「それで坊やは実際に戦った経験は?」
「意味にもよりますが、相手がこちらに気付かずに殺めたことも含めるのであればそれなりには」
だからと言って彼に罪悪感があるかと言えば否だった。
きちんと言われたことを守っていれば千夏には何不自由ない生活が送れたため、そこには一切の感情が介入しなかった。
そういった過去を知らない二人は彼の発言に驚きを隠せなかった。
しかし、フローリアは驚いたが別に不思議ではないと切り替え本題に移る。
「それなら話は早いね。人を殺めたことがないならいくら力があっても戦争では決定打にはならない。既に経験しているならば問題ないさ」
「敵であるならば情けを掛ける必要はございませんからね」
二人の物騒な話を横から聞いていたシルヴィは何とも言えない気持ちのまま聞いていた。
城に着くと既に準備ができている騎士団や魔導師たちが待機していた。
シルヴィは慌てて皆の前に向かい頭を下げ、そのすぐ後シルヴィのお願いという名のできる限り死なないで演説が始まった。
和人はやはり甘いなと考えていたが、騎士団の者たちはやる気に満ちていた。
なぜ……?と疑問に思ったがこれもシルヴィに対する情熱だと脳内で処理した。
数十分のお願いが終わり、いよいよ出陣するときが来た。
和人はその場で制服を脱ぎ普段着へと着替えた。
突然服を脱ぎだし周りの視線が集まったがそんなことは一切気にしない。
動きやすい服に着替えたと分かった人が増えると視線がかなり減った。
「睡眠は取りましたし、ここから先は一瞬も油断しないようにしなければ」
和人は気を引き締め兵の群れの中へと入った。
一方フローリアは魔導師たちに囲まれていた。
「四賢人様も戦に出てくださるならば我らは絶対に負けない!」
魔導師たちの一人がそんなことを言うとそれに合わせ皆が声を張り合わせていた。
よんけんじん……?そのままの意味四人の賢人で良いのだろうか?四天王等の立ち位置で置かれているのだとしたら物凄い人であることは間違いない。
改めてフローリアを見直すと困った表情を浮かべていた。
確かにアディルスが去り際に言った一言にも納得した。
―我のいた頃では考えられないものじゃな。
昔は競い合うと言うことはしなかったのですか?
―違う、むしろ逆じゃ。我の時代から見れば今の魔導師どもの魔力の低さに驚いておるわ。競って競われて、勝って負けて、されどお互いの魔法を見て改善してさらに精度を高めた者じゃ。しかし主から見える景色を見る限り四賢人というのも別々の場所に住んでいるのじゃろうて。自分たちがある程度の高みにいるからなのかは分からんがさらに上を目指そうと言う気概が感じられん。腹立たしいわ。
苛々し始めたグリモアの言葉を聞きながらも、どこか分かる気がしなくもなかった。
自分はそういった経験がないが所謂ゲームなどと同じようなことだろう。
時に仲間、時にライバルといった切磋琢磨し合う者たちが昔の魔導師たちなのだろう。
そういう時代の者が今の時代の魔導師を見て機嫌が悪くなるということは理解できるから思わず頷いてしまった。
話題を戻しますが、それであれば早めに合流できそうですね。
―うむ、いざとなれば我が全力で主の元へ向かおう。
その心強い言葉につい笑みがこぼれた。
「それでは諸君、行くぞ!」
騎士団長と思われる人が声を上げるとそれに続き皆進軍を始めた。
その瞬間和人はシュバルンの方角へ慌てて振り返る。
特に気配を感じたとかではないのだが、自然と体が振り向いた。
しかし見える景色は空と山と草原、そこに人影らしきものは見えなかった。
気のせいかどうか確かめたかったが和人は既に進んでいる兵士たちの後を追った。
シュバルン国王城。
国王は気味の悪い笑みを浮かべながらワインを飲んでいた。
「もうすぐリリアニーが儂の物になる……楽しみじゃ……」
「邪魔をするぞ」
いつの間に玉座の間に入っていたのか気付かないうちにアディルスが歩んできていた。
「どうしたのじゃアディルスよ。今更リリアニーが儂の物にならんなどと言うわけではあるまいな?」
