双子のヒーローアカデミア   作:壁丼

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でけた……。


No.9

 

 屋内訓練を行っているビルの地下、モニタールームではどよめきが起こっていた。

 

 

 「すっげーあの威力」

 「ソフトボール投げん時から分かってたけど、とんでもないパワーしてるぜあいつの"個性"」

 「俺の個性と比べもんにならねえよあんなの……」

 「……爆豪だったっけ?あいつ大丈夫なの?」

 

 

 生徒達それぞれが戦いの感想を述べているが、総じて出久の"個性"に対するものであった。指のみで衝撃波を発生させ、建物を軋ませるほどの威力。彼らが注目するのも無理はない。

 一方で、その個性を受けてしまった爆豪に対しての心配の声も上がっていた。増強型の個性ではない彼が、先程の攻撃を耐えられる保証などどこにもないことが理解出来ているからだ。

 

 

 「身動きが出来ないことは一目瞭然だが、意識はある。それに声を発することも出来ているから、命に別状はないと思うが、しかし……」

 

 

 オールマイトは悩んでいた。発言の節々から感じられる爆豪の自尊心の高さと脆さからして、ここで有無を言わさず保健室に連れていった場合、彼の心が折れてしまうのではないかと。

 だが何よりも大切なのは彼の安否である。強烈な衝撃を背中に受けているのだ。背骨や腰に何かしら起きていても不思議ではない。

 

 

 「……爆豪少年!君はここで───」

 《まだ終わってねえぞクソがデク!!!》

 「あ、いや、何でもないよ?」

 

 

 爆豪の気迫に押されてしまい、途中で言葉を覆してしまった。

 

 

 「オ、オールマイト……。漢じゃねえぜ……」

 「うっ……」

 

 

 オールマイトは、ハンソーロボは手配しておこう、と心の中でそっと呟くしかなかった。

 

 

 ◇◆

 

 

 爆豪勝己は、これまで味わったことのない屈辱と怒りに満ち溢れていた。感情で頭がいっぱいになっている。歯はもう砕け散りそうなくらいギリギリと噛み締めて、出久を睨みつけていた。

 

 

(クソがクソがクソがクソがクソがクソがァ!!デクのくせに俺に勝つだと!?ふざけるんじゃねえ!!俺が上だ!!俺が一番なんだよ!!俺があいつに負けるなんざ有り得ねえ!!)

 

 

 爆豪のプライドの高さが、この状況にあっても負けを認めていなかった。自身は既に満身創痍。身体を起こす動作でさえ、ゆっくりとしか出来ないこの状況であるにも関わらず、彼の闘志はまだ尽きていなかった。否、闘志ではなくもはや憎しみと言ってもいい。爆豪を今動かしているのは、紛れもなくただの感情であった。

 

 

 「かっちゃん」

 「デクぅ……!!」

 「確保、させてもらうよ」

 「今まで何でそんな個性隠してやがった!!ああ!?何も出来ねえクソナードが!!んな強個性を!!なあ!!」

 「……」

 

 

 爆豪の叫びに対して、出久は何も答えない。答えることなど、今この場ではできなかった。

 確保証明のテープを取り出し、爆豪に巻きつけようとするが、爆豪はそうはさせまいと必死に身動きを取る。

 

 

 「クソッ!!クソがッ!!俺に近づくんじゃねえ!!」

 

 

 BOOM!と出久に手のひらを向けて個性を発動させるが、出久は既にボロボロになった腕でガードをしていた。そしてそのまま爆豪の腕を取り、確保証明のテープを巻く。

 

 

 「……ッッ!!!!」

 「核を、探さなきゃ……!痛っ……!」

 

 

 出久は激痛を孕む両腕を抱えながら、核を探しに行こうとする。麗日も早々と確保され、核の場所など突き止めていない状況だ。急がなければ、時間が───

 

 

 《TIME UP!!ヴィランチームWIN!!》

 

 

 ───ああ、もう時間か。

 

 

 意識が、遠のいていく。

 

 

 ◇◆

 

 

 屋内訓練の第一戦目が終わり、気を失った出久と、意識はあるものの身体を満足に動かせない爆豪はハンソーロボによって保健室へと運ばれていった。リカバリーガールがいる以上、怪我については大丈夫だとオールマイトは確信している。だが心まではそうはいかない。

 

 

(彼女は身体を治癒するプロ。心のケアは我々教師の仕事!ヒーローの卵は腐らせんよ!)

