シュバルン国がその攻撃に気付いた時にはすでに遅く、見事に魔法が炸裂した。
着弾と同時に爆発音が響き渡る。
砂煙が巻き起こっている間に弓兵がすかさず矢を放つ。
突然のことにパニックを起こしているらしく敵兵の叫び声が聞こえてくる。
その様子を同じく見ていた和人はじっくりと観察していた。
煙が治まり少しは有利になったかと期待したが思っていた以上に被害を受けていなかった。
彼らが着ている銀の鎧は魔法に対しての防御力が高いのかほとんどの兵が鎧で隠れていない部分にかすり傷を負った程度だった。
それらを確認すると素早く戻り自陣の兵たちに伝える。
「なるほど、マジックメイルを着ている兵が大勢と……。クソッ!財力に差があり過ぎる!」
和人の情報を聞いた団長が苦い表情を浮かべながら現状の把握をしていた。
同じように和人もまた団長のとある言葉に頭を悩ませていた。
それほど財力差がある国と戦ったことがないのもそうだが、そもそも戦争が大好きな国というのは表立っては無いのだ。
ここは下手に発言はせず、この世界で戦っている者たちの意見をしっかりと聞いて私自身にできる限りの策を練るとしましょう。
―本当に今の人間は弱くなったのぅ。
……忘れていました。グリモア、出てきてくださって大丈夫ですよ。
和人がそういうと目の前に魔法陣が展開されグリモアが姿を現す。
「さて主よ。これが魔法というものじゃ、よく見ておれ」
グリモアがそう言うとフローリアの元へ歩んでいく。
「フローリアと言ったか、お主はあやつらに加護の魔法を付与してくれるかの。我の魔法を生身で喰らって耐えられる者が今の時代主くらいしか思い浮かばんものでな」
遠回しに今の時代の魔導師のレベルが低いような言い方にも聞こえるな、と和人は内心で思っていた。
グリモアから見て実際そうなのだとしたらそれは本当のことなのだろうし何も言わない。
「我の魔法を見て魔力の総量を上げる特訓をしてくれるといいんじゃがな……」
魔法を放つ瞬間に小さく呟いたグリモアの言葉を和人は聞き逃さなかった。
だからと言って何か言葉を掛けれるわけはなく、同じように小さく、きっと大丈夫だと零した。
特に長い詠唱をしたわけでもないグリモアの魔法が放たれると、先ほど魔導師たちが束になって放った魔法の比ではない爆発が巻き起こった。
その威力に他の魔導師たちは言葉を失っていた。
「うーむ、我も少し衰えたな。これからは毎日基礎を欠かさないようにしなければならないな」
ただし、一人だけこの威力に満足できていないようで不満を漏らしていた。
「それでは再び偵察に向かいます」
和人はそういうと気配を消し音を出さないよう駆け出した。
一方でグリモアの魔法を喰らったシュバルン国兵士たちはその魔法で大半がやられていた。
「な、なんだ今の魔法は……!これが聞いていたあの弱国が雇った傭兵だと言うのか!?一体何者なんだ……!」
騎士団長は驚愕と恐怖に体中が震えていた。
それは他の兵士も同様で、圧倒的強者の前に怯んでしまった。
「この程度で怯んでしまうとは……全く情けない」
アディルスはこの状況を楽しんでいるというのが一目でわかるほど興奮していた。
それはアディルスだけでなく十字騎士団も同じであった。
しかしアディルスとは違い圧倒的な力を見て恐怖がないわけではない。だが、それでも戦ってみたいという純粋な気持ちのほうが強かった。
「これが戦争でなければもっと理解ができたのかもしれんな……」
と誰かが呟いたそんな一言にアディルスが憤怒の形相で睨む。
「今の発言をした奴は前へ出ろ」
誰もが自分じゃないという意思表示のために黙っていた。
しかしアディルスはある兵士を睨むと音速で跳躍し腹を貫いた。
痛みに気付き叫ぶ暇もなく兵士の命は消えた。
「そんなことをいう奴に俺は力を貸したつもりはない。そのまま死んで返してもらおう」
刺した腕を抜き、血を振り払うと何事もなかった顔をしていた。
「アディルス!なぜ兵士を殺めた!」
その行動にディーンが怒りを露わにしながら詰め寄ってくるが、アディルスは興味無さそうに見つめその場を立ち去る。
「マジでアディルスがあんなに実力がなきゃ顔すら見たくねぇ」
「だよな、我が物顔しているけどあいつが十字騎士団の中で一番の新参だっての理解してんのかね?」
などといった騎士団内で愚痴が零れているが、ディーンも少しばかり似たような感情は持っていた。
「なぜ国王様はあいつを必要以上に気に入っているのだ……?」
確かにアディルスが入って彼の能力のおかげでここまで強くなったのは事実だが、しかしそれだけのこと。
聞いた噂ではアディルスと個人的な食事を取っているとのことだ。
「……まあ今考えても仕方のないことか。それよりも今はこの士気の低下を戻さなければ」
ディーンは戦意が削がれたであろう兵たちの元へと急いだ。
和人は誰にも気づかれずに盗み聞きを終えると即座に戻り状況を報告した。
それを聞いた兵たちは自分が同じ境遇だったらと考えたのか震えていた。
「なるほどね、そのアディルスとかいうのが昨今で噂されている『悪魔の力』を譲渡した者で間違いないのかい?」
「話を聞いていた限りでは恐らくそうだと思われます。しかし自身の魔法を他者に譲渡することが可能なのでしょうか?」
「それに関して言うのであれば出来なくはない、といった具合。我も出来なくはないが、主が特殊故実際に見せることはできぬが、かなり極めた者であれば可能であろう。もう一つあると言えばあるのじゃが―」
そこまで話してグリモアが悩んでいた。
「昔に戦った悪魔から聞いたことがあるのだが、闇魔法はどうやら他者に一時的に与えることが可能だそうだ。実際に我がこの目で見たわけではないので確かではないのじゃが、もしそうであるとするならばそのアディルスという奴は魔族の者なのじゃろう」
グリモアの言葉にフローリアが珍しく驚いていた。
「ちょっとだけ待っておくれ。魔族ってことはまた戦争が起こるのかい……?」
「それは我には分からぬ。何せ数百年ぶりにこちらの世界にいるのじゃからな」
そういえばグリモアは元は人間で魔を極めるために魔導世界へ転生したのでしたね。
しかし……悪魔ですか。そのうち神様にも会えそうですね。日本は八百万でしたが、こちらはどうなのでしょうか。
「まあ今は可能性の話じゃ。そんなことで気を緩めていたら命がいくつあっても足りぬぞ」
「そうですね……。それと、どうやら十字騎士団も同行しているみたいで、いざとなった場合私が先陣して十字騎士団を誘導しますので終わり次第腕に自信がある方だけで構わないので援護に来てくださると大変助かります」
自分一人で片を付けられるなら特に問題はないのだが、相手の戦力を把握できていないこの状況で無謀なことはできない。
ただでさえ財力の差を考えていないという失敗を痛感したのだ。小さなミスが大きな失敗に繋がらないとは言い切れないのだ。
「改めて気を引き締めていきましょう!これは戦いなのです!私たちは勝てます!」
和人が大きな声で宣言すると兵士たちだけでなくグリモアたちも声を張り上げ、動き出した。
引っ越しの関係でバタバタと忙しくまるまる一ヵ月更新できなかった。。。