バイオハザード~破滅へのタイムリミット~   作:遊妙精進

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50話 紫藤

「俺が先に行こう」

 

 子供たちを危険に晒すわけにはいかない。黒瀬が先に進んで安全を確保し、宮本と子供たちを進ませる方針だ。

 

「気をつけてね、黒瀬」

「ああ、宮本もな」

 

 黒瀬は扉を開け、先へと進む。やはり一人の方が誰の心配も要らずに軽々と進める。

 道中にもウーズが十数体いたが、背後から倒していき、簡単に司令室の扉の前に到着した。 

 

「よし」

 

 角田やセリアが言うには、ここに紫藤がいるらしい。彼がまだ生きているのなら、何故ウィルスに手を染めたのか知る必要がある。

 

 黒瀬は脅しようにハンドガンをホルスターから抜く。扉にそっと手を当て、一気に押して司令室に入り込んだ。周りの確認をする。司令室の一番奥にある椅子に誰かが座っていた。

 

「そこから動くな」

 

 黒瀬がそう言うと、人影は素直に手を上げた。言葉が通じるのなら化け物ではなく人だ。

 

「宮本、大丈夫だ、来てくれ。それと無線は繋げっぱなしにしといてくれ。久しい奴の声が聴けるぞ」

『……? 了解』

 

 黒瀬は短い階段を上がり、その人物の隣に立った。

 

「久しぶりだな、紫藤……」

 

 紫藤浩一、奴の姿は六年前とほとんど同じで、スーツに眼鏡の優男だった。あくまで外見の話だ。彼の本性は六年前によく味わった。

 

「いけませんねぇ、黒瀬君。紫藤“先生”と呼びましょう」

 

 紫藤は手を下ろして立ち上がった。その顔には不気味な笑みが広がっていた。

 

「この期に及んで教師面すんのか?」

「私はあなたの授業を担当したことはありませんが、元とはいえ教師は教師ですよ」

「そうかよ、紫藤“先生”?」

 

 宮本は黙っているが、彼が生きていることを知って内心どう思っているのだろうか。怒りだろうか、それとも呆れだろうか。

 

「黒瀬君、君の活躍は知っています。アンブレラを潰したのは実質あなたたちですから」

「そう言われると有り難いね」 

「私は六年前の事件で、目覚めたのですよ」

 

 紫藤は目を瞑った。昔を思い出しているのだろうか。

 

「自衛隊によって助けられた私は、内心がっかりしていました。これで元の日常が戻るのか……と。ですが、私はウィルスというものに興味を持ちました。人間が造ったウィルスが人間を生ける屍に変える。なんと素晴らしい」

 

 彼も黒瀬たちと同じでバイオテロやウィルスによって何年も囚われている。

 

「残念ですが、私と黒瀬君の道は違いました。黒瀬君はウィルスと戦う道を選びましたが、私はウィルスを造る側になりました。その頃はまだアンブレラ社も秘密裏に活動していましたからね。ですが、あなたたちの活躍によって私は第二の職場を失った。いえ、これは幸運ともいえるでしょう。私の頭脳をFBCに買ってもらったんですよ」 

 

 紫藤はパソコンにUSBを差し込んで、パソコンを操作する。

 

「動くな!」

 

 黒瀬は銃を向けるが、紫藤は微動だにしない。

 

「知っていますよ、黒瀬君。君は銃を生命体に撃てない。アンブレラに所属していた頃、君のデータを盗んでおきました。実に君は面白い。R計画、これが何を指すのか……」

「おい、さっさと話を進めろ」

「おっとぉ、そうでしたね。FBCのモルガン総司令は、ある計画を進めていました。バイオテロを脅威を世界に知ってもらうのです。全ては上手くいっていました。t-Abyssやハンターをヴェルトロに渡し、テラグリジアでバイオテロを起こさせた」

「やはりあれはFBCが関与してたのか……」

 

 テラグリジア・パニックでのあのハンターの量。明らかに尋常ではなかった。ハンターが安価で手に入れられるとはいえ、百はゆうに越えていた。

 

「モルガン総司令は善の想いで、バイオテロの脅威、恐怖を世界に伝えたのですよ」

 

 確かにあの事件以降、FBCには多くの予算が回り、一般人からの感謝の声が多くなった。

 

「だが、その事件で何人死んだと思ってる!」

 

 あの時、戦っていたFBCのメンバーもそうだ。FBCによる自作自演で何も知らずに戦い、死んでいった。それに巻き込まれた何万の一般人も住む家を失い、愛する人も喪った。

 

「あの犠牲があったからこそ、今多くの人が救えています。一年前ならそうはいきませんでした」 

「小の虫を殺して大の虫を助ける、そんなことわざがあったな」

「ええ。テラグリジアの皆さんには非常に感謝しています。彼らがいたからこその今です」

 

 黒瀬はその言葉を完全には否定できなかった。確かにあの事件で世界は世界はバイオテロの脅威を知った。そのお陰か、FBCやB.S.A.A.のバイオテロへの介入はスムーズに行えた。あの事件がなければそう上手くはいかなった。

 

「理解は出来る。でも賛同は出来ない」

 

 そんなことをすれば、もう人間ではない。ただの怪物だ。

 

「黒瀬君ならそう言うと思っていました。君は頭が良いですからね。ただ否定するだけでは、それこそ“偽善”です」 

「でも、あんたらが善ってわけじゃない。そもそも善がこの世界にあるのか知らんが」

「ほう……? 黒瀬君がしているのは善ではないと?」

「そうだな……“偽善”かもな……」 

「それは違うわ!」 

 

