異世界奇譚~最強の従者へ   作:幻花

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第一章
歓迎される者


 そして従者となった彼は早速王女から貰った服へと着替えるため更衣室へと向かう。

 道案内をしてくれる従者はは小さく笑っていた。

 なぜ笑っているのか分からず尋ねてみると

「私たちは自分から王女様の世話係をやっているのですが、王女様が誰かに従者になって欲しいと言ったことは一度もなかったことなので少し驚いただけですよ」

 と何とも意外な答えが返ってきた。

「申し遅れました、私ティアーゴと申します」

 丁寧にお辞儀をされこちらもすぐさまお辞儀をし返す。

「そうだったのですか……。王女様は齢はまだ十五歳程だと思われるのに国を治めておられ、確かに国の人たちからも愛されているという印象を持ったのですが、それはご先祖からの影響なのでしょうか?」

 彼が先祖という言葉を口にしたとき、従者はどこか気まずそうな顔をしながらこちらへ歩み寄る。

 なにかまずいことでも言ってしまったのかと不安な気持ちが込み上げてくる中、耳打ちをし事情を軽く説明してくれる。

「今は平気ですが、あまり王女様の前で先代のお話をされないでくださいね?まだ六歳にも満たない頃に国王様と女王様が暗殺されていて……」

 気まずそうに俯いてしまった従者に申し訳なさを覚えながらも今聞いた言葉を絶対に忘れまいと心に誓う。

 誰にでも心に傷は持っている、触れられたくない部分があるならばそれは決して触れてはいけない。彼にあるように王女にもそれがあるというだけの話だ。

 小さく頷いた彼は再び更衣室を目指し歩き出す。

 先ほどのように色々な会話は起きず少し言葉を交わしたら沈黙、その繰り返しだった。

 というか更衣室遠くないか……?

 三分近く歩いたにもかかわらずまだ辿り着かない更衣室に驚いていると目的地に着く。

 何とも言えない気分のまま更衣室へ入り渡された衣服へ着替えようとしたが、視線に気付き脱ぐのを躊躇う。

「申し訳ありません、着替え終えるまで外で待っていてもらえないでしょうか?あまり自分の体にある傷を見せたくないもので」

 彼が言うなりすぐに「これは失礼しました」と一礼したのち部屋から出て行った。

 服を脱ぎ自分の体を見つめる。

 あの事件を起こしてから高校に入るまで毎日のように妹の見えないところで鞭や刃物で傷つけられ、ストレスの発散として殴られ続けたこの体はある意味で頑丈だったがそれ以上に醜い体と言えるだろう。

