魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

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どうも、ガイルです。

この度は更新がかなり遅れてしまい申し訳ありません。

仕事がクソ忙しくてなかなか時間が取れず今の時間にようやく投稿できました。もうこの会社やめようかな……。

前回から三ヶ月近く……本当にごめんなさい。

待っていただいた方々お待たせしました。

では、28話目入ります。


二十八話“夢と現実の交差”

 ―――夜 St.ヒルデ魔法学院

 

 この敷地内は相手が張ったのか人避けの結界が張り巡らされていた。そして、今、力と力のぶつかり合いによって起きた余波の突風が大気をギシギシと軋むような音を連想させるほどに揺らせている。

 

 この発生源の近くにある校舎の窓ガラスはいつか耐えきれずに割れてしまうのではないだろうか?

 

 そのように連想しても仕方ないほどの衝撃だ。その発生源の原因は……、

 

「フォートレスっ!!」

「Alalalaaaaaaaalaaaalaaaaaaa!!」

 

上空でアーチャーとバーサーカーが激突からだ。詳しく言うとアーチャーの三つの自律行動型の盾がバーサーカーを囲いつつ、アーチャーが両手で大きなキャノン砲……カノンを構えて放っていた。

 

 バーサーカーは当然アーチャーを狙うが三つの盾がその行く道を阻み、行動を制限されてしまい砲撃の的になりやすくなっている。

 そこまで見ると確かにアーチャーの一方的な暴力となっているだろう。しかし、現実は違った。

 

「Alaaaaaaaa!!」

「っ!!」

 

 その砲撃をバーサーカーは受け止めて投げ返し、アーチャーへとUターンさせる軌道に変えていた。その砲撃をアーチャーは1つの盾を自分の前に呼び寄せ受け止める。その間に空いたところろからバーサーカーはアーチャーに近づいていく。

 

 あのバーサーカーは狂化して理性を失っていたものかと思っていたが違う。知識を持って行動している。バーサーカーのクラスとして思ってはいけないようだ。先入観を捨てる必要がある。

 

「きゃははっ。よそ見してない方がいいわよん♪」

「……っ」

 

 上空を見ていたからバーサーカーのマスターからの攻撃に少し反応が遅れてしまい防戦一方になってしまった。

 バーサーカーのマスターは二つの白く細い剣を華麗に操り、素早い連撃を繰り出してくる。相手が剣使いと分かって夫婦剣をトレースして白兵戦をしているが時折体術も織り交ぜてくる。接近戦において総合的に戦えるスペシャリストなのだろう。

 

 身長160センチいかないぐらいの小柄な身体を活かして俺の懐に入り込んで、残忍な笑みを向けながら剣を振るう姿は本当に小さな小悪魔と言っても間違いでは無いだろう。

 

「くっ……!!」

 

 俺は防戦一方になってしまった剣戟を仕り直すべくバーサーカーのマスターの剣をタイミングを合わせて大きく弾き後退する。それでもバーサーカーのマスターは笑みを消す事は無く崩れた態勢を戻して確かめるかのようにその場で軽く二刀の剣を振るう。一見剣を適当に振っているように見えるが、その一つ一つの動きに隙の無さを伺える剣舞を披露している。

 

「へぇ~、剣って意外と面白いわね」

「……その口調からすると初めて剣を握ったような感想だな」

 

 初めてであんな剣技をされてたんじゃ、今まで鍛錬を積んでここまで来た俺の立場が無い。バーサーアーのマスターは右手の剣先を肺に溜まっていた息を吐いている俺に向ける。

 

「最近は色々と試しているんだけど、これはちょっと癖になりそうねん♪相手の四脚を一つ一つ切断するのにも使えるし、相手に出血させる傷を与える喜びを与えてくれるわね」

「……」

 

 俺の左腕には一傷の切り傷が出来ていた。先ほど距離を取るべくバーサーカーのマスターの剣を弾いたがもう一刀の方が俺の腕に傷を負わせていた。油断していたわけでは無いが、あの素早い連撃を捌くのに少しずづ遅れてしまった。その結果がこの傷だ。

 

 俊敏さは負けるか……だが、力ならこちらが上。

 

「君の名前はなんて言うんだ?」

「少しカッコいいお兄さん……と言うのも面倒ね。衛宮、あたしの名前を知ってどうするん?」

「え?何で俺の名前を知っているんだ?」

 

 情報として、もしかして戦わずに済む道もあるかと淡い期待をしてこの子の名前を知っておきたかったが、逆にこちらの情報が漏れている事に驚いてしまった。

 

 いや、キャスターにもバレていたんだ。何処かで俺たちの情報を手に入れることが出来たのだろう。

 

「別に管理局外の世界から来た人物だろうと調べようと思えば調べられるん。とっても勤勉なトレディちゃんは面倒と思いつつもとある場所で頑張っているんですよ」

 

 軽い口調で語るバーサーカーのマスター……トレディは俺たちの事を調べられる場所がやはり存在していてそこで調べていたようだ。

 

「ま、あたしの名前なんて知った所でどうでもいいから明かしたけど、あたしはあまり衛宮には興味ないわねん。メインディッシュであるガイの前菜になるくらいの味は貴方にあるかしらん?」

「……っ!!」

 

 そう言って、何のモーションも無くたった二歩のステップで5メートル離れていた俺の懐へたどり着いて、体を捻りながら二刀の刀を水平にして左から俺の首と胴体を狙うように繰り出していた。

 

 わずかに反応が遅れた俺はその軌道から体を逸らす。薄く皮膚を切り裂いた感触があり、首から血が垂れ出した。

 

 もし、少しでも反応が遅れたら首から上は地面に転がっていた。そう思うと背筋に嫌な汗が伝ってくるが、その恐怖心を心の中から無理やり消し去り、二刀を振り切って隙の出来たトレディに夫婦剣を振り下ろす。しかし、トレディは体術を活かして独特な動きで振り切った勢いで体を回転させ巧みに俺の振り下ろした夫婦剣をかわし一回転させた二刀の白い死神の鎌が今度は隙の出来た俺に襲いかかった。

 

 ま、間に合わない……!!

 

 その二刀の白い剣は確実に俺の首を狙っていた。しかしそれはアーチャーの青と白の強調された盾が割り込んでそれを受け止めた。

 

「マスターっ!!油断しないでっ!!」

「ちぃ!!バーサーカー!!やれっ!!」

「Alaaaaaaaaaaaaaaalaalaal!!」

 

 そのせいで今度は隙の出来たアーチャーにバーサーカーが音速並の速さで近づいて右拳を放つ。盾を並べてプロテクションを展開して防ごうとしたが、その威力に耐えきれず弾き飛ばされ、カノンで受け止めるがそれでも威力が収まらず大きく吹き飛ばされる。

 

「アーチャー!!」

「だ~か~ら、隙を作ったらダメだよ♪」

「っく!!」

 

 先ほどの教訓を生かしていなかった。また、トレディの前で隙を作ってしまい防戦一方の剣戟となってしまった。

 

「そして、私と刀を交えていると背中に隙が出来ちゃうねん♪」

「っ!!」

 

 今、アーチャーは大きく飛ばされている。ゾクリと真上からバーサーカーが来る死神の気配を感じた。それがどんどん大きくなっていくのが分かる。トレディはバーサーカーを呼び2対1で一気に決めようとしている。今はトレディと鍔迫り合いな状態。少しでも力を抜いたら一気に斬り伏せられる。とても動ける状態では無い。ここに上からバーサーカーがやってきたら絶望的だ。

 

 アーチャーの独立時の盾は俺も守るようにプログラムされていて先ほど守ってくれた盾は上空へ飛んでいきバーサーカーに高速で体当たりをしていると思うが、先ほどパワー負けをしたのもあり、バーサーカーの速度は変わらないのが気配を通して分かる。

 

「チャプ散布!!」

「っ!?」

 

 だが、先ほどの盾の動きの考えは違った。遠くからアーチャーの声が聞こえ、上空ではボンと市販されている打ち上げ花火ぐらいの小さな爆発音が連続して響いてきた。

 それにより気配は大きくなることをやめて止まった。バーサーカーの動きが止まったのだろう。

 

『プラズマバレルオープン』

 

