魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~ 作:ガイル
投稿する間隔が空きすぎて申し訳ありません。
楽しみしている方ごめんなさいm(_ _)m
二十九話投稿します。
―――街頭
目の前の人物は正直見たくなかった。否定したかった。
「……っ!!」
「遅いです」
その背丈よりも一回り大きいパーカーを着た大人のアインハルトが激しい連撃の攻撃を隙なく放ってくる。俺はそれを何とか捌きながら応戦している。
このアインハルトはアサシンとして聖杯戦争に参戦している。フードは被らず冷たい眼を未だに俺に向けてくる。何があって俺にそのような眼で見てくるのか。それは当の本人にしか理由が分からないだろう。
トラウマを植え付けられたこのアインハルトを見てパニックにならないのも魔術回路を展開してどうにか冷静さを取り戻せたからではある。が、戦いにおいて根本的に覚悟が違うため防戦一方な戦いになっている。保身で戦う俺と俺を殺す気でいるアインハルト。
俺は……未だに迷っていた。
「はっ!!」
「……っぐ!!」
俺の胸に気合の入ったアインハルトの右拳が放たれた。それを納刀している鞘で受け止めたがそれは間違いだった。魔術回路で強靭的な肉体になったにも関わらず受け止めた瞬間、両肩が脱臼するぐらいの力が押し寄せてきた。
その力はあまりにも強く俺は足に地面が着いているにもかかわらず、足の裏が摩擦抵抗を受けながらもそれ以上の力によって俺を後ろへ擦り下がる。
……っ、手から肩にかけて痺れる。
俺は歯を喰いしばって何とか踏みとどまる。
「“覇王……」
そして、アインハルトはよく見覚えのある構えをして、右拳に魔力を込め終えていた。その構えを見て俺は手が痺れながらも急いで立ち居合の構えに移る。
間に合うかっ!?
「……空破断”」
「……!!」
放たれた空破断はパッと見ただけでも現代のアインハルトが放っていたモノとは質も量も異常なほどに上回っていたのが分かった。
現代のアインハルトが2トン車の軽トラックだとするとこのアインハルトの空破断は10トン車を越える馬力だ。5倍以上あるのは確かだ。
俺に放たれたその空破断は俺を包み込む程の異様な大きさで迫ってきた。かなりの恐怖で迫ってくるそれを避けるのも受け止めるのも不可能に近い。なら、やることは1つ。
「……っぐ、うおぉおぉおおぉぉぉ!!」
俺は雄叫びと共にプリムラを抜刀しその空破断の先端部分に刃を当て、砲撃の垂直角度からズラすように手首を捻った。手首には激痛が走る。
しかし、その激痛に逃れるために今の行動をやめたらそれ以上の痛みが体全体に走るだろう。俺は手首を捻るのを止めず最後まで振り切った。
「……」
結果、俺に向かって放たれた空破断は俺の手前で軌道を変え俺のすぐ横を通過した。俺に当たるはずだった空破断はそのまま真っ直ぐ後ろの建物へとぶつかり行き場の失った力が解放され、その威力の存在証明を示すかのように建物は豪快な音をたてて崩壊した。結界を張っているから一般人が居ないのが幸いだ。
「いってぇ……」
俺は手首を振りながらアインハルトから注意を散乱させずに見る。軌道を逸らすのはなかなか出来ないと思っていた先ほどのやり方はうまく行った。しかし、次は出来ないと断言できる。
予測思考で失敗するビジョンが浮かんでくる……。
この予測思考は何も明るい未来のモノばかりでは無い。現実を徹底的に分析した上での
未来構造の予想なので負けるビジョンも見えてしまう。
それがこのやり方をもう一度やった時だ。今度は捌ききれずに空破断をまともに受けて負ける。
……本当に殺す気で来てるんだな、アイン。
次に空破断を放たれたら絶望的だというのに俺は心のどこかで目の前のアインハルトは何かの間違いでここに居るのではないかと淡い希望を抱いていた。俺の部隊を壊滅させたこのアインハルトを許せないのも事実。今すぐぶん殴りたいという怒りの感情もある。
だが、やはり目の前のアインハルトはやはり“あの”アインハルトの未来の姿なのだ。それが戦おうとする俺の心にブレーキをかける。魔術回路を展開させないとここまで考える事は出来ない。通常の状態で思考していたら冷静さが欠けてしまいトラウマとなってパニックになっていただろう。
「……私と戦う事に迷いを捨て切れていませんね。未だに保身で戦っている」
「……」
アインハルトからは心を見透かされたかのような的確な言葉が飛んでくる。表情は相変わらず無表情で冷たい目が俺に突き刺さる。
「……未来でも……」
「?」
「未来でも……お前は笑わないんだな……」
「……」
その言葉をどう受け取ったのか無表情だが少しだけ目を伏せたのが分かった。笑わない事に何か問題があったのだろうか。
それは本当にほんの僅かの間でアインハルトは直ぐに冷たい目でこちらを見る。そして、先ほどとは異なる構えをとった。
その構えは俺の良く知っている……。
「立ち……居合……?」
右手を左腰に添え体を少し捻り腰を落とした。刀など持っていないのにそこに本当にあるかのような構え。
俺は立ち居合の構えをするアインハルトに戸惑いを隠せずにいた。
それだけでも驚きなのに更にその構えに垣間見える癖は俺の癖に良く似ていた。その行動だけで二つの発見を見つけてしまった。立ち居合に俺の癖。
どういう事だ?俺が未来のアインに関わっているって暗示か?
俺はアインハルトに対して大きな疑問を感じながらもアインハルトと同じ立ち居合を構える。
「居合の型……」
口を開いたアインハルトの静かな言葉だが行動は静かではなかった。
「“連刀”」
「……っい!!」
アインハルトは素早く抜刀モーションを行い、振り斬った姿勢になった。遠い間合いから抜刀モーションを見せたアインハルトから何かが飛んでくるのが分かった。斬撃だ。細長い斬撃が斜めに飛んでくる。
俺はそれを何とか見切って紙一重で避ける。しかし、ホッと一息つく暇もなく次々と斬撃が飛んでくる。アインハルトは素早く納刀し何度も抜刀モーションを行う。刀の重さが無い分、更なる速さで斬撃を飛ばしてくる。
細長い斬撃の真空刃が斜めに縦に横にと不規則に飛んでくる。その数はゆうに20を超える。
「っく!!」
俺はそれを全て捌ききるのは不可能と判断して周囲に黒い粒子を展開させる。未だに謎の多いこの粒子。この展開を打破するにはこれしかない。
展開した粒子を大型バスを包み込めるほどの大きさに四角く固めて5層にわたって俺の前に配置する。
その一層目にアインハルトの斬撃が飛んできた。一撃目は防げたが既にひびが入った。続けざまの二撃、三撃でひびは大きくなり四撃目でその一層は打ち砕かれた。
なのはさんの砲撃をも防いだ黒い粒子の固定化物質だぞ!!一撃一撃にどれほどの威力があるんだ!!
