魔法少女リリカルなのはvivid~過去と未来と現代の交差~   作:ガイル

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ミカヤさんの技が強すぎ。

………あんな技があるのか。

ガイはそれに勝てるのかなw?

では、五話目入ります。


五話“複製と子孫の交差”

 ―――マンション

 

「んんっ」

 

 窓からの朝日が部屋に光差す頃、俺は目が覚めた。脳も徐々に活性化されていく。

 そして、体全体にダルさが残っているのがわかった。壁にかかっている時計の時間を見る。そろそろ起きないといけない時間だ。

 しかし、体のダルさが残っているからか、このままもっと寝ていたい。そのような衝動が走る。

 だが、仕事も家事もある。それは時間が決まって行われる行事だ。それがこの後の時間にあるから眠れるわけがない。

 

「……ん~っと」

 

 俺は二度寝の考えをやめて、ベッドの脇に預けていた背中を離して立ち上がり、腕を組みながら大きく腕を上へと伸ばす。少し無理な体勢で寝てしまったようだ。体の節々が痛い。

 俺は周りを見た。ベッドにはアインハルトが、ソファーにはオリヴィエが静かな寝息を立てて眠っている。

 俺は昨日、アインハルトと対戦をして何とか勝つ事が出来た。アインハルトはあの後、背負っていた俺の背中で寝たのだが、いっこうに起きる気配もなかったのでベッドで寝かせることに。

 オリヴィエが寝るところが無くなったのでソファーに寝かせて俺は床の上で寝た。

 

「航空実技に道場に重りを持ったフィジカルトレーニング(仮)にアインとの対決……で、硬い床の上で寝る」

 

 俺は昨日の事を簡単に思いだして口に出す。振りかえってみるとハードスケジュールだ。その上、硬い床の上で寝るのだ。朝にダルさが残るのが理解できる。アインハルトの方を見る。表情は穏やかだ。安心しきっているのだろうか。

 

「ま、必要な労働力かな」

 

 俺はアインハルトの可愛い寝顔を見ていると昨日のハードスケジュールの事はたいして気にならなくなった。

 

「朝飯作るか」

 

 俺はキッチンへ向かいそのうち起きるだろう2人の分と自分の分の三人分の朝食を作り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んっ……」

 

 料理を始めてからしばらくしてアインハルトの声が聞こえた。俺はキッチン越しからベッドを見る。

 

「こ……こは?」

 

 脳が活性化されていないのかぼんやりとした表情で俺の方を見る。

 

「おはよう、アイン。朝食の準備しているから少し待っててな」

「え……あ、はぁ……」

 

 まだ、脳が動いていないのか俺の言った言葉にあまり反応しない。これを見た限りだとアインハルトは朝が弱いらしい。

 

 オリヴィエと一緒だな。

 

アインハルト「あ!!」

 

 しばらくして脳が活発に動き始めたのだろう。寝ぼけていた目から一変、寝起きの顔を見られたからか頬を赤くした。

 

「あ、あの、その……」

「アインは朝が弱いんだな」

「うっ……」

 

 何も言い返せないのか、顔を伏せて視線を俺からズラした。

 そして、ベッドから降りて顔を赤くしながら俯き加減で玄関へと歩き出す。

 

「何処に行くんだ?今、朝食を作ってるぞ」

 

 そんなアインハルトに声をかける。因みにメニューはパンにベーコンエッグとサラダの盛り合わせ。そして、スープだ。

 

「あ、あの、シャワーを浴びたいので」

 

 アインハルトは昨日の対戦の後からずっと熟睡していたのだから汗を掻いたままなのだろう。女の子がそれを気にしないわけがない。

 

「ああ、行ってこい。朝食は食べるか?」

「え?」

 

 アインハルトは俺が言った言葉にキョトンとした表情をしていた。

 

「別に金を取ろうなんて思ってないよ。皆で食事をした方が温かい食卓が出来るし」

 

 温かな食卓。俺が羨ましかったモノだ。

 俺はアインハルトにもこの食卓に混ざってくれると嬉しいと感じるだろう。昨日の夕食の時も対戦前なので少しピリピリしていたが、それでもオリヴィエだけではなくアインハルトもいるとさらに温かくなった。

 

 だからかな。俺はアインと一緒に食卓を囲んでほしかったりする。自己欲望だが、アインは首を縦に振ってくれるだろうか?

 

「……ええ、頂けるのなら頂きます。ガイさんの料理は美味しそうですから」

 

 アインハルトは了承してくれた。俺はその事実に嬉しくなって笑って答えた。

 

「んじゃ、もう少ししたら出来るからそれまでにシャワーを浴びてきな」

「はい。失礼します」

 

 アインハルトは一言返事をして頭を下げて、自分の部屋のシャワーを浴びにドアから出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オリヴィエも起きて、アインハルトも戻ってきたので三人で朝食を取ることに。

 

「相変わらず、ガイの食事は美味しいですね」

「ベーコンと卵を焼いただけだ。誰でも出来る料理だぞ」

「それでも美味しいです」

 

 1人暮らしをしている野郎の食事を美味しいと言ってくれる2人には感謝の気持ちでいっぱいだ。温かい食卓はやはりいい。食卓はこうであってほしいものだ。アインハルトは真面目な表情で、オリヴィエは微笑みながら食べていた。

 

「で、だ。アイン。朝食を食べたら湾岸第六警防署に行くぞ。昨日ノーヴェと話をしてそう決まった」

「……はい」

 

 アインハルトは分かっていたからか静かに頷いた。

 

「え?アインハルトは捕まるのですか?」

 

 オリヴィエは驚いていた。

 オリヴィエが知らないのは昨日ノーヴェと話をしていた時、オリヴィエはシャワーを浴びていたからだ。その時の内容は知らないはずだ。

 

「いや、捕まりはしないさ。被害者から被害届が出ていないから、厳重注意だけで終わるだろう」

「そうですか。良かったです」

 

 アインハルトが捕まらないと分かったからかオリヴィエはニッコリと微笑んで安心した表情を表す。

 

「ノーヴェも今回の件は水に流す様だ。海岸第六警防署に来てくれる」

「ノーヴェさんとガイさんにはご迷惑をお掛けしました」

 

 アインハルトは食事をいったん止め、俺に頭を下げた。

 

「俺は別にいいけどな。ノーヴェにはちゃんと謝っとけよ」

「はい」

 

 今回の連続傷害事件は覇王の悲願を叶えるために行った事。アインハルト自身が悪いわけではないけど、ケジメはしっかりとつけないとならない。

 

「んじゃ、とっとと食べて行くか」

「わかりました」

 

 俺たちは食事を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――海岸第六警防署 玄関前

 