 

 

 教師としての役目を果たさんと、オールマイトはしっかり意気込んだ。

 とは言え今はまだ授業の真っ最中。他の生徒を放置するなど言語道断。次の組の講評を記録するために、新米教師はモニターへと目を向けた。

 

 

 「さて!今演習を行っている組は、緑谷弟・耳郎ペアと、障子・葉隠ペアだな!」

 

 

 障子・葉隠ペアがヴィランチームで、築久・耳郎ペアがヒーローチームである。

 

 

(見る限り、ヴィランチームの個性は今回の状況だと相性抜群。障子少年が索敵を行い、透明な葉隠少女が相手に気づかせずに確保証明のテープを巻く、と言ったところか)

 

 

 これは私でも手こずるぞ、とオールマイトは独りごちる。実際にこのような個性を持ったヴィランがタッグを組んで引きこもるとなると、厄介極まりない。

 こちらの場所は常に把握され、尚且ついつ敵が奇襲をかけてくるかも分からない。こちらが気付かないうちに背後を取られる危険もあり、さらに人質を取られる可能性もある。篭城戦にはうってつけの組み合わせだ。

 

 

(さて、緑谷弟少年たちはどう攻略する!?)

 

 

 ◇◆

 

 

 場所は変わって、同ビルの一階にヒーローチームは潜入していた。

 

 

 「葉隠はともかく、障子の個性がいったいどんなのかが分からない。耳郎は何か知ってるか?」

 

 

 障子の個性を見た目では判断出来なかった築久が、耳郎に問を投げた。ここで収穫があれば対策は取りやすい。

 

 

 「いや、ウチも知らない……。異形系のパワータイプっぽいけど、細かいことはちょっと」

 「だよなあ」

 

 

 個性把握テストで判明しているのは凄まじいパワーだけだ。あとは異形系であることを生かした長座体前屈など、目立ったところはそれだけである。

 対して葉隠は見た目通りの個性、"透明"だ。個性自体に戦闘能力はないものの、今回は確保証明のテープがある。気づかれない間に巻かれる、なんて最悪の事態も有り得るのだ。

 

 

 「あ、葉隠って子なら対策取れるよ。受験の時見せたから知ってると思うけど、ウチの個性のこの耳。ジャックの部分を壁とかに刺せば微細な音聞き取れたりするんだ」

 「まじかすげえ」

 

 

 ならば奇襲に関しては一安心と言ったところだが、肝心のもう一人の個性が分からない。築久の予想では単純なパワータイプと見ている。障子が囮になり、葉隠がその隙に確保するといった作戦が有力か。これでもかなり厄介な組み合わせだ。二人共に明確な強みがある。

 

 

 「一応、俺も索敵手段自体はある。ただ、あんまり使いたくないんだよな」

 「え、なんで?」

 「味方諸共巻き込む危険な手段なんだ。だから使いたくないってか使えない」

 「ていうか、緑谷って火を吹く個性なんじゃないの?」

 「ああ、だけど個性がちょっと複雑でな。発動するまでにいくつか工程挟むんだ。その工程を応用すれば索敵できるってわけ」

 「へー……。今足音が上から聞こえてる。多分葉隠の単独行動。二階ではないと思う。降りてきてる、感じかな。このまま上に進んでいけば鉢合わせる」

 「了解。障子は核の部屋ってことか」

 

 

 情報を互いに共有しながら進んでいくヒーローチーム。耳郎の索敵によって、葉隠の居場所を確認しながらなので、どうしても進行速度が遅くなってしまう。

 

 

 「二階への階段だ」

 「待ち伏せはしてないっぽい。まだ足音聞こえるし近くもない。多分三階でうろうろしてるよこれ」

 「となると核はさらに上か」

 

 

 葉隠の足音を元に核の位置を推測したが、その前に葉隠を何とかしなければいけない。築久は耳郎に、索敵を怠らないよう頼んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《葉隠、今奴らは二階に到達している。そろそろ鉢合わせるぞ》

 「了解!頑張っちゃうよー!」

 

