階段を飛び降り正面口から外へ出ると襲撃者の二人と思われる人物と相対する。
一人は青年で、もう一人は顔を隠し自身の周りに魚のような何かを浮かばせていた。
「どういったおつもりで―」
言葉を全て言い終える前に青年が襲い掛かる。
手に持っているナイフを避け、ナイフをはたき落とす。
すかさず青年をフードを被った襲撃者めがけ蹴り飛ばすが、ぶつかる直前に男は拳で仲間の腹を貫く。
「ごふっ……一体何を……」
一切の感情も感じ取れぬまま火魔法を唱え仲間を燃やしてしまう。
断末魔の叫びが響き渡り、焼け焦げ、血液が蒸発し動かなくなったその身体を、浮いていた魚のような何かが食べる。
一口で食べず何回も小分けして食べているその仕草は学生たちにはあまりにも刺激が強すぎる。
校舎内の窓から眺めていた生徒たちの数が先ほどよりも減っているのは気分を害したからなのだろう。
学院長が来ないところから襲撃者はこの一組ではないのだろうと推測する。
魚のような何かが人を食べ終え、姿を消すとこちらへ振り向く。
「ふむ、なるほど。貴様が話に聞いていた戦士か」
「なるほど……その口ぶりから察するにあなたがたはシュバルン国の方ですね」
当たり前の問いを投げかけるもすぐに返事が返って来ず少しの間ができる。
「如何にも、我はアディルス。名前を覚えてもらおう」
攻めに来るのかと警戒心を高めていたが、どうやら違ったらしい。
「知っておられるかも知れませんが、自分は柳和人と申します。記憶には留めて置きましょう、その名前を!」
二人は挨拶を終えると一斉に駆け出した。
互いに拳を振り合い力量を比べる。
拳がぶつかり合うと激しい振動とともに地面が砕ける。
砕けた地面を見た彼はとっさに周りの被害を確かめるため意識を高めた瞬間、顔にアディルスの拳が微かに掠れる。
とっさに距離をとり、気を引き締めなおす。
強い……!昨日の相手よりも圧倒的に……!
と、その直後男は何かが呟き終えると目の前で爆発が起きる。
爆風に飛ばされるが、体勢を立て直し体がやはりダメージを受けていない。
すぐに起き上がったことに襲撃者も多少の驚きを隠せないのか、遠くからでも驚いたような仕草が見て取れる。
と、同時に全力で駆け出しアディルスの腹を全力で蹴り飛ばす。
すぐさま散っている岩片を投げ飛ばし一定の距離を保とうとするが、即座に体勢を立て直され軽々と砕かれる。
アディルスは動きを止めジッとこちらを見据える。
「今の一撃は中々に良かったぞ。力はほぼ互角、しかし魔法に対しての警戒が薄いところから察するに貴様は魔法を扱えないということだ」
アディルスの言葉に思わず息を呑む。
魔法を扱えないということ=魔法に対しての警戒心が疎かになること。
確かにその通りだ。理解できていないものにまで警戒をするほどの余裕なんてものは無い。
魔力的な何かを会得していないとその脈的な何かが見えない、そうだとするとかなり厄介だ。いくら耐性があるような気がするとはいえ、一瞬の判断で魔法を避け続けることなど不可能だ。
「だが、それにしては魔法に対しての耐性が高い。実に興味深く、そして実に面倒な相手だ。ヒントを与えたんだ、今後の対策でも考えるといい」
言い終えた直後、目の前に火の玉が現れとっさに回避する。
とっさに避けられたとはいえ、無理矢理反応した体の動きでは隙だらけだ。もちろん彼とて分かっていなかった訳ではないが、魔法という未知の存在を前に避けないというのはあまりにも危険だ、と本能が先に動いてしまった。
魔法に対して耐性がありそうな状況であったとしても本能がそのことに気付くよりも先に炎を回避するよう指示を出してしまったのだ。
目の前まで現れたアディルスの手から先ほどの何倍も凝縮された炎が拳に纏う。
「くっ……!」
とっさに両手をクロスし攻撃を防ぐが、すぐに腹を蹴り飛ばされる。
地面に何度も打ち付けられ意識が飛び掛け、辛うじて視えた視界の先に学院の壁があった。
施設に極力被害を出さないようにしようと、意識を無理矢理起こすと両腕をバネのように伸ばし真上へ跳び上がる。
身体は頑丈に出来ているつもりだったが……さすがは異世界の強者、といったところか。短時間の間にこれだけのダメージが蓄積するとは思わなかった。いや、よく考えれば殴りなどの打撲による痛みはそんなに受けて来なかったな。
空からアディルスを眺めていた直後姿が消え真上から声が聞こえる。
「ふむ、やはり貴様には魔法への耐性があるようだな」
振り向く前に背中を衝撃が襲い受け身を取る暇もなく地面に叩きつけられる。
衝撃に咳き込み、うまく頭が回らないまま、口に溜まった血反吐を吐き捨て顔を上げると彼目掛け足を振り下ろしていた。
腕をクロスし受け止める構えを取ったが、先ほどまでとは段違いの威力に一瞬で表情が苦しくなる。
受け止めた際の衝撃により地面が崩れバランスが悪くなる。
重い……!だが、この一撃なら耐えられる……!
