではセイバーが固唾を飲んで俺たちの剣戟を見つめている。

 

「それはそうだろうな!!なぜなら、それがお前にとって唯一の感情だからだ!!」

「なにを!?」

 

止まないアーチャーとの激しい剣戟を受け止め、受け流しながら、お互いの感情をぶつけ合う。

 

“英霊エミヤ”。第五次聖杯戦争で俺の理想を走り続けた結果、英霊となりサーヴァントとして俺の前に現れた未来の自分。目的は俺を殺すために。

 

「お前は憧れただけだ!!」

 

アーチャーの大きく振りかぶった剣を、受け止める、受け流すことが不可能と分かり転がりながらそれを避けて体制を整え、再び剣戟を行う。

 

「お前を助けたあの男があまりにも幸せそうだったから自分もそうなりたいと思っただけだ!!お前の理想は只の借り物だあぁぁ!!」

「違う!!」

 

アーチャーの感情の荒々しさを声に出しながら振りきった。その重い一撃が“投影”した俺のアーチャーの1つの剣を粉々に砕いた。俺はすぐさま同じ剣を“投影”する。

 

「これには誰かの為にならないと強迫観念に突き動かされてきた!!それが破綻しているとも気づかずただ走り続けた!!」

 

再び俺の剣はアーチャーの激しい剣捌きで両方とも粉々に砕かれてしまった。すぐに投影して立ち向かう。

 

「誰もが幸福であってほしいなどと、おとぎ話だ!!」

 

アーチャーの剣が俺の背中を切り裂く。

 

「そんな夢しか抱けぬのなら抱いたまま溺死しろおおぉぉぉ!!」

「ぬぁ!!」

 

俺は二つの剣を地面に刺して、息を荒くして俯く。

 

「はぁはぁはぁ……」

 

アーチャーは攻撃してこない。余裕のつもりなのだろうか。息も乱していない。

激しい剣戟の間に繰り広げた激しい気持ちの篭った言葉の往来。

 

その中で感じた事はこいつは“正義の味方”を諦めてしまった事。あの時の縁側で切嗣に誓いを立てたあの夢をこいつは……“未来”の俺は諦めてしまった。それがどうしても許せなかった。

 

確かに初めて会った時の切嗣の顔は幸せそうな表情をしていて自分が救われたと、救われた自分が思ってしまうほどに晴々としていた。

 

俺の気持ちの中にももしかしたらあんな風になりたかったのかも知れない。それを目指しているのかも知れない。夢の先にあるモノが自分も救われると思いながら。

 

だが、それを目の前のこいつは諦めた。数百人を救うためにその十倍、百倍の人数を殺したりして、その理想が破綻していると気づいてしまったから。しかし、だからと言って決めた理想を簡単に捨ててしまった。

 

そこが納得いかないしそんな奴に負けたくない。

 

魔術回路に流れる魔力が精神を貪るかのように暴れ体全体を駆け巡る。

 

「体は……体は剣で出来ている!!」

「貴様……まだっ……」

 

俺はアーチャーに顔を向ける。アーチャーはまだそんな理想を抱いている自分に嫌悪感を抱いたのか更に眉を眉間に寄せる。

 

「お前には負けないっ!!誰かに負けるのはいい……」

 

体重を掛けていた二つの剣を抜きとる。

 

「だけど、自分には負けられない!!」

 

俺は再びアーチャーに向かって走り出す。激しい感情が痛みを疲れを忘れさせ、目の前の自分に立ち向かえる力を与えてくれる。

 

「こいつっ……」

 

アーチャーはその感情の威圧感に押され気味ながら剣を繰り出す。

 

「叶わぬと知ってなおも挑み続けるその愚かさ!!」

「間違いなんかじゃないっ!!」

 

切継との誓いは決して間違いなんかじゃないんだ。

 

あの誓いがあったからこそ今の自分がいる。

あの誓いがあったからこそ未来のお前がいるんだ。

 

アーチャーとすれ違いざまに俺の渾身の一撃の剣をお見舞いした。今度はアーチャーの剣が粉々に砕けた。これにはアーチャーも驚きを隠せていない。が、すぐさま新しい剣を投影し俺の剣に対応する。

 

「ぬううううぅぅぅ!!」

「うおおおぉぉぉ!!」

 

剣と剣のぶつかり合う音がより一層、このフロアに高く響いた。俺たちは出し惜しむことなく全力でぶつかり合った。

 

「それこそが俺の過ちだったはずっ!!」

「決して間違いなんかじゃないんだあぁぁぁああぁ!!」

 

過ちだと知り歩みを止めた自分。

決して歩みを止めない自分。

 

一つの理想でこの二つの考えを生み出した自分と自分。どちらが正しいのか。その気持ちが重い方が勝者となろう。

 

そして、その結果はすぐに訪れた。

 

俺は剣を1つ捨て、もう1つの剣の切っ先をアーチャーに向けて突っ込んだ。アーチャーはその時、何を思ったのかはわからない。一瞬だが動きが止まった。そして、そのまま俺の剣はアーチャーの体を貫いた。

 

剣が肉を切り裂き、突き抜けた感触が手から伝わる。

 

「俺の勝ちだ、アーチャー……」

「ああ……そして、私の敗北だ……」

 

アーチャーは貫かれながらも笑って力なく言葉を放っていた。本当はこんな道に走り出してしまった自分を止めてほしかったのかも知れない。過ちだと知って過ちの道を進んでしまった事を。

 

「未来に何が待っていようと後悔なんかしない!!俺は乗り越える!!」

「そうだったな、乗り越えなければ嘘だ……」

 

ああ、俺はどんな未来を待ちうけようとも切嗣に誓ったこの理想はずっと突き進む。後悔なんかしない。

 

未来の自分に後悔したなどと言われても俺は……!!

 

 

 

『正義の味方……か』

 

 

 

そして、風景はまた変わった。今度は薄暗い部屋。

目の前のモニターから零れる僅かな光しか照らしているモノはここには無かった。

 

その言葉を放ったのはモニター越しに居る人物“管理者”だ。

 

放課後の教室で凛に魔術を教わろうとしたら突然“穴”が現れて俺たちは吸い込まれた。

 

その穴を通って出てきた場所がここだ。隣にいた凛は居なく、先に吸い込まれた机やいすもない。ただ目の前にモニターがある薄暗い部屋。

 

『それはお前の意志か?』

「ああ、そうだ。俺は正義の味方になるんだ」

 

今、モニター越しで話をしている人物は“管理者”と名乗った。あちらは暗くて表情や特徴が掴めない。顔を割られたくないから暗くしているのだろう。

この管理者からは色々と話を聞いた。

 

ここは地球と言う星があった世界ではなく“ワームホール”で別世界にやって来たこと。

地球とは違う場所で“聖杯戦争”が行われるということ。

そして、それに俺も参加資格があるということ。右手の甲には冬木の聖杯戦争の時と同じデザインの令呪が刻まれていた。

 

俺の考えは決まっている。

 

たとえ、地球外の別世界であっても俺の意志は貫き通す。犠牲者を出してはいけないんだ!!

