No.7
穏やかな暖かい風に包まれながら、桜が舞い散る美しい情景を生み出している。
ヒラヒラと緩やかに舞い、最後には道路を桜色に変え、若人は真新しい靴でその上を歩く。
春。ある者は新しい制服を、ある者は新しいスーツを着て、新天地に足を運ぶ季節がやってきた。
「おーい!出久ー!早くしろよー!」
「わ、わ、ちょっと待って!」
「二人とも!忘れ物ない!?ハンカチは!?ハンカチ!ケチーフ!」
「大丈夫だって!」
グレーの上着に紺色のズボン、そして赤色のネクタイ。二人は、国立雄英高等学校の制服を着て玄関に立っていた。
「もう時間ないって!早く!」
「もう行ける!行こう!」
「あ!出久!築久!」
「なに!?」
「なぁにぃ!?」
「二人とも、超かっこいいよ!」
母の言葉に二人ははにかむ。
「「……行ってきます!」」
今日は、雄英高校での生活が始まる日だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
たったったっ、と小走りで急ぎながら、二人は目的のクラスに向かっていた。
「やっぱ広いな雄英……!」
「Aクラスってどこだ!?」
「もうちょい先……!」
広々とした廊下は、二人が並んで走っても随分と余裕がある。
「つ、着いた……!」
「ドアでっか……!」
「バリアフリーってことだね……!」
「さっさと入るぞ!」
「え、ま、まだ心の準備が……!」
ドアは馬鹿みたいに大きく、異形型の"個性"持ちの人たちに対する配慮が見られる。
築久がドアに手を掛けると、意外にもすんなりと開いた。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!」
「思わねーよ!てめーどこ中だよ端役が!」
折寺中のNo.1ガキ大将の爆豪と、眼鏡をかけた真面目そうな青年が言い争っていた。ドアを開けた第一の光景がこれに築久は少し呆れるが、すぐさまニヤリと口を歪ませた。
「おう!初っ端から飛ばしてんな勝己!なんだヤンキーかお前!」
二人に物怖じすることなく、築久はその間に割り込んでいった。一方の出久はあわわわわわわ……!と何やら顔を青くさせている。
「ああ゛!?んだてめーかよ!!なんだそのカチューシャ気持ちわりぃ!!」
「あ!?何が気持ちわりぃだこの野郎!!これは"個性"のためにつけてるだけだっつの!!燃やすぞ!!」
「やってみろよライター野郎!!ぶっ殺してやっからよォ!!」
「や、やめないか君たち!ここは神聖かつ最高峰の学び舎だぞ!てか口ひどいな!本当にヒーロー志望か!?」
割り込んだ矢先に口喧嘩を始めてしまった爆豪と築久。眼鏡の青年はその二人の口の悪さに驚き、ヒーロー志望であることを疑ってしまっている。
やがて二人は口喧嘩をやめ、ギロギロと睨み合うだけになった。眼鏡の青年は一息つくと、ドアの前に立っていた出久に気付く。
「ん?君は確か……」
「あ、あああの!僕緑谷!え、えっと……!」
「ぼ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」
腕をカクカクと奇妙に動かしながら、飯田は出久に自己紹介した。
先程まで築久と睨み合っていた爆豪は、飯田が聡明中学出身と聞いた瞬間、すぐに反応した。
「聡明ぃぃぃ?くそエリートだなぶっ殺しがいがありそうじゃねーか!」
「ぶっ殺し!?君本当はヴィランとかじゃないよな!」
「なわけねえだろぶっ殺すぞ!!」
「また!?」
飯田は今度はヴィランではないかと疑ってしまった。さすがにこれには爆豪も否定するが、印象がさらに悪化してしまっていることは言うまでもない。
築久はそんな二人の間をスルッと抜けて、築久は自分の席を探し始める。とは言っても、名前順で並べられているので、爆豪の後ろ二席が双子の席であることがすぐに分かる。
「んじゃ俺はもう一つ後ろか。よっと」
荷物を降ろして椅子に座ると、築久はキョロキョロと辺りを見渡し始めた。
「んー……。おっ」
探していた人物を発見すると、築久はひらひらと手を振る。
築久の探していた少女、耳郎響香もこちらに気付くが、すぐに顔を背け、イヤホンジャックだけをひらひらと振って応えた。
出久は未だ席に着いておらず、入試の時に出会ったであろう女子と会話を弾ませていた。
「あいつ女子と喋るだけであんなに真っ赤になってら」
「おい」
「あ?なんだよ勝己」
築久が出久の観察に勤しんでいると、爆豪が後ろを向いて築久に話しかけた。
「お前、デクがなんで受かっ……」
「あ、先生っぽいの来たぞ。てか小汚いな」
「ああ?……チッ」
