異世界奇譚~最強の従者へ   作:幻花

4 / 20
予期せぬ来客

 夕刻、彼はどのような食材があるのか眺めながら市場を見回していた。

 商人などと話ながらどういう料理がうまいのかなど聞きまわる。

 教えてもらったことを即座にメモしていく。

 一通り話を聞き終え、買い物を済ませると休憩をとるため木の側にあるベンチへと腰かける。

「あんまし食材は変わらないもんだな」

 この世界で眺める夕日はとても綺麗でつい何度も見入っては足を止めてしまう。

 驚くべきことがこの世界には月が二つあり、月の形がシンメトリーになっていて天文学に色々な説が唱えられているように思える。

 目を瞑り暫く自然を感じていたが、今まで過ごしてきたリズムのせいで帰らなければ、という意識が強くなる。

「ふぅ、休憩も済んだしそろそろ帰るか」

 立ち上がり食材を両手に持ちながら帰路に就く。

 先ほどまで賑わっていた街の人々が半分ほどになっていた。

 少し違和感を感じながらも部屋の前まで着き、鍵を開けると一通の手紙が届いていた。

 買った食材を冷蔵庫の中に仕舞うと届いていた手紙に手を伸ばし封を切る。

 途中まで内容を読むと慌てて王城へと向かうため部屋を飛び出す。

 さすがに城下町を全力で駆ける訳にもいかないので彼は軽く走りながら王城を目指す。

 王女のもとまで辿り着きすぐさま跪き謝罪をする。

「申し訳ございません王女様!少し買い物をしていたため手紙に気付けず待たせてしまい……」

 彼の謝罪に王女は首を横に振り肩を二回優しく叩く。

「いいえ、大丈夫ですよカズトさん。今夜はカズトさんのためにパーティーを催そうと思っていたのです」

 王女の言葉は彼を簡単に狼狽させる。

「じ、自分のためにパーティーでございますか…?」

「ええ、そうですよ。ふふ、それにしてもカズトさんが驚く姿は可愛らしいのですね」

 王女が可愛らしく笑っているが、彼は今まで他の人から祝われたことなどなかったためどう反応したらいいのか分からなかった。

 さらに可愛らしいという言葉に少しばかしショックを受けていた。

 彼の反応が不思議だったのか

「あの……もしかしてカズトさんはあまり祝われたことがないのでしょうか?」

 と尋ねてくる。

 彼は苦笑しながら頷く。

「はい、どうも家族に嫌われているらしく自分の誕生日は祝われたことがなかったですね。友達と呼べる人もいなかったですし。ですが自分自身祝われたいと思っていたわけではないので特に不自由はなかったですよ」

