「ッ!」
全力の掌底を放ち、最後の水流を打ち落とす。
乱れた息を整えながら、少しばかり疲れたような表情をしているグリモアを見据える。
あれだけの魔法を撃ち続けながらまだ戦えそうというのは末恐ろしい限りですね。
「グリモア、そろそろ夜も明けます。今日はここまでにしましょう」
シルヴィを起こす時間までまだ余裕はあるのだが、疲れているところを見せて心配をかけさせるわけにはいかない。
ただでさえ二日連続で不安な気持ちにさせてしまったのだ、これ以上の失態は犯さないようにしなければならない。
「我も久しぶりに魔法をじゃんじゃん打てて満足じゃ。今日の夜もみっちり鍛えてやるからの」
と満足そうに言うと魔法陣を展開し消えて行った。
訓練を終え、辺りを見回すと所々木々がなぎ倒されていた。
これが魔法の強さ、それを改めて実感する。
習得し、魔法を使えばそれがどれほどの威力かはすぐに分かる。普通の人であるならば魔法が直撃したらただでは済まない。もちろん中級魔法程度までであるならば死ぬことはないだろうが、激痛が走るのはまず間違いない。
「さてと、そろそろお迎えに行かなければ」
小さくあくびをしながら自宅へ戻り、荷物を素早くまとめ王城へと向かう。
シルヴィの寝室前まで着くと、一旦立ち止まり身だしなみを確認する。
服や頭などを触り問題がないことを把握し、扉をノックしようとするがそれよりも早くシルヴィが扉から出てきて一瞬だけ驚いた表情をする。
「シルヴィ様、おはようございます」
しかし表情をすぐに戻し仕事モードへと切り替える。
「はい、おはようございますカズトさん。今日もよろしくお願いしますね」
挨拶を終え食堂まで一緒に歩く。
向かう途中、上機嫌なシルヴィを横目で見る。
寝起きが良かったのか、自分が呼びかけるよりも早くに準備ができていて満足だったのか、そんな感じなのだろう。
「これはこれは……カズト様、シルヴィール様、おはようございます」
微笑ましそうにこちらを見ているティアーゴにお辞儀をする。
「それにしてもシルヴィール様、本日はいつも以上にご機嫌のようですが、何かあったのですか?」
と指摘されシルヴィはふふっ、と可愛らしく笑いながらこちらをちらりと見つめてくる。
「実はですね、今朝カズトさんの驚いた顔を見れたのです。いつもより早く起きてきて良かったですわ」
予想していた答えと若干違っていて何とも言えない気持ちだったが、それでご機嫌になるなら安いものと割り切る。
自分のせいで不幸になった、と言われることは多々あったが自分のおかげで嬉しい気持ちになったと言われるのはどうにも落ち着かない。
「それは素晴らしいことでございますね。と、食堂に向かう最中に呼び止めてしまい申し訳ございません。私はこれにて」
一礼しティアーゴはその場を去って行った。
視線をシルヴィに戻すと、同じようにこちらを見ていた。
なんてことは無いことなのだが小さく笑いが零れ、同じようにシルヴィも笑っていた。
食堂に着くと既に料理が出来ていた。
すぐさま料理長の元まで行き、謝罪をする。
「大丈夫だ気にするなって、お前さんはあくまでシルヴィ様の従者だ。料理は基本俺らの仕事、怪我人なんかが出たとき以外はシルヴィ様のすぐそばにいてやってくれ」
「かしこまりました。……ありがとうございます」
小さく礼をするとシルヴィの元へ戻る。
その様子を見て料理長はどこか寂しそうな顔になる。
「昔に何があったかは知らねえが、俺らはそんなに小さな失敗を責めたりなんてしないぞ」
その言葉が和人に聞こえることは無かった。
食事を終え学院へ行く支度をする。
シルヴィの準備ができ、登校しようという時彼の脳内で千夏と一緒に登校した最後の日を思い出し、やはり似ているなと思ってしまう。
「シルヴィ様、学院へ向かいましょう」
彼の言葉にいつも以上に笑顔で頷き学院へと向かうのであった。
ぼのぼの、あぁぼのぼの、ぼのぼのだ