山猫の砲撃手   作:中澤織部

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大ッッッッ変、長らくお待たせいたしました。
いやね、ホラ、アーマードコアの新作が出るって聞いたもんでさ。なぁわかるだろ?同じリンクスじゃないk(ry)

短めですが御容赦ください(平身低頭)


ジャイアントキリングの始まり

「報告書ならさっさと纏めておいた。お前は少し休んでおけ」

 

ワンダフルボディ撃破後、セレンからそう言い渡されたミリアは、拠点にしていたカラードの所有する輸送艦(勇季が使用しているものと同じタイプ)を降りていた。輸送艦を降りてまですることなど少ないのだが、やはり人間というものは定期的に地に足を着けていないと、何処か調子が狂うものらしい。

輸送艦が停泊した港町は、元々は旧レイレナード領の一つであり、現在はオーメル社とローゼンタール社による合同統治を受けている。

リンクス戦争以前はレイレナード社の重要拠点の一つでもあったのだが、GA主導の苛烈な空爆を受けたことで軍港としての機能の殆どを喪失し、戦略的価値を失ったことが辛うじて町そのものの存続に繋がったと言われている。

今ではオーメルの卓越な采配により、地上ではオーメル陣営でもそれなりの経済拠点の一つとして、最盛期には劣るものの活気が戻っているのが現状だ。

とはいえ、所詮は汚染の進んだ地上の中でも比較的マシな環境というだけの町に過ぎない。地上に残された人々の受け皿としての町並みと喧騒は、決して健全なものとは言えなかった。

 

「……これ、一つ」

 

国家解体戦争以前からの長い歴史を持つ、老舗のファストフード店。

大分古い建物のせいか、飲食店としてはどうかと思えるほど壁が汚れた店内にミリアはいた。

ミリアが両手で持つトレイの上には、口数の少なさで店員を困らせながら注文した定番のバーガーセット。

陽当たりのいい窓際の席に着いた彼女は、それを小さな口でリスのように頬張り始めた。

パンズやパテはおろか、ほぼ全てを合成食品で賄いながら添加物をこれでもかと加えたバーガーの味は、不健康さの塊だが、これが意外にも人気があったりする。

 

「……」

 

ミリアはヘッドセットで音楽を聴きながら無言で淡々と頬張りつつ、ふと窓の外に見える雑踏へと視線を向ける。

地上にあって賑わいを見せる町並みは、しかし目線を変えてみれば、汚染された地上に取り残された、見捨てられた人々の自棄に過ぎない。

クレイドルの内部は、賑やかではあったが秩序だった空間だった。けれど反対に、地上にある町は何処も退廃的な空気で満ちている。

住まう人々になんの違いがあるのか、そんな優劣などミリアには皆目検討もつかなかった。

 

「あっ」

 

と、無意識にフライドポテトに伸ばした手が空を切ったことで、ミリアは先程まであった筈のフライドポテトのLサイズの山が無くなっていることに気づいた。

 

「コラ、泥棒が……!」

 

張り上げられた声に思わず視線を向けると、ミリアの食べていたポテトを丸ごと抱えて今にも店の外に逃げ出そうとしていた小さな姿と、それを後ろから首根っこを掴むガタイのいい店員の姿があった。

 

「お客さん、すいませんね。コイツは此処等でもタチの悪いクソガキでして」

 

ガタイのいい店員は小さい盗人の首根っこを掴んだままミリアの方に来たかと思うと、深々と頭を下げる。

強面で傷痕のある、用心棒か何かだと思う見てくれとは異なり、彼は普通の店員らしかった。

 

「別にいい。けど、ソレはどうするの」

 

何を思ったか、ミリアはふと、何気なく聞いてみる。

 

「いやぁ、普通なら町を治めてるオーメル社の警備部なりなんなりに突き出すんですがね、最近は浮浪者だの流れ者だのが増えてテロも酷いってんで、ただの盗人程度なんて構ってられねぇって放り出されるんですわ」

 

オーメル社及びローゼルタール社が治めていたこの地域は、旧レイレナードの領域と言うこともあってか、反オーメルを掲げる武装勢力が少数ながら現在でもテロを頻発させている。

そのためか、町に流れ着く流れ者はテロから逃れた難民や、その中に紛れ込んだテロリストばかりが多く、警察代わりの警備部はその多くがそちらに回されているのが現状だった。

ですからね、と店員がおもむろに空いた手を振りかぶったかと思うと、小さな盗人の顔面を殴り付けた。

一発、二発、三発、と何度か殴打すると、にこやかに笑ってみせる。

 