更にアインハルトは追撃で抜刀モーションを行い、追加の斬撃が俺に放たれる。すでに四層目が壊されていた。追撃を増やされた事で直ぐに俺の所へ斬撃がやってくる。
なら……親父のやり方をを思い出して……。
俺は更に周りに展開している粒子を一斉に武器に変えた。無数の武器の形に固定化してその矛先を五層目を破壊しそうな斬撃に向ける。数は50近く。
……っ、凄い集中力が居るな。
全てを固定化して留めるというのは並大抵の集中力では維持できない。先ほどのようなただ四角いだけというのなら簡単にとどめられるが、一つ一つに形のある武器をイメージし留めるというのはかなりの集中力が必要だった。
どれも同じ形にすれば良いのだが、親父のように様々な武器の形を留められると予測思考で分かったので実行に移った。凄い集中力がいるが出来ないわけでは無い。予測思考による思考高速があったからこそできる芸当。本当に魔術回路展開限定の技だ。
そして、五層目が破壊された瞬間それらを一斉に放った。斬撃と武器の交わり。お互いに金属や鉄では無いので武器と武器がぶつかり合うような音高い音はしない。ただ力と力がぶつかり合った衝撃音だけが響いてくる。その度に煙幕が発生する。それは次第に大きくなり俺とアインハルトはその中に取り込まれていった。
少ししてお互いのぶつかるモノが無くなり静寂が包みこまれた。
「……っぐ!!」
煙の中からアインハルトが右足の飛び蹴りを放って飛んできていた。俺は視界が悪かったため反応が遅れ鞘での防御ではなく右腕での防御を行った。
その時に右腕からゴリッという嫌な音が聞こえてきた。威力は申し分なく俺は防御をした上で蹴飛ばされた。少し控え目な放物線を描いて何とか着地する。
……っぐ!!右腕……いっちまったか……。
右腕がかなり熱く痛みを主張してくる。右腕の骨が折れて悲鳴を上げているのだ。かなりの魔力を右足に注ぎ込んだのかたったの一撃で右腕を壊された。強靭的な肉体でなければ粉砕骨折で右手は一生使いものにならなかっただろう。ただの骨折で済んだのはむしろ幸いだったかもしれない。
それでも右肘から先を動かそうとすると折れた骨が筋肉や細胞に突き刺さり強烈な痛みが襲ってくる。今の右手は使いものにならない。
アインハルトはそんな俺を気にもせず再び襲いかかってくる。
「ちっ!!」
「遅いです」
右側を狙われ続け防戦一方になる。威力の大きい攻撃は何とか捌くが細かい攻撃は所々俺にヒットしダメージを蓄積していく。このままでは不味いと俺は判断し黒い粒子を俺の半径2メートルに展開させる。
「“時間支配”……ですか?」
「えっ?」
聞き慣れない単語に俺は変な声を出してしまった。それでも展開させアインハルトの攻撃を捌き続けた。
そして、その中で戦っていたからかアインハルトの速度が目に見えて遅くなった。この中の時間を遅らせて俺の中に親父か持っていたスキル“現時間”があったのか、ただ単に俺の体感速度が上がったのかは分からない。
アインハルトの放たれた拳を左手で受け止める。遅くなっているため受け止めるのは容易だ。
「“時間支配”ってなんだ?」
そして、俺は先ほどアインハルトが呟いた言葉が気になり聞いてみた。アインハルトは追撃すること無く俺の言葉に返事した。
「……貴方はまだ理解していないのですね」
「これをか?」
こくりと頷く。アインハルトは拳を握っていた俺の手を振り払い大きく後ろへと後退し粒子の圏外へと逃れる。
「ですが、関係ありません。ガイさん……終わりにしましょう」
「終わり……っ!!」
アインハルトから膨大な魔力が放出されている。“宝具”を使うのかも知れない。俺は最大限に警戒して予測思考で1つの結論が上がった。あれは俺が敵うモノでは無いと。
そして、その放出された魔力は次第にアインハルトの右手の中へと収縮を始める。ギュルルルという空気摩擦の音が凄まじさを物語る。超圧縮魔力があの中に収まろうと大気の空気が悲鳴を上げている音なのだろう。少ししてその音も収まりアインハルトの手のひらにはあるモノが存在していた。
右眼に黒い眼帯をした虎のような姿をした小型のマスコット。
「なん……だ?」
あれほどの圧縮した魔力によって出来た産物があの可愛らしいマスコット。
『にゃ!!』
そして、それは動物の可愛らしい鳴き声を発した。片眼でありながら可愛らしい外見を見せるアインハルトの中で起き上がったマスコット。戦いの場に相応しくないなりだ。
いや、あれはヴィヴィのクリスと同じ……デバイスか!!
俺は瞬時に理解した。あれはデバイスであり“宝具”として扱われているぐらいに有名になったのだろう。
「宝具“アスティオン”。この世界の時間帯ではまだ私は受け取ってませんが」
「デバイス……」
「ガイさんを殺します。ティオ、モードリリース」
『にゃ!!』
手のひらに居たあのデバイス……ティオは光りながらアインハルトの手から降りて地面に着地した。その間に大型の豹に変化していた。
「……っ」
『ぐるるるっ……』
牙を剥き出しにして俺に威嚇の色を見せる片目眼帯のティオ。先ほどの可愛らしマスコットとは面影もない。今にも俺の喉元に食いついてきそうだ。
「戦えるデバイスか……」
ここまでの驚きの連発に逆に冷静になって分析することが出来た。もはや俺一人では手に負えないレベルだ。予測思考の結末でもティオに首を食い千切られるかアインハルトに手刀で心臓を抉られるかのどちらかしかない。ならやるべき事は決まっていた。
「セットアップは必要ありません。ティオ、行きます」
『がるるるっ』
アインハルトは覇王流の構えを、ティオは体制を低くして俺の出方を伺っていた。そして、一人と一匹は俺に襲いかかる。
「令呪をもって命ずる……オリヴィエ、来てくれ!!」
もはや俺ではどうする事も出来ないので令呪によってオリヴィエを呼ぶことにした。令呪の一画が消える。これで残りは一画。
令呪の命令により俺の目の前が光り出し一瞬にして騎士甲冑に武装したオリヴィエがアインハルトの拳とティオの牙を防いでくれた。
「……ガイ、やはり危機的な状況に居たのですね。ですからついてこないで下さいとプリムラに伝言を残したのですが」
「ああ、聞いてた。でも心配だったから部屋を出てきた」
こちらを見ずにアインハルトを見ながら語りかけてくるオリヴィエ。
孤独を生きてきたオリヴィエの夢を見た後で直ぐに会いたかったオリヴィエが目の前に居てくれて、目覚めてきてからのモヤモヤ感は晴れる事が出来た。オリヴィエをなるべく1人にしたくなかった。
令呪で呼ぶのは本当に最後の手段だった。よほどの事情が無い限り使うべきではない。しかし、今がそのもしもの時だろうと俺は判断した。
何はともあれオリヴィエに会えたことで安心感が心の中に芽生えた。
「オリヴィエ……」
「アインハルト……それに雪原豹……」
しかし、その安心感を得たのも束の間、オリヴィエにはこっちの戦いに参戦させるべきでは無かったと後悔がわき上がってきた。このアインハルトにオリヴィエを成るべく会わせたくはなかった。
時間軸は違えど聖王と覇王の2人が戦場で対立の立場として立っている。2人を戦わせたくなかった。
……こんな状況になってしまたのも俺が弱いばかりに……か。
「名前はアスティオンです」
「生まれることが出来なかった子の名前ですね。いい名です」
「……っふ!!」
オリヴィエの言葉が振り斬りるかのようにアインハルトは空いている拳をオリヴィエに放つ。オリヴィエは上半身を後ろに振りそれを避けて蹴りを放つ。
アインハルトはそれを避けて足に魔力を込め蹴る。それをオリヴィエは避けながらもティオの牙が食い込んでいる右拳に魔力を精製する。
「ティオっ!!」
それをいち早く擦したアインハルトはティオの名前を叫ぶ。ティオも動物的な本能で分かったのは咥えていた牙を離して、低い体勢をとる。その瞬間に拳から一発の虹色の魔弾が飛んで行った。“聖王聖空弾”だ。一発の魔弾を生成して放つ。一発だけのこの魔弾は一発だけだからこそ魔力の量も質もけた違いに濃いし多い。
ティオの真上を通り過ぎた虹色の魔弾は一直線に建物に直撃してその魔弾の大きさの穴が綺麗に出来上がっていた。周りにひび割れが無いのはそれほどまでにその一点に魔力が収縮しているのだ。まともに受けたら五体満足に入られない。
「……っ!!」
そして、自由になった右拳がアインハルトに放たれた。それを受け止めるが……。
「“聖王聖連拳”」
拳三つ分の威力のある聖連拳。アインハルトが苦い表情を浮かべながら足の裏に摩擦抵抗を受けつつ擦り下がる。ティオも主人が気になりアインハルトの近くまで走り出す。
やはりオリヴィエは強かった。あれほどまで苦戦しまくっていたアインハルトをこうも簡単に迎撃できるとは。