 

『しかし、それは贋作だな』

「……っつ!!」

 

モニター越しから聞こえてくる図太く低い声が俺の心を深く抉ってくる。

 

『正義の味方など昔から憧れていた人物は多かっただろう。その人物たちから見ればお前のその夢は偽物、贋作、フェイクに他ならない。その偽夢を突き進む者がフェイカーだ。そうだな……お前はお前の爺さんだった切継の亡霊とでも言えばいいか』

「……」

 

管理者の言葉は何故か正論に聞こえてきてしまう。確かに昔の偉人達が描いた夢に正義の味方などがあれば俺はその夢と同じと言わず、近い夢を目指していることになる。

 

それこそが偽物だと、目の前の管理者はそう告げる。

 

『お前は……お前の思っていること全てが偽物だ』

「……偽物でも構わない」

『……ほう』

 

管理者の言葉には少しだけ楽しそうな感情を込められていたような気がした。俺は自分の気持ちを言葉に押しつけた。

 

「たとえ本物に届かない偽物だとしても、偽物が本物に負ける道理はない!!」

『知ってもなお偽物を目指すのか。道化だな』

「何とでも言え」

 

偽物でも構わなかった。偽物でも負ける道理など無いのだから。

 

固有結界内でギルガメッシュとの対決の時に俺の偽物の剣がギルガメッシュの最古の宝具を壊す事が出来た。本物が必ず勝てるとは限らないのだ。

 

「自分の気持ちにまっすぐ進んでいるマスターですね」

「えっ?」

 

女性の声は突然後ろから聞こえてきた。その声は優しさが包まれていて包容力があると言っていい声だ。

 

後ろを振り向くと女性が立っていた。栗色の髪をサイドテールにして笑みを溢しながら。青と白が特徴的な様々なゴツい武装を装着して、パッと見ると重装備だ。

 

「マスター?」

『はい、私のマスターはあなた様でよろしいのですね?私は高町なのは。クラスはアーチャーです』

 

ああ、この人物は英霊だ。すぐ近くで対峙していると分かる。朗らかな笑みを溢しながらもその魔力の多さと殺伐とした異様に重い雰囲気。強い意志を込められている眼がこの者が只者ではないと語っている。

 

「あ、ああ」

 

俺はその魔力と雰囲気と目線にあてられながらも相槌を打つ。俺がマスターであることを承認したアーチャーは軽く頷きながらモニターに目線を写す。

 

『……エース・オブ・エースか』

「うん、そんな名誉付けられた事もあったね」

 

エースの中のエース。なるほど、確かにこれなら納得できる。

 

「で、あなたが管理者?」

『ああ、そうだが』

「……ふ~ん」

「っ!?」

 

管理者の肯定から一瞬の間が空いた。その一瞬にアーチャーは何を思ったのか、笑みは絶やさずに先ほどの重い雰囲気と比にならないくらいの重たい殺気をそのモニターに放っていた。

 

俺は思わず喉を鳴らす。

 

アーチャーは管理者に何か根を持っているのだろうか?

 

『戦う相手が違うだろ』

「貴方ももしかしたら戦う相手に含まれるかもしれないと思いますよ」

『……ふっ』

 

何を思ったのか管理者の写っているモニターからは鼻で笑った声が聞こえた。

 

『まあいい。貴様は五人目のマスターだ。全員のマスターが揃った時に再度こちらから通知する。それまで聖杯戦争に向けて準備をしておくといい』

 

そして、一方的にモニターを切られててしまった。残されたのは俺とアーチャーのみ。

 

「……とりあえず、よろしくなアーチャー」

「はい、マスター。あ、名前をお伺いしても?」

「ああ、言ってなかったな。俺は衛宮士朗」

「うん、士朗君ね」

「……っ」

 

先ほどの重い雰囲気が消え明るい雰囲気になり、天使のような笑みを向けながらいきなり名前で言われたのでちょっと照れくさい。

 

アーチャーはかなりの美人だ。生前の頃はかなりモテていたのではないだろうか?

 

「え、衛宮でいいよ」

「そうですか?」

 

キョトンとしながら首を傾げる仕草もかなり男心を刺激させる。

 

「わかりました。では、プライベートの時は衛宮君で。戦闘の時はマスターと言わせてもらいますね」

「わかった。俺はどんな時でもアーチャーと言わせてもらう」

「……そうですか」

 

一瞬アーチャーの笑みに悲しみの色が過ぎったような気がした。俺は何か間違いなことを言ってしまったのだろうか?

 

「……名前で呼んでほしかったな」

「ん?何か言ったか?」

 

アーチャーがボソッと何かを呟いたように聞こえた。でも、アーチャーは首を横に振ってなんでもありませんと答えた。

 

「っ!?」

「!?」

 

そして、突然にこの薄暗い部屋が直下型地震の激しい縦揺れのように揺れて足が地面から大きく離れて、フワフワとした浮遊感を感じた。激しい揺れに俺は飛ばされてしまったようだ。

 

「衛宮君!!」

「うわあぁぁああぁあぁ!!」

 

そして、その浮遊感も一瞬で俺は重力に引き寄せられるように落下していき強制的に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――土蔵

 

「……ゆ……め?」

 

俺は夢から覚めた。夢と分かったあたり、記憶に深く残っている部分が夢に出て来たのだろう。

 

今は薄い毛布を掛っているだ。かなりの寝汗を掻いたのか寝巻代わりのTシャツが汗でぐっしょりとしていた。

 

久々に懐かしい夢を見た。それとアーチャーとの対決。そして、管理者とのやり取り。

 

切嗣との誓いの日の夢。理想を目指し続けた自分との対決。そして、ここに来た理由。それが夢になって現れた。

 

「衛宮君。夢見が悪かったの?」

「えっ?」

 

唐突に聞こえてきた綺麗な女性の声。それが上から聞こえてきた。その声は夢に出てきた声と同じ音声だ。視線を上に上げるとそこにはアーチャー……“英霊タカマチ”が優しい笑みを浮かべて俺の事を見下ろしていた。

 

「え?ア、アーチャー?」

「にゃはは。凄い呻き声だったから膝枕してたんだよ。そして、だんだんと落ち着いてくれたのかな?静かな寝息を立て始めてくれて」

「えっ?」

 

そういえば、ミカヤからいつも使わせてもらっている枕よりも頭を押さえるモノが柔らかく感じる。これはアーチャーの膝?

 

「あっ、悪い!!」

 

俺は急いでアーチャーの膝から頭を離して離れる。

 

「うん、そんなに元気なら大丈夫だね」

「え、あ、ああ」

 

慌てている俺とは違い、アーチャーは何時もどおり落ち着いて笑みを絶やさない。

 

「でも、呻き声じゃあまりいい夢じゃなかったのかな?」

「い、いやぁ……ちょ、ちょっとまって」

 

感情が少し揺らいだままなので座禅を組んで気持ちを落ち着かせる試みを行った。

 

「にゃはは、ウブなんだね衛宮君」

「う、うるさいっ!!」

 

座禅失敗。

タカマチの相手をおちょくるような言葉が座禅を組ませてくれない。

 

「衛宮っ!!起きてるか!?」

「いっ!!」

 

そこにバンッと思い切りドアを開いた音と、綺麗な声でありながらもその中には強い意志を孕んでいる凛とした声が土蔵内に響いた。

 

「ミ、ミカヤ」

 

そこに立っていたのはここの抜刀術天瞳流 第4道場、女袴を着ている師範代ミカヤ・シュベルだった。鍔の付いていない刀を鞘に納めて左手に持っている。

 

一つに縛って下ろしている長く蒼い髪に凛とした表情が特徴的で、歳は18と若いが師範代と言われても強ち間違いではないほどの貫禄と雰囲気を持ち合わせている。

 

「衛宮、起きていたか。早速だが早朝の稽古をしたい。相手してくれるか?」

「あ、ああ。いいよ」

 

いつの間にかアーチャーは霊体化して消えていた。今のミカヤにはここに俺1人で寝ていたと思っているのだろう。

 

俺は立ち上がる。

 

「座禅を組んでいたのか?」

「まあ、ちょっと気持ちを落ち着かせようと思ってな」

「けっこう。衛宮は日々向上心だな。今時はその気持ちを持っている人は少ない」

「いや、あ、ああ」

 

ミカヤが柔らかい笑みを向けてくる。

 

本当はアーチャーにおちょくられてしまって乱れた気持ちを落ち着かせるために座禅を組んだなんて言えないしな。

 

「では、早朝訓練に付き合ってくれ」

「ああ、やろう」

 

俺はミカヤについて行った。

 

薄暗い部屋で起きた揺れで意識を失った後、ここの庭に倒れていたようだ。そこにミカヤが俺の事を発見して、事情を説明したらしばらくここにいるといいと言われた。ここは柳洞寺に似ている。土蔵もあるのでそこでいろいろとガラクタいじりも出来る。似ている所だからこそ安堵感が心の中に芽生えるのだろう。

 

ここでの手伝いをしながら稽古もして自分を鍛えている。

 

ここは……うん、悪くない。むしろいい。

 

ミカヤの背中姿を見ながらここでの生活に安心感を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――市民公園内 公共魔法練習場

 

「で、アーチャー。どこかに出かけたいと言ってきたはいいがここは?」

『うん、ここは魔法の練習場』

 

大きな公園がある中で大きく拓いてある広場がある。どうやらここは練習場のようだ。俺はアーチャーが出かけたいと言ってきたのでここにやって来て、この中を歩いていた。

 