 彼が最も呆れたのは刃物で切りつけられた後、自分が姿を見せないことに不安がる妹に対しいての言い訳だった。

 親たちは「友達の家に泊まっているそうだ」という理由にしていたが、実際はすぐ隣の隠し部屋にいるというのに分かりやすい嘘をついていると心底驚かされた。

 それとも言い訳を考えるのも嫌になるほど嫌われていたのだろうか。

 まあ確かにあの騒動のおかげで柳家及びその関係している一族の地位が落ちたから恨まれる理由にはなるだろう。

 今まで千夏以外の家族や親せきに対して深く考えて来なかったが、今更ながら考えてみると思い当たる節が見えるというものなのだな。

 昔のことを思い出しながらはぁと小さな溜め息を零す。

 まあ、今の自分には関係のないことだ。

 これからすべきことは妹のことを見守ることではなく王女様の従者として役目を全うすることだ。

 まだ不安が残っているものの何度と行われた気持ちの切り替えをする。

 あまり着替えに時間を掛けるというのも待たせている従者の人や王女様に失礼というものか、早く着替えないと。

 燕尾服に似た服へ着替えると彼はドアを開ける。

「おお、良くお似合いですよカズトさん」

「ありがとうございます」

 彼が短い礼を言うと再び王女の元へと足を運ぶ。

 戻ってきたとき王女は彼の姿をまじまじと見つめていた。

 好奇の視線というわけではなかったので、特に何をするわけでもなく待っていた。

 暫くして王女は眺め過ぎていたことに気付いたのか慌てて視線を逸らし小さく咳払いをする。

「それで……カズトさん、その……本当にごめんなさい。突然やってきて戸惑っているにも関わらず従者までさせてしまい……」

 王女は再び申し訳なさそうに頭を下げる。

 すでに従者となった自分に頭を下げるなどとんでもない、そう心で焦りながらなだめる言葉を探す。

「王女様は何も分からない自分にこれだけのことをしてくれたのです。それだけで自分は溢れるほど感謝の気持ちがあります。ですのでどうか顔をお上げください」

 嘘偽りのない言葉だと彼は思う。

 しかしそれでも申し訳なさそうにしている王女を見てどうしたものかと悩んでしまう。

 相手を怒らせないように話すのは慣れているが相手を慰める話し方を彼は知らない。

 妹相手に何度かしているがあまりにも経験が少なく、こういう際にどういう言葉を掛けるべきなのか分からない歯痒さに申し訳なく思う。

 そんな先ほどまでの沈んだ表情は一転、いつもの表情に戻ると

「それではカズトさん、まずは日が暮れるまで従者の基本スケジュールを教わってください。イリアさん、お願いしますね」

 と口にする。

「かしこまりました、王女様」

 その表情の変化に驚き完全に処理しきれていない脳のまま、しかし返答はきちんとする。

「かしこまりました、王女様」

 と、声が聞こえた方を向くと王女の傍にメイド服の似た服を着た女性がいた。

 どこの世界でもメイド服は共通なんだな……。

「はじめまして、私はメイド長を務めているイリア・マチューサと申します。シルヴィール様に」

「これはご丁寧にありがとうございます。自分は柳和人と申します」

 しかし……どうやって王女様の傍に行ったんだ?気配を全く感じなかったが……どこの世界でもメイドはアサシンの手ほどきでも受けているのだろうか。

 彼が考えながらイリアのことをまじまじとみていると王女は咳払いをし視線を集める。

 彼も目を向けると王女は口を開く。

「カズトさん、イリアさんはとても厳しいので頑張ってくださいね?」

 王女から放たれた言葉に少し身震いしながらも、この世界での厳しいの基準が分からない彼は頷くしかなかった。

 

 色々なことが同時に起き、未だ全ての出来事への整理がつかない状態のまま、王女との話が終わると早速仕事を覚えるところから始まった。

 そこで彼は考えるのは一旦置いておき、まずは仕事を覚えるところから始めなければいけない、そう気持ちを切り替える。

 イリアは王女に一礼すると間を後にし、彼はその後について行く。

 そのままついて行き辿り着いた場所は厨房だった。

「まずは食器の種類と配置、その後に掃除の手順を教えます。そういえばカズトさん、お料理は得意なほうですか?」

「家事全般を全て引き受けていたので料理以外の家事も得意だと思います」

 彼の言葉を聞きイリアは小さくホッと息を漏らす。

 決して大きくないその安堵の息を聞いた彼は、その様子から厨房の人手が不足気味なのだと察する。

「とりあえず最初は食器の種類から行きましょう」

 イリアは食器棚から様々な皿を取り出し一つ一つ用途を教えてくれる。

 しかしその量は予想を遥かに上回り記憶するのに二度聞き直すほどだった。

「王女様のこだわりには驚きましたが……食器の把握は、一応覚えました」

「五十種類近くある皿をもう覚えたのですか!?素晴らしい記憶力ですね……」

 その表情からとてもお世辞で言っているとは思えなかった。

 感心や驚きといった感情が窺える。

「小さい頃に様々なことを叩きこまれたもので、覚えることは好きだったのですが……やはり何度見てもこの量には驚きますね」

 苦笑しながらも楽しそうな声音の彼を見てイリアは苦笑とは別の笑みを零す。

 厨房の説明を受け終えるとすでに日が沈んでいた。

「しかしあの種類の多さで全て五枚ほどのお皿があるとは思いませんでしたね」

 王女へ報告しに行くため玉座の間へ向かう途中一人で呟く。

 一通り覚えた後食器や調理器具の洗い方を教わっている際に見えたのだ。

 玉座の間へ着き声を掛けようとしたが、難しい顔をしながら三人の兵と話し合っていた。

 最初に耳にした言葉はシュバルン国がどう動くか、ということだった。

 しかし、話し合いの最中に割り込むようにして入ったことに申し訳なく思いこの場をすぐに立ち去ろうとする。

「お待ちくださいカズトさん」

 そう呼び止められてしまっては彼は立ち去ることなどできない。

 振り返り王女の元へ歩み手短に報告を済ませる。

 するといきなり嬉しそうに手を叩き、彼も話し合いに参加することとなった。

 兵士たちに簡単な紹介がされると再び話し合いが始まった。

 少し話を聞くと、さっそく彼は質問を投げかける。

「ところで王女様、そのシュバルンという国には何万の兵力があるのでしょうか?」

 質問と言っても彼が知りたかったのは情報だ。本当は詳しい情報なども欲しいところだがそんな贅沢を言っていられるほどの余裕はないだろう。

「カズトさん、申し訳ありませんが敵の兵力は分からないのです……。今まで悪魔の力を持っているという十字騎士団だけに……」

 王女の言葉に思い出させたくないことまで思い出させてしまったということを申し訳なく重いすぐに頭を下げ謝罪する。

 謝罪を終えた後彼はすぐに思考を始める。

 しかし相手の戦力が分からないとなるとこちらから視察に向かうしかなさそうだ。

 本来なら友好な関係を築いている国から助力を仰いだりするのだろうが、シュバルンという国に唆されたのか、どちらとも友好な関係で手を出せなかったのか、または他の答えか……何にしても状況から把握できるのはこの国にある戦力や情報でどうにかするしかないということ、か。

