双子のヒーローアカデミア   作:壁丼

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土日は休む時間だからね。仕方ないね。


No.4

 

 "個性"が発現したのは、四歳の誕生日より半年ほど前だった。

 テレビのニュースでは、寒さが厳しい年だと報じていて、引子は出久と築久に防寒対策を施していた。手袋や耳あてを装着させる。

 

 

 「あったかい!」

 「あったかい!」

 

 

 声を揃える二人に、引子は思わず微笑む。

 

 

 「よし、じゃあ今日も元気に幼稚園にいくわよー」

 「はーい」

 

 

 引子は二人を連れ、幼稚園へと向かった。

 外に出た瞬間、親子は凍えそうなくらい冷たい風に晒された。引子はぶるりと震え、二人は大丈夫かと確認するが、ここは三歳児。ありあまる元気を存分に発揮していた。

 

 

 「うおー!寒ー!!」

 「寒ー!!」

 

 

 双子のふくふくとした頬は赤くなり、まるでりんごのようになっている。たたたた、と引子より前を走っていく。

 築久がぶるりと身体を震わせた。さすがに元気いっぱいと言えども、寒さに堪えているようだ。

 そのせいか、築久の鼻がムズムズしだした。

 

 

 「へっ……!へっ……!へっくしっ!!」

 

 

 勢いよくくしゃみをした。それと同時に、ボッと小さい火が吹き出た。

 それを目撃した引子の動きが停止した。数秒経った後、わなわなと震え、築久にがばっと抱きついた。

 

 

 「火!火を吹いた!築久、あなたの"個性"はお父さんの"個性"よ!」

 「わ、わ、わ」

 

 

 急に抱きつかれ、あたふたとする築久。先を歩いていた出久もすぐに築久たちの元へ駆けつけた。

 

 

 「築久!"個性"でたの!?」

 「わ、わかんない」

 「出たわよ!私が見たもの!」

 

 

 くしゃみと同時の発現したため、築久はよく分かっていなかった。だが、母のはしゃぎようからするに、自分は"個性"が発現したのだと察する。

 

 

 「築久、もう一回火ぃ吹いてみよっか!大丈夫よ!きっと出来る!」

 「う、うん!」

 

 

 引子のテンションに押されながら、築久はすぅーっと息を吸い込む。

 

 

 「ふぅーっ!!」

 

 

 勢いよく息を吐き出すと同時に、ボォッと先程よりも少し大きな規模の火が吹き出た。

 

 

 「お、おお……!おおー!」

 「きゃーっ!吹けてる吹けてる!」

 「うわあー!いいなあ築久!」

 

 

 引子はさらにはしゃぎ、出久は"個性"を発現させた築久を羨ましがる。築久は自分が火を吹いたことにとても驚愕していた。

 

 

 「築久の"個性"が発現して本当によかった!これなら出久の"個性"ももうすぐね!築久がお父さんの"個性"なら出久は私の"個性"かしら!」

 「えー!僕ヒーローになるからお父さんのがいいー!」

 「はうっ……!そ、そう……」

 

 

 無邪気な子供からの鋭い一撃に、引子はがっくりとうなだれる。築久はそんな引子の服の袖をくいくいと引っ張って告げる。

 

 

 「お母さん、幼稚園は?」

 「……はっ!?そ、そうだったわ!時間は!?……ああ、もうこんな時間!出久!築久!幼稚園までダッシュよ!」

 「競走だー!」

 「あ!ま、待ってよ築久!」

 

 

 時間が危ういことに気付き、三人はダッシュで走っていった。

 周りの目線を気にしていなかった引子だが、双子を送った後にものすごく微笑ましく見られていたことをご近所さんに聞かされ、顔を真っ赤にするのであった。

 

 

 

 

 この時期になってくると、"個性"を発現する子供たちが急増するため、大体の話題は"個性"についてだった。あの子が"個性"を発現したとか、あいつの"個性"はあんなんだった、という感じだ。

 今日、そういった話題を聞くだけだった築久が話題の中心となっている。炎熱系の"個性"は単純ながら派手で、ヒーロー向きの個性とされているため、築久は周りから羨ましがられていた。

 

 

 「火の"個性"かー!いいなー!」

 「僕も派手なのがよかったなー」

 「ねえねえ、どんな感じか見せてよ!」

 

 