大きな広場の他にテニスコートやバスケットのゴール台など軽くスポーツの出来る場所でもある。

 

魔法練習場と言っても普通のスポーツも出来るどこにでもあるちょっとリッチな公園だ。

 

魔法と言っても俺にとってはよく分からないモノだ。魔術でさえも分からない事が多いのでどちらも俺からしたら未知の領域に存在するモノだ。

 

1つ1つ理解していかないとな。

 

「きゃっ!!」

「おっと」

 

と、考え事をしていたら子供とブツかってしまった。考え事をして周りが見えていなかったようだ。倒れそうになった女の子を何とか引き留める。

 

「悪い、考え事をしていて周りが見えていなかった」

「あ、いえ、こちらこそ周りを見ていませんでした。倒れてしまう所を支えて下さいましてありがとうございます」

 

その女の子は俺から少し離れてぺこりと頭を下げる。

 

良く出来ている子だ。

 

今の行動を見ただけでも分かる。少なからずとも小さな女の子が常識のある人物である事に俺は感心していた。

 

「ああ、怪我もなくて良かった」

「はいっ!!」

 

そして、頭を上げて頭に良く響く元気な声を発しながら微笑んでいた。見た目は可愛い女の子だ。

 

上下がピンクのジャージ姿。

ライトブラウス色の髪を両サイドでちょっと縛って、残りを下ろして、左眼が紅く右眼が翠の虹彩異色の眼。

 

笑顔が眩しく一度見たら脳裏に深く刻まれてそう簡単には忘れられないだろう。

 

『ヴィヴィオ……』

 

アーチャーがぼそりと呟いたのが聞こえた。

 

『ヴィヴィオ?この子の名前か?』

『うん。高町ヴィヴィオ。私の娘だよ』

『えっ?』

 

アーチャーの姿は見えないがその声は優しさに包まれていた。自分の子供に出会えたことが嬉しいのだろう。

 

しかし、とある疑問が浮上した。

 

『この子は見た目は10歳くらいか?』

『う~ん、この新暦から見ると10歳だね』

『……因みにアーチャーの歳は?』

『……ああ、なるほど』

 

脳裏に言葉を放ってくるアーチャーの声には納得のいったようなニュアンスが含まれていた。

 

『あまり女性に年を聞くのも良くないよ』

『んっ、すまん。気になったもんでな』

『まあいいけど。今の私は25。この新暦だと23だね』

『……』

 

俺は頭の中の話で言葉を失っていた。

 

このヴィヴィオって子は10歳。アーチャーはこの新暦だと23歳。つまりは13歳でヴィヴィオを生んだと?

 

まずポルノ法とかの法律に引っかかるような……。

 

と、いろいろと頭の中で話が膨らんでいった。

 

『で、たぶん変なことを考えていると思うけどヴィヴィオは養子だから』

『ほへっ?』

 

自分でも間の抜けすぎた声だと分かった。頭の中でアーチャーが小悪魔のようなからかう声が響いた。

妄想で11~12歳頃に性行為をしてしまって、でも、堕ろしたくないから親に内緒で生んでしまって……などとスケールが大きくなっていたようだ。それを否定されると考え込んでいたモノが変な声となって外に出て行った。

 

『そ、そう言う事なら早く言えよ……』

『衛宮君が勝手に妄想で暴走しているからだよ』

『むっ……』

 

そう言われると何も言い返せない。勝手に頭の中で色んな事を想像してしまった自分が悪いのだから。

 

「ヴィヴィオさん、早いです」

「負けないよ~!!」

「皆が早いよ~」

 

ヴィヴィオと言う女の子の後ろから更に少女たちの声が聞こえた。皆がジャージ姿なので皆でジョギングをしていたのだろう。

 

頭に黄色いリボンを縛って濃い紫色をした髪をショートカットにしている黄緑色の瞳をして八重歯が目立つ女の子。

クリーム色の髪をツインテールにしてキャンディの形をしたゴムで結んでいる青色の瞳で大人しそうな雰囲気を持っている女の子。

 

そして、碧銀の髪を特徴的なツインテールに結い、左の大きな赤いリボンが印象的な女の子。左眼が薄蒼で右眼が紫でこの子もヴィヴィオと同じく虹彩異色だ。

 

ヴィヴィオだけでなく他の子たちも可愛いな~。

 

素でそう思ってしまった。

 

『アインハルトちゃんに、コロナちゃん、リオちゃんもいる』

『ヴィヴィオって子の知り合いか?』

『うん!!』

 

念話でアーチャーと会話を続ける。アーチャーの声は弾んでいるに聞こえる。

 

「えへへ~、皆遅いよ~」

 

皆の方へ振りむき可愛く舌を出すヴィヴィオ。

 

『愛娘の元気な姿を見たかったのか?』

『……うん、ヴィヴィオの姿を一度見たくなっちゃって。未来の私が会うのは止めておくけど元気な姿を見れただけでもいいよ。それにこの時間帯はたぶん……』

『……アーチャー??』

 

アーチャーの言葉には喜びの色が混じっていたのが分かった。娘に会えた喜びが言葉に盛られていたのだろう。

そして、何かを思い出したのか最後の方は歯切れの悪い声になって考え込んでしまい呼んでも返事しなくなった。

 

「あの……そちらの方は?」

 

と、碧銀のツインテールな女の子がこちらに気づき疑問を投げかけた。

 

「あ、私がよそ見をしていたらぶつかっちゃって。転びそうになったところを支えてくれたんです」

「そう……ですか。ヴィヴィオさん、ランニング中によそ見をしてはいけませんよ」

「……はいっ、気をつけます」

 

指摘されてシュンと項垂れてしまうヴィヴィオ。

 

『ヴィヴィオ。アインハルトちゃんに怒られちゃったね』

『あの子はアインハルトって言うのか』

『うん、頭に黄色いリボンを縛っているのがリオちゃん。キャンディの形をしたゴムを結んでいるのがコロナちゃんだよ』

『……そっか』

 

アーチャーから一通りの名前と特徴を教えてもらった。先ほど考え込んでいた事柄はすんだのか普通に答えてくれる。

 

ともあれ、これで名前を間違える事はない。

 

アインハルトは他の三人から見ると少し背が高い。年が少し上なのだろうか?

 

「あ、私は高町ヴィヴィオって言います。本当にありがとうございました」

 

再びこちらに振り向いて頭を下げるヴィヴィオ。

 

「いいよ。そんなことでいちいち頭を下げなくても」

 

やっぱり、しっかり出来た子だなと思いながら俺は答える。

 

「「あっ……」」

 

そして、この少女達の後から白いジャージ姿で走ってきた人物と目が合って驚きの表情をお互いに隠せず晒してしまった。その人物と俺は息が合うかのように同じ文字の呆けた声が被った。

 

「フリージア」

「衛宮……士朗」

『やっぱりこの時間帯は一緒に居たんだ……』

 

ガイのサーヴァントでファイタークラスのフリージアだった。アーチャーは分かっていたのか納得のいったような確信の色が混じった声だ。

 

「あれ?フリージアさん。この人とお知り合いなんですか?」

 

そんな俺たちを見て、コロナが疑問の言葉を投げかける。

 

「あっ……いぇ、まあ、その……」

「あ、ああ。俺たちはちょっとした知り合いだ」

 

とっさに出会ってしまったからかフリージアは慌ててしまっている。俺はあまり変に疑われない様に冷静になって言葉を選ぶ。

 

「もしかして、ストライクアーツ関係の人ですか!?」

「へっ?ス、ストライク……アーツ?」

 

好奇心旺盛な声の中には聞き慣れない単語が存在し、素で返してしまった。脳内検索でストライクアーツを検索するが、何も出てこない。

 

ストライクとアーツ?なんなんだ?

 

『ああ、それはヴィヴィオ達がやっている格闘技の名前だね。地球で言うと総合格闘技ってとこかな』

『K-1みたいなものってことか。こんな小さい子達がそんなことをやっているんだな』

『結構流行っているからね』

 

小さい子供たちが格闘技をしている。そんな現実に軽くカルチャーショックを受けた。

 

地球で子供のころからいきなり格闘技の練習をすることなんてほんの一握りだろう。

それがここの文化では格闘技が流行っている。だから小さいころからでも格闘技に触れるチャンスが多いのかも知れない。

 

ここの違いに大きな戸惑いが出来たわけだ。

 

と、話がズレた。つまりはその格闘技に俺も関係しているのではないかと言う事か?