爆豪は舌打ちをして前を向く。
見ると、寝袋に包まれた小汚い人物が、ドアの前で横たわっていた。
その人物は出久たちに何やら注意をし、のそのそと教壇の前に立った。
「はい、君たちが静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠けるね」
そう一言言い放つ。
築久は思った。となると、彼の寝袋標準装備やあの小汚い格好も、合理性を突き詰めた結果なのだろうか。小汚いのはどうかと思うが、あまり気にしないことにした。
「1のAの担任になった相澤消太だ。さて……」
相澤は寝袋の中をゴソゴソと漁り始め、一着の服を取り出した。雄英の運動服だ。
「早速だが、全員これに着替えてグラウンドに出ろ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
"個性"把握テスト。自分の"個性"がどのくらい応用できるかを見るテストで、中学校まで行われていた体力テストに"個性"を使用してもいいというものだ。
爆豪は相澤から手のひら大のボールを投げ渡され、"個性"を使って投げろと言われる。円から出なければ、どう"個性"を使ってもいいらしい。
「んじゃまあ……死ねえ!!!」
(((……死ね?)))
BOOOOOM!!と爆風に乗って、ボールは凄まじい勢いで飛んでいった。
相澤が持っている測定器の記録によると、爆豪の記録は七〇五.二メートル。普通では考えられない大記録だ。
「まずは自分の最大限を知る……。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
入学式やガイダンスがなく、いきなりグラウンドだったため不満を募らせていた生徒たちは、それをすると分かると途端にきゃいきゃいと騒ぎ出した。
「"個性"使ってもいいの!?さすがヒーロー科!!」
「面白そー!!」
その言葉に相澤はピクリと反応し、彼の纏う雰囲気が殺伐としたものに変わった。
「面白そう……か。君たちは三年間そんな腹積もりで過ごすつもりかい?」
生徒たちの背中に悪寒が走る。相澤の逆鱗に触れてしまったことに気付いたようだ。
「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し────除籍処分としよう」
その言葉に生徒たちは騒めき始める。理不尽だ、無茶苦茶だ、などの声が聞こえるが、相澤はそれを無視する。
「除籍処分とかまじかよ……」
雄英のいきなりの洗礼に、築久は冷や汗を流す。
「生徒の如何は先生の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」
こうして、高校生活初日にして最初の試練が訪れた。
◇◆
「さてはて、一体どうするか」
築久はストレッチをしながら、五十メートル走の順番待ちをしていた。皆が"個性"を使い、凄まじい記録を出している。
「あの眼鏡の三秒はびびるわ。なあ出久」
「うえ!?あ、うん……そだね」
出久の顔は青く、汗の量も尋常ではなかった。
「お、お前大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ!多分……」
「多分て」
出久は除籍宣告にかなりびびっていた。さらに、不安なのかは分からないが、ぶつぶつと小声の早口で何か呟いている。
いつもの悪い癖か、と築久は気にしない。
そうこうしているうちに、二人の順番が来たようだ。
「うっし。やるか」
「…………」
築久は明るい顔で。しかし出久は暗い顔で、それぞれスタートラインに立った。
《いちについて……よーい、スタート!》
「っ!!」
「はっはぁ!!」
出久はだだっ!と勢いよく走り出した。鍛えたおかげで、いくらかスピードが上がったように感じる。
一方、築久は力強く足を踏み込み、前方に飛び込むように跳んだ。そのままくるりと宙で回転をし、後ろの景色が見えた瞬間、ボッ!と"個性"を発動した。
「のわあ!?」
「わりいな出久ぅ!!」
実技入試の時にも見せた、"個性"を使い推進力を得る手段。それを今回は、五十メートル走で応用したのだ。
築久は低空で飛んでいきながら姿勢を整え、見事測定器を過ぎるあたりで着地をした。
《三秒八九!》
「まあ、威力抑えりゃこんなもんか」
築久は頭から熱を放出しながらそう呟いた。出久は三秒ほど遅れてゴールをする。
出久は中学の頃よりは速くなったようだが、特に"個性"を使っている様子はなかった。
(奇跡的に発現した"個性"、使わねえのか……?)
