魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

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え~と、前の更新からどのくらい立ちましたか……。

はい、約半年ですね。半年刊なんて聞いたことないよ……。

まあ、リアルの方も色々ありましてなかなかこっちに手をつけられなかったのですが、また忙しくなる(´Д` )

それでも書いては行きますので本当に長い目で見てくれれば幸いです。

それと第一章をただ今書き直しております。セリフ前のキャラクター撤去やより情景を分かりやすくするための補足的なものを挿入、誤字脱字の修正など。一度読み返してくれるとありがたいです。

では、三十話入ります。


三十話“夢と理想の交差”

 ―――上空

 

「……」

「……」

 

 私はガイ君とアインハルトちゃんが仲直りした場面を見て、衛宮くんの所に戻るために来た道を引き返していた。

 しかし、その道に1人の大男が円月刀のような槍を持って立ちふさがっていた。仁王立ちするその様は勇ましく見える。

 

「ランサー……いえ、ゼスト・グランカイツ」

「アーチャー……高町なのは……私の生きていた時代ではエースオブエースと言われるほどの技量の持ち主なのだが……」

 

 ランサーは私の技量を認めるような言葉を呟きながらゆっくりと槍を構える。

 

「今、現実から逃げているお前の実力は如何なものか確かめさせてもらう」

「……っ!!」

 

 それほどの会話もなく突然の疾風と共に放たれたランサーの素早い突進の突きに私はコンマ単位の反応が遅れて、反撃という選択肢が消され、装着している右手の盾で受けの態勢に入った。

 

 バーサーカーとの対決で負傷しているこの体で目の前の人物と渡り合えることなんてできるの?それにあの人は生前はオーバーSランクの魔導師。この状況では分が悪すぎる。

 

 私はすぐさま二つの盾を展開させて私とランサーの周りを包囲する。

 

「“陣風”!!」

『了解』

 

 ランサーは一度私を弾き飛ばし、その場で高速回転し、槍で渦の気流を形成した。それはランサーを中心として巨大な竜巻となった。

 包囲した私の盾はその竜巻の威力に耐えきれず陣形が崩れてコントロールが不可能となった。

 

「っ!?」

 

 ランサーはその竜巻から抜け出して私の方向へ槍を振って竜巻を放った。スピードはあり得ないほど速い。悠にプロ野球選手のピッチャーの投げる最高スピードは出ている。あの大きさの竜巻でそのスピードだと避けるのは無理と瞬時に判断した私は盾を外して両手でカノンを構えて、予めチャージしていた魔力を発射させる。

 

「ヴァリアブルキャノン!!」

 

 溜めこんでいた魔力はそれほど多くはない。魔弾はその竜巻に砕かれて弾け飛んだ。あの竜巻を相殺させようとは思っていない。ほんの少しでも速度が減速してくれれば避ける時間を稼げる。

 私は横に避けてその竜巻を紙一重で回避しつつ盾を再び装着する。

 

『マスター!!後方から敵接近!!』

「っ!!」

 

 私は後方を見ずに体を捻りながら先ほど右手の装着した盾を真後ろに振った。ガキンっと金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響く。そこに居たのはいつの間にか後ろに回り込んで槍を振り下ろしていているランサーだった。そのまま鍔迫り合いのように力が拮抗した。

 

「どうした?現実から目を背けているお前の事など分からんが、私よりも劣っているのでは話にならんぞ」

「っく!!」

 

 その力との勝負は徐々に押され気味になった。後ろ向きで受け止めている体制なので思ったように力を引き出せないのも押される原因の一つ。盾のコントロールもあの竜巻によって著しく変化した乱気流によってうまくこちらに引き寄せられない。これも狙ってあの技を放ったのだと分かった。

 

「あ、貴方に私の何が……わ、分かるって言うのですか?」

「分からん。武器を交えれば自ずと相手の気持ちも分かるが、お前の武器に乗せている気持ちが見えん。何も無いのか……それともかなり深くに……」

「見えなくて結構です!!」

 

 今度は私からランサーの槍を弾き返す。ランサーは私に飛ばされて下がりながらも私を見ていた。

 

 私の内の気持ちを他の誰かに知ってもらおうとは思わない。この気持ちは最後まで明かさなくていい!!

 

「ブラスター1、リリース!!」

「むっ!!」

 

 私のリミッターを1つ外す。バーサーカー戦ではフリージアさんが居たので外す必要性を感じなかったが居なくなった瞬間、外すべきだと判断していた。

しかし、バーサーカーがこちらに標準を変えてきたので外す余裕がなかった。

 このリミッターは特務機動六課に所属した時も魔力の高い人材ばかりだったのでリミッターが付けられていた。それが英霊となった今でも影響してくる。

 ランサーは私の魔力が上がった事に警戒心を上げたのか、私から離れている場所で槍を構え険しい表情をする。コントロール不可能だった盾を魔力を込めて乱気流の中を多少強引に戻して、私の前に再び二つ展開させる。

 

「……」

 

 しかし、私が展開した陣形を見たランサーは構えを解いて槍を下ろした。

 

「……何を考えているのですか?」

「……いや、私の考えが間違えていたのかも知れないと思ってな」

「?」

「お前の覚悟を僅かながら見させてもらった。高町なのは……」

 

 ランサーは目を瞑る。周囲に発していた険しい雰囲気も少し緩くなったような気がした。

 

「お前の力はこのミットチルダを変えることのできるモノだ」

 

 そして、目を開けて再び槍を構える。

 

「しかし、それの使い道を“間違えていないか?”」

『フルドライブ・スタート』

「っ!?」

 

 最後の言葉を聞いた瞬間、ゾクリと背筋が凍った感覚に襲われた。鬼人のごとき圧迫感をランサーから直接感じた。表情も再び険しくなり眼力が半端なく私を貫く。先ほどの緩くなった雰囲気など無く、息をするのでさえ辛くなるほどのモノへと変化していた。

 

 これがゼスト・グランカイツの本気……。

 