 築久は次々と投げ掛けられる言葉に対応しきれていない様子だったが、"個性"を見せてという言葉はしっかりと聞き取れたので、"個性"を披露しようとする。

 

 

 「危ないから離れてろよ!」

 

 

 囲っていた子供たちはざざっと築久から離れる。

 

 

 「よっし……」

 

 

 築久の中では、発現したばかりの時よりもすごい火が吹けるという漠然とした確信があった。築久は息を吸い込む。

 

 

 「ふぅーっ!!」

 

 

 己の身体の比べても遜色ないほどの火がゴォッ!!と吹き出た。その光景に周りは歓声を上げる。

 

 

 「うおー!でっけえ!」

 「すげー!もうそんな火出せるんだ!」

 「へへ……」

 

 

 降りかかる称賛の声。築久は思わずはにかむ。

 

 

 遠巻きに見ていた爆豪が注目を奪われてからか、妬みや悔しさが混ざったとても複雑そうな顔をしていた。

 俺はすごいのに。

 周りの奴らは俺よりすごくなかったはずなのに。

 

 

 「かっちゃーん!どこ見てんだよ!」

 「ボール投げるぞー!」

 

 

 爆豪と遊んでいる子供が声をかける。爆豪はそれを無視し、築久の方に視線を向け続けている。

 しばらくすると、突然築久は蹲ってしまう。苦悶の声を響かせ、髪は紅く染まっている。

 

 

 「あっ!おい緑谷どうした!?」

 「胸押さえて苦しそうだよ!?」

 「せんせー!せんせー!!緑谷君がー!!」

 

 

 爆豪の顔は、嗤っていた。

 

 

 

 

 

 病院に搬送された築久は、緊急措置を行われていた。家から飛び出してきた引子は、その様子を見て膝から崩れ落ちる。

 

 

 「築久君のお母さんですね」

 「……っ!先生!築久は今どうなってるんですか!?」

 

 

 引子は掛かってきた声に素早く反応する。

 

 

 「すこし落ち着いてください」

 「す、すいません……」

 

 

 上がっていた息を整え、引子はまださほど年をとっていないであろう若い医師に、築久の容態を問う。

 

 

 「先生、築久はどうして急にこんなことに……?」

 

 

 医師は少し間を置き、歯切れが悪そうに答える。

 

 

 「恐らくは、幼い身体に"個性"が馴染んでいない影響かと思われますが、詳しいことはまだ分かっていません。"個性"が発現したのは?」

 「それが、今日の朝に発現したばかりで」

 「今日ですか」

 

 

 顎に手を当て思考する医師。引子はそわそわとして落ち着かない様子だ。

 

 

 「まずは検査してみないことには分かりません。とりあえず、『"個性抑制剤"』を投与しています」

 「『"個性"抑制剤』……?」

 「最近とあるヒーローの協力のおかげで開発できた薬です。"個性"を三日間ほど抑えることが出来ます。その三日間で、できる検査全てを行うため築久を入院させることになりますが、よろしいですか?」

 「お願いします、どうか築久を……!」

 

 

 もう不安に押し潰されそうな引子には、医師に頼るしか選択肢はなかった。

 

 

 

 

 

 抑制剤の効果が切れる当日、病院に訪れた引子は築久と共に、若いあの医師とは別の医師の前に座っていた。医師の胸元のネームプレートには老川という文字があった。

 

 

 その老川から発せられた、オンとオフの切り替えが出来ないという言葉。引子は思わず聞き返す。

 

 

 「あの、それって一体……?」

 「そのままの意味だよ。本来なら受け継いだ"個性"はそのままが普通なんだけどね。この子の場合一部分が変異しちゃってる感じだね」

 「あ、えっと……。オンオフってどういう事ですか?うちの子の"個性"は火を吹く"個性"じゃないんですか?」

 「ああ、そこから」

 

 

 老川は物臭げな態度をとり答える。

 

 

 「この資料を見てもらったら早いかな」

 

 

 老川は引子に資料を手渡す。そこには様々なデータが細かく記されていた。

 

 

 「その資料の下の方……そうそう、そこそこ。そこに書いてあるデータはね、築久君が運ばれてきた時の室温の変化と築久君自身の温度の変化を比較したもの」

 「はあ……」

 「それで、室温がどんどん下がると同時に、築久君の胸のあたりの温度が高くなってたみたいでね」

 

 

