双子のヒーローアカデミア   作:壁丼

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今回はオリジナルキャラについて色々書いてますが、ヒロインになるかどうかは分かりません。ただ言えることは、またしばらくは出てこないってことだけです。


No.6

 

 

 

 試験が終了した後、とある演習会場にいる受験生で、築久は話題の中心となっていた。

 

 

 「あいつ、0ポイント仮想敵を破壊しやがった……!」

 「見た感じ炎熱系の"個性"だけど、それで穴とか開くもんなのか……?規格外だ……」

 「さぞかしポイントもとってんだろうなぁ……」

 

 

 ざわざわと0ポイント仮想敵を破壊した人物である築久のことについて騒いでいる。

 だが、話の当事者である築久はそんなことなど露知らず。さきほど仮想敵の脅威から救った少女と会話を弾ませていた。

 

 

 「それにしても、さっきのすごかったね!こう、ギュオーン!って感じで口からビーム!」

 「あれ火な」

 「火!?はぇー……」

 

 

 目の前で仮想敵を倒す光景を目にしたせいか、興奮気味に築久に話しかける少女。手をぶんぶん振りながら器用に感情を表現していた。

 

 

 「そういや、もう立てるか?まだあんま時間経ってないけど」

 

 

 腰を抜かして地べたに座り込んだままの少女の具合を確認する。

 

 

 「えっ?あ、ちょっと待って。……ほいっ」

 

 

 少女は軽やかに立ち上がった。大事なさそうな様子に、築久は安堵する。

 

 

 「立てるならよかった。あ、でも他にも怪我はしてるんだからあんま無理すんなよ」

 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ!このくらいなら……ほら!」

 

 

 そう言った直後、少女の傷口がふんわりとした光に包まれ、みるみるうちに治ってしまった。築久は目を見開いて驚く。

 

 

 「おお!治った!すげえ!」

 「べ、別にそんなにすごいものじゃないよー」

 

 

 築久の素直な称賛に、少女は思わず照れる。手をパタパタとさせて熱くなった頬を冷まそうとしている。

 

 

 その後も他愛ない会話は続き、出身はどこだとか、志望した理由はなんだとか、話題は多岐に及んだ。

 

 

 「あ、そういえば自己紹介してなかったね!あたしの名前は……」

 

 

 「お疲れ様~。はいはい、ハリボーだよ。ハリボーをお食べ」

 

 

 少女が名前を言おうとした時、小柄な老婆がハリボーなるお菓子を配りながら歩いてきた。

 

 

 「はいはい、お食べ。はい、あんたも……ってあんた。受けてたのかい」

 「おばあちゃん……」

 

 

 どうやらこの老婆は少女の祖母らしい。

 

 

 「おばあちゃん?」

 「そう。妙齢ヒロインリカバリーガール。あたしの祖母」

 

 

 先程の元気はどこへ行ったのか、少女の顔は曇ったものになっていた。

 そのことに気付いた築久は、これ以上このことには触れないよう、話題を変えようとする。が、その前にリカバリーガールが口を開いた。

 

 

 「その様子だと、やっぱりダメそうさね」

 「…………」

 「だから忠告したじゃないか。あんたの道はそっちじゃないって」

 

 

 リカバリーガールからの厳しい言葉に、少女はただ俯く。

 

 

 「ま、終わったことに色々言っても仕方ない。今後の進路もちゃんと考えるんだよ。あたしはまだ仕事が残ってる」

 

 

 リカバリーガールは一通り言い終えたあと、再びハリボーを受験生たちに配りに行った。

 

 

 築久はなんと声を掛ければいいのか分からなかった。楽しくしていた会話が、急にこのような暗い空気になるなど思いもしていなかった。

 

 

 「あたしね、ヒーローになるの、家族に反対されてたんだ」

 

 

 少女は静かに語り始めた。

 

 

 「元々オールマイトに憧れてヒーローになりたいって思ったってのは、さっきも言ったじゃん?でもあたし、運動神経はあんまり良くなかったし、"個性"、全然ヒーロー向きの"個性"じゃなかったの。ただある程度までの怪我や病気を、自分の体力と引き換えに治すだけ。おばあちゃんの"個性"より数倍劣るものだったんだ。あ、おばあちゃんの"個性"は"治癒"って言って、その人の体力を使って治癒力を活性化させることができるの。おばあちゃんすごいんだよ?骨折なんかもあっという間に治しちゃって……」