しかもアインハルトと戦う事に迷いが見えない。アインハルトを倒す気でいる。オリヴィエには既にアインハルトと戦う覚悟を決めていたのだろうか。
「オリヴィエ……」
「……何でしょう?……あ、右腕が折れてますよ!!」
「これは別にいい。一つ質問がある」
俺はオリヴィエの隣に立ちアインハルトを見据えながら質問した。オリヴィエは俺の右腕を見て心配そうな表情を浮かべてくるが俺の言葉を聞く態勢に入ってくれた。俺は一番の疑問をぶつける。
「何故戦える?アインが相手でも戦えるのか?」
「……ガイは戦争を経験していませんからこのような状況をどう判断したらいいのか分からないと思います……時として仲間に手を加えなければならない時もあります」
オリヴィエはそう言って俺に心配な表情から悲しい表情へ移り変わり、目を伏せながら暗い笑みを作った。オリヴィエの周りはとても寂しそうな雰囲気が漂ってきた。
「世界は……残酷なんです」
「……」
“世界は残酷”。オリヴィエから放たれた言葉は妙に重みのある説得力が伝わってきた。戦争を体験してきたからこそ“世界は平和”では無く“世界は残酷”だとはっきり言えるのだろう。
平和じゃないんだな……。
何を見て何を思ったのか。オリヴィエのその一言を聞いただけで容易に想像出来てしまう。
住んでいた故郷が戦場と化して帰る家が無くなったり、寝返った兵士を倒さなければならないなど。例を上げていくときりがないだろう。戦争は俺が想像する以上に地獄なのだから。
「……だよな」
俺はその言葉の意味を解釈して受け止めた。俺の戦争に対する考え方が未だに甘いと実感できたからだ。自分の甘い気持ちを切り替えるべく今ある心の迷いを捨てるべきだ。
目の前のアインハルトは倒すべき敵であると。
迷いを……消そう……。
「迷いは消えたのですか?」
「……ああ、アイン。部隊の敵としてお前を倒す」
「……“倒す”ですか。“殺す”ではないのですね」
「“倒す”よ、アイン」
「まだ甘いと思います」
「いろいろと聞きたい事もあるからな。“倒す”よ」
「……」
突然飛んできたアインハルトからの質問に俺は受け答えをした。殺しはしない。捕えて色々と聞く事もある。
俺の返した言葉をどのように受け止めたのかアインハルトの表情が少し不機嫌さを晒し出しているのが分かった。何を思っているのかは分からないが。
「親しい人を相手にするというのは辛いことです」
「ああ。でも……これが戦争なんだよな」
こくりと頷くオリヴィエ。迷いを捨てた俺を見て静かに笑みを溢す。そして、すぐに表情を険しくする。
「ですが、ガイはガイなりの解決方法を見つけるべきだと思います」
「俺なりの?」
「私のように道を踏み外して墜ちていかない様に」
「……?」
オリヴィエの言葉には何か意味深な単語があった気がしたが、顔を少し伏せ気味で暗い表情を浮かべているオリヴィエを見てその単語の意味を聞く事はしなかった。
「オリヴィエが相手ではかなり分が悪いです」
「……そう言いつつも放たれた冷たい殺気が全く収まっていませんよ。私を倒す気満々ですね」
「負ける気はしませんので」
そして、今対立しているアインハルトがオリヴィエに言葉を掛けてくる。言葉を掛けられたオリヴィエは表情を再び笑みを浮かべてアインハルトを見て言葉を返す。
「ガイ、この聖杯戦争は何か変です」
「変?」
「先ほどバーサーカーの正体が分かりかけたのですが違和感があったのです」
そのまま話を続けるのかと思いきや直ぐに俺に話を振って来た。
「バーサーカーっ!!あんな凶悪な奴と戦っていたのか?なんて危険な事を!!」
「その時はアーチャーのなのはと共闘していましたから何とか凌げました。ですが、ガイは1人で立ち向かったと聞きましたよ。ガイの方が危険です」
「むっ……あ、あれは……」
痛いところを突かれてしまい言葉を濁してしまう俺。オリヴィエはこちらに顔を向けてふふっと小さく笑って会話を続けた。
「説明をしている暇は無いです。とにかく今はこの状況を打破しませんと」
「ああ、そうだな」
俺とオリヴィエは再びアインハルトを見る。こうして話をしている間に襲って来ないかと思ったが以外にもアインハルトは大人しく俺たちのトークに耳を傾けていた。オリヴィエに不意打ちは無意味だと悟ったのか、はたまた余裕の表れなのか。アインハルトの表情からは読み取れない。
俺とオリヴィエは構えをとる。俺は右腕が今は使い物にならないので抜刀して左手で刀を持ち構えていた。片腕を潰されては鞘を押さえる手が無いため居合の構えも無意味になる。バインドをうまく使えば使えるが、魔導関係は魔術回路を使っていない時にしか使えない。
左手か……うまく扱えるかな。
「ティオ、セットアップです」
『ぐるるる』
ティオは主人からの命令に従い、光り輝きだして真っ白な魔力原となってアインハルトの中へ入っていった。
それと同時にアインハルトは瞬時にバリアジャケットにセットアップした。現代のアインハルトの武装形態の姿とは少し異なるデザインOLが履くようなタイトなスカートでは無く、戦いやすいように切れ目の付いたスカート。髪の縛り方も現代のアインハルトと同じような髪型のままで左側にはリボンが付いている。
バリアジャケットを纏ったアインハルトを見て俺は生唾を飲んだ。先ほどと比べると圧倒的に魔力の差が違う。先ほどよりも三倍以上の魔力量がある。その魔力の量の多さにちっぽけな俺は飲み込まれそうになる。
しかし、それを見たオリヴィエは特に驚くことなく冷静にアインハルトを見据えていた。英霊クラスとなるとあのくらいの魔力量が有ってもおかしくないのだろう。だから驚く事はしない。
俺もどうにか驚きを抑えて分析に移った。アインハルトは静かに構える。一触即発の緊迫感が三人の間にはあった。誰かが動けば瞬時に対応することが出来るように。
そして、それはすぐに訪れた。誰が動いたかはわからない。俺を含め三人が三人とも誰かが動いたから行動に出たのだろ。
再びこの街頭で戦闘が始まった。周囲にはぶつかり合った衝撃波の余波が勢いよく飛び散って行った。
しかし、俺はオリヴィエと話をした事により新たな疑問が頭に浮かんでそれが気になってしまっていた。
……この聖杯戦争は何か変?何だ?
―――10分前 St.ヒルデ魔法学院
右肩から右手甲の甲冑、左足付け根から外れた甲冑を着たバーサーカーを私は深く凝視していた。甲冑を外せば外すほど魔力が膨大に膨れ上がっていく。二つの切口のある白い甲冑の根元からは邪悪なオーラが止めどなく放出されて白い甲冑の色が見えなくなっていた。一般人がまともにそれに触れたら気が狂ってしまうでしょう。甲冑の面はまだ割れていないので顔は分からない。バーサーカーは構えている。
令呪によって私、なのは、衛宮士朗を皆殺しにする殺人鬼へと変貌したバーサーカー。私達を殺すまでしつこく迫ってくる。令呪でその命令を打ち消すか霊体化させない限りきっと地の果てまで。
ですが、私はそれよりもこのバーサーカーに対する違和感を拭い切れていなかった。バーサーカーのあの構えを見てからどうしても。
「何の……違和感……?」
「え?何か言いました、フリージアさん?」
「いえ……なんでもありません。気を引き締めて下さい、なのは」
「……うん」
隣に居たアーチャーのなのはに私の呟きを拾いかけていたのか声を掛けられる。なのはは私に言われて表情を引き締めなおす。
なのはのマスターである衛宮士朗はトレディの攻撃を受けすぎて動けない状態だ。バーサーカーと戦いつつ衛宮士朗を助けないといけない。
考え事は後ですね。
「Alaaaallllllllalalaal!!」
バーサーカーは雄叫びと共に私達に向かって一直線に突進してくる。そのまま右拳を私の顔面めがけて放たれた。早い動作だが私はその軌道を読み切ってクロスカウンターのように避けつつ左拳をバーサーカー顔面に打ち込もうとした。
「!!」
しかし、それはバーサーカーがしゃがむ事で簡単に避けられ、なおかつ拳を放った私に隙が出来てしまった。運動エネルギーを瞬時に静止エネルギーで止めた上に移動ベクトルを下へと向けてしゃがみこむ。
並の人間の反射速度で行える動作では無い。いや、人間の域を脱した英霊クラスといえどもこの反射神経は異常だ。いくらバーサーカークラス特有の“狂化”スキルで各ステータスが上がったとしてもこの速度はおかしい。
これでも甲冑は全て外れているわけではない。全ての甲冑が外れたバーサーカーに敵うサーヴァントなど本当に居ないのではないだろうか。
そして、しゃがんで避けたバーサーカーはすぐに左拳をアッパー気味に放っていた。
早いっ!?受けが間に合わない!!
