異世界奇譚~最強の従者へ   作:幻花

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悪寒

 自室へ戻り今日の出来事をメモに書き留める。

 大雑把な地図も描き襲撃地点を赤く丸つける。

 最初にマッドプラントの襲撃を受けてから半日で国内のすぐそばまで攻められるとは予想を遥かに通り越していた。

 だが、この世界は異世界だ。あちらの世界では非科学的なことが有り得ると考えれば移動する手段もあるはずだ。

 おそらく次あたりには街中に侵入されるであろう。しかし今現在では現れてから対処するほかない。

「ふぅ……ある程度完成したのはいいが、もうこんな時間か」

 同じくらい考えもまとまり、ほっと一息入れチラリと窓を見る。

 自室に戻ったときが午前一時くらいだったが、すでに朝日が昇りかけており休憩も兼ねて目を少しだけ閉じる。

 部屋に貼り付けると昨日買っておいた食材で簡単な料理を作る。

「厨房を見たときから思ってはいたが、この世界でもコンロとかは一般的に使われているんだな」

 テーブルに料理を置き椅子へ座る。

 昔と同じ一人の空間だったが、以前のような重苦しい嫌な気持ちにはならなかった。

「いただきます」

 そういうと彼はやや急ぎで食べ始める。

 というのも朝の仕事は何をすればいいのか分からないため、とりあえず起床の呼び掛けに行こうと考えていたからだ。

 食べ終え食器を洗うと学生服に着替え部屋を出る。

 王城へ向かう途中にすれ違う人々に彼は激励を受ける。

 なかでも彼が特別驚いたのが彼が始めて出会った商人との会話だった。

「おや?その制服は学院に入れたのかい?」

 様々な人から声をかけられ、今まででは考えられない状況に理解が追いついていなかった。

 振り返ると商人のおばさんが元気そうな笑みを浮かべていた。

「おはようございます。はい、王女様にお願いをしたところ了承してくれたのです」

 その言葉を聞きおばさんはより一層嬉しそうな笑みを浮かべる。

 彼にはなぜ自分以外のことでこうも嬉しくなるのか理解できなかったが、この世界にいればいずれ解決できるのだろうとその場ですぐに流す。

「そいつはめでたいね!それじゃコイツを持っておいき!」

 手渡されたのは手作りのお弁当だった。

「い、いいのですか!?」

 思わず聞いてしまったが、瞬時に口を塞ぎ

「当たり前だろう!それにあの時の宣言を聞いたとき本当にやってくれるんじゃないかって思っているんさ。私だけじゃなくて、その気持ちは街の皆とまでは言えないかもしれないけどたくさんの人が思っているんだよ。だから、私たちはこれくらいしかできないし、励ますことくらいしかできないけどね、より居座りやすい街にしようって考えているのさ」

「―ッ!!」

 彼は感極まり声が出なくなってしまう。

 それほど彼は人々の温かい心に触れたことがないのだ。

「だからさ、頑張っていい成績をとって王女様に恥をかかせちゃダメだからね?」

「……はい!ありがとうございます!」

「そういえばまだアタシの名前を教えてなかったね。アタシはマチルダさ、ちゃんと覚えておくんだよ」

 マチルダは彼の背中を叩き送り出す。

 思わずよろけてしまうが、体勢を立て直しマチルダのほうを向き深く深く頭を下げた。

 歩き出してすぐに彼の頬に涙が伝う。

 あわてて制服の裾で拭くが涙が止まらない。

「これ……は……?一体どうしたのでしょうか……」

 涙を道端で流すのも二回目で、再びあの時のことを思い出す。

 ハッと顔を上げ今度は何も起きていないことを理解する。

 ……。千佳、元気でやっているんだろうか……。

 結果的に涙は止まったが、立ち止まることに変わりはなかった。

 と言っても妹のことを思い出した後は必ず立ち直るため、結果的には良かったと言えるのかもしれない。

「すぅ……はぁ……。よし、行きますか」

 歩き出し、王城を目指し三度歩き出す。

 少ししてすぐ近くで大人と子供の困った声音が聞こえてくる。

「うーん、坊主、すまねぇ。これじゃあ足りねえんだ」

「お願いします!後で必ず払いに来ますので!」

 どうやらお金が足りず困っているようだった。

「こっちも商売でやっているからなぁ……誰かだけ、とか特殊な事情だから、とかで安くは出来ない―つっても坊主には分からないか。要するにこの金額を持ってきてからまた話そう」

