山猫の砲撃手   作:中澤織部

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遅れてすまないが多分もっとも長くなったネ。
ダークソウルリマスターも購入し意気揚々としている今日この頃。
リマスターで『admiral paetta』って名前の魔筋キャラを見かけたら自分なんで握手しよう。


古き平和の都市に、イレギュラーは対峙する

ミミル軍港襲撃から約一ヶ月後、加藤勇季はGAから依頼されたリッチランド襲撃任務を終えてGA基地に帰投していた。

数多くのノーマルACとMTに加え、量産型AFのランドクラブからなるアルゼブラの防衛部隊が展開していた農業プラントだったが、僚機として雇ったメイ・グリンフィールドと共に挑むこになった。

量産型とは言え、AFの存在により強固な防衛体制を整えていたアルゼブラではあったが、重量二脚の支援機であるメリーゲートがミサイル弾幕と重装甲を駆使して敵を引き付け、その隙にローザ・ファルチェのグレネードランチャーでランドクラブの砲塔を破壊する──といった連携で無事に作戦を遂行し、敵戦力の壊滅に成功した。

黒煙を上げて沈黙するランドクラブの残骸を背景に基地に帰投し、愛機の整備を任せた勇季はリンクス用のロッカールームへ移動し、今は着替えも終わって室内のベンチで仰向けに寝転がっていた。

普段ならば此処にはメノが居るはずだったのだが、今回は彼女の搭乗していた輸送機がマシントラブルによって離れた基地に着陸したらしく、今は此処に居ない。

ぶっちゃけてしまえば暇なのである。

 

……メノに色々と預けてたし、特にやることもないからなぁ……。

 

通信端末はあれど、しょっちゅうメールを送ったりするワケではない。

良く読んでいた本も、出撃前にメノへ預けていたので手元にはない。

基地を見て回るのも手ではあるが、仮にもリンクスである自分が当てもなく彷徨いているのも問題になるだろうし却下。

 

「運良くあった手元の財布には小銭ばかり……、飲み物でも買ってくるかな」

 

ネクストを整備できるような基地には、必要な人員の多さからか、必ずと言っていいほど購買部や自販機が多く存在する。

GAグループの所属基地ともなれば、個人的には気に入っているクーガーコーラや有澤重工の緑茶『有澤社長愛飲! 大艦巨ほうじ茶』が販売されているはずだ。

寝そべったままから上半身を起こし、傍らの財布に手をかけたその丁度のタイミングで、

 

「ハーイ、暇してるかしら?」

 

一応は男性用のロッカールームに入るのなら、ノックぐらいはすべきなのではないだろうか。

 

「あぁ、まあ確かに暇なんだが、一体どういう用件なんだ?」

 

「ついさっきまで僚機だった相手にそんなコト言うのかしら? お礼よ、お礼」

 

勇季の問いに、彼女、メイ・グリンフィールドは自身のエンブレムにも劣らない魅力的な笑顔でそう言った。

 

 

……

 

 

……もう、録な説明も無しだなんて、どういう経営をしているのかしら……!

作戦終了後、マシントラブルによって別の基地に降りることになったメノは、漸く勇季の居る基地に到着した。

南西にあった航空機の発着を主体にする基地から、軍用の高速道路を使って約十五分というのがまだ救いであろうか。

報告書等は移動中の車内で既に作成済みである為、勇季と合流した後は拠点代わりの輸送艦に戻るなり近いクレイドルにでも行くなり、空いた時間をゆっくり過ごすことができる。

頃合いとしてはそろそろ忙しくなるのだから、レジャーや娯楽は余裕をもって満喫したいのだ。

……勇季も案外寂しがっていたりして。

まさかね、と思いながら基地の通路を早足で進んでいくと、リンクス用にわざわざ用意されたロッカールームが見えてきた。

自動照明の灯りが点いているから、室内に居るのはほぼ確定。

しかし──。

……話し声……?