ガンッとバーサーカーの左拳は私の目の前に割り込んできたなのはの盾にブツかってその勢いが無くなった。
「はあぁああぁ!!」
その隙になのはは剣の付いた盾を腕に装着してバーサーカー後ろから斬りかかる。
「っ!?」
しかし、その攻撃にバーサーカーは見ないで手甲が外れた生身の右手で剣を受け止める。血は出ずに勢いを殺して掴んだのだろう。
「はあぁ!!」
右手が盾に受け止められ剣を受け止めている左手が塞がっているこの一瞬の今が好機と判断して、私は盾の後ろから飛びあがって踵落としをバーサーカーの頭目掛けて振り落とす。
しかし、それはバーサーカーの右足が垂直に私の踵目掛けて飛んでくるという思わぬ迎撃によってその追撃は失敗して相殺された。
これも防がれる!!四脚の一つの甲冑を外しただけでこれほど動きが変わるなんて!!
そして、バーサーカーは四肢を巧みに動かし、私やなのはは台風からはじき出されたかのように大きく吹き飛ばされた。
私となのはは正反対の場所へ飛ばされて何とか着地する。
あの動き……どこかで……。
「Allaalalaaalaalala!!」
「なっ!!」
しかし、体制を整えながらバーサーカーの方向を見るとすでに目の前に迫って私の顔面に蹴りを放っていた。防御の受け付ける時間が存在しないほどに蹴りは迫っている。
その蹴りはすぐに私の顔面にぶつかり更に飛ばされるかと思った。
―――令呪をもって命ずる……オリヴィエ、来てくれ!!
「っ!?」
その時、脳裏にガイが必死に私を呼ぶ声が響いてきた。そして体は勝手に霊体化されてガイが居る場所へと瞬間移動した。
出てきた瞬間、拳と牙が襲いかかってきた。
こ、こっちもですか!?
私はこっちでも攻撃が迫ってきて驚いたが、先ほどのバーサーカーほどの速さではないので受け止める。後ろにはガイが居る気配がした。
私は一度心を落ち着かせてガイに言葉をかける。
「……ガイ、やはり危機的な状況に居たのですね。ですからついてこないで下さいとプリムラに伝言を残したのですが」
「ああ、聞いてた。でも心配だったから部屋を出てきた」
と、私は厳しく言いましたが心の中では無事でいてくれて良かったと安心していた。それにガイが私の心配をしてくれて嬉しいとも感じた。信頼できるパートナーだからこそ心配してくれているのが凄く嬉しかった。
そして、目の前の人物を見てガイが苦戦している理由がすぐに分かった。
「オリヴィエ……」
「アインハルト……それに雪原豹……」
アインハルトが居た。ガイの言っていた未来のアインハルトなのだろう。初めて見たがこの世界のアインハルトの面影を残しているのが所々伺えるので間違いない。
ガイの中ではきっとまだ迷っているはずだ。
しかし、私はその他にも何か違和感をこのアインハルトから感じ取れた。先ほどのバーサーカーと同じような違和感。
この聖杯戦争何かがおかしいですね……この拭えないモヤモヤ感はいったい何でしょうか?他のサーヴァントと出会った時は何も感じなかったのですが……バーサーカーに違和感がある?いえ、アインハルト……アサシンにも感じられた。
私の中の違和感は更に膨らんでいき、それは疑問へと変わった。
ガイに一言言っておきましょう。ですが、アインハルトにも感じた事は黙ってますか。ガイにアインハルトに対して余計な心配を増やしたくありません。
私はガイにアインハルトの事を除いてその事を報告し、アインハルトと対峙した。
……この聖杯戦争は何かがありそうですね。
―――St.ヒルデ魔法学院
「……辛いね」
『ハードワークはいつもの事ですよ』
「んっ……」
フリージアさんがいきなり目の前で消えて、蹴りを放ったバーサーカーはただ空気を斬っただけだった。バーサーカーはそれに対して驚くのかと思えばすぐに向きを変えて私に迫ってきた。
令呪で命令されているせいなのかただの殺人マシーンへと変貌していてフリージアさんの次に一番近くにいた私を目標に変えただけなのだ。無駄な感情が無い分、行動に一切の無駄はない。
フリージアさんはたぶんガイ君に令呪で呼ばれて強制召喚されたんだろうね。ガイ君も危険な状況に居るかも知れないって言ってたし。でも、ここでいきなりいなくなるのはちょっとキツイかな。
私は目の前に三つの盾を横一列に並べて魔力の壁を張り防御の陣形を形成する。
バーサーカーはそれに迷う事無くぶつかる。結果はすぐに訪れ、三つの盾は吹き飛ばされた。
「Laaaalalaaalaa!!」
「っふ!!」
バーサーカーは勢いをほとんど殺すことなく私に拳を放ってくる。それを私はクロスカウンターのようにバーサーカーの拳を避け、カノンの銃口を零距離でバーサーカーの顔面に向けた。
盾で防御の陣形を作ったのは僅かな隙を作るためだ。盾を吹き飛ばしたことによる一瞬の隙を私は見逃さない。
「ヴァリアブルキャノン!!」
零距離による砲撃。直撃は免れないだろうと確信していた。しかし、バーサーカーは首を捻る事によって避けていた。あり得ないぐらいの反応速度。常人、いや英霊の域すら脱している反応速度。
「っぐ!!」
当たると確信していたがためにバーサーカーの次の攻撃を予測していなく、バーサーカーの反撃に対する反応が遅れた。
振り上げる蹴りを何とか紙一重で避ける。僅かにかすって頬から血が出る。
「えっ!?きゃあああ!!」
しかし、次の攻撃の反応は既に間に合わなかった。私の頭を手甲の外れた生身の右手で鷲掴みして、ギリギリと締め上げていた。
右肩甲冑が外れた場所から邪悪なオーラが手に伝わり私にへと伝わってくる。この頭の痛みでも辛いのにこのオーラに当てられて正気を保っていられるかどうか怪しくなる。
あ、頭が割れ……そう……。オ、オーラに当てられる……。
痛みに耐えながら邪悪なオーラに当てられて自分の中の大事な何かが壊れそうになる。
……で、でも、負けない!!レイジングハート!!
『了解、マスター』
私はその手から逃れることを考えずに痛みに耐えながら私は愛機に命令した。バーサーカーに吹き飛ばされた盾を呼び戻しバーサーカーを囲んだ。
そして、収集されていた魔力をその中央に居るバーサーカーに放った。ブレイカーだ。各盾に蓄えていた魔力を収集し一気に放出したのだ。同時に煙幕が私とバーサーカーを包み込む。
『攻撃の型。卍固め』
「Laalaa!!」
「っく!!」
バーサーカーの雄叫びが轟く。無論零距離に居た私もそのブレイカーに巻き込まれる。自分の攻撃とはいえこの痛みに気が遠のいてしまう。頭の痛みにこれもプラスだとかなり辛い。
っぐ、で、でも、バーサーカー!!絶対倒す!!
常人なら既に意識は遠のいていた。しかし、どんな状況下でも屈指ない私の保有スキル“屈指の心”で遠のく意識を無理やりに抑え込む。
そして、ブレイカーが止んだ。少しずつ煙幕が晴れていく。それと同時に頭に走っていた痛みも無くなった。
た、倒した……?
ガシャンと盾内に蓄えていた魔力の切れた為、自動操作していた盾が力尽きて地面に転がった。再び動かすには私から魔力を繋げないと動かない。
魔力繋げないと……っつ!!