「ぐすっ……妹が……妹が……」

 子供の台詞を聞き彼は昔に同じようなことがあったことを思い出す。

 まだ事件を起こす前、妹が倒れ自分の布団も与え暖めていたが、一向に熱が下がる気配が無く、彼は頑張って貯めていた貯金箱を壊すと、親に隠れて町へ飛び出しあたりを探し回った。

 この時の彼は風邪という名前も、どこに行けば薬が買えるのも分からなかった。

 その頃に比べたらまだ優しいのかもしれないが、それでも妹のために必死に頑張っている兄の姿を見て彼は近づき声をかける。

「ボク、どうかしたのですか?」

「ぐすっ、ママからもらったお金じゃ……足りなくてっ。お薬が買えないの……」

「ボクにとって妹さんはとっても大切ですか?」

「うんっ!とってもとぉっても大切な家族だもん!」

 男の子の気持ちを聞くと彼は胸ポケットから財布を取り出し商人のほうを向く。

「すみません、後いくら足りないのでしょうか?」

「んあ?あぁ、後30ピス足りないんだ」

 彼は男の子の方を向き再び確認する。

「これから先も妹と仲良くできますか?」

 彼はできなくなった自分と同じ道を歩いて欲しくないので何度も聞いてしまう。

「うん!ずっと仲良くするんだ!」

 その言葉を聞け彼は心の底でとても嬉しく思っていた。

 満足もしたので男の子の掌に500ピスを乗せる。

「これはお薬の足りない分と頑張っている兄としてのお駄賃の両方です。そのお駄賃で帰りに妹さんに栄養のある食べ物でも買ってあげるといいですよ」

「黒いお兄ちゃん!ありがとう!」

 男の子は嬉しそうに薬を買うと走り去っていく。

 その姿を見届け商人に一礼すると再び歩き出す。

 黒いお兄ちゃん、果たしてどういう意味で言ったのでしょう。単に偶然、黒い制服を着ていたから言われただけにすぎないのでしょうが、心を見透かされた気分になりますね

 王城の前まで着き門番兵の二人に挨拶をする。

 すぐに返事が返って来て開門してもらう。

 王女の部屋の前まで行き先ほど聞いた言葉を思い出す。

「おはようございます、カズトさん。どうしたのですか?今日はとてもご機嫌なのですね」

「おはようございます王女様。はい、朝からいいことがたくさんありました」

「ふふ、それは今度ぜひとも聞かせて欲しいわ」

 王女はそういうとあくびをする。

 その様子を見た彼は背を向け足を曲げる。

「まだ眠いようなので自分が厨房まで運びますよ」

「え……?」

 返事を待たず彼は王女をおぶう。

 王女は彼の背中におぶさった瞬間に目が完全に覚めたが、彼の背中の広さにぴったりと顔をくっつける。

「王女様、あまり無理はなさらないでくださいね……」

 彼は小さな声でそう言うと王女を負ぶったまま歩き出す。

 王女はそんな彼の声が聞こえ心の中でありがとうと言っていた。

 カズトさんの背中、大きくて暖かい……まるでお父様のよう……。

 覚めたはずの瞼が再び重くなり気づいたときには眠っていた。

 階段を下り厨房まで歩いていると、途中で小さな寝息が聞こえ、階段を降りるときの絶妙な揺れが眠りに誘ったのだと考えた。

 これはどうするべきかと考えながら厨房の前に辿り着くが、いい答えが思い浮かばず結局起こすことにした。

「……ょ……。おう……ま……」

 夢の中で王女は遠くから聞こえてくる声に耳を傾ける。

 ―カズト……さん……?

