ここは森の中、しかしこれほど太い木々や苔などが生い茂っている森を彼は知らない。
行ったことのない土地には生い茂っているのかもしれないが、そもそもいきなり場所が移動する時点で常軌を逸している。
そして彼は自分が俗に言う異世界に来てしまったという考えにまで至る。
理解できない現象が起こり続けているこの現状で彼は状況をより理解するため周囲を見回すが、動く生き物を一切見かけなかった。
「中学の時に読んでいた本にもこんな現象があったな……まさか実際に自分に同じ現象が起きるとは思ってもいなかったが……」
苦笑し立ち尽くしたまま今の自分が何をすべきか改めて考える。
今の現状を理解することか?いや、理解することはできないだろう。
そもそもどうしてこうなったのかすら分からない自分に理解できるわけがない。ならばこれからどうするべきなのかを考えるか―。
思考を巡らせては否定することを繰り返し続けていると、彼の思考を停止させるほど大切なことを思い出す。
「千夏はどうなった!?くそ、どうしてこんな重要なことを忘れていたんだ!」
携帯を開き慌てて電話をかけるが、電波が立っていないのか電話がつながることは無かった。
森の中だから電波が悪いのか、それとも電波そのものがないのか分からないという不安に襲われ焦りが募っていく。
しかし、幸か不幸か妹が発していた言葉が頭を過り妹が巻き込まれている可能性は低いと推測できると、ホッと胸を撫で下ろす。
そして今まで放置されていた今の状況を理解するため近辺を歩くことにした。
歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、体全体に妙な違和感を感じ思わずその場に転んでしまう。
思わず原因を考えたくなるが、人を探すことのほうが彼の頭の中で優先された。
もし仮にファンタジー小説などにある異世界に飛ばされたとして、この世界の住人と言葉が通じるのか分からない。下手をすればいきなり襲い掛かってくるかもしれないが、戦闘はまぁ家庭の環境でどうにかなるかもしれないが、もし魔法の類で攻撃でもされたら―。
そこまで考えた彼はこちらから不用意に話しかけるのは得策ではないのかもしれないと考えてしまう。
参った、お手上げだ、と心の中で愚痴をこぼしながら地面に座り込み自然を眺める。
元の世界と同じように植物などに攻撃性はないようだが、どうも動いて来るような先入観を持たされてしまう。
溜め息を零し進むしかないと再度辺りを見回すがやはり建物などはなく、兎にも角にも進むしかないようだった。
歩き始めるとまた奇妙な違和感を覚えるが先ほどの様に転びはしなかった。
「なんていうか……全体的に軽い……?そう、重力が軽い……そんな気がする」
物は試しと軽くジャンプすると思惑通り今までの何倍も高く飛べた。
着地し今度は先ほどよりも力強く踏ん張り空高くまで飛ぶ。
空から眺める景色を堪能しながら、彼は周りを見回し街を探すと北の方角に小さな街や城が見える。
「よし、あそこの町に行ってみるか」
髪をくしゃくしゃしにかき回し三度止めていた足を動かす。
しかし見つけたからと言って油断はできない。既に自分自身は異世界へと飛んでいると考えるのが必然だと考えたのだ、この世界の住民たちが襲って来ないなんて絶対には言えない。
警戒心を強めながら森の中をを通っていきさっき見た位置と方向を合わせる。
「ん?なんだあれは……」
森の奥で何かが蠢き動きを止め観察する。
人型イノシシのようなナニカが人間らしき人たちを攻撃しているのだ。
「待てよ、もし苦戦していたとしてそれを助けたならば……話が通じないくらいどうということはないのかもしれない。よし、あっちでもそれなりに鍛えてたし重力が軽くなってそうだし色々と予想以上の力を出せるかもしれないな」
どこか楽しそうに笑いながら全力で跳躍すると、一瞬で人型イノシシの目の前までダッシュしていた。
流石にこれには驚き、拳を出そうとするが間に合わず頭部が激突する。頭突きを喰らった人型イノシシは物凄い速さで飛んでいき姿すら確認できなくなった。
は、はは、マジでこれはやばい……てか、強すぎね……?