「っぐ!!」
魔力を繋げようとしたら再び頭に痛みが走りだした。掴んでいた私の頭を握り潰すため再び手に力が入り始めたのだ。
煙が晴れて私の頭を掴んでいる腕の先には、その腕を動かす体が五体満足のまま現れる。
「Laa……la……laa……laalaaaaaaaaaaaaaaaa!!」
「バ、バーサーカー……ま、まだ……動ける……の……」
あのブレイカーを食らって未だに動けるバーサーカー。強靭的な肉体を備えていることが分かる。どれほどの過酷な訓練をして来たのだろうか。想像を超えるモノなのだろう。
そして、頭の痛みも増していき頭蓋骨からミシミシと嫌な音が鳴り始めた。
『マスター!!』
愛機のレイジングハートが必死に先端部分から砲撃を放っては居るがそれはトレディによって捌き斬られる。
「折角の殺戮ショーを邪魔しちゃいけないよん♪」
トレディがレイジングハートの攻撃を受け止めている。盾も動かすことが出来ない。絶体絶命の危機が訪れていた。今にも頭蓋骨が握り潰されるというその恐怖が襲ってくる。それほどまでに強大な力で私の頭を握りしめている。
「投影、開始(トレース・オン)」
「Laaaalalaalaa!!」
しがし、その痛みはその二つの声を聞くと同時に和らぎバーサーカーの右手から私は解放された。
「……ふ~ん、あれが“投影”ねぇ……」
「マ、マスター……」
「工程完了。全投影、待機」
私は急いでバーサーカーから離れて盾に魔力を繋げながら衛宮君の声がした方向を見る。
「え?何これ?」
私は戸惑いを隠せなかった。衛宮君の周りに幾つもの武器が矛先をバーサーカーに向けて空中で停止していた。数は30近く。1つ1つが歴史に名を残す武器に見えてくるような精密な武器だ。
これも魔術の一種なのだろうか。
それにこの武器を空中で停止させるような技はまるで……。
私は脳裏にもう1人の人物を重ねていた。
「憑依経験は付けていない、ただ飛ばすだけの武器だ。狙いはすでに付けている」
衛宮君はそう言ってバーサーカーとトレディに視線を向ける。バーサーカーを見ると右腕には二本の槍が突き刺さっていた。
そのおかげでバーサーカーの筋肉が緩み私はあの手から逃れることが出来たのだ。
「あら~ん、流石にそれは全部防ぎきれないわねん♪」
口では無理だと言っても余裕の表れが雰囲気や表情から伺える。バーサーカーはなぜか大人しくしている。
「まあ、“投影”を見れただけでも十分収穫はあったわ。ここら辺が潮時ねん」
「まて、なんで俺をここに呼び出した?」
「きゃはは、一度“投影”という魔術を見てみたかっただけねん。本当は“固有結界”も見てみたかったけど、それを見るためには準備が必要だしねん」
「お前……こっちの人間か?」
「ふふん、違うわ」
残忍な笑みを絶やさないトレディは愉快そうに話を続けている。正直今を逃すと厄介な組になることは間違いない。出来ればここで討ち取りたい。
私はカノンに魔力を込める。
「おっと、アーチャー。ここは引いてあげるんだから大人しくしてねん。じゃないとバーサーカーの甲冑をもっと外すよ」
「……っ。やはりその甲冑は力の制御の役割を果たしていたんだね」
「きゃはは、さぁてね……」
そう言って、トレディはバーサーカーの左肩に飛び乗り座った。
「きゃはは、また会いましょうねん」
「出来れば戦いたくはない」
「それは無理ねん」
その言葉が最後でバーサーカーは足に魔力を込めて高く跳んでこの場から消え去った。先ほどの騒がしさとはうって変わって静寂さが夜の校庭を包み込んだ。
「目標ロスト。バーサーカー、この場から消えました。後を追いますか?」
「いや、いい……投影、解除(トレース・オフ)」
衛宮君はバーサーカー達が居なくなったことにホッと一息ついて武器を解除した。解除した武器は瞬く間に消え去った。
追跡はしない。それは正しい選択だと思う。かなりのダメージを受けてしまったので追撃したら返り討ちにあうのが目に見えて分かる。
衛宮君の近くに移動する。頭を斬ったのか血が垂れて右目に入り、片目を瞑っていて息も上がっていた。かなりのダメージをトレディから受けたのだろう。
衛宮君も満身創痍な状態だった。
「大丈夫?衛宮君?」
「あ、ああ、なんとかな。でも、少し休ませてくれ」
そう言いつつ衛宮君は立っているのが辛かったのかその場に座り込んでしまう。私も座ってダメージが回復する訳では無いけど隣に座ることにした。
空を見上げると星がとても綺麗に輝いている。二つの大きな星に周りの小さな星が夜空をデコレーションしている。どの時間軸にいても変わらない夜空。不思議と心は穏やかになる。
「衛宮君、凄いね。あれが“魔術”なんだ」
「まあ、まだ半人前だけどな」
そう言って、片目で私が見ている同じ空を見上げる衛宮君。私は話を続けた。
「え~と、固有……結界だっけ?それも魔術なの?」
「魔術では“大禁呪”とも呼ばれている」
「大……禁呪……」
私は先ほどの衛宮君とトレディの会話で気になる所を聞いてみた。“投影”は先ほどの武器を生成させる事が出来る魔術なのだろう。なら、もう1つの“固有結界”はどのようなモノなのか知ってみたかった。
「まあ、この話は追々するとして今はトレディの正体が気になる」
「あのマスターですか?」
だけど、その話はすぐに逸らされてバーサーカーのマスターに話が流れた。衛宮君は話を続ける。
「少し前に遠坂と情報交換をしたのは知ってるよな?」
私は頷く。霊体化して私も遠坂さんのを聞いていた。魔術に関しては一番詳しそうな人物だったのでその話はとても興味があった。その時の魔術観点からの説明を思い出す。
「こっちの人間で魔術を扱うのは出来ないと言っていたこと?」
「ああ、こっちの魔導や魔法の類を使い続けている人物が魔術刻印を刻んで魔術を扱うと中の魔力が暴走を始めてしまい、体中の血管がズタズタに引き裂かれる」
「1つの体に二つの力は入らない……」
「けど、あのトレディは魔術で鳥を操りここに来るように伝言を伝えてきた。こっちの人間では出来ない芸当だ」
「でも、トレディは魔術を扱う地球出身じゃないと否定していた」
「その言葉を信じるならな」
なら、ガイ君は?生前の私はガイ君が魔術を使う場面を何度も見てきた。そうなるとガイ君は魔術も魔導も扱える人間となる。何か特別な仕組みを施しているのかな?武器を空中で停止させる技はガイ君もやっていた。
私は思考の渦から一度離れるため見上げていた夜空から衛宮君に視線を移す。衛宮君は一度ため息をついて見上げていた夜空から夜のグラウンドに戻した。
「謎が多い組だよ。でも倒さないといけないのか」
「……迷っているの?」
「あの少女には前の聖杯戦争で参加していた少女に見えてな……助けられなかったけど」
「……」
衛宮君はただ真っ直ぐに夜のグラウンドに視線を向けたままだった。その少女がどのような理由で参加したのかはわからない。
衛宮君とは友好的な相手だったのかも知れない。それがその聖杯戦争で命を落としてしまった。衛宮君的にはトレディは精神的に辛い相手なのかもしれない。
「“正義の味方”はまだまだ遠いな」
「それが衛宮君の願い?」
話しがまたズレた。衛宮君もあまり思い出したくはないのだろう。私の言葉に衛宮君は頷く。
初めて衛宮君の願いを聞いて安心した。世界征服とか全人類抹殺みたいな変な願い事ではなかったから。
私はそっか、と相槌をうって再び夜空を見上げた。今日は本当に星が綺麗。
「難しい願いなんじゃないの?何が正義で何が悪なのかというボーダーラインが無いのに」
「ああ、前の聖杯戦争で“未来”の俺自身と戦った事がある。そいつは諦めてしまった、“正義の味方”が破綻していると気づきその歩みを止めてしまった」
「……」
今日は色々と衛宮君の話が聞ける。こんな星明りのいい日に聞くと記憶に強く刻まれて忘れないだろう。
「数百人を救うためにその十倍、百倍の人数を殺したりして、その理想が破綻していると未来の俺は気づいてしまった。でも、それでも、その理想を突き進むことが俺という衛宮士朗が生涯を通して問いかける“正義の味方”なんだ。その先に“誰もが幸せになれる世界”をあると信じて」
「……」
似ていた。願いがガイ君に似ていた。
“魔法で誰もが不幸にならない世界”
生前にガイ君に聞いたことがあったけどガイ君も似たような事を言っていた。この2人の願いはとても似ている。