室内から微かに漏れる声、性質から勇季の独り言ではないのは解るが、しかし相手は誰なのか。

一番の可能性はメイだが、メノの胸中は半ばそうあって欲しくないと考えていた。

メノ・ルーにとって、メイ・グリンフィールドは国家解体戦争直後から交友があった。

パックス・エコノミカから間もない頃、一時期はGA社のリンクス養成施設で訓練に戻っていた時に、AMS適性検査に合格して連れてこられた、まだ十歳くらいの彼女と知り合ったのだ。

同年代の友人が居なかった自分にとって、メイという同性の友人が出来たことは、当時の記憶のなかでも鮮明に覚えていた。

勇季はメイと何を話しているのだろうか。僚機として依頼の礼でもしているのか、ふとメノはドアに耳を近づける。

盗み聞きではない。ない筈だと思いたい。

 

「フフフ、メノ先輩には悪いけど~、っと」

 

「──ちょ、待て、胸が当たってるんだが!?」

 

「人の居ないところで何をやってるのよ──!? 」

 

思わずドアをぶち壊す勢いで怒鳴ってしまったのは仕方がないことだと思うんですが。

壊れたら後でちゃんと弁償しようと考えながら、彼女は二人を見た。

 

 

……

 

 

メイ・グリンフィールドにとって、このタイミングでメノが来る事態には半ば唖然とする状態だった。

今回勇季にちょっかいをかけたのは、普段からダン・モロとかをからかっていたのもあるが、かつては自分の友人兼先輩として、今では愛する人と支えあうメノ・ルーと公私共に大事なパートナーである加藤勇季……、彼女との幾度かの会話から彼に興味を持ったに過ぎない。

……これは、一寸不味いかしらねぇ……。

彼女にあったのはただの悪戯心であって、邪な考えではない。

わざわざ友人と言えるメノと仲違いしようというワケではないのだが、果たしてその心配は無用だった。

 

「メイ、これからは勇季にちょっかいなんてかけてはダメよ? 直ぐにその気になるから」

 

「おい待ってくれ? 俺はその気になってなんか──」

 

「インテリオルのエイ・プールにセーラちゃんは? あとは同じ独立傭兵のネリスさんとも、仲が良かったわよね……?」

 

「あら、貴方ってそんなに交流があったの? 見かけによらず大胆と言うべきかしら」

 

「いやいや待ってくれ! エイさんはともかくネリスさんとは以前に共闘した時に馬があったくらいで、セーラに関してはお前も知ってるだろぉ!?」

 

勇季がリンクスとしてデビューして間もない頃、オーメルサイエンス社から独立傭兵部隊『コルセール』と協同で任務を受けたことがあり、その際にコルセールを率いていたリンクス──フランソワ・ネリスと酒などの趣味で意気投合したとはいえ、彼女と話す機会もそうそうあるわけではない。

インテリオルの最年少リンクスとして知られていたセーラ・アンジェリック・スメラギも、リンクス戦争終結の折りにリンクスを引退しており、少し前にカラード本社で偶然再開したメノが昔話に花を咲かせていたぐらいだ。

 

「誓って俺は口説いてるわけじゃないからな、ただ話してただけだぞ!」

 

「そうは言うけどね。自覚ないようだけど、勇季は自然に相手を口説いてるのよ」

 

「あらあら、カラードマッチでも私のコト、口説いてたような気がするけど……?」

 

「畜生、此処に味方は居ないのか!?」

 

それから暫くの間、勇季はメノとメイの二人に終始からかわれ続けるのであった。

──補足しておくと、メノと昔話しに花を咲かせている間、セーラは終始顔を赤らめながら勇季のことをチラチラと見ていたことを記しておこう。

そしてそれが、カラードの男性職員や他のダンやカニスら男性リンクスに知られ、更に酷い目に会うのは当分先の話である。

 

 

 

……

 

 

 

「──お前、此処にいたのか? 随分と探してたぞ」

 

インテリオル・ユニオン傘下の基地にある格納庫、全身を黒に染め上げたレイレナード製中量二脚フレームのネクスト──ストレイドを見上げながら、ミリア・ベルリオーズ・カーチスは自分に向けられた声に反応し、しかし振り返らずにただ愛機を見上げていた。

声の主、セレン・ヘイズはそれに怒ることもなく、ミリアの側に歩み寄った。

 

「──セレン」

 

ふと、ミリアがセレンの名を呼んだ。

 