 そして、無機質な音声……常にアーチャーの周りに浮いているレイジングハートという飛行物体が指令したのか、トレディとつばぜり合いをしている先の視線に視えるアーチャーが飛ばされながらもキャノンを展開したカノンを両手でしっかりと構えて矛先を真上に居るバーサーカーに狙いを定めていた。

 

「エクサランスカノン・ヴァリアブルレイド!!シューーーート!!」

 

 そのカノンの矛先に充電された砲撃をバーサーカーに放った。凄まじい爆撃音を従わせて一直線にバーサーカーに放たれる。

 だが、その爆撃音はその砲撃だけでは無いようだ。盾達も砲撃をバーサーカーに向かって放っていたのか真上からもその爆撃音ほど大きなものではないが、それらがバーサーカーの居る一か所に終着すると大気を振動させるほどの破壊音となって耳に伝わった。

 

「ちょ!!なんなのっ!!あんたのサーヴァントは!?あれは“高町なのは”で間違いないはずだけどあんなの情報に無いわね!!」

「あれは“未来”のアーチャーだからだ!!」

 

 アーチャーの巨大な攻撃がバーサーカーに当たり僅かに動揺したトレディを俺が見逃さず、鍔迫り合いでトレディの剣を弾き攻めに転じた。

 

「あ、あらら?攻めに転じちゃったん?」

 

 と、戸惑いの言葉を出しつつも防戦となったトレディは俺の剣筋をしっかりと読み捌いている。

 

 やはりこいつ……相当実戦慣れしている。いくら初めて使う剣と言ってもここまで読まれてしまうなんて。どれだけ過酷な経験を積んでいたのだろうか?それとも天賦の才ってやつか?

 

 凄まじい才能を発揮するトレディだが、見た目は残忍な笑みを除けば本当に少女そのモノだ。そんな少女がこの才能を開花させ戦場に立った。それは天才とも言えるモノなのだろう。しかし、俺は子供が戦場に出てしまうことに苛立ちを覚えてしまう。

 脳裏には前の聖杯戦争でバーサーカーのマスターとなったイリヤスフィールの面影が浮かび上がっていた。ギルガメッシュによって心臓を取られ絶命した少女。

 髪型も紙の色も眼の色も全く異なる2人だが、幼さを残す少女という事には変わらない。そんな少女が戦場に立って戦いをしている。

 俺はこのトレディにイリヤスフィールの面影を重ね合わせていた。

 

「Alaaalaaalaa!!」

「っく!?」

 

 戦場で雑念を考えていると真上からバーサーカーの枯れた声を響きかせながら垂直に俺達の真上に落ちてくる。俺達は急いで落下地点から対極線上に別れ大きく後退する。

 先ほど剣戟をしていた場所にはバーサーカーが背中から地面に激突して小さなクレーターが出来上がっていた。落ちてきた真上を見るとアーチャーが肩で息をしながらカノンの矛先から硝煙を出しつつバーサーカーに向けてゆっくりと俺の隣へ降りてきた。あの巨大な砲撃の後、追撃をしたのだろう。そして、トレディに顔を向ける。

 

「ほんと、“高町なのは”って強すぎよねん」

「そのバーサーカーも強過ぎだと思うけどね。これだけ喰らわせても微かにしたダメージを与えていない」

「えっ?」

 

 俺はアーチャーの言葉に耳を疑いクレーターの真ん中に居るバーサーカーを見た。それはゆっくりと起き上がってこちらを見る。確かに鎧にはアーチャーによって付けられた傷が所々に付いてはいるが、身体自体にダメージを追っているようには見えない。何の支障もなく身体を動かしている。

 あの甲冑が特別なのか、強靭な肉体なのかは分からない。

 

「あいつの正体はいったい何なんだろうな?」

「……何処かで見たことのある動きをたまにしてきますね」

「え、アーチャー知ってんのか?」

「……いえ、たぶん気のせいだと思います」

 

 アーチャーの言葉に弱々しさがあった。確信はしていないが何かを感じている……そんな張りのない声だ。表情からは何も捉える事は出来ず真剣な表情のままバーサーカーを見つめている。

 

「バーサーカー。“右肩から手甲まで甲冑を外せ”」

「……」

 

 そして、対面している残忍な笑みを浮かべているトレディから何の感情も感じさせない無機質な声でバーサーカーに命令した。

 

 右肩から手甲まで甲冑を外せ?どういうk……。

 

 その意味を考えているうちにバーサーカーの右肩から手までの白い甲冑が粒状に霊体化して消え去り、生身の腕が露わに。

 

「「……っ!?」」

 

 それと同時に、俺とアーチャーは同じタイミングで喉を鳴らした。右肩から現れた生身の腕の他に異様なまでの禍々しい黒いオーラが狭い甲冑から出口を求めて止まることなく解放された右肩から出てくる。白い甲冑から放たれる黒いオーラは対照的な色で、その黒いオーラが白い甲冑を黒へと染めていくのではないかと思うぐらいの濃い黒さだった。それをまともに受けて一瞬正気を保てるか不安だった。

 

 あれはひどく歪な狂気のオーラだ。あてられただけで意識が持って行かれそうになった。

 

 そう思うと同時にあれほどのまでの邪念に満ちたオーラを留め込んでいたバーサーカーがそのクラスと言えどもそれを溜めこんで戦いをしていた事に驚きを隠せなかった。そして透視は出来ずともバーサーカークラスなら狂化スキルを得ているだろう。しかし、知識があるような動き。

 

 生前のバーサーカーには強靭な神経を持っていたってことか。

 

「きゃはは、バーサーカー。“一部”解放したんだから後れをとるんじゃないわねん♪行きなバーサーカー」

 

 今の状況を楽しそうな声でバーサーカーに命令を下すトレディ。その言葉に俺は疑問を持った。

 

 “一部”?だとすると全部を解放すると……。

 

「「……え?」」

 

 そして、考えているうちに何が起こったのか分からなかった。先ほどまでトレディの隣に居たバーサーカーがトレディよりも速い動きで目の前に居て、右拳を俺の腹部に、左拳をアーチャーの腹部にメリメリとスローモーションで見ているかのようにゆっくりと沈み込んでいる状態だった。

 

 は、速すぎる……!!空中で動いていた速度の二倍以……上……ぐっ!!

 

 脳が状況を理解したのか腹部に痛みを走らせる命令を送り出し、腹部に熱い痛みがこみ上げていき、スローも解除されてバーサーカーの拳によって俺とアーチャーは吹き飛ばされた。

 

「マスター!!」

 

 この状況をいち早く察知し、俺の後ろに盾を、学園の壁にぶつかるダメージの緩和剤として置いてくれた。そして、俺とアーチャーは壁に激突する。

 

「かはっ!!」

「っく!!」

 

 それでも衝撃の力は大きすぎる。その衝撃で一瞬息が出来なくなり頭が真っ白になった。俺もアーチャーもダメージが大きく、地面に倒れ込む。

 

「バーサーカー。止め刺しな」

「Alaalaalaalaaaaaaaa!!」

 

 そして、間髪入れず雄叫びと共に猛スピードで走ってくる片腕の甲冑が取れたバーサーカーが俺たちに止めを刺しに向かってくる。

 

「っぐ!!身体……が、動け……」

「マ、マスター……に、逃げて下さい!!」

 

 俺たちが動けるころにはバーサーカーが俺たちに止めを刺しているだろう。それを回避するために必死に満身創痍になった身体に鞭を叩く。しかし、動かすことが出来ない。

 

「っく!!」

 

 アーチャーが盾をバーサーカーに向かって飛ばすが何の抵抗も出来なく弾き飛ばされる。そして、目の前まで走ってきたバーサーカーがそのベクトルを緩めることなく俺の顔面に向かって拳を振り下ろした。

 

 こ、ここで死ねるか!!

