双子のヒーローアカデミア   作:壁丼

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一話あたりの文字数がどんどん増えてく……。


No.5

 

 

 

 あれから半年。長いはずの夏もあっという間にすぎ、既に肌寒くなる季節となっていた。

 出久は依然としてハードなスケジュールをこなしている。体力がついたおかげか、前のようにヘッロヘロになって帰ってくることは少なくなってきた。

 一方、築久はというと、

 

 

 「…………」

 

 

 熱湯に浸かっていた。ぐつぐつと煮えたぎる様子から、百度は優に超えていることが分かる。しかし築久は髪の毛を燃やしながら、平然とした顔で過ごしていた。

 髪の毛の火の勢いは、半年前より増している。烈火といえるまでにある。

 

 

 《はい、一気に温度を下げて》

 「了解」

 

 

 築久が返答するや否や、頭の火が先程の比にならない大きさに膨れ上がる。すると、あっという間に熱湯は沸騰をやめ、ついにはただの冷水と化してしまった。

 

 

 《オッケー。水から出ていいわよ》

 「うぃっす……っと。あー寒い」

 

 

 築久は頭の火をぶわぁっと拡散させて水から出る。そばに置いてあったタオルをとり、体を拭き始めた。

 

 

 《前回よりも熱の吸収速度が0.85秒速くなってる。本当、とてつもない成長速度ね。もう文句のつけようもないわ》

 「あざっす」

 

 

 この半年で、築久の口調もだいぶ砕けた。治美もそれを親密になった証として受け取り、注意をしない。

 

 

 築久はこの半年で"個性"を身体に慣らし、自在に操ることができるようになっていた。元々自分の"個性"だから、とういうのが大半の理由だろう。だがそれを治美は築久自身の努力の成果とし、築久は治美の協力のおかげだとそれぞれ思っている。実際、そのどちらもがなければ、築久が"個性"を制御することはなかっただろう。

 身体を拭き終わった築久は、壁にあるスイッチを押してドアを開ける。治美はそれを見て、築久に報告する。

 

 

 「熱の吸収に伴う自分および対象の温度の調整、クリア。指定部位のみの熱の吸収、クリア。熱吸収のオンオフの切り替え、クリア。熱の許容量は前回より上昇し、咄嗟に熱を吸収してもほぼ問題なし。……うん、もうほとんどやることはなくなったわね」

 「え、まじっすか?」

 

 

 治美の言葉が予想外だった築久は思わず聞き返す。

 

 

 「ええ、今までよく頑張ったわね」

 「いや……でも、火を吹き出すとかがまだなんじゃ」

 

 

 "個性"制御が目的ならば、当然そちらも加味されているのかと勝手に思っていた。だが、治美はピシャリと言い放つ。

 

 

 「"個性"制御補助は生命維持に危険が及ぶものか、日常生活に多大な悪影響が出る場合のみ行われるものなの。今の状態で思わず火を吹き出すとかはないでしょう?そういうことよ」

 「まあ、そういうことなら……」

 

 

 なんだかやけにあっさりとした終わり方に、築久はもやもやとした気持ちになった。だが始まるものは終わるものである。とりあえずは自分を納得させることにした。

 

 

 「今まで、ありがとうございました」

 

 

 頭を下げて礼を言う。それに治美は笑顔で応えた。

 

 

 「私のこれは仕事だからね。この場でもう会わないことを祈るわ。……では、お疲れ様でした。これからは来なくて大丈夫よ」

 「了解っす」

 

 

 築久は軽く会釈して、部屋から出た。

 

 

 

 

 

 「……はい。ではちょうどお預かりします」

 

 

 築久は受付にて会計を済ませていた。個性限定使用許可証によって通常よりも安くなっている。だがそれも今回で終わりだ。"個性"を十分に扱えるようになった築久には、これを持つ資格はなくなったのだ。

 

 

 「あ、そういえば……。はいこれ。治美先生からです」

 「あ、はい」

 

 

 そういって手渡されたのは紙切れだった。丁寧に折り畳まれてあるが、と文字が書かれていることが分かる。なにか伝え忘れたことでもあったのだろうか。

 

 