「ミリア、お前は本当にネクストが──いや、…ストレイドのことが好きなんだな」

 

溜め息混じりに言うセレンに、愛機を見上げる銀髪の少女は表情をも変えずに嘯いた。

 

「……一番好きなのはセレンだよ?」

 

ミリアの言葉に、セレンはわしゃわしゃと傍らの少女の頭を撫でた。

そこで彼女はふと、ミリアの幼くも整った横顔に、過去の面影を重ねた。

今から数年ほど前のあの日、レイレナード社に出向いた彼女に投げ掛けられた言葉を。

脳裏にはあの時の会話が、そして情景が今でも鮮明に焼き付いている。

 

──スミカ、アイツのこと、頼むぞ──

 

──待て、貴様は何故、私に愛娘を託す? 何故──

 

リンクス戦争の最中のあの日、アイツが何故ミリアを自分に託したのか。

己の死期が近いことを悟ったのか、それとも勝利の果てにあったソレから幼い彼女を遠ざけようとしたのか。

今になっても解らないが、けれど解るのは、この少女が紛れもない天才であることと、漠然としていながらも感じる、何かが変わるかもしれないという期待感が自分の中に生まれてきたということだ。

 

「──次の仕事までにはまだ時間がある。休んでおけ」

 

コクリ、とミリアが頷くのを見届けると、セレンは格納庫から足早に退出した。

 

「ふえぇ……お腹が空いて何も出来ません……」

 

格納庫の扉の傍らで何か情けないジャージ姿の馬鹿が倒れていたような気がするが気にしてはいけない。無視しておこう。

 

「勇季さん……、お願いですから養って……何でもします……」

 

お前、いっそのことGAにでも移籍してしまえ。

 

 

 

……

 

 

 

「──え、GAから緊急の依頼だって?」

 

ある日の輸送艦の一室、依頼が無かったためにトレーニングルームで身体を動かしていた勇季の抜けた声に、メノは溜め息混じりに応えた。

 

「……ええ、ミッション内容はGA所属のネクスト、ワンダフルボディの救援だそうだけど」

 

ワンダフルボディ──その搭乗者であるドン・カーネルと言えば、GAが推進するNSSプロジェクトに参加している人物で、カラードランク24位に座する下位のリンクスだ。

勇季は彼と関わったことは殆ど無いに等しいが、その人となりや実績ぐらいは聞いている。

 

「ドン・カーネルと言えば、ベテランのノーマル部隊からの叩き上げだろ。何があったんだ?」

 

「ネクストを使ってレッドバレーを強行突破したインテリオルの輸送部隊追撃の任務をしていたそうよ。どうやら輸送部隊自体が囮で、本当の狙いがワンダフルボディにあるとわかったみたいね」

 

それが事実ならば、ワンダフルボディを相手にネクストをぶつけてくる考えだろう。

低いAMS適正からか動きが悪い彼では、襲撃してきたインテリオルのネクストに勝てる可能性は無いに等しい。

故に救援依頼というわけか。

 

「受けよう。ワンダフルボディの救援成功に加えて敵ネクスト撃破で追加報酬だ。交渉は頼んだぞ」

 

メノにそう告げると、勇季は急ぎ慣れたようにトレーニングルームから移動し、パイロットスーツへの着替えを済ませると、格納庫に向かい、充分に整備された愛機に搭乗した。

武装は何時ものライフルと散弾バズーカ、背部グレネードに加えて、左背部に新しく総弾数と発射数に優れた垂直ミサイル『WHEELING03』を装備し、肩部には分裂型の連動ミサイルである『061ANRM』を装備。どちらも企業の在庫処分で安く大量に売っていたのを購入したままで使っていなかったが、敵ネクストへの牽制にでも使うつもりだ。

 

「頼むから耐えててくれよ……」

そう言って勇季は愛機であるローザ=ファルチェを起動させる。

格納庫の正面ゲートが開かれ、輸送艦の甲板に設置された専用のカタパルトに機体を乗せると、それと同時に背部にVOBが装着された。

 

「加藤勇季は、ローザ=ファルチェで行く!」

 