 

 心の中で必死に生きようと抵抗するが身体は動かず力が入らない。もう目の前にバーサーカーの拳が迫っていた。

 

「“聖連拳”」

「っ!?」

 

 しかし、その拳は左から何かが当たり俺の右頬を掠りながら空を切っただけだった。

 

「Alaaaaaaaaaallllaaaaa!!」

「五月蠅いです、バーサーカー」

 

 突如現れた人物は更に体勢の崩れたバーサーカーの顔面に右拳をクリーンヒットさせて、来た道を飛ばされながら戻って行った。その後ろ姿を見て俺は1人の人物を浮かべた。

 

「フリー……ジア?」

「ええ、衛宮士朗。お久しぶり……でもないですね。前の借りを返しに来ましたよ」

 

 俺の言葉に振り返りにっこりと笑みを溢したフリージア。ガイのサーヴァントでありファイターのクラス。真名は分からない。青と白を強調した騎士甲冑をつけ、手甲はやたらと厚く見えた。

 

 良く見ると本当にセイバーに似ているよな。背丈も騎士甲冑も髪の色も。

 

「なのはも無事ですか?」

「ええ、助かりました。フリージアさん」

 

 アーチャーにも笑みを向けて無事だと分かると、前に向き直しバーサーカーを警戒するように視る。

 

「さて、厄介な敵になりそうですね」

「ああ、全くだ」

「フリージアさん。ガイ君はこの近くに居るのですか?」

「いえ、ガイはお疲れのようですから部屋で眠っています」

「……そうだね。生前、葬式の時に会ったけど徹夜をした顔だったから無理もないかな」

 

 アーチャーは痛みが和らいだのか立ち上がりフリージアの隣に立ちバーサーカーを凝視しながら話す。フリージアのマスターであるガイは寝不足で寝ているようだ。葬儀もあったとなると精神的に色々とあったのだろう。

 

 俺だって切嗣の葬式の時は辛い思いをして花を添えた記憶がある。棺桶で眠っているかのように涼しい表情をした切嗣の面影を見る事はこれで最後だと。この棺桶を閉じたらもう会う事は出来ない。それが辛かった。

 そんな悲しい事を断ち切る為には長くても一か月……いや半年以上の時間がかかってしまう。ガイはこの聖杯戦争の中でどれだけの期間で立ち直れる?

 

「心配していないんですか?」

「心配は心配です。ですが、ガイならきっと切り開いてくれると信じています。私はそれを見守っていきたい」

「……いい人だね、フリージアさん」

「ありがとうございます、なのは」

 

 2人はバーサーカーから決して視線を離さずガイの会話に花を添えていく。俺も痛みが和らぎ立ち上がりフリージアとアーチャーに近づく。

 

「フリージアはガイの事を信頼しているんだな」

「ええ。ガイならきっとこの世界をいい方向へと導いてくれると信じています」

「……」

 

 その言葉に嘘偽りもない純粋で真っ直ぐな言葉だった。フリージアはそこまでガイに信頼を置いている。信頼を得るためにはどれだけ大変か。ガイはそれを既に得てしまっている。

 

 もし、ガイとフリージアの絆の強い2人と対立することになったら勝てるだろうか?いや、そういう対立した時の話は考えない方がいいな。俺は戦いをやめさせるためにこれに進んで参加したのだから。

 

「はぁい。お話はそこまでにしようね~ん。バーサーカー。今度は油断するんじゃないわよん♪」

「……」

 

 そんな雑談を交わしているとウインクをしながら笑みを浮かべてバーサーカーに命令するトレディ。しかし、何故かバーサーカーは木偶の坊のように動かず反応しない。反応しないと分かるとトレディから笑みが消え、苛立ちの色を表情に浮かべる。

 

「ちぃ、まだ完全にコントロールできないのか。仕方ないねん」

 

 そう言って、右手を掲げる。その甲には令呪が刻まれていた。

 

「令呪をもって命ずる。バーサーカー、あの三人を皆殺しにしろ」

「「「……っ」」」

 

 赤く光り出してその一画が消失した。それと同時にギギギッと錆びた鉄扉が開くような軋む音がしてバーサーカーは動き出す。令呪による命令で俺たちを皆殺しにするまで戦い続ける殺人人形と化したバーサーカーは俺たち三人は警戒を強めた。

 

「邪悪な気配ですね」

「ええ、気を引き締めましょう」

「来るぞっ!!」

 

 迅速な速度で迫ってくるバーサーカー。先ほどどれくらいのスピードで来るか分からなかったが一度見ればその速度を予測して行動することが出来る。俺もアーチャーも反応できた。そして、フリージアも初見ではあるが見切り反応した。

 

 流石は英霊か。その正体は分からないが。

 

 初見で難なく避けたフリージアに魅せられながらも、この校舎で再び大気を軋ませる音が校舎内で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――???

 

「ここにおられましたか、オリヴィエ様。探しましたよ」

「ユーリ中佐」

 

 オリヴィエが木の陰で隠れるように座っていた所をまだ若さの残る騎士甲冑を来た黒髪の少年が声をかけてきた。

 

「いえ、もう大佐ですよ、オリヴィエ様」

「……ええ、そうでしたね、ユーリ大佐」

 

 暗い笑みを溢してユーリを視るオリヴィエ。その表情はおめでとうと祝福の意味を込めているモノとは到底思えなかった。

 

「……オリヴィエの記憶……か……」

 

 その出来事を近くで視ていた俺はこれが夢だとすぐに気付く。

 

 明晰夢っていうやつかな……夢の中でこれは夢だと気付く事。いや、これは夢じゃなくて記憶か。

 

 どうでもいい事を思いつつオリヴィエの記憶を第三者視点で視ることにした。前も一度オリヴィエの記憶を視たが、オリヴィエの名前を呼んでも無視されてたことからこの記憶には介入することはできない事が分かった。

 

「前の戦いで大佐が討ち死にされて貴方が大佐になられたのでしたね」

「ええ、この若さで大佐になった事に不信感を抱く者も現れましたが戦場では誰にだって死が付いてきます。大佐がその死の引き金を引いてしまってお亡くなりになり、私がそのままスライドして大佐になっただけです」

「死は付きモノですか……」

 

 オリヴィエは今は晴天の空を見上げる。今が戦乱の中である事とは思えないほど清々しい青空だが今のオリヴィエは表現したらいいか分からないような、しかし暗さを少しだけ晒し出しているような表情をしている。

 

「私は死が怖いと思います。戦場では常に死が隣り合わせ……怖さがずっと心のどこかで引っ掛かっています。逆に皆が死ぬのも怖いです。残されていった者たちはどうしたらいいのか」

「オリヴィエ様。そんなオリヴィエ様を守るのが私達兵士の仕事です。安心して下さい。私達がオリヴィエ様をお守りしますから。そして私達も死にません」

「ユーリ大佐……」

 

 爽やかさの印象を残すニッコリ笑みを溢すユーリ。それを見たオリヴィエも静かに笑みを溢した。オリヴィエの笑顔を見たユーリの頬が少し赤くなって慌てて視線を逸らす。

 

 ユーリはオリヴィエに好意を抱いているのか?第三者からでは感情が読みにくいけど。

 

 俺が考えている間にも話は進んでいく。

 

「所でどうしてこちらに?もうすぐ会議が始まります。それで城内を探しまわりましたよ」

「無駄な労働をさせてしまい申し訳ありません。ここで少し考え事をしていまして」

「考え事ですか?」

 

 本来の目的であった話をユーリが振るう。オリヴィエは地面に咲いている一凛の花を見つめてその内容を語り出した。

 

「この青空と綺麗な花をいつまでも残せていけるような世界を作るにはどうしたら良いのでしょうかと思いまして」

 

 前の記憶でクラウスに話した言葉だ。

 

「国の統一が必要かと思います。この戦乱をいち早く収めて平和な世を築き上げるべきかと」

「ええ。今の陛下……兄もそう考えていると思います。ですが、“戦によって破壊された環境はそう簡単には戻らない”」

「「……っ」」

 

 俺もユーリもオリヴィエの言葉に声を失った。この戦乱を収めれば前のオリヴィエの記憶で言っていた“この青空と綺麗な花をいつまでも見られるようなそんな国”を築き上げれるとがオリヴィエの願いだと勝手に思っていた。

 しかし、オリヴィエの考えは違っていた。たとえ戦乱を収めても戦後の環境修復はかなり難しいと語る。それが出来なければ“この青空と綺麗な花をいつまでも見られるようなそんな国”と言っていたオリヴィエの言った言葉は現実になることはない。オリヴィエの観点は違う所を的確にとらえていたのだ。