やや興奮気味の自分を突っ込みながらも思わず殴った拳を見てしまう。。
「あ、あの……オークを倒していただきありがとうございました!おかげさまで無事に街へ帰れます!」
お礼の言葉を貰うと彼は戸惑ってしまう。
感謝の言葉を貰うのはこれが人生で二度目で、必然的に一度目の体験を思い出してしまい、妹への気持ちが強くなる。
負の感情を無理矢理押し込め先ほどの言葉で気になったことを考える。
というかあれオークだったのか……。そういえばゲームとかで見るオークもイノシシっぽかったな。
オークという聞き慣れた言葉に案外元の世界とそんなに変わらないのかもしれないと感じてしまうが、見ただけでも200キロ以上あると思う巨体を軽々と吹き飛ばしてしまったのだ。跳躍力も然ることながら体の頑丈さにも驚いてしまう。
それにもう一つ大きな発見があった。
それはこの世界の言葉が理解できるということだ、これは物凄くありがたいと同時にコミュニケーションが取れるということだった。
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
目の前の人たちはなぜお礼を言われたのか理解できず首を傾げて様子を窺っていると中央から声が聞こえてくる。
「みなさま、このお方にお願いするというのはいかがでしょうか?」
中から出てきた女性が意味ありげな言葉を言うと、「確かに」、「物凄い腕だしな」、などという意見が聞こえ話が一方的に進められていく。
少しして意見がまとまったのか、先ほどの女性がこちらを向き治し頭を下げる。
「助けてもらったあなた様にお願いがあるのですが!」
突然頭を下げてくる人々にどぎまぎと返答に窮する。
だが彼は頼まれたことが無く無下にしたくないと思い
「お願い……分かりました、自分でよろしければ」
とすぐに了承したのだった。
了承してもらえるとは思っていなかったのか、口に手を当て驚いていたがすぐに表情を戻し優雅に一礼をする。
「助けてもらったにも関わらず名前も告げず申し訳ありません!私、イースタクト国の王女リリアニー・シルヴィールと申します」
名乗りを聞き今まで思っていたことに納得がいく。
綺麗な礼や言葉遣い、それに雰囲気も他の人たちと違うと思っていたがもしかしたらと思っていたがまさか本当に王女様だとは……。しかし、その歳で国を治めているってことはつまり……。
決して触れてはいけないと瞬時に理解し自分の今の状況を簡潔に述べる。
「なるほど王女様でしたか。しかし、信じてもらえないかもしれないのですが、自分は異世界からいきなり飛ばされて来てしまったのでこの世界のことは全く理解していないのですが……それでも構わないのであればお引き受けいたします」
申し訳なく頭を下げる。頼られるという初めてのことに心が躍っていた分今の自分が情けなく思える。
そんな彼を見た王女は肩に手を乗せ首を横に振る。
触れられたことに驚き、思わず顔を上げ目の前にある王女の顔をマジマジと見てしまう。
年齢は幼いが、改めて見るとどこか大人っぽく気品があり、それでいて笑顔がとても可愛らしいという感想を持つ。
今まで他人と話すという機会が家族やごく一部の親族、それ以外の人とは必要最低限の貝和しかなかったため、普通に話せたことに感動してしまう。
「そのイセカイ……というのは分かりませんが詳しく知らないのであれば我が国でご説明いたしますよ?」
「それはとても助かるのですが……よろしいのでしょうか?もちろん違いますが、他の国のスパイという可能性もあると思うのですが」
「ふふふ、私たちを助けてくださった人がそんなことをしないと思っていましたので」
王女の言葉を聞き彼はますます理解が出来なくなっていく。
助けてもらったら疑わない……あの家庭では教わらなかったことだが、しかしどうしてそう言い切れるんだ?相手を騙す為なら手段を択ばない人間を今までに何人も見せられてきたが、こうも簡単に人を信じる人たちを見るのは初めてだ。
と、そこで彼は自分が名乗っていないことに気付き慌てて一礼し自分の名を告げる。
「申し遅れました、自分は柳和人と申します。この度は宜しくお願い致します」
