三好伝記   作:ちはノ

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第一話 義興

  京、かつての繁栄は失われ所々に戦乱の影響がみられる。

 その京の中でも将軍足利義輝の政務を行う御所の控室に二人の男女がいる。

 「義興、あまり緊張しなくてもいいのだぞ、適度に力を抜きなさい」

 そう、隣の男に問いかけるのは、ショートカットで艶のある綺麗な黒髪を持つ女性で、現三好家の当主である三好長慶である。

 「はい、申し訳ありません、姉上」

 それに答えるのは、姉ゆずりの黒髪と整った顔の男で、三好家の長男でもある三好義興である。

 

 

 私、三好義興は三好元長の嫡男として生まれたが、この三好義興以外に26年間の平成日本においての記憶がある。この世界に来てからもかなり立つが……自分の記憶が正しければ、姉上こと三好長慶は女ではなく男であるはずだ、それだけでなく私自身も三好長慶の弟ではなく息子なはず。

 姉上の顔を見ながらそのようなことを考えていると、その視線に気づいたのか問いかけてくる。

 「どうかしたの、義興」

 「いえ、なんでもありませぬ、姉上」

 その後も姉上とたわいのない会話を続けていると、ふすまを開け一人の男が入ってくる。

 「三好殿準備が出来たので案内いたします」

 「これは細川殿、よろしくお願いいたし申す」

 

 「一同の者面をあげなさい」

 謁見の間に凛とした声が響く。

 顔をあげると金髪の女性が目に入る。

 (これが聖剣将軍……)

 彼女こそ室町幕府第13代将軍足利義輝である。いかに女性となろうとも醸し出すその覇気は本物だ。

 「三好殿よく来たな、して要件は」

 「はっ、此度は弟の挨拶にと」

 「初めておめもじいたし申します、三好孫次郎義興と申します」

 そういって平伏する。すると、公方様から声をかけられる。

 「わらわが義輝じゃ、よろしく頼むぞ」

 「ははっ」

 「して、義興は……」

 

 「では公方様私たちはこれにて」

 「うむ、また来るがよい」

 

 

 御所を出た後京の街を二人で歩いている。京の街は所々廃家が目立つ、京の街が戦乱に巻き込まれるたび復興を繰り返してきたが、昔の繁栄には届かない。とはいえ義興が、京に来た時に比べれば復興したといえる。

 二人で歩いていると大きめの屋敷が見えてくる。上京に構えられたこの屋敷は、三好家が京の街での活動拠点としている拠点であり、それなりの数の人が詰めている。また、屋敷全体を大きめの壁で囲まれておりある程度の防衛機能が備わっている、屋敷の敷地内には、御殿空間だけでなく家臣の屋敷内における一時的な住まいである武家長屋や政務室、厩舎なども備えている。そんな屋敷に帰って来ると、門の前に女が一人立っている。松永弾正久秀だ、彼女の経歴についはよくわかっていないが、三好長慶率いる三好家が四国より近内に上陸した際に、優秀さを買われ弟である長頼と共に仕官している。また、三好家内では重臣であり、滝山城主でもある。

「あら、御屋形様、義興様今お帰りですか」

「あぁ、久秀今帰ったところだ」

姉上が答える。

 「そうだ久秀、一刻ほどしたら前に言っていた評定をするつもりだ、屋敷にいるものを集めておいてくれ」

 「御意にございます」

 姉上はそういうと屋敷の敷地内へと入っていく。

 「義興様、私達も参りましょうか」

 「そうだな」

 そんな姉上の後を久秀と共に追いかけ、屋敷の敷地内へと入っていく。

 

 

 「評定を始める」

 姉上の号令に合わせてこの評定にいる家臣一同が、平伏する。

 頭を上げるとともにこの評定に参加している者の顔をぐるりと見渡す。この評定に参加しているものはそう多くはない、前から予定されていた評定とはいえ四国勢や他に任務がありこの地を離れているものはいない、いるのは近内にて活動を行っている者がほとんどだ。

 「皆も知っていると思うが、今回の評定は大和についてだ、私は大和への遠征を考えている、表向きの理由としては河内勢力の残党狩りだが……」

 「興福寺ですね、姉上」

 「あぁ、その通りだ」

 興福寺は、現在の奈良県奈良市登大路町にある寺院であるが、室町時代を迎えた頃には強力な僧兵や武士を有しておりその勢力範囲は大和一国にも及んでおり、実質的な大和の支配者である勢力である。現在この興福寺と三好家は敵対関係にある、三好家が細川晴元との戦いで近内に上陸した際には、何度か横槍を入れてきただけでなく、三好家が細川晴元を追い出したあとも、河内、大和間での国境にて何度か小競り合いも起きている。その事もあり年々と関係は悪化している。