 確かに戦後の荒れ果てた大地を元に戻すには十年、下手したら百年単位の時間が必要になる。それこそ“この青空と綺麗な花をいつまでも見られるようなそんな国”というモノから遠ざかってしまう。オリヴィエは別の観点から戦乱の世をすぐに収めたいと考えていたのだろう。

 

「で、ですが今は敵国に勝ち統一化を目指すことが最優先事項かと存じます」

「ええ、皆さんの考えに否定を唱えているわけではありません。その戦後の形をどのようにすべきかを頭の隅にとらえて下されば良いかと思うのです。私はそこを重点的に考えていきたいと思っております」

「……了解しました」

 

 オリヴィエは決して相手を否定するようなことをせずに笑みを溢して相手を安心させる。ユーリも自分の行動に間違いがないと安心したのか話を切り替えた。

 

「……次の戦では最前線での指揮をとることになりました」

「最前線ですか……」

 

 その言葉を聞いてオリヴィエの表情が曇り出す。2人の会話を聞くにそれなりに親しいように見える。次の戦ではその親しい人物が最前線に行くのだろう。オリヴィエの表情も頷ける。

 

「もっとも死の確立が高い所ですね。ですから、未練のない様にオリヴィエ様に一言申し上げたい事があります!!」

「な、何でしょうか?改まって」

 

 ユーリの突然の大声に真剣な表情にオリヴィエは暗さを取り除かれた代わりに戸惑いの色を表情に浮かべながらユーリを見上げる。

 

「ずっとお慕いしておりました。好意を抱いておりました。オリヴィエ様、身分は違えど、失礼を承知の上で好きという告白をさせていただきたい」

「え?え、ええ?」

 

 顔を真っ赤にしながらも真っ直ぐな告白を告げてくるユーリにオリヴィエは更に戸惑いの色を濃くして眼を泳がせてしまう。

 

「私の気持ちは嘘偽りもございません。オリヴィエ様。あなた様の返答を聞きたい」

「え、あ……ええ、と……」

 

 オリヴィエが顔を真っ赤にして困り果てた表情にユーリの言葉が真っ直ぐに刺さってくる。そして、言葉を途切れ途切れに返す。

 

「き、気持ちは嬉しいのですが……その、私はユーリ大佐の事をそのように見てはいなかった……です……申し訳ありません」

「……ええ、薄々気づいていました」

 

 たった今、振られたのにユーリは笑みを溢してオリヴィエを優しく見つめていた。言葉どうり本当に分かっていたかのように。でも、言っておきたかった。死ぬ可能性があるのだから未練など残したくなかったのだろう。

 

「オリヴィエ様がお慕いする人物が現れることを祈っております」

「あ、ありがとうございます。ユーリ大佐」

「で、ではこれで失礼します。会議も始まりますので急いでください」

「あ、ユーリt……」

 

 オリヴィエが止めようと声をかけるがユーリは逃げるかのように素早くその場から去って行った。

 オリヴィエの瞳は悲痛な色をしていて告白されて嬉しいというような表情では無かった。

 

「……戦場に立つ時から女であることは捨てました……そんな資格……私にはありませんよ……」

 

 オリヴィエは去って行ったユーリをいつまでも見つめいた。

 

 そして、戦場でユーリもオリヴィエの兄も討ち死になり大半の戦力を失い、ゼーケブレヒトで唯一の人物となったオリヴィエは殿下となった。

 

「皆……皆居なくなってしまった……ああっ……あああぁ……」

 

 誰も居ない寝室で心に引っかかったモノが取れないのかドレスの胸辺りをを強く握りしめ、ベッドに手をつけながら悲痛の表情を浮かべ涙を流しながら荒呼吸をする。

 

 そして、側近の老臣達は継承権の低くかった小娘が殿下になった事に納得いかないのか、嫌な顔をしながら会議に出席をしている。その兄の座っていた場所にオリヴィエが座って会議の議題の中心となって話を進めているが、老臣達はあまり聞く耳を持っていない。

 国民達にも老臣達の息が届いているのかオリヴィエが国民から祝福されることは無かった。

 そんな肩身を狭くして信頼できる人物が傍に居なくなり孤独と戦ってきたオリヴィエ。いつしか心が冷たく凍ってしまいオリヴィエから笑みが消え、王の執務室で書類にサインを署名する日々が続いた。

 そんな様子を俺は幽霊のように誰にも気づかれずに後ろから見ていた。決して誰にも心を開くことが無くなったオリヴィエを。

 

「オリヴィエ……」

 

 オリヴィエは孤独を味わってきた。きっとこの記憶はクラウスと出会う前の出来事なのだろう。孤独の寂しさは俺も共感できた。人肌が恋しい時期は年齢関係なくいくらでも訪れる。今のオリヴィエだって例外では無いだろう。

 

「誰にも……誰にも信頼という二文字を勝ち取れず、そしてオリヴィエに近づこうとする者は現れなかった……せめてこの時だけでも俺が近くに居てやれれば……」

 

 記憶の中でオリヴィエがこちらに意識を向けれることなんて無理だと分かっているが、俺はこの夢の中でオリヴィエに近づいて肩に手をかけようとした。

 

 オワラ……ナイ……。

 

「っ!?」

 

 しかし、脳内にいきなり響いた少し声の枯れているような声が聞こえてきてその行動は途中でキャンセルされた。

 

 オワラナイオワラナイオワラナイ……オワラナイ……。

 

「な、なんだ?」

 

 何度も何度も脳内で繰り返される同じ言葉に違和感を抱きながらも俺はオリヴィエの肩に手をかけようとした。

 

「やっぱりすり抜けるか……」

 

 薄々気づいてはいたが、触れようとした手には何も感触もなく人に触れているという手ごたえもなかった。

 

 まあ、夢の中だし感触があったら逆におかしいか。それにさっきの繰り返される言葉は……。

 

「っ!!?」

 

 考え事をしていたらオリヴィエとは別の人物がガシッと俺の手首を握りつぶすような勢いで強く占めつけてきた。そして、それはすぐに訪れた。ぐしゃっと肉の潰れる音がして差し出した左手首から先が無くなり血が絶えず流れ出てしまう。

 

「い、痛みは無いけど異様な不安にかき立たせる光景だ……な……」

 

 俺の手首を握りしめた人物を見るとそこに居たのは、

 

「ア……イン……っ!!」

 

 丈に合わない大きなサイズのパーカーを着てフードを被っている大人モードのアインハルトだった。いや、大人モードでは無く女性の姿。

 その姿を見た瞬間、風景が一変しオリヴィエが消え場面が切り替わった。地面には人間のパーツがいたるところに散乱していてとても直視することが出来ない地獄絵図。ここは惨劇の起きたあの森の場所だった。

 

「遅いです、ガイさん。反応も僅かにしか出来てない……」

「……っ」

 

 あの時と同じ言葉がアインハルトから告げられる。

 そして、アインハルトを視たせいで脳内にはあの惨劇が浮かび上がった。しかもそれは今、目の前でも行われていた。

 この人の形をしていた肉塊の他に生き残っていた何人もの隊員達がアインハルトにデカいアンノウンに虐殺されていく。ある者はアンノウン食われ、ある者はアインハルトの拳を胸に受けて心臓停止になって倒れる。

 

「や、やめろ……」

 

 その現実を目の当たりにしていつの間にかセットアップして帯刀してあったプリムラに右手をかける。

 

「ガ……イ……」

「……っ!!」

 

 さらにその虐殺劇場を繰り広げていた近くに血まみれで右足を失い横たわっている人物が俺に枯れた声を掛けきた。

 

「た、隊長……」

「いてよぉ……いてえよ……なのはさんに……まだ告白すらしてないのに……死にたくねえよ……」

 

 その後ろには巨大なアンノウンが立っていて触手を伸ばして隊長を絡め取る。俺は必死に走って思いっきり手を伸ばす。

 

「隊長っ!!」

「お前が……」

「っ!!」

 

 しかし、血だらけで満身創痍な身体のはずなのに枯れた声ではなく、はっきりとしたどす黒い声で隊長が言葉を放った。それは俺の事を憎んでいるような殺気を含めた音声に聞こえた。

 そして、次の言葉に俺は絶望した。

 

“お前が早く魔術回路を展開しなかったから俺達は死んだんだ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――マンション

 

「はぁ……はぁはぁ……」

 