「ヤナギ……カズト……様……。確かに変わったお名前ですわ。あ、決して嘲っているわけではございませんよ!?それではみなさま、本日は王城へ帰りましょう」
王女は馬車の中へ入ると、すぐに顔を出し彼に入るよう手招きをする。
「いえシルヴィール王女様、自分は歩きながら護衛させていただくので大丈夫ですよ」
「それこそ大丈夫ですわ。とてもありがたいことなのですが、カズト様はこの世界に来てまだ日すら経っていないのですしこのアルヴェルンの森も不慣れでしょう?この辺りのことも教えたいので乗っていただけませんか?」
この世界に来てまだ数十分ほどしか経ってない自分はこの世界の地形や色々知らないことが多すぎる。そのことを考えてくれるのはありがたいのだが、王女と同じ馬車に乗るというのは初めてとか関係なしに緊張してしまう。
しかしここで断るとというのもどうかと思い、少し考える素振りを見せ頷くと馬車へ乗る。
王女はにっこり笑い御者に出発するよう指示を出す。
「それではお願いしますね」
それから少しして馬車は動き出し森の中を進んでいく。
地に響く叫び声が聞こえ外を覗くと大きな飛竜が飛んでいた。
「あれはワイバーンという飛竜種ですわ。最も多く生息するドラゴンの一つで、ドラゴンは知能がとても優れているのでこちらから攻撃しない限りは襲ってきたりしませんわ」
ワイバーンという言葉も何度か本で読んだことがある。
神話上の存在だと思っていた存在が自分の目に移るところを飛んでいる姿に興奮を覚えてしてしまう。
「あの、王女様。この世界に存在する植物には精霊が宿っていたり、もしくは精霊が存在したりするのでしょうか?」
「えぇ、この世界には私たちが住む地上の世界、精霊、天使、悪魔などが住まう創造の世界、そして神々が住まう天上の世界の三つがあるのです。その精霊の多くは私たち地上の世界とともにあり精霊たちがいる地域には自然などが豊かとなります。地上の世界にいる精霊は私たちの先祖に様々な知恵や恩恵を与えてくださり、私たちの生活の基準になっています。火の精霊は炎の使い方を、水の精霊はこの世界にたくさんの水を、風の精霊や大地の精霊は自然と共に生きていくために大切な風や豊かな大地をくださいました。ですが、精霊がいない場所の土地や自然というのは本来の姿で、それ以上を求めている人々が精霊狩りという精霊を捕らえて自分たちの国へと連れて行き無理矢理豊かにしようという行為をする国が―。あっ……あまり暗い話はしないほうがいいですよね……申し訳ありません」
「いえいえ、問題ないですよ。ですが、その精霊狩りをする人たちというのは自国を豊かにするという目的のためだけに狙っているのでしょうか?」
王女が何か言おうとしたとき馬車が急に止まり、バランスを崩し倒れそうになった王女を彼は慌てて抱き寄せる。
怪我はないかと窺うが、突然のことに加え男性に抱き付かれた王女は顔を真っ赤にして返答がなかった。
怪我がないのか分からない彼は暫し困惑していたが御者の悲鳴が聞こえ二人は外へと出る。
「なんですかあれは……?」
「あ、あれはデッドプラントです!口から吐き出される液体に触れると鋼さえ溶けてしまうほどの強い酸性を持っています!アルヴェルンの森にはいないはずですがどうして……」
説明を聞きどうやって戦うか考えたが、今はそれよりも王女を馬車に乗せることが先決だ。
「王女様、今すぐ御者の方と一緒に馬車の中へ隠れていてください!他の方々も残りの馬車に隠れてください!」
「危険ですカズト様!そもそも―」
言い終えると王女の言葉を無視しすぐさま走り出しマッドプラントの目の前まで駆け寄る。
こちらを捉えたのか、巨大な眼球がこちらを睨むと無数の棘が彼目掛け襲い掛かる。
見える限りで十二本、だが目で追えない速さじゃない。
襲い来る無数の棘を避けながら顎辺りを拳で殴る。本体にはほとんどダメージが入っていないが、棘が一瞬止まり思い切り蹴り飛ばす。
頭が飛んでいくという事態には至らなかったが、蹴りの威力が強くデッドプラントは空高く飛んでいく。その後を追うかの如く彼は跳ぶと軽々追い越し踵落としを喰らわせる。物凄い速さで落ちていくデッドプラントは地面に激突と同時に物凄い地響きと砂煙が辺りを包み込む。