「カズトさん―」

 何かを言おうとする王女を手で制止させ微笑みかける。

 自分にこれ以上気を掛ける必要はない、などと言って気分を害されても困るので彼は何も言わなかった。

 だが、どこか不満なのか頬を膨らませていたが料理長から準備ができたと報告を貰い王女は正気に戻り彼の腕を引っ張り連れていく。

 最初は驚いたが、どこか嬉しそうな顔をしていている王女を止めるわけにもいかずなされるままとなった。

 その後食堂に着いたときには料理長の言う通り食事の用意が出来ていた。

 街の民もたくさん集まっており彼は驚きを隠せなかった。

「こんなにもたくさんの人が集まっているとは……」

 途中で話したことのある商人や住人もちらほら見かけ、和やかな気分となる。

 彼の存在に国民が気付くと王女がスッと中央へと進んでいく。

「皆さま、本日はお集まりいただきありがとうございます。本日お集まりいただいたのは私の新しい従者の紹介のためですわ。さ、カズトさん、何かお話をお願いいたします」

 名を呼ばれ彼は近付きマイクを貰うと小さく息を吸う。

「みなさま、私が王女様の新しい従者の柳和人と申します。本日はお集まりいただき誠にありがとうございます。そして皆さまに一つ宣言したいことがございます」

 宣言という単語が出た瞬間会場内がざわつきだす。

 王女も何を言うのか事前に聞いてなく驚きの表情を見せていた。

 きっと王女様のことだ、こんなことを言うと怒られるのだろうな。

 誰にも気付かれず小さく苦笑すると彼はこう宣言した。

「私は近いうちにこの国を狙っている不逞な者から必ず守り通すことを宣言いたします」

 彼は深く一礼をするとマイクを王女へ返すと扉の近くへと戻る。

 その後すぐに盛大な拍手と歓声が響き渡り彼の知名度がグッと上がったのだが、そのことに気が付くことは無かった。

「それではみなさま、存分にお食べください」

 王女の挨拶が終わり国民たちは並べられている料理を盛り始める。

 彼もまた王女に小さく一礼し喜々とした表情で料理を取りに行く。

 しかしこれほどの料理を今までで一度も食べたことなくどう装えばいいのか分からない。

 そんな彼の事情を少し理解した王女は歩み寄り装い方を教えてくれる。

「これを使って掴むようにして装うのです」

 小さな声で実際にやりながらの説明を貰い続くように実践する。

 やや崩れたが、それでも装うことができ思わず嬉しさが込み上げてくる。

「ありがとうございます王女様」

 彼は小さくそう言うと食べ始める。

 王女はその食べ顔を満足したように眺めている。

 そんな二人の様子を見ていた国民たちはまるで姉弟のようだ、と苦笑していた。

 視線に気付いた王女は頬を赤くしながら去って行き彼は慌てて周囲を見回し敵がいるのではと見回すがそれらしい気配を感じなかったので再び食事に移る。

 この食堂内なら他の警護の人もいるし少しだけ、本当に少しだけ、食事に集中しても許されるだろう。

 心で気を許すと自分で盛り付けた食事に手を付けようとする。

 まずはこの世界の肉を……。

 よだれが出そうなほど彼は料理に興奮していた。

 実際にはよだれを垂らしていたわけではないのだが、遠くから見ればよだれを垂らしているように見えた、と後々王女の口から利かされることになるのだが、今は知る由もなかった。

 だが、もう少しで口の中に肉が入りそうな時、近くで爆発音が響き渡る。

 彼は一瞬だけ悲しい顔をしたが、すぐに肉を置き王女の元へと歩み寄る。

「恐らく敵の攻撃ですね?これは」

 音だけでなく、地響きもしていたため、彼は警戒心を高める。

 そんな彼の言葉を聞き王女は首を傾げる。

「恐らくそうだと思われます。このパーティ以外には何も用意していたわけではないので……。しかしどうして城を狙わないのでしょうか……?」

「先ほどもお話ししましたが相手国はこちらの戦力を見誤っていた、そう考えるでしょうというお話をしたのは覚えていらっしゃいますか?」

 彼にいきなり投げかけられた質問に頷くと再び説明に戻る。

「となれば相手国がしてくることとしたら早急にこちらを滅ぼす、もしくはこちらの戦力を再度確認しその後どうするか、のどちらかでしょう。とりあえず今王女様が最優先でやるべきは国民の皆さまを安心させることでしょう。その間に自分が処理をしてきます」