 

 

 静かな口調だが、なにかタガが外れたように喋りまくる。築久の入り込む隙がない。

 

 

 ここまでの話の中で、築久には引っかかる点があった。

 彼女はなぜここまで自分を卑下しているのだろう。彼女の"個性"は贔屓目なしに見ても素晴らしい"個性"であるというのに、ここまで自分を卑下する理由とは一体なんなのだろう。

 築久は隙を見て指摘することにした。

 

 

 「いや、劣ってないじゃん」

 「……なにいってんのさ。変に慰めようとしなくてもいいよ?」

 

 

 今のは指摘の仕方が悪かった。彼女は同情と受け取ったようだ。

 

 

 「いやいや、慰めとかじゃなくて。だって」

 「いいよ、無理しなくても」

 「いや本当に。かんがえてみ」

 「もー。いいっていってるのあだっ!」

 「話聞けよ」

 

 

 悉く言葉を遮る少女に、築久はデコピンをお見舞いした。少女はおでこを押さえ、ようやく口を閉ざす。

 

 

 「お前の話じゃ、リカバリーガールの"個性"って、治そうにもその人の体力がなけりゃ治せないんだろ?」

 「そうだけど」

 「けどお前は、相手の体力がなくとも治せる。それだけで十分劣ってなんかねえじゃねえか」

 「あっ……」

 

 

 少女は気付いていなかったようだ。単純なことなのになぜ、と思ったが、リカバリーガールとの関係を省みると、仕方の無いことでもある。偉大な祖母であるリカバリーガールを、知らず知らずの内に手の届かぬ存在だと決めつけていたのだろう。

 

 

 「……なんでこんなことに気付かなかったんだろう、あたし。周りから比較されて、ずっとそういうもんだって……」

 

 

 ぶつぶつと何かを呟く少女。その内容は築久には聞こえていない。

 少女はガバッと顔を上げる。

 

 

 「よし、あたしおばあちゃんのところに行ってくる!」

 

 

 少女は先程の湿っぽさがなかったかのように元気を取り戻し、綺麗な群青色の髪を靡かせながら、もうどこにいるかも分からないリカバリーガールを探しに走り出してしまった。

 

 

 「あ、そうだ!あたし修善寺奈生(なお)!ありがとね、あたしのヒーロー!」

 「……おう!」

 

 

 何にせよ、彼女の元気を取り戻すことが出来たのならよかった。築久は笑顔で奈生が走り去るのを見つめていた。

 

 

 「あ、あの子大胆だな」

 「てか可愛い。セミロング活発少女可愛い」

 「あの野郎、あんな可愛い子にあたしのヒーローって呼ばれてたぞ」

 「羨ましい……!」

 「妬ましい……!」

 

 

 「うげ」

 

 

 今更恥ずかしくなった築久は、そそくさと更衣室に走っていった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 運動着から着替え終わった築久は、未だ学校から出てこない出久を校門前で待っていた。

 

 

 「出久のやつ遅いな……」

 

 

 ちらりと腕時計を見ると、解散してからかなりの時間が過ぎようとしていた。

 ずっと外で待っていたので身体が冷え切っている。これ以上は待ってられないと思い、築久はスマートフォンをポケットから取り出し、簡潔にメッセージを送った。

 

 

 「『先に帰っとくぞ』っと。よし、帰るか……あ」

 「あ?」

 

 

 爆豪と鉢合わせになってしまった。

 

 

 「てめえか。……試験はどうだったんだよ」

 「試験?……ああ」

 

 

 実技試験の成果を聞いてきた爆豪。築久は苦笑いをしながら、

 

 

 「────だめだった!」

 

 

 とだけ言った。

 爆豪はわずかに表情を変化させた。直球でこんな言葉が返ってきたことに対してなのか、それとも築久の成果が悪かったことが意外だったのか。

 爆豪は、そうかよ、とだけ呟き、そのまま帰っていった。

 

 

 「あ、あれ?築久、先に帰ったんじゃなかったの?」

 「おう、出久。いやな、勝己とさっきまで話してたから」

 