 声の主を理解すると現実へ引きずられ厨房に着いたことに気付く。

 頬を真っ赤に染めながら慌てて席へと着く。

 その様子を眺めながら彼は王女が食べ終えるまで待機する。

 うぅ……恥ずかしいです……。

 スープを飲みながら先ほどの感触を思い出す。

 しかし同時に懐かしい記憶も再生される。

「おお、カズトくん。今日から学院に行くのかね?」

「バウークさん、おはようございます。はい、本日からイースタクト魔法学院で勉学を勤しむ事になりました」

 おおー、という感嘆の声を漏らしながら彼の制服姿を眺める

「うん、よく似合っているじゃないか。これはきっと入学したらモテるんじゃないかな?」

「どうでしょうか。そういったことにはとても疎いので気付かないまま終わっていそうですが……」

 その言葉に驚いたバウークは思わず大袈裟に手を上げる。

「驚いたな。というよりも羨ましいな、こんちくしょう」

 バウークに背中を叩かれ目をぱちくりさせ、何かを言おうとしたが、王女が食べ終えたのを確認しこの場を去る準備をした。

「ま、でもそういうことはしないほうがいいよ。カズトくんは一人でいるほうが似合っているよ。」

 と、不意にバウークに小声で囁かれ首を傾げる。

 彼は妹のことを言っているのかと一瞬思ったがこの世界で妹のことを話した記憶がないため謎のままだった。

「カズトさん、本日は随分早い登校なのですね?」

「はい、初日と言うこともありますが、学院長さんへ挨拶をして学院の色々な行事などの説明を伺おうと思いまして」

「では急いで向かったほうがよろしいと思います。また後でお会いしましょう」

 そう言い残し去っていく王女を眺めながら彼は言われた通り学院へ向かう。 

 その様子を見届けた王女は駆け足で自室へと戻るとタンスから制服を取り出す。

「ふふ、これでカズトさんと一緒に学院に行けますね♪きっとお会いしたらさぞ驚くことでしょう」

 嬉しそうに、そして楽しそうに小悪魔の笑みを浮かべながら制服へと着替えると城門を潜り抜ける。

「ん……?今の王女様じゃなかったか?」

 と門番兵の声が聞こえたが構わず走り抜ける。

 まだ登校している生徒はおらず、彼は校門から入り学院を見回す。

「校門を探していて思ったが……国の三割くらいを占めているんじゃないか?」

 フェンスに沿って歩いていたときから思っていたが、前の学校の何倍もの広さがある。

 校門前で辺りを見回すと学院へと入る。

 学院の造りは自分が通っていた学校となんら変わりは無く、懐かしさを感じる。

「少し見て回るか」

 誰に言ったわけでもなく独り言を呟きながら校庭のほうへと向かう。

 そしてちょうどその頃、王女が学院に着いた。

「カズトさんはもう学院長室に行ったのでしょうか?急がなければ」

 駆け足で校舎へ入り学院長室を目指す。

 普段走ったりしないため二階に続く階段を上ると息を切らしてしまう。

 走るのをやめはしたが、疲れたまま歩く。

 学院長室前まで着き扉を三回叩くと中から声が聞こえる。

「王女様?本日はどのようなご用件でしょうか?」

「おはようございます、フローリア学院長さん。本日は朝早くに申し訳ございません」

 フローリアと呼ばれた女性はいやいやと手で否定する。

「そんなこと気にしないでおくれ。こちらとしても王女様が訪問しているという情報が流れると色々困ったりするもんだ。抜き打ちみたいな感じで来てくれるだけ嬉しいものさ」