 グラフの横には、サーモグラフィーの画像が添付されていた。胸元が拡大されている。確かに、築久の温度の変化が見て取れる。

 

 

 「あなたの旦那さんが火を吹く"個性"で、あなたが……えーと」

 「物をちょっと引きつけます」

 「ああ、そうそう。そうだった」

 

 

 物忘れが始まっているのか、事前に聞いた情報を忘れていたらしい。

 

 

 「そのあなたから受け継いだ"個性"が変異して、熱を引きつけるようになっちゃったんじゃないかな」

 「はっ?」

 

 

 自分から受け継いだ"個性"?ということは、築久はどちらの"個性"も引き継いでいたということなのか。

 

 

 「た、対策は何かあるんですか?」

 「そうだね、まあ定期的に火を吹くことだろうね。築久君の火は胸のあたりの器官で生成されてるから、火を吐き出して温度の調整をするしかないね」

 

 

 言外に、もうそれしか術はないと言われたようなものだった。引子は頭をガツンと殴られた気分だった。隣に座っている築久は呆然としている。

 とっさに疑問が浮かび上がる。ならば双子の兄の出久の"個性"はどうなってしまうのだろうか。

 

 

 「せ、先生!この子には双子の兄がいるんですけど、まだ"個性"が発現していないんです!もしかして……!」

 「一卵性か二卵性かによるね」

 「に、二卵性です」

 「なら発現の可能性はあるね。しかし、もし四歳の誕生日が近づいても発現してなかったら連れてきなさい。検査するから」

 「可能性はあるんですね!?よかった……!」

 

 

 思わず安堵する引子。だが、目の前の問題は解決していない。いや、解決出来ないと言った方が正しいだろう。

 

 

 「さて、築久君の話に戻ろう。身体の安否の確認のために、定期的に病院に来て検診をうけてもらうことになる」

 「はい……」

 

 

 引子は今すぐにでも築久に謝罪したいほど申し訳ない気持ちに囚われていた。引子は元々肝っ玉が小さいため、少しのことでも感情が大きく揺れ動いてしまう。そんな中、築久の"個性"が築久自身を縛ってしまうものと分かってしまった。これほど彼女をネガティブにさせることなどそうそうない。

 老川は落ち込む引子に対し何か慰めるでもなく淡々と次へと進める。

 

 

 「日常的に"個性"使わないといけないから、『個性限定使用許可証』が必要になるよ。こちらで書いた診断書を役所に持ってってね。そしたら多分貰えるから。それと、念のため抑制剤も渡しとくからね。危ないと判断したら使うように。……うん。以上。ではお疲れ様。お大事に」

 「え、あ……。ありがとう、ございました……」

 

 

 まるで取り付く島もないと言った風に検診が終了する。よくよく考えれば、どうして検査を担当した若い医師ではなかったのかと困惑するが、引子は何も言えずにその場を立ち去った。

 

 

 ────この数ヶ月後、出久が"無個性"だと診断されることになることも知らずに。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 「なんだよお前!"個性"のせーぎょできねーのかよ!」

 「だっせー!」

 「デクも"無個性"なんだろ!お前ん家ぜんぜんだめじゃん!」

 「やくたたずのデクとできそこないのキズクだ!!」

 「やーい!できそこない!」

 

 

 「「「でっきそっこない!でっきそっこない!でっきそっこない!」」」

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 「じゃ、今から色々説明していくけど……大丈夫?なんか様子おかしいけど」

 「あ、すんません。ちょっと昔のこと思い出しちゃって」

 「あ……ごめんなさい。配慮が足りてなかったわ」

 「いや、大丈夫です」

 

 

 昔のことは乗り越えたとは言いきれないが、爆豪と競ることで自分の立場を確立させたため、さほど酷い扱いを受けたわけではなかった。出来損ない扱いしてきたのも一部である。この件は特に気にしてはいなかった。ただ、当時のことを今でも鮮明に思い出してしまうだけだ。

 いつの間にか出ていた脂汗を手で拭う。

 

 

 「話進めてください」

 「……分かった。なら話を進めるわ。とりあえず座ってちょうだい」

 

 

 治美は部屋にある椅子に腰掛け、築久にも座るよう促す。

 

 

 「さて、さっきも言った通り、あなたの"個性"は制御できるわ」

 「そう言われても、十年間これで生きてきたからよく分かんないんですよね」

 

 