「今はこういう風に、自分等で気の済むまで始末つけるのが当たり前でしてね。お客さん、この街……というよりオーメル系の土地は初めてでしょう?」

 

「……まぁ、ね」

 

ミリアは目の前で行われる暴行をさして気にもせず、バーガーを頬張る。

店員が首根っこから手を離して床に落とすと、殴られたせいで鼻でも折れたのか、盗人は両手で血の滴る顔面を覆って踞っている。

 

「GAとかはまだちゃんと動いてくれるんでしょうが、此処等じゃ私刑なんて当たり前ですから、後はご自由にして結構ですよ」

 

盗られたポテトのお代もお返しします、との店員の言葉に、ミリアは顎に手を当てて暫く考える。

暫くして、踞る盗人を指差して言った。

 

「……じゃあ、コレ貰ってく」

 

 

……

 

 

「──それで、コレを連れてきた訳か」

 

ミリアが盗人を連れて所有する輸送艦に戻ると、セレンは先ず大きな溜め息を吐いた。

 

「生憎とウチにペットを飼う余裕はないんだ。元の場所に捨ててこい」

 

「……ちゃんと飼えるもん、散歩だってする」

 

盗人とはいえ人間を捨て犬扱いする二人だが、それに対して小柄なそれは反論するわけでもなく、ただ黙って踞っている。

 

連れて店を出る時に店員が言うには、何度か前に盗みに失敗した見せしめに喉を潰されたらしい。

喋れないからと言いたい放題のように見えるが、事実として、人間を養うのは相応にコストがかかるものだ。

それも今の今まで盗みばかりをしていた浮浪児ともなれば、養ったところでメリットもクソもないのは自明の理と言えた。

 

「お前は……、全く、何をそんなにソレを気に入ったんだ」

 

再度、大きな溜め息を吐いたセレンは、浮浪児に視線を向ける。

決して衛生的とは言えない見た目で、延び放題のボサボサの髪はろくな手入れもされておらず、襤褸切れ同然の服はサイズが明らかに合っていない。恐らくはゴミ捨て場で拾ったのだろう。服の下から覗く手足は枝のように細い。

 

「……眼、好きな眼、してたから」

 

ミリアはそう言って、髪を掻き分けて盗人の目をセレンに見せる。

薄汚れてボロボロをしている中で、その眼は色濃い感情を隠すことなく、爛々と輝いて見えた。

 

「──お前はそこそこ見る目があるらしいな、ミリア」

 

また溜め息を吐くセレン。だがしかし、三度目の溜め息には、何処か喜色が混じっているように感じられた。

 

「まずは風呂場に連れてって綺麗にしてやれ、着替えは此方で用意しておいてやる」

 

 

……

 

空に浮かぶ無数の空中都市クレイドル。その一つにあるBFF本社。

リリウム・ウォルコットはその中のトレーニングエリアで日課をこなしていた。

薄手のトレーニングウェアを纏った年頃の少女らしい、しなやかで控えめな身体にはうっすらと筋肉が浮かんでいる。

リリウムは月曜から土曜までの毎日、三時間のトレーニングを欠かさず日課としていた。

メニューは一日につき三種、AIに任せてランダムで設定している。

今日は最初にシンプルな腕立てから始まりチェストプレス。そして最後のメニューとしてランニングをそれぞれ各一時間ずつこなす。

リンクス候補生として選ばれてからというもの、彼女は毎日欠かすことなく行っている。

それは後見役として目をかけてくれている王大人の期待に応えるためでもあり、リンクスという選ばれた存在としての責務であるという彼女の考えからだった。

 

……かつての女王、メアリー・シェリー様も、決して鍛練は欠かすことがなかったと聞いております。

 

王大人曰く、BFFのみならずリンクス足る者は皆、日頃の鍛練を欠かさず、それゆえに優れているという自負があったという。

今やリンクスの在り方も大きく代わってしまったが、王大人や他のベテランたちは今でも日頃の鍛練を欠かすことはない。

リリウムはそういった人々を見てきたからこそ、その在り方を手本として、毎日のトレーニングを欠かさずこなしているのだ。

そんな時だった。

 

「少し前に通信……大人から、ですか」

 

後見人である王小龍からの呼び出し。

それを確認したリリウムは、トレーニングを切り上げてシャワーを浴びて汗を流す。

トレーニングルームの外で控えていたメイドたちに身嗜みに任せれば、先程までの薄手のトレーニングウェア姿から一転、黒と灰を基調とした正装に身を包んだ、BFFの新しい女王の姿へとリリウムは変身した。

 

「お呼びでしょうか、王大人」

 