 「では、お大事にー」

 

 

 読むのは後にしよう。

 築久は慣れ親しんだ病院に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 家に帰り着いた築久は、母へ帰宅の挨拶もそこそこに、自室に足を運んだ。

 ベッドに腰掛け、病院でもらった紙をポケットから取り出す。

 

 

 「さてさて、何が書いてあるのか……」

 

 

 紙の大きさからして、そこまで量はないだろう。築久は軽い気持ちで紙を開く。

 

 

『電話番号書いておくから、雄英ヒーロー科に合格したら真っ先に電話すること』

 「……は?」

 

 

 あまりに突飛な内容に、築久はフリーズしてしまった。

 築久はそもそも治美に、雄英を受けることはもちろん、ヒーローになりたいということも伝えていなかったのだ。それをなぜ知っているのだろうか。

 疑うべき人物は一人しかいなかった。

 

 

 「母さん!」

 「あら築久。そんなに騒いでどうしたの?」

 「治美さんにどこまで話した!」

 「どこまでが何かは分からないけど……全部?」

 「あああああああああ…………」

 

 

 築久は分かりやすく意気消沈した。引子はなぜ築久が意気消沈したのか分からず、頭の上にはてなを浮かべていた。

 

 

 「何か言っちゃいけないことでもあった?」

 「いや、もういいよ……。何でもない」

 

 

 築久はテンション低く答える。

 築久が立てていた計画では、雄英に合格したら病院へと足を運び、合格の旨を伝える腹積もりだったのだ。サプライズの形にしておきたかった。だが引子のおかげでその計画も崩れ落ちてしまった。

 引子に勉強する、とだけ伝えて部屋に戻ろうとすると、引子は築久を呼び止めた。

 

 

 「あ、治美先生のことで思い出した!築久築久!ちょっと聞いて!」

 「ええー」

 「いいから!」

 

 

 築久の落ち込み様など気にも留めずに引子は話し掛ける。

 

 

 「この前築久の"個性"制御の様子を見に行った時のことなんだけど」

 「ああ……」

 

 

 そんなこともあったな、と築久は思い出す。確か、何をしてるか分からなくて不安だから見学したい、と引子が言い出したことが発端だった気がする。その時に話していたらしい。

 

 

 「今、出久も築久も雄英に行くために頑張ってるじゃない?だからそう言った話をした時に、あなたのことを先生が褒めてくれてたのよ」

 「んん?別に、普段も結構褒めてくれてたけど」

 

 

 治美はどうやら褒めて伸ばすタイプだったようで、どんなに小さな課題でも、クリアするとしっかり褒めてくれた。

 わざわざそれを報告するまでもないのではないか、と築久は思った。が、引子は話を続ける。

 

 

 「最後まで聞いて!それでね、私が、あの子ヒーロー科志望なんですーって言ったのよ。そしたら、」

 「はいはい」

 

 

 段々と築久の返事がおざなりになっていっている。

 

 

 「『────彼はきっと、素晴らしいヒーローになれますよ』って言ってくれて!私が褒められたわけじゃないけど、すごく嬉しかったのよ!築久にも伝えておきたくって」

 

 

 

 素晴らしいヒーローになれる。その言葉を聞いた瞬間、築久はバッと引子の方に振り向いた。

 思えば、その言葉を自分は誰かに掛けてもらったことがあっただろうか。いや、なかった。そもそも、自分に掛けてもらえるような言葉ではないとすら思っていた。なぜなら、自分は出久みたいに勇気を持っていないから。爆豪みたいに才能を持ってなかったから。だから、そんな言葉は掛けてもらえるはずはない。そう思っていたのだ。

 

 

 「それでね、築久」

 「……分かった。分かったから。もう部屋に戻るよ。勉強する」

 「あら、冷たい反応……」

 

 

 築久は静かにそう呟き、自室へと向かった。

 

 

 「…………」

 

 

 パタン、と音を立てて扉が閉まる。そのままベッドに歩いていき、倒れ込んだ。

 

 

 「……不意打ちすぎんだろ、ちくしょう……!」

 

 

 築久は涙を流していた。

 

 