 家の洗濯物はオリヴィエに任せた。一通り洗濯機の使い方を教えたから大丈夫だとは思う。女性物の服はいいが下着を俺が洗うわけにはいかない。王家である聖王女が洗濯するとは何か想像がしづらい。それでも俺がやるよりかはいいだろう。

 そんなオリヴィエを部屋において俺とアインハルトは湾岸第六警防署にやってきた。

 玄関前までやってくると、ノーヴェが腕を組んで立って待っていた。

 

「おはよう、ノーヴェ」

「よう、ガイ。と、アイン……ハルト……だったけか?」

「……はい」

 

 アインハルトはノーヴェを見て、複雑な表情で頭を下げた。ノーヴェには申し訳ない気持ちでいっぱいなのだろう。

 

「ガイ、今度約束していた組手、相手になってもらうからな」

「……ああ」

「今の間はなんだよ?」

 

 ノーヴェがジト目でこっちを見てくる。そう言えば昨日そんな事を言っていた気がする。すっかり忘れていた。そんな事を言ったら一言何か言われそうだ。

 そんな雑談もそこそこにノーヴェはアインハルトに顔を向ける。

 

「アインハルト。今回の事件はすべて被害届は出されていない。だからあたしと一緒に行って路上喧嘩ってことにしてもらう。それなら厳重注意だけですむはずだ。それでいいよな?」

「はい……ありがとうございます。ノーヴェさん」

 

 アインハルトは再びお辞儀をする。

 

「礼はガイにもしとけ。ガイも喧嘩両成敗って事で一緒に謝る予定だったがアインハルトが先に手を出したんじゃ両成敗が成り立たないからな」

「え?ガイさんも?」

「あ、ああ、まあな。けど立証する材料が無かったから何もできなかったけど」

 

 ノーヴェに余計な事言うなよみたいな視線を送ったが、ノーヴェはニヤリと笑って俺の視線を受け流す。

 

「ガイの気持ちにも礼を言っとけよ。アインハルトが捕まってほしくないと昨日言ってどうにかならないかと必死の表情であたしに言ってきたんだから」

「……ノーヴェ、あまり余計な事言うなよ」

「ガ、ガイさん……ありがとうございます」

「……ま、まあ別に気にしてないさ」

 

 俺に振り向いて頭を下げてくるアインハルト。何もしていないのに礼を言われるのは何かこそばゆい感じだが、とりあえず気持ちだけでも受け取っておこう。

 

「……あの、ノーヴェさん。怒っていますか?」

「いや、別に怒っていないさ。さ、入るぞ。ガイはこれからどうするんだ?」

 

 そして、再びノーヴェに振り向いて不安げな表情で見上げてきたアインハルトにノーヴェはどう受け取ったかはわからないが怒る様子はないようだ。

 俺は心配していた。ノーヴェはモニターでは普通に喋っていたが実はかなり怒っていたのではないかと。

 だが、それは杞憂に終わったようだ。

 

「ん、798航空隊に行くよ。それじゃ、アインをよろしくな」

 

 そう言うと、隣に居たアインハルトが顔を上げた。

 

「ガイさん。本当にありがとうございました」

 

 アインハルトはぺこりと再び頭を下げた。今日のアインハルトは頭を下げる事が多いようだ。

 

「ああ。ちゃんと叱られてこい」

 

 俺は笑みを作って、冗談っぽく言った。

 

「はい、ちゃんと叱られてきます」

 

 アインハルトは表情をほとんど変えること無く言葉を真似て返してきた。その返し言葉は昨日の対決の時にも使われた気がした。

 

 俺の真似なんてしなくていいのに。

 

 俺は心の中で苦笑する。そして、2人は湾岸第六警防署の中へと消えて行った。

 

「さて、仕事行くか」

 

 俺は心が温かくなったのを感じながら踵を翻して、その場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――湾岸第六警防署

 

 私は今回の件で警防署の人にこっ酷く叱られた。被害届は出ていないが被害者が被害届を出したら連続傷害事件として捕まり起訴されるところだったと。それは困る。覇王の悲願を達成する機会を失ってしまう。それだけは避けたい。

 警防署の人は今後、そんな事をしないと約束するなら厳重注意で終わるとの事。私はそれを約束した。少し安心した。人に路上試合を申し込むのは難しくなったが、覇王の悲願の達成することは失われていないのだから。

 今は全ての話が終わり、私は廊下の長椅子に座って考え事をしていた。

 

 やることはたくさんある。結局、なぜオリヴィエがこの現代に現れたのか。ガイさんは教えてくれなかった。なら1人で調べる必要がある。それに……。

 

「ひゃっ!!」

 

 考え事をしていた私の右頬に何か冷たいものが当たり私はびっくりして、高い声を出してしまった。

 

「よう、隙だらけだぜ。覇王様」

 

 視界に入ったのは薄赤い髪のショートヘアをした少年的な容姿をした女性、ノーヴェさんだった。ノーヴェさんの手には缶ジュースがあった。それが私の右頬に当たったのだろう。

 ノーヴェさんは私の反応が面白かったのか笑いながら缶ジュースを渡してきた。私は慌てながらもそれを受け取る。

 そして、ノーヴェさんは私と同じ長椅子に座った。

 

「もうすぐ解放だけど、学校はどーする?今日は休むか?」

「行けるのなら行きます」

 

 私は即答した。学園は休む気にはなれない。ためになる授業が多いから聞かないともったいない。

 

「まじめで結構」

 

 ノーヴェさんは笑った。そう言った事が嬉しかったのでしょうか。

 そして、左手を耳に添えて、言い出しが少し言いづらいのか目線を私からズラす。

 

「で……あのよ、うちの姉貴やティアナは局員の中でも結構凄い連中なんだ」

 

 ノーヴェさんの姉貴とティアナさん。

 私がここの建物の中に入るとその2人が笑みをこぼしながら待っていた。ノーヴェさんに簡単に紹介された。

 青い髪のショートヘアに緑の瞳をしている方がスバル・ナカジマさん。ノーヴェさんのお姉さんのようだ。

 そして、もう1人がオレンジ色のロングヘアーに青い瞳をしているティアナ・ランスターさん。本局執務官でスバルさんの友人だと紹介された。第一印象としてはとても穏やかな人たちだ。

 しかし、実際はスバルさんは人命救助の“エキスパート”の特別救急隊であり、ティアナさんは多忙で知られている執務官。どちらもハードな職であり、かなり忙しい。

 そんな人たちが穏やかな雰囲気を出して、私の事を迎え入れてくれたので、私の事に時間を割いてしまってなんだか申し訳なかった。今日は休暇日だと言っているから尚更だ。

 

「姉貴やティアナは古代ベルカ系に詳しい専門家もたくさん知っている。お前がいう“戦争”がどんなものなのかはわかんねーけど」

 