 改めて感じる。この人物はやはりオーバーSランクの魔術師であると。

 

「貴方は自分の力の使い道がこれで合っていると思っているのですか?」

「ああ。ミッドチルダの平和を求めてこの力を使っている。ミッドチルダの平和はかつての友の夢だがな」

「……レジアス・ゲイズ」

「……」

 

 ランサーは親友の名前が出てきた所でその引き締まった雰囲気を緩める事は無かった。その姿は既にその親友の夢の為にこの力を使うと誓っている覚悟を示している。それが例え殉職していった親友のモノだとしても。

 

「お互いの貫き通す理想があるなら、後はぶつかり合うしかない。これはガイにも言った言葉だがな」

「お互いの正義を貫き戦う……聖杯“戦争”ですからぶつかり合うしかありません」

 

 そう、戦争は理想と理想のぶつかり合い。お互いの理想を貫き通すものならば後は戦いうしかない。

 私は装着した盾を外して前に横三つに盾を並べて展開する。バーサーカー戦のダメージが残っているこの体でどれだけ戦えるか分からない。例え万全な状態であってもランサーに勝てる見込みは五分五分だった。今は二割にも満たないだろう。

 

 でも、どんな状態でも負ける気はない!!

 

 私はカノンを両手持ちで構えて銃口をランサーに向ける。お互いに混じり合わない理想を持っていた場合、後はぶつかり合うしかない。

 私とランサーはこの上空で再びぶつかり合った。お互いの理想を貫く為に。

 

 

 

 ―――マンション

 

「……」

 

 部屋に戻ってからどのくらい時間が経ったのだろうか。時刻は既に日をまたいでいる。帰ってきた時間からすると既に3時間は経過していた。

 俺は右腕を動かした。

 

「……多少痛みがあるが動かせる」

 

 自分でも幾らなんでも理不尽だと思った。折れていた骨は既にくっ付いていた。指先まで動かせる感覚があった。プリムラにも診てもらったが骨が折れてはいないとのこと。

 

 これほどまでに治癒能力が高まっているってことか。親父から貰った魔術回路は凄いな。

 

「右腕は大丈夫なのですか?」

「ああ。これほど治りが早いとは思わなかった」

「私のスキル“身体自動操作”で行動を補う必要性は無さそうですね」

 

 テーブルに対面で座っていたオリヴィエが笑みを零して俺を見る。

 

「で、話を戻すが……」

「ええ、バーサーカーへの違和感です。私はあの構えを何処かで見たことが……」

「俺もあの動きは何処かで見たことがある。一度相手にした時、その構えを見て戸惑いを覚えた」

 

 オリヴィエもバーサーカーを相手にした時に違和感や戸惑いを感じ取っていたようだ。俺もあのバーサーカーには疑問を抱いていた。

 

「俺とオリヴィエが共通して知っている人物となると」

「この世界で出会った人物……と言ったところでしょうか」

「……また、知り合いが参加しているのか……」

 

 予想した結果に俺は心の底に何かが沈殿していく重さを覚えた。

 

 アインハルトと同じく、また知り合いと戦わなければいけないのか。

 

 誰だか分からないが近い将来、バーサーカーの正体が分かる。その時に俺はまた絶望感にとらわれることだろう。

 

「辛いな……」

「……そうですね」

 

 俺たちの間に重い沈黙が流れた。オリヴィエも表情は暗く視線を下に向けている。心中は穏やかではないはずだ。無論俺も。

 

「……バーサーカーの正体を知ること無く倒した方がいいかもな」

「それは……逃げているだけかと」

「……だな」

 

 再び重い沈黙が流れた。

 バーサーカーの正体を知ること無く倒せれば一番いいのかも知れないが、それはオリヴィエの言うとおり、ただ現実から逃げているだけだ。正体を知らなければ弱点を突く事は出来ずに勝利することは無理に近い。

 

「……では、バーサーカーの件は終わりにしましょう」

「ん?」

 

 先ほどとは違う明るいオリヴィエの声が重い沈黙をかき消した。オリヴィエを見ると暗かった表情から一変、親しみやすい笑みを俺に見せてきた。

 

「ど、どうしたいきなり?」

「答えの出ない問題は考えているだけ時間の無駄ですから」

「お……おう」

 

 確かに出口のない迷宮を彷徨っていても出れるわけがない。オリヴィエの正論に俺は特に異論はなかった。オリヴィエは笑顔のまま話を続ける。

 

「ガイは随分と明るくなりました。あの森から帰った時からガイの表情に見えた暗い影は今は見えません」

「……え?」

 

 オリヴィエに言われた言葉に俺は驚きを隠せなかった。

 

「……そんな風に見えてたのか?」

「ガイは分かりやすいですから♪」

 

 オリヴィエは子供のように無邪気に笑って肯定する。俺はそれを見て笑ってオリヴィエに感謝を込めて口を開いた。その要因を作ったのは目の前にいる人物なのだから。

 

「そうだな、変えられたのはオリヴィエの言葉が心に響いたから……かな」

「私の……ですか?」

 

 まるで心当たりの無いような口調で首を傾げるオリヴィエ。

 

 俺はあの言葉を聞いて思考を変えていかなければならないと感じた。まだまだ甘いところが多いと分かった。

 

「“世界は残酷”」

「あっ……」

「オリヴィエが数多の戦場を駆け巡っていたから分かった真実。世界は平和では無く残酷なんだと。その言葉で俺はまだ自分の考えが甘いと悟った。前に覚悟は決め直したが、考え方も直さなければならないと思った」

「……」

 

 オリヴィエの表情から笑みが消えた。俺の言葉に何を思ったのか笑みが消えた表情から悲愴さが見えた。

 

「オリヴィエ?」

「私は言いました。私のように道を踏み外して墜ちていかない様にと。ガイもその道から踏み外さずに進んでほしい」

「……どんな事があったんだ?」

 

 俺がオリヴィエの出来事について聞いてみたのだが、オリヴィエは予想外のことだったのか目を大きく開いて俺を見る。

 

「初めてですね。ガイが私の生前の話を聞き出そうとするのは」

「前に夢で勝手に見ちゃったからな。俺の方から切り出しにくくてな」

「……そうですか……でも、私の事について聞いてくれるのは嬉しいです」

 

 オリヴィエの表情がコロコロ変わる。驚きの表情から今度は嬉しそうに微笑んでくる。自分の事に触れてくれたのが嬉しかったようだ。その笑顔を見るともう少し早く切り出しておけば良かったと思った。

 

「……そうですね、ガイに話をしておきましょう。いえ、ガイには知ってほしい」

 

 オリヴィエは目を閉じて、そして、気持ちを落ち着かせたのか小さな口が開いて語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――???