「そのことでお話があるのですが……」

 王女の切り替えしに思わず驚くフローリア。

 つまり今の会話からそうなったということは王女も入学したいと言うことなのだろう。

「そうだねぇ……別に入学自体は大歓迎ではあるよ。けどなんでまた突然?」

「それは―」

 一方で校庭の砂を触っていた彼は時計をちらりと見て時間がかなり経っていることに気付き校舎へ入っていく。

「校庭の砂はとてもサラサラしていて気付いたらこんなに時間が過ぎていたとは……恐ろしいですね……」

 来賓の方から入り靴を履き替えると学院の見取り図を眺め三階を目指しやや駆け足で移動する。

 学院長室前までたどり着き扉をノックしようとしたが中から話し合う声が聞こえたため終わるのを待つことにした。

 こんな早くに誰と話しているのだろうか、という興味本位から耳を傾け中の声を拾う。

「お願いできないでしょうか?」

「……?」

 彼は何がおきているのか理解できなかった。

 今、王女様の声が聞こえた気がしたが……そんなわけないか。

「まあ王女様の頼みだし断る理由も無いかね」

 王女という単語を聞き彼は扉を三回ノックする。

 中から入ってくるよう促され彼は扉を開け中へ入ろうとするが、違和感を感じ部屋全体を見回す。

「……。中々にいい趣味をしていますね」

「ほぅ……」

 声のするほうを向きその女性の姿を観察する。

 スラリとした体格に長いブロンズの髪がマッチしていた。

 とても学院長とは思えない若さに心の中では疑問に思っていたがそんなこと口に出来るわけが無い。

 彼の言葉を聞き王女は首を傾げフローリアは感嘆の声を漏らす。

「よく分かったね、坊や。万が一のときのために少しくらいは身を守らないといけないからね、許して欲しいものさ」

「なるほど、確かに仰る通りでございます。申し送れました、本日からこの学院に編入することになりました柳和人と申します」

 頭を下げると王女のほうを向くと疑問を口にする。

「して王女様、本日はどうしてこちらにいらっしゃるのでしょうか?」

「私も勉学を励みたいと思ったからですわ。それと、同じくらいの友達が欲しくて……」

 彼は踏んではいけない地雷を踏んだと歯噛みする。

 とっさにフォローしたくても彼にはいい言葉が思い浮かばない。

「出すぎた真似を致しました。申し訳ございません」

「いえ、いいのですよ、カズトさん。今フローリア学院長さんとお話をしていてカズトさんと同じ教室にしてもらえないかと検討をしているのです」

 と言われたものの、そもそも彼はどこのクラスなのかを聞いていない。

 本来の目的を思い出し彼は学院長に質問する。

「フローリア学院長様、自分はどこのクラスに編入するのでしょうか?」

「おや?教えてなかったかね?そいつは申し訳ない。坊やが入るクラスは1-5組だよ」

 彼はてっきり独特なクラス名だとばかり思っていたので少し驚いてしまった。

 表情には出さないが内心では案外普通なんだな、と思っていた。

 それからこの学院の特徴や催し物などを一通り聞くとちょうど登校の時間になった。

「ふむ、今回はこんなところかね。また聞きたくなったらいつでもおいで。さ、教室に行って自己紹介とかを済ませてきな」

「そうですわね。行きましょう、カズトさん」

 呼び声に応じ彼はフローリアへ一礼すると出て行く。

 最後まで見届けるとフローリアは大きな息をこぼす。

「中々に面白い坊やだったね、成長が楽しみだよ」

 