 ノーヴェさんは天井を見上げながらその人たちの事が凄い事を教えてくれる。

 そして、こちらに顔を向けた。

 

「協力できることがあんなら私たちが手伝ってやる。だから……」

「聖王達に手を出すな……ですか?」

 

 ノーヴェさんの言いたい事を先に言った。たぶんこれを言いたかったのだろう。ノーヴェさんは合っていたからか目線をズラした。

 

「ちげぇよ。いや違わなくはねーけど」

 

 そう言って、再び私を真剣な表情で見る。

 

「ガチで立ちあったから分かったんだ。お前さ格闘技が好きだろ?」

 

 私が格闘技が好き?何故そんな事が言えるのだろう?ノーヴェさんとはまだ一度しか対戦していないのに。

 

「あたしもまだ修行中だけど、コーチの真似事をしてっからよ、才能や気持ちを見る目あるつもりなんだよ……違うか?好きじゃねえか?」

 

 そんなこと考えたこともない。すべては覇王の悲願のため。好きとか嫌いとかじゃない。

 これはそのためにあるだけの物。

 

「好きとか嫌いとかそういう気持ちで考えた事はありません」

 

 私は右拳を胸の前で握る。

 

「覇王流は私の存在理由の全てですから」

 

 それが私のすべて。覇王の悲願は達成する。

 それは覇王の血が流れているこの体だからこそ絶対に達成しなければならないものだ。

 

「……聞かせてくんねーかな?覇王流のこと……お前の国の事。お前がこだわっている戦争の事」

 

 ノーヴェさんは両膝に両肘をついて私の事見ている。どんな長い話でもきちんと話を聞いてくれるようだ。

 

「……私は……」

 

 私はこれまでの事を話した。最愛の人物を亡くしてしまったために出来た覇王の悲願の事。誰よりも強くなるためそのために路上試合を申し込み、挑んでいる事。

 その結果、この世界にはこの覇王の拳は誰も受け止める事が出来ないのではないかと諦め始めている事。やはりこの話をすると悲しい気持ちが溢れてきてしまい涙を流してしまう。

 オリヴィエの事以外はすべて話した。ガイさんと約束しているため、オリヴィエの事は言わなかった。ノーヴェさんは私が話を終えるまで静かに聞いていた。

 そして、私の話をすべて終えるとノーヴェさんはグッと右手を握り締めてこう言った。

 

「いるよ。お前の拳を受け止めてくれる奴がきちんといる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――798航空隊 校舎

 

 今は昼休み。

 午前中はなのはさんとヴィータさんの航空実技だった。部隊全体が少し鈍っている感じがするとヴィータさんが言っていたので、今日も基礎強化練習を集中的に行った。

 なかなかなハード訓練だった。これが今後のためになると良いのだがな。

 

『マスター、メールです』

 

 プリムラから機械の声が聞こえてきて俺の目の前にモニターが現れる。

 

差出人………アインハルト・ストラトス

件名………覇王の悲願

本文………こんにちは。今朝は湾岸第六警防署まで一緒に来てくれましてありがとうございます。そこでノーヴェさんといろいろと話をお聞きしまして、覇王の悲願を……拳を受け止めてくれる人がいるらしいです。今日の放課後、その人に会ってきます。

 

 ノーヴェの知り合い?ミカヤか?

 

 俺は凛々しく、そして、いつも冷静沈着で長い青髪を後ろで縛っている抜刀術天瞳流師範代を思い浮かべた。

 しかし、これはただの憶測でしかない。

 

「相手は誰だろう?」

 

 俺はそう言いつつ、返信の文章を作成した。

 

To………アインハルト・ストラトス

件名………Re:覇王の悲願

本文………お疲れさん。どんな相手かは知らないけど全力でブツけてきな。ノーヴェが紹介した人だ。相当強いと思うよ。因みに誰だかわかるか?

 

「送信を頼む」

『了解しました』

 

 プリムラに送信するよう命令してモニターを閉じた。空を見上げると雲が少しあるだけのいい天気だ。このままベンチに座っていたらいい感じに日が当たって眠ってしまいそうだ。

 暖かい日に当たり少しずつ眠気が襲ってきたところで、メールが返ってきたとプリムラから連絡が入り、眠気を押し殺して再び目の前にモニターが現れる。

 

差出人………アインハルト・ストラトス

件名………Re:Re:覇王の悲願

本文………はい、ありがとうございます。全力をブツけてきます。それで、その人の名前ですが聞かされていません。ただ、強いと言ってくれているだけです。

 

「誰だか分からない相手……か」

 

 まあ、ノーヴェが紹介する人だから強い人であるとは思うけどな。

 

 返信メールを作成する。

 

To………アインハルト・ストラトス

件名………Re:Re:Re:覇王の悲願

本文………まあ、相手が誰でもその悲願をちゃんと受け止めれる奴だといいな。俺だと無理だったし。

 

 プリムラに送信命令をしてモニターを閉じた。

 昨日の対決で俺では覇王の悲願を受け止める事は出来なかった。俺には重すぎたと実感できた。アインハルトが全力を出せる状態だったら、きっと負けていただろう。

 だから、そいつはちゃんと受け止めてくれる奴だといいんだが。

 

『マスター、メールです。二通着ました』

 

 プリムラからメールが着信したと知らせが来て考え事していた俺の前にモニターが現れる。

 

差出人………アインハルト・ストラトス

件名………Re:Re:Re:Re:覇王の悲願

本文………ガイさんは強いですよ。機会があればまた対戦をお願いしたいくらいです。私もあの時は疲労が溜まっていましたが、ガイさんも疲労が溜まっている状態です。お互いに全力勝負したらどちらが勝つか分かりません。私はガイさんが覇王の悲願を受け止めてくれる人だと思います。

 

 俺の事を買いかぶり過ぎだ。アインハルトから見れば俺なんて弱い。

 

 そして、もう一通の方を見た。

 

差出人………高町ヴィヴィオ

件名………今日の放課後

本文………ノーヴェが新しく格闘技をやってる子と知り合ったので、今日の放課後に一緒に練習することになりました。良かったら来ませんか?場所は中央区第4公民館の前にある喫茶店で待ち合わせしていますので。

 

 ヴィヴィオからだ。こっちは新しい子と練習をするのか。

 今後の予定は798航空隊では空戦実技は無く、デスクワークだけ。その後はオリヴィエのためにカラーコンタクトを買う、プリムラが卑猥な発言を少ししてきているので開発者に聞いてくる、この二つだ。

 ストライクアーツの後でもカラーコンタクトは夜遅くまでやっている店を知っているし、開発者の研究室なんて24時間の年中無休で研究しているところだ。

 なら、と俺は結論を決めて返信する文章を作成した。

 