VOBを起動させると、加速を付けた発艦とともに圧のような加速が、コックピット内部に普段の挙動ではあり得ない勢いで勇季にのし掛かった。

向かう先は旧ピースシティエリア。

そこで勇季は、ある種の運命的な遭遇を果たす。

 

 

 

……

 

 

 

『こちらマイブリス。宜しく頼むぜ』

 

「……宜しく」

 

ワンダフルボディ撃破の以来を受けたミリアは、インテリオルからのすすめで僚機にとあるリンクスを雇っていた。

リンクスの名はロイ・ザーランド。

カラードマッチにおけるミリアの繰り上げまでは、独立傭兵としては最高位のカラードランク7位に位置付けられていた男だ。

アルドラ社系列のフレーム『HILBERT-G7』に強化型ガトリングやデュアルハイレーザーライフル、さらには高火力のミサイルを装備した重装甲高火力のネクスト『マイブリス』を駆り、堅実的ながらに圧倒的な強さを証明している。

そんな彼が僚機として薦められたのは、インテリオルのリンクスが不足する情勢と、アピールのためにあった。

インテリオル・ユニオンに所属するリンクスは現状で約三、四名程で、その誰もが別の戦場に出撃していた。

独立傭兵ながらにインテリオルの専属という暗黙の了解があった彼が選ばれたのは、ごく自然の成り行きと言える。

そして、僚機との協同を密接な関係だとアピールさせていければ、インテリオル側にミリアを囲い込めるという思惑もあった。

 

『あんたも、面倒な謀に巻き込まれちまったなぁ……』

 

通信越しに聞こえてくる愚痴た呟きは、ロイがそういった企業の権謀術数の類いを好まない人物だということの証左だ。

 

「……別に、気にすることない」

 

一言一言が短く、続かない会話は応酬する余地もない。

ロイは、この少女とのコミュニケーションを取りかねていた

口数の少なさからはかつてのベルリオーズの血筋だと理解できるのだが、しかしそれにしても話を広げられないので、色男でも知られる彼の常套手段である会話で和ませてからお茶に誘うこともできない。

……畜生、インテリオルの偉いさんは好き勝手に言いやがって全く……。

人脈だのルート作りだのは自分向きではない、とロイは自身の特性を把握している。

故に、そういったものはウィンDかエイ・プールに任せれば……とそこまで思ったところでロイは一度考えを改めて直す。

ウィンDにはロイ個人の関係からそういうことはしてほしくはない。けれどもエイ・プールには普段の言動から非健康的な私生活が滲み出ており、また残されたスティレットも協調性のない人物だ。

となると、やはり面倒なことばかり、彼に御鉢が回ってくるというワケだ。

 

「……来たよ」

 

『おっと、それじゃあさっさと終わらせちまおうか』

 

敵の姿を確認し、ミリアとロイは同時に機体のメインブースターに火を入れ、作戦を開始した。

 

『ようやくネクスト投入か。仕掛けが遅いな、インテリオル・ユニオンも』

 

通信越しに聞こえた中年の声は、恐らくワンダフルボディのものか。

GA製ネクスト『NEW-SUNSHINE』フレームに各種実弾武器で構成された迷彩柄の機体の周囲には、恐らくはGA所属であろうノーマルACが、ワンダフルボディに追随するように大量に出現した。

 

『チッ、無駄な取り巻きをぞろぞろと……、目的はワンダフルボディの撃破だ。雑魚は無視しても構わん』

 

舌打ち混じりに苛立ったセレンから通信が入る。

彼女のようにリンクスとしての誇り…とまではいかなくとも、相応のプライドや矜持がある。そしてことそういった人物はこういう粗製だとかノーマルに頼るような奴には手厳しい。

ろくな実力もなしに戦場に立つのは愚か者だ…とはセレンの発言である。

 

「……ストレイド、行くよ」

 

ミリアは勢いよくワンダフルボディの元に突撃し、戦闘を開始した。

 

 

 

……

 

 

 

『急いで勇季、始まってるわ……!』

 

「わかってるさ、見えてる!」

 