耐え凌ぐ事が出来た、のだが左腕を激痛が襲う。しかしその痛みで立ち止まるわけにはいかない。
このタイミングが絶好のチャンス……!逃してたまるか……!
腕のクロスを解き、硬直状態のままのアディルスめがけ右腕を全力で振りかぶる。
体をねじり勢いを最大限に高め撃ち放つ。
「さっきの、お返しです!」
「っ―」
「うおおおおおおおお!!」
一切の加減無しに放たれたその拳は、衝撃と同時に凄まじい強風が巻き起こる。
気付いたときには既に遅かったが、校舎を貫通しそのまま吹き飛び森へと吹き飛ばされる。
「はぁ……はぁ……腕の骨が粉々に砕けているだけのようですね……。それにしても……一つ一つの行動が速く防御のタイミングが難しい……」
青く腫れている左腕に目を当てていたが遠くから響き渡る声に意識を集中させる。
「まさか……一発殴られただけで血を出すことになるとはな!途切れかけの意識でよく今の一撃を放てた、称賛に値するぞ」
「まさか、という言葉はこちらが使いたいくらいですよ……はぁ……はぁ……そんな簡単に起き上がって来られるとさすがに困るのですが……」
こっちは結構限界を迎えているんだが……厄介だ。
呼吸の乱れを落ち着かせようと深呼吸を数回する。
少し落ち着くとヤケクソ気味に駆け出した。
それを見たアディルスも同じように駆け出す。
「そこまでだよ!」
上空から声が響き両者は慌てて立ち止まり空を見上げる。
そこにいたのは先ほどまでとは違う服を着ているフローリアだった。
地面に降り、アディルスたちの仲間を投げつける。
数秒の睨み合いの後、アディルスは息を零す。
「……。ふぅ、さすがに賢人と厄介な相手を同時に相手をするのは難しい、か」
無理と言わないあたりまだ余裕があると言うことなのだろう。
相手との圧倒的な実力差に拳を握る力が強まる。
「貴様とは近いうちにもう一度戦うことになりそうだ、そのときまでに精々足掻いて魔法への対策をすることだな!今度はこいつも交えて戦いものだ」
追跡する気がないことに気を許したのか、はたまた本当に楽しみなのか分からないが、そう言い残し笑い声を響かせながら黒い煙とともに姿を消した。
最初に遭遇したときアディルスの周りに見えた奇妙な魚のような何かを一切使うことがなかった。
アディルスの気配が完全に消えると、よろけた足取りでフローリアの前まで歩みゆっくりと頭を下げる。
「申し訳ありませんでした、放送の指示を守らず襲撃者と戦闘してしまい……」
「ん、あぁ、いや、そのことに関してはこちらとしても感謝しているから怒るに怒れないんだ。しかし、次からはこういった無茶はしないようにしたまえ?自分の身体は一つしかないんだ、他者に気を使うばかりでなく自分にも気を使いたまえ。その腕なんかひどいじゃないか」
フローリアは指先を壊れた箇所に向けるとまばゆい光がほとばしる。
光の先へと視線を向けるとさきほどまで流血で染まっていた地面が元通りになっていく。
「すごい……ですね……」
発せられたのはこれだけだった。
驚きや感動などの感情が一気によせて言葉を口にすることすらままならない。それほどまでに魔法の凄さを実感したのだ。それと同じくらい早くどうにかして魔法への対抗策を考えなければと焦る気持ちも強くなった。
「さ、次は坊やの怪我を治そう」
指を向けられるが、彼は首を横に振った。
「いえ、この程度の怪我ならば自力でも治せます。といいますか、怪我は自力で治し同じ怪我をしないためにしていたもので」
「ふむ、そうか……本当に無理そうならいつでも言うんだよ?ところで坊や、放課後、時間は空いているかな?」
投げかけられた言葉に一瞬だけ思考する。
この後は授業を受けて王女様を護衛しながら王城へ向かう、その後は二時間ほど自由時間がある―。
「……はい、王女様を王城へと帰した後なら再度向かえますが、よろしいでしょうか?」
「それでいいさ、その間にこちらも準備をしておくとしよう。しかし最初に言うべき言葉をまだ言っていなかったな」
最初に言うべき言葉?なんだそれは。
思わず考えてしまうが、出された言葉はなんら難しいことではなく、ごく普通にありふれた言葉で、彼にとっては様々な記憶が蘇る言葉だった。
「ありがとう、我が校の生徒たちを守ってくれて」
頭を下げるフローリアに動揺を隠せない。
”ありがとう―”その言葉を聞き彼は動きを止める。必死に言葉を紡ごうとするが、何度も頭の奥に閉まった千夏への様々な感情が脳内をぐるぐるとかき回しうまく話すことが出来ない。
挙動が不振になっている彼に違和感を覚え声を掛ける。
「だ、大丈夫か坊や……?」
伸ばされた手を見た彼はとっさに弾き少し後ずさる。
坊やがいきなり警戒……?いや、違うか。私の言動のどこかに彼のトラウマに繋がったのかもしれない。しかし、どこに……?