「その願い、叶うといいね衛宮君」
「んっ、そ、そうだな……」
衛宮君がこっちを見たのでにっこりと笑ってあげた。そしたら衛宮君は私から少し視線を離した。ウブな人だ。
私は衛宮君が清らかな心を持っている人だなと思って、立ちあがった。
「少し話をしすぎましたね。私はこれからフリージアさんの捜索にあたります」
「そういやフリージアの姿が見えないな」
「令呪で強制召喚されたようです。ガイ君が危機的な状況に瀕している可能性があるので」
「大丈夫か?」
「ええ、ダメージを負ってしまいましたが援護射撃程度ならどうにか」
「無理はするなよ。俺も場所が分かったらすぐに向かう」
「はい、その時は連絡します。大体の方角は分かります。けど、衛宮君は今のうちに少しでも休んでダメージを取ってね」
「ああ」
衛宮君は心配そうな表情で私を見てくる。私は大丈夫、と言ってガッツポーズを見せる。
「マスターも早めに戻ってくださいね。ミカヤちゃんが心配しちゃいます」
「ミカヤの場合、ガイに何かあったら心配しそうだけどな」
「同じ道場で稽古している仲ですからね。そうならないためにも努力します」
「ああ、頼む」
私はコクリと頷いて空へと飛び出した。先ほどまで戦いをしていた学園がみるみる小さくなっていく。おおよその見当はついている。あの学園以外にももう1つ結界を張ってある場所がある。
フリージアさん、ガイ君、無事でいてね。
私は更にスピードを上げてその結界へと向かった。
―――街頭
「ぐっ……」
俺は刀を地面に刺し、そこに体重を乗せて何とか起き上がった。目の前では一般人が見ると音速をも超えるような打撃の攻防が繰り広げられていた。
オリヴィエとアインハルトだ。俺が必死に鍛えた動体視力でさえも全ての行動を把握することが出来ない。アインハルトはバリアジャケットに切り替わってから、威力、速さ、反応速度、状況把握力が格段に上がっていた。もはや今の俺では敵う事は出来ないと思うくらいに。それについていくパートナーであるオリヴィエもまた敵わない相手だと悟った。
あの2人の周囲の大気がうねりを上げる。2人が動くたびに縦横無尽に大気が暴れ出し周囲に暴風をまき散らす。
改めて思う。これが人の領域を超えた英雄同士の戦いなのだと。一般人にとっては雲の上の領域の戦いをしている。
俺は最初の数発のアインハルトの攻撃で態勢を崩され、その隙に一発腹に入った。咄嗟に後ろに下がったのが幸いしたのか内臓は破壊されることは無かったが激痛が腹部を襲いその場でうずくまった。
アインハルトがそんな俺に止めを刺そうと手刀を俺の頭に狙いをつけて振り下ろすが、オリヴィエがそれを受け止め弾き返し俺からアインハルトを引き離して打撃の攻防を展開した。
とてもじゃねぇが右腕を折られた俺にはこの戦いに入る事が出来ねぇ。オリヴィエの足手まといになる。
バシッと強引に二つのモノがぶつかりあった甲高い音がした。それと同時に先ほどの暴風よりも強力な風が俺の身体を貫いて行った。オリヴィエとアインハルトのお互いの拳同士が初めて当たったことにより、力の拡散が一番大きかったようだ。音速を超える速さは無くお互いにそのままの姿勢で停止していた。
「早いですね。この世界に居るアインハルトよりも格段に」
「この世界に居る私と同じレベルなわけがありません」
オリヴィエは小さく笑みを溢しておりアインハルトは冷たい表情でお互いを見合っていた。
「その笑みをクラウスは曇らせる事が出来なかった……」
「……まだ、覇王の悲願を……」
「いえ……」
アインハルトはオリヴィエの拳を突き返し、魔法陣を展開させた。
「覇王の剣(つるぎ)」
「それは……」
そして、アインハルトの目の前に地面から一本の巨大な剣がゆっくりと現れた。刀身の面積が大きい両刃の両手剣。刀身の真ん中あたりまで装飾が施されており、高級な雰囲気を漂わせる大きな剣をアインハルトは軽々と片手で握り重さなど感じさせないぐらいに軽々と振って構える。
「クラウスの愛剣です」
「過酷な鍛錬を積み重ねていかないとそれは扱えませんよ……いえ、アインハルトにそのような心配はいらないですね。クラウスですら両手で扱っていたのに、アインハルトは片手で……」
言い終わる前にアインハルトが動き、その両手剣を片手で振り下ろす。オリヴィエは特に驚いたようすもなくそれを半歩横にずれる事でかわす。
「居合の型……“連刀”」
「っ!?」
だがそれは残像なのか直ぐに消え本人は先ほどの場所から一歩も動いていなかった。そこから先ほど俺に放った連刀による複数の真空刃がオリヴィエ目掛けて飛んできた。最初の一歩を強制的に動かされたオリヴィエは反応が遅れ防御に回った。よく見ればそれが分身だと分かったのだろうが、先ほどまであの速度で戦いをしてきたので直ぐに迫って来たと思い動いてしまったのだろう。それが隙を作り出す結果となってしまった。
そして、先ほど見た連刀とは次元の異なる威力が伝わってくる。剣の重さがある分一発一発の間隔は少し空いているが、その一発が重すぎる。あれに触れたら並大抵の人間はズタズタに引き裂かれてしまう。
「っぐ……霧よ……」
俺は先ほどと同じく霧を様々な武器に変えて相殺しようとオリヴィエを狙っている連刀の真空刃にぶつけるため飛ばした。
しかし、相殺すると思っていた黒い武器は一方的に破れて霧状へ戻った。
「な……に……」
これほどまでに俺とアインハルトは次元が違うのか。力の差を思い知らされた。
「いえ、ガイは一瞬の隙を作ってくれました。聖王旋聖破……」
オリヴィエは構えを整え、飛んできた真空刃を右手刀で受け止め魔力を込めた左拳を当てて跳ね返した。
それはオリヴィエが付加した魔力分の威力が上がっているからか、相殺どころか一方的に打ち勝ってアインハルトの所まで飛んできた。
初めて見るけどアインの覇王旋衝破みたいだな。
アインハルトは特に驚く様子もなく冷静にそれを剣で受け止める。
「旋衝破」
そして、剣で再び返された。オリヴィエは今度は余裕をもって避けた。オリヴィエの後ろへ飛んでいった真空刃は目の前のモノを切り裂いて進んでいった。少ししてその音は止み、辺りは静寂に戻る。
「やりますね、アインハルト」
「……ここにいてはマズイですね」
オリヴィエからの称賛を無視したアインハルトの表情が僅かに曇る。そして、踵を翻して背を向けて走り出し瞬く間に霊体化してこの場から消え去った。
「え?何で急に?」
「さあ、わかりませんけど。確かにアインハルトの気配は消えました。アサシンの気配遮断スキルで身を隠して攻撃してくる可能性もありますが、あのアインハルトがそのような姑息な手を使う事はないかと思います」
「そうか……とりあえずは凌いだんだな」
目の前から敵であるアインハルトが消えた事で警戒心を解いてやっと心の底から安心することが出来た。それと同時に右腕に激痛が走りだした。緊張の糸が切れたことによって右腕の痛みが主張し始めたのだ。
俺は刀を鞘に入れ、ゆっくりと右腕を左手で掴んだ。
「って、流石に骨折は痛いな」
「そうですよ。早く固定しないと」
オリヴィエも脅威が無くなった後なので俺の右腕のことを心配してくれる。
「……」
「……?どうしました、ガイ?私をじっと見まして。急いで固定しませんと」
あの夢を見たせいで孤独にいたオリヴィエの近くにいてやることがオリヴィエの為になるのかと思ったけど実際はどうなのだろうか。
クラウスという伴侶を手にして孤独から抜け出したオリヴィエに俺がわざわざ近くにいてやることはないのではないだろうか。
あの夢にあてられたせいでオリヴィエの近くにいてやりたいというのは違う気がした。なら、なぜ俺は近くに居たいと思ったのだろうか。
「……いや、何でもない」
「……?そうですか」
簡単な話だ。オリヴィエを……パートナーを失いたくないだけだ。俺の部隊が全滅にあって、もう仲間を失いたくないと心の底で強く思っている自分がいるのだ。あんな思いはもう二度としたくない。
その為にも仲間を守れる強さが欲しい。
「……ガイさん?」
「「……っ!!」」
突然聞こえてきた少女の声に俺とオリヴィエは身を硬直して聞こえてきた方向を振り向いた。
そこに居たのはこの現実世界に存在する戸惑いの表情をしているアインハルトだった。俺とオリヴィエはその同じ声の人物と先ほどまで戦いをしていたので無条件に体が反応してしまったのだ。