 俺はソファーで荒い息を立てながら目が覚めた。右手は天井に向けて伸ばしていた。

 

「はぁはぁ……んっ……ゆ……め?」

 

 俺は今ここがいつも使っている自分のマンションだと分かりホッと息を吐いた。そして、目から液体が零れている事に気付く。それを手で拭う。

 

「泣い……てた?」

 

 涙を流すほどあの夢の後半は俺にとってトラウマになっている出来事だったのだろう。仲間が死に、その原因となったのが未来のアインハルトなのだから。

 

「……」

 

 目覚めの悪い夢で気持ちが暗く重かった。再び眼を瞑って眠るとあの悪夢の続きを見てしまうのではないかと考えてしまい、寝ずに起き上がる。

 

 オリヴィエの記憶とここ最近の出来事が入り混じった夢だった……でも、最後の隊長の言葉……。

 

 俺は隊長の放った最後の言葉が頭に残り過ぎていた。

 

“お前が早く魔術回路を展開しなかったから俺達は死んだんだ”

 

「……っ」

 

 俺は歯と歯が擦れて鳴らす音が聞こえるぐらいに歯を喰いしばった。

 現実では隊長はそんな事を言わなかったが、もし、俺がそんな力があったという事を隊長に言っていたら、あの現場で“もっと早く魔術回路を展開しなかったから仲間達は死んだんだ”と言われていたかもしれない。力の出し惜しみをしたから皆死んだと。

 

「……そう言われても当然……か……」

 

 喰いしばっていた歯を緩め天井を見上げる。薄暗い部屋の天井は後悔の黒い感情を占めている今の心の心理状態を表しているのではないかと思った。

 100%の死が訪れない限り回避はできる。俺はその回避できる可能性の力があった。しかし、それをみすみす逃してしまった。後悔と罪悪感の色が俺の心の中を埋めていき更に気持ちが重くなった。一つの判断をミスるだけでそれは死へと直結してしまう場合もある。今回はそうだったのかも知れない。

 

「……とりあえず水……ん?」

 

 俺は喉がカラカラなのに気づき水を飲むためにキッチンに向かうためソファーから降りようとすると、自分の身体にオリヴィエが使っていたタオルケットがかけてある事に気づく。それと同時に部屋には人の居る気配がしなった。

 

「オリヴィエ……出かけているのか?」

 

 オリヴィエがどこかに出かけようとするのは自由なので気にもしなかったが、居なければ居ないで少し寂しさが残った。

 

 ……あんな夢を見た後じゃオリヴィエの近くに居てやりたいけど、それはクラウスの役目だ。俺がする必要はないか。

 

 様々な考え事をしながらソファーから降りてキッチンに行きコップに水を注ぎ一気に飲み干す。

 

「……ふぅ」

 

 一息ついて気付く。室内はエアコンで程良い涼しさを保っていたが寝汗をかなり掻いていたのか上着だけを脱いで寝てしまったYシャツはかなり濡れていた。それなので俺は服を脱いでシャワーを浴びて私服に着替える。

 少し冷たいシャワーを浴びて少し気持ちが楽になり落ち着ける状態になったのでテーブルにあるモノに目にとまった。

 

“ガイへ。起きましたらこちらを食べてしっかりと栄養を取って下さい。私は少し出掛けてきます。遅くならないと思いますが”

 

 と、達筆なメモと一緒に卵焼きとウインナー二本におにぎり二個にラップしてある皿があった。

 

「……お気づかいどうも……味は……」

 

 俺はその皿をレンジに入れ温め直し、麦茶をコップに注いでおにぎりを一口かじった。

 

「まあまあか……」

 

 砂糖と塩を間違える事は無かった。しかし、今度は塩が少し多い気がした。しょっぱさが後味に残るおにぎりだ。ウインナーをかじって食べると更にしょっぱさが増大する。まあ、食べれないモノでは無いので口に入れながらベランダの外を見る。日が落ちて町の光がらほらと見える。壁に掛けてある時計を見ると夜の時間帯だった。

 

「プリムラ、オリヴィエは何処に行ったか分かるか?」

 

 そして、やはりあんな夢を見たせいかオリヴィエの顔を見ないとなんだか落ち着けず何処に言ったのかおにぎりをかじりながらプリムラに聞いてみた。

 

『マスターにご飯を作った後、どこかで結界を張った気配があると言って出ていきました』

「1人でか!?」

『ええ。伝言も受け取りました。“ガイはしっかりと休んで英気を養ってください。親しい人物が亡くなった出来事はしばらく心の整理がつきません。私が様子を見てきますので付いてきてはいけませんよ?人気のない夜は敵と遭遇する可能性が高いですから”』

「……わかんねぇよ、結界の張った場所なんて」

『……マスター、言葉と行動が合っていませんよ?』

「え?」

 

 そう言いつつも手にもったおにぎりを口に放り込んで立ちあがり出かける準備をしている俺がいた。

 

「……オリヴィエのことが心配だからかな」

『……何かありましたかマスター?』

「まあ、ね」

 

 俺は言葉を濁す。夢で見たモノはオリヴィエの記憶だ。プリムラに話していいモノでもない。プリムラにはこの夢の事をは黙っておいた。

 

「……とりあえず、すれ違いにならない様にメモを置いておくか」

 

 俺は先ほど書いてあるメモを裏返しにしてすれ違いでオリヴィエが戻ってきて再び出ていかない様に書いておく。

 

“オリヴィエ。結界を張った気配があるからって1人で行くなよ。俺も少しだけこの周辺を探ってみるからこのメモ見たら部屋で大人しくしてろよ”

 

「こんなもんか……さ、オリヴィエが心配だ。出かけるよ」

『了解しました。私がしっかりとサポートします』

「心強いよ」

 

 俺は外に出る格好に着替えておにぎりをもう一個を少しかじって玄関のドアを開ける。

 

「「あっ……」」

 

 なるべる夢の後半の出来事は忘れていたかった。考えれば考えるほど気持ちが憂鬱になってしまう出来事だったのだから。けど、神様は現実から目を背けるなと言っているのか……。

 

「ガ、ガイさん……」

「……っ!!」

 

 感情の無い冷たい声を発していたあの声から、少し幼くそして感情のある同じ声で俺の名前を呼んだ目の前の少女。

 その少女を見るだけでどうしてもあの森へと連想してしまう。アインハルトだ。確かにこの現実に居るアインハルトは悪いわけではない。悪いわけではないのだけれどどうしても体が拒絶してしまう。

 

「あっ……あ、あのっ……」

「……ご、ごめん!!」

「え……ま、まっ」

 

 俺の姿を見て戸惑っているアインハルトに俺は一言だけ言ってその場から逃げるように階段へと走った。アインハルトの呼び止める声が聞こえたが振り向く事は出来なかった。

 

 本当にゴメン……アイン……。

 

 心の中で謝りつつ、俺は夜の街へと繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり、私のことを否定してる……せっかくジムでモヤモヤとしたモノが取れて少しスッキリしたのに……サンドバックを二つほど破ってスタッフの人に怒られてしまいましたが。そして、今の気の持ち方でもう一度ガイさんと面と向かって話をしようと思ったのに。

 

「はぁ……」

 

 私は呼びとめようとしたけど既にガイさんは階段を駆け足で下りて行ってしまった。

 

「……悪いことしてないと思うのですが」

 

 今までの出来事を思い出しても私がガイさんに悪い事をしたような覚えはなかった。ですが、それは私の主観から見てのこと。ガイさんからの客観的な視線から見ると何か粗相なことをしてしまったのかもしれない。

 そして、目の前のドアが開けっぱなしになっていた。慌てて私から離れていったからか閉め忘れたのかもしれない。

 

 ……私を否定した理由がガイさんの部屋にあるのかな……は、入って……あ、いえ、オリヴィエが居るかも知れない。

 

 私は壁に付いている一回呼び鈴を鳴らしてみた。しかし、誰も出てこない。中を覗いて見ても人の居る気配がしなかった。

 

 オリヴィエも居ないのかな?ど、どうしよう……で、でも知りたい、ガイさんが私を否定した理由。それがわかれば私はガイさんにそのことをしっかりと謝ってガイさんとまたちゃんと話をしたい。

 

 ゴクっと私は喉を一回鳴らす。

 

 自分で答えを見つけださずににこんな卑怯な手を使いますが、ごめんなさい、ガイさん。アインハルト・ストラトス、勝手に部屋に入ります。

 

 そして、心の中でガイさんに謝って深呼吸をして私はガイさんの部屋に訪れた。

 

「し、失礼します……」

 

 誰も居ないと分かっているのに私は恐る恐ると言った声で薄暗い部屋に入る。先ほどまで冷房が掛っていたのかひんやりとした空気が私の肌に突き刺さる。

 

「冷たい……」

 

 外の気温の差があって冷たく感じる部屋に快適さを感じたが体を冷やしたいがために入ったわけでは無い。私は電気をつける。同じマンションに住んでいるので電源が何処にあるか薄暗くても分かる。

 

 パッと明るくなった部屋は先ほどまで生活していたような跡が残っている。食べかけの料理に乱雑に脱ぎ捨ててある私服。

 

 先ほどまで食事をしていたようですね。そして、食事を中断して何処かに出かけた……。

 

 私はテーブルに乗っているお皿にある食べかけのおにぎりから目が離せなかった。

 

 ……ハッ!!いけない、食べかけのおにぎりを見てボーっとしていたなんて……食べかけ……食べかけ……食べると……間接キス……って、違います!!