王女様たちは大丈夫だろうか、砂煙で目を痛まれていないだろうか、などと考えていたがデットプラントはすぐに起き上がり彼めがけ口を大きく開くと液体を飛ばしてくる。
「なるほど!それが溶解液ですか!」
落ちていくことしかできない彼はとっさに服を脱ぎ振り回すと盾として溶解液を防ごうとする。
しかし、先ほど聞いた通り鋼さえ溶けるという酸は案の定彼の服を一瞬で溶かしてしまう。
雨の如く大量に飛んでくる溶解液を服一着で防ぎ切ることは当然できず、数滴彼のシャツを溶かし皮膚も少し溶かす。
ふむ、本当に強力な溶解液だ……一瞬で服は溶けるしシャツと皮膚をまとめて溶かしにくるし恐ろしいな……。だが一回一回に出せる時間は長くないのは本当に助かった。
彼は地面へ着地し距離を取ると流れている血を抑えながら苦笑する。
だが、休憩をくれるほど相手も優しくなく、再び棘が彼目掛け襲い掛かる。
再び避けながらデッドプラントの足元まで歩み攻撃しようとすると再び溶解液を吐き出す。
とっさに転がり溶解液を避け再び距離を取り足に力を込める。
溜めた力で思い切り大地を蹴り、音速の速さで棘を突き抜けデッドプラントの顔目掛け全力で殴ると、近くの岩山へ激突する。
岩山が崩れ落石がデッドプラントを埋め、奇声が聞こえなくなると彼は一息つく。
討伐が終わったことを報告するため馬車のほうへ向かうと馬車は砂だらけになっていた。
「王女様、魔物の討伐終わりま―」
「カズト様お怪我はありませんか!?」
突然顔を出した王女に驚き尻餅をついてしまう。
とても心配した様子で聞いてくる姿を見て心配は掛けさせまいと優しく微笑みながら
「はい、目立った怪我は特にありません」
報告し、砂をはたきながら起き上がる。
しかし、起き上がった時に彼の服が見え血が滲んでいるのが分かる。
小さく息を呑む声が聞こえたが、彼は特に気にしなかった。
彼としては多少皮膚を溶かされる程度怪我のうちに入らなかったが、他の人からすればそれは大問題なのだ。
「私たちを庇ったせいでこんな怪我を……。本当に申し訳ありません!」
頭を下げられ彼は戸惑い困惑してしまう。
「大丈夫ですよ王女様、この程度の怪我は日常的だったので心配されるほどではございません」
「……ッ!重ね重ねごめんなさい!嫌なことを思い出させてしまい……」
一体どんなことを想像したのだろうか、と彼は疑問に思い首を傾げたがこれ以上聞いて再び頭を下げられるのは精神的に耐えられないので別の話題に移すことにした。
「あ、そういえば王女様。自分が飛び出した時何を言おうとしたのですか?」
「え……?あ、デッドプラントというのは外来種という分類です、ここは逃げましょう、と。外来種はある程度の人数が集まらないと倒せないという基準なのです。分類というのは私たちに危害を加える種に対しての呼称で通常種、亜種、外来種、変異種、危険種、飛竜種……という風になっております」
説明を受けそんなものを倒したことに驚きを隠せないが、今は馬車に乗ることのほうが優先だろう。またいつ攻められるか分からない状況だ、のんびりと構えている暇はないだろう。
自分から聞いておいて勝手だが早く安全な場所へ行った方がいいと彼は考えた。
「あ、カズト様。馬車の裏に衣服が少しございますのでご自由に着てくださいね」
「ありがとうございます、それではお言葉に甘えさせていただきます」
彼は王女に続くように馬車に乗り衣服を貰うと上から着込む。
その後、馬車の窓から見える景色を堪能しながらも周りを警戒していたが特に何も起きずイースタクト国へ着いた。
彼が最初に見た感想としては国と言うにはあまりにも小さな国、ということだった。
「失礼かと存じ上げますが、昔から小国だった感じですか?」
彼の質問に王女はやや気まずそうに事情を話してくれる。
「いえ…昔はとても広く様々な国と友好な関係だったのですが、先代の王の時代から少し離れたところにあるシュルバンという国に攻められ続け領地を奪われていったのです」
この世界だと戦争は普通って考えるのが良さそうだな。
しかし昔はかなり広かったらしいがどうして負けたんだ……?そんなに戦力に差があった―というより友好関係があったという国はどうして助けなかったんだ?