 

 築久には、爆豪の気持ちを察することはできなかった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 カタンカタン、カタンカタン。

 電車の音がリズムよく鳴り響く中で、爆豪は一人窓際の席に座り、外の景色を眺めていた。

 

 

『────だめだった!』

 

 

 築久の言った言葉が、頭から離れない。

 理由など分からないし、知りたいとも思わない。だが、

 

 

 「あの野郎、笑ってやがった……」

 

 

 そう、笑っていた。今まで、爆豪に負けたり良くない成績を取ったりすれば、大なり小なり悔しがっていた。

 次は負けねえ、次こそは俺が勝つ。

 そう宣言して、いつも自分に挑んできた。

 

 

 それが今回はどうだ。築久は試験がだめだったのにも関わらず、腑抜けた笑顔を自分に見せたのだ。

 何故だかそれがとてもむかついた。だがそれを表に出すことは、自分の方が格上であると言うプライドが許さなかった。

 

 

 試験の結果は上々だった。自分の"個性"を絶え間なく使い続けて、仮想敵をおびき寄せることで点数を稼ぎ続けた。八十ポイントは超えているんじゃないだろうか。

 

 

 ────あいつは何ポイントだったんだ。

 

 

 ふと浮かんだ疑問を、爆豪はすぐに掻き消した。

 どうせ大したことない点数だ、知る必要なんてない。"個性"の制御もできないやつなんだからだめで当然だ。

 爆豪は思考をシャットダウンし、また外の景色を眺めることに集中する。

 

 

 目的地の駅にたどり着くまで、ついぞ築久のことを考えることはなかった。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 試験ば終わってからは怒涛の勢いで時間が過ぎていき、一週間。合格通知が届く頃になった。

 雄英の合格通知を待っている間、出久は何やら抜け殻のようになっていたし、築久も築久で前ほどの元気がないように見える。

 

 

 「母さん、二人とも雄英を受けただけでもすごいと思うよ?滑り止めの私立高校もちゃんと受かってるし、そんなに思い詰めなくても……」

 

 

 引子はいつもと様子が違う二人を毎回このように慰めようとしている。だが二人ともあまり耳に入っていないようで、様子は変わらない。夕食を摂っている間など、出久は魚と微笑みあっていたほどだ。

 母が夕食の後片付けをしている間に、築久と出久は会話していた。

 

 

 「なあ、出久」

 「んー……?」

 「雄英、受かってるといいな」

 「んー……」

 

 

 とはいえ、これが会話と言えるかと言うと微妙であるが。

 二人の間にはすぐに沈黙が訪れた。出久はぼーっとしながらもダンベルを持ち上げ、築久はぼーっとしながらもハンドグリップを握り、握力を鍛えていた。

 

 

 「────出いずいずく築きずくぅ!!!」

 

 

 玄関の方から、慌てふためく引子の声が聞こえた。バタンッ!と騒々しくドアを開ける。

 その手には、二通の封筒が握られていた。

 

 

 「来た!!来てた!!!」

 

 

 運命の時が、ついに来た。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 二人はそれぞれの部屋に戻り、それぞれで通知を確認することにした。どちらかが受かってどちらかが落ちていた、なんてことも有り得なくはないからだ。

 

 

 「…………」

 

 

 椅子に座り、築久は無言で雄英からの封筒を見つめる。

 築久が実技試験で得たポイントは二十七。十分間という制限こそあったものの、自分の判断ミスによって大幅に獲れるポイントを減らしてしまった。

 もっと獲れた。

 築久は素直にそう思っていた。

 そもそも、安全地帯に逃げ込んで、楽してポイントを稼ごうとしたことが間違いだったのだ。最難関にも関わらず愚行を晒してしまったことを、築久は少なからず後悔していた。

 

 

 「……けど、あの子を救けたことは間違ってない」

 

 

 ヒーローは人を救けてなんぼの職業だ。例えまだ志望だとしても、奈生は築久のことをヒーローと呼んだ。それだけでも、雄英を受けた価値はある。築久は純粋にそう思っていた。

 

 

 「……開けるか」

 

 

 築久は丁寧に封筒を開け、中に入っているものを取り出す。

 紙と一緒に、何か機械が入っていた。これは一体なんだろうか。

 そんなことを考えていると、その機械からヴン!と画面が投映された。

 