国王は内心でかなり不機嫌だったが態度には出さずアディルスに問い掛ける。
アディルスは愉快そうに笑いながらも歩みを止めない。
「当たり前だ。貴様らに渡した悪魔の力から得られた恐怖なんかの感情を貰っていながら約束を破るなど愚者が行うことだ」
「そうであるか。それにしても貴様のあの力は素晴らしいの。おかげで他の国から攻められなくなって安泰しておるわ」
上機嫌そうにワインを飲み干し更に飲むために注いでいた。
「あぁ、だがそれも今回までかもしれんがな」
その様子を面白そうにアディルスは眺めながら爆弾発言を投下した。
その言葉に国王は眉を顰めた。
「どういうことじゃ?悪魔の力を手に入れた我が軍に対抗できるだけの軍がイースタクトにあるとでも?」
にわかに信じられないという表情を浮かべている国王にアディルスは今まで見せたこともないような笑みを浮かべながら頷いていた。
その豹変ぶりに思わず息を呑み、少しだが恐怖に顔が染まる。
「では国王、我もそろそろ行かねば騎士団長殿がうるさいのでな」
興奮しているのか、闘気が抑え込めていない状態のまま玉座の間から出て行った。
アディルスがいなくなり、とてもじゃないが浮かれている場合ではないと分かっていてもワインを飲む手を休めることは無かった。
「ふん、その場合は貴様らに死んでもらうだけよ」
誰もいない空間で一人酒におぼれていた。
「アディルス、遅かったじゃないか」
アディルスが十字騎士団の元へ戻るとディーンが寄って来る。
「悪かったな、国王に捉まっていた」
特に悪びれる様子もなくアディルスは言う。
しかし彼の行動は今に始まったことではないので深くは言わずに戦場へと向かっているであろう兵士たちのほうを向いた。
アディルス自身もこの戦いで和人という強者と戦えることに幾分か昂っていた。
「では手筈通り我らはシュバルン兵たちの様子見の後出るか出ないかを判断する。これでイースタクトとの遊びも終わりになるであろう!」
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
ディーンの掛け声にアディルスを除いた全兵士が気合いの籠った声を上げていた。
「さあ来るがいいイースタクトの戦士たちよ!」
十字騎士団の士気は非常に高まっていた。
イースタクト国の兵士たちは士気が上がっていることなど露知らず、兵士たちが攻めてくるであろうルートに身を潜めながら気を窺っていた。
どうやらこの世界には気配を隠すハイドという呪文があるらしく、ほとんどの兵士たちがフローリアのおかげで気配を消せていた。
「魔法というものは本当に便利なものですね。使えないのが悔しく思えます」
「それでも坊やにはそれを補えるほどの近接面の強さがあるじゃないか。こういうのもなんだけど魔法も会得していて近接でも戦えたらとんでもない強さだと思わないかい?」
それは十分理解しているのだが、やはり目の前でダイマされると羨ましい、欲しいと思ってしまうものだ。
強い弱いではなく、ただ使いたいという純粋な気持ちから来ている。
「……確かに強くなればなる分シルヴィ様の安全度というのは上がりますが、しかしそういった気持ちは決してなくてですね……」
途中から声が小さくなり、最後のほうは他の者には全く聞こえなかった。
「坊やでもそういった表情になったりするんだね」
和人の表情の変化に思わず笑みを零したフローリアに不満を言おうとしたが、和人は大勢の気配を僅かに感じ気持ちを瞬時に切り替えた。
フローリアも同様に気配を感じたのか、和人と同じ方角を見ていた。
「魔導師たち、魔法詠唱用意!」
フローリアの掛け声に魔導師たちの表情もガラリと変わり詠唱を始めた。
「弓兵!敵が見えたら即座に矢を放て!いいか!シルヴィ王女様のためにも俺らは決して倒れたりしちゃいけねえ!」
騎士団長の掛け声は、国民なら誰もが奮い上がる魔法の言葉と言っても過言ではなかった。
同じようにこちらの士気も上がり、イースタクト国の先制と共に戦が始まった。
あけましておめでとうございます(遅い
仕事が忙しくなってきてペースがブレッブレです。。