「先代の王の時代からシュバルンに新しく就いた騎士隊が我らは悪魔の力を宿している、そんなことを言いながら私たちの軍を完膚なきまでに叩き潰したのです……生きて帰ってきたのは数名しかいませんでした……」
そんな彼の疑問を気付いてかいないのか、王女が追加で教えてくれる。
その説明を聞き、彼は頼みたいという要件についてある程度予想がついた。
「なるほど……とすると頼みたいことというのはそのシュバルン国と起きている戦争を終わらせるもしくは滅ぼせばいいということでしょうか?」
「お恥ずかしいことなのですが私たちの国には戦力がほとんど残されていないのです。せめて国の人たちが他の国に逃げきれるまでの時間を稼いで欲しいのです……!無理なお願いをしているのは分かっています。ですが、このままでは国の人たちたちが…」
今すぐにでも泣いてしまいそうな王女を見て彼は昔の千夏と連想してしまい、すぐに了承してしまう。
「分かりました、自分で良ければ皆さまの力になりましょう。しかし、ただ逃げるだけというのはどうにも好きではないので自分が何か手を打ちながら時間稼ぎをしましょう」
和人の瞳はとても真剣で真っすぐ王女を見据えていた。
彼の瞳を見て何も言えなくなってしまうと同時に彼の言葉に絶対的何かを感じる。
馬車はそのまま城下町を進んで行く。
王女が帰って来ると国民たちは明るい笑顔で手を振っていた。
こんなに優しい国を滅ぼそうとするなんて……なんて非道な人たちなんだ。
彼は絶対にシュバルンという国の攻撃を止めさせなければと強く思う。
王城の前まで進むと馬車はぴたりと止まり御者によって開かれたドアから彼は降りる。
馬車から降り王女のことを見るとジッと彼を見て降りようとしない。
どうしたのかと聞く前に彼は気付き慌てて手を差し伸べる。
「ふふ、エスコートしてくださりありがとうございます」
王女は満足した顔で彼の手を掴み馬車から降りる。
王城の中へ入るとかつてが本当に大国だったと言わんばかりの豪華な装飾が至る所に施されていた。
城内の説明を聞きながら玉座の間へ入ると騎士が何人か立っていた。男性だけでなく女性の騎士がいることに多少驚いたが、先ほどの話を聞いた限り戦力がほとんどないらしい。その中で女性が兵として挙げられたのか、王女様の信頼の結果自ら名乗り出たのか定かではないが、どちらにしてもその心構えは嫌いではなかった。
玉座の前まで王女が歩くと騎士たちは胸に手を当て微動だにしない。
「それではカズトさん、お願いを聞いていただけますか?」
玉座に座った王女は彼へ先ほどの話の続きをする。
護衛、シュバルンからの攻撃を防ぐ、その他の防衛。様々な予想が脳を過りながら彼は頷く。
「それではカズトさん―」
ここで王女は先ほど話していた内容とは別の頼みたくなったことを言うべきか悩んだが、覚悟を決め席を立ち上がるとはっきりと口にする。
「わ、私の従者になっていただけませんか!?」
王女が覚悟を決め発したその言葉にさきほどの沈黙よりもさらに重い沈黙が訪れる。
ん……?今なんて……?従者……?
思考が停止した脳で今聞こえた単語を復唱するが、どう聞いても従者としか聞こえなかった。
「申し訳ありません王女様、それは一体―」
慌てて事情を聞こうとするがそれを聞き終える前に説明をしてくれるようだ。
「本当は先ほどもお話したように一時的に守っていただこうと思っていたのですが、カズト様の実力を見て手放したくないと思ってしまったのです。もちろん断っていただいても構いません、そもそも私たちが半ば強引に進めていたようなものですし……」
予想の斜め上の展開に慣れかけていた驚きへの耐性も意味がなかった。
彼の無言の姿勢に王女はやや悲しそうな顔をしながら席へ座ってしまう。
「できることなら……私の従者になって欲しいです……」
まるで駄々をこねた後の甘えん坊のような上目遣いに思わず心をときめきかけたが、そんな思惑は無いのだろうと両手で頬を叩く。
パシンッと頬を叩く音が王座の間に響き渡り視線を集めるが、それを気にも留めず彼は暫し思考する。
この世界について何も知らない、そのうえ生活できるかどうかも怪しい。そんな中で王女様が従者にしてくれると言うのだ、むしろこちらから願いたいことなのだ……が、果たして従者として自分は動けるのだろうか。今までの家庭での環境的にあまり変わらないのだろうが、それとは違い他者とのコミュニケーションを取る必要があるのだろう。ま、やってみるだけやってみるとしよう。千夏に対して行っていたこととあまり大差ないと考えてやっていればそう簡単に失態は犯さないだろう。
予想以上の利益がある頼み事に対しての答えを決めると彼は跪く。
「かしこまりました。負傷柳和人、この命に代えましても王女様をお守り致しますことを誓います」
了承の意を確認できた王女は顔を綻ばせ満足したように彼の元へ歩み寄る。
彼もまたその笑顔につられ笑いが零れる。
こうして彼、柳和人はイースタクト国王女リリアニー・シルヴィールの従者となったのだった。
はじめまして、幻花です。
小説を書く、というのは初めてで至らぬ点が多々あるかと思いますがどうか温かい目で見てください(汗
更新は大体二週間~三週間を目処にしていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。