 「今回の大和侵攻だが、公方様にはすでに話を通している」

 「今の幕府にとっても興福寺は頭痛の種でしたからね、良い機会と考えたのでしょう」

 実際に幕府は興福寺により大和に守護を置くことが出来ないでいた、興福寺を疎ましく思っていることは間違いないだろう。将軍権威の復興を目指している将軍義輝としても間接的とはいえ大和に対して影響力を持つこととができ悪い話ではない。とはいえ興福寺の一乗院は、義輝の妹君である慶覚が門主をしており、表向きには将軍家及び幕府はこの件に一切関与していないものとし、慶覚様に一切の危害が及ばないという条件の下でだが。

 「あぁ、そうだろうな」

 長慶も同意する。

 「それと、今回の遠征だが総大将は義興、寄騎として久秀らをつける」

 「御意」

 「御意にございます」

 二人で頭を下げる。

 「遠征は田植えが終わり次第行うつもりだ、また、遠征に関してはすべて義興に一任する」

 その後も幾つかの案件の話し合いや決定がなされ、評定はお開きとなり、姉上が退出すると皆それぞれの職務へと戻っていく。その中一人の女性に声をかける。

 「久秀少しいいか」

 自分の声を聞き振り返り答える。

 「もちろんです、義興様」

 「大和の件について話し合いたい、どこか時間はあいてないだろうか」

 そう聞くと、久秀は少し考え込んだ後答える。

 「夕刻時になったら政務も終わりますし、よければ私の屋敷に来てください、迎えの人も出します」

 「あぁ、わかったよ夕刻にまた」

 そう言うと会釈をし政務へと戻っていく。

 

 

 夕刻となり日も落ちかけているなか、自室にて久秀との会談のための準備をしていると人が障子の向こうで座り、声をかけてくる。

 「義興様、久秀様の使いで参りました、楠木正虎です、お向かいに上がりました」

 その声を聞き荷物をまとめ障子をあけて廊下へと出ると、長い黒髪を後ろで縛った女性がいた。彼女、楠木正虎は久秀の右筆で面識もる。また、以前彼女から楠木正成の朝敵の赦免をしてほしいという嘆願を受け、久秀とともに正親町天皇陛下にとりなしてもらって以来の仲でもある。

「では、行くとしよう、正虎」

「御意、義興様お荷物を」

「いや、大丈夫だ」

 松永久秀は京都での政務を任されている事もあり、他の家臣達とは違い上京の別のところに屋敷を構えており、移動しなければならない。

先導する正虎の後ろ姿を見ながら着いていくと正虎が思い立ったように話しかけてくる。

「義興、正成殿の件、何とお礼申せばよいか……」

こちらを伺うような顔で言う。

「なに、礼には及ばんよ、私のしたことと言えば朝廷と久秀との橋渡しをしたぐらいさ」

義興は、教養人として名高い姉、長慶や茶人でもある弟、義賢の影響を受けており、在京中は姉長慶に変わり公家や朝廷と関わる仕事をしていた事もあり、公家や朝廷とも面識があり。公家からの評判も良い。

「いえ、義興様がいなければ、あれほど素早く話がまとまり実現することは、あり得なかったでしょう」

「なに、そんなに気にすることはないよ正虎」

「このご恩いつか必ずや」

そんなやり取りをしていると松永家が利用している武家長屋へと着く。すると久秀が長屋から出てくる。

「お待ちしておりました、義興様、正虎案内ありがとう、下がりなさい」

「御意」

 「では、義興様お部屋に」

 二人で久秀の部屋に入る。部屋の中は3月の夕刻ということもあり少し肌寒い。

 「して、早速だが本題に入りたい、今回の遠征についてだが、これを見てほしい」

 手に持っていた 大きめの紙を広げる。紙は河内・大和国境付近の大まかな砦や城が描かれており、義興配下の乱破を使って製作した絵図である。その絵図に載っている河内・大和国境の大和側にある信貴山に描かれている信貴山城を指さしながら言う。