 

 荒れていた。戦場も心境も肉体も。

 

「殿下!!この最前線にいては危険です!!お戻りください!!」

 

 最前線で動いていた兵が私を心配して必死に本陣に戻る様に言葉をかけてくる。

ここは戦の最前線。敵の布陣が目と鼻の先にあり、すぐにでも交戦に入ることが出来る状態だった。私の周囲には敵の死体の山が築かれており、敵は私を警戒して布陣から前へ出てくることが無かった。敵の弓兵達が隙があれば何時でも私に射れるように弓をしならせ弦を引いて装着した矢の先端をを私へ向けている。

 先ほどまで劣勢で乱戦状態ではあったが私が最前線に来て敵を倒し、乱戦状態を硬直状態に持ち込んだ。兵たちが今が好機と攻めに転じようとしているが私がそれを止める。無暗に突撃して敵の罠にかかっては元もこうもない。交戦状態になり一度、最前線の兵たちに興奮状態を押さえて冷静さを取り戻さなくてはならない。

そのためにこの場に飛び込んだのだ。戦場で冷静さを失ったら相手の思うつぼだ。

 

「大丈夫です……戦争を終わらせないと……未来はない……」

 

 肉体は既に限界を超えて動くたびに全身に痛みが走る。

 

 心境は人を殺しているという事実が心に鉛のような重いモノが乗りかかり押しつぶされそうになる。

 

 戦場は瓦礫と人馬の躯で荒れ果ている。

 

 何もかもがマイナスへのベクトルとなって進んでいた。

 

「で、ですが……」

「自分の位置に戻ってください。そこから敵が入り込んでしまっては貴方の責任となります」

 

 これ以上兵に何も言わせないように低い声で兵を威圧させる。私の言葉を感じ取ったのか、兵はこれ以上何も口にすること無く私から離れて自分の位置へ戻った。

 私が居る位置は味方と敵の布陣の境目。先ほどまで敵も味方も入り混じった戦いの場所に私は立っていた。

 

 ―――オワラナイ

 

「……」

 

 頭の中に響くこの言葉が私を戦場へと導く。誰の言葉かも忘れた。頭の中にインプットされた単語。

 

 目の前の敵を倒さなければ戦争はオワラナイ。

 

「身体自動操作……」

 

 私は自分の身体を自分自身で操作するように魔力を全身の隅々まで流し込んだ。例え骨が砕けようと筋肉が千切れようと戦う事の出来る術式。

 私は体の隅々まで魔力が行き渡ったのを確認して、敵の布陣へ走り出した。ズキズキと限界を超えていた肉体が動かすなと訴えるために痛みが全身を襲う。それでも私は前へと進んだ。

 

「弓兵放て!!」

 

 敵の最前線の将が弓兵に攻撃を命令する。狙いを定めていた弓兵は将の命令を聞いて即座に放つ。

 暗雲覆われた空を更に覆い尽くすほどの矢が一本一本、違う軌道を描いてただの一人である私目がけて襲いかかってくる。

 

「遅い」

 

 しかし、私は瞬時にその全ての矢の軌道を見切り、最小限の動きで矢を避ける。私に当たる筈の矢は次々と誰も居ない地面へと刺さっていく。

 

「す、すげぇ……」

「こ、これが聖王殿下の実力」

 

 仲間からあの矢の雨を全て避けた事に驚き賞賛の声が聞こえてくる。それを気にせず前へと走る。馬対策の鉄線を飛び越えて敵地のど真ん中へ着地する。

 その時に周りにいた敵が一瞬蹲ったが私が目の前にいる事を認識すると殺そうとして体を動かし迫ってきた。

 

 ―――オワラナイオワラナイ

 

 槍先が来る。剣が振られる。矢が飛んでくる。それらは武技で最強と言われていた私にとっては遅すぎる速度。

 私は身体自動操作で最小限の動きで避けて周りにいた敵兵を殺していく。味方の兵も私に続いて戦いだす。戦場は再び乱戦状態となったが今度は圧倒的な優勢状況に我が軍は立っていた。このまま進めば戦争は終わる。そう思っていた。

 しかし、敵兵が浮き足になり撤退を始めた時、ガキンと私の手甲と剣が鉄と鉄のぶつかる音高い音がした。身体自動操作では捌ききれなかった動き。私は目の前の人物を警戒した。魔術師のようなローブを羽織り顔は深くかぶったフードによって隠れてしまい正体が不明。ローブの隙間から見えるのは騎士甲冑では無く軽装の類の装備に見えた。剣は片手剣ではあるが手甲から重さが伝わってくる。両手剣やハンマー並の重さだ。かなりの鍛錬を積んできたのだろう。

 

 これは強敵ですね。

 

 私は目の前の敵が強敵だと認識し更に警戒心を高める。

 

「味方の撤退まで敵を引き止めろ!!貴様の命なんぞここでしか使えんのだ!!」

「……」

 

 敵の将から同じ仲間に吐く言葉とは思えない残忍さが見えた。こんな人物がいるから戦争はオワラナイ。

 ローブの人物は私の手甲を弾き返す。その拍子に私の体重は後ろへ動きバランスを崩す。そこを逃さぬといった勢いでローブの人物は追撃をしてくる。

 

 あれ?この動きは……。

 

 私は劣勢になり攻撃を受け流しならも目の前の敵の動きに覚えがあった。ガキンと甲高い音が響き剣を手甲で受け止める。

 

 ここで受け止めると次に来る一手は……。

 

 その時、ローブが揺れた。ローブの内側から横一閃に私の胴体を狙って片手剣が放たれていたのだ。

 

 この我流二刀流!!やはり!!