 前回は確認せず飛び出し心配をかけさせたので、王女が頷くのを待つ。

 しかし少し待っても頷く気配がなかったので

「では行って参ります」

 と、彼が言うと王女はやや不安そうにしながらも頷いてくれた。

 彼は跳躍し窓の傍まで跳ぶと外を見回す。

 煙が見えない……ということは逆側だな。

 一度窓から飛び降り地上に着地すると跳躍し降棟に飛び移る。

 周囲を見回し煙が浮かび上がっているところを見つけるとすぐさま飛び降り森の中を駆ける。

 目的の場所付近まで到着し周囲を見回していると、どこかから声が聞こえる。

「なるほど……見るに貴公がイースタクトの切り札か。我はシュバルン国十字騎士団のディーン・ミラルク」

 甲冑がカチャリと音を立て、剣をちらつかせる。

 動くと斬る、とでも言うような威圧を纏いながらこちらを見据える。

 やはり予想通りこちらの様子見だったか

 状況に応じて戦力を減らそうってところだろうが、この様子じゃ交戦して撃退するしかなさそうだな。

「自分はイースタクト国リリアニー・シルヴィール王女様の従者、柳和人と申します。先ほどの爆発はあなたの仕業ですか?」

「何を言い出すのかと思えば……そんなことか。我は剣術にのみ磨きをかけているが故魔法には頼らん」

 口ぶりから察するにやはりこの世界には魔法があった。

 その事実を知れたことは嬉しいと同時に厄介でもあった。

 魔法とは何だ、と問われてどう応えればいいのか分からない。

 つまり彼は魔法に対して知識がないため対抗策を考えることができないのだ。

 誰でも使えるのか分からないが、これからは常に警戒心を強めないといけないのかもしれないな。

 撃退するため駆けようとする瞬間、脳裏にディーンの言葉がよぎる。

 ……ッ!待てよ、もしかすると!?

 思考がある答えに辿り着くとすぐさま後ろへ飛び退く。

 あのセリフから恐らく最低で一人、多くてそれ以上隠れているかもしれない……!

「喰らえッ!〈フレアボム〉」

 森の中から響く声と共に彼の周囲に爆炎が巻き起こる

 爆風に巻き込まれ、彼の体は容易に吹き飛ばされ樹木に激突する。

「かはッ」

 強い衝撃に咳込むも、体が痛みを感じてないことに気付く。

 どういうことだ……?さっきの爆炎を直撃して痛みを全く感じない……?だが木に直撃した際の痛みは微かながら感じている……。

 不可解な現象が起きているが、それらを無視し起き上がるとディーン目掛け全力で駆け出す。

 木々の間を素早く駆け抜けディーンのすぐそばまでほんの数秒で辿り着く。

 もう一人の刺客のことは一旦無視し見える敵の排除を優先する。

 和人は体を半回転させ後ろ蹴りを決めると、そのまま空高くへと打ち上げる。

 追撃を仕掛けようと跳んだ瞬間、ディーンが咆哮する。

「舐めるなよ!」

 空中で停止し、向かってくる和人を睨みつけ何か言葉を発すると、ディーンの周りに黒いオーラが漂い始める。

 その豹変ぶりに冷や汗をかき、とっさに体をねじり勢いを殺す。

 落下しながら和人は様子を窺う。

 あれが王女様の言っていた悪魔の力ってやつか。確かに禍々しい気がするが、まさか本当に悪魔と契約でもしたというのか?

