雄英高校に入学して二日目。A組は初日に早速与えられた試練を乗り越え、いよいよ通常の授業に取り組む。
午前中は他の学科と同じく一般科目の授業である。とはいえ、ヒーロー科に関しては教師がヒーローのため、完全に同じとは言えないかもしれない。
「えー、じゃあ次の四つのうち、間違ってるのは?」
たった今英語の授業を行っているのはプレゼント・マイク。入試概要の説明の時とは打って変わって普通の人のように見える。
(普通だ)
(普通だ)
(くそつまんね)
(関係詞の場所が違うから……四番!)
生徒もプレゼント・マイクの普通ぶりに内心で突っ込んでいる。それを察したのか、プレゼント・マイクは急にテンションを上げるが、取ってつけたようにしか見えなくなってしまった。
そして午後、いよいよヒーロー科特有の授業、ヒーロー基礎学が始まる。
「わーたーしーが!!普通にドアから来た!!」
「うおお、オールマイト!」
「本当に教師なんだ!」
勢いよくドアを開け、オールマイトが教室に入ってきた。銀時代のヒーローコスチュームを身に纏い、悠々と教壇に立つ。
画風が違うと評されるその姿はまさしくNo.1ヒーロー。A組生徒の皆の目が釘付けになっていた。
「さて、午後から行うのはヒーロー基礎学!ヒーローの素地を作る最も大事な授業だ!単位数も最も多いぞ!」
オールマイトは懐をゴソゴソと漁り、『BATTLE』と書かれたカードをぐいっと突き出す。
「早速だが今日はこれ!戦闘訓練!」
その言葉に、生徒はざわざわとざわめく。
「そしてそれに伴って……こちら!君たちが送った"個性"届けと要望に沿って作られたコスチュームだ!」
オールマイトがリモコンを操作すると、教室の左前方が動き出し、番号の振られたケースが収まっている棚となった。
「うおお!コスチューム!」
「早速着られる!」
生徒はコスチュームが早くも着られることに興奮する。オールマイトはそれを制しながら告げる。
「ではこれに着替えて、グラウンドβに集合だ!」
「「「はーい!!」」」
「よし、では一旦解散!」
オールマイトがそう言った瞬間、皆が棚に集まり自分の出席番号が書かれたケースを手に取り、更衣室に向かっていった。
更衣室に着いた出久と築久は、それぞれのコスチュームについて話していた。
「出久はお母さんお手製のやつか」
「うん。築久は要望を送ったんだったよね」
「お母さんが俺の分も作るってなったら色々値が張るだろ。素材の関係で。……しっかし、お母さん手先器用だよなあ」
「すごいよね、これ!僕がノートに書いてたコスチュームそのままだもん!」
出久は母お手製のコスチュームをバッと広げる。
築久はてきぱきと着替えながら話しているが、出久はなかなかのろのろとしている。
「そういや"個性"届けとかはちゃんと送ってんだよな」
「一回役所に行って情報を更新してもらわなきゃならなかったけどね。築久も更新したの?」
出久は"無個性"だったので当然更新する必要があったが、築久も登録した情報とは異なっている。しかし出久は、築久が役所に行ったとかの言葉を聞かなかったので、出久はこの際に築久に聞いてみることにした。
「ああ。病院に通い終わって、個性限定許可証を返す時にそのまま更新したよ」
「へー、そうだったんだね」
よし、と呟くと、築久は椅子から立ち上がる。
「先行っとくわ」
「え、もう着替えたの!?」
周りの男子生徒たちは既にほとんど着替え終わっており、更衣室からゾロゾロと退室していた。
出久はやばいやばい、と焦りながら着替える。
「しっかしすげえなこの再現率。要望そのままじゃん」
築久のコスチュームは、主に下半身を重点的に補助するものとなっている。
まず手のグローブとレッグアーマーはそれぞれ耐熱性で、腰と肘には小型のブースターが装備されている。空中にいる時に小回りが利くようにという考えだ。さらにブーツは衝撃を吸収する素材で作られ、着地の際の負担が減るようになっている。
上半身は動きを阻害しないよう身体にぴったりと合う半袖のウェアを着ており、その上に燃焼器官の温度上昇を防ぐための冷却機能付きのジャケットを装備している。そのジャケットに、築久の"個性"である火の模様が添えられており、製作者のアレンジが光っていた。
そして目の乾燥を防ぐための耐熱ゴーグル。首から背骨にかけては、口からの推進力を得る際に発生する衝撃を緩和する装置を装着している。
全身が紅い、火の象徴のようなコスチューム。イメージ通りの出来に、築久は大変満足していた。
グラウンドβには、既に女子生徒も集まっていた。皆が皆、個性的なコスチュームを身に纏い、堂々と立っている。
少し遅れて出久が走ってグラウンドβに到着した。オールマイトをオマージュしたコスチュームに、築久は少し苦笑いする。
