No.1
始まりは、中国の軽慶市で生まれた光り輝く赤ん坊だった。この一件を皮切りに、超常現象を引き起こす者たちが次々と生まれ、統率の取れない状態へと陥っていた。超常現象は''個性''と呼ばれ、''個性''を使い悪事を働く輩は増えていくばかり。そんな中、彼らを抑止しようと動く者も現れ、いつしか彼らはこう呼ばれるようになった。
────ヒーローと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここは市立折寺中学校。特に有名人を輩出したわけでもなく、それといった特徴のないいたって普通の中学校である。
そんな平凡な中学校ならば、そこで送られる日常もいたって普通なはず。しかし、ここ数年は普通とは言えない光景が広がっていた。
「勝己ィィィィィ!!俺と勝負しろォ!!」
「うるせェ殺すぞ!!」
口から唾ではなく火を飛ばしながら怒鳴り散らす少年と、手のひらからBOOOM!と爆破音を鳴らす少年。この二人が原因で、折寺中の毎日が騒がしいものとなっていた。
「今日の小テストで点数が高かった方の勝ちだ!ぜってー負けねえからな!」
「てめえが俺に勝てたことなんぞ一回もねえだろォがクソが殺すぞ!」
喧嘩を売った少年は、赤混じりの黒色の髪の毛を振り乱しながらまくし立てている。いかにも短気そうなもう片方の少年は顔が人に見せられないようなことになっていた。
彼ら二人が折寺中に入学してもう三年目に突入しているが、このやりとりが途絶えたことは一度もなかった。火を吹きながら喧嘩をふっかけては負け、ふっかけては負けを繰り返すその根性に、周りは呆れを通り越してむしろ感心していた。
「緑谷弟もよくやるなあ。もう笑うのも飽きてきたわ」
「最初の頃は滑稽だったんだけどな」
中学に入ってからの二年間で、周りも慣れてしまっていた。ただ、この光景が中学からと早とちりしてはいけない。
「もう俺なんか微笑ましく思えるよ……」
「え、あれいつからやってんの」
「幼稚園」
「ぶふっ!?まじかよ!あれ幼稚園の頃からやってんの!?」
衝撃の事実に思わず吹き出してしまった。幼稚園の頃からずっと続いているとは思ってなかったのだろう。
そんな会話を続けていると、彼らを仲裁する者が現れた。勇気ある行動ではあるが、如何せんへっぴり腰で、どう見ても仲裁役になるとは思えない。
「も、もうそのへんにしときなよ二人とも……」
「黙ってろ出久!これは俺ら二人の問題なんだよ!」
「てめえが勝手に騒いでるだけだろがぶっ殺すぞ!」
「ひええ……」
むしろ火に油を注いでしまった。先程にも増す勢いで言い争う二人を止められる者はもうこの場にはいなくなってしまった。が、
「これで俺が勝ったら今までの所業全てに対して謝罪の土下座をしてもらうぞ勝己ィ……!」
「うるせえしゃべんなっつってんだろがクソが!」
「──うるさいのはどっちもだこの馬鹿ども席につかんか!!」
「ちくしょおおおおおおおおおおお!!」
赤混じりの黒色の髪の毛の少年、緑谷築久は今日も負けていた。膝から崩れ落ちて叫ぶその姿に、爆破少年の爆豪勝己は嘲笑で応える。
「こんな簡単な小テストでミスするかよ普通」
「てめえこのやろう……!」
満点の小テストをヒラヒラと築久に見せる爆豪。隙のないその答案に、築久は完全に打ちのめされていた。
「築久だって一問ミスだから、そんなに落ち込むことはないんじゃ……。先生だって褒めてたし」
緑谷出久は双子の弟である築久を慰める。
実際、ひねくれた問題を出すことで有名なあの教師の小テストを、一問ミスで乗り切るのはかなりすごいことなのだ。すごいことなのではあるのだが、
「お前も満点じゃねえか出久ぅ!!」
「あっ」
慰める人が満点では余計惨めに感じてしまう。双子の兄は優秀であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