 

 私はある程度予測していたのでその動きに伏せて避け、ローブの人物にアッパーのように拳を振り上げる。

 ローブの人物もその反撃は読めていたのか少し後ろに下がって避ける。その時に被っていたフードが風圧で覆っていた顔から離れてその人物の正体が露わになった。

 ローブの人物は数歩ステップを踏んで私から離れる。私は目の前の現実が信じられなかった。

 

「……貴方は死んだはず……ユーリ!!」

「……」

 

 ユーリは前の戦で帰らぬ人となったはずだ。それが目の前に居る。人違いというには余りにも類似点の多さ。戦死したというのは誤情報だったのだろうか。

 私の混乱を余所にユーリは何も答えず無表情のまま静かに二本の剣を構える。

 

「ユ、ユーリ隊長だ」

「ああ、あの姿、あの構えは間違いなくユーリ大佐だ」

「な、何で敵側に?」

「いや、それよりも死んだはずだ」

 

 ユーリの構えを見て兵士たちが戸惑いを隠せずに浮足立ってしまった。無理もない。あの構えはユーリ独特の我流二刀流。左の剣を水平に、右の剣を垂直に、体の前で十字の形を形成して構えるのが特徴。

 兵士たちにも記憶に残りやすい構え方だ。それが大佐のユーリとなっては尚更知名度が高い。

 

「……」

「……っ!!」

 

 ユーリについて色々考えているうちにユーリが攻めてきた。猛攻な二刀が私に押し寄せてくる。それらを見切り捌きながら何とか鍔迫り合いに持ち込む。

 

「くっ……!!他のモノは敵の追撃に当たれ!!ここは私が引き受けます!!」

「オリヴィエ殿下!!1人では危険です!!」

「この状況でユーリの相手を出来るのは私だけです。貴方達がここに居ても意味はありません!!早く行きなさい!!」

 

 私は兵士たちを進撃させるために喝を入れてユーリの二刀を弾き返して攻めた。

 どんな状況でも進まなくてはならない事を私が身を持って教えなければ最前線の兵士たちの士気が上がらない。例えかつての友が敵となって目の前に立ちふさがったとしても。

 兵士たちは私の喝をどのように捕らえたかはわからないが、私とユーリとの一騎打ちを横目で見て敵の追撃に当たるために進撃した。

 

『ずっとお慕いしておりました。好意を抱いておりました。オリヴィエ様、身分は違えど、失礼を承知の上で好きという告白をさせていただきたい』

 

 最前線に行くと言った時に告白したユーリの言葉が思い浮かぶ。

 

 なぜ今こんな事を思い出すのでしょうか?ユーリ……貴方は本当は生きていたのですか?生きていたのならとても嬉しいのに……こんな再会だなんて。

 

 受けに入ったユーリの二刀の隙間を私は見逃さず、腹部に渾身の一発をお見舞いする。

 

「……っぐ!!」

 

 ユーリは腹部の痛みが強かったのか無表情から苦い顔に変わり、片方の剣を地面に刺してそこに体重をかける。

 

「ユーリ……貴方は本当にユーリなのですか?」

「……あ、あぁ……」

 

 最前線の兵士たちは追撃で移動しており怒涛の進撃の音は無くなりユーリの口から乾いた声が漏れる音が聞こえる。もう少しすると後ろから後詰め部隊の中衛隊が到着する。

 

その者たちにユーリを本陣に連れていってもらいましょう。

 

「ああ……あぁ……あああぁぁああぁ!!」

「……洗脳……ですか……?」

 

 ユーリの今の状態はどう見ても正気の沙汰じゃない。先ほどとは打って変わり何者かに滅茶苦茶に操られているようにユーリは剣を地面から抜き取り、暴れるような形で剣を振るい私に突進してきた。

 それは子供がただ我武者羅に棒を振っているような動作で見切るのは容易だった。

 

「ユーリ……」

 

 迫ってくるユーリの目は瞳孔が無く死んだ目だった。私はそこで確信した。ユーリはやはりあの時の戦場で死んでいたのだと。

 

 これはきっと死者を弄ぶ死霊魔術ネクロマンサーの人物が操っているに違いない。死んでもなお利用される……敵が憎い。

 

 私は頬に伝わる液体を感じ取った。いつの間にか涙が出ていた。悲しみの感情が抑えきれずに涙となって表面に現れたのだ。

 

 かつての友を……こんな私に好意を抱いてくれた人物を敵として倒さなければならないなんて。

 

 かつての仲間に手をかけなければならない罪悪感が心を痛め黒く染めていく。けれども私は迷いを消した。私が迷っていると下のモノが進めなくなってしまう。

 ユーリの幼稚な剣の軌道を見切り、心臓を停止させるほどの威力を込めた拳を胸に打ち込んだ。

 

「が、がぁあぁ……あぁあ……あぁ……」

 

 肋骨の折れた感触と心臓を深くえぐり込んだ柔らかい感触が拳から伝わる。ドクンドクンと脈も伝わってくるがそれも次第にゆっくりになっていく。何度も経験した敵を倒した時の触感だ。死んでも体を動かすために最低限の内臓は機能していなければならない。それなら死んでもなお弱点は脳と心臓だ。

 

「ユーリ……」

 

 ユーリの体の力が抜けて糸が切れた糸人形のように手足が重力によって落ち、私に覆いかぶさるかのように倒れてきた。それを私は受け止める。

 

「ユーリ……」

 