 仕事とはいえ、築久に対して献身的に付き合ってくれた優しい医師。事務的な話の中に、いつも何気なく私的な会話も組み込んでくれて、"個性"制御の時には常にリラックスできていた。いつの間にか口調が崩れてしまっていたが、彼女はそれを受け入れ、さらにより親しく接してくれた。

 築久の中では、治美という医師の存在はかなり大きなものとなっていたのだ。

 その治美が、自分は素晴らしいヒーローになれると言ってくれた。今まで褒めてくれたどの言葉よりも嬉しかった。

 

 

 「合格、しなくちゃな……!」

 

 

 若干の涙声ながらも、築久はよりいっそう気合いを入れた。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 二月二十六日。ついに、雄英高校の一般入試『実技試験』当日が訪れた。

 家から電車を乗り継ぎ四十分の位置にある雄英高校に、築久は出久より先に到着していた。

 

 

 「あいつ、実技試験当日にまで特訓するとか何考えてんだ……」

 

 

 そう、出久は朝早くから家を出て特訓をしていたのだ。築久は時間に余裕を持って到着したかったため、出久の帰りを待たずに先に家を出発した。

 

 

 雄英高校は、正面から見るとHEROの頭文字である『H』に見える造形となっていた。いかにもヒーロー科最難関と言われる学校らしい造形だ。

 

 

 「やっぱ緊張するな」

 

 

 人生のターニングポイントの一つに数えられる高校入試。それを前にして緊張しない猛者がどれだけいることだろう。少なくとも築久は猛者の一人ではなかった。

 両の頬を軽くパシンと叩き、気合を入れ直す。

 

 

 「っし!行くか!」

 「あの、受験票落としてるよ」

 「……ほぁっ!?」

 

 

 他校の制服を着た女子が教えてくれた。

 気合を入れ直した瞬間にこれである。なんとも締まらない。

 後に出久も同じように失敗をしでかすため、あまり似通った部分がなくとも双子は双子なのであった。

 

 

 「あ、ありがとう!君が拾ってくれてなきゃ受けられないとこだった!」

 「いいよ別に。はい」

 「うおお!?」

 

 

 てっきり手で渡してくれるかと思っていたが、彼女の"個性"であろうものがしゅるしゅると伸びて、受験票を巻き取って渡してくれた。

 

 

 「びっくりした?これウチの"個性"なんだ」

 「はーすげえ。耳がイヤホンのジャックみたいになってんのな」

 「そうだよ。ていうか、なんで受験票なんてもん落としてんの」

 「いや、分かんねえ」

 「ぶふっ!なんだそりゃ」

 

 

 一通り他愛ない会話をする二人。他人から見ると、二人が初対面には見えてなかった。

 

 

 「まあ、外にいつまでもいたら寒いし、中入っちゃお」

 「それもそうだ。あ、そういや自己紹介してなかったな。俺、緑谷築久。よろしくな」

 「ウチは耳郎響香。どっちも受かってたらよろしく」

 「お、おう。そんな悲しいこと言うなよ……」

 「現実見てるだけだっての」

 

 

 軽く自己紹介をしながら、二人は雄英高校へと入っていった。

 

 

 

 

 

 耳郎とは受験番号が離れていたため早々に別れ、築久は自分の受験番号が記されている席に座った。ちなみに、何故か出久とも番号はかけ離れていたので、近くに知り合いは全くいない状況となっていた。

 

 

 《今日は俺のライヴにようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!》

 

 

 話す相手もいなかったので、築久がぼーっとしていると、既に説明役のプレゼント・マイクが受験生の前に立っていた。何か返事を求めていたようだが、誰一人として応える者はいなかった。

 

 

 《こいつあシヴィー!!!》

 

 

 プレゼント・マイクは更に何か言っていたが、築久は全然聞いておらず、手元の入試概要を読んでいた。

 

 

 試験は十分間の『模擬市街地演習』。AからGまでの演習会場に仮想敵を三種配置しており、それぞれにポイントが設けられている。その仮想敵を各々の"個性"で行動不能にすることでポイントを稼いでいき、ポイントの合計数を競う試験だ。

 仮想敵は三種とのことだが、築久は写真が四枚あることに気付いた。

 