 

『ガイ君もストライクアーツをしているからね。昔の私がガイ君に聞いただけだけど、フリージアさんとはストライクアーツで知り合ったってあの時言ってたんだよね。だから、フリージアさんと知り合いな形になった衛宮君もストライクアーツの関係者なんじゃないかなってヴィヴィオが聞いて来たのかも』

『……すごいな、アーチャー。そこまで予測できるのか』

『伊達にヴィヴィオのお母さんをしているわけじゃないよ』

 

えっへんと胸を誇っているようなアーチャーの姿が脳裏に浮かんで思わず苦笑いしてしまった。

 

「あ、えっと、衛宮……さん?」

 

言葉を掛けてから何も反応を示さず苦笑いを見たヴィヴィオは笑みを崩さずとも若干顔を引きつらせて俺の事を見ていた。

 

おっと、随分と間を開けさせてしまったようだ。ヴィヴィオの質問に答えてやらないと。

 

「あ、ああ、悪い。俺はストライクアーツをしているわけじゃないんだが格闘技の嗜み程度ならある。それでちょっとした縁でフリージアとも出会っただけだ」

「そうですか。あ、もしかして、フリージアさんぐらい強かったりしますか?」

「俺はフリージアより強くないよ」

 

フリージアはサーヴァントだ。そう簡単にフリージアよりも強くはなれないだろう。

 

「少し立ち話が長すぎましたね。戻りましょうか」

「わっ、もうこんな時間だっ!!」

 

アインハルトの落ち着いた言葉を聞いて、リオが公園にあるシンプルな形をしている時計台に目をやりが驚きの声を晒し出す。

 

「うん。そろそろお家に戻ろうか。一度シャワー浴びてから午後は皆で遊ぼう」

「あ、私は特訓を……」

「たまには息を抜くのも大事ですよ、アインハルト」

 

アインハルトはヴィヴィオの遊びの申し出を断ろうとしたがフリージアがそれを遮る。

 

「うん、アインハルトさんと一緒に遊びたいです」

「え、コ、コロナさんまで」

 

全てが分かったような笑みをアインハルトに向けてフリージアの援護をするコロナ。

 

『……アインハルトって随分と慕われているんだな』

『皆より年上だからね。皆の目標の一つになってるんじゃないかな』

『あ、やっぱり年上か』

『……うん』

『……??アーチャー?』

アーチャーの言葉で納得がいった。やはりアインハルトは年上だったのだ。そしてまたアーチャーの口調が最後の方で弱々しくなっていた。

 

アインハルトに対して何か思い入れがあるのかも知れない。それも、口調が弱々しくなったところを見ると何か悲しげな思い入れが。

 

……そこは聞くところじゃないよな。

 

その話は俺からは切り出さないようにした。

 

「わ、わかりました……」

「「「やった~!!」」」

 

ヴィヴィオとコロナとリオが喜びながらハイタッチする。乾いた音が良く響く。

 

ヴィヴィオ達はじゃあ、午後から何して遊ぶ?とか、やっぱりアインハルトさんが居るとなるといつもと違った遊びをしたいよねとか、午後の話で盛り上がってしまった。

 

アインハルトはかなり慕われていた事が嬉しかったのか少し頬を赤くして俯いている。フリージアはそんな姿を見て優しい笑みを溢す。

 

……聖杯戦争をしている人物とは思えないほど明るい笑みだな。

 

フリージアはこの子達の日常に干渉している。きっとそこの居場所が心地良いのだろう。

 

『フリージアはあの子たちの居る居場所が心地良いのかな?』

『ガイ君もそこの居場所に依存している気がするし、ヴィヴィオ達の居場所が心地良いってのは強ち間違いじゃないかも』

『……へえ~』

 

ガイもあの子たちの居場所が好きなようだ。

確かにあの子達からの元気なオーラは周りにいる人たちに笑顔をもたらせる事が出来るのがわかる。

 

だが、俺の心の中は複雑な思いが入り混じっていた。

こんな子たちを見ていると脳裏に浮かんで来たのはイリヤの姿。同じ背丈ぐらいでありながら、前の聖杯戦争に参戦したマスターの1人。

 

ギルガメッシュに“聖杯の器”である心臓を抜き取られて絶命してしまった、悲惨な最期を遂げた可哀想な子。

 

イリヤもこんな風に友達と明るく笑って楽しむ人生を歩むことが出来たかも知れない。だが、実際には守れなかった。

 

そう思うと胸の奥が何かに握りつぶされるような感覚に陥った。

 

「あ、では、失礼しますね。衛宮さん。今度、ストライクアーツで対決出来たら嬉しいです」

「……あ、あぁ、いつか出来たらな」

 

少しネガティブに考え事をしていたのでヴィヴィオの言葉に反応が少し遅れてしまった。

 

「では、また“別の場所”で」

「……ああ」

 

子供たちは笑顔で一礼して走りながら公園を後にした。フリージアも最後に意味深い言葉を残して子供たちと一緒に去っていった。

 

『うん、とりあえずは目的完了かな』

『ヴィヴィオと出会えて良かったな』

『ありがとね、衛宮君』

 

霊体化しているた表情を確認することはできないが、弾んでいる声を聞いた限りだとかなりの笑顔をしているのだろう。

 

その弾んでいる言葉を聞いただけでもここにきた甲斐はあったというモノだ。

 

『というか、別に俺が居なくても良かったんじゃないか?』

『傍から見ているのもいいけど、こうやって近づいて傍らで感じ取った方がいいと思って』

『……まあ、それもあるわな』

 

アーチャーの説明は納得のいくモノだった。遠くで見ているよりかは近くで話をした方が色々と分かる。

 

『でね、ここからは“こっち”の話なんだけど』

『……』

 

それも一瞬だけで弾んでいた声から気の引き締まった重い声に変わった。こっちとはつまり聖杯戦争の事なのだろう。

 

俺も心して聞くことにした。

 

聖杯戦争を犠牲者が出る前に早く終わらせる。それがこの聖杯戦争に参加した目的の一つでもあるのだから。

 

“正義の味方”

 

親父の夢は俺がちゃんと形にしてやるよ。例え英霊エミヤや管理者から偽善やおとぎ話だと言われようとな。

 

月夜の誓いを思い出しながらアーチャーの言葉に耳を傾けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ミットチルダ東部郊外 密林前

 

アルファ分隊にはなのはさん、ベータ分隊にはヴィータさんが入り、5小隊となった。

 

密林前は拠点となっている。

幾つものアンテナの付いた大型車が止まっており、中では情報収集や応援要請を行っているのだろう。

 

人もちらほらと見えるがここの全ての作業を行うための必要人数が居るとは思えないくらい少ない。車の中にいたとしても明らかに少ない。

 

そして、その人たちの沈んだ表情が見てとれる。あれはあの現場を目撃した後だと分かる。

 

あんな化けモノがこの密林の中に居るからな。

 

脳裏には部隊長に見せてもらった映像が浮かび上がった。

 

人を“食べる”謎の大型生物。

 

食い散らかした後に駆けつけてもその傷跡を見ただけ身震いが止まらないだろう。

 

今一度、密林の方へ視線を向ける。

つい先ほどまで晴れていた天気も空を黒く覆い尽くそうとしている雨雲が近づいてきており風も吹き始め、午後三時ごろだというのに薄暗さを感じる。

 

そして、密林はその薄暗さもあってか、風によって奏でられる木々の擦れる音が密林の暗闇から聞こえてくるのが不気味さを感じずにはいられない。

 

共に来た隊員を見る。表情が青く、一点のみを見つめている。

 

あの中にあの化け物が居るのだ。少なからず恐怖心が心の中で芽生え始めているいるのだろう。

 

俺も……同じか。

 

恐怖心が無いと言ったら嘘になるが、少し体が小刻みに震えているのが分かった。

 

「応援に駆けつけました、部隊798航空隊、アルファ分隊、分隊長兼部隊長です」

「応援ありがとうございます。ここの全任の指揮を任せられている、部隊25陸士部隊長、ナーガ・ステイルと申します」

 

部隊長はここの指揮を任せられている部隊長、ナーガ・ステイルと挨拶を交わした。歳は部隊長とそう変わらく若く見える。

 