 「大和遠征にあたりこの城を利用したいと思う」

 「信貴山城、ですか……確かこの城は何年か前に廃城になったと記憶していますが……」

 「あぁ、その通りだ、そこで、この城を改修しここを大和遠征の活動拠点として使おうと考えているが久秀どう思う」

 「良い案かと、ただそこを使うとなると興福寺側も黙ってはいないかと」

 「その件に関しては既に姉上に相談済みで、姉上の方で調整してくれるとのことだ」

 信貴山は、河内・大和国境の間に横たわっており、交通の要所でもある。この位置ならば河内・大和の両方ににらみを利かすことが出来るだろう。それに、改修ならば築城するより、時間もかからないだろう。

 「では、義興様大工達や必要なもの用意は私がいたします、準備ができ次第現場へと向かわせます」

 「よろしく頼む」

 その後も久秀といくつかの案件をまとめたところで、侍女が夕刻時間であることを知らせに来る。

 久秀と共に広間に行くと、正虎ら久秀の直臣が何人かいる。彼らの脇を通り最も上座に用意された席へとすわる。久秀はすぐ右下へと座る。

 久秀が座るのを確認してから箸をとる。

 「遅れてすまない、食べるとしよう」

 そういい料理に箸をつけると、久秀の家臣達も料理を食べ始める。久秀の家臣達と談笑しながら食事を楽しんいると久秀がお酒を持って近づいてくる。

 「義興様、今日の料理どうですか」

 「美味しいよ、特にこの鯛がうまい、旬なだけあるよ」

 「良かったです、その鯛は大阪湾で水揚げされたものなんです」

 そう言いながら、私の空いた杯にお酒を注ぐ。

 「そうだ、今日はもう遅いですしうちに泊まっていってください」

 「あぁ、確かにそうだな、今日は世話になる」

 そう返すと、久秀は軽く微笑む。

 

 

 

 

 

 

 永禄2年6月 信貴山城

 

 

 阿波より4000の軍勢を率いて堺へと上陸したのち松永久秀及び摂津衆と合流し、11000の軍勢にて河内を経由して大和へと入り今でも改築がされている信貴山城へと入城する。

 信貴山城では、今でも大工達が忙しそうに動き回っている。この信貴山城は、久秀と共に改築の図面を引いたもので、本丸の四方に櫓と長屋のくっついた建物が建てられており御殿の近くには4層の大型な櫓が建てられている。

 せわしなく動きまわる大工達をぼうっと見ていると、青色のショートカットの髪をし片眼鏡をした三好長逸が視界に入ったため声をかける。

 「長逸」

 「これは、義興様」

 「このような場所でどうしたのだ」

 「いえ、この城は従来の物とは違う構成になっているので、興味がそそられまして」

 「あぁ、この城は久秀と計画したものでな」

 「この城は良い城になりますよ」

 そう言う長逸の顔はどこか嬉しそうだ。

 「そういってくれると嬉しいよ」

 この城を計画するにあたり自身の中にある平成の記憶を利用している。櫓と長屋の合成は旅行で行った際にみた金沢城や彦根城から発想を受けており、御殿の近くに建てられている四層櫓は天守閣や天守櫓からきているが、これに関しては久秀も同じような事を考えていてらしい。また、最初は、本丸の四層櫓だけの予定であったが、久秀といろいろと話し合う内に盛り上がり、ここまで大きくなってしまった。そのため、初期の計画より工事が大分遅れが出ているが必要経費だろう。

 「この城が完成すれば、大和への打ち込まれた楔になる、本来ならある程度落ち着いてから行動するつもりだったが……敵は待ってはくれないがな」

 「興福寺としてもこちらの体制が整う前に切り崩してしまいたいのでしょう」

 「そのつもりだろう、戦を長引かせてもよいことはないからね」

 間者達に集めさせた情報では、興福寺は大和国内の傘下に入っている寺社勢力や武士達国人衆を招集しており、すでに本寺のある山辺郡に6000あまりが集まっている。自身の僧兵を含めればもっと増えるだろう。

 集まった勢力としては、筒井、十市、古市などをはじめ大和の有力国人衆達である。

 「まぁ、こちらとしても黙ってみてるつもりはないがな」

 単純な兵力差だけで見るならば、三好勢は興福寺の二倍近くの兵力をこの大和遠征に投入している。とはいえ、大和は興福寺の勢力圏だ、地の利は興福寺にある。そこで、久秀を中心に大和に対して工作を始めている。

 「念には念をですね」

 「効果が有るか無いかは別にして、行っておいて損はないだろうからね」

 実際ある程度効果を上げており、すでに大和国内のいくつかの国人衆達と何らかの密約を交わすことに成功している。これも久秀の手腕の賜物だろう。

 「このまま上手くいけばよいですね」

 そんな長逸の言葉に同意するのであった。

 

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