 築久は手で後頭部を掻き、小さく火を吹き出す。ちょうど熱を放出する頃合いだった。

 

 

 「まあ、それもそうよね。じゃ、この紙見て」

 

 

 築久は言われた通り、手渡された資料を見る。

 

 

 「これって……」

 

 

 そこに書かれていたのは、築久の"個性"について。一面にびっしりと文字が羅列している紙が何枚もある。

 

 

 「なんですかこれ」

 「あなたの本当の"個性"が書いてある資料よ」

 「は?」

 

 

 思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 

 

 「いや、ちょっと意味が分かんないです」

 「まあまあいいから。とりあえず読んでて。その間に私は他の準備しとくから」

 

 

 その後治美は備え付きの大きな機械を弄り始めてしまった。もう何を言っても無駄な気がしてきたので、築久は大人しく資料を読むことにした。

 

 

 

 

 

 「なんだよ、これ……!」

 

 

 ────資料を読み始めてどのくらい時間が経っただろう。築久は時計なんて確認していなかった。それも当然だ。もしこの資料に書かれていることが本当ならば、

 

 

 「この十年間、無駄みてえじゃん……!!」

 

 

 そう思わせてしまうほどのことが書かれてあったからだ。時間を確認できる余裕などなかった。手に力が入り、紙がくしゃりと音を立てる。

 

 

 「大体読み終わったかしら」

 

 

 機械を弄り終わった治美が戻ってきた。築久は治美を睨む勢いで目線を紙から治美へ移動させた。

 

 

 「いや、まだ途中ですけど、これは……!」

 「本当のことよ。私の"個性"で解析したもの」

 

 

 築久ははっと気付く。

 

 

 「そうか……!あんだけ自信があったのも、自身の"個性"で裏付けしてるからか……!」

 「そういうこと。私の"個性"は"解析治療"。父と母の"個性"の複合個性よ。あなたと同じね」

 

 

 治美の"個性"は"解析治療"。その名の通り、対象を解析し治療する"個性"だ。身体の解析はもちろん、対象の"個性"も解析できる優れものだ。ただし、一度に解析できる箇所は限られる上に、解析した箇所のみしか治療することができない。そのため、"個性"を解析する場合は全体を見なくてはならない。

 治美が初めての検診で築久を観察したのはそのためだ。

 

 

 「"個性"に対しては解析の方しか使えないけど、結構役立つのよ」

 

 

 そう言いながら、治美は指先を注射器のように変形させる。この変形させた指で、対象に必要な薬を体内で調合し、注入することで治療ができるのだ。

 

 

 「なら理解した範囲でいいから、自分の本当の"個性"がどのようなものか説明できる?」

 

 

 一週間前と同じように、築久に"個性"の説明を求める。

 

 

 「……俺の"個性"は、熱を吸収することで火を生み出すことができる"個性"。熱がなければ火は生まれない。熱は吸収しすぎても放出できる……」

 

 

 築久はここで一旦言葉を区切る。

 

 

 「っだとしたら……!なんで今まで苦しんでたんだよ……!どう考えてもおかしいだろ……!」

 

 

 納得出来ない。築久は感情をじわりじわりと露わにする。悲痛に歪んだ顔で治美を睨む。

 

 

 「熱を放出してないからよ」

 「だから!それができな……ぐぅっ!」

 

 

 感情を昂らせたせいか、知らぬ間に熱を吸収しすぎていたようだ。築久は口から火を吹こうとする。

 

 

 「口から吐き出してはだめ!頭から熱を放出しなさい!」

 「何……言って……」

 「早く!」

 

 

 そんなことを言われても、築久にはイメージが湧かなかった。頭から熱を放出なんていったいどうすればいいのだ。

 だがやらないよりはやった方がいい。ここは病院だ。もし倒れることがあっても比較的安全は保証されている。築久は一か八か試すことにした。

 

 

(もう、どうとでもなれ……!)

 

 

 築久は考えた。

 頭から熱を放出。そもそも自分は熱をどういう形で放出してた?それはもちろん火だ。なら、頭から熱を放出ということはつまり。

 

 

(頭から、火?)