オールマイトはすぐに現れた。
教師としてはまだまだ新米のようで、生徒たちからの質問責めに戸惑ったり、今回の訓練の説明をカンペを見ながら説明したりと、テレビからでは見られない一面を見ることが出来た。
訓練の内容は屋内での戦闘訓練だ。ヴィランが核兵器を持って屋内に閉じこもっており、ヒーローはそれを奪取するという設定で、抽選で二人一組に分かれて行う。
持ち物は小型無線機に建物の見取り図、そして確保証明のテープだ。テープを巻き付けることで確保となり、確保された者は行動不能となる。
「さて、では抽選を始めるぞ!」
オールマイトはごそごそと箱の中を漁り始め、テキパキとペアを決めていく。
「お、耳郎か」
「よろしく緑谷」
築久のペアは耳郎だった。知り合いと組めたことに築久は少し安堵する。ほぼ初対面とペアを組むとなると、不安になるのは仕方ないことだろう。
出久は麗日とペアになった。築久としては、出久が女子とちゃんと会話できるかが心配だった。何せすぐに顔を赤くしてしどろもどろになるのだ。心配しない方がおかしい。
爆豪は飯田とペアになった。飯田は少し気まずげな顔をして爆豪の元に向かうが、爆豪は一睨みして何も喋らない。飯田は思わずため息をついた。
一人だけ余ってしまった小柄な少年、峰田実は絶望顔で立ちすくんでいたが、再抽選してペアを組むとオールマイトからフォローが入っていた。
「では一番最初に演習を行うペアを決めよう!最初はー……!」
オールマイトは新たな箱を取り出し、ごそごそと漁り始めた。
最初の演習の一番手。生徒たちはごくりと唾を飲む。
「ヴィランチーム爆豪・飯田ペアと、ヒーローチーム緑谷兄・麗日ペア!」
緑谷出久と爆豪勝己。
十数年の確執を持つ二人が、早速ぶつかることとなった。
◇◆
爆豪は核兵器のオブジェクトの前に仁王立ちしていた。その雰囲気はやけに落ち着いていて、飯田は違和感を覚えた。
「おい、クソ眼鏡」
「クソ眼鏡っ!?俺の名前は飯田天哉だ!」
「デクは、"個性"持ってんだな?」
「無視か!ああ、入試の時には驚かされた……というか、彼が言っていたじゃないか。『奇跡的に発現したらしい』と。本当にそうならとんでもない話だが、双子の弟が言っているんだ。信憑性は高いはずだが」
「……そうかよ」
爆豪は静かに考える。
出久は自分を十数年も騙し続けていたのか。しかし、築久は奇跡的に発現したと言っている。いや、もしかすると築久もグルで自分を騙していた可能性だってある。
そうだとしたら、と想像すると、腹が煮えくり返るようだった。今すぐにでも駆け出して出久を問い質しに行きたい。
だがもし本当ならばどうだ。確かに出久は"個性"の制御が出来ておらず、指を腫らしていた。あの時は冷静でいられなかったが、よくよく考えると、昔から"個性"が発現していたならばもっと身体に馴染んでいるはずだ。いくら超パワーな"個性"でも例外はない。
考えれば考えるほど、蟻地獄に飲まれる感覚に陥る。爆豪は思考を振り切る。
「考えてもらちあかねえ」
爆豪はパァンッ!と手のひらを拳で叩いた。
「今から確かめりゃあいい話だ」
爆豪は後ろにいる飯田の方を振り向かずに告げる。
「おい、ここで守備してろ。俺が一人でぶっ潰す」
「いきなり何を言い出すんだ!これはペアで臨む演習だぞ!俺たちの"個性"を照らし合わせて、最善を尽くすのが最もな手段だろう!」
「黙って守ってりゃいいんだよ。俺に指図するな」
「爆豪くん!」
爆豪の横暴な言い振りに、飯田は業を煮やしたように声を荒らげる。しかし爆豪は聞く耳を持たず、ただ始まるのを待っていた。
「……そろそろか。せいぜい守っとけよ」
「あ、おい!話はまだ……!」
爆豪は飯田の話を聞かず、部屋から飛び出してしまった。
「勝手に飛び出して、なんなのだ本当に!」
◇◆
「……よし。潜入成功」
出久・麗日ペアは、建物の窓からの侵入に成功していた。
敵がどこに潜んでいるか分からない。なるべく足音を立てずに歩いていく。
「死角が多いから気をつけよう」
「うん……!」
中はさながら迷路のように分岐点が多く存在している。見取り図があるため迷うことはないが、角から急に襲われる可能性は十分にあった。
制限時間は十五分。その間に核兵器のある部屋を突き止め、なおかつ回収しなければならない。ヒーローチームに圧倒的に不利な条件である。だが、理不尽を覆してこそヒーロー。そしてそれを体現したような存在が今まさに自分たちを見ている。
情けない姿は見せられない、と出久は心を引き締める。
慎重に、かつ素早く探索する。
そして何度目かの角に差し掛かるといった時に、タッタッタッ!と足音が聞こえた。
(きた……!)