 予想以上に際どい状況に冷や汗が出るが、今まで耐え凌いできた王女に対しさらに深い敬意を込める。

 勝てる戦力がなく、徐々に減っていく戦力の中未だに滅ぼされないのは素晴らしい戦略だと思う。

 もちろん、望まない犠牲は出したのだろうが、戦場に赴くものはきっと王女様や国のために命を落とせることを誇りに思っていたのだろう。

 彼は勝手に想像を膨らますと心の中で敬礼をする。

「では近いうちに調査をしに向かいましょう。つまらない事をお伺いしますが、本日は馬車でどちらまで行かれる予定だったのでしょうか?」

「他国の方から力を貸してもらうために向かおうとしていたのです。今のままではシュバルンに滅ぼされるのも時間の問題でしょうし……」

 で、そのタイミングで恐らく敵の駒と相対した感じか。

「ですが王女様、昔に友好な関係を築いて戦争の際に力を貸してくれなかった他国が力を貸してくれるとは考え難いのですが……」

「カズトさんの言いたいことは分かります。ですがたとえダメとほとんど分かっていてもそれにすがってでも言ってみた方がいいと思いませんか!?」

 王女の必死な声に他の者はみな息を呑む。

 彼もまた王女の考えに否定するところは無かった。

 自分たちに力がなければ他の国から力を借りたいと考えるのはそう珍しいことではないだろう。それに王女様はまだ若い……というよりも若すぎる。

 まだ色々なことを考えられるような年齢ではない。

 死と隣り合わせのような状況ならなおさらだ。

 先ほども考えていたが、もう十分すぎるほどの重荷を担いできたのだ。

 そろそろ交代してくれる人がいないと倒れてしまうだろう。

「そうですね……何も考えられていない発言をお許しください。では三日後に調査に向かいますので―」

 彼の発言に王女だけでなく兵士も目を丸くしてしまう。

 しかしすぐに意識を取り戻すと王女は彼へ意見を述べる。

「カズトさん、シュバルン国がそれほど待ってくれるとは考えにくいのですが……」

 まぁ、それは自分に対しても同じことなんだが。

 心の中で苦笑を零しながら王女への質問に返事をする。

「これはあくまで私の推測ですので信じてくださいとまでは申しません、あくまで推測ですので。何度も悪魔の力というものに頼ってこちらを遊びの様にしてきた騎士団たちは、こちらの戦力をほとんど見切っていると思っているのでしょう。そして恐らくシュバルンから送り込まれたであろうマッドプラントを倒したともなれば今まで隠していた切り札があるのかもしれない、そう警戒するかもしれません」

 と、ここで一拍置き、真剣な表情で口を開く。

「ですが、もし相手国が単なる偶然だ、しかし戦力が増えているのかもしれない。もしくは他国から力を借りれるようになったのかもしれない。そう考え早急にこちらに進軍することもあり得るわけです」

 彼の言葉に会議室にいた者は皆彼の言葉の意味に気付きハッと慌てふめく。

 それほどまでに今日起きた出来事は影響を与える出来事だ、と考える。

 もちろんこれがただの胸騒ぎで済めばいいのだが……。

「どちらにしても今はまだ確証はありませんし様子を見ながら守りを固めるのが一番かと思います」

 王女は少し悩んでいたが、彼に守って欲しいと頼んだこともあってかすぐに頷いた。

 彼としてはもう少し何か言ってくると思っていたため少し驚いていたが、話がスムーズに進むのは何にせよありがたかった。

「つかぬ事お伺いしますが、イースタクト国には学校……勉学を勤しむ施設というのはあるのでしょうか?」

「ええ、と言いましてもこの国には魔法学院しか残っておりませんが、こちらのことをほとんど分からないまま過ごしていくのも大変でしょうし今から学院へ編入の手続きを行っておきますわ」

