学院に着き、教室に入ると一斉に視線が集まる。
というのも好奇の視線というわけではなく、シルヴィが来たからというだけなのだ。
そうだと確信し特に気にせず自分の席へと座るとある生徒が寄って来る。
「もう昨日の怪我は大丈夫なのか?」
心配そうに聞かれ思わず苦笑してしまう。
「大丈夫ですよ、傷の癒える速さには自信がありますので。もう少しだけ精神面を強くしなければなりませんが」
苦笑気味に言っている和人に対して戸惑う。
彼は知らないのだが、あの気絶した後血まみれの新入生と噂になっているのだ。
もちろん侵入者を撃退したというのもあるのだが、血まみれの和人の印象が強すぎて少し距離を置かれているというのもあった。
「あれだけ怪我を負ったら倒れるのは普通だと思うんだけどな……。俺はディオ・シュヴァイン、ディオって呼んでくれ」
「よろしくお願い致します、ディオ様」
教師が来たからか、挨拶が終わったのか、シルヴィが和人の隣の席へ座る。
和人が来ていることに驚いたのか、ブレインは大丈夫かと聞いてくる。
どう返事をしたらいいのか分からないので笑顔を見せ大丈夫だとアピールする。
「ま、いいか。それじゃ授業を始めるぞ」
ブレインが手を上げるとそこから魔法陣が現れる。
その様子を全員がジッと見つめている。
「これが魔法陣だ……と言っても皆見慣れているとは思う。簡単に言えば魔法陣を通して自分が持っている魔力を魔法にしているわけだ。魔の道を究めている者ならばその魔法陣も使わずに唱えたりするのだが、君たちは基礎から学べばいい。今すぐにどうにかなるわけでもない、比べるのを悪いとは言わないがまずは自分たちの実力を把握することだな」
説明を聞きながらクラスを見回すとメモを書いている人がほとんどだった。
シルヴィも同じようにメモを取っていたので目立たないためにも書いているフリをする。
「この世界には六種類の魔法属性があるわけだが、分かる人はいるかな?」
突然のクイズ形式に驚いている人が多かった。
チラリとシルヴィを見れば指で何種類目かを数えながら唸っていた。
ディオのほうを向けばすでにこんがらがっているようだった。
とはいえ自分も王城での書斎を読んでいなければ同じようになっていたので知識を蓄えておいて良かったと思った。
「うーー、カズトさん四種類しか分からないです……」
「残りの二つは聖魔法と闇魔法でございますよ」
他の人に聞こえない程度に小さな声でシルヴィに耳打ちをする。
「基本の四元魔法と違って学べば必ず習得できるわけではないので博識な者と覚えている者以外には基本無縁なのであまり知られていないのでございます」
詳しくはいずれ授業で教わると思います、と付け足しをしておきながら他の生徒たちを眺める。
シルヴィは自分の説明を聞きながらメモを取っていた。
「大体の生徒が四種類は分かっても残りの二種類が分からないという感じか。火、水、地、風魔法の四元魔法と聖、闇魔法の対極魔法の合計六種類あるわけです。しかし対極魔法の聖、闇魔法は四元魔法と違い学べば習得できるというものではありません。天性のものとして使える者、勇者の素質がある者などの仮説が立てられていますが詳しくは分かっていません。なので知識として覚えておくだけで十分です」
勇者……文献で読みましたが数十年から数百年に一度目覚めるという魔族の王に対抗できる者。
やはり皆憧れていたりするものなのでしょうか?それとも戦いは嫌と憧れないのでしょうか?
色んなところから小さく「勇者……」「勇者様だって……」と言った声が聞こえる。
―そもそもなぜ対極魔法なのかと言えば聖と闇が強すぎる故。
彼にしか聞こえないグリモアの声が響き、疑問を浮かべる。
―簡単に言うと聖魔法と闇魔法の基本の威力は一緒だから相殺されるのだが、四元魔法では余程の実力者でない限り最上位魔法を撃たねば闇魔法の中級魔法すら止められないのじゃ。聖魔法を唱えるにはそれ相応の条件が必要らしいのじゃが我も知らぬ。
なるほど、確かにそんな強い魔法を誰でも覚えられるならもっとひどい世界になっていそうだな。
―ふむ、やはり主とていついかなる時でも敬った口調というわけではないのだな。
先ほどよりもどこか嬉しそうな声音になっていた。
とは言うが敬語ばかり使っていたからそろそろ慣れてきたけどな。いざという時に失言をしても困るし。
これが自分一人の失敗になるのならいいが、仕えている主もそういう教育をしているのかと悪い印象を持たれたら困る。
―色々と大変じゃのう。
それを最後にグリモアからの返事は無かった。
「基礎知識の話はこれくらいにして、自分がどれに秀でているのか分からないのは来週調べる専門の人を呼んでいるらしいから楽しみにしておけよー」
ブレインは教科書を持って教室から出て行った。
……あれ?授業もう終わりですか……?
どうやらグリモアと話す空間にいると時間の流れが速いのかもしれない。
「カズトさん、少しよろしいでしょうか?」
突然声を掛けられ横へ向くと綺麗な青髪が真っ先に移った。
「えっとあなたは……?」
「申し遅れましたわ、私ホリー侯爵家次女のエリス・ホリーと申します。同じクラスですので仲良くしてくださいませ」
優雅に一礼をし握手を求めてくる。
そういえば貴族の方に対してのマナーを教わっていなかったな。
王城に戻ったらティアーゴさんに教わるとしよう。
「こちらこそよろしくお願い致しますエリス様」
日本で得た知識を使い失礼のないように礼をする。
「先日は私たちの学ぶ学院を守ってくださり本当にありがとうございます」
面と向かって言われるとは思っていなかったので一瞬反応が出来なかった。
こちらに来る前とのギャップにどうしても反応が遅れるのは仕方ないだろう。
彼女の発言を聞き続けるようにたくさんのクラスメイトから感謝の言葉を貰う。
「私は皆様の安全を最優先で行動しただけのこと、フローリア学院長様には注意を貰いましたが……皆さんがご無事で良かったです」
その時の和人は気付かなかったが、今の発言で女子たちの評価が上がったのは言うまでもない。