プロローグ
「自殺する人ってどういう気持ちなんだろうな」
隣にいた男、何某さんは話し始めた。
「…急になんですか?」
「んーいや、なんとなく気になって。こんな状況だとさ、少しばかり死について考えさせられない?」
「………………」
言わんとすることはわかるが縁起でもない。そんなことを言うと本当に死んでしまいそうじゃないか。
こんな状況、というのは今僕たちが監禁されているということに他ならない。なんでことのない学校からの帰り道、突然頭に衝撃を受けたと思ったら意識がなくなった。次に意識を取り戻したのは、今いる薄暗い部屋だった。見た感じからしてぼろアパートって感じだ。その部屋にこの何某さんがいた。どうやら話を聞く限り、僕と同じ過程でここにいるらしい。名前は覚える気がないので何某さんだ。
最初は犯人かと疑ったりもしたが、僕と同じく手枷足枷をつけられているし何より犯人が僕と同じ部屋にいる理由もわからないのでその線は消しておいた。
「なぁなんで人は自殺するんだろう」
「知りませんよ」
「そんなに世に絶望することなんてあるのかね。知ってるか?生物の中で自殺するのは人間だけらしいぜ?」
「……いやそんなことないでしょう。イルカが集団自殺したってニュースを聞いたことがあります」
いつだったか、テレビのニュースでイルカが何十匹も座礁しているというニュースを見た。そのテロップが「イルカの集団自殺」だったはずだ。
「それは寄生虫のせいじゃねえか。あれは自殺じゃなくて他殺だよ。寄生虫に殺されたんだ」
「そうなんですか?」
そうすると……あれ、確かに他の生き物って自殺してないな。
「自殺する奴の気持ちなんて知らないけどよ。死ぬ前にもう一度考えて欲しいよな。ミミズだってオケラだってアメンボだって自殺はしないんだって。ここで死ぬのは生物として間違ってるって」
「カウンセラーか何かですか、あなたは」
などと言っているうちに部屋のドアが開いた。中に入ってきたのは大柄な男だった。いや大柄というのでは言葉足らずかもしれない。本当に大きかった。太っているというわけではない。ある程度筋肉質ではあるがとにかく身長が高かった。2メートルは確実にある。もしかしたらもっとあるかもしれない。髪は黒の短髪で顔の堀は深く、なんだか大木のような印象を受けた。その佇まいからうどの大木という感じはしなかったが。そしてな右手に本を持ち左手には布の袋を持っていた。
「目が覚めたか」
「誰だてめぇ。犯人か?」
「まぁそうだな」
声を聞くとさらに大木感が増した。千年杉を擬人化したらこんな感じなのだろう。
「あの……誘拐ですか?だとしたらもっと金持ちを狙うべきでは…。僕の家は別段金持ちってわけではないですし」
身なりを見るに何某さんも金持ちにも見えない。
「いや誘拐ではない。俺は……そうだな………まぁ殺し屋だ」
「殺し……」
本当に殺されるとは…。
「なんでだよ!俺らが何したんだよ!理由を説明しろ!」
「それは依頼料に含まれていない。まぁ落ち着け。殺し屋と名乗ってみたが言葉の綾だ。俺はお前たちを殺したりはしない」
そういうと男は左手に持っていた袋を僕たちの前に落とした。中にはナイフが二本入っていた。
「…殺しあえって?それで生き残った方を逃がしてやるって奴ですか?てことは金持ちの道楽ですか……」
だとしたら不利だな。力ではこの何某さんには勝てない。
「それも違うな」
ーーーお前たちが勝手に死ぬんだ。
ーーーNO.0219
事件が起こったのは〇〇県〇〇市。築四十年のアパートの一室で起こった。
死亡したのは同市の高校に通う男子生徒(17)、同じく同市で自営業を営む男性(34)の2名。
死亡推定時刻は午前2時から午前4時の間。
死因は首をナイフで切ったことによる出血性ショック死。
当初は互いに殺しあったと考えられていたが、ナイフには自身の指紋しか検出されず、血液も自身の返り血のみ。首の傷切り口から見ても自身で切ったとしか考えられなかった。そのため大変奇妙だが事件性はなく
身元が判明し次第、身内に連絡するものとする。
オリジナル作品となってますが、キャラクターを若干借りてるフシがあります。今回の大男はグラスホッパーの鯨です。もちろん鯨本人としてはだしませんが。