出久は角から飛び出してくる人物を瞬時に予測した。
「麗日さん!危な……!」
BOOOM!と爆破音を手のひらから発し、爆豪が飛び出してきた。
奇襲という王道ではない戦法。だが、実戦においては単純ながらとても効果的な戦法である。
「チィッ!」
「くそっ!掠った……!」
コスチュームの顔の部分に爆破が当たり、素顔が早くも露になる。
「デク君大丈夫!?」
「大丈夫……!」
麗日は出久を心配するが、出久の目線は飛び出してきた爆豪から離れない。
「おいデクぅ……!てめえにゃ聞きてえことがたっぷりあんだよ……!だから大人しく倒れとけや……!」
出久はビリビリとした威圧感を感じた。腰が引けそうになるが、ぐっと下唇を噛んで無理やりこらえる。
「麗日さん!行っ……!」
「行かせるわけねえだろうが!!」
BOOOOOOM!
爆豪は出久と麗日諸共を巻き込むほどの大爆破を繰り出した。その衝撃で出久と麗日は後ろへ吹き飛んでしまう。
「いったた……!」
「てめえは邪魔だ、すっこんでろ」
「えっ?うそ、はやっ……!」
尻餅をついて状況を確認しようとした麗日だったが、爆豪は爆風に紛れて麗日の眼前に迫っていた。麗日は慌てて逃げようとするが、それをさせる爆豪ではない。すぐさま押さえつけて腕に確保証明のテープを巻いた。
「デクくんごめん!」
「い、いや!大丈夫!」
出久はなんでもないように振る舞うが、その内心はとてつもなく焦っていた。
(計算を間違えた!かっちゃんがこんなにも冷静に対処してくるなんて!)
出久は、爆豪が麗日のことを無視して自分に突っかかってくるとばかり思っていたのだ。そのために頭の中では覚えている対処法を既に引っ張り出していたのに、この状況は想定外だった。
「おい飯田ァ。茶髪女確保だ」
《……む!なに!?は、早いな……!》
爆豪は無線で飯田に報告をしていた。飯田は爆豪が律儀に報告をしてくるようには思えなかったので、反応が遅れる。
「クソナードよぉ」
「っ……!」
ゆらりと出久の方を向く爆豪に、出久は構えることで応える。
「俺を騙してたのか」
「……え?」
「そんな馬鹿みたいに強い"個性"を俺に隠して持ってたのかって聞いてんだ!」
出久に向かって爆豪は吼えた。出久は答えるべく口を開こうとするが、爆豪の言葉はまだ終わっていなかった。
「あいつは奇跡的に発現したとかなんとか言ってたけどよぉ、グルで俺に隠してたんじゃねえのか!?」
「っ!違う!そんなことするわけないじゃないか!」
「あいつもあいつでやたら派手な"個性"だ……!二人で俺を嘲笑うのは楽しかったか!!ああ!?」
「かっちゃん……!」
道端の石ころ同然の存在が急に自分と同じ土俵に上がってくる。後にオールマイトからも自尊心の塊とまで評されるほどの爆豪が、ストレスを感じていないわけがなかった。
出久は何も答えられなかった。答えようとしても、何と答えたらいいか分からなかった。約一年前までは無個性、社会における最下層の人間だったのだ。プライドが高く、強者である爆豪の心情など推し量れるはずもなかった。
「何とかァ……!!!」
いつまでも答えない出久に苛ついた爆豪は、右手から"個性"を発動させて襲いかかった。
「言えやァ!!!」
「ぐっ……!?」
BOOOOOOM!と腕を横薙ぎに振るって爆破を放ち、爆風を主軸に相手にダメージを与える面攻撃。身体を鍛えてはいるものの、ほぼ"無個性"の時と変わらない状態である出久に、この面攻撃を回避する術はなかった。
爆風の勢いのままに後ろへ吹き飛ぶ出久に、爆豪は追撃をしようとさらに接近する。
「オラァ!!」
「!」
爆風の推進力で加速したまま、右拳で殴り掛かる爆豪。その一瞬を、出久は見逃さなかった。
瞬時に体勢を立て直した出久。そのまま迫ってくる爆豪の右腕を掴み、身体を回転させながら地面へと───
「んゔっ!!!」
「ガハッ!!」
───叩きつけた。
相手の推進力をも利用したあまりにも華麗なカウンター。彼の異常とも言える情報収集が、ここにきてしっかりと活きている。