 

 私は頭を必死に振って今の考えているモノを強制的に頭の中から撤去した。

 

 全く、何を考えているんですか私は!!ここに入った理由は違うでしょう。

 

 自分に鞭を打ち煩悩を取り払って私はその食べかけのおにぎりが置いてある皿の隣にあるメモを見つけた。

 

「これは……?」

 

 私はそのメモを手にとって内容を見た。

 

“オリヴィエ。結界を張った気配があるからって1人で行くなよ。俺も少しだけこの周辺を探ってみるからこのメモ見たら部屋で大人しくしてろよ”

 

「結……界?」

 

 いったい何のことだろう?

 

 魔導師で使っている空間の一部を切り取り、特殊な性質を付与する結界魔法というモノが存在する。これは授業で習った事がある。この結界もその類の可能性がある。

 私は無意識にメモを裏返す。そこには先ほどの崩れていない文字とは違い、かなり達筆な字でこう書かれていた。

 

“ガイへ。起きましたらこちらを食べてしっかりと栄養を取って下さい。私は少し出掛けてきます。遅くならないと思いますが”

 

「これはオリヴィエ……」

 

 覇王の記憶の中でいくつかのオリヴィエのくせ字を知っていたので、それが所々にあるこの達筆の文章はオリヴィエが書いたモノであると分かった。そして、私は少し考えてこの文章の二つを整理してみる。

 

 オリヴィエが先に書いたのだろう。そして出かける前にこのメモを置いて、後で気づいたガイさんはそれを見て後を追いかけた……というのが正しいでしょうか。ですが、結界……。

 

 ガイさんが私やヴィヴィオさん達に相談出来ない事で悩んでいるのは知っていた。これはその悩み事に足を突っ込んでいる内容なのではないだろうか。そして、それは……。

 

 私を否定している理由に繋……がる?いえ、ですがそんな事はない。結界なんて私と全く関係が無い事だ。とてもそこに繋がるとは考えにくい。

 

 いくら考えても決定打になる材料が無いので、答えへたどり着く事は出来なかった。私は一度頭を切り替えてメモをテーブルに戻す。決定打になる材料が無いのなら、本人に直接聞くしかない。

 

 結界……主に人避けで使われると習いましたね。そして、それを探す……いえ、そこにいるオリヴィエを探す事がガイさんのメモからわかります。ガイさんのメモ通りならガイさんはここ周辺を捜索しているはず……私もこの辺りを少し捜索してみますか。

 

 私はガイさんを探すという目標を作ってガイさんの部屋の電気を消して玄関を開けようとドアノブに手をかけようとした。しかし、その差し出した手は小さく小刻みに震えている。

 

 ……真実を知るのが怖い証拠ですかね、この手の震えは。その真実を知って、今度こそガイさんとの関係が修復不可能なになったら……。

 

 私は震える手を懸命に抑えながらドアノブに手をかけ、力を込める。

 

 いえ、そんなマイナス思考は止めましょう。昼間の様に顔に出るくらいに悩んでしまってヴィヴィオさん達に心配をかける訳にも行きません。

 覇王の名に恥じぬよう、たとへ困難な道でも前へ進まないといけません。

 

 私は気持ちを引き締めてガイさんを探すためドアを開けて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――St.ヒルデ魔法学院

 

「くっ……」

「Alaalalalalalaal!!」

 

 私はバーサーカーと拳を交えていた。近接戦闘による格闘術は私の方が上だと何度か交えて分かった。しかし、それだけで状況を優勢に立てるわけでは無い。他にも状況を優勢に立たせる要因はいくつかある。

 1つは力。このバーサーカーの一撃一撃が重く、1つ受け止めるたびに骨の髄が揺さぶられるような衝撃を放ってくる。バーサーカー特有の“狂化”スキルで筋力が上がっているので強大な力になっているせいでもある。バーサーカーの攻撃はなるべくかわしてはいるが、どうしても受け止めなければならない攻撃が飛んできてしまう。それは止む追えず受け止める。“力”は劣勢。

 2つめは素早さ。その重い攻撃をしているにもかかわらず、フットワークの軽い滑らかな動きをして私の攻撃を避けながらもカウンターを合わせてくる。とてもバーサーカーとは思えぬ滑らかな動きで私の攻撃を避け続ける。“素早さ”は五分五分。

 3つめはリーチ。もともと小柄な私が一般男性以上の体格を持つバーサーカーを相手にするというのは色々とハンデが生まれてきてしまう。小柄なので懐への侵入や機敏な動きで相手を翻弄することは出来るが、どうしても腕のリーチの差が出てしまう。これをどのように補うかがこの戦いの課題でもある。“リーチ”では劣勢。

 

 総じて、このバーサーカーは私にとって劣勢になる条件が含まれやすくとてもやりづらい相手なのだ。

 

「フォートレス!!ヴァリアブルフォーメーション!!」

 

 そう、1対1なら。バーサーカーの後ろに居るなのはが援護射撃をしてくれるので優勢に立つ事が出来る。

 なのはが三つの盾で三角形に陣形し、その中心に魔力が収集が終了しているのかピンクの魔力の塊が出来ており、バーサーカーに向かって魔力の照射が放たれる。

 

 私はそれが来ると分かっていたのでその軌道上から横に離れる。その直後にバーサーカーになのはの照射が直撃する。直撃コースで避けている暇など無く致命傷のはずだ。

 

「Laaaallaaalaa!!」

 

 しかし、擦り下がりながらもその照射を両手で受け止め、雄叫びと共に上空へ受け流す。魔力で出来ているモノを受け止めた上に受け流した。とても、バーサーカーのような知性を失っている者が出来る技では無い。

飛んでくる魔力の量に摩擦係数の計算、ベクトルの向きなど。計算づくされた行動が必要なのだ。それをバーサーカークラスでやってしまう。このバーサーカーの底が知れない。

 

「これもダメ……なの……」

「バーサーカーで知性を失ってなおそのような離れ業を……」

 

 私もなのはも目の前の敵に言葉を失ってしまう。もし、この英霊がバーサーカーのクラスでなかったら私たちでは手の付けられない最強の英霊だったかもしれない。今もなのはと一緒に攻めているが十二分に辛い。この英霊がバーサーカークラスに入ってくれた事は幸いだったのかも知れない。

 

「がっ!?」

 

 何の前触れもなく私の身体は浮いた。いや、正確にはいつの間にか私の懐に入っていたバーサーカーが胸部の甲冑に振り上げるように拳を放っていた。甲冑を通り越して肺に拳がめり込み肺に溜まっていた空気が一気に排出され、痛みが胸部を通して体全体に波紋のように広がる。

 

 バーサーカーから目を離したわけでも油断していたわけでもないのにいつの間に……!?瞬間的な高速移動ですか!!