 

(これにはポイントはないってことか……。所謂お邪魔虫ってやつだな。特に相手にしなくていいだろ)

 

 

 《────『Plus ultra!!』それでは皆さん、良い受難を!》

 

 

 概要はあらかた理解した。あとは試験で全力を出すのみである。

 

 

 

 

 

 入試概要の説明も終わり、受験生は指定された演習会場に到着した。各々動きやすい格好に着替え、実技に向けての準備を行っている。

 

 

 「すぅー……ふぅー……。あー……!」

 

 

 築久は深呼吸をして息を整える。さらに、火が口から出やすいように喉の奥を開ける。イメージとしては、オペラ歌手のような感じだ。大きく口を開けて発声する。

 一通り準備を終えた築久は周りを見渡すが、誰一人として知り合いはいなさそうだった。

 

 

 「そろそろ始まるな……」

 

 

 もうこの会場に着いてから数分は立っている。いつ始まってもおかしくはない状況だ。警戒を怠ってはいけない。

 築久はこの日のために特注し、装着している耐熱性のカチューシャに手を当て、髪をぐっと後ろに流す。単純に髪の表面積が多いほど熱の放出量が上がるため、髪を伸ばしていたのだ。カチューシャはそれを纏めるためだ。

 

 

 「いける……。いける……。俺なら大丈夫だ。この一年やれることはやった…。俺ならいけ《はいスタートぉ!!!》っこんな突然かよ!!」

 

 

 あまりにも意表をついた合図。戸惑い未だに足を動かしていない者がわんさかいるが、築久にとってはそんなことは知ったことではない。十分間を勝ち抜くためには、立ち止まってなどいられない。

 築久の他にも、スタートダッシュで他よりも一歩早い者はいるようだ。

 

 

 「やっぱ最難関か……!周りも意識が違う!」

 

 

 そう言いながらも足は止めず、築久はある場所を目指していた。少しでも速くそこに到着しなければ、大幅に遅れをとってしまう。

 街道を走っていると、ボゴン!!という音が右から聞こえた。

 

 

 「テキハッケン!テキハッケン!!」

 

 

 壁を突き破って現れたのは三ポイントの仮想敵。その体躯はとてつもなく大きい。生半可な"個性"では、かえって危険な目に合うことだろう。

 

 

 「しゃらくせえッ!!」

 

 

 築久は振り向きざまに仮想敵を覆い尽くす灼熱を繰り出した。

 仮想敵は火の超高温に耐えられなかったのか、デロデロに溶けてしまった。

 

 

 

 「くそ、今ので仮想敵がわらわら寄ってきたな」

 

 

 一ポイントと二ポイントの仮想敵が築久の方に向かってきた。築久としては、この展開は好ましいものではなかった。

 仮想敵たちを一掃するのは簡単だ。大火力で薙ぎ払ってしまえばいい。だがここは模擬とはいえ市街地。ヒーローたるもの、無差別に街に危害を加えるわけにはいかないのだ。

 

 

 「よっと!」

 

 

 築久は先程の三ポイント仮想敵の残骸を登り、その頂点に立つ。超高温になっているが、触れた先々で熱を吸収しているので問題ない。これで目線は仮想敵と同じだ。

 

 

 「さっきまでのやり方じゃ効率が悪い!だったら……!」

 

 

 築久はそう言った直後、瞬時に周りの熱を吸収した。莫大な熱が築久の体内に入っていくが、もう以前の築久ではない。短い時間ではあるが、留めることが出来ていた。

 

 

 「纏めてぶっ壊す!!」

 

 

 築久はガバッと口を開け、間を開けずに火球を発射した。

 ボボボボボボボボボッ!!と絶え間なく響く音に続き、仮想敵たちが次々と破壊されていく。

 集まってきた全ての仮想敵を破壊したことを確認した後、築久は高まった体内温度を下げるべく、頭から熱を拡散させる。

 

 

 「三ポイント一体、二ポイント四体に一ポイント五体!これで十六ポイント……!」

 

 

 出だしとしては上々である。だが築久は慢心をしない。息付く間もなく走り出した。

 

 