苦悶の声を上げながらゆっくりと立ち上がる爆豪に、出久は啖呵を切って叫ぶ。
「僕はいつまでも出来損ないのデクなんかじゃないぞ……!僕は、頑張れって感じのデクだ!!」
「ビビりながらよぉ……クソナードが……!」
◇◆
「ど、どっちもすげえー!」
「緑くんよく反撃したねー!武術の達人みたいだったよ!達人!」
「でも美しくないよね☆」
モニタールームでは、初戦から白熱した戦いを見せられた生徒達が盛り上がっていた。
類希な戦闘センスと汎用性の高い"爆破"という"個性"を持つ爆豪と、それに"個性"を使わずに渡り歩く出久。彼らが盛り上がるのも当然の戦いぶりである。
「でもなんで緑谷は"個性"使わねえんだ?」
「そりゃあ、リスクが高すぎるからに決まってんだろ!一回使っただけでバキバキになる"個性"なんて怖くて使えねえよ!」
「たしかにあたしもあんなリスキーな"個性"安易に使おうってならないかなー」
各々が出久の"個性"について話している中、築久は静かに彼らの対決を観戦していた。
(出久が昔から"個性"を持っていなかったのは確かだ。一番近くで見ていたから間違いない。だけど中学生の年齢で"個性"が発現したなんて事例は聞いたことがない……。もしや出久は昔から"個性"を発現させていた?あの超パワーは幼い頃から無意識に抑え込んでいたのか?)
築久は昨日、家に帰ると自らの家系がどのような"個性"を持っていたのか、母の引子に質問していた。増強系の"個性"持ちが先祖にいるのならば、出久の"個性"は先祖返りで説明がいくのだが、
『ウチの方は物に干渉する"個性"持ちばかりで、お父さんの方も火に関する"個性"だったり口から何か出したりする"個性"持ちが多かったらしいけど……。急にどうしたの?……増強系の"個性"?そうねえ……。いるって聞いたことはないわねえ。お父さんの家系は詳しくないから、もしかしたらそっちにいるかもね?』
緑谷家の父は海外出張で仕事が忙しく、SNSも使わないタイプの人間のため、結局詳しいことは分からないままであった。判明したのは、先祖に増強系の"個性"持ちがいる可能性は低いということ。だがそうなると、さらに出久の"個性"に疑問が浮かび上がる。
(なおさらおかしな事になるが、"個性"は身体の一部……。なら突然変異ということもありえるっちゃありえる。けど、なんか腑に落ちない)
ただの増強系ならともかく、身体を破壊してしまうほどの力だ。突然変異でそこまで強力なものが宿るものなのだろうか。築久は思考を深めていく。
しかしその瞬間、ビル全体が大きな振動と轟音に包まれた。
◇◆
出久は、大きく穴が空いたビルの端で、恐怖に震えていた。
「そんなの……ありかよ……!」
視線はただ正面に向いている。
「はは……ッ!こいつぁいいや……!」
この惨状を作り上げた元凶、手榴弾型の篭手を正面に構えた体制の爆豪が、歓喜に打ち震えている。そこにヒーローの面影などなく、ただ気に入らないものをぶち壊すだけの子供のようだ。
「"個性"使えよデク……!全力のテメエをねじ伏せてやる……!」
ここで爆豪の"個性"を詳しく説明しよう。
彼の個性は"爆破"。手の汗腺が変異しており、ニトロのような汗を出すことが出来る。その汗によって爆発を生み出すことが可能になっている。彼の個性の強みは、爆発の源が汗であるということ。汗は動けば動くほど分泌されるものだ。彼の身体能力の高さとそのタフネスさによって、個性にとてつもない持久性を生み出している。さらに、その汗は溜まれば溜まるほど威力を増す。
つまり爆豪は、高い火力を持ちながら持久戦にめっぽう強い。
立ち回りをひとつでも間違えれば、出久に勝ち目はないのだ。
(麗日さんはもう確保されてる……!ヒーローチームが勝つにはまずかっちゃんを僕が確保しないと……!でも出来るのか!?今のかっちゃんははっきり言ってイかれてる!ヒーローの体裁なんて関係なく突っ込んでくるはず!どうすれば……!?)