出久の合格が判明してすぐ、"無個性"である出久がどうして合格できたのか疑問に思った築久と引子は、すぐさま出久に問い詰めた。
『奇跡的に"個性"が発現して、それで受かったんだ』
それだけ。出久はそれだけしか言わなかった。こちらとしても疑い続ける利点はなかったので、その日はそのまま終わった。
もしかすると、かつての自分と同じようにまだ制御が出来ていないのかもしれない。ならば仕方ないとは思うが、もう雄英での生活は始まっている。出来ない、で終わらせるわけにはいかないだろう。
(あいつがこっからどうするかだな)
築久は思考を打ち切り、次の種目の場所へと移動する。
第二種目は握力だ。
ここでは特に"個性"は使わない。築久はぐぐっ!と力を込めて握力計を握る。
「うーん、五十二か。あんま変わんねえな」
それなりに鍛えていたのだが、ここ十ヶ月は"個性"の訓練に時間を割いていたためにあまり伸びていなかった。
対する出久は五十六キログラム。前年度と比べると十六キログラムも伸びているが、顔色は芳しくない。
第三種目は走り幅跳び。
築久は、この種目が一番大きな記録を叩き出せると思っていた。口からの推進力で飛距離を可能な限り伸ばせるからだ。ただ一つ、懸念することがあったので、築久は相澤に質問する。
「先生!これ砂場からはみ出てもいいですか!?」
「いいからはよやれ」
「了解!」
築久はにやりと笑い、スタート位置に立つ。遅れて出久も築久の隣に立つ。
《よーい……スタート!》
「っしゃあ!」
威勢のいい掛け声と共に築久は走り始めた。その間に、もう周りの熱を吸収し始める。
砂場の踏切線ギリギリで足を踏み込み、築久は跳んだ。
「よっ!……ほっ!……はっ!」
気の抜けそうな声と同時に口から火を吹き出す。ボッ!ボッ!ボッ!と音が鳴り、落ちそうになる寸前で推進力を得る。
「うおお、あいつどこまで行くんだ!?」
「アクロバティックなやつだな」
しかし、いくら雄英が広いと言えども限界はある。特に、砂場のある場所はグラウンドの端の方で、すぐに行き止まりが見えてしまった。
「わわっと!……ふう。もっと行けたんだけどな」
《九十二メートル!》
走り幅跳びとは思えない数値であるが、築久は満足いっていない様子だった。
出久はまた"個性"を使わずにいた。顔から焦りが伺える。
第四種目は反復飛び。
築久と出久の両方が"個性"を使わずに挑戦した。
そして第五種目のソフトボール。
出久はいよいよ後がなくなっていた。皆が必ず一つは"個性"を使い大記録を出しているにも関わらず、自分は"個性"を使わず平凡な記録しか出せていない。
それもそのはず。"個性"の制御が未だ出来ておらず、身体が個性"に耐えられないのだ。実技試験の時は無我夢中で"個性"を使い、気絶してしまうほどの痛みを味わった。もう一度その危険を冒す勇気が出久にはまだなかった。
「緑谷君はこのままだとまずいぞ……?」
「確かに!大丈夫かなー?」
教室で出久と会話をしていた女子、麗日お茶子と飯田は出久を心配している。
「ったりめーだ!"無個性"のザコだぞ!」
「"無個性"!?君は彼が入試で何を成したのか知らんのか!?」
「え、何。出久ってそんなすごいことしたんか」
「双子の君も知らないのか……。直接聞いたりはしなかったのかい?」
「受かったことに浮かれてたし、特にいいかなって」
「適当だな君は……」
三人が会話をしている間に、出久は投げるモーションに入った。右腕は赤く発光している。
ついに"個性"を使うようだ。
「お!やっと"個性"が見れ……る?」
ポーン、とボールは跳ねて、相澤の手元に記録が表示される。その記録、四十六メートル。
「な、なんで……!今確かに使おうと……!」
「俺の"個性"で消した」
使おうとした"個性"が発動しなかったことに狼狽える出久。それに相澤は、消したとだけ言い放った。
「つくづく合理性に欠くよ、あの入試は……。お前のようなやつも合格できてしまう」
相澤の"個性"は抹消"。見た者の"個性"を消すことが出来る強力な"個性"だ。それを使い、出久の"個性"の発動を消したのだ。