To………アインハルト・ストラトス

件名………Re:Re:Re:Re:Re:覇王の悲願

本文………まあ、俺の事はいい。今日の相手に全力を出せるように準備しておきなよ。

 

To………高町ヴィヴィオ

件名………Re:今日の放課後

本文………んじゃ、行くかな。どんな子か気になるしね。

 

 プリムラに送信を命令してモニターを閉じる。

 しかし、どちらもノーヴェからの紹介だ。

 

「……もしかしてな」

 

 俺はとある仮説を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――喫茶店

 

「ミッド式のストライクアーツをやってます。高町ヴィヴィオです!!」

「ベルカ古流武術、アインハルト・ストラトスです」

 

 2人は握手を交わした。

 仮説は当たってしまった。ノーヴェがアインハルトに紹介した人物はヴィヴィオ。ヴィヴィオに紹介した人物はアインハルトだった。

 俺はデスクワークを終わらせた後、ここの喫茶店に行くために歩いていた。途中でヴィヴィオ、コロナ、リオに出会ったので一緒に喫茶店に行くことに。ヴィヴィオは今日会う子の事が気になっているのか、そわそわしたり時折笑みを零したりと落ち着かない。コロナとリオがそれを見るたびに笑っていた。

 そして、喫茶店に着くとかなりの大所帯だった。全員で8人。ノーヴェ以外は知らない人だ。

 ヴィヴィオ達は知っているらしいが俺は初対面なので、まずはノーヴェの席に居た2人の女性を紹介された。

 青い髪のショートヘアに緑の瞳をしている方がスバル・ナカジマさん。ノーヴェさんの姉さんらしい。髪の色が違うけど。

 そして、もう1人がオレンジ色のロングヘアーに青い瞳をしているティアナ・ランスターさん。本局執務官でスバルさんの友人。2人は機動六課のフォワード陣だったと。かなり凄い人たちだ。

 そして、向こう側に居る5人の紹介をしようと言うところで……。

 

「アインハルト・ストラトス。参りました」

 

 アインハルトがやってきたのだった。

 そして、先ほど自己紹介をして握手をした。握手をしたアインハルトは戸惑いの表情を隠せなかった。ヴィヴィオのその左眼が紅く右眼が翠の虹彩異色の瞳。オリヴィエとまさしく一緒だ。複製体であるためその瞳もその色になる。アインハルトが戸惑うのも仕方ない。

 

「あの……アインハルトさん?」

 

 アインハルトが悲しい表情をしていたからか、ヴィヴィオが心配そうな表情をアインハルトに向けてくる。

 

「……ああ、失礼しました」

「あ、いえ!!」

 

 アインハルトから握手を解いた。

 

「まあ、2人とも格闘技者同士。ごちゃごちゃ話すより手合わせした方が早いだろ。場所は押さえてあるから早速行こうぜ」

 

 ノーヴェの言葉で皆は席から立ち上がり、公民館の中に移動することになった。アインハルトは俺の事を見た。

 オリヴィエとヴィヴィオ……覇王の悲願の原因だった聖王家の人物が2日連続で会うのだ。アインハルトはどのように接したらいいのか分からない表情を浮かべていた。

 

「ま、全力ブツけてみなよ」

「……はい」

 

 そして、公民館の中へと移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィヴィオとアインハルトはコート内で軽くストレッチをして筋肉の緊張をほぐしていた。

 2人は動きやすい体操服に着替えてストライクアーツ専用のグローブナックルに足から膝までカバーをしている膝当てを付けている。俺を含む残りのメンツは端の方で見学だ。ノーヴェはレフリーをするため2人の間に立っていた。

 

「じゃあ、あのアインハルトさん!よろしくお願いします!!」

「……はい」

 

 アインハルトは最後にベルカ式の魔法陣を一度発動させて集中した。それを見たヴィヴィオは驚きながらも笑っていた。

 

「んじゃ、スパーリング4分1ラウンド。射撃砲と拘束はナシの格闘オンリーな」

 

 そして、ヴィヴィオはトントンっと足でリズムをつけながら構える。アインハルトは静かに構える。

 俺は2人と対決をした事があるが2人とも戦うスタイルが全く違う。例えるならヴィヴィオは動、アインハルトは静だ。それが今の構える状態から見てもわかる。

 

「レディ・ゴー!!」

 

 ノーヴェの合図と同時にヴィヴィオがアインハルトに向かって走り出す。

 そして、残り三歩でアインハルトに届く距離で

 

アインハルト「!!」

 

 一気に加速してアインハルトの懐に入る。ヴィヴィオはそのままアッパーを繰り出す。アインハルトは一瞬、驚いていたが冷静にそれを受け止める。

 そのままヴィヴィオのラッシュが入った。それもアインハルトは澄ました表情で受け止め、時には受け流す。

 ヴィヴィオの拳がアインハルトに受け止める度に地響きが鳴るような大きな音がする。それほどヴィヴィオの拳は重いのだ。

 

「ヴィ、ヴィヴィオって変身前でも結構強い?」

「練習頑張っているからね」

 

 外野は驚いていた。ヴィヴィオが10才であんなにも強いのは普通は驚く事だ。俺も初めて会った時も驚きの連続だったしな。

 そして、ラッシュをしていたヴィヴィオは地面を踏んでいる左足に力を入れて、それを軸にしてアインハルトの顔を狙うように右足で回し蹴りを放つ。

 アインハルトはそれも冷静に対処して、顔を少し下げて避ける。ヴィヴィオはそれでも諦めず、再びラッシュを再開した。2人がぶつかる度にコート内では大きな音がする。

 アインハルトは表情を困惑していた。何か考えている様子だ。そのまま静かに右腕を握り構えた。ヴィヴィオが右ストレートを放つ。それを少し体を下げて避けた。

 

ヴィヴィオ「!!」

 

 ヴィヴィオは驚いていた。その拳が簡単に避けられてしまった事を。アインハルトはそのままヴィヴィオの懐に入り……。

 

 左手でヴィヴィオの胸を左手の掌手で突き、ヴィヴィオを大きく飛ばした。大きく飛んだヴィヴィオを、薄いオレンジ色の髪のボーイッシュな容姿をしたオットーとブラウンのロングヘアーのディーチによってキャッチして飛んだ勢いを殺した。

 ヴィヴィオは驚いて右手を振り上げて静止しているアインハルトの方を見る。体が小刻みに震えていた。武者震いというやつだろう。ヴィヴィオは満面の笑みをアインハルトに向けていた。

 しかし、その当の本人、アインハルトは悲しい表情をして踵を翻した。

 

「お手合わせ、ありがとうございました」

 

 ヴィヴィオはそれを見て、慌ててオットーとディーチから離れてアインハルトを追った。

 

「あの……あのっ!!すいません、私何か失礼な事を……?」

「いいえ」

 