 いつの間にか、宮本と子供たちが司令室の中に入ってきていた。

 

「おやおやぁ? 宮本さん、お久しぶりですねぇ、私はずっとあなたに会いたかったんですよ」

 

 宮本はズンズンと紫藤に近づき、銃床で紫藤の腹を殴り付けた。紫藤は痛みで床に倒れる。

 

「宮本……」

 

 パァン! 宮本は振り向き、黒瀬の頬を叩いた。よろめくが、体勢を立て直す。

 

「黒瀬は今まで自分が行ってきたことに自信を持てないの!? あなたは自分が死ぬかもしれないのに、誰かの命を救うために自分の身を投げ出してきた!」

 

 心が傷んだ。宮本の言葉が突き刺さる。

 

「偽善なら自分の命を投げ出せるの!? 私には到底出来ないわ、死にたくないもの! 人の身代わりになんてそう簡単になれっこない」

 

 ああ、そうか。黒瀬の目には涙が潤った。宮本は自分のために本気で怒ってくれている。

 

「ありがとう、宮本」

 

 偽善か善かなんて関係ない。自分が思うように戦う。それだけだ。

 

「宮本さん、酷いですね……再会を喜びべきではありませんか?」

 

 紫藤は腹を押さえながら立ち上がった。

 

「誰があなたと会って喜ばないといけないの? こんなゴミクズ当然の奴と」

 

「私は宮本さんに会えて喜んでいますよ? 六年前、あなたは私にこう言いました。『殺す価値もない』と。それを私は許せなかった。くやしかったんですよ。この私を殺す価値がない? あの頃の宮本さんにはそう見えたかもしれませんが、今の私はどうですか? 殺す価値があるでしょう? もしもここでバイオハザードが起こっていなかったら、そこにいる子供たちはt-Abyssの実験で死んでいたでしょう」

 

 宮本は紫藤の顔を殴る。

「気持ち悪い。いつまでもあんたを恨んでるほど私も暇じゃないのよ」 

 

 どうやら宮本の心配はいらないようだ。黒瀬は先ほど紫藤が操作していたパソコンを調べる。USBメモリに今までの実験データをコピーしていたようだ。

 

「これがあればFBCの悪事をしらしめることが出来る」

「黒瀬君、本気ですか? この世界にFBCがいなくなれば、バイオテロから人々を守るものはいなくなるのですよ?」

「ヴェルトロを使ってバイオテロを起こすような組織に世界を守られたくはねぇよ。それに大丈夫だ。うちのトップは非常に優秀でな。FBCの代わりになればいい」

 

 黒瀬はUSBメモリを抜いてケースに容れた。

 パソコンの隣にアタッシュケースがある。中を確認すると、十本の注射器が入っていた。その内の一本からは禍々しい感じが伝わる。

 

「おい、これはなんだ?」

「それはt-Abyssのワクチンと強化型t-Abyssですよ」

「なるほど」 

 

 黒瀬はワクチンを取り出して自分の腕に刺した。何ともない。本物かどうかはわからないが、身体に異常はないようだ。

 

「動くなよ、紫藤。宮本、子供たちにもワクチンを打ってくれ」

「わかったわ」 

 

 宮本はまず自分の腕に刺して異常がないことを確かめ、子供たちにも指し始めた。

 

『いつの間にか賑やかになっているな』

 

 突然司令室の大型の画面がついた。その映像にはモルガンが映っていた。

 

「モルガン総司令!」

「黒幕の登場か?」

『クロセ君、こうやって話すのは初めてだな』

「アンタとは話したくなかったけど」

『君がそこから脱出できたとしても、君は逮捕されるだろうな。もうじきB.S.A.A.は潰れる』

「何?」

『B.S.A.A.は一年前のテラグリジア・パニックを起こしたヴェルトロにウィルスやB.O.W.を売り渡した』

 

 ただのデマ。だが、FBCなら簡単に出来るだろう。

 

『君はその研究所でバイオハザードを起こした犯人として逮捕される。証拠がなくとも、証拠を作ればいい』

「こっちにはUSBメモリがあるんですけど」

『そんなものはなんとでもなる。データを書き換えてB.S.A.A.のものにもな』

「そりゃ怖い。まだ二十一なのに逮捕されるのか?」

『終身刑、いや死刑は免れないだろう』 

 

 嘘で死刑になるなんて残酷すぎる。

 

「そんなことになったら、俺はアンタを殺すね。てか、それを世界中が信じたとしても、アメリカのお偉いさんは信じないと思うけど」

 

『グラハム大統領にベンフォード高官のことだな。だがそれがどうした。君が、B.S.A.A.が犯罪者集団と知れ渡れば、君の生きる場所はなくなる。それがいやならここで死んでもらっても構わない』

 

 ウーズがダクトを通って司令室に入り込む。数が多い。

 

「どうするの、黒瀬?」

「ワクチンを打ったんならもう大丈夫だ。脱出しよう。死んだら身の潔白を証明することも出来ないからな」

 

 黒瀬は余りの二本のワクチンをポーチにいれ、近づいてくるウーズを蹴り飛ばす。

 

「モルガン、言っとくが俺たちは諦めないからな」

『私はそこで死んどく方をお薦めしよう』

「断ります」

 

 黒瀬はテレビの出力装置を撃って、映像を停止させた。

 バァン! と黒瀬たちが入ってきた反対側の扉から二人の男が入ってきた。

 

「小室に平野!?」

 

 何故ここに、と言う前にまずは目の前の敵を排除しなければならない。

 

 

 

 

 

 




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