「どうしたデクぅ!!まだ動けんだろぉ!?個性使ってこいや!!上からねじ伏せてやっからよォ!!」
この状況を打破すべく、出久は思考を深くする。爆豪の言葉などもはや聞く暇すらなかった。
それを爆豪は無視と捉えたのか、篭手をガコンッ!と変形させ、第二射を放とうとしていた。
「おい無視かよすっげえな!」
《ストップだ爆豪君!次それを撃ったら失格とする!屋内戦での大規模攻撃は、ヒーローとしてはもちろん、ヴィランとしてもアウトだ!己の牙城を崩してどうする!?次撃ったら失格だ!いいね!?》
オールマイトの制止により、篭手に溜まった汗を放つことはなくなった。出久は少しだけ安堵するが、危機的状況には変わりなかった。
制止されたことで苛立ちが増したのか、爆豪の顔が険しくなった。
「───アアアアアア!!クッソが!!だったら近接だ!!」
BOOM!と爆発を推進力に変え、爆豪は出久に急接近する。とてつもないスピードに出久は反応できず、懐に侵入を許してしまった。
(来るっ!!右手の大振り……っ!)
「二度も同じバカやらかすかよォ!!」
右手を大きく振った殴打と予測したが、爆豪はこれを逆手に取った。目くらましと軌道変更のための爆破を起こし、出久の背後を取ったのだ。
爆豪を見失った出久は、一瞬思考が停止した。その一瞬が、彼にとっては大きな隙であった。
「てめえの大好きな大振りだァ!!」
「うぐぁっ!」
出久の背中に強烈な殴打が襲いかかった。前方に吹き飛び、出久は受け身を取ろうとするが、爆豪はさらに追撃しようと個性を使い迫ってくる。
(こうなったら、やるしか……っ!けどまだ調整なんて……!)
「もういっちょいくぜェ!?」
「っ!!くそっ!?」
爆豪の個性による攻撃に、出久は腕を上げて顔から腹にかけてガードする姿勢をとった。
「オラオラオラオラオラァ!!!どーしたデクゥ!!守ってばっかでよォ!!ちったあかかってこいや!!」
(こうなったら個性を使うしか!けど、僕はまだ調整なんて出来ない!何か、オールマイトの持つ技で殺傷力の弱いものは……!)
ガードしながら思考するも、爆豪は一向に攻撃を緩めない。寧ろ汗をかいたおかげで、より攻撃が熾烈になってきている。
出久の腕は既にボロボロで目も当てられない状態だ。もう残された時間も少ない。出久には、ほんの少しも余裕はなかった。
(僕が直接攻撃を行う技じゃだめだ!オールマイトのパワーで殴るなんてしたら、かっちゃんは死んでしまう!だとするとこのパワーを生かして衝撃波を起こす技しかない!一発勝負なんだ!なるべく広範囲で、なおかつ一撃で相手をダウンさせることができ、だけど殺傷力が低い技!!)
「そろそろ終わらせてやんよデク!!」
(右のっ大振り!!!)
爆豪に生まれた余裕からくる隙。それは散々出久に突かれていた自らの弱点、『右の大振り』であった。身体をズタボロにしながらも、出久はその隙を見逃さなかった。
「ぐぬっ!!」
「なッ───デクッッ!!?てめえ───」
「DELAWARE SMASH!!!」
出久は爆豪の攻撃を見事に躱した。突然攻撃を躱された事で、爆豪は大きく体制を崩してしまう。このタイミングで、出久は個性を発動させる。
指にのみ個性を発動させ、デコピンの要領で生まれた衝撃波は、空中にいた爆豪をいとも容易く吹き飛ばした。
ミシミシと建物全体が軋み、衝撃波を受けた壁には大きな亀裂が入る。
この恐ろしい程に強大なパワーを一身に受けてしまった爆豪は、そのまま壁に叩きつけられた。床にドサリと力なく落ちていき、そのまま動こうとしない。
「ぐ、グゾナードがァ……!!」
少なくとも爆豪は今、動ける状態ではなかった。それに対し出久は、指を腫らしているものの、ソフトボール投げと同じようにまだ動ける状態。
誰から見ても、勝敗は決していた。
「か、勝った……?僕が、かっちゃんに……?」
───緑谷出久が、初めて爆豪に勝利した瞬間である。
続きは全く書いてないので更新未定です。