 少し走った後、築久は周りより比較的高そうな建物の中に入り、屋上を目指す。

 高台という安全圏からの長距離狙撃。『模擬市街地演習』という言葉を見て閃いた作戦である。

 築久には機動力というものがない。かといって、築久の"個性"が何かの拍子に他の受験生に当たってしまう可能性もある。そうすると、問答無用で試験から落とされてしまうかもしれない。ならば、誰も狙っていない仮想敵を高台で索敵し、長距離狙撃により仕留めた方がいいと判断したのだ。

 

 

 「さて、と」

 

 

 築久は高台から、広場を見下ろす形で索敵を開始する。狙うはどでかい三ポイント仮想敵。大きい故に狙いやすいし、かなり強いので受験生もあまり近づかない。まさに美味しいポイントと考えていた。

 

 

 「うっし!早速見っけ!」

 

 

 築久は素早く"個性"を発動し、三ポイント仮想敵の頭部を火球で撃ち抜いた。

 

 

 「しかし段々減ってきてるな……」

 

 

 当たり前だが、この試験はポイントの争奪戦だ。築久が高台へと移動する間にも、仮想敵は他人によって減らされているのだ。

 築久は見通しが甘かったことを悟る。

 

 

 「まあいい。まだ時間はあるは《残り六分二秒!!!》……やべえ!」

 

 

 四分近く経った現在の築久のポイントは十九。お世辞にも、優位な状態とは言えなかった。

 

 

 「こうなりゃ纏まってるところに大きめの火を……いや無理だ!もう仮想敵は散らばり切ってる!」

 

 

 慢心はしていなかったつもりだった。だが、他の受験生の実力を見誤っていた。

 築久は高台にいても時間の無駄と判断し、階段で下に向かおうとする。

 

 

 「……ん?」

 

 

 だが一瞬、築久の視界に映った光景が、彼の行動を変えた。

 

 

 「おいおいおい、一ポイント仮想敵相手にボロボロのやついんじゃねえか!」

 

 

 それは少女が仮想敵相手に苦戦し、身体中に傷を負っている光景だった。

 築久は立ち止まり、あの少女を救わんとする。

 だが一体、どうやって?

 今築久が立っている場所は、建物の屋上だ。それも高さがかなりある建物のだ。そこから階段を降りて救うとしても、少女は再起不能になっている可能性がある。そこまでするべきなのか。もう別の仮想敵を追いかけた方がいいのではないか。

 築久は焦りからか思考が鈍っている。

 

 

 こんな時に出久はどうする。

 

 

 そう考えた瞬間、悩むことが馬鹿らしくなった築久は、即行動に移した。

 

 

 「危ねえから下がれ!!!今救ける!!!」

 

 

 そう叫んで"個性"を発動。ボッ!!と音を立てて発射された火球は、仮想敵を見事破壊した。

 

 

 少女は目の前でいきなり仮想敵が爆発して驚愕していた。大きな声で叫んだつもりだったが、届いていなかったらしい。

 築久は苦笑いしながら、次の仮想敵に狙いを定める。

 

 

 「二ポイント……一ポイント……一ポイント……三ポイント……!」

 

 

 ボッ…ボッ…!と断続的な発射音と共に仮想敵は破壊されていくが、未だポイントは二十七。歯がゆい状況となってしまっている。

 

 

 残り時間はあとわずか。築久はもう、無駄に付け焼き刃の策略を練ろうとは考えず、ただひたすらに仮想敵を倒すことだけを考えていた。もうやれることなどそれしかなかった。

 

 

 しかし雄英高校にとっては、この残り時間が少なくなったこの状況からが本番だった。

 

 

 「お、お、お、お、おおおおおおおおお!!?」

 

 

 0ポイント仮想敵。高い建物の屋上に立っている築久でさえも見上げなければならないほどの巨大さ。動くだけで進行上の全てを破壊していく質量。雄英が莫大な金をつぎ込んで生産した巨大ギミックだ。

 地上の受験生は蜘蛛の子を散らすように逃げ、築久は目の前を通り過ぎようとする0ポイント仮想敵をただ呆然と眺めていた。

 

 

 「お、おい!誰かこけてんぞ!」

 

 

 微かに聞こえたその声に反応し、築久は地上を確認する。

 

 

 ────さっきの女の子だ。

 

 

 ボボボボボボボボボッ!!!