 上空から周囲を眺め、森の中に人影がいないか見回す。

 この瞬間を狙い撃ちされるのはさすがにまずい、早く対処を考えなければ。

「よそ見をするとはずいぶんと余裕だな貴公よ」

 考えに浸っているわずか数秒の間に目の前まで迫って来ていた。

 飛行ができるとは思ってもなく、ほんの少しの油断が生じそこを付け込まれたのだ。

 先ほど蹴られた仕返しか、ディーンは剣を振り下ろさず和人の腹めがけ蹴り込む。

「ッ!」

 痛みで思わず目を閉じながら落下していく。

 が、すぐに目を開き目の前に広がる木々の枝につかまる。

 全身に物凄い圧を感じながらも勢いを殺すことに成功し地面へと着地する。

 依然飛んだままこちらを見下ろすディーンは一瞬別の方角を眺める。

 その直後彼の周囲が揺れ始めよろけてしまう。

 その瞬間を狙ったかのようにすかさずディーンは剣を振り下ろすが、彼に斬りかかる直前に腕を掴み地面へと叩きつける。

「二度油断を突いた攻撃が通るわけがないでしょう」

「あり得ない……我らの力が通じないだと……!?」

 ディーンは体を震わせながら起き上がる。

 地面に叩きつけられた際に生じた衝撃にまだ慣れていないのか、目を瞑っていた。

 怪訝に思いながらゆっくりと近づいていく。

 すると両手を上げ参ったと口にする。

 和人がやや驚いた顔を見せていると今まで隠れていたもう一人の仲間が姿を現す。

「さて、お二人にはお聞きしたいことがたくさんあるのですが……」

 彼が尋ねようと一歩歩むとディーンがどこかから短剣を取り出し投げつける。

「貴公の実力が分かった、今回はこれで撤退させてもらう。しかしイースタクト国が脅威であるという認識を改めて受け止め必ずや滅ぼそう!」

「そんなことさせるとお思いで……!?」

 短剣を掴み素早く駆け出すが突如閃光が彼の目を襲い怯んでしまう。

 その直後何かを唱える声が聞こえ、慌てて後退する。

 目が慣れるまで周囲の様子を音や気配で感じようと精神を集中させるが、人の気配を感じず思わず立ち尽くしてしまう。

 数秒が経過しある程度目が慣れると一度空へ跳躍し周囲を見回す。

 完全にいなくなったことを確認し彼は不満を零す。

「近いうちに戦争が起こるのは状況として喜ばしくない。しかしまだ未知数の敵に魔法の対抗策もない状態で攻めに行くのは自殺行為……」

 攻めに行くのが正解なのか相手が攻めてきたら反撃をして滅ぼすのが正解なのか悩んでいたが、この世界で初めて見る月の綺麗さに圧倒され思考が停止する。

「ま、一人で考えても仕方がないか。王女様に報告して相談するか」

 月を眺めながら王女たちがいるであろう食堂を目指し歩き出す。

 

 一方で時が遡るが、彼が飛び出していった会場は大騒ぎになっていた。

 恐怖に震える者がいれば泣き叫ぶ者もいる。

 王女は飛び出していった和人のことが気になっていたが、彼がやるべきことをやっているように、自分も今自分のすべきことをやらなければならない。

「皆さま、落ち着いてください!」

 マイクを通じた王女の声が会場に響き渡る。

 その声を聴き、国民たちは我に返ると王女のほうへ視線を向ける。

「先ほど私の従者が原因を調べ解決に向かっています。どうか安心してください、私の従者は絶対に負けません」

 彼なら大丈夫。圧倒的力の持ち主ということとは別のどこから込み上げるのか分からないが、不思議な感覚が王女を安心させていた。

 彼の迅速な動きを見ていた国民は王女の言葉をすんなりと受け止め皆安堵の息を漏らす。

 ですが、本当に一刻の猶予も無くなってきましたね……。私たちも何か対抗策を考えなければ……。

 国民たちを一点に集め、警護の騎士に周囲を固めさせる。

 その後再び聞こえる爆発音に今度は王女も少しながら不安な気持ちが出てくる。

 だが、自分が怯えれば国民にとてつもないダメージを負わせてしまう。

 震える手を抑えながら必死に冷静さを偽りながら、彼の無事を祈る。

 少しして聞こえる地響きに国民たちは再び混乱してしまう。

「これはやばいんじゃないか!?さっきの爆発と今の地響き、やられちまったんじゃねえか!?」

 親衛隊たちが落ち着かせるため努力するが収まる気配がなくさらなる混乱へと繋がってしまった。

 だが、王女は国民が発した言葉にカチンと頭に来ていた

「カズトさんが死ぬはずありません!今すぐ謝ってください!」

 声を荒げる王女を見た国民たちは、自分たちの発言が問題だと感じたのか再び静かになる。

 カズトさん……お願いですからご無事でいてください……!