イギリス系の空気と雰囲気が内装に反映されたBFF本社。その中にポツンと存在する中華風の庭園がある。

BFF内でも大きな権力を持つ王小龍の意向が反映された庭園を一望できる執務室に着いたリリウムは、漆塗りの椅子に座る老人に恭しく一礼をした。

 

「……」

 

椅子に深く沈んだ老人──王小龍はリリウムの言葉に反応を示さず、何もない宙を見つめている。

手にしている煙管からは僅かな紫煙が一筋ばかりが立ち上っていた。

はぁ、と小さく溜め息を漏らしたリリウムは、目の前の後見役の側に寄って、老人の皺だらけの手に自分の手を乗せてもう一度呼び掛ける。

 

「大人、リリウムが参りました」

 

そう言ってやると、ピクリ、と反応したかと思うと、老人に気力が戻るのがわかった。

 

「……ん、おぉ、リリウム。──そうか()()か」

 

王小龍の言葉に、リリウムは目を伏せる。

 

「……はい、今月に入ってもう三度目になります」

 

指導部をリンクス戦争によって失ったBFFを纏め上げ、見事にGAグループの一角として立て直してみせた稀代の陰謀家にしてリンクスとしても随一のスナイパーとして名を馳せた王小龍。

今日に至るまでBFFの復興に携わった老人は、しかしここ数年のうちに、目に見えるほどの衰えを見せていた。

BFFの重役会議やカラードのお茶会に他社との交渉……あらゆる場で老獪な陰謀家として振る舞う彼は、一度でも気を抜いてしまうと、他人の声にろくに反応もできないほど無気力な状態に成り下がることが増えていた。

むしろ、無気力で弱々しい老人の姿こそが彼の本質であるかのように、その頻度は急激に増えており、それは彼の限界が近いのだということを暗に示していた。

 

「……そうだったな、自分で呼びつけておいてこのザマとは、我ながら情けない」

 

それで、と王小龍は続ける。

 

「今回お前を呼びつけたのは他でもない。次の作戦、つまりはカブラカン撃破のことだ」

 

カブラカン、と聞いてリリウムはその端正な眉を僅かにひそめた。

王小龍の言うカブラカンとは、オーメルに近しい東南アジアなどを領有する企業アルゼブラ社の開発した大型の突撃型AFだ。

円状の走行ユニットの上に巨大な縦長の箱が乗せられたような形状をしたそれは、進行方向に存在する障害物を前面の破砕ブレードで破壊しながら前進する兵器だ。

その反面、本体にはアルゼブラらしさと言うべきか、スラッグガンとミサイルランチャーしか搭載されていないという。

これまで四機が建造されていると言われており、その破壊力でもってGAグループを長く苦しめてきた。

 

「今回、GAから我々BFFに対し要請が来たのだが、私はこの通り暫くは出られん。……ついては、お前に僚機をつけたいのだ」

 

「僚機、ですか?」

 

王小龍の言葉に、リリウムは思わず聞き返した。

リリウムの乗機であるアンビエントは、王小龍の乗機ストリクス・クアドロとの連携を前提としたアセンになっている。

一応単独での戦闘も可能ではあるが、王小龍以外との協同など思いもよらなかったからだ。

 

「……僚機については此方に当てがある。お前にはその僚機候補と打ち合わせをしてもらいたい」

 

そこまで言うと、王小龍は水の注がれたグラスを手に取って喉を潤す。贅肉の落ちた皺だらけの手は僅かに震えていた。

 

「──かしこまりました、王大人」

 

不必要な詮索をせず、リリウムは頷く。

彼女は知っていた。この目の前の老人は他人が思うよりも心優しく、そして不器用なのだということを。

 

 

……

 

 

「おいミリア」

 

 

セレンに呼ばれたミリアは、新しく飼うことになった同居人の少女の名前を考えている途中だった。

喉を潰されていた少女は、文字など読み書きできるほどの学もなく、マトモに名前もつけられていなかったらしい。

珍しくネクストのこと意外でやる気を出していたミリアだったが、それもセレンに中断されたかたちとなっていて、動かない表情筋の裏には、セレンにはわかる程度の不満の色が見えた。

 

「オーメルから依頼だ。目的は地上最強の一角、スピリット・オブ・マザーウィル撃破だ。……腕が鳴るだろう?」

 




お久しぶりです。これまでどうしてたかというと、危機契約で頭を痛めながら零式に潜ったりしてました。
ガレマール帝国よ永遠なれ……!


というわけで次回はカブラカンとスピリット・オブ・マザーウィルの二本立て……の予定です。
可及的速やかに投稿する予定ですのでどうか許して。
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