異世界奇譚~最強の従者へ   作:幻花

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お願い

 大まかには決まったのだが、ある一つの小さな問題が起きていた。

「できません!カズトさんお一人に十字騎士団の相手をさせるなんて!」

 と、シルヴィが他の配下もびっくりするほどに首を縦に振らない。

「シルヴィ様、一人でも多く助けたいとお考えになるのでしたら御理解ください」

「ですが……それではカズトさんが……」

 これなのだ。先ほどからずっと大勢ではなく自分を優先しようとしているのだ。

 従者として考えるならば素晴らしく幸せなことなのだろうが、そうは言っていられない。

「……誰一人犠牲を出さない戦争はほとんどありません。失う命は最小限に抑えられるようしっかりと策を考えれば被害はかなり抑えられます」

「それは分かっています。ですが、こちらからお願いしたとはいえカズトさんを失うようなことはしたくないのです……。矛盾しているのは重々承知しております、ですが死ぬようなことはないようにしてください……」

 中々なお願いですね、などとは言えない表情をしていた。

 どう頑張っても自分と同等以上の人間を二人以上同時に相手をして勝てる見込みなど限りなくゼロに近いだろう。

 敵が多ければ多いほど強くなる力があるのなら話は別だろうが、そんな都合のいい話など存在しない。

「かしこまりました。死なずに帰ってこれるよう精一杯努めます」

 本能的に返事をしてしまったが、時すでに遅し。

 シルヴィの顔も明るくなり何も言えなくなってしまった。

 心の中でアホかと罵倒するが、そうなったのなら本当にどうにかする策を考えるしかない。

「それはひとまず置いておいて兵士同士の戦いのほうを入念に練りましょう」

 であるならば優先度の高いこちらをより頑固に固める必要がある。

 自分が騎士団を足止めし、グリモアたちの兵士が勝ち、隙を見て撤退し再度騎士団に挑む、というのが理想的な展開なのだがそうなることはまずないだろう。

 どうしたものかと悩んでいると、扉が開き聞き慣れた声がする。

「その話、私も参加しようじゃないか」

 シルヴィだけでなく、他の者たちも驚いていることに少し疑問を持った。

「別に四賢人なんて関係なく私はこの国の民さ。危険な状態に陥っているなら戦地に赴くのは当たり前じゃないか」

 四賢人というこの世界での呼称により一層謎が深まった。

 言葉から察するに四天王みたいな位置付けの魔法使いなのでしょうが、それほどの大物がイースタクト国にいたのになぜここまで追い込まれたのか分からない。

「何度か参加したいとは意思表明していたのだが、シルヴィ様に止められてね。何度もこれ以上大切な人が死にゆくところは見たくありません、と涙ながらに言われて折れてしまったのさ」

 そんな和人の考えていることが分かったのか、フローリアが説明してくれる。

 甘い、とは心の中では思っていたが、今もこうして国が滅んでいないのはどこかでフローリア様が力を貸していたからなのでしょうね。

「今度は私も参加させてもらうよ。それに、勝てる確率が最も高いのは私も戦うことだからね」

 言いながらこちらを見てくる。

 その意図は正しいかどうかを自分にも言わせることなのだろう。

「そうですね、フローリア様の御助力があれば二万の兵士はそれほどまで脅威ではないと思われます。とはいえ私とてまだ十八年ほどしか生きておりません。皆さまのご意見もお聞かせください」

 何様のつもりだと言われたらその通りなのだが、この場で言ってくるものはいないだろう。

 反対する者はおらず、残すはシルヴィの承諾だけとなったのだが、すでに答えを決めているらしく目に力が籠もっていた。

「分かりました。フローリア様、お力をお貸しください。そしてお願いします、どうか皆さまご無事でいてください……!」

 目に涙を浮かべながら懇願され、確かにフローリアが折れたのも納得がいくと心の中で苦笑してしまった。

 

 会議が終わるとやや急ぎ足で工房へと赴く。

 終わり際に近接武器を持っておくのはどうか?と言われたからだ。

「魔法が大半かと思っていましたが、意外にも剣なども造られているのですね」

「そりゃあ魔法も使えるが、剣を扱った方がいいという者もいるしな。古の時代の勇者は剣に聖なる力を宿していたという逸話もあったりする」

 刀を打ちながらこちらへ言葉を返してくれる。

「しっかし剣じゃなくて短剣をご所望とは珍しいな」

 大多数の基本が魔法、言い換えれば遠距離を武器にしている。剣や長槍であれば幾分か射程が伸びるためどうにか戦えるそうだ。

 だが短剣は投擲物としてなら優秀だろう。毒を塗ることも可能だからだ。それを武器にするというのはあまりにも愚からしい。

 そんなことは無いと思うんだがな。気配を消せば背後から仕留められるし、仮に気配を察知できる魔法があったとしてもそれを行使するまでに隙が生じるはずだ。

「そういう戦い方が得意なものでして」

 短くそう口にし、作業をしているドワーフの男性を観察する。

 魔法を用いて素早く熱し、大槌で叩いている。

 日本刀の作り方は何となくでしか分からないが、それとあまり変わらないように見える。

 その後も驚くことが多く、とても貴重な時間を過ごせたと思う。

 細かい作業は魔法を使って省略されたのだが、その際に刀から出たと思われる灰のようなものが浮き出して来るのには思わず声を出してしまうほどだった。

 便利になり過ぎるのも不便なものかと思っていたが、驚ける発見がある分にはいいものなのかもしれない。

「そらよ、言われた通りの短剣二本。少しばかり加護がついているから切れ味はさらに増していると思うぜ」

 貰った短剣を、魔法で作ってもらった鞘に収め深く礼をする。

 

 その頃シルヴィの部屋にて、フローリアとシルヴィが話し合っていた。

「カズトさんはどうしてここまでしてくださるのでしょうか。自分ことをもっと大切にするべきだと思うのです」

「そうだねぇ、坊やは謎が多いけれど深く触れてはいけない気がしてならないんだ。なんていうかあちらから壁を常に作っている感じだ」

 ココアを飲みながら和人の話をしていた。

 話し合いの最中や襲撃者を返り討ちにしたときもそうでしたが、どうしてカズトさんが相手に対して容赦無く攻撃できるのでしょうか。

 ただ攻撃するだけなら兵士にもできるでしょうが、それはそういう訓練を受けたからこそできるもの。

 だがそれだとカズトさんはそういった環境下にいた、ということになる。

 そこまで珍しいわけではないのですが、幼いころから暗殺者として育てられたという理由には思えず、どういう生い立ちなのか純粋に気になりますね。

「しかしそんなこと聞くなんて無礼もいいところです」

 といった感じで彼について知りたいのだ。

 その様子をフローリアは嬉しそうに微笑みながら付き合い話し合っていることなど和人が知るはずもなかった。

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