 

 ヒーローチームにはまだ判明していない障子の個性により、築久たちの居場所は常に把握されていた。

 障子の個性、"複製腕"は、彼の持つ複数の触手の先端に身体の部位を複製することが出来る個性である。目、耳、口、腕など複製可能な部位も多種多様であり、感覚器官を複製することでそれぞれの感覚を強化することも可能な万能個性だ。障子は今耳を複製し、ヒーローチームの発する音を聞き取って位置を把握しているのだ。

 葉隠はその情報をもとに奇襲を仕掛ける腹積もりだ。

 

 

 《……葉隠》

 「なになに?どしたの障子くん」

 《会話から察するに、恐らくこちらの位置も把握されている。耳郎、緑谷弟両名に索敵手段があるようだ》

 「えっ?耳郎ちゃんに、弟くんにもあるの?」

 《ああ、だが弟の方は味方を巻き込む危険な手段とも言っていた。頻繁に使用することはないだろう》

 「うーん、口から火を吹く個性が索敵をかー」

 《何にせよ、一旦退いた方が賢明かもしれん。お前の位置が割れているなら奇襲も無意味だ。それに万が一、緑谷弟に範囲攻撃をされた場合、ただじゃあ済まないからな》

 「うーん……。けど戻ったら部屋の場所バレちゃうよ?」

 《気にするな、遅かれ早かれ部屋の場所も割れる。それより常に二対一の状況を作り出す方が危険だ。それに戦闘に突入した時の方が葉隠の強みも生きる。耳郎が索敵をしなくなるからな》

 「……よしっ!私戻るね!」

 《ああ》

 

 

 一通りの通信が終わり、葉隠は核の部屋に戻ることとなった。耳郎の索敵がどのくらいの精度かは分からないが、もし遠方から会話も聞かれるレベルとなると、葉隠の奇襲も無駄なのである。それならば二対二の状況を作り上げた方が良い、とヴィランチームは判断した。

 うおおおお!と威勢よく部屋に戻ろうと走る葉隠に、障子は再び無線で通信を行う。

 

 

 《葉隠、急いだ方がいい。こちらの意図がバレた可能性が高い。奴らも走っている》

 「大丈夫!私こう見えても運動神経すごいから!」

 《見えないがな……》

 「透明だからってかこのやろー!」

 

 

 ちなみに今の葉隠のスタイルは全裸である。透明人間であることを活かすための合理的なスタイルだが、女性の倫理観としてはアウトな格好である。

 

 

 ◇◆

 

 

 そうして少し時は過ぎ、ヒーローチームはビルの五階に到達していた。

 

 

 「さてさて、奴らが核の部屋に篭ってるとなるとやりづらいことこの上ないぞ」

 「火だから」

 「そういうこと」

 

 

 ヴィランチームが守っているものは核。対して築久は火を扱う個性だ。危険性は計り知れない。

 出来ることなら核に近づく前に相手を一人でも確保しておきたかったが、現実はそうはいかなかった。

 

 

 「引き続き索敵を頼む。葉隠には警戒しておかないと」

 「分かってる。……足音は聞こえない。となると核の部屋で待ち伏せか、この階のどこかに潜んでいるかになるんだけど……」

 「仕方ねえ、部屋を虱潰しに探すしかないな。まあ核を放置することは無いだろ」

 

 

 ヒーローチームは相手の音を探ることを諦め、一部屋ずつ探していくことにした。時間はかかるが、他に手段がない。なるべく早い段階で核の部屋を特定できるよう祈るしかなかった。

 

 

 

 

 暫くして、ヒーローチームはこの階の中心に位置する大部屋を確認することにした。ヴィランチームの立場から考えると、築久が範囲攻撃をしやすくなるという大きなデメリットが存在するため、ここに核を置きはしないと思われるが、念には念を押さねばならない。

 

 

 「耳郎、頼む」

 「あいよ」

 

 

 彼らは、部屋に入る前には必ず音を探っていた。しかしどの部屋でも未だに索敵の効果はなく、実際にヴィランチームには遭遇していない。

 

 

 「……ここも音はしない。視認してみて」

 「了解」

 

 

 築久が部屋の入口から核の存在を確認する。が、核は存在しなかった。

 

 