 アインハルトはそこはきっぱりと断った。ヴィヴィオが悪いわけではないようだ。

 

「じゃ、じゃあ、あの私……弱すぎました?」

「いえ、趣味と遊びの範囲内でしたら充分すぎるほどに」

 

 趣味と遊びの範囲内……そう言われたからかヴィヴィオは悲しい表情をする。俺はアインハルトはちょっと言いすぎかもしれないと思った。

 

「申し訳ありません。私の身勝手です」

 

 一応、アインハルトは謝罪した。ヴィヴィオはそれでも必死に食らいついた。

 

「あのっ……すいません……今のスパーが不真面目に感じたなら謝ります!!」

 

 ヴィヴィオは両手を広げて必死に話す。

 

「今度はもっと真剣にやります。だからもう一度やらせてもらいませんか?今日じゃなくてもいいです。明日でも……来週でも!!」

 

 必死になって話すヴィヴィオに罪悪感を感じたのか、アインハルトはチラッとノーヴェの方を見る。ノーヴェは頭を掻いた。

 

「あー、そんじゃまあ、来週またやっか?今度はスパーじゃなくてちゃんとした練習試合でさ」

「ああ、そりゃいいッスね」

「2人の試合楽しみだ」

 

 ノーヴェの言葉にノーヴェと同じ薄赤の髪のショートを後ろで簡単に縛ったウェンディとブラウンの長い髪を一本に縛ったディエチが賛成した。周りからも賛成の声が聞こえる。

 

「……わかりました。時間と場所はお任せします」

「ありがとうございます!!」

 

 ヴィヴィオは頭を下げた。アインハルトは後ろを向いたまま何も反応しなかった。

 

「……聖王女と覇王……か」

 

 俺はボソッと言った。オリヴィエの複製母体であるヴィヴィオ。クラウスの子孫であるアインハルト。

 時代は変わったが再び混じり合う事になった二つの名前。これからどんな物語が始まるのか俺には分からなかった。

 

「ん?ガイ。何か言ったか?」

 

 俺の吐いた言葉は近くに居た、白い髪のロングヘアーに右眼に眼帯をして、背は低いがノーヴェ達の中で一番の姉であるチンクさんが反応した。

 

「いや、なんでもないさ」

 

 俺は先ほど言った事がチンクさんに聞かれていなかったので受け流した。

 

 “聖王女”と“覇王”の重みはかなり大きいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後はストライクアーツをやる流れではなかったので解散することになった。アインハルトはそのことについて何か申し訳なさそうだった。

 今は公民館前に居る。

 

「んじゃ、あたしが送って行ってやるよ」

「いいえ」

 

 ノーヴェがアインハルトの事を送ると言ってきたがアインハルトは否定した。

 そして、俺を見上げる。

 

「ガイさんと帰ってもよろしいですか?同じマンションで隣同士ですし」

「ん?あ、ああ。別に構わないが」

 

 俺は戸惑いながらも了承した。

 

「ただ、帰りに二ヶ所、寄り道したいところがあるんだがそれでもいいか?」

「構いません」

 

 特に今後の予定はないのかアインハルトは即答で答えた。

 

「……何かお前らってほんと仲がいいよな」

 

 ノーヴェがジト目でこちらを見てくる。

 

「ま、隣同士だしな。こんなもんだろ?」

「あ、あの!!」

 

 と、反対側からヴィヴィオの声がした。振り向くとそこにはヴィヴィオが見上げて俺の事を見ていた。

 

「アインハルトさんってガイさんの隣に住んでいるんですか?」

「ああ」

 

 その言葉にヴィヴィオは複雑な気持ちになったのか表情が困惑した。

 

「そ、そうなんですか。だから仲がいいんですね」

「仲がいいというか隣同士の付き合いってモノがあるからな。仲がいいと周りから言われるのであれば近所付き合いはしっかししている感じだな」

 

 ヴィヴィオは表情が少し硬い笑みを作った。

 それを見て変だなとは思ったが今日の出来事は少しヴィヴィオに堪えているのだろう。俺はヴィヴィオの頭を撫でた。

 

「来週、アインと対戦するんだ。今度はしっかりと本気で全力を出して行けよ、ヴィヴィ」

 

 俺は笑みを浮かべながらヴィヴィオの頭に乗っけていた手で撫でる。

 

「……はい」

 

 ヴィヴィオはやはり少し悲しい笑みを作った。俺だけではちょっと物足りない感じだ。でも、ヴィヴィオは強い子だと知っている。自分で今日の出来事を乗り越えてくれるだろう。

 

「ま、何かあったらメールでもしなよ。愚痴相手ぐらいにはなってやる」

「……その愚痴の内容の相手って私ではないのですか?」

 

 俺はアインハルトの方を見る。アインハルトは少しムッとした表情だ。

 

「い、いえ。アインハルトさんに愚痴なんてありません!!」

「……」

 

 ヴィヴィオの言葉にアインハルトは何も答えずにマンションのある道へ歩きだす。ヴィヴィオに対してまだどのように対応すればいいのか分からないようだが無視は失礼だと思って、俺は意地悪してみた。

 

「俺が寄るところは反対なんだが」

「……」

 

 アインハルトはその場で止まって、そして、頭を下げて振りかえり逆の道を進み始めた。きっと間違えたからか顔が真っ赤なのだろう。それを皆に見せたくないと。

 

「お、おい、アイン、先に行き過ぎだ。それじゃ、皆またな」

 

 俺は残っているメンバーに挨拶をして、アインハルトを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……」

 

 私はガイさんとアインハルトさんの背中を見て複雑な気持ちになっていた。

 

「ヴィヴィオ、ライバル出現だね」

「そ、そうだね」

 

 コロナが隣で片目を瞑り言ってきた。確かにあれほどの実力を持っていて年が近いのだからライバルとして申し分ない。

 でも、この複雑な気持ちはそういうものじゃない。

 

「アインハルトさんはガイさんに懐いている感じだね」

「な、懐いている!?」

 

 コロナのさらに隣に居たリオの言葉に私は高い声を出してしまった。そう、この複雑な気持ちはきっとガイさんがアインハルトさんに取られてしまうのじゃないかっていう気持なのだろう。

 私はきっとガイさんの事が……。

 

「ま、確かにそんな感じはしていたな」

 

 ノーヴェも肯定してきた。ガイさんとアインハルトさんの雰囲気は他の人があまり寄せ付けないものがあった。

 

「陛下、大丈夫ですか?」

 

 いろいろな考えをしていたので難しい表情になっていたのだろう。ディードに心配されてしまった。

 

「う、ううん、大丈夫だよ。それにアインハルトさんから見れば私はレベルが低くて不真面目なんだよね」

 

 ガイさんとアインハルトさんの事はひとまず脳の隅に置いとく事にした。今は来週のアインハルトさんとの対決だ。

 