ショートヘアの赤黒い髪に蒼い瞳。右眼には黒い眼帯をしている。眉が釣り上がっているので凛とした表情をしているが容姿も整っているからか怖い雰囲気と言うよりかは、親しみにくいが話はしやすい人物だろう。

 

そして、ナーガ部隊長はなのはさんに視線を移した時に驚きの表情を隠せないでいた。

 

「これはこれは……エース・オブ・エースもこの場に来て下さるとは」

「死者が出ている現場なので早急に解決まで導かないといけないと考え、応援要請の来た798航空隊に戦技教導官として滞在していましたので、第798航空隊アルファ分隊に一時的に配属となりました」

「いえいえ、助かります。かのエース・オブ・エースが着て下さると分かれば我々の士気も高まります」

 

確かに周りを見ると、皆がなのはさんに注目を集めていた。通り名の“エースオブエース”は知名度が高いようだ。

 

そんな人物が現場に来てくれたのだ。士気の向上も見いだせるのだろう。

 

なのはさんは恐怖心が芽生え無いのかな?ヴィータさんもいつも通りの表情……いや、少し怒っているように眉間にしわが出来ているのが分かる。

 

なのはさんもヴィータさんもいつもよりかは少し殺伐とした雰囲気を醸し出している。恐怖心よりもここの惨劇を終わらせたく気を引き締めているのだろう。

 

「で、他の部隊は?」

「……今のところの我が陸士25部隊に、最初に到着した陸士98部隊、陸士159部隊は壊滅状態に近い状況」

 

ナーガ部隊長は苦虫を噛みしめるような渋い表情をする。自分の部隊がほとんど壊滅してしまったのだ。

 

ナーガ部隊長自体は部隊の救援に駆け付けたかったかもしれないが全任を任されたこの場から離れるわけにはいかない。

 

「救援要請により到着した陸士349部隊、418航空隊、陸士842部隊も全滅」

 

全滅……つまりは“捕食”されてしまったのだろう。普通に死ぬよりも惨いモノだと俺は思う。

 

人として死ねるのでは無く、アンノウンの餌食となって死んでしまうのだ。人としての……生き様、人生、生涯。

 

捕食された隊員達はそれら全てを否定されているように思えてしまう。

 

「そして、現状は僅かな残党部隊と突入している陸士231部隊。今、増援に駆けつけてきてくれた、798航空隊の皆さんが来て下さったわけです」

「……状況は芳しくありませんね」

 

ベータ分隊に一時的に入っているヴィータさんは更に眉間にしわを寄せながら現状を把握しはじめた。

 

現状は二部隊弱しかいないこの状況下。あの大型のアンノウンが何体居るかもわからないのにこの数は少ない。

 

しかし、エースオブエースのなのはさんが居るなら状況は変わるだろう。それに六課時代のエースであるヴィータさんも居る。

 

この2人が居るというだけでも不思議と恐怖と言うモノは気持ちの中から消えていた。

 

「ええ。それにアンノウンの全体像を知るためにヘリを密林へ飛ばしたのですが現場に赴く事が出来なかったというのもあります」

「……結界」

「可能性はあります。ですので空からの進撃は行えず密林内を進んでいくしかありません。もっとも、飛べたとしてもAMFにな様なものが発生していますので現場に入った時に落とされてしまいますが……」

 

つまり、進撃するルートは密林の中を進んでいくしかないようだ。

 

「では、798航空隊、アルファ分隊は陸士231部隊の援護を。ベータ分隊は本部であるこの場所と前線への伝達部隊としてお願いしたい」

「「「了解っ!!」」」

 

アルファ分隊は前線へ赴く事に。

 

ベータ分隊は高度なAMFに似ているモノが現場に発生しており、魔導による伝達情報は使う事が出来ないこの状況下で、人の手で伝えていく伝達部隊に適任された。

 

そして、798航空隊は密林の中へと足を進めていくことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、あたしらはここで待機しているぞ」

「はい、お願いします」

 

密林内に入って少し進んだ所でベータ分隊の待機地点へたどり着いた。ここへたどり着く頃には雨が降り始めていた。

 

「ベータ分隊の全権をヴィータ教導官に託します」

「はっ、いいぜ。そっちも気を抜くんじゃねえぞ、部隊長さんよ」

「ええ、必ずなのはさんを守り通しますっ!!」

「あっはは……」

「「「……」」」

 

部隊長の放った言葉は周りを白けさせるには十分な打撃力ではあった。なのはさんはどのように対応したらいいのか分からず、引きつった笑みを浮かべながら人差し指で頬を掻いていた。

 

「……っ」

 

しかし、そんな雑談の輪には混じらずに俺は更に密林内の奥の暗闇に視線を向けていた。

 

ほんの僅か……本当に僅かだが血の匂いがするな。

 

雨にぬれたおかげで強い緑の匂いに、雨に消されることなく入り混じった僅かな鉄の匂い。自然の環境で嗅げる匂いではないので違和感のある匂いとなる。そう遠くない場所にあの現場があるようだ。

 

気を引き締めないとな。

 

「ではアルファ分隊、これより先に進むぞ」

「「「了解っ!!」」」

 

俺たちアルファ分隊はベータ分隊と別れて先へと進んだ。進むにつれて血の匂いが強くなっていくのが分かる。

 

「段々と血の匂いが強くなってくるね」

「……なのはさんも感じていました?」

「うん、ベータ分隊と別れる時にね」

 

隣で走っているなのはさんもあの時に感じとれていたようだ。となると部隊長も気付いていると思う。

 

そこをあえて気づかないふりをして隊員たちの士気を下げない様にあんな変な事をしたって事か。

 

「隊長」

「……」

 

一番前を走る部隊長は振り向くことなく一度だけ頷いた。部隊長も分かっていたようだ。

 

今、目の前に注意を集中して向けなければならないので言葉も飛んでくることはない。

 

ああ、やっぱりこの人は部下思いの信用のできる肉体面も精神面も強い部隊長なんだな。

 

改めて思う。

こんな風に周りに常に気を使えるからこそ30代で部隊長になれたのだ。ワザとふざけたりして隊員の士気を低下させないようにしたり、なのはさんにふられても(?)すぐに立て直して部下のために色々と考えてくれる。

 

「……止まれっ!!」

 

と、色々と部隊長の好評を脳内でしていたら一番前を走っていた部隊長が脳に一瞬だけ響くような気合の入った声を放って俺たちを止めた。

 

「こっから先はAMF内だ」

「こっからか……」

 

部隊長よりちょっと前へ歩いてみる。

 

「……っ!!」

 

体内を巡回していた魔力がうまく働いてくれなくなった。部隊長より前が結界内と言う事になる。

 

「こっから先は更に注意して進む。気を引き締めろよ」

「「「了解っ」」」

 

俺たちが地上でもある程度動ける航空隊ではあるがやはりそれは魔力が働いて肉体への補助が効いているからこそ空とは勝手の違う地上でも動ける。

 

だが、この先はその肉体への補助は働かなくなる。これが致命傷にならないといいが。

 

「高町教導官はAMF内での行動は可能ですか?」

「はい、制限がかなり付きますが動けます。“聖王のゆりかご”並のAMFでなければ大丈夫です」

「わかりました。ですが無理をせずに」

 

部隊長がなのはさんを労う。

AMF内では俺たちもいろいろと制約がつく。その中でも動けるようにと特別な訓練も行っている。なのはさんに教えてもらったモノでもある。

なのでなのはさん自体もAMFの密度の濃いモノでなければ大丈夫なようだ。

 

「……死臭が強いな」

「そうだな。雨にうち消されずにこれほどの死臭が残っているとはな」

「近いか密度が高いかだな。俺たち前衛があれと同じにならない様にしないとな」

 

後衛と前衛の2人の隊員と軽く話す。因みに部隊長となのはさんは中堅、俺はもちろん前衛となる。

 

「……うっ」

 

そして、前衛の隊員が少し先に視線を移してその視界に入ったモノを見てしまい思わず口を手で塞いだ。

 

俺もそっちに視線を移したが視界に入れていいモノではなかった。それを視界に入れてしまい気分が悪くなる。しかし、思わずそれから眼を離したくなるが離さなかった。

 

「腕……それに足……何処かの内臓……」

 