 

 《私が!!投映された!!!》

 「お、オールマイトぉ!?」

 

 

 投映機から出てきたのは、スーツを着たオールマイトだった。憧れのヒーローの思わぬ登場に、築久はガタリ!と椅子から立ち上がった。

 

 

 《なぜ私が映っているのか疑問に思っていることだろう!その答えは至って単純!私が雄英に勤めることになったからさ!》

 「うっそだろ!」

 

 

 なんと雄英のプロヒーロー教師陣の中に、オールマイトが加わるというのだ。なんというサプライズだろう。築久は感激していた。だがまだ合格かどうかは発表されていない。浮かれるには早かった。

 

 

 《さて、では早速緑谷少年……はもう一人いるから弟少年と呼ぶね!弟少年の結果を発表しよう!》

 

 

 オールマイト手ずからの発表とは、何とも豪華な通知である。築久はオールマイトの次の言葉を固唾を飲んで待つ。

 

 

 《筆記試験は合格圏内。だが実技は二十七ポイント。決して悪い成績ではないんだが────雄英に合格することは出来ない》

 

 

 憧れのヒーローから突きつけられる現実。築久は思わず拳を握り締める。

 

 

 「分かってたけど……!やっぱ悔しいなぁ……!」

 《それだけならね!!》

 「へっ?」

 

 

 オールマイトは一転して明るい声で築久に告げる。

 

 

 《実はね、我々が見ていたのは敵ポイントだけではなかったんだ!》

 「だけではなかった……?」

 

 

 入試概要ではそんなこと言っていない。そんなの聞いていない。そんなの書いていない。

 いつの間にか手がぶるぶると震えていた。

 

 

 

 《このVTRを見てくれ!試験の時の中継だ!》

 

 

 オールマイトがリモコンを操作すると、後ろのモニターに映像が映る。

 

 

 《0ポイント仮想敵が出てきた時、逃げ遅れた少女がいることが分かる!だが他の受験生はその少女に目もくれず、我先にと逃げていた!》

 

 

 映像を見ると、仮想敵から逃げようとして奈生がこけていたシーンだった。

 オールマイトは一旦映像を止め、続けて言う。

 

 

 《そう、君以外はね!では続きを見てみよう!》

 

 

 オールマイトは再びリモコンを操作する。

 

 

 《仮想敵は少女のいる方向に進んでいたが……君が咄嗟に"個性"で注意を逸らしたおかげで、一旦少女に危害が加わることはなくなった!》

 

 

 しかし!とオールマイトは言葉を区切る。

 

 

 《私たちが真に評価したのはこの次だ!君は仮想敵の攻撃を躱しながら、再び少女の安否確認を行い瞬時にどうすればいいか判断した!宙に舞っている状態で他人の安否を気にするなんて大したもんだ!HAHAHAHA!……あ、巻きで?オーケーオーケー!》

 

 

 オールマイトに褒められた。築久にとっては、それだけで十分とも言えるくらい嬉しい出来事だ。

 だがオールマイトの言葉は続く。

 

 

 《そして君は仮想敵をぶっ壊し、さらに少女の元に駆け寄って守ろうとした!ポイントなんか度外視でだ!》

 

 

 オールマイトはバッ!と腕を広げて叫んだ。

 

 

 《我々が見ていたもう一つの基礎能力!『救助活動(レスキュー)ポイント』!!教師陣の審査制だ!!正しいことした人間を落とすヒーロー科なんてあってたまるか!!》

 「あ……!ああ……!!」

 

 

 《緑谷築久!五十ポイント!!》

 「うあああ……!!」

 

 

 

 《────合格だ!来いよ少年!!雄英(わたしたち)は君を待っている!!》

 「うあああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 ────緑谷築久、実技総合七十七ポイント。第二位。

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 合格したと母に伝えるために、築久は喜びを抑えられないまま急いでリビングに駆け込んだ。

 

 

 「かかかかかか母さん!!」

 「ぎずぐう゛!!!」

 

 

 ソファには出久と引子が座っていた。

 もう既に出久は報告をし終えていたようで、引子は号泣していた。

 

 