フローリアは自分のミスを探そうとするが、思い当たる節がなかった。
この世界に来て既に何度目か分からない千夏への罪悪感に心が苦しくなりその場に倒れこむ。
あの世界に置いて来てしまった千夏は今頃どうしているのだろうか。両親にひどいことをされていないだろうか。
考えれば考えるほど深い、深い暗闇へと引きずり込まれる。
そのたびに思い出す、その不安を打ち払うほどの妹への愛情。
何度目か分からない自責の念がある程度落ち着き、ゆっくりと起き上がる。
「すみません、フローリア学院長様……。どうもあることを思い出すと自分が抑えられなくなってしまうみたいで……」
彼が頭を下げると、いやいや、と手を振っている。
「こちらこそすまなかった。誰にだって触れられたくない過去はある。理由はどうであってもいきなり踏み込まれたらそうなるのも無理はないさ」
しかし……それにしても……あれだけのことがあったのに痛みを感じていないというのか?いや、自身が傷付く事に慣れている……?
そんな視線に気付いたのか、彼がこちらを向き首を傾げる。
詮索するのは良くないと言ったそばからこれだ。何とも情けない話だ。
「とりあえず坊やは身体に問題が無いならば教室に戻るといいさ、待っている人もいるだろうしね。まあその怪我なら間違いなく保健室に行くよう言われると思うが」
自分のことを心の中で嘲笑し、話題を切り替える。
そこまで言われて彼は校舎の窓を順に眺めていきシルヴィがずっと窓から心配そうに眺めていることに気付く。
軽い会釈をし教室を目指し歩いていく。
階段を上ったあたりで彼は足を止め口を手で押さえる。
「ごほっがはっ、久しぶりにあの頃みたいな痛覚を味わったな……。フローリア学院長様にもどうにか隠し通せたと思いたいが……」
地獄のような日々、朝起きては夫の仇と毎日両頬が腫れるほど叩かれる。その後さらに気分が悪くなれば平気で刃物で切りつけられていたあの日々。おかげで今の頑丈な体にしようと決意することができたし、その点だけは感謝してもいいかもな、する気はないが。
口から吐き出された血をポケットから取り出した布で拭い終えると、教室を目指す。
「あの時に比べたらまだ意識もはっきりしているし、久しぶりだったからか。腕を折られたりするのは慣れないがな」
一人で苦笑しながら階段を上り廊下を歩く。
教室の方を目指し歩いているとシルヴィがこちらに急いで駆けていた。
「カ、カズトさん!お怪我は―ッ!?」
「はい、なんともございません」
「そのボロボロなお身体で……?腕……なんて物凄い腫れてるじゃないですか!今すぐ保健室に行ってください!心配……したのですよ……」
改めて自分の服装を見ればボロボロに破けている箇所から血が流れていた。
授業に出ても支障をきたすことはないのだが、王女様の意見を取り入れないわけにはいかないか。
少し考えているとシルヴィの頬から涙が零れる。
突然のことに慌てて抱きしめようとしたが、不意にバランスを崩しシルヴィに抱きつく形となった。
とっさのことに慌ててしまいそうになったが、和人の言葉にどうにか留まる。
「すみません王女様、少しこのままでお願いいたします」
あー……これはどうやら、限界か……。次からは……もっと……
身体から力が抜けそのまま意識を失う。
「カズトさん?大丈夫ですか?……カズトさん!?大変ですわ!急いで保健室へ向かわなくては!」
いつまで経っても動かない彼に違和感を感じ、意識を失っていることに気付くと慌てて保健室まで連れて行ったのだった。
よくあるお話になりそうですね。。。
皆さんこんにちは幻花です。
これバトルものの流れになってますが第一章終わったらぼのぼの学園ものになる(はず)なのです!!
この世界やファンタジーなどの魔法とは異なりますが、科学者が発明している作品もある意味魔法なんじゃないかな、と最近思ってしまいました。
次回はフローリア学院長に呼び出され、魔法について特別授業を受ける話の予定になっています。