今、口にしたものがマネキンのパーツのようにバラバラに散らばって、周辺の草木がところところ赤く染まっていた。

 

何かに食い散らかされたような地獄絵図に近い光景だ。

 

これほど近くにあったという事はアンノウンも近いのかも知れない。それに遠くからもズシンズシンと高密度な何かが地面を踏んで動いている音が小さく響いている。

 

「……各位警戒態勢」

 

部隊長の言葉に俺たちは気合を入れ直す。そして、生い茂った草を切り開いきながら少しずつ前進していく。

 

「…………あぁぁあぁあぁ!!」

「「「!!」」」

 

少しずつ進んでいくと遠くの方から男の必死さを物語るような声が聞こえてきた。踏み歩く音も大きくなっている。陸士231部隊とアンノウンが交戦しているのだろう。

 

一刻も早く援護に向かいたいところだ。

 

「急いで援護に向かうぞっ!!」

 

部隊長がいち早くスピードを上げて声の聞こえてきた方角へ走りだす。俺たちもそれに続いて行く。

 

そして、少し拓いた場所に出た。

 

「「「っ!?」」」

 

だが、誰もがその瞬間を目撃してしまった。

 

「うわぁああぁあぁああぁあ!!」

 

陸士231部隊の最後の一人であろう隊員がアンノウンの大きな口へと放り込まれた瞬間だった。

アンノウンの大きな口は閉じられ、口が動くたびにゴリッバリッと骨の砕ける音がリアルに響く。

 

映像とはリアルさが別次元の本当の光景。それが今目の前にあった。

 

「「「……」」」

 

たどり着いた誰もがその光景に声を発することが出来なかった。このような光景が本当に存在していたことに驚きを隠せないからだ。

 

そのアンノウンの周辺は人を食い散らかした後のように腕や足などのパーツが散らばっている。

 

……こいつは……本当に何者なんだ?

 

実物を見たから分かる。これは本当にあってはならない存在。

 

そして、その10メートル級のアンノウンはこちらに気付いたのか体をこちらに向けてゆっくりと歩き出した。

 

2本足で立ちで丸い胴体で全身をドロドロの赤黒い何かで覆われており、一番上には大きな口がある。

 

眼は無く視界では無く、モグラのような触覚や超音波などで得物を探す生物だろう。

 

「……っ!!各位迎撃態勢!!」

「「「っ!!」」」

 

動き出した巨大アンノウンを見ていち早く部隊長が反応した。その声に俺やなのはさんも含め我に帰り迎撃態勢に移る。

 

だが、アンノウンの方が反応が早かった。丸い胴体から複数の触手を放つ。

 

……何とか視えるっ!!

 

動体視力は魔力云々の必要は全くないので複数の方位から迫ってくる触手の動きは見切れることが出来た。

 

それらを一つ一つ避けながら斬りつける。

 

「ぎゃあああぁあぁぁぁあ!!」

 

前衛の1人が触手に絡まってしまい宙へ放物線を描くように舞った。その終着点はあの大きな口だ。

 

「ふっざけっんなぁぁああぁ~!!」

「よせっ!!あいつはもう手遅れだっ!!」

 

俺は部隊長が引き留めようとしているのを振り払って、前衛の隊員を助けるために無数の触手を潜り抜けながら前へと進んだ。

 

前衛の隊員はもう眼と鼻の先に大きな口がある状態。

 

……ま、間に合わないっ!!

 

そして、その大きな口は隊員を放り込んで閉じてしまった。

 

「あ、あぁ……」

 

その口は小刻みに動きながら中に入っているモノを咀嚼していた。骨の砕ける音、血管の切れる音。いろいろと聞こえてくる。

 

あっという間だった。触手に捕まってから口に放り込まれたのは。

ついさっきまで話をしていた隊員は捕食されて“死んだ”。助けることが出来なかった。救い出すことが出来なかった。

 

「あぁ……」

 

その現実に俺は後悔して思考が止まりその場で止まってしまった。

 

「ガイっ!!戻れ!!」

 

遠くから部隊長の声が聞こえる。周りを見るといつの間にか触手で囲まれていた。こいつに掴まれてあの大きな口に入れられてしまう。体が思い通りに動かない。目の前の現実を受け居られなくて思考が働かない。

 

そして、それらは一斉に襲い掛かって来た。

 

「……っアクセルシューーート!!」

 

だが、それは複数のピンクの魔弾によって一瞬にして蒸発した。

 

「ガイ君っ!!悲しんでいる暇は無いよ!!早くこっち来て!!」

「なのはさん……」

 

なのはさんと部隊長までの道が開いている。なのはさんが活路を開いてくれたのだ。

 

このAMF内においてもなのはさんの魔弾力はかなり強い。そのおかげで九死に一生を得ることをが出来た。

 

止まっていた思考が動き出す。確かにここで死ぬわけにはいかない。戻る必要がある。

 

俺は開いた道を急いで戻り始めた。

 

「隊長っ!!後ろかも……ひぃ!!」

 

しかし、今度は後衛の隊員が悲鳴を上げた。ズシンとその方向からも重みのある足音が響いた。

 

「後方にもアンノウン……だと!!」

「貴方も早くこっちにっ!!」

 

後方からもアンノウンが出現した。それも二体。完全に挟まれた状況に陥ってしまった。

 

何故気づけなかった?魔導に頼れない状況下でも気配とかに気付けるはずだ。気配を遮断する力があるのか?

 

「きゃあああああぁぁあぁぁぁ!!」

 

今度は後衛の隊員が触手に絡められてしまった。

 

「ファイア!!」

 

部隊長が必死にこのAMF内で魔弾を錬成し飛ばす。が、それもあまり効いていない。

 

なのはさんは先ほど打ってしまったのでこのAMF内においては再チャージに時間がかかるようだ。

 

部隊長の抵抗も虚しく、後衛の隊員は絡められた触手によって大きな口に放り込まれてしまい食べられた。

 

「……っ」

 

俺はそんな光景を胸を痛めながら部隊長となのはさんの元へ戻ってきた。そして三人で背中を預けながら作戦を練る。

 

「……辛いが一時撤退だ。ベータ分隊の場所まで」

「陸士231部隊は全滅……だね……」

「このままだと俺たちも全滅になります」

 

話しの流れは一時撤退の方へ進んでいく。今は確かにそれしかない。部隊長もなのはさんも冷静に言葉を放っているように見えるが、やはり仲間を失った事が大きかったからか少しだけ声が震えていた。それは恐怖からなのか怒りからなのかはわからない。

 

三体のアンノウンを相手にして離脱するのは難しい……このままでは絶望的だ。このAMF下で魔術回路は使えるのか?

 

撤退するためには力が必要だ。その力を得るには魔術回路を展開する必要がある。

 

俺は一度眼を閉じて心臓を剣で貫くイメージをした。カチリと歯車の一つがズレたような感触があった。そこの歯車は普段と魔術回路との切り替わるポイントではないか。

 

痛みはほぼ無いに等しい状態。そして、心臓から全体に温かい何かが広がっていき違和感のある体へと変わった。

 

「とりあえず俺が活路を開いてやる。その間になのはさんとガイは撤退を……」

「えっ?きゃあああぁぁあぁぁぁ!!」

 

俺が魔術回路を展開したのとなのはさんが足もとから迫ってきた触手に気付かず、足首を絡められてしまって宙づりにされてしまったのは同時だった。

 

「「なのはさん!!」」

「っぐ……私はいいから……逃げてっ!!」

 

捕まってしまった状態でも自分のことは二の次にして俺達のことを心配してくれる。その気持ちは嬉しかったが、このままではなのはさんもあれに食われて命を落としてしまう。なのはさんが居なくなってしまったら一人娘のヴィヴィオが多いに悲しんでしまう。

 

脳裏に泣きじゃくるうヴィヴィオの泣き顔が浮かび上がった。

 

……そんな事させるかっ!!