「帰ろう、皆」

 

 私は満面の笑みをして皆の方へ向いた。皆も私の事で考えてくれて嬉しかったけど、ここでくよくよしていても仕方ない。

 アインハルトさんが何を求めているのか分からないけど精一杯伝えてみよう。高町ヴィヴィオの本当の気持ちを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――店内

 

 俺はカラーコンタクト買うために商品のカラーコンタクトの色を調べていた。隣にはアインハルトがジッと俺の事を見ている。

 

「なあ、アイン。フリーはどっちの色がいいかな?翠?紅?」

「……え?あ、はあ」

 

 アインハルトは考え事をしていたのか俺の質問に答えなかった。俺はそんなアインハルトを見て手に取っていた商品を棚に戻した。

 

「ヴィヴィが気になるか?」

「……」

 

 アインハルトは無言だったが、少しして頷いた。

 

「あの虹彩異色の瞳が印象に残るか?」

「当たり前です。私の中には覇王の悲願があるのですから。あの虹彩異色の瞳は忘れる事が出来ません」

 

 確かにな、と俺は相槌を打った。

 

「対戦してみてわかりました。ヴィヴィオさんはまっすぐな技を持っていて、きっとまっすぐな心持っていて……だけどあの子は、だからあの子は私が戦うべき“王”ではない」

 

 だからか。ヴィヴィオに“趣味と遊びの範囲内”と言ったのは。

 

「アインは気持ちを伝えることに不器用だな」

 

 俺は笑ってアインハルトの事を見て、アインハルトの頭に軽く手を乗っける。アインハルトは不器用と言われたからかムッとした表情を浮かべる。

 

「オリ……フリージアと出会って、複製体であるヴィヴィオさんと出会って……」

 

 オリヴィエは外出するときはフリージアと呼んでくれと頼んである。理由は言えなかったがアインハルトは了承してくれた。俺はアインハルトの頭から手を離した。

 

「なんだか複雑な気持ちです……」

 

 不安でどうしたらいいか分からないような表情で見上げてくるアインハルト。

 

「ま、来週にもう一回ヴィヴィとブツかってみるといいよ」

「私はまたガイさんと試合をしたいのですが……」

「……またの機会にな」

 

 俺は最後の言葉に濁した返事をしてアインハルトとの話を終える。俺なんかじゃ覇王の拳を受け止めれない。昨日はそう結論付けてしまったのだから。

 俺は再び商品を手に取る。

 

「紅のカラーコンタクトでいいか。アインもこっちでいいよな?」

「ええ。紅で大丈夫かと」

 

 覇王の記憶が残っているアインハルトから大丈夫だと言われたので紅のカラーコンタクトを購入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――本局第四技術部 研究室

 

 俺はここの研究室にやってきた。時空管理局本局は次元の中にあり本局第四技術部はその中に存在するが、研究室はミッドガル都市にも置いてあるので俺はそこへ寄った。

流石に部外者は入れないので、アインハルトには外で待ってもらう事にした。俺は待合室のソファーに座ってとある人物を待っていた。

 少しして空圧開閉式のドアが開いて白衣を着た一人の女性が入ってくる。

 

「あ、ガイ君。久しぶりだね」

「お久しぶりです。マリーさん」

 

 ショートヘアの翠の髪に丸い眼鏡が特徴的で背は俺よりかは少し低いぐらいな人だ。いかにも精密機械やシステムに詳しそうな雰囲気を持っている。

 彼女の名前はマリエル・アテンザ。愛称はマリーとなっているので、マリーさんと呼んでいる。魔導師の装備のメンテナンスを主に担当している。マリーさんは俺の対面のソファーに座った。

 

「で、私に何か用なのかな?」

「はい」

 

 プリムラを作ったのもこの人だ。俺は首に掛けてあるプリムラを取り出し、テーブルに置いた。

 

「最近、プリムラが卑猥な表現をするようになったのですが、このように設定したのはあなたですか?」

「……たとえば?」

 

 ぐっ……この人は俺に言わせるつもりなのか?

 

 マリーさんの表情からは悪意的なモノは感じず、ただ純粋な質問だったと思っているのかキョトンとしている。

 

「……視姦とか……プレイとか」

 

 俺は言いたくはないがプリムラが言っている卑猥な表現を言った。言っているだけで恥ずかしい。

 

「ああ、それは私がちょっと試しに付けてみた機能よ。気にいってもらえた?」

「全然!!」

 

 マリーさんは思い出したように言った。それが犯人が誰だったのか分かった瞬間だった。

 

「元に戻してください」

「元に戻すって、それが元よ。付け加えたと言っても、ロックされていたデータを解除しただけなんだけどね。プリムラは私が一から作りだしたものじゃないから」

「……」

 

 俺はマリーさんの言葉を聞いて絶句した。

 

 あれが元のプリムラだった……だと!?なんて卑猥なデバイスなんだ。

 

「ガイ君は1人暮らしだって聞いたからね、1人でも寂しくならないようにそういう機能を見つけて付けたのよ」

「これからもっと酷くなる可能性はあるのですか?」

「酷くなるとは酷い事言うわね」

 

 マリーさんは頬を膨らませて子供みたく怒った。

 

「……まあ、でもプリムラのおかげで1人暮らしでも寂しさはあまり無かったです」

「でしょ!?プリムラにはちゃんと感謝してね」

 

 感謝はしているさ。このデバイス……プリムラが居なかったら、たぶん1人暮らしの孤独感に耐えられなかったと思う。

 

「それにしても未だにガイ君の魔力はC-なの?」

 

 マリーさんが話を変えてきた。

 

「ええ。努力はしていますが最近はC-から上がりませんね」

 

 マリーさんはテーブルに置いてあったプリムラを手に取った。

 

「この子の力はまだまだ伸びるんだけどね、ガイ君がBランクに上がったらもっとうまく扱えるわよ。デバイスはね、マスターの役に立てない事が一番嫌なの。この子も自分の力を全部使え切れていなくてマスターであるガイ君に役に立てなくてショックを受けていると思うの。デバイスにも感情はあるのよ」

「……」

 

 俺は何も言えなかった。魔力ランクの低さで愛機であるデバイスにも迷惑をかけているのだ。心の中で罪悪感が残った。

 

「とりあえずBランクを目指して頑張ってみて。そうしたらこの子が新しい力を教えてくれるから」

「……頑張りませんとね」

 

 俺は笑った。つられてマリーさんも笑った。魔力ランクの低さ。やはりここがいろいろと問題を起こしているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お待たせ」

「少し遅いです」

 

 研究室の外に出るとアインハルトが木にもたれて待っていてくれた。入ってから30分もしないぐらいだったが待ってる方にとっては長いはずだ。入る時に先に帰ってもいいと言ったのだが、アインハルトは首を横に振った。理由を聞いたが教えてくれなかった。