メノからの通信を受けた勇季は、作戦エリア到達とともに勢いよくVOBを強制パージした。

ほぼ最高速のまま加速した状態のVOBは、勢いよく戦闘エリアにいる黒色のネクストに向かって特攻した。

単純な設計故により多くの燃料が積載できるVOBは、使い方しだいではソレそのものが超大型の質量ナパーム弾と化す。

 

『……!』

 

──しかし、直撃コースに居たネクストは右背部のグレネードキャノンをVOBに向けて発射。

炸薬式のグレネード弾はVOBに正面から着弾し、炸裂による破壊を生み出した。

直撃前に空中で爆発四散したVOBは、しかし、その爆発による衝撃により増した破壊力をもって、辺り一面に炎熱と質量による破壊を生んだ。

 

『どわぁ!? だ、誰がこんなァ……!!』

 

『なんだ危ねぇっ──!?』

 

爆風のあおりを受けたワンダフルボディとマイブリスは多少だが機体のAPを減らすことになった。

VOBの爆散を確認した勇季は、それを見計らって小刻みなQBを駆使してワンダフルボディの前に降り立った。

 

『お、お前は新しいランク11のネクスト! GAからの増援か……!?』

 

「その通りだワンダフルボディ。俺が援護するから撤退を──」

 

ワンダフルボディに意識を向けた瞬間、勇季の駆るローザ=ファルチェの懐に黒色の閃影が迫り、両手に構えた二挺のライフルを容赦なく叩き込む。

 

『……超至近距離に、PAは通じる……?』

通信越しの声は、最後に耳にしたのが最早数ヶ月も前のカラード本社。

プライベートでの会話に通ずる平坦な調子のそれは、逆に戦場にあって容赦のなさを表している。

 

『こっちだってやり返すだけだっ!』

 

勇季はダメージ交換を覚悟に、右背部に装備していたグレネードキャノンをストレイドに向けてノーロックで撃ち放った。

脚部に旧GAE社製の四脚パーツを採用しているローザ=ファルチェとは違い、PA性能を重視したアリーヤフレームのストレイドでは受けるダメージに差が出てくる。

しかし、ストレイドはギリギリのタイミングでQBを巧みに使い、PAによってダメージを減衰できるギリギリの位置に回避した。

お陰で距離を離しはしたが、この程度では直ぐに詰められるだろう。

そう判断した勇季は、右腕のローゼンタール社製アサルトライフルと左腕の散弾バズーカの交互撃ちでストレイドを牽制する。

散弾バズーカの至近距離による瞬間的火力は、漆黒のネクストを容易には近寄らせない。

 

『おい11位、こっちはギリギリで耐えてるんだ。なんとかしてくれ!』

 

ワンダフルボディが情けない悲鳴を上げるが、しかし確実なタイミングでフレアをばら蒔いており、マイブリスのミサイルを封じている。

加えてマイブリス自体も、もっとも有効なレーザーライフルで着実に削ってはいるのだが、散弾バズーカを警戒しているために、ダメージソースになるガトリングの有効射程以上に距離をおいている。

しかし、

 

『おいおい大丈夫か? こけちまうぞ、そんなんじゃ』

 

気軽にそう言いながら、ワンダフルボディのお世辞にも良いとは言えない動きを見切り、重装甲に似合わぬ軽快な動きで背後に回りながら攻撃を続けていく。

 

『それがネクストの動きだと……! じゃあ俺はなんだ──!?』

 

ワンダフルボディが危機に瀕しているが、だからと言って目の前のストレイドを相手にしている最中に付き合っていられる素質など、勇季にはないのだ。

 

『──勇季、追加したミサイルがあるでしょ? ワンダフルボディと協力しましょう』

 

「ミサイルって、牽制ぐらいしか……いや、そうか!」

 

ミリアの助言を受け、意味を理解した勇季は早速ワンダフルボディに通信を入れる。

 

「おいワンダフルボディ、後ろに退くから今すぐ合流してありったけのミサイルをばら蒔け!」

 

『何、それはどういう──』

 

「いいから! 手前も死にたくはないだろう!?」

 

『お、おうわかった……!?』

 

QBを駆使して下がる勇季に、ワンダフルボディが頼りない動作で接近しながら、必死にミサイルをばら蒔き始めたところで、勇季も左背部と肩部の武装を展開した。

 