 涙が止まらなかった。更にポツリと頬に水が当たる触感も感じた。それが次第に多くなり大雨となった。見上げると空を覆い尽くしていた暗雲から大雨を降らしていた。今の私と同じ心境の空模様と天気だ。何か大切なモノを心の器から零れ落としたかのような喪失感。大切なモノを失った時の寂しさ、悲しさが涙となり、頬を伝わる雫はその涙と雨が混ざって地面へと落ちていく。

 

「オリ……ヴィ……エ……さ……ま」

「……!!ユーリ!?」

 

 絶望に近い心理状態の中で私の名前を呼ぶ懐かしい声がした。その発生源は今支えているユーリの口からだ。私はユーリの顔が見えるように支えながらも少し体を離した。

 顔を見ると瞳孔が戻っていた。

 

「わた、し……に気を……使う……必…要……は……」

「ユーリ!!気をしっかり持って!!」

 

 しかし、もう虫の息。心臓を破壊してしまったため死ぬのも時間の問題。私の治癒能力では内臓は治せない。ユーリの意識は戻ったのに体を元の状態に戻す事は私では出来なかった。

 

 私が……殺……した……?ユーリ……を……?

 

 この手のうちにある命が……ユーリが死んでいく。それを殺したのは私。

 

「ユーリ……」

 

 ユーリから声が聞こえなかった。もう彼は目を瞑って首が垂れていた。

 

「ああ……あぁ……ああ……」

 

 その事実が心の内側から何かがこみ上げてくる。

 

「いやああああああぁああぁあぁあああぁぁぁあああ!!」

 

 それを押さえることが出来ずに私は……思いっきり叫んだ。言葉が誰も居ないこの戦場に響き渡る。

 私は息のしていないユーリを背骨が折れるくらいに抱き絞めつける。限界を超えた筋肉が痛みを訴えているがそんな事はどうでも良かった。

 

 私がユーリを殺した……私が!!

 

 この現実が私の胸を貫く。それは剣や槍などが貫かれた痛みよりもはるかに痛い。

 

「あああああああああぁあぁあ……ああ……」

 

 息が続かなくなって私の叫び声が萎んでいき、そして、先ほどの天候は嵐に変わったのか荒々しく地面に叩きつかれる雨の音だけがこの場所を包み込んだ。

 

「私が……味方だったユーリを……」

 

 抱きしめていたユーリの身体を離して手を前に添えて地面に仰向けで寝かせる。激しい雨が私の身体を容赦なく貫いていく。心が少しずつ凍りついていく。

 

 私はユーリの前に片膝をついて座る。

 

「世界が……憎い……」

 

 ゆっくりと手をユーリの手に重ねる。

 

「世界を……許さない……」

 

 顔を重ねた手に近づける。

 

「世界に……復讐……」

 

 そのまま雨に濡れない様に俯く。

 

「世界は……残酷……」

 

 顔を上げて手を離して立ち上がる。立ち上がった時に遠くで雷が鳴った。

 

「“世界に不幸な人物を作らせない”」

 

 かつて兄が倒れた後に誓った理想。それは今も変わることはない。

 しかし、“今”の世界では不幸になる人物は途絶える事はない。この世界を変えないと意味が無い。

 

 この世界を変えるために出来る事といいますと……やはり……。

 

「すみません、ユーリ。私は……私は……“ゆりかご”を……起動させます」

 

 一刻も早く聖王のゆりかごに向かうため、ユーリの遺体を引き渡す後詰め部隊を待っている暇は無かった。私はやることをやるべくユーリから踵を翻して走り出そうとした。

 

「オリヴィエ!!」

「っ!!」

 

 しかし、私の背中を大きく叩きこむような必死さの伝わる声がこの嵐のような天候の中、聞こえてきた。私はその声の持ち主を知っていた。

 

「クラウス……」

 

 振り向くとそこに居たのは本来本陣に居る筈のクラウスだった。護衛兵も連れてこないでこのような場所に出てくるべき人物では無いはずだ。それでもここにいるという事は……。

 

「もうその体では無理だ!!オリヴィエは十分やってくれた!!後は私が!!」

「私を心配して下さるんですか?」

「当たり前だ!!」

 

 私を心配して来てくれたのだ。

 荒々しく声を上げるクラウスからは必死さが伝わってくる。本当の事なのだろう。私を思ってくれるのは嬉しい。心から愛している人物からそう言われて悪い気はしない。

 

「ゆりかごに……乗ってはダメだ!!」

「……何故わかりました?」

 

 このタイミングでクラウスからゆりかごの言葉が出てくることに驚きを隠せない。その知った理由を聞きたかった。

 

「最前線の部隊から速達の伝令が来た。ユーリ大佐が敵兵としてオリヴィエ陛下が交戦中だと。死んだと言われていたのユーリ大佐だが、仮に生きていて満身創痍なオリヴィエと交戦しているのが事実だとすると……」

「どちらかが死ぬ……私が生き残ってもユーリを殺した現実が……世界が許せなく、ゆりかごを起動させる……と」

 

 クラウスは私の言葉に頷いた。普段私がこの世界を嫌っている事をクラウスに話をしている。その話をしていたが今の私の考えまでにたどり着くのは流石の思考力だと言える。

 

「無理にでも止めます。これ以上は……」

 

 クラウスは背負っていた両手剣を抜き構える。

 

「……行かせてください」

 

 私も拳を握りしめて構える。後の言葉は不要だった。

 そして、嵐のような豪雨の中、私とクラウスは味方同士なのに武器を交えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

「これが“世界は残酷”だと思った時の出来事です」

 

 オリヴィエは過去話を終わらせて紅茶を一口飲む。この話を聞いた俺は心が重くなったような感覚を得ていた。

 オリヴィエから聞いた話はあまりにも重すぎた。その後の話は前に夢で見たあの対決になってクラウスが負ける。そして、オリヴィエは1人で聖王のゆりかごを起動させたのだろう。

 

「すいません。こんな話はするべきではありませんでしたね」

「い、いや、大丈夫だ。ただ、少し整理させてくれ」

 