 

 

 気づけば築久は、0ポイント仮想敵の頭部の右側に、火球を連続で発射していた。

 0ポイント仮想敵はぐらりと少しよろめいた。だがそれだけ。すぐさまこちらに攻撃を仕掛けてきた愚か者の方を向く。

 

 

 「へ、へへへ……!そうだ!それでいいんだ!」

 

 

 注意を引き付けることに成功した築久だが、その後の行動を全く考慮していなかった。

 

 

(なんでこんなことしてんだ俺!ただ俺が死ぬ可能性が浮上しただけじゃねえか!!)

 

 

 自分で自分を追い詰めてしまった。焦って色々と思考するが、それを仮想敵は待ってくれない。ギギギギギ……!と音を立てて、敵を排除するために攻撃を仕掛けた。

 

 

 「やばいやばいやばいやばい!!!どうする!!?躱すしかねえだろ!!!」

 

 

 仮想敵の攻撃は既に、目の前に迫ってきていた。

 

 

 「────おおおおおおおおお!!!」

 

 

 築久は、宙を舞っていた。仮想敵が仕掛けた攻撃の遥か上を飛び越していた。

 

 

(口から火ぃ吹いて、推進力代わりにするってのは前々から考えてたけど!まさかこんなところでやるハメになるなんて!!)

 

 

 築久のやったことは至って単純なことだった。だが、下に思いっきり"個性"を発動することになるため、周りへの被害を考慮しないものだ。使うことなどそうそうないと思っていたのだ。まさか、こんなに早く使う時が来るとは思ってもいなかった。

 

 

 "個性"の威力が強すぎたのか、築久は攻撃を躱すだけでなく、仮想敵の頭上をも通り過ぎようとしていた。

 こけていた少女は腰が抜けたのか、まだ動けていない。

 

 

 築久は宙を舞いながら一瞬で決断する。

 

 

 築久はありったけの熱を吸収する。今自分が吸収できる熱の上限ギリギリまで。

 そして、築久がちょうど仮想敵の頭上にたどり着いた瞬間、

 

 

 「────があああああああああああッッ!!!」

 

 

 仮想敵を、築久の怒号が貫いた。

 

 

 限界まで溜められた熱は極限までに圧縮され、火なんて表現することが烏滸がましくなるほどの熱量を持って、仮想敵を貫いたのだ。

 まさに熱線。そう表現するにふさわしい一撃だった。

 

 

 0ポイント仮想敵は頭から穴を開けられ、ギチギチギチ…!と火花を散らしながら、ゆっくりと後ろ側に崩れ落ちていった。

 

 

 落下していた築久は"個性"を発動し、衝撃を和らげながら着地した。ちょうど体内の熱を放出しきることができたようだ。

 その後、すぐさま座り込んでいる少女の元に駆け付ける。

 

 

 「大丈夫か!?立てるか!?」

 「こ、腰……抜けて……」

 「分かった!とりあえず、試験終了までは俺が安全を確保してや《試験しゅうううううううりょおおおおおおおお!!!》……」

 「あ、あはは……」

 

 

 なんとも間の悪い終わり方である。

 

 

 「そ、そういえば!さっきは救けてくれてありがとう!あたし死んじゃうかと思っちゃった!」

 

 

 地べたに座り込んだまま少女が礼を言う。

 

 

 「そらもちろん、身を呈しても人をを救けるのがヒーローだからな」

 

 

 築久はニカッと笑って礼に応えた。

 

 

 「でも、あたしのせいでポイント稼ぎの時間が……」

 

 

 なんだか申し訳なさそうな顔をしていたのはそういうことらしかった。

 築久は笑って気にしていないということだけ伝える。

 しかし、自分の点数では雄英合格は厳しいことも理解していた。

 

 

 緑谷築久────二十七ポイント。

 

 

 

 




耳郎ちゃんは助けられないよ!そもそもそんなに弱くないからね!あと会場も違うからね!
助けられた子の名前とかあれこれは次話で。
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