驚き少し反応が遅れたが、現れた少女にすぐさま挨拶をする。
深い深い礼をし、相手の様子を窺う。
少女はそんな和人を興味深そうにジッと見つめていた。
「言ったであろう対等な契約をすると、そう畏まらなくていい。我の名はグリモア・グリモワール。この世界にある魔導書と呼ばれるものを造ったこともある、好きなように呼ぶがいい、私は汝のことは我が呼びやすい呼び方で呼ばせてもらおう」
「グ……グリモワール……!?坊や、君は本当に一体……」
グリモワール、魔導書って意味があったはずですが、まさかその本人が人格を持っているとは……。
しかしそれほどの力を使うにはそれ相応の代償が必要になるはず……一体何を捧げればいいのだろうか。
和人はグリモアを眺めながら考え込む。
そのことを快く思わなかったのか、グリモアは和人の目の前へワープすると額にコツンと指をぶつける。
「我は主のことがとても興味深いと思っている。ゆえに主を取って食おうとはしない。それで、我と契約をするのか主よ」
吐息がかかるくらいに近づかれ、しどろもどろしてしまう。
ひとまずは悪意のある契約相手ではないだろう、と決めておいた。
「ではこれからよろしくお願い致しますね、グリモア」
契約完了だ、そう言い残しグリモアは消え去る。
二人は呆然と立ち尽くすしかなかった。
少しして学院長は落ちてきた魔導書を拾い机の上に置く。
グリモア・グリモワール―千年以上前に生きていた賢者と言われるが世界の真意を探し続け様々な旅をし各地を訪れていたらしい。そしてある時を境に魔法という魅力に憑りつかれ残りの人生を全て注ぎ込み人にして魔導書を造ったことから賢者と言われているようだ。その後はどこか静かなところで死を遂げたと教えられてきていた。
それがまさか人間をやめていたことに学院長は驚いていた。
「とりあえず坊やはもうお帰り。いくら従者だからと自分を低く見ていても王女様にはそんなの関係ないよ。今頃心配しているんじゃないだろうか?」
学院長の言葉に和人は驚きながら急いで帰る支度をする。
「今度は目を瞑らなくていいさ、それじゃあまた明日ちゃんと学院に来るんだよ?」
学院長は和人の足元に魔法陣を展開させ王城へと飛ばす。
和人がいなくなり椅子に腰を掛けると小さなため息が零れる。
イレギュラーな存在である彼を見守るつもりでいたが、契約したのがグリモアというイレギュラーにイレギュラーが重なった事態に頭が痛くなるのは仕方ない。
ともなれば絶対に避けねばならないことがある。
魔法使いの暴走―。たまにあることだが、魔法使いは心身が限界を感じると暴走し自身に内蔵されている魔力を使い切るまで狂ったように抑えきれなくなる一種のバッドパラメーターのようなものだ。彼が簡単に心が壊れることはないだろうがシルヴィに何かがあったとき、それこそ死に至るような事象が発生した時果たして壊れないだろうか。
「坊やにはいつか話さないといけないね。それにしても、契約相手が見た目は可憐な少女だと知って果たしてシルヴィールが何と思うのやら」
変に誤解をして大変なことにならなければいいのだが。
そんな心配をしながら資料をめくっていた。
和人が地上へ戻ったとき日が沈みかけていた。
そして戻された場所は学院の校庭だった。
―主よ、体の構造を見させてもらっているのだが、この世界の住人では無さそうだな?
「さすがは契約という感じですね、隠すのはそこそこ得意なのですが、こうも簡単に見破られてしまうなんて」
彼は驚いた声音で応答する。
―そうだろうと思った、主の体には魔を受け入れる器がない。どう頑張っても魔法を会得することはできないというわけだ。
魔法を一切使えない。それは流れる魔の脈を感じることができないということでもある。
「魔法が見えないというのはかなりの痛手ですね……鬼の見えない鬼ごっこのような」
大きなハンデを背負いため息を零すが、いつまでもそうは言っていられない。
弱点が分かったならばそれを補えばいい。
最低でも残り三日で視えなくとも何となくの気配を感じれる様になればいいのですが……。
―我も協力するから安心するがよい。
「それはとても心強いです。ぜひお願いいたします」
冷静とまではいかないものの幾分か軽い気持ちになれた。
「こんな平和な国、絶対に滅ぼさせたりはしません」
真剣な声音で意気込み空を眺める。
夕日が辺りの木々を包み幻想的な空間を作り出していた。
「問題が解決して少し休息が取れるようになったら一緒にこの景色を見たいものです」
自分がどうなっているかは分かりませんが、と心の中で自嘲しながら帰路へと着いた。
優しい人というのはどう転んでも優しいのかもしれない。
魔法は視えなくても、炎の魔法なんかは熱気から感じ取れたりするのでしょうか?と書いてて疑問に思いました(おい