 俺はオリヴィエから視線を離し、天井を見上げる。

 

 ……また、俺は安易な気持ちで覚悟を決めていたのか……。

 

 この気持ちは前も味わってきた。アルトリアとの対戦の時。自分の気持ちが弱かったために恐怖に満ちた戦いを味わった。

 

 この覚悟も中途半端なのかな……。

 

 俺は色々と考えて天井からオリヴィエに視線を戻して、手を重ねるようにテーブルに置く。

 

「“世界は残酷”。これはユーリを殺してしまった時に思った言葉の一端です。覚悟を決めるための言葉としては弱いと思いますが……」

「……いや、俺にとっては十分な言葉だよ」

 

 例えオリヴィエにとって軽いと思っても俺にとっては心に沁み込んだ言葉だ。俺には意味あるモノだ。

 

「……今のガイにとってはアサシンのアインハルト……ですか。それに私達が知っている正体不明なバーサーカー。アーチャーのなのはは敵か味方かは未だに分かりませんが」

「……」

「私と同じ結末には行かないでほしい……味方殺しなどには……」

 

 テーブルに置いていた俺の両手にオリヴィエがそっと手を添えてくる。柔らかいその手からは温かい温もりが伝わってくる。それと震えも。

 

「……自分を許せないのか?」

「……そうです」

「ユーリという人物に恨まれているかも知れないと」

「っ!!」

 

 ユーリという言葉にオリヴィエは体を一瞬震わせた。オリヴィエはユーリに対して罪を感じている。それは今になっても変わらない。ユーリを殺してしまったのは自分なんだと。

 しかし、それはオリヴィエからの主観的視点からの感情でしかない。ユーリからの視点を考えていない。

 

「ユーリは……」

「えっ?」

「ユーリはオリヴィエの事を恨んでいるとは思わないけどな」

「ど、どういうことですか?」

 

 やはり、オリヴィエは勘違いをしていた。羞恥心に疎いオリヴィエが男心を分かっているとは思えなかったがこの話で確信した。

 

「好きな人に最期の最後で会えたんだ。ユーリは最期の最後に救われたんじゃないのか。たとえ敵としてあったとしても。俺はそう思う」

「……本当……ですか……いや、そんなはずは……」

「男心って単純なんだよ。たぶん昔も今も変わらないと思う。好きな人の為に色々してやりたいと思うし助けたいとも思ってる」

「……そうなの……ですか?」

 

 オリヴィエが戸惑いの声を出しながら疑問を投げてくる。俺は頷いて言葉を続ける。

 

「だから単純に最期の最後に好きな人に出会えただけでもユーリは救われたはずさ。オリヴィエ、君が悩む必要はないよ」

「……」

 

 オリヴィエは俺の手に手を添えたまま俯いてしまった。俺の言葉を聞いて何を考えているのか分からない。

 今思うと、オリヴィエの手に触れている。それが何となく少し照れくさかった。

 

「……ガイも……」

「んっ?」

 

 手に添えられている手が少し強く握られた。痛みは無い。それは逃げないでという暗示があるかのような。

 

「ガイも……最期の最後で好きな人に会えたら救われますか?」

「……」

 

 俺はその言葉がどのような意味を持っているのか瞬時に分かった。

 オリヴィエは聖王ゆりかごの鍵として人生の最期を迎えた。クラウスと別れてゆりかごに乗ったオリヴィエはきっとその場に誰も居なく寂しい最期だったのかも知れない。

 その最後を好きな人がいて救われる理論を俺で確かめたいのだろう。

 

 俺がそうであると言うとオリヴィエは自分の最期を納得のいく最期になったのだろうか?でも、まあ、嘘はつけんな。好きな人……ねぇ。

 

「そうだな、最期の最後に好きな人に会えたら……嬉しい。それが好きな人の為に頑張れたのなら尚更さ。男心は単純だからこんな単調な答えだけど、女としてオリヴィエは最期の最後はどう思う?」

「私……ですか……」

 

 俺は自分の回答に質問させないために直ぐにオリヴィエ自身へと話の趣旨を戻した。オリヴィエは顔を上げて俺の顔を見る。ほのかに頬が赤い。

 

「わ、私は最後を……1人で迎えました。あの時にクラウスに……来てくれれば嬉しいです。ですが、今は少し違う」

「ん?……あっ……」

 

 オリヴィエは目を少し潤わせて俺を見る。その瞳と頬が赤く染まっているオリヴィエを見ると俺に何かを期待しているように伺えるに思える。

 

 え?え?オ、オリヴィエ?なんでそんな瞳で俺を見るんだ?俺がオリヴィエの最期を看取れと?それって、つ、つまり……。

 

 オリヴィエは俺の困惑した表情から何を感じ取ったのか、ハッと表情を変えて俺から視線と添えてた手を離す。

 

「す、すいません、ガイ。何でもありません」

「あ、あぁ……」

 

 俺も気恥ずかしくなってオリヴィエを視線の外へを外すために首を振る。

 俺とオリヴィエとの間に微妙な雰囲気が醸し出された。気まずい雰囲気というよりもこの場から逃げ出したいような羞恥心が出てくる雰囲気。

 

「ガ、ガイ……お、お腹すいてませんか?夜遅いですけど、よ、良ければ、わ、私が作りますよ。な、何がいいですか?」

「あ、ああ……オ、オリヴィエに任せるよ」

「で、ではアインハルト直伝のオムライスを作りますね」

 

 言うや否やオリヴィエは逃げるようにキッチンへと向かった。

 

 ……そ、そんな行動をすると、勘違いしちゃうよ。も、もしかしてオリヴィエが……。

 

 俺はオリヴィエの行動によって勘違いしちゃいそうだが少しずつ冷静になっていくと、とある結論に達して完全に冷静さを取り戻した。

 

 ……そんな訳ないか。

 

 オリヴィエが俺の事を好きになるはずはない。高貴なオリヴィエが一般な俺に好意を抱くことなんてないのだ。それに生前はクラウスという伴侶が居るのだから。先ほどの表情は何かの勘違いなのだろう。