「ア、アイン……なんでここに?」
「あ、あの……その、ガイさんにお会いして話をしたかったので探しました」
「……」
たぶん、アサシンのアインハルトはここに今の自分が来ることが分かったから退却したのだろう。聖杯戦争の掟で知られてしまった人物の口封じで消されてしまう。現代のアインハルトが消えてしまったら、あのアサシンのアインハルトは存在しなくなってしまう。
では、なぜ人避けの結界を張られているにもかかわらず現代のアインハルトはここに来ることが出来たのか。
おそらく時間軸が違えど同一人物であることには間違いないのだがら“アインハルト”が入ってくることは出来るのだろう。
意外にも結界に落とし穴が存在するもんだな。まあ、同じ時間軸帯の同一人物なんて存在するわけないから普通じゃ分からないが。
「あ、ガ、ガイさん、腕が……!!」
「……」
今は魔術回路を張り巡らせているのでアインハルトを見てもパニックになる事はない。たぶん、アインハルトを倒すと決めた時から魔術回路を解いてもパニックになることはないのではないだろうか。
俺はそう結論付けて魔術回路を解いた。解いて再びアインハルトを見る。
「ガイさん、腕が折れてますよ!!」
「……良かった」
「え?」
今のアインハルトを見てパニックになる事は無かった。自分の気持ちが少しずつ整理出来てきたのだろう。アインハルトは俺の折れている腕を見てパニックになっているが。
「いや、腕の事はいい。それよりも俺はアインに謝りたい」
「え?え?な、なんのことですか?そ、それよりも腕が……」
「謝りたい。ケジメをつけさせてくれ」
「腕が……」
俺は真っ直ぐにアインハルトを見る。アインハルトは俺の腕の事に戸惑いを隠せないでいたが俺が見ていると分かるとこっちに意識を持ってきた。
オリヴィエは微笑みながら少し離れて俺たちの事を見ていた。
「……わかりました。わ、私も謝りたい事がありますがガイさんから先に。で、謝りたいというのは、な、何のことですか?」
「俺がアインから逃げ出したこと。それを俺は心からアインに謝りたい」
「……っ」
アインハルトの表情が驚きに変わった。それを見た俺は疑問を持った。
「え?な、なんで驚く?」
「い、いえ、ガイさんが私から逃げていたのは、そ、その私が何か無意識のうちにガイさんに粗相な事をして嫌いになったのかと思いまして。ですから私もその事について謝らないとと……」
「いやいやいや、色々と頑張っているアインを嫌いになんかはならないよ。むしろその切磋琢磨的な姿勢は好きだ」
「え?あ、そ、その……」
俺の言葉でなぜか顔を赤くして口ごもるアインハルト。俺は特に気にせずに話を続ける。あまり聞きたくない事だが聞いておきたい事を。
「……今回の件でアインは俺のこと嫌いになっちゃった?」
その言葉にまだ少し顔が赤いアインハルトは首を横に振る。その動作だけでも救われた気がした。アインハルトは俺のことを嫌いにはならなかった事実が嬉しかった。
「……嫌いにはなりません。むしろ……」
「?」
口ごもってしまいその先の言葉が出てくること無くアインハルトは再び顔を真っ赤になって俯いてしまった。
「ガイ。あまりアインハルトを困らせてはいけませんよ」
「え?俺、困らせた?」
「は、はぅ……」
そんな俺とアインハルトを見ていたオリヴィエが近づいてきて言葉をかける。
「まあ、とりあえず2人の関係が戻って私は嬉しいですよ」
「俺もホッとした。アインには迷惑かけた」
「い、いえ。私は別に迷惑だなんて……むしろ私もガイさんと同様ホッとしました」
こうやってアインと話せるのは覚悟を決めたからなんだよな。アサシンのアインを倒す覚悟を。倒すと決めた覚悟でこうやって話せるのもなんだか不思議な感じだけど。
「ありがとな、アイン」
「いえ、私は何もしてませんのでお礼を言われる筋合いは無いです」
「ははっ、それもそうだけどな、お礼は言っておきたい。とりあえず、帰るか。固定するにも家に戻らないと当て木の代わりみたいなモノなんてここら辺に無いし」
俺はアインハルトとの会話で日常に戻ってきたと実感しつつ、右腕をコの字になる様に曲げそのままなるべく動かさないようにして歩きだした。
「で、でも、なぜガイさんは私から逃げ出したのですか?それに結界とか……」
「……っ、な、なんでその事を知ってるんだ?」
アインハルトが結界の事について知っていた。それには驚きを隠せないまま表情に出てしまう。
アインハルトは俺の腕を心配しつつも子供が悪い事をして怒られてしまうというバツの悪い表情をして口を開く。
「も、申し訳ございません。ガイさんの部屋に無断で入ってしまいました」
「え、マジで?」
こくんと頷くアインハルト。
「そこでテーブルに結界を張ったからとかでフリージアに1人で行くなよとのメモ書きが……」
「「……」」
俺とオリヴィエは目を合わせる。あまりよろしくない状況だ。現代のアインハルトに聖杯戦争に足を踏み入れさせるわけには行かない。
「……これが、ガイさんの言えない事情の話なのですか?」
「……」
俺やオリヴィエが戸惑いで声を出せないでいるとアインハルトが俺に対して疑問にもっていたことへ繋げてきた。ここで否定しないと不味い。
「……ごめんな、アイン。ここの話は出来ない」
俺は深々とアインハルトに向かって頭を下げる。アインハルトにこの話はやはり出来ないのだ。
「フリージアも関係あるのですか?」
「……ええ、私も関わっている事情ですね」
「……っつ」
アインハルトは苦い表情をして拳を握ってプルプルと震えていた。オリヴィエに対して何も出来ない事の歯がゆさがあるのだろう。そんなアインハルトの頭を左手で撫でてやった。
そして、俺を見上げてくる。
「私に相談は出来ませんか?」
「……うん、ごめん……」
「危険なことですか?」
「まあ、危険だね。腕も折っちゃったし」
「あまり危険な事に首を突っ込まないでしないで下さい。心配します」
「ああ、注意する」
「約束です」
「ああ、約束する」
俺は約束すると頷くとアインハルトは小指を立てて俺の前に差し出す。
「異世界の約束事らしいです。この約束を破ったら針千本飲まないといけないらしいです」
「……ああ、なのはさんの出身の地球ってところのやつか」
なのはさんに聞いたことがある。小指同士を結んで約束事を守るという地球の行いがあるという伝えを。本当に針千本飲ませるわけではないが、それぐらいの罰則を与えないと簡単に約束を破ってしまうので例えを付け加えているとか。
アインハルトもヴィヴィオあたりに聞いたのだろう。俺もアインハルトの頭から手を離して小指を差し出した。
アインハルトが緊張気味にゆっくりと小指を曲げて俺の小指に結んでいく。俺も小指を曲げて結んだ。
「嘘ついたら針千本飲ましますからね」
「……ああ。約束だ」
真面目なアインハルトなら本気で針千本飲まされるかもしれない。そう思うと一瞬だが体がゾッと震えた。
アインハルトは結んでいた小指を離して先頭を歩き出した。俺とオリヴィエも続く。
「なら、これ以上検索はしません。ですが一つ疑問があります」
「ん?」
アインハルトの背中からは今にもアインハルトが消えそうな儚さが伝わってきた。次の疑問の言葉に帰ってくる答えがどのようなモノなのか不安なのだろう。
「先程も言いましたが何故私から逃げたのですか?」
「……」
根本的な疑問を持つのは当たり前だろう。そもそもアインハルトから逃げなければこんな事にはならないのだから。
部隊を壊滅状態までに追い込んだ未来のアインハルトに畏怖や恐怖などを刻まれてトラウマになりかけて、現代のアインハルトに会うとその光景をフラッシュバックするんで逃げていた……なんて言えない。
俺は必死に言い訳を脳内で探していた。
「ガイはアインハルトから逃げていたわけでは無いのです」
「え?」
そこにオリヴィエの言葉が割り込んできた。オリヴィエを見ると朗らかに笑みを溢して、ここは任せて下さい、と言っているような自信満々の表情をしていた。
ならここはオリヴィエに任せようと頷いた。それほど自信があるのなら大丈夫だろう。
「アインハルトに欲情して恥ずかしくなって逃げていたのですよ」
「ぶっ!!」
「え、ええ!?」
前言撤回。自信満々に何を言い出すかと思えば欲情して恥ずかしくなって逃げたと言った。
待て待て!!そんな変な事言ってんじゃねぇよ、オリヴィエ!!