 

「少し話が長引いてな。とりあえず帰るか」

「はい」

 

 俺たちは歩きだした。

 

「ん~と、食料はまだ残っているな。帰りがけに買いに行かなくて大丈夫か」

「あ、あの……」

 

 隣にいたアインハルトは何か言いにくそうな表情で俺を見た。俺はなに?と言って言葉の催促をする。

 

「わ、私もまたご一緒してもよろしいですか?」

「ん?食事にか?」

 

 アインハルトは頷いた。多分、食事はあまり意味なく、オリヴィエと居たいから言ってきたのだろう。まあ、それでも温かい食卓が出来るなら嬉しいが。

 

「俺としては暖かい食卓が出来るから大歓迎だよ。それじゃ、とっとと帰ろうぜ。フリーも待っている」

「……はい」

 

 アインハルトは俺の言った事に対して僅かに微笑んだ……気がした。

 

「!!」

 

 アインハルトの微笑みが有ったか無かったと思っていた俺は突然、足のつま先から頭のてっぺんまで電撃が走るような感覚がして、身震いした。

 

 誰かに見られている……視線を感じる。それに……。

 

 その視線は後ろから。その視線には途方もない量の殺気も含まれており、眼球1つの動きも視られているような気がしてならない。心臓を掴まれているような感覚に近く、呼吸もまともに出来ない。こんな殺気を出している人物が後ろに居るのかはわからない。振り向けばわかる。

 しかし、なぜだろうか。振り向いてはいけない気がした。振り向いたら何かが壊れてしまう。そんな気がしてならない。

 

「あ、あの、ガイさん?」

 

 隣に居たアインハルトは俺の表情がいきなり変わったことに戸惑っていた。正直、アインハルトに構っている暇がない。

 しかし、アインハルトは何ともない表情をしている。俺にだけこの鋭い視線を向けられているのだ……殺意も。

 そして、この背筋に凍るような感覚はあまりよろしくない。いつまでも続いていたら、精神がおかしくなってしまうのではないかと錯覚に陥る。

 

「ちっ……」

 

 俺は歯切りを鳴らして、意を決して後ろを振り返った。そこには誰もいない夜道だ。

 そして、振り向いたからか心臓を掴まれているような感覚は無く、感じる視線も無くなっていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 俺の顔からは途方もない量の冷や汗をかいて、肺に詰まっていた熱い空気を吐きだして深呼吸をした。

 

「だ、大丈夫ですか!?ガイさん!?」

 

 隣ではアインハルトが心配してくれている。俺はあの殺気で思考がほぼ停止していたが、少しずつ動き出した。

 

 ……聖杯戦争にかかわる人物が近くに居るのか?

 

「あ、ああ、心配かけてすまなかった。何でもない。早く帰ろう」

 

 俺は一秒でもこの場から離れたかったので早歩きで歩きだした。視線の先に居る人物が気にはなったがアインハルトが居る状況で危険なことはしたくない。

 

「あ、ま、待って下さい」

 

 アインハルトも俺に急いでついてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――ビルの屋上

 

 そこには1人の男性が立っていて、都市を眺めていた。

 

「ガイ・テスタロッサ……」

 

 その男性は呟いた。

 見た目は整ったセミショートの黒髪で黒い瞳の30~40の男性。上着である灰色のスーツを脱いで片腕にかけて、灰色のネクタイに白い長そでのワイシャツに袖なしの黒いセーターを着込んでいた。パッと見れば一般社会の営業マンに見えるだろう。

 しかし、その瞳は静かに、そして強い意志が存在している。

 先ほどはここから視える人物に殺気を含めた視線を送っていた。それを感じ取ったからか、戸惑いながらもその人物は振り返った。その顔を見た時に理解できたのかその男性はフッと笑った。

 

「これからか……」

 

 その男性は星が大きく二つある夜空を見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――マンション

 

 俺はアインハルトと日常風景のマンションに戻ってきた。アインハルトは一度、着替えてくるとの事で自分の部屋に戻った。俺は家で待っていたオリヴィエにただいまと言って、夕飯の準備をした。

 

 先ほどの殺気はなんだったのだろうか?本当に心臓を握られている感覚に陥った。

 

 あの時の事を思い出すと、背筋に冷たいものが走るのがわかる。

 

「ガイ」

 

 聖杯戦争は始まっているのだろうか?だが、管理者からの連絡はない。

 

 しかし、始まるとしたらあのような殺気に耐え続けなければならない。

 

 正直、怖かった。だから、あの場から逃げ出した。

 

「ガイ?」

 

 やはり、俺は非殺傷設定というこの世界のルールに縛られていたからか、殺し合いというものに恐怖を感じる。これでは聖杯戦争は生きていけないだろう。

 

 どうすればいい?

 

「ガイ!!」

「……んっ?」

 

 俺はキッチンからダイニングを見た。オリヴィエが心配そうな表情でこちらを見ていた。

 

「どうしたのですか?いくら呼んでも返事はしませんし、暗い表情をしていましたが」

「……」

 

 何故かオリヴィエを見ていると少しづつ恐怖心が消え始め安堵感が心の中を埋め始めていた。

 そして、俺は野菜を手で水洗いしていたところだったのかずっと手に水道水が流れてしまい手が冷えてしまった。

 

「ん、悪い……考え事をしていた」

「大丈夫ですか?」

 

 ああ、と俺は相槌を打った。

 

「もし困った事があったら言って下さい。相談に乗りますし、必要であれば私がガイの矛になり盾にもなります」

 

 オリヴィエは表情を凛々しくしてグッと拳を握る。

 俺はそれを見て心の中が安堵感に満たされた。

 

「……ああ、ありがとう、オリヴィエ。けど今は大丈夫だ。心配してくれてありがとう」

 

 俺は笑みを作ってお礼を言った。オリヴィエも微笑えむ。

 

「とりあえず夕飯を作るからちょっと待っててな」

「わかりました」

 

 俺は料理を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私服に着替えたアインハルトがやってきて、三人で食事をした。

 その後、オリヴィエはシャワーを浴びに風呂場へ。アインハルトは出したお茶を啜って座っていた。

 

「あの、ガイさん」

「ん?」

 

 俺は食器を洗っていた。アインハルトから名前を呼ばれたので、一度蛇口を止めた。

 

「帰り道の時にものすごい汗をかいて呼吸が荒かったですが、どうしたのですか?」

「……」

 

 なんて答えたらいいか分からなかった。オリヴィエがこの世界に居る事は教えたが聖杯戦争の事は教えていない。

 先ほどの出来事もおそらくは聖杯戦争にかかわる事なのだろう。アインハルトに教えるわけにはいかない。

 