 とんとん拍子で話が進んでいき困惑気味だが、この世界の知識を勉強できるというのは願ってもないことだ。

 再び学校生活を、今度は好奇の目で見られず有意義に過ごせる機会を設けてくれた王女へ返しても返しきれないほどの感謝の気持ちを込めながら彼は王女へ頭を下げる。

「ご期待に添えるよう粉骨砕身務めさせていただきます」

「ふふ、期待していますよカズトさん。あ、そうでしたまだお部屋のことをお話ししていませんでした!」

 その後、多少の金銭を貰い、丁寧にお辞儀をし部屋から出ていくと王女から教えてもらった場所へと向かいながら、彼は独り言をつぶやいていた。

「今すぐに攻められると守り切れるかどうかかなり不安だが……。しかしなぜシュバルンの国の連中は圧倒的力の差を持っているにもかかわらず支配しに来ないんだ?異常なサディスティックとしか言いようがない、そんなことをして何になると言うんだ……?理解できない考えだが、常軌を逸しているのは間違いない、のだろう」

 それにマッドプラントが本当にシュバルンから送り込まれたという確証がない、のだが色々な意味で初夜だが任されたからには警戒しておく必要がある、か。

 城門を通り抜け、街へと向かいながら国民の顔をちらりと見る。

 この街の人々はすぐそこに死が迫っているかもしれないというのに明るく過ごしていた。

 恐怖に耐えながら明るく振る舞っているのかもしれない。

 もしくは王女様の信頼の結果なのかもしれない。

 だが、どちらにしても互いに助け合っているのに違いない。

 そんな様子を見せられ、どうしてもこの国を救いたいと考えてしまう。

 城下町を歩き十分ほど経過し目的の建物へと辿り着く。

「貴方が新しい住人さんね?わたしはマダ・ハルト。管理人をやっている者よ、これからよろしくお願いね」

 宿屋を見るのは初めてで眺めてると後ろから声を掛けられ慌てて振り向く。

「こちらこそよろしくお願いいたします。自分の部屋はどこなのでしょうか?」

「こちらよ、この階段を上がった階の突き当り。はい、これが鍵ね」

 管理人から鍵を貰い、言われた部屋へ入ると自分の部屋と同じくらいの広さだった。

「なんだか懐かしい気がするな……まだ一日も経っていないのに」

 王女にもらったバッグから服を取り出しタンスへ吊るす。

 タンスいっぱいに燕尾服が並んでいる光景に違和感を覚えるが、深く気にはしなかった。

「この時間だが少し布団とかを干しておくとするか」

 新しい家だし最初は綺麗にしないと借りている身として申し訳がつかない。

 窓を開け布団を外に干そうとし彼はふと疑問に思う。

 そういえばこの世界での洗濯ってどうやればいいんだろうか。

 彼は首を傾け少し悩んでいたが、どうしても分からなかったため一旦保留することにした。

「ま、おいおい考えていけばいいか。王女様に聞くのというのも一つの選択肢だ」

 衣類を全て片付け終え軽く体をほぐすと街を眺める。

 改めてゆっくりと眺めると自分がいた世界より進んだ建築ではないが洋風を感じさせる街並みだと感じた。

 と、同時に外壁はそれほど高いわけではなくドラゴンに乗って攻め込まれたらひとたまりもなさそうだと考えた。

 この世界に竜騎士がいるのかは分からないが、魔法や幻獣が有象無象といるのだ、恐らくいるのだろう。

 溜め息をつきながら窓から眺められる空の景色を堪能する。

「問題は山積み、そして学校へ行く準備もしないといけないのか」

 明日からいきなり学校に編入とは王女様も無茶をする。

 学校……そういえば元の世界での自分はどういう風になっているのだろうか……。

失踪?行方不明?なんにしても千夏が自分がいなくなった後元気でやってくれているのだろうか……。

 自分の様に依存はしていないのだろうが、元気でいてくれると嬉しいのだが……。

 どこか寂しそうな顔をしていたが、そんな気分を落ち着かせるため街へと出かけることにした。

 

 

 その頃シュバルン国玉座の間。

「イースタクトへ向かわせたマッドプラントが討伐された模様です」

 鎧に大きな十字が刻まれた騎士が国王へと報告をする。

 それを聞いた国王は髭を撫でる。

「まだあの国にそんな力が残っていたとは騎士団は何をやっているのだ!今夜誰か偵察に向かわせろ!」

「ハッ、かしこまりました国王陛下!」

 騎士は誓いのポーズを取ると慌てて間を後にする。

 それを見届けた王は窓から景色を眺め

「まさか隠し玉があったとは……さすがはリリアニー抜け目がないな……。イースタクトは元からどうでもいい……だがリリアニーだけは必ず我の物にしてみせるぞ……。ふ、ふははは」

 玉座の間に不気味な国王の笑い声が響き渡っていた。

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