 「な、なんでこんな泣いてんの!」

 「い゛ずぐがあ゛!!!」

 「が!?」

 「う゛がっだの゛!!!」

 「ほ!?」

 

 

 築久は思わず変な声を出す。すぐさま出久の方を向くと、築久はこくこくこくこく!と何度も頷いた。

 

 

 「俺も!受かった!!」

 「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 

 二人とも受かったという事実に、ついに引子は膝から崩れ落ちてしまった。

 双子はそれを苦笑いしながら見つめる。

 

 

 「出久!」

 「うん。受かったよ!」

 「また一歩、目標に近づいたな!」

 「うん!!」

 

 

 築久は泣き腫らして赤くなった目を拭う。築久はまだ涙目だ。

 

 

 「あ、僕お母さんを落ち着かせるね!」

 

 

 未だに号泣している引子をそのままにしけおけなかった出久は、引子を宥めにいった。

 築久は俺も、と言おうとしたが、先にしておかなければならないことを思い出した。

 

 

 「わりい!ちょっとお母さん任せるわ!」

 「え?あ、うん!」

 

 

 よ゛がっだあ゛あ゛あ゛!!と泣き叫ぶ母を尻目に、築久は自分の部屋に戻った。

 机の上にあるスマートフォンを手に取り、引き出しの中に閉まっておいたメモを取り出す。

 

 

 「治美さんに電話……!」

 

 

 治美という、合格したら真っ先に報告しなければいけない相手がまだ残っていた。

 書かれてある番号を打っていき、発信ボタンを押す。

 

 

 プルルルル……と無機質な音が部屋の中に響く。

 四回ほどコールを繰り返したあと、その音が途絶えた。

 

 

 《……もしもし。治美です》

 「あ、えと、緑谷です!お久しぶりっす!」

 《あら、緑谷君!久しぶりに声を聞いた感じ!こんな時間にどうしたの?》

 

 

 出てくれた。築久は安堵しながら伝える。

 

 

 「雄英!合格しました!」

 《……えっ?本当?本当なの!?》

 「っはい!ほんとっす!!」

 《すごい!すごいわ!おめでとう緑谷君!》

 「あざっす!」

 

 

 築久が報告すると、治美は手放しに喜んでくれた。そのことが、築久にはとても嬉しく感じた。

 

 

 《ふふ……!なんだか涙出てちゃった……!》

 

 

 ついには治美は涙を流してしまった。電話越しにぐじっ……!と鼻を啜る音がが聞こえる。

 

 

 今まで見てきた治美は、いつでも穏やかで感情の起伏が少ない人だった。ここまで大きな声を出し、涙を流すのは築久にとって意外なことだった。

 築久はてっきり、

 

 

『そう、よかったわね』

 

 

 程度で終わるかと思っていたのだ。自分のことでここまで喜んでくれるなんて思ってなかった。

 

 

 「え、ちょ、泣いて……!?」

 《もう、慌てないの!ふふ……!》

 

 

 治美は築久の慌てように思わず笑ってしまう。涙もおかげで引っ込んだようだ。

 

 

 《……ふぅ。少し落ち着いたわ。さて、改めて合格おめでとう。緑谷君》

 「はい、ありがとうございます」

 

 

 いつもの落ち着いた口調に戻る治美。

 

 

 《私からは応援することしか出来ないけど、きっとあなたなら、素晴らしいヒーローになれるわ》

 「っ!……はい!」

 《じゃあ、もう夜も遅いし、切るわね》

 「はい。ありがとうございました」

 《いいえ、大丈夫。────頑張ってね。奈生ちゃんのヒーロー》

 「がんば……って!奈生ちゃんってどういう!?あ、ちょっと!治美さん!治美さん!?」

 

 

 最後にとても気になることを言い放ち、治美は電話を切ってしまった。

 

 

 「なんでそこであの子の名前が出てきたんだ……!?」

 「き、築久ぅー!!お母さんの涙が止まらないからタオル取ってきてー!!」

 「あー!了解了解!ちょっと待ってろ!」

 

 

 こうして、合格通知の届いた緑谷家の夜は、喜び、絶叫、涙、そして困惑に彩られて過ぎていった。

 

 

 




爆豪の成績プチ強化。やっぱかっちゃん一位じゃないと。
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