 

 

 イメージしたのは燃え盛る自分の髪。爛々と輝く、紅い炎。

 ────その瞬間、イメージしたとおりに髪が燃え始めてしまった。

 

 

 「なっ……!はっ……!?」

 「……驚いたわね。もっと時間をかけなくてはいけないと思ってたのに」

 

 

 驚愕しすぎて築久は言葉が出ておらず、治美も予想外の展開に少し驚いているようだ。

 

 

 「せ、先生!髪が!髪が!」

 「あなたの"個性"よ。少し落ち着きなさいな」

 

 

 治美は慌てふためく築久を宥める。たが、突然自分の髪が燃え始めた人間の反応としては普通である。

 そういえば、築久は資料を途中までしか読んでいないと言っていた。治美は築久に"個性"の説明をする。

 

 「いい?あなたの髪の毛が紅くなっていたのは、発火することで熱を放出しようとしていたからよ。けど、あなたは無意識の内にそれを留めていたの。だから熱は逃げずに苦しむことになっていた、という事ね」

 「な、なるほど……。じいさんにオンオフの切り替えができないって言われてから、それを信じ込んでいたせいで……」

 「そういうこと。認識って結構大事なのよ」

 

 

 確かに、頭が発火してから胸の苦しみがすぅっと抜けていく感覚がした。髪の毛が己の熱放出のためにあるのは理解した。

 治美は椅子から立ち上がると、弄っていた機械にある、一際目立つ赤いスイッチを押す。

 

 

 「課題の一つはクリアしたことだし、次のステップに進みましょう」

 

 

 プシューッと小気味良い音を立てて、スライド式のドアが開いた。

 まず部屋の中にドアがあることに気付いていなかった築久は、身体をビクッと震わせる。

 

 

 「え、この部屋仕切りあったんですか」

 「そうよ。一面"個性"の使用にも耐えられる超強化ガラス張り。外側からでも十全に観察できるように、とのことらしいわ」

 

 

 ガラス張りなら気付かなくても不思議ではない。だが築久は、ガラス張りじゃなくてもよかったのでは?と思っていた。

 

 

 「あなたには仕切ってあるこの向こう側で、あなたの"個性"に慣れてもらうわ」

 

 

 築久に説明している治美の口からは白い息が漏れていた。なぜ白い息が出ているのだろう。この部屋は全く寒くないのに、と築久は疑問を抱く。その疑問は、治美によってすぐに解消された。

 

 

 「さっさと行ってちょうだい。あなたが熱を吸収し続けているせいで、こっちは寒くて仕方ないのよ」

 「吸収し続けて?……あっ」

 

 

 治美の"個性"の解析したとおりなら、築久の"個性"は『熱を吸収することで火を生み出すことができる"個性"』だ。熱を吸収しなければ火は築久の身体からは生まれない。しかし、築久は現在進行形で頭に火を灯している。今の築久の状態は、熱を吸収しながら熱を放出し続けているといった状態なのである。

 その状態で部屋が冷えていっているということは、熱の吸収量の方が多いということだ。このままではまた熱に苦しむことになってしまう。今の状態の危険性に気付いた築久は、急いで仕切りの向こうに移動する。

 

 

 「あー……なんか身体が熱くなってきたような」

 

 

 じわじわと温度が上がっていく感覚に、築久は危機感を覚える。だがまだ苦しさはやってこない。

 

 

 《あーあー!マイクテストー!築久君聞こえてる?》

 

 

 部屋の隅に設置されているスピーカーから治美の声が聞こえた。築久はそれに手を挙げることで応えた。

 

 

 《オッケー。ならそこでやることを説明するわね。そこでやることは至って単純……》

 

 

 治美は一呼吸置いて築久に告げる。

 

 

 《今から高温の物体を断続的に出現させるから、それの熱を吸収して熱を拡散させるのよ》

 「ち、ちょっといきなり要求するレベルが高くないですか!?」

 

 

 築久は抗議するが、治美はそのまま進めるつもりのようだ。ニヒルな笑みを浮かべて腕を組んでいる。

 

 

 《何かあっても大丈夫よ。私がいるんだから》

 「それはそうだけど……!」

 

 

 いきなりの無理難題に、築久はため息をつく。

 

 

 「くそっ!いきなり色々言われて正直頭がパンクしそうだが、やってやんよ!」

 《なら始めるわよ。よーいスタート》

 「うおっ!?地面からなんか出てきた!?」

 

 

 ────齢十四歳。築久の"個性"制御の訓練は、ようやく始まりを告げた。

 

 

 




次の次で雄英入学までいきたいですねー。
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