「……何でもないさ、気にしないで」

「そう……ですか」

 

 アインハルトは俺の力になれなかったからか悲しい表情をしてしまった。

 

「そろそろ戻った方がいいんじゃないか?」

 

 俺はどう声をかけた方がいいのかわからず部屋に戻るように諭す。壁にかかっている時計を見ると夜も遅い時間帯だ。

 

「はい。では失礼します」

 

 アインハルトは立ち上がって、お辞儀をして玄関から出て行った。横切る時に寂しげな表情をしていたのが分かった。

 

「……悪いことしたな」

 

 なんて説明したらいいか分からなかったので何も答えられない。これが正解かどうかは分からない。

 

「ガイ、お風呂が開きました。使ってください」

 

 脱衣所からオリヴィエが出てきた。今度はバスタオル姿ではなくちゃんと寝巻きである俺のパジャマを着ている。

 

「ああ、皿洗いしたら入るよ」

「そういえば、ガイ」

 

 キッチンに入っている俺の隣にオリヴィエは来た。

 

「あの、“かたーこんたくと”というものはどうやって使うのですか?」

「ああ、あれか」

 

 言ってきたのは先ほどアインハルトと一緒に買ってきたカラーコンタクトの事だ。

 

「あれを目に付けておけば目の色が変わる。オリヴィエの虹彩異色の目は一色に統一されるさ」

「本当ですか!?」

 

 目の色が変わることにかなり嬉しかったのか、オリヴィエは体を寄せてくる。

 

「あ、ああ。これで外出はしやすいだろ?」

「はい、ありがとうございます。これでガイの役に立てるような情報を集められます」

 

 オリヴィエは満面の笑みを見せてきた。本当にうれしそうだ。

 

「俺のためか……ありがとな、オリヴィエ」

「いえ、マスターであるガイに何も役に立てないのはショックですから」

「あっ……」

 

 そう言えば、マリーさんにも言われた。

 

『デバイスはね、マスターの役に立てない事が一番嫌なの。この子も自分の力を全部使え切れていなくてマスターであるガイ君に役に立てなくてショックを受けていると思うの』

 

 ああ、そうだ。聖杯戦争が始まったら俺はデバイスやサーヴァントに助けられるのだ。

 

 しかし、俺の魔力の低さから、プリムラは本来の力が、オリヴィエは姿を消せずに相手にばれる可能性があり、迂闊に行動が出来ない状態。

 

 俺がしっかりしないといけないのではないか?聖杯戦争というものに足を突っ込んでいるのだから、それなりの覚悟がないといけない。さっきのような殺気に気後れしていては、俺をマスターとしてくれているプリムラやオリヴィエに申し訳ない。

 

 それに、俺の夢である『魔法で誰もが不幸にならない世界』を目指している。危険な事もある。だから、聖杯戦争も危険ではあるが俺は歩みを止めてはならない。

 

「……本当にありがとう、オリヴィエ」

「……はい、何か考えが纏まったようでなによりです」

 

 俺が笑みを作ると、そこから何を読み取ったのかオリヴィエは微笑んだ。

 

「皿洗い終わったら、お茶出すからちょっと待っててな」

「はい」

 

 オリヴィエはキッチンから出ていき俺は蛇口を捻り水を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が風呂から出ると、オリヴィエはソファーで眠っていた。俺は別にソファーでも良かったのだが、オリヴィエは今日は俺がベッドで寝てくれとのこと。

 オリヴィエは毛布を一枚掛けて静かに寝息をたてて眠っていた。

 

『マスター、メールです』

 

 プリムラはそう言って、俺の前にモニターを映し出した。

 

差出人………高町ヴィヴィオ

件名………明日の祝日

本文………こんばんは、ガイさん。私は来週のアインハルトさんとの対決に向けて、帰ってからは練習ばっかりでした。一生懸命練習してアインハルトさんとの対決に全力を注ぎたいと思います。で、明日は祝日ですが、無限書庫に行きますか?私は予定は空いているので大丈夫です。

 

 やはりヴィヴィオは強い子だった。すぐに立ち直って来週の勝負に力を入れ始めている。

 

「ん?そういや明日は祝日だったな」

 

 俺は壁に掛けてあるカレンダーを見る。確かに明日の日の数字は赤かった。何の祝日だったかは忘れたが。俺は返信の文章を作成した。

 

To………高町ヴィヴィオ

件名………Re:明日の祝日

本文………ああ、明日行こう。午後になったら、なのはさんの家に行くよ。

 

 プリムラに送信の命令をしてモニターを閉じる。すぐに返事が返ってきた。

 

差出人………高町ヴィヴィオ

件名………Re:Re:明日の祝日

本文………はい!!楽しみにしています!!ただ、この前みたいに寝坊はしないで下さいね♪

 

 文章から読み取ると、ヴィヴィオは俺が寝坊した事がちょっと心配の様子だ。俺は読んでいると笑ってしまった。

 そして、モニターを閉じてお茶を入れてテーブルに持って行き座った。

 

「なあ、プリムラ」

『なんでしょうか?』

 

 テーブルの上に合った十字架のデバイスが核を点滅させて応えてくれた。

 

「俺の魔力ランクの低さにがっかりしていないか?」

『そんなことはありません』

 

 俺の言っている事に即答で答えた。

 

『マスターは一生懸命努力をしているのが見ていて分かります。ですから私もそれに応えられるように全力を注ぎます。私を作って下さったマリーさんにはBランクになれば新しい力を使えるようになりますが、私が自己調整をしてC-でも使えるように努力をします』

「……無理はするなよ」

『その私を労わる言葉が演算能力を促進させます』

 

 デバイスにも感情はある、とマリーさんは言っていた。確かにそうだ。プリムラは機械的な反応はせず、本物の人と話をしているような感覚になる。

 

「ありがとな、プリムラ」

『マスターの役に立つためには何でもします』

 

 オリヴィエの気持ち、プリムラの気持ち。いろんな奴から支えられていると改めて知った。そのことに感謝しつつ俺はお茶を飲んで立ち上がりベッドへ移動した。明日は無限書庫に行って、調べる物を探す。

 ベッドで横になると、久々の柔らかいベッドだったからか直ぐに眠気が襲ってきた。

 

『おやすみなさい、マスター』

「……ああ、おやすみ」

 

 プリムラがおやすみの言葉をかけてくれる。それだけで温かい気持ちになって意識を手放した。




ん~、なんかアインハルトの話になったような感じだw

まだ、vividの内容だと一巻の後半部分ですね。

オリヴィエが外出解禁になったのでこれからはオリヴィエと交わる人が増えてくるかな。

何か一言感想をくれるとモチベに影響する………かもですw

今後もこの話を読んでくれれば幸いです。

では、また(・ω・)/
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