 廊下を歩いていると度々生徒と遭遇する。

 遠巻きに「あれ、王女様……?」といった声が聞こえてくる。

 王女様なら特に気にしないのかもしれないが、大騒ぎにならないことを願おう。

「どうしました?カズトさん、難しい顔をしていますが……」

 などと考えていると王女に呼ばれ思考を中断する。

 表情からは特に嫌だといった印象はないし無理に気にする必要もないか。

「いえ、なんでもありません。そろそろチャイムが鳴る頃ですので急ぎましょう」

 一学年のクラスの前に辿り着くと彼の懸念が的中し大騒ぎになっていた。

「王女様!?本日はどのようなご用件で!?」

 と言った何故とたずねてくるケースが多く王女も困っていた。

 はぁ、と誰にも聞こえないほど小さくため息を零し輪の中に入る。

「皆様、王女様は本日より学院の生徒として通うことになりました。つきま―」

 彼がすべて言い終える前にほとんどの人が驚きのあまり叫んでいた。

 その叫び声に釣られ様々な野次馬が増え、仕舞いには上級生まで来る事態となった。

 すぐに教師が駆けつけ収まったが、この様子から彼は中々に骨が折れる学生生活になると思った。

 不思議と辛いという感情は湧かずどちらかといえば楽しみという感情があった。

 駆けつけた教師の中に1-5組担当の教師がいたらしく彼を見つけるや否や声をかけられる。

「君がヤナギカズト君かな?」

「はい、そうでございます」

「はじめまして、僕は1-5組担当のブレイン・アージュ。教えている魔法は火属性系統だ」

 握手を求められ、すぐに交わす。

 ブレインは笑顔を見せるとついてくるようにと言い歩き出す。

「王女様、行きましょう」

 未だ野次馬はいる中、二人は1-5組を目指し歩く。

 教室前まで着くとブレインが説明をしてくると言い残し教室へと入っていった。

 少し待っていると王女が身体を微かに震わせているのに気付く。

 身体がやや触れ合っているから気付けたレベルなのだが、彼は王女の目の高さに合わせる。

「大丈夫です王女様。学院は地位をあまり気にせず平等に近い雰囲気だと聞いています。すぐに友達が出来ますよ」

 彼の言葉に目を見開きしばし固まっていたが、やがて笑顔へと変わり頷く。

「はい!ありがとうございます、カズトさん」

「よし、二人とも入ってきてくれー」

 教室の中から声が聞こえ二人は目を合わせると彼は扉を開け中へと入る。

 それに続いて王女も入るが、その瞬間やはりクラスが少しばかりざわつく。

 よく考えたら、これは当然の反応か。一国の王女が学院の生徒として編入するんだから驚かないはずも無いか。

「さっきも話したが今日から同じクラスになる二人だ。それじゃ自己紹介をよろしく」

 彼は王女に先にどうぞの意味を込めて手を前に出す。

 王女は頷き一歩前に出ると自己紹介を始める。

「皆様、ごきげんよう、リリアニー・シルヴィールです。これから一年間よろしくお願いいたします。あまり身分などを気にせずシルヴィと呼んでもらえると嬉しい……です。一年間を共にする"仲間"としてよろしくお願いいたします」

 頭を下げると盛大な拍手とともに生徒が寄ってくる。

 「仲間」という単語が強調されていたのは気のせいではないだろう。

 彼は王女が無事に一歩進めたことを嬉しく思った。

「ほら、お前ら席に着け。そういうのは終わってからにしろ。それじゃ、カズトくんも自己紹介をよろしく」

「はい」

 一歩前に進み彼もまた自己紹介を始める。

「皆様はじめまして、自分は柳和人と申します。一年間よろしくお願いいたします」

 ぺこりと頭を下げていたとき自分が今まで自己紹介をしたことがなかったことに気付く。

 いや、したことがなかったと言えば嘘になるのだが、いつも簡潔に済ませていたのでうまく口が回らなかった。

 普段ならば適当な単語がすぐに出てきて相手を不快にさせないようできるのだが、どうも学校というものと相性が悪いらしい。

 などと考えている間に「中々に整った顔立ちですわね」「かっこ……いいです……」と言った声が聞こえてきたが彼は表情を少しも崩すことはなかった。

 しかし、この世界では自分の過去を知る人も、家系について知る人もいない……もしかしたら、本当に普通の学院生活を送れるのかもしれないですね。

「それじゃ二人ともそこの席に座ってくれるかな?場所替えはするかもだけど今はそこの席で授業を受けてくれ」

 物思いにふけている間に場所を指示され、歩き出したとき近くから爆発音が聞こえる。

「皆教室から出ないで防御魔法を展開するように。繰り返す、教師も生徒もその部屋から出ないで防御魔法を展開するように」

 フローリアの声が聞こえ瞬時に異常事態だと理解する。

 彼は王女の周囲に何の危険も無いことを確認すると身動きを取りやすい薄着以外脱ぎ捨てる。

「王女様、フローリア学院長様の仰られたとおりこの教室から出てはいけません」

「か、カズトさn―」

 王女の言葉を無視して彼は飛び出した。

 平和な生活を送れるかもしれないという考えは一瞬にして砕かれ、心の中で少しばかりの怒りを覚えながら廊下を駆け抜けて行った。

 

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