 彼が戦っている方角を見ながら強く強く祈っていた。

 

 敵を撃退してから数分が経ち和人は会場へと戻った。

「王女様、敵からの防衛無事完了致しました。ですが、相手の閃光魔法により逃亡を許してしまいました、申し訳―」

 申し訳ありません、と言いながら頭を下げようとしたが抱きしめられる。

 突然のことに目を見開き、慌てて状況を確認する。

 こ、これはどういう……!?

「カズトさん!ご無事ですか!?どこかお怪我はされていませんか!?」

 今すぐにでも泣き出してしまいそうな声音の王女の頭を撫でながら彼は微笑みかける。

「御心配頂きありがとうございます。自分はこの通り何ともございません」

 王女が抱き着いたことに国民たちは大騒ぎしていた。

 先ほどと同じ流れならここで王女は恥ずかしさから顔を赤くし去って行くのだが、今は羞恥心などよりも無事でいてくれたへの嬉しさのほうが勝っていたらしい。

 だが、明日から編入だというのにこれは学校内で噂になりそうだ……。

 今まで好奇の目で見られていたし問題はない、か。

 考えを割り切ると王女にしか聞こえないほどの小さな声で彼は報告を済ませる。

「王女様、近いうちにイースタクト国が攻めると宣言を残して去っていきました」

 これは予想していたのか、話してもあまり驚いた様子は見られなかった。

 しかし彼は今後来る敵よりも先ほどの自分に対してのことで頭がいっぱいだった。

 今回の襲撃に関して警戒が必要だと判断していたにも関わらず敵の侵入を許したこと、少しばかりならいいだろうと食事に気を緩めていた事、思えば様々なことが問題だった。

「まるで自分がもっと思慮深く行動していれば、なんて顔をなされていますが気にしてはいけませんよ?」

 考えを的確に指摘され思わず息を呑む。

「顔に出ていましたか……?ですが、お言葉、感謝いたします」

 シルヴィは小さく微笑み国民のほうへと体を向ける。

「彼はすでに単独でマッドプラントを討伐しております。なので決して負けたりなどしません。先ほどの発言はそんなカズトさんに対してあまりにも失礼な言葉です」

 王女の話を聞き彼は何の話だか理解が追い付かなかった。

 自分のことを誹謗されて怒っている?のか? 