「ガイも年頃の男子ですからね。アインハルトのように可愛い子をいろいろと脳内で……」
「わー!!わー!!ちょっと待てフリー……っつ……」
「ガイ、どうしました?そんなに慌てると右腕に響きますよ」
俺は流石にそれ以上語られるのは不味いと思い無理に叫んだ。変に動いたせいで右腕に激痛が走る。
キョトンとした表情で首をかしげて右腕を左手で押さえている俺を見るオリヴィエは特に悪い事しているとは思っていないらしく、純粋な手助けをしてくれたのだろう。でも、その手助けが色々とマズい。
俺はアインハルトを見る。振り向いてオリヴィエをを見ていたアインハルトは既に顔を真っ赤にして俯いてしまってごにょごにょと何か呟いている。
「ガイさんが私の事をそんな風に見てた……ガイさんが……ガイさんが……」
「ご、誤解だ!!アインをそんな風には見てないからな!!」
「え?み、見てないのですか?」
俯いていた顔を上げて俺を見るアインハルト。頬は赤く、不安げな表情で上目使いで俺を見るアインハルト。
その表情は可愛く一瞬だがドキリとしてしまった。
「あ、ああ、そんな風に見てな……」
「アインハルトの下着姿を想像して真っ赤になったって言ったではないですか」
「……っ」
「フリー!!いつ誰がそんな事を言った!!ちょっと黙ってくれ!!」
オリヴィエからどんどん出てくる嘘の言葉に俺はストップをかける。オリヴィエは俺を見て、後は任せますといった満足げな表情をして少し下がった。さっきオリヴィエに任せようと思った自分をぶん殴りたい。
話を逸らしてくれたのは良かったがこれでは俺も恥ずかしいしアインハルトも困ってしまうだろう。よからぬ方向へ話が転がってしまった。でも、これを否定したらまた聞かれてしまうのだろう。なぜアインハルトから逃げてしまったという話を。
俺は苦悩の末、結論を出した。
「ア、アイン」
「は、はぃいぃいいい!!」
再び俯いてしまったアインハルトは俺の呼んだ声に声高く反応した。これ以上何の恥ずかしい言葉が飛んでくるか不安なのだろう。
「お、俺も男だ。アインのような女の子を見てよからぬ想像をしてしまうのは事実だ」
「……っ」
言ってて恥ずかしくなる。実際、アインハルトをそんなふうに見た覚えはない。アインハルトは妹的な存在だ。決してそんな風には……。
あれ?何か自信なくなってきた。今も変な想像しちまった……ベッドに横たわっている恥じらいを隠せずに見上げているアインに俺が……。
オリヴィエの言葉でアインハルトに変に意識を持ってしまった。俺は頭を振って今の想像を無理やりに脳内から消し去り、学園で一緒に弁当を食べていた時の日常の映像を脳内に展開して気持ちを落ち着かせる。
「で、でも、俺はそんな事は実際にしないから。そして、今後もそんな想像はしないから!!こんな俺でも今後も隣人として友達として接してくれるか?」
俺の言いたい事は言った。これでいいのかはわからないが真実からは逸らす事は出来た。後はアインハルトの返答次第だ。
「……ガ、ガイさん」
「は、はい!!」
アインハルトに呼ばれて今度は俺は声高く返事をしてしまう。かなり緊張していた。こんな事を言って今後もアインハルトと普通に接していけるかどうか不安の波が俺の心に押し寄せた。
「わ、私は、べ、別に、そ、そんな事は、ききき、気にしません」
そんなにテンパってめちゃくちゃ気にしてるだろ!!
と、俺は心の中で突っ込む。
「……むしろそんな想像してくれて嬉しかったですし……」
「え?何か言った?」
「い、いえ!!何も!!」
何か呟いていたが聞き取ることは出来なかった。それを全力で否定するアインハルト。
「で、ですから、私なんかでよければ今後もよろしくお願いします」
「……あれ?」
何か色々とすっぽかして結論が出てきたような気がした。
「え?い、いいの?こんな俺で?」
「はい。色々とガイさんには助けられてますし、そのくらいで離れたいとかは思いません」
「……」
俺はアインハルトの寛大な心に感心した。変な想像をしている男と今後もよろしくと言うアインハルトには頭が上がらない。
そんな想像はしない。今後も絶対しない。
俺は強く心の中で誓った。嘘から始まった論戦だったがどうにかまとめられそうだ。
「そ、そっか。それじゃあ今後ともよろしくアイン」
「……は、はい、よろしくお願いします」
俺もアインハルトも少しぎこちない言葉で話を終わらせた。
「良かったですね。ガイ」
「……元はと言えば誰のせいだと……」
「まあまあ、いいじゃないですか。アインハルトとの仲直りも出来て」
「そりゃあそうだけど……」
オリヴィエが満面な笑顔で俺に語りかけながら歩き出す。
羞恥心のないオリヴィエからそんな言葉が出てきたことに驚いたな。異性の俺に何の抵抗もなく裸で風呂場から出てくることもあったし。
アインハルトもオリヴィエに付いて行く。まだ顔は少し赤かった。
真実を伝える事は無くなって良かったが、今後の日常に支障が出ないといいけど。
俺は赤くなったアインハルトを見て複雑な気持ちを抱きながらマンションへ帰るため歩きだした。
―――上空
「よかったね、アインハルトちゃん」
上空で先ほどのアインハルトちゃんとガイ君の会話を聞いていた。たぶんフリージアさんは私の存在に気づいていただろうけどあえて無視てくれたのだろう。
急いで援護に向かったけど右腕を骨折しているがガイ君は無事だったようだ。それを見てホッと一息つく私。
もし、ガイ君が死んじゃったらヴィヴィオ達が悲しんじゃうもんね。どの世界でもヴィヴィオを悲しませたくはないし。
私は安心して来た道を戻ろうと振り向いて衛宮君の居る場所へと戻り出した。
「……私もしっかりしないとね」
来た道を戻りながら今後の出来事を思い出しつつ気を引き締め直した。
―――マンション
アインハルトと別れて部屋に戻り折れている右腕を固定して床に座り息を吹いて気を緩めた。帰り道もどの敵に出会うか分からなかったので気を張り詰めていたが特に何もなく戻れた。
「ガイ、お茶です」
「ああ、ありがと」
オリヴィエからお茶を貰って一口飲む。オリヴィエも座って一口飲む。
「ふぅ、とりあえずメール返すか」
「メール?何か来てたのですか?」
「ああ、ヴィヴィからのメールがな」
俺は普段使っていない左手で不慣れにモニターを出して操作し、途中まで書いていた文章を表示した。
件名………Re:アインハルトについて
本文………こんにちは、ヴィヴィ。アインの事だが、心配はいらないよ。俺とアインとの間でちょっとした揉め事があってギクシャクしちゃってるだけだ。今日俺がアインに謝るy……。
ヴィヴィオからのメールは頭の隅に置いといたままだった。俺は訂正しながら左手で時間かけて書き込んでいく。
件名………Re:アインハルトについて
本文………こんばんは、ヴィヴィ。アインの事だが、心配はいらないよ。俺とアインとの間でちょっとした揉め事があってギクシャクしちゃってるだけだったさ。今日俺がアインに謝って揉め事は解けた。明日からはアインは普通に振舞ってくれるさ。心配かけてごめんね。
書いた内容を確認して送信した。夜も遅いし返信が来るのは明日だろう。俺はモニターを閉じて再びお茶を飲む。
「オリヴィエのおかげで大変な目にあったよ」
「私の機転にお礼を言っても罰は当たらにと思うのですけどね~」
「……」
まあ、確かにあの機転が無ければ事実を聞かれずに済んだけど……けど……。
俺は先ほどのアインハルトとの会話を思い出して顔が赤くなった。とても恥ずかしい事ばかり言っていた。
「ま、まあ、ありが……と?」
「何で疑問形なんですか?」
「そのおかげで今後のアインとの接し方が大変なんだよ」
「別に普通に振舞ってればいいではないですか」
「そう簡単にいくか」
さも当たり前のように言うオリヴィエは本当にそう思って言っているのだろう。
「ま、でもひと先ずは良かったかな」
アインハルトとの気まずさが無くなったのは嬉しい事だ。逃げてばかりだとアインハルトを気づつけてしまう。
俺は心に安堵感を覚えてオリヴィエからバーサーカーの情報を聞き出して今後の聖杯戦争について色々と練り始めた。
はふ、戦闘風景の描写って難しいわ(´・ω・`)
今後も戦闘ばかりになってしまいますが頑張って書いていきます。
そして、亀更新でごめんなさいm(_ _)m
もっと頑張って更新していこうともいますので今後もよろしくお願いします。
そして、感想を読んでますと一章の文章を書き直したほうがいいとの意見が来てますので一度第一章を書き直そうかと思います。
内容は変わりませんが書き方に問題があるのでそこを直していこうと思います。
こんなことしてまた更新が遅れるな~、いや頑張って更新しようとさっき言ったばかりだろw
そんなわけで今後も頑張って書いていきますので見続けてくれたら幸いです。
では、また(・ω・)/