「さあ、生き残るための策だぞ畜生め!」

 

 

 

……

 

 

 

「あ……」

 

『おいおいマジかよ面倒だな、クソッ』

 

合流をし始めた相手を追ったストレイドとマイブリスの頭上から、多すぎる程のミサイルが豪雨のように降り注いだ。

ワンダフルボディの装備しているミサイルは、GAで売られるポピュラーなミサイルの新型と、回避しづらい垂直ミサイルの二つだ。

性能こそよいミサイルではあるが、普通のリンクスならばともかく、マイブリスやストレイドのようなレベルならば、例え二つを同時に使われても回避は可能だろう。

しかし、ここで勇季が装備していた追加装備が役に立った。

左背部のミサイルはとにかく数を撃ちまくるタイプで数の多さによって敵を圧倒するタイプだ。

加えて肩部に搭載した連動ミサイルは、連動ミサイルとしては珍しい垂直型。

この組み合わせは脅威だ。しかし相当な熟練のリンクスならば余裕で回避できるかもしれいが、しかし二機による同時攻撃ならば話も変わってくる。

GA……というよりは傘下企業のMSAC社はミサイルやFCSの技術だけで生き残ってきた強豪だからこそか、容赦のないミサイルの性能は侮るべきではない。

 

『こいつは厄介だな……!』

 

量にこそ優れたミサイルだけならば回避すればよいのだが、しかし遅れてくる垂直型の連動ミサイルが避けた先で当たるので結果的にダメージが入ってしまう。

何より、直に見たときの威圧感や危機感は、ターゲットであるネクストに向けていた意識を一瞬でも引き剥がしてしまう。

 

『チッ……これじゃあ逃げられちまうぜ……!!』

 

マイブリスは巧みなQB捌きとともに、飛来するミサイルをガトリングで迎撃していく。

 

『フン、ミサイルでの目眩ましとはな……相手も中々頭が回るらしいな』

 

通信越しのセレンから出た言葉は、この程度の弾幕に慣れているということと、現地に居ないという二つの理由があるからこそだろう。

 

「……難しいけど、追える……」

 

ミリアは変わらぬ調子で言ったが、それでもこれ程のミサイルの物量では流石に追いにくい。

しかし──、

 

「……!」

 

ミリアは多少の被弾を覚悟してOBを起動した。

 

『おっと嬢ちゃんやる気か? ならミサイルはこっちが引き付けておくぜ』

 

そう言ったマイブリスは、彼女の考えに気づき、フォローしようといる。

単機で二機を相手にするのは、危険だが可能な範疇だ。

そしてストレイドのOBに火がつき、漆黒のネクストは弾幕の嵐に突っ込んでいった。

 

 

 

……

 

 

 

『ハハハ……! 連中、驚いてるぞ! このままエリアからさっさと撤退しなきゃなぁ!』

 

旧ピースシティエリアから幾らか離れた荒野の一角。

かつては巨大な交通網が敷かれていたのだろう廃墟と残骸が風化して転がる巨大な渓谷を、二機のネクストが超低空で移動していた。

上位ランカーを相手に命があったことにからか上機嫌なワンダフルボディを他所に、勇季はメノに通信を入れていた。

その目的はナビゲーションであり、問うているのは作戦領域である旧ピースシティエリアから直ぐ近くのGA社が置いた基地の位置情報などだ。

 

『このままオーメルとGA間の紛争地域まで一気に逃げ切りましょう。インテリオルは迂闊に飛び込めないもの』

 

オーメル・GAという二勢力による係争地へインテリオルが踏み込めば、更なる争いを呼び込みかねない。

政治的な問題を起こしたくはないであろうインテリオル・ユニオンに雇われたミリア達がとれる手段は、諦めることともう一つだけだ。

 

「逃げられる前に仕留める……だろう?」

 

接近するOBの甲高い噴射音は、間違いなく追ってきたミリアのものだろう。

 

「俺が引き付けるから先に行けワンダフルボディ!」

『お、おう、任せたぞ!』

 

