次の獲物へ向かおうとした和人はディーンがこちらに物凄い速さで迫って来るのに気付き、視線を移す。
「圧倒的な実力差があるわけではないのに二度も同じような行動が通じるとでもお思いで?」
振り下ろされる剣を危なげもなく避けディーンの首を斬りつける。
他の騎士団とは違い、首を刎ねることはできなかったが深手を負わせることはできた。
それにしても先ほどから首に対する警戒心が本当に薄いのですね。魔法が絶対というわけではないですし、先ほどから首だけを一点に狙っているのですからもう少し警戒してもいい気がするのですが……。
もしかしたら世界には暗殺者というものはないのかもしれない。
もしくは殺しのプロがいない、またはいるのだが決して表には情報を漏らさない本物がいるのか。
そこまで考え、この世界での対人戦闘するならばかなり役立てそうだと僅かに笑みを零す。
喉元まで斬られ声が出せず満身創痍の自分を見ながら笑っている様子に、ディーンは心の底から恐怖を感じた。
「ひゅー……ひゅー……」
表情にも表れ始め呼吸も乱れてきているディーンの変化に和人は少し目を細める。
無詠唱で回復魔法が唱えられないとも限らないので、そのまま短剣をディーンに向け仕留めようと歩み出す。
「待つんだ坊や!」
が、見知った声に呼び止められ動きを止める。
殺さずに生かせ、という意味も含めて呼び止めたのだと解釈しディーンに向けていた短剣を仕舞う。
「運がよろしいようですね。詳しいことはフローリア様とシルヴィ王女様の御意思にお任せしますが、無抵抗で情報をお話してくださると私としましても無駄な手間を取らなくて済むので助かります」
普段よりも低い声音で耳打ちしその場を立ち去る。
グリモアたちの元へ向かうとグリモアに抱きしめられる。
あまりに突然のことに思考までもが固まってしまう。
「主よ、もうこれ以上戦わなくて大丈夫じゃ。それ以上手を汚さんでいい」
その言葉に和人は疑問を持っていた。
和人にとって人を殺めることも褒めることも大した差はないからだ。
「……かしこまりました。フローリア様、あちらの騎士団長に回復魔法を掛け手当をしてあげてください。捕虜のようなものとして扱いたいのでどうかよろしいかと思います」
どう返事をすればいいのか分からず、とりあえずディーンをどうするかを素早く言う。
言及されてもいい言葉が出てくるわけでもないので半ば強引に切り替える。
「え?あ、あぁ、了解したよ」
和人の予想通り何か言いたげだったフローリアの言葉を阻止することに成功した。
和人が十字騎士団と戦っている間にグリモアが暴れていたのが目に見えるような惨状だった。
本人曰く、早く一緒に戦いたかったとのことらしい。
だが今もなおアディルスが付近にいないことに違和感を感じ続けていた。
「先ほどからアディルスの気配が全く感じられないので警戒を緩めることはできませんし、早くシュバルン兵を盾にしながらシュバルン国まで向かい国王に敗北宣言をしてもらいたいですね」
和人の言葉にシュバルン兵たちは肩を震わせる。
和人には分からないことだが、先ほどアディルスに仲間がやられたことが脳裏に焼き付いているのか、躊躇わずに自分たち諸共殺しに来るのではないかと考えているからだ
「その必要は無用だ」
兵を引き連れシュバルン国へ向かおうとした時、先ほどまで誰もいなかった場所にアディルスが立っていた。
和人は咄嗟に短剣に手を付けながら睨み付ける。
魔法による隠遁なら自分が気付けなくても不思議ではないのだが、グリモア達でさえ気配を感じることができなかったのは恐ろしいですね。
「ふむ、確かに以前に比べると動きは良くなっているな」
こちらを値踏みするような視線でまじまじと眺め、勝手に評価をしている。
しかし隙は全く見せずにいた。
「やはり今ここで摘むのは惜しいかもしれんな」
その後も小さな声でブツブツと何かを言っているが、
「仲間を囮に出せば必ず現れると思っていましたよ」
和人は攻めてくる気配のないアディルスへの警戒を怠らずどう動くか観察していた。
だが、和人の言葉を聞くとアディルスが唐突に愉快そうに口元を歪めながら笑い出す。
「くははは、何を言い出すのかと思えば……我はそんな奴ら等いなくても変わらん。元より悪魔である我の暇つぶし感覚で騎士団に入っただけのことだ」
「貴様!我らを裏切るだと!?国王様の顔に泥を塗るつもりか!」
その言葉に何かを言う前に回復魔法を貰ったディーンが叫ぶ。
だが、和人にはもっと重大な言葉に意識を持っていかれていた。
「悪魔……ですか……?」
確かにいてもおかしくはないだろう。
悪魔の力というのも比喩的なものだと判断していたため、予想よりも大きな衝撃を受け思わず声に出てしまう。
「その通りだ。悪魔を見るのは初めてか?」
「そうでございますね、私は初めてでございます」
「実際に見た感想はどうだ?見たところ恐怖を感じていないが」
人の恐怖を主食としているかは別としてエネルギーみたいな役割を持っていそうな感じがしますね。
大雑把な括りはあまり変わらないようだと思った。
「もちろん恐怖しておりますよ、王女様の脅威になる存在ですから」
「そうか……まあいい。では我は当分は退くことにしよう。貴様の成長を楽しみに待ちながら着々と計画を進めていくとしよう。これはほんの置き土産だ」
アディルスが指を鳴らすと遥か空の上から遠吠えのようなものが響き渡る。
しかしその声に近い生物を和人は把握できず、この世界の生物ではないかと予測する。
「グリモア!フローリア様!兵士たちをなるべく離してください!」
しかし和人が言う前に既に行動を起こしていたようで既に兵士たちは死に物狂いで走り出していた。
フローリア様の表情がかなり厳しそうなところを見るにやはりあの雄叫びの力強さからそれなりには分かっていましたがかなりの魔物みたいですね。
「貴様が我の期待に応えられるかどうか、こいつで確かめてやろう」
アディルスの言葉に反応する前に雲から何か大きな生物が飛び出してくる。
実際に見たことはないが、その姿に似たものを彼は本で見たことがあった。
大きく、硬い鱗に大きな翼。
和人の知る限りそれは間違いなくドラゴンだ。
それが地面に降り立つと凄まじい地響きと共に風が吹き荒れる。
「これは我らがドラゴンどもを研究して生み出したものだ。量産するにはまだまだ足りないものが多すぎるが、ある程度の地を恐怖で埋め尽くすくらいのことはできるだろう」
ドラゴンって研究とかで作り出せるものなのか?
そんな技術があるのだとすればそれはとてつもない脅威だ。
「主!離れておれ!!」
グリモアの叫び声に和人はすぐさま飛び退く。
直後ドラゴンがいた場所に大量の稲妻が降り注いだ。