 冷静さを取り戻し、勘違いした結論を頭の隅において俺は話してくれたオリヴィエの話の中で“世界は残酷”の他に印象に残った言葉を思い出す。

 

“世界に不幸な人物を作らせない”

 

 オリヴィエは確かにこう言った。これは俺の願望である“魔法で誰もが不幸にならない世界を作る”と似ていた。

 

 “誰もが不幸にならない世界……私も似たような世界を望んでいました。聖杯戦争はマスターとサーヴァントの願望が類似している場合、引きあいます。だからマスター、私は貴方にひかれて呼ばれたのでしょう”

 

 オリヴィエを召喚した日に言っていた言葉。俺とオリヴィエは似ている願望だからこそ引きあった。同じ志を持つ同志なのだ。

 オリヴィエと出会ってから幾日も経ったが、今、俺はオリヴィエの願望を知ることが出来た。オリヴィエは俺の願望を知っているが俺は知らなかった。最初から既に俺とオリヴィエはズレていたのだ。

 

 ……けど、オリヴィエの願望を知ることが出来た。これで本当の俺とオリヴィエの聖杯戦争の道のスタート地点に立てることが出来たんだ。随分と出遅れたスタートだがオリヴィエが俺を信用して話をしてくれてよかった。

 

「……ありがとう。そして……頑張ろうな……」

 

 俺はキッチンで一生懸命料理をしているオリヴィエの背中を見て、話してくれたオリヴィエを最期の最後まで信頼しようと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――上空

 

「……っぐ……」

「うっ……はぁはぁ……」

 

 私はアーチャーとの対決で腹部にダメージを受けた。ダメージを受けたのはアーチャーも同じで右肩を左手で押さえていた。

 フルドライブを発動したというのに力は互角。魔弾を飛ばしあい、何度も何度もぶつかり合った。武器を交えた中で1つ理解した。アーチャーは未だ全力を出していない。

 

「ふむ、これほどの力を持って……」

 

 言葉が続かなかった。私とアーチャーを囲むように展開していた三つの盾のうち一つが真後ろに急接近してきた。

 

「むんっ!!」

 

 デバイスである杖のケツの末端を盾の方を見ないで突く。視界からアーチャーを離さないために視線を変える事は出来ない。避ける事も出来るがその行動がアーチャーに先手を打たせてしまう。アーチャーを視線から外すことなく接近してきた盾を迎撃するには受け止めるしかない。

 突いた槍からは固いものにぶつかった感触が伝わってくる。貫通することは無かったが盾の勢いは止める事が出来た。

 

「ぬっ!?」

 

 しかし、それはリスクがあっても避けるべきだと今になって気付いた。いつの間にか体にバインドが絡められていたのだ。突いた盾からロープバインドが現れていた。

 そのまますぐに他二つの盾も私の周りに近づきロープバインドを絡ませる。ちょっとした力では指先も動かす事の出来ない雁字搦めな状態だ。

 

「飛び散った魔力の再収集……」

 

 その間にアーチャーは私から少し離れてカノンにこの空域に散った魔力を収集させていた。

 

 集束砲……か……私の魔力も収集するとは。

 

 カノンの切っ先を私に向けられる。そこには通常の何十倍もある大きさの集束砲の魔弾が収集されていた。

 

「“ヴァリアブル・ブレイカー”。行けるね、レイジングハート」

『了解、マスター』

 

 大気を急激な力で収束されているため異様な音をたてて悲鳴を上げている。これほどの大きさの集束砲を集めて固めて固定するため力がある上に未だにその底が見えない。

 

「……まだだ」

「っ!?」

 

 しかし、ここで私も黙ってそれを受けるわけにはいかない。

 体全体に力を込めて動きだす。バリバリと拘束していたバインドが引き千切れる音高い音がする。強力な拘束力に対抗するために絞められていた部分は痛みを発するが気にする余裕が無い。その間に足の後ろと槍の切っ先に魔力を溜めこみ、槍を構えてアーチャーを見据える。

 

 周りの盾を動かそうとするならそのコンマの遅れが命取りだ。瞬時に近づいて、その喉を引き裂く。

 

「くっ、“ヴァリアブル・ブレイカー”!!」

 

 アーチャーは周りの盾を動かすとやられると分かったのか、盾で拘束せずに集束砲が放たれる。目の前に迫ってくる砲撃は一直線へと私の元へと向かってくる。

 

「“刺突”」

 

 それを私は足元に溜めていた魔力を一気に解放して、槍の切っ先を砲撃に当てるように真正面から飛び込んだ。

 これはアルトリアが最初のバーサーカー戦で見せた風王結界を解放した時の余波で跳んだやり方と一緒だ。それに乗って超高速で移動する。

 足元に溜めこんだ魔力を解放し、槍の切っ先が撃にぶつかる。ぶつかった時の余波で大気がまるで地面に立っている時に地震によって体を揺さぶれるかのように振動していた。

 それだけでも見ると、かなりの魔力がこの集束砲に溜めこまれているのがわかる。

 

「っぐ……」

 

 一瞬、拮抗状態になっていたかと思ったが徐々に押され始めていた。未だに底の見えないアーチャーの力はやはり強大だった。

 このままでは拮抗が破れて、その集束砲をこの体に受けてしまう。この威力だと一発退場だ。

 

 ……全力を持っても……これまでか……。

 

 三度目の死が目の前に訪れても心は清く穏やかだった。死に慣れ過ぎたのかも知れない。

 

 ここで消えるのも私の実力が足りないからか……すまぬ、レジアス……お前の夢は……。

 

 悔いは無かった。実力で負けるとならばその結果は受け入れよう。

 しかし、後悔は残る。成し遂げなければならない事がまだあるのだから。

 

 “マスターの名の元に令呪をもって命ずる。ランサーよ今すぐ霊体化して撤退してください。”

「……っ!?」

 