 

 そして私は上空へ飛ばされた。バーサーカーはすぐに追撃を仕掛ける為に跳んだ。飛んだのでは無く跳んだ。

 地面に加わった力が強大さを物語るかのようにクレーターとなって出来上がっていたバーサーカーは一瞬で私に詰めて追撃の拳や蹴りの連撃の嵐を振るう。

 

「ぐっ!!ごほっ!!」

 

 上下左右から私の身体に重い拳や蹴りを躊躇なく放たれる。その中でも何発かは避けたが、先ほどの痛みが体中に走り思うように動かすことが出来ない。そのため止められる攻撃もまともに受け身体にダメージが蓄積されていく。

 なのはは動けない私が居ては砲撃を撃てないので急いで盾を送るがバーサーカーはすでに締めの拳を私に放ち終えていた。ベクトル方向が地面へと向くように放った両手を祈る様に掴んで振り下ろした両拳。それは一気に地面に叩きつけられるほどの威力だ。

 

「っ!!」

 

 しかし、私はその未来を裏切り、空中で体制を整え足から地面に着地して勢いを地面に逃がす。さらにクレーターが大きくなったが気にせず、今度は私がバーサーカーへと跳ぶ。

 

「Laa!?」

「隙ありですバーサーカー。“聖連拳”」

 

 私をしとめたと思って油断した僅かな隙を見逃さす、魔力を込めた右拳を僅かに遅れてガードしたバーサーカーの左腕の手甲にブツけ、更に上空へと飛ばす。

 

「“聖空弾”」

 

 そして、私は私の真横に一発の虹色の魔弾を練成して飛ばされているバーサーカーに放った。一発だけのこの魔弾は一発だけだからこそ魔力の量も質もけた違いに濃いし多い。

 バーサーカーは飛ばされながらもなおその魔弾を受け流すための態勢を整えて迎撃に当たるために両手を前に突き出す。

 

「その選択は間違いです、バーサーカー」

「Laalalalaaalaal!!」

 

 バーサーカーは先ほどのように受け流す気でいたのだろう。しかし、私の放った虹色の魔弾は小さいながらも威力は絶大。そう簡単に受け止める事は出来ない。避けるのが正しい選択だ。

 キャスターの時にも使ったがあの時はガイの魔術回路は展開されていなかったため全力ではなかった。しかし、今はガイの魔術回路がある。威力もスピードも更に上がる。

 現に今もバーサーカーは受け止めきれずに直接触れている生身の右手からは血が噴水のように溢れている。

 バーサーカーは受け止める事が無理と判断したのか、その魔弾のベクトルを僅かに右へとズラして魔弾の軌道上から自分の身体を離してバーサーカーの真横を通り過ぎた。

 しかし、捌ききれなかったのか、生身を晒している右腕から肩にかけて刃物で切りつけた後のように一直線に傷が出来て出血していた。

 私の攻撃を受けて隙の出来たバーサーカー。

 

「まだだよ、バーサーカー!!」

 

 そこになのはが追撃で間隔を開けながらバーサーカーを囲むように盾を三つ配備して、盾から無数のバインド鞭を発生させバーサーカーを絡め取り、真下から狙い打つように両手持ちでカノンを上空へと構えていた。

 

『プラズマバレルオープン』

「ヴァリアブル・ブラスターカノン!!」

 

 そして、一発の砲撃が縛られているバーサーカーに放たれる。バーサーカーは抵抗するがきつく縛られたバインドによって避けれるタイミングを完全に失い、その砲撃をまともに受け煙幕が張られた。

 その受けた時の爆音は凄まじく、体の底に響くぐらいの大きな音がした。

 

 バインドも外れ煙幕の中から空中へと投げ出されたバーサーカー。飛行魔法が続いているのか空中でフワフワと横たわっているだけで、動きがない。

 

「お見事です、なのは」

「フリージアさんが隙を作ってくれたからだよ」

 

 私はなのはの隣について軽く話を添える。イメージどうりの行動をしてバーサーカーに致命的なダメージを与えたので高揚する気持ちが溢れるはずだったが、私の気持ちはむしろ沈んでいた。

 

「でも、いきなり動きが良くなったね。どうしたの?」

「……ガイが、魔術回路を展開しました」

「え?」

 

 そう、私が地面に叩きつけられなかった理由は偶然だった。ガイが魔術回路を展開させ私への魔力が安定供給されて本来の力を振るう事が出来たからだった。あのくらいなら受け身を取る必要もなく直ぐに反撃できる。

 しかし、問題はそこでは無かった。ガイが魔術回路を展開させたという事は……。

 

「魔術回路を展開させなければならない状況下に居る……ってことだね?」

「ええ、そう考えるのが妥当かと」

 

 ガイが敵と交戦した可能性があるというわけだ。急いでガイの元へ戻りたい。その気持ちが少しずつ強くなっていた。

 

 プリムラに伝言を残しておいたのにそれを守らずに出てきてしまった。ガイの性格から考えれば……ありえますね。私1人で戦わせようとしませんからね。後でお説教をしませんと。

 

 ガイの行動に納得していまう私が居た。

 

「でもぉ、バーサーカーはこんなものじゃないのねん♪」

「「っ!!」」

 

 不意に後ろから楽しげな声がした。私達はすぐに後退し向き直す。そこにはトレディが剣を二刀を羽のようにしなやかに振りながら私達を残忍な目で見つめていた。

トレディの相手をしていた衛宮士朗が見当たらない。

 

「っぐ……」

「マスター!!」

 

 士朗は体育倉庫の壁に激突して痛みと戦っているのか動けずにいた。トレディから痛恨の一撃を受けたのだろう。そこで追撃をしないでこちらに向かってきたのはどのような思考を持ってなのか。

 

 なのはは急いで衛宮士朗の所へと飛んでいきたいのだろう。しかし、トレディの次の言葉で私達はその場から動く事が出来なかった。

 

「バーサーカー、“左足の甲冑を外せ”」

「っ!!」

「え?……甲冑を外す?」

 

 私はなぜこの戦いの中で甲冑を外すのかはわからなかったが、なのはは表情を険しくし警戒心を高めてバーサーカーが停滞している上空に視線を移す。私もつられて上空へ視線を送る。

 

「Laaaalalalalaalaaaaa!!」

「っつ!!」

 

 声にもならないバーサーカーの雄叫びが三半規管を震えさせ私となのははバランスを崩し片膝をつく。そして、バーサーカーの雄叫びが終わると同時にガシャっと甲冑が外れる音がした。

 バーサーカーの左足の部分の甲冑が全て外れたのだ。外れた甲冑は霊体化して消えた。下は白い長ズボンを履いているのが目視できる。

 そして、その左足の付け根の股関節から出口を見つけた黒いオーラが蛇口の栓を思いっきり捻ったかのように勢いよく溢れ出した。

 

「……っ、先ほどよりも禍々しい。魔力も上がった……」

「うん、気を引き締めなきゃ、マズイね」

 

 私となのはは平衡感覚を取り戻し、立ち上がり右肩から右手甲の甲冑、左足付け根から外れた甲冑のを着込んでいるバーサーカーを見据えた。もはや、フルアーマーでは無くなっていた。

 バーサーカーも私達を見定めていた。その出入り口二か所からはどす黒いオーラが溢れかえって白い甲冑を穢し続けている。

 

 あの甲冑がリミッターとしたら外される度に力が増大する?なら、外される前にケリをつけなければなりませんね。

 

「きゃはは、バーサーカー。残虐タイムを見せて頂戴ねん♪そのためにまだ衛宮は生かしているんだから。あんた達の絶望色に染まった表情を見せてねん♪」

 

 なるほど、衛宮士朗を生かしていた理由はマスターが消えてしまっては魔力供給の源を失ってしまったなのはが満足に戦う事が出来なくなってしまうからか。確かにアーチャークラスには“単独行動”というマスターが居なくても何日かは生存できる特有のスキルがあったはずだ。

 しかし、それでは残りの魔力を考えてやらなけばならないので全力を出そうというのはなかなか難しい。だから、魔力供給源であるマスターを生かす。

 全力を駆使して戦わせて、しかし、その上から私達の成果を押し潰して絶望させたいわけですね。

 

 トレディの考えが大体読めた。私は気持ちを入れ直すため目を瞑り右手甲を自分の唇に少しだけ当てる。今、何をすべきか。そして、その後どのような行動を取るべきか。

 

 私は間違えてはいけない。味方を導くために。味方を死なせてしまう道へ導かない様に。

 

 私は静かに目を開けてバーサーカーを見上げながら後ろに居るトレディに声をかける。

 

「トレディ。そう簡単に貴方の思惑どうりにはいきませんよ」

「きゃは、それは楽しみねん♪バーサーカーやれ♪」

 

 本当に楽しそうな声でバーサーカーに命令するトレディ。バーサーカーは先ほどの令呪もあってか特に変な動きは無く、体制を低くして構えた。

 

 あれ?この構え……どこかで……。

 

 その構えを見た時、私は確かな違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――同時刻 夜の街頭

 

「……マジか」

『最大限に警戒してください』

「……」

 

 プリムラの警告を発する。目の前の人物は俺の人生を狂わせる相手であることに間違いはない。だから、プリムラは警戒を強めてくれと念を押すのだろう。

 

「……アイン」

「……」

 

 その背丈よりも一回り大きいパーカーを着た大人のアインハルト。フードは被らず冷たい眼を俺に向けてくる。

 

 その姿を見るだけで俺はあの森のトラウマ的な出来事を思い出してしまいそうになり、先ほど食べたモノがリバースしそうになって思わず口を押さえる。内心ではパニック寸前だ。

 

 ま、まずい、まずいまずいまずいまずい……パニくる!!アイン!!あの光景を思い出されるな!!