まだ距離のある内にOBを止めて反転し、接近するミリアに照準を向ける。

狙うのは撃ち尽くし前提に弾薬を余らせた各種ミサイルだ。

一次ロックの時点でミサイルをばらまき、ストレイドの視覚の多くを塞ぐ。

OBの推力とストレイドの機動性ならばミサイルなど容易に避けられるかもしれない。

しかし、こちらには一撃の威力に優れた大口径グレネードキャノンがあるのだ。

しかも周囲は両側を崖で挟まれた渓谷だ。横に回避するスペースはなく、上に飛べばミサイルがこれでもかと直撃するだろう。

……さあ来い。正面から撃ち抜くぞ。

無尽にも近いミサイルが目的から外れて着弾する度に砂塵が舞い、辺りの視界を不明瞭にする。

近付くOBの音。回避運動で生まれる微かなフレームの軋み。舞った砂塵に混じる石ころが装甲に当たる音。聞こえる音が、自らの狙う相手の位置を示す。

 

「そこだ……っ!」

砂塵に見えた細身の影に放たれたグレネードは重低音を轟かせる。

着弾の瞬間、周囲にダメージを与える爆炎が辺りに広がり、破壊の黒煙が周囲を巻く。

直撃だ。

だが直後の光景に勇季の目は驚愕に包まれ、その一瞬に反応が遅れた。

 

『……強引に、越える……!』

 

弾けたばかりのPAを再展開する漆黒のネクスト……右腕部が肘関節の半ばから吹き飛び、各部に破損の入ったネクストが、ヒビの入ったカメラアイで此方を射ぬく。

直撃を受けた瞬間、ストレイドは右腕のライフルをグレネード弾に投げつけて爆発させ、更に右腕を盾にしてダメージを抑えたのだ。

お陰で右腕部は破損によるパージをする羽目になったが、しかし勇季に生まれた隙をつける。

 

『……邪魔……!!』

 

反応が遅れたローザ=ファルチェを脇から左腕のライフルで殴り付け、ストレイドは加速を入れる。

 

「っ!? ……待てよオイ……!!」

 

体勢を整えて追いすがろうとする勇季の脇を、デュアルレーザーライフルから放たれた閃光が駆け抜ける。

 

『ここから先へは行かせねぇぜ? 美人の邪魔をしちゃえけねぇからよ』

 

見れば、濃緑色の重量級ネクスト──マイブリスが足止めのつもりか立ち塞がる。

 

『勇季、マイブリスが相手では分が悪いわ。ストレイドを追って!』

 

メノから通信が入るが、今の勇季にはその指示に応えられる余裕はない。

 

「……作戦を放棄する。逃走ルートを教えてくれ」

 

『勇季!?』

 

勇季の言葉にメノは戸惑うが、直後、通信から聞こえた声が現実を突きつけた。

 

『──クソ、どうな──死ぬ──てのか、俺が──』

 

断末魔とも言えるノイズの走った言葉を最後に、レーダーからワンダフルボディの信号が途絶えた。

 

『終わったか。お前さん、どうするよ?』

 

マイブリスの口調は日常会話のように軽いが、銃口はこちらに向いている。

 

「ローザ=ファルチェ、撤退する……」

 

『……解ったわ、報告書と交渉はこっちに任せて』

 

メノとの通信を済ませると、勇季はOBを吹かして渓谷から飛び立った。

これが加藤勇季の、初の任務失敗であった。

 

 

 

……

 

 

カラード人事管理部報告書

 

カラードNO.24

リンクス名:ドン・カーネル

ネクスト名:ワンダフルボディ

 

旧ピースシティエリアでのネクスト戦闘において撃破及び死亡を確認。

これによってドン・カーネルをカラードランクからの除籍を決定する。

各種手続きと処理が完了次第、カラードランク24以下のリンクスを各自繰り上げとする。

又、新しいリンクスの参入においては次回のカラード幹部会議で検討するものとする。

 

 

カラード人事管理部総務部長

アドリアーナ・ヴァルツァシュタイン

 

 




加藤勇季初の失敗……ここでの敗北は予定にありましたが、他の部分はプロットもない気分で書いてました。
次のお話しは、恐らくはミリアや他のリンクスが中心になるでしょう多分。
それでは又、次回。


by、HGリーオーに感動しつつF91を組みながら。

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