 諦めかけたその時、脳内にアルトリアの声が響いた。令呪による命令だ。その言葉が聞こえた後、体内を巡っていた魔力が拡散した。それは強制的に霊体化したためだ。私を狙って放った集束砲は空を貫いただけだろう。

 そして、次に視線に入ったのは廃墟だ。しかもここは拠点にしている私の廃墟。目の前には私のマスターであるアルトリアが立っていた。

 どうやら私は令呪の力によって強制的に退去したようだ。アルトリアが私に命令をして一瞬にしてあの戦いから離脱させたのだ。

 

「無事ですか、ランサー?」

「ああ、紙一重で助かった」

 

 アルトリアの手の甲をチラッと見た。令呪を使ったせいか、一画少なくなっている。

 

「すまない、私のわがままで行ったのだが、令呪を使わざるおえない状態まで戦いをしてしまった」

 

 そう、私は戦いの途中で気づいていた。アーチャーには敵わないと。全力で挑んだはずなのにアーチャーは未だに力を隠していた。それが先ほどの戦い。誰が見てもアーチャーの方が有利だと言える戦いだった。それを令呪で退却させなければならないほどまで戦ってしまった。

 そこが申し訳なかった。いかなる罰をも受け入れよう。私は覚悟を決めていた。

 

「いえ、私はむしろゼストの戦いを見て安心しました。こうして離れて上空の戦いのモニターを見させてもらいましたが私と同じく真っ向勝負をする騎士なんだと知って良かったと思っています」

「むっ……」

 

 本来なら貴重な令呪をわがままで使わせてしまった事に対して怒り出すのが普通なのだが、アルトリアは怒りの表情は無く、むしろ親近感を得たように優しく微笑んでいた。

 

「怒らないのか?無駄に令呪を使わせてしまった事に」

「ええ、初めてゼストの戦いをじっくり見せてもらいましたのでここで令呪を使ったのは間違いないと思っています。怒る理由はありません」

「……そうか……」

 

 かの円卓の騎士は騎士王に対して決して友好な状態では無かったと聞く。

 完璧と謳われた湖の騎士ランスロットは王紀ギニヴィアとの不義の恋とモードレットの思惑にによってカムランの落日を招いた“裏切りの騎士”とも言われてしまった。忠誠心はあったのだろうが友好関係であったというわけでも無かったのだろう。

 そして、モードレットは父親であるアーサー王から継承されなかったが為にカムランの丘でアーサー王を打倒のために反乱軍を立ち上げた。結果としてアーサー王の光栄の物語に、最後の最後で泥をかぶせる稀代の悪党となった。そこに親子関係どころか友好関係などありもしない。

 いろいろと憎い対象となった騎士王は周りから人の心が分からないと言われ孤独を生きていた。

 

 ……そんな伝説と目の前にいる人物はまるで違うな。この前の聖杯戦争にも参戦したと聞く。死後の戦いを進んでいくにつれ、周りの心を知ろうと努力しているのか。そして、今度こそ国を……。

 

「……お前の夢は……変わらないのか?……その積み重ねてきたモノを引き換えにして無かった事に」

「……私は……全てを戻したい……それは変わらない……変わらないのですが……」

 

 アルトリアは私の問いに歯切れを悪くしたような戸惑いさを表情に出した。そのままアルトリアは私から視線を逸らす。

 

「前々回の聖杯戦争で出会った英霊たちとの狂宴。前回の聖杯戦争で士郎や凛、アーチャーに出会い、そして、今の聖杯戦争をゼストやガイを見て少し戸惑っています……この願いが本当に私の願いであっているのかと」

「……」

 

 今まで貫いてきた願望に疑問を持ってしまった今のアルトリアは王ではなくただの小娘となって悩んでいた。いくら武術や剣術に長け騎士王と言われたとしても1人の人物なんだ。苦悩もするし過ちもする。様々な人に出会ってその心境は変わる事もあるのだ。

 

「それを決めるのは自分自身だ。時間があるのならじっくり考えるべきだ」

「……ええ、そうですね」

 

 自分の願望は自分で決めるべきだ。私が助言を言ったところで最後に決めるのは自分だ。その心を……願望を固めるのは己自身で決める事が一番なのだ。

 

「……すまぬ、私の失態から随分と離れてしまった」

「いえ、お気になさらずに。ただ一つだけお願いしたい事があります」

「ん?何だ?」

 

 アルトリアの真っ直な瞳が私を見つめる。

 

「危険な場所へ行くのなら私も一緒に行かせてください。ゼストだけ危険な目に遭わせるわけにはいきません」

「むっ……」

 

 その声には張りがあり芯があり、そして温かい心があった。心配と危険な事はしないでくれというアルトリアの心の気持ちが目を見るだけで分かる。

 

「ああ、努力しよう」

「はい。お願いします」

 

 そこでアルトリアと出会って初めてアルトリアは愛嬌のある無垢な笑みを浮かべた。二十代の時にこの笑顔を見たら惚れていただろう。

 

「少し休ませてくれ」

「はい」

 

 私は軽く笑みを返して霊体化した。

 

 すまない、アルトリア。その約束はきっと守れないだろう。

 

 しかし、心の中ではアルトリアに謝罪した。その約束を守っていては聖杯へたどり着く事は出来ないのだと確信していたのだから。




 ゼストとアルトリアの年の差恋愛フラグが……立つかなw?

 自分はstrikersでゼストが気に入ってます。生き様がカッコイイしユニオンヴィータを吹っ飛ばせるほどの実力だしね。

 ここから先はお前が主人公だ(まてw

 オリヴィエの過去編は本作で次で触れられるところですね。今月号買いに行かないと。(投稿日2013/8/25)

 クラウス以外にも重要人物ががが……。無理に組み込むと変になるので軽くね……軽くだよ……ま、魔女なんか入れないよ!!

 ここまで読んでくれて何か一言あると嬉しいです。今後もよろしくお願いします。


















fateのモードレットの立ち絵にグッときましたw

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