 

 俺は急いで心臓にナイフを突き刺すイメージをした。カチリと音がしたような気がする。普通の肉体から魔術回路を展開させた肉体となり、強靭的な筋肉になった身体になった。展開する時の痛みも完全に無くなり、展開する度に痛みに耐える心配はなくなった。

 これの作用でもある予測思考のおかげで頭の中も一気にクリアになるのでパニックに陥ることは無くなり、口から手を離す。

 

「……はぁはぁ」

「……」

 

 俺がどんなに苦しい思いをしても目の前のアインハルトは眉ひとつ動かすことなく冷たい目で俺を見る。

 

「はぁ……はぁ……んっ」

 

 ようやく落ち着けたので俺もアインハルトをしっかりと見る。この世界にアインが成長したらあの体格になるのだろう。大人モードのアインハルトよりももう一回り成長した姿。

 

「……お前と話は出来るのか?」

「……」

 

 俺の言葉に返す代わりに静かに何度も見たことのある構えをとるアインハルト。最初から話し合う気はないという事だ。

 

 俺は、どうすればいいんだ?戦うべきなのか?それともアインをどうにか説得するべきなのか?そもそもあのアインの目的は?

 

 様々な思考を巡らせて予測思考をフル回転させる。最初にアインハルトが攻撃してくる打撃の予測。今のアインハルトを説得させる材料を脳内で検索。あの森……で出会ったアインハルトの言葉からの目的の予測。

 

 様々な思考を脳内で巡らせているうちにアインハルトが最初の攻撃を繰り出す。何の変化もないただ一直線の拳。しかし、速さが格段に速い。

 それは予測思考で予測していたのでその動きに合わせてなんとか紙一重で避ける。不意打ちな流れだったのでプリムラをデバイス化して無く、バリアジャケットも付けていない俺はかなり危険な状態であった。デバイス化しようにもバリアジャケットに展開しようにも目の前のアインハルトはその隙を与えさせてくれないほどの連撃を繰り出す。

 

 格闘技でやれってか?でも、格闘技でも居合でも戦ったらもう後には引けなくなる。ここで本当にこのアインと戦っていいのか?

 

 俺はそれを受け流し、時には避けながら戦うか迷っていた。このアインハルトは本気だ。攻撃の一つ一つに殺気を感じている。俺を殺す気でいる。そして、ここで俺が戦いの意志を見せたらこの聖杯戦争での殺し合いの意味になる。本当にそれでいいのかと。

 確かにこのアインハルトは俺の部隊をあの森にいた部隊を全滅にまで追い込んだ。それが許せないわけじゃない。だが、目の前のアインハルトは俺の知っているアインハルトなんだ。この格闘技の動きだって覇王の型だ。そのアインハルトと殺し合いをするべきなのか。

 俺の心の中は整理が追い付いていない。

 

 そして、俺はアインハルトの右拳を対角線上にある右手で握り止め少しの間、アインハルトの目を見た。冷えきって何の感情も読めない目だ。

 握りしめている間にバリアジャケットを展開しようとしてもその展開中の隙にやられる。その選択肢は諦めた。

 

「……まだ、迷っているのですね」

「……っ」

 

 今日初めて聞くこのアインハルトの声は本当に感情の含まれていない冷たい声だった。その声を聞くだけであの森のトラウマを思い出される。

 

「それではこの戦いを生き抜く事は出来ませんよ」

「っつ!!」

 

 不意に首が締め付けられる痛みに襲われた。目を離したわけでもないのにアインハルトは俺の後ろに回り込み、首に腕を回して締め上げていた。

 

 血管が……圧迫され……て……い、息が……。

 

 完全にヘッドロックされてミシミシと締め上げられる。必死に抵抗するが手を入れる隙もなかったので、このままいけば窒息死か首をへし折られるかのどちらかだ。

 

「がっ!!」

「っ!!」

 

 俺はその未来を実現させないため抵抗するのをやめ、足に力を込めて、アインハルトを背負い投げの要領で振り投げる。予想外の動きだったのかヘッドロックは外れてアインハルトは放物線を描く様に飛んで足から着地する。

 強靭的な肉体になっているからこそ、ヘッドロックされても首をへし折られずに背負い投げが出来た。魔術展開して無ければ死んでいた。

 

 俺はアインハルトが着地している間にバリアジャケットを展開させプリムラを一対の刀と鞘にさせ左手で握る。

 

 ここに来てから少し経つが人が来る気配がない。結界を張ったのか。アインハルトのマスターか?

 

 俺はアインハルトから視線を外さず周囲に意識を回す。しかし、気配は目の前のアインハルトだけで他の人の気配はない。この結界を張ったの人物は結界の外に居るのか。それとも……。

 

 着地したアインハルトがゆっくりとこちらに顔を向ける。

 

「アイン、お前の目的は何なんだ?」

「あの森で言いました。二度は言いません」

 

 あの森で出会った時に激しい雨の音で聞き取れなかった言葉。もし、その言葉をしっかりと聞き取れたらこの今は変わっていたのだろうか。

 

「全力で参らないと私は倒せませんよ」

「……っ、お手柔らかに」

 

 俺はブレーキをかける心境を振り払ってプリムラに右手を添えて構えた。俺は未だに迷っている。この目の前のアインハルトと戦うべきなのかどうかを。

 しかし、戦わなければこの勝負で俺は確実に命を落とす。やらなければならない事が山積みだというのに、そう簡単に命を落とすわけにはいかない。

 

 俺は死ぬのを免れるためにという逃げの言い訳を考えてプリムラに手を添えていた。決してアインハルトと戦うためでは無く。

 

「……保身のために武器に手をつけますか」

「……っ!!」

 

 しかし、この考えは対立しているアインハルトに簡単に見透かされてしまった。

 

「保身で戦うガイさんと殺す気で戦う私……覚悟の差は戦闘に出てきますよ?」

「や、やってみないと分からないさ」

 

 いや、分かっていた。覚悟の違いによって戦闘に優劣が出てきてしまう事が。今の覚悟だと俺が劣になる。

 

「なぜ、お前が……と言っても教えてくれないか」

「……無駄な時間ですよ」

 

 アインハルトは俺の質問を切り捨てて再び構えた。俺もそれに釣られて構える。俺の心の中では焦りと戸惑いの色に染まっていた。

 そして、アインハルトが走り出す。

 

 俺は……俺はどんな答えを導き出せば、正しい道へ進めるんだ?

 

 俺は自分自身に質問の問いを投げて答えを探しつつ、逃げの覚悟で迫り来るアインハルトに対して迎撃態勢に入った。




 今のコンプエースはオリヴィエの過去話が所々出てきて結構重要なポイントだwオリヴィエ可愛いわwアインハルト可愛いわと言う今月号でしたw
 話のネタを広げさせるため、来月号が楽しみです。

 あと今回から段落を付けてみました。少しは見やすくなったかな?あんまり変わらんかw

 こんな感じでリアルも忙しいですが頑張って更新していきますので今後も読んでくだされば幸いです。
 今後とも宜しくお願いします。では、また(・ω・)/
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