小テストバトルの翌日。今日はこれからの進路希望先についての話をすることになっている。
「ま、当然だいたいヒーロー科志望だよな」
築久は呟く。先生が教卓に手をつき何やら喋っており、同級生たちは先生の最後の一言で一斉に''個性''を見せびらかすように発動した。ヒーロー科志望かどうかを全員に聞いたのだろう、と築久は予想する。
「き、築久。今イヤホンで音楽聞くのはまずいって」
隣の席の出久が注意をするが、築久は無視をした。そもそもこの時間は築久にとって心底無駄な時間だと思っていた。だいたいヒーロー科志望だと分かっているのだから、もう終わってもいいんじゃないか。
築久がそう思っていると、爆豪が机の上に立っていた。何か喋るようだ。ここでようやく築久はイヤホンを外す。
「俺はいずれオールマイトをも超えてトップヒーローとなり、必ずや高額納税者ランキングに名前を刻むのだァ!!」
ここまでテンションが上がっている勝己は久しぶりに見た気がする、と場違いに感心していた。
ヒーローを目指すには不純な動機ではあるが、学力、運動能力、''個性''のすべてにおいて優秀な爆豪にそれを指摘する者はいなかった。優越感に浸る爆豪だが、爆豪の勢いのある宣言に続けて、先生が言った。
「ああ、そういや緑谷兄弟も雄英が第一志望だったな」
「……はぁ゙?」
途端に顔を歪めて双子のいる席を睨む爆豪。教室内も嫌な静寂に包まれる。次第に同級生たちはニヤニヤと笑みを浮かべ、ついには大声で笑い出してしまった。
「''無個性''のお前が雄英ィ!?無理無理!無理に決まってんだろ!」
そう言って指さした先には出久がいた。顔を俯かせ、黙ったままの出久。それを見て、さらに言葉を発しようとしたが、出久の机の前に現れた爆豪が''個性''を発動することで遮られる。
「てめえはこの際どうでもいい…!だがコラデクぅ!''没個性''どころか''無個性''のてめえがどうして俺と同じ土俵に立てるんだ!?」
いつもいつも勝負をふっかけてきている築久のことだ、今回も張り合ってきているのだろう。爆豪はそう思い放置することにした。だが出久となると話は変わってくる。人一倍プライドが高く、何よりも自分が一番でないと気が済まない性質の爆豪が、道端の石ころ同然に思っている出久に並ばれることを許容するはずもなかった。
「ち、違うよ…!別にそんなんじゃなくて、その、ただ、小さい頃からの目標だし…!」
出久は一呼吸入れる。
「それに、やってみないと分かんないし…」
その一言で爆豪はさらに声を荒げる。
「なぁにがやってみないとだ!記念受験か!?」
出久は萎縮しつくしてしまっている。流石にまずいと思ったのか築久が爆豪を止めようかとするが、周りを見て動きが固まる。
同級生全員の悪意の眼差し。出久、いや出久たち双子に、味方はいなかった。
「お前には、無理だ」
築久は、出久に向けられたはずの言葉が、まるで自分に言われたかのように錯覚した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なあ、お前、あいつの幼馴染みだろ。もうちょい手心とかねえの」
「まあ現実見えてないのは言えるんだけどな。ノート爆破しようとすんのはちょい引くわ」
「知るか、俺の道にいたのが悪い」
爆豪はいつもつるんでいる二人と下校していた。本来ならば、出久がまとめている『将来の為のヒーロー分析』とかいうタイトルのノートを爆破し、雄英を受験するなと釘を刺すつもりだった。だが、早々に築久が連れ去ってしまったため、実行には至らなかった。
「てかよ、双子なのになんで''個性''発現してんのは片方だけなん?」
「二卵性双生児ってやつだろ。だから片方は''個性''持ってるんだろ」
二人が緑谷兄弟について話していると、爆豪が不愉快そうに顔を歪める。
「興味ねえよ。"無個性"と''
続きは未定。