 

俺は黒い霧を展開させたと同時になのはさんは大きな口へ放り込まれてしまった。なのはさんは最後まで諦めずに必死に魔法陣を展開させようと魔力を込めていた。

 

「まに……あった」

 

そして、その大きな口が閉じられようとした時、俺は放り込まれていたなのはさんの腕を掴んでいた。なのはさんの表情は驚きと戸惑いの色が交わっていた。

10メートル級の高さにそう簡単に来れる場所ではない。それを今簡単に登って来た俺の事を見て戸惑っているのだろう。

俺は黒い霧を固定化してなのはさんへの道を作り一直線でやってきた。

 

「えっ?ガイ……君?」

 

俺は左手でなのはさんの腕を掴み、右手でプリムラを縦に立てて閉じる口を何とか支えていた。

 

上下からはものすごい力がプリムラを伝って襲いかかってくるのが分かる。早く獲物をかみ砕きたいのだろう。

 

「なのは……さんが死んだらヴィヴィオが……皆が悲しみますっ!!」

「で、でも……ガイ君も死んだらヴィヴィオやアインハルトちゃん達だって……」

 

なのはさんを思いっきり大きな口から引っ張り出す。

 

「ガイだけおいしいところ取らせるかあぁぁ!!」

 

更に部隊長も上下の加わる力に対して杖を縦にして支えて、なのはさんのもう一つの腕を掴んでいた。

 

「ダメです、なのはさんは生きてもらわないといけない!!」

「で、でも……」

「……男は惚れた女には命をかけるモノです、ガイっ!!」

「はいっ!!」

 

俺に叫んだ部隊長と共になのはさんの腕を思いっきり引っ張って口から大きく跳ばした。

 

「うっ!!」

 

そして、飛行が出来ないのでその衝撃を逃がすことが出来ずに木に頭がブツかってしまい気を失ってしまった。幸いアンノウンどもは俺たちの方に注意を向いている。

 

「とりあえず、こ……こから出る方……法を」

「……なあ、ガイ」

「なん……ですか……?」

 

上下の力に必死に耐えている俺たち。そんな中で部隊長は不思議と落ち着いた声で俺の名前を呼んだ。

 

「お前ならなのはさんを守れるよな?」

「えっ?」

 

一瞬、何を言っているのか分からなかった。

今の部隊長の表情は笑みが零れており、まるで今生の別れのような最後に見える。

 

「あの黒い霧をうまく使えよ」

「隊……長……っぐ!!」

 

突然、腹部に激痛が走った。それは部隊長に蹴られたからだ。気づくと今の俺は大きな口から出て跳ばされていたのだ。

 

「約束だぞ!!絶対なのはさんをまも……」

 

笑顔で大きな口の中に居た部隊長の声は最後まで聞く事の出来ないまま閉じられてしまった。

 

その最後の笑顔が俺の記憶の中に強制的に深く刻まれてしまった。

 

死ぬ前だというのにあんな屈託のない笑顔になれるのか?

 

と、冷静に考えていたが、だんだんと現実を理解していくと怒りや悲しみ憎しみなどの感情が入り混じり始めた。

 

「あ、ああ……うわあああぁぁあぁあぁぁあぁぁぁ!!」

 

地面に着地した俺は腹の底から思いっきり叫んだ。様々な感情を含めて感情的に全てを発声した。だが、ゲリラ豪雨になり始めた強い雨の地面にぶつかる音でかき消されてしまった。頬には一滴の涙が伝って零れ落ちているが雨と混ざって分からなかった。

 

……味方を3人失ってしまった。部隊長と前衛と後衛の皆を……ほんと雨の日は嫌いだ。嫌なことが多い。

 

心にぽっかりとあいた感覚を感じながらデカいアンノウンに殺気を含みながら睨みつける。

 

あのアンノウン……ぶち殺す。

 

今は俺を狙っているのか三体とも俺に向かって歩いている。その密度の高い体積で歩いているからか、三体も居ると軽い地震が起きているのではないかと思うくらいに地面が少し揺らぐ。

 

こいつらを殺す!!

 

その気持ちだけで行動を起こすことは出来た。

俺は涙なのか雨なのか分からない頬に流れている水滴を拭い、予測思考をフル回転させる。すぐに答えが出た。

 

アンノウン達が一斉に無数の触手を正面から放ってきた。そんな不気味な光景を目の当たりにしても俺は恐怖と言うモノは心の中に芽生えなかった。

 

「プリムラ!!」

『セカンドモードへ移行します』

 

魔術回路でのセカンドモード。

デバイスは術者から魔力を使って力を発揮している。魔術では今朝みたく暴走してしまうのではないかと思ったが、予測思考では可能だった。

魔弾などの俺が直接扱う魔導だと魔術回路が暴走してしまうが、デバイス自身の換装などは俺ではなくプリムラの中で行うため魔術回路の暴走は無い。プリムラ自身には魔術回路が存在しないのだから。だから、バリアジャケットも魔術回路が暴走しない。

 

逆に言えば無理して使えば魔術回路でも魔導を使う事が出来るって訳になるが……。

 

あの激痛を耐えながらはたして魔導をうまく使えるかどうか。答えはNoだ。あの激痛は平常心を簡単に破り捨てられてしまう。心が落ち着いていないと魔導はうまく働いてくれない。この二つをうまく使いこなすにはまだまだ時間が足りないようだ。

 

俺はセカンドモードになったプリムラを掴み、刀を振るうようにしてその遠心力から鞘から刀を抜いた。鞘は明後日の方向に飛んでいき地面にぶつかった。

 

最初のモードから4倍の刀身を誇るセカンドモード。バーサーカーの時に一度だけ居合として使ったがそれは空中戦だけの場合のみ。さらにバインドも使える状態でないと無理なので、このAMF内+魔術回路では不可能だ。

 

そして、その刀だけになったプリムラを両手持ちにして体を捻り構え、俺の周りに黒い霧を展開させる。

 

「行くぞ」

 

迫ってくる触手に向かって刀を横切りで行った。

 

「斬り……開けぇぇぇええぇえぇ!!」

 

俺は刀を振りきった。前方の180度を刀が通過した。刀身も長くなって異様に重たくなった剣もこの体では重いと感じない。

 

体の違和感の正体はこれで分かった。

 

高密度に圧縮された筋肉・骨・腱。筋密度と筋繊維数の数値が故なのか大袈裟に筋肉を肥大せずとも圧倒的な力を蓄えれる筋骨。強度とすぐれた伸縮性を兼ね備えた筋繊維の存在を重ねたが故にあるこの体質。

 

魔術回路が働くとこの強靭な筋骨の体型に変わるようだ。

 

そして、その強靭な筋骨になった俺の振り斬った刀の軌道上にはアンノウン二体が存在していた。

 

いや、正確には刀身の先に更に黒い霧を刀身に刀のような形として固定化し、通常の四倍以上……10メートル以上の刀身となって振り斬ったのだ。

 

その結果として俺に迫ってきた触手は動きを止め、あの大きな丸い胴体は俺の刀によって輪切りにされ上半身が滑り落ちた。

 

下半身からは赤い色のモノが勢いよく吹き出してそれが雨と同化し、赤い雨となった。

 

残る一体は感情がないのか目の前の仲間が倒されたというのに今だに俺に向かって歩いている。

 

「お前も……殺してやる」

 

赤いモノはおそらく血であろう。あれほどの大量の血を蓄えていたという事はかなりの隊員が食われたという事。

 

最後の一体のアンノウンも間違いじゃない。その真実に俺は怒りに身を任せて黒い霧を切り離したプリムラを握りしめてアンノウンへ突撃した。

 

「“流星”!!」

『ドライブ・スタート』

 

と、そこに聞いたことのある男の低い声が激しい雨の音の中くっきりと耳に届いた。そして次の瞬間、アンノウンは上から半分が吹き飛び、前の二体と同じく赤い血吹雪を止まることなく噴水のように舞い上がっていた。

 

そのアンノウンの後ろから見慣れた人物が現れた。

 

「ゼスト……」

 

勇ましく槍を手に持つ男、ランサーのゼストだった。

 

「ガイ……か。お前もこのアンノウンの討伐に参加していたのか」

「あ、ああ」

 

ランサーは特に慌てる様子もなく俺を見る。

 

「ランサー!!怪我は?」

「大丈夫だアルトリア」

 

その後ろから騎士甲冑を纏ったアルトリアもやってきた。

 

「アルトリアも来ているのか」

「……ガイですか。よくぞご無事で」

 

この2人もここの異変に気づいてやってきたという事か。

 

「と言う事はこのアンノウンはそっち側ってことか?」

「……おそらく」

 

そっち側……聖杯戦争に関係する生物と言うわけだ。

 

しかし、聖杯戦争は秘匿するものではなかったのだろうか?