相澤は出久が"個性"を制御できていないことをとっくに見抜いていた。それを承知で最初は泳がせ、焦って"個性"を使う時を待っていた。
制御も出来ないのにヒーローになることなど無理な話だ。一人は救えても、それで動けなくなるのならばただの役立たずだ。
半端な夢を追わせるほど残酷なことは無い。相澤は出久に、事実上の除籍勧告をした。
相澤は出久にボールを手渡し、二度目のボール投げをするよう言った。
「あらら、あいつもやっぱり制御できてねえのか」
「さっきからどいつもこいつも訳わかんねえ事言いやがって……!あいつは"無個性"なんだよクソが!」
「なんか奇跡的に"個性"発現したらしいぞ」
「は?……なんっだそりゃ」
"個性"の発現は四歳まで。これがこの世界の常識となっていた。それ故に、爆豪は築久の言う事が信じられない。
「いいから見とけよ。見てりゃ分かんだろ」
「チッ!」
爆豪は舌打ちだけをし、出久の方に視線を向けた。
出久は追い詰められているようで、ぶつぶつと呟く悪い癖が出ていた。
やがて決心がついたのか、出久は投げるモーションに入った。それを見る相澤の目は冷たい。完全に見限った目だった。
「見込み……」
出久は腕を振りかぶった状態でも"個性"を発動しない。
(僕は人よりも何倍も努力しなくちゃならないんだ!オールマイトから受け継いだこの"個性"を制御するためにも!お母さんの応援に応えるためにも!そして何より!)
「なしだ……」
パリパリッ!
出久はボールが指から離れる瞬間、指先に"個性"を発動させた。
制御の出来ない出久が出来る最大限の最小限。木偶の坊にならないための苦肉の策。
これが今、出久に出来る全力。
(────築久と一緒に!ヒーローになるんだ!!!)
「SMASH!!!!」
ゴゴウッ!!!
ボールは強化された指に弾かれ、凄まじい速度で空に飛んでいった。
相澤の手元に表示された記録は七〇五.三メートル。爆豪の記録を、僅かながらに上回っていた。
負荷に耐えられずバキバキになってしまった指。その痛みは凄まじい。だが、涙を目に貯めながら出久は言う。
「先生……!まだ、動けます!」
「こいつ……!」
自分は木偶の坊になんてならない。その決意がありありと見て取れた。
相澤は、この土壇場で最良を引き出した出久に興味が湧いた。本当にするつもりだった最下位除籍。少なくとも、それを取り止めにしようと思えるくらいには。
「……あとがつっかえる。次」
相澤はそれだけ言って終わった。
出久は痛みに耐えながら円の中から出る。その瞬間、爆豪が出久に向かって猛然と走り出した。
「こらデクどういうことだ訳を言えてめっ……!」
「何してんだよドアホ」
「おぉぉい……!!同じ土俵に立ったからっつってあんまり調子に乗ってんじゃねえぞぉ……!!」
だが、今の築久はそれをそのまま放置する男ではない。爆豪の運動服の襟首を掴んで引き止めた。
爆豪の顔はもうヒーローと呼べない極悪な顔となっていた。
爆豪は手から"個性"を発動させながら築久を威嚇するが、それを見ても築久は動じない。
「次は俺の番だっつの。少し落ち着け」
「そういう意味で走ったんじゃねえよ殺すぞ……!」
相澤はただ傍観する。
「まあ、俺が"個性"使う必要ないなら構わん。ドライアイだからな」
強力な"個性"にもしっかり弱点はあったらしい。なんだか切ない弱点である。
築久の制止により少しは冷静になったのか、爆豪は出久を睨みながらも動く様子はない。
築久はボールを持って円の中に入った。
「先生!ボールが円の外に出た時点で"個性"を使っちゃだめですか!」
「だめだ。"個性"使えんのはボールも自分も円の中の時だけだ」
「了解!」
築久は条件を確認し終えると、早速投げる準備に入る。周りの熱を吸収し、いつでも"個性"が発動できるようにしておく。
「はよしろ」
「じゃあいきまーす」
築久はボールを下から上に投げる。円からはまだ出ていない。
ボールはそのままふわりと宙に浮き、落下し始めた。その瞬間、築久は"個性"を発動する。
ボッ!と音を立ててボールは吹っ飛ばされる。そのままぐんぐんと距離は伸びていき、勢いそのままに地面に落下した。
「……六九七.一メートル」