 と、考えた後この世界に来る前に学校での出来事が脳内で突然再生される。

 その時も自分がいない場所で自分の誹謗を千夏が怒っていた時だった。

 酷似している状況に彼は思わず息を呑む。

 すると国民の中から一人の男性が出てきて彼の前まで歩む。

「その、いない間に縁起でもないことを言ってすまなかった。この通りだ!」

 頭を下げられるが、その場にいなかった自分の誹謗のことで謝られても反応に困るというものだ。

 彼の思考は似ているこの状況のことでいっぱいだった。

「自分は気にしていません、それよりも私のために怒ってくださった王女様に対して謝罪をお願いします」

 彼の言葉に呆気に取られるが、すぐに男は王女のほうを向き頭を下げる。

「これからはしっかりと責任をもって発言してくださいね?それでは今宵のパーティはこれまでとします。皆さま本日はお集まり頂きありがとうございました」

 騎士団の人々に連れていかれ国民たちは城下町へと戻って行った。

 その後彼は一旦考えを置き、他の従者たちと共に後片付けをしていた。

 床の清掃の仕方などは元の世界と何も変わらないなと思いながら眺めていた。

「おーい、カズトくんお皿をお願いー」

「かしこまりました、少々お待ちください」

 もう少し眺めていたかったが、いつまでもさぼっているわけにもいかない。

 テーブルに置かれた皿を厨房まで持ち運び料理長とともに洗い始める。

「すまないねぇ、本当は王女様のところに行って今日のことを褒めてあげたいんじゃないかな?」

「そうですね……確かにそういった気持ちがないと言えば嘘になりますが、ですが今はこちらを優先しなければなりませんよバウークさん」

 はっはっはと豪快に笑う料理長を軽く眺めた後再び皿へと視線を戻す。

 洗っても洗っても次々と増えていく皿に少しばかり驚いているが、誰かと一緒に作業をするという楽しさから疲れが出ることは無かった。

 一通りの仕事を終え、彼は小さく一礼すると厨房を後にする。

 王女の寝室の前まで着くと扉を二回叩く。

「王女様、カズトでございます」

 名乗ったはいいが、自分で自分の名前を言うと言うのは恥ずかしいものだ。

 中から返事が返ってくるまで彼は暫し待つ。

「どうぞ、入ってください」

 扉を開け部屋へ入ると彼は深く頭を下げる。

 しかし、王女と言えど中身は普通の女の子だ。

 彼は部屋に置かれている家具などを軽く見た後事務的な会話を持ち掛ける。

「王女様、寝る前などに自分がやるべき仕事はありますでしょうか?」

 彼の言葉に王女は少しばかり頬を膨らませていた。

 その様子を見て彼は言う順番が逆だったか、と心の中で悔む。

「それと、本日は私のためにパーティを開いてくださり誠にありがとうございました。王女様のスピーチにはとても心を打たれました」

 今まで誰にも紹介をされたことがなかったのでとても嬉しかったです、と心で付け加えながら彼は続けて感謝の言葉を送る。

「私がいない間に起きた私に対しての言葉にもお怒り頂き、本当にありがとうございます」

「カズトさんは自分のことをひどく言われても何とも思わないのですか?」

 話が一転し、王女の声音が変わる。

 その瞳から目を逸らさず彼は頷く。

「というよりも自分のことを蔑まれたりするのに慣れてしまった、というほうが正しいのでしょうか」

 一旦間を置き彼は再度王女を見る。

「恐らく最初に蔑まれたのは三歳の頃でしょうか?家庭の事情やいざこざのせいで親族や家族、妹以外の人たちに毎日のように罵詈雑言を浴びていましたね」

「……ッ!」

「なので、ということもあるのでしょうが、誰かに蔑まれたことはあれど擁護されたことは……無かったのでとても嬉しかったのですよ。本当にありがとうございました」

「カズトさん……今は深くは聞きませんが、いつかお話ししていただけませんか?」

 王女の言葉に彼は思考が停止する。

 過去を話す―それはつまり自分が今までにしてきたこと、されたことを話すということだ。

 軽蔑されるかもしれない、そう考えるとあまりにも恐ろしく今にでも震えてしまいそうだった。

「分かりました、自分が話せる覚悟が出来たらお話いたします」

 必死に取り繕った笑顔でそういうと王女は満足したようにベットに潜る。

「お休みなさいませ王女様」

「おやすみなさい、カズトさん。明日から学院で勉学をするのですからあまり長く起きていてはダメですよ?」

 ゆっくりと扉を閉め彼はアパートへと戻る。

 帰り道、王女に言われた言葉を思い返していた。

「いつか……話したとしてどう反応されるんだろうか……。分からない恐怖というのはこんなにも怖いものなんだな」

 深く深呼吸をし、彼は頬を叩く。

 パシンッとよく響く音に笑いを零しながら彼は立ち上がる。

「王女様なら、きっと受け入れてくれるだろう。あんなに優しいんだから」

 夜風に吹かれながら彼は歩き出した。

 




えっと、どういったことを書けばいいのか……汗

まずは異世界奇譚を読んでくださった皆様、ありがとうございます。
特にタイトルとかは考えていないのですが、第三話から第一章、対決シュバルン国編(仮)となっております。
自分がカズトと同じ境遇だったら絶対耐えきれずに涙をこぼしていたなーと思いながら書いていました。

次回の話では学院に入ったカズトの自己紹介編などを予定しております!
ではでは……イソイソ


申し訳ありません、寒さの影響でPCが壊れてしまい当分休載致しますm(*_ _)m
出来る限り急いで復旧致しますので!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。