 

「しかし、これほどまでに展開させて魔力を蓄えようとするとは……この術者は何かをしようとしている?」

「そうかもしれん。だが、未だに憶測の域を脱していない」

「……そうだな」

 

とりあえず目の前の脅威は拭いきった。ゼストとアルトリアが来てくれただけでもかなり安心できる。

俺はゼストと軽く話をして、気を失っているなのはさんへ視線を向ける。軽く見ただけだがどうやら気を失っただけでどこも悪くは無さそうだ。

 

部隊長が命がけで守ったなのはさん……今度は俺が守らないとな……と言っても今のままじゃ守られるの間違いか。

 

日々の鍛錬を効率よくしていかないといけないと結論付けた。

 

それに皆死んでしまった。

 

その現実はとても受け入れがたいものだった。悲しみと言う気持ちが心の底からこみあげてくる。

 

もっと早く魔術回路を展開させればよかったのかもしれない。俺の判断ミスが皆を死なせてしまったようなものだ。

 

助けられたかもしれない命を俺は捨ててしまった。その考えが胸を大いに痛ませる。

 

「皆死んじまったんだな……」

「ガイ……」

 

俺は空を見上げる。こんな日は決まって雨が降る。今日も薄暗い雲が青い空を覆い尽くして激しく雨を降らせていた。

 

「雨は嫌いだ……」

 

俺はしばらく考えるのをやめて、ひたすら泣いていた。ゼストもアルトリアも俺の気持ちを察してくれたのか何も言葉をかけずにじっとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「高町なのは……あれは未来のなのはですか?」

「……いや、現代」

 

少しして俺はプリムラの鞘を回収して最初のモードに戻して、なのはさんを背負うためになのはさんの所でしゃがんでいた。

 

未だに自分の気持ちが整理できていない。

 

アルトリアは視界になのはさんを入れ、表情を険しくして軽く警戒態勢に入る。

 

「っ!?」

 

だが、突然にアルトリアの後ろにいたゼストが不意に飛ばされたのが視界に入った。

 

そして、違う人物が視界の中に入った。

 

膝まであるニーソックスに一回りも二回りも大きいパーカーを着てフードを深くかぶった人物、アサシンだ。そのアサシンが先ほどゼストを殴り飛ばしたのか拳を放ったモーションのまま停止していた。

 

「なっ!?貴様はアサシン!!」

「……」

 

アサシンはゆっくりとその構えを解いてこちらに顔を向ける。フードによってその人物の表情が読み取れない。しかし、ここまで来たのに気配を感じなかった。

 

「気配遮断スキルですか……」

「気配……遮断……」

 

それはつまり気配を消せると?だとするとあのアンノウンも気配を消すことが出来た。つまり……。

 

「あのアンノウンの術者はお前……か?」

「……」

 

アサシンは何も答えず、只の一回だけ頷いた仕草を見せた。

 

「……っ!?」

 

だが、それだけでも十分だった。

 

こいつが部隊を……部隊長を食い殺した……敵っ!!

 

俺の激しい感情はこいつに向けた。

俺は元に戻したプリムラから鞘走りを行い神速な速さで抜刀した。今の体質ならこのくらいの速さは造作もない。

 

不可解なままと理解している状態だとこうも動きが違う。ヴィータさんとの模擬戦の時よりも早く動けた。

 

だが、アサシンは不意を突いた俺の抜刀を難なく避けてクロスカウンターのように俺の顔面に右拳を放った。

 

「っ!!」

 

俺はそれを何とか紙一重で右に避ける。動体視力が良かったから避けれたようなものだ。カウンター気味で放ってきたアサシンの拳のスピードは一線を画している。その速度に良く買わせたと自分でも思った。

 

「このっ!!」

 

俺は更に右に倒れるような形で左足でアサシンの腹部を狙う用に振り蹴る。

 

それをアサシンは左ひざを上げて受け止める。

 

「はああぁぁあぁ!!」

 

そして、後ろからアルトリアがアサシンに向かって不可視の剣を振り下ろしていた。しかし、それもアサシンは見向きもせずにそれを避け、俺たちから大きく離れた。

 

俺は憎しみを含んだ視線をアサシンに向ける。

 

「っ、なかなか重い拳だ」

「無事ですか、ゼスト!?」

 

ゼストも戻ってきて俺たちと合流する。だが、今はゼストを労っている余裕はない。俺の注意は今アサシンにしか向いていない。

 

「お前が……お前が部隊を全滅させた……お前が……っ!!」

 

許せなかった。このような惨劇を……地獄絵図を作ったアサシンを。今一度周りを見渡す。アンノウンによって食い散らかされた人間のパーツがあちこちに散らばっている。

 

雨は先ほどよりも落ち着いてはいるが、雨ぐらいでは血の匂いが消えず、草木は赤色に染まりここ一帯は蔓延していてここが地獄だと言われてもあながち間違いではない。

 

「何でこんな事をするんだ!?」

「……」

 

アサシンは何も答えない。

 

「何でだ……何でだよ……」

 

俺の口調も弱くなっていくのが分かった。脳裏に浮かんで来たのは部隊長を始めとした隊員たちとの航空隊での日常の日々。

 

部隊長のなのはさんに対する変態行為も、真面目に部下の事を思う行為も、隊員たちとの話をしていた日々も、全て失ってしまった。もう二度と訪れることはない日々を。

 

その現実に俺の言葉が弱々しくなってしまった。

 

「……全ては……」

「っ!?」

 

アサシンの声を初めてまともに聞いた。聞いたことがあったのは前に一度だけ技の名前をボソリと呟いたのを聞いたぐらいだ。

その声は妙に落ち着いている。雨の中でもくっきりと聞こえた。その音声を聞いた時、脳裏に1人の人物が浮かび上がった。

 

……まてよっ……そんなはずはない……何かの間違い……だ。

 

頭の中で必死に否定しているが現実は残酷な結果となって導いていた。

 

「ま、まてっ。お前……は……」

 

アサシンは深くかぶっていたフードをゆっくりと取る。

 

「……っ!!」

 

その下にある顔を見て俺は何かの重力に押さえつけられたかのように体が動かなかった。頭の中が真っ白になり思考が停止してしまうほどだ。

 

「な、なんでだっ……」

「……」

 

その人物は俺の悲痛な表情を見てどんな表情をしているのか全く読めなかった。それほどまでに無表情で俺たちの事を見ている。

 

「なんでだよっ……何でお前なんだ……何でお前がこの戦いに……」

「……」

 

頭が真っ白の中でも俺は必死に言葉をひねり出す。

アサシンは何も答えないままの無表情。その容姿を見ていると今までの事は嘘だったのではないかと思ってしまう。

 

そして、アサシンの口が開き小さく呟く。

 

「全ては……全ては……」

 

その次の言葉は更に小さく、雨の音で聞き取れなかった。だがそんな事はどうでもよく俺の感情はひどくバラバラだった。

 

バーサーカーの時は助けてもくれたのに今は敵に近い存在。不可解な行動もあいまって感情の整理は更に困難を極める。

 

「何でお前……なんだ……」

 

そして、俺は胸の中にある気持ちを抑えきれずに、アサシンに言葉を獣の雄叫びのように複雑な感情を一言にまとめた言葉を放った。

 

受け入れたくない現実を必死に否定したい気持ちも込めて。

 

「お前が何で……ここに……」

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“アインハルトっ!!”

 

雨は……止むことなく降り続いていた。




アサシンはアインハルトっす。

なんかハードル上がった気がしなくも無いw

ちょこちょこフラグは立ててたからわかっている人も居たかな。

いや、わかんないよね(作者の筆力的な意味でw

今後は心理描写が難しくなっていくけど頑張ります。

何か一言感想があると嬉しいです。

では、また(・ω・)/













士郎を主役で書こうとしてなのはのほうが濃かったw

ステータス更新です。

クラス:アサシン
マスター:???
真名:ハイディ・E・S・イングヴァルト
性別:女性

筋力:A++
魔力:B
耐久:A
幸運:B
敏捷:A
宝具:C

・クラス別能力

気配遮断:A++
完全に気配を断てば発見することは不可能に近い。ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。

・保有スキル


・宝具


名前だけわかったw
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