「ぬあああ!勝己と出久の記録より下か!」
地団駄も踏む勢いで悔しがる築久。その姿は、中学三年の始めまで爆豪に見せていた姿そのままだった。
◇◆
その後の種目はつつがなく終了し、いよいよ成績発表の時間となった。
「んじゃパパッと成績発表」
合理性に欠けるから、と口頭での説明はせず、投映機で一括開示する。
「ちなみに除籍は嘘な。君たちの最大限を引き出す合理的虚偽」
サラリと告げられた真相。生徒たちはこれでもかと驚愕した。真面目な飯田はもちろん、出久などもう除籍されてしまうことばかり考えていたのだ。とてつもない衝撃だ。
もちろん、最初は本当に除籍をするつもりでいた。だが見込みはゼロではないと判断したため、合理性を盾に前言を撤回したのだ。
驚いている面々を尻目に、築久は順位を確認する。
「ぐ、ぬ……!六位かよ……!」
上から数えて六番目に築久の名前があった。その結果に満足していない築久はとても悔しがっている。満足していない大部分は、爆豪に負けているという部分なのだが。
出久の結果は言うまでもなく二十一位。最下位だった。記録といった記録がボール投げのみなのだ。収まるべくして収まった順位だろう。
「緑谷兄。
「は、はい」
保健室利用書、と書かれた紙を手渡される出久。
「なら、今日はこれで終了だ。授業とかのガイダンスが教室にあるから目ぇ通しとけ」
そう言って相澤はさっさと校舎に戻っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「な、なんか凄く疲れた……」
「それがあのばあさんの"個性"だろ?仕方ねえよ」
指の治療を終えた出久は築久と合流し、帰路についていた。出久はリカバリーガールの"個性"によって体力を持っていかれ、ヘトヘトになっている。
「指は大丈夫かい?」
「わ!飯田君!うん、ほら。この通り」
「おお!さすがは最高峰。こうまで綺麗に治してくれるのだな」
飯田はことある事に雄英を最高峰と呼び、神聖視しているように見える。真面目もここまで来ると中々面白くなるものなのだな、と築久は感心していた。
「お三方ー!駅まで?ちょっと待ってー!」
「君は無限女子」
「無限女子て。いやそうだけども」
「麗日お茶子です!ええっと、飯田天哉君に、緑谷デク君!あともう一人はー……ヤンキー君?」
築久はとても不名誉な覚えられ方をしていた。一番最初に爆豪と張り合ったことが原因なのだろう。出久も出久で蔑称を覚えられてしまったようで、少し困惑していた。
「あ、あの、デクっていうのはかっちゃんが馬鹿にしてつけたあだ名で、本名は出久っていうんだけど」
「へー!そうなんだ!でも私、なんだか頑張れ!って感じがして好きだ!それ!」
「デクです」
女子に褒められて顔を真っ赤にし、くるりと手のひらを返した出久。とてもちょろかった。
「ヤンキーはやめてくれヤンキーは。俺は緑谷築久だ。よろしく」
「ん?緑谷……。双子?」
「おう。あんま似てないけどな。俺のことは緑谷でいいぞ」
「うん、分かった!よろしく緑谷君!」
麗日はニカッと笑顔で応えた。出久は未だ顔を赤くしている。
「ならば俺は二人のことをなんと呼べばいいだろうか。出会ったその日に下の名前を呼ぶのは気が引ける」
飯田は真面目さが災いし、緑谷兄弟をどう呼べばいいか困っているようだ。
「相澤先生みたいに緑谷兄とか弟とかで呼べばいいんじゃないかな?さっきも相澤先生にそう呼ばれたし」
「俺もオールマイトから弟少年って呼ばれてたしな。呼び方はなんでもいいよ」
「ふむ……。ではその呼び方を採用させてもらおう。よろしく、緑谷兄君。緑谷弟君」
「ぶはっ!呼びにくそう!」
記念すべき高校最初の友達と一緒に下校する出久を見て、築久は少し安堵する。
だが、築久の中には一つだけ出久に聞きたいことがあった。
────うちの家系、増強系の"個性"持ちの先祖っていたっけ。
少しの違和感を抱えたまま、築久は三人と一緒に下校した。
耳郎ちゃんと絡めたかったけどまた別の機会に持ち越し……。
※誤字修正させてもらいました。
相澤の琴線に→相澤の逆鱗に
誤字報告ありがとうございます。