 「ないな。ついでに障子もいない。葉隠は分からん」

 「透明人間を視認できてたまるかっての」

 

 

 軽口を叩きながら次の部屋を探ろうとするヒーローチーム。しかし、ここで築久はかすかな違和感を感じた。

 

 

(うーん、何か気配がしたようなしなかったような……)

 「早く次行くよ!ウチら時間やばいって!」

 

 

 まあ気のせいか、と築久は楽観的に考えた。そして次の部屋を探りに行こうとした。

 

 

(ん?今一瞬、白いテープのようなものが視界の端に映った気が───)

 「弟くん、覚悟ー!!!」

 「緑谷ッ!!!」

 

 

 耳郎は瞬時にイヤホンジャックを足に装着してある範囲増幅用スピーカーで、自身の心音を爆音で出力した。

 ドッゴン!!と岩をも砕く振動が葉隠と築久に直撃し、二人はその場耳を押さえて蹲ってしまった。

 

 

 「〜〜〜〜〜ってええええ!!!」

 「いったあああああああああい!!!耳がー!!!」

 「ごめん!けど葉隠確保!……でオッケー!?」

 「されたー!!ちくしょー!!」

 「いてえけどナイスじろう!!!」

 

 

 幸い二人とも鼓膜は破れていなかったようだ。耳郎はほっとしながらも葉隠を確保し、築久の方へと歩み寄る。

 築久はしきりに耳から血が出てないか確認していた。耳の穴を恐る恐る触りながら、涙を目尻に浮かべている。

 

 

 「ごめん緑谷、咄嗟だったから加減効かなかった」

 「いや、助かった。危うく俺が確保されるところだったわ」

 「耳の聞こえ具合は?」

 「もう問題なく聞こえる。それよりも急ごう。お前がさっき言った通り時間もないはずだ」

 

 結果よければ全てよし、の精神で、核を探しに行こうとする築久。耳郎は彼の後ろを申し訳なさそうについていく。その姿を見て、築久は口を開いた。

 

 

 「ほら切り替え!まだ演習中だろ!俺たちは今ヴィランを捕まえるヒーローだ!」

 「緑谷……」

 「ヒーローがそんな辛気臭い顔するか?しねえよ!人を笑顔にするにはまず自分が笑わねえとな!」

 

 

 オールマイトみたいに、と一言添えて、築久は耳郎を励まそうとする。誰もの憧れを引き合いに出されては、耳郎も黙ってはいられない。両手で顔をパシン!と叩き、自らに喝を入れた。

 

 

 「ありがとう緑谷。後でなんか奢る」

 「いらねえよそんなの」

 「ウチの気がすまないんだって!絶対奢るから!」

 「絶対奢るウーマンかよ」

 

 

 最初の頃の軽口が戻ったところで、耳郎は索敵を再開する。シュルルと耳たぶのイヤホンジャックを壁に伸ばし、障子の音を聞き取り始める。

 

 

(……やっぱり聞こえない。どうなってんの障子の奴、あんな図体で隠密行動出来るなんて聞いてないっつの)

 

 

 耳郎はここまで、障子と思われる足音を全く聞き取れていない。あの巨体ならば移動をするたびにかなりの音が出るはず。通常聞き取れないはずがなかった。

 だが障子は音を聞かせてくれない。巨体ながらかなりの隠密性を有しているのだろう。耳郎は索敵を止め、パートナーに意見を求めた。

 

 

 「緑谷、障子の音が全く聞こえないんだけどどう思う?」

 「マジで?そーだなあ……。こっちの個性バレてるとか」

 「……有り得なくはない。ウチが索敵するタイミングもバレてるんだとしたら、その瞬間だけ動かなければいいし」

 「けど単純に核の部屋でずっと動いてないだけかもしれんし、あまり深く考えすぎるとドツボにはまる。まずは核を探そう。じゃないと俺らが負けちまう」

 「分かった」

 

 

 これ以上無闇に索敵を続けるのは無意味と判断し、ヒーローチームは核の探索に本格的に力を入れることにした。二対一のこの現状で障子と対峙したとしても、軍配はこちらに上がるだろうという楽観的な考えもあった故の行動である。

 全く気配を感じさせない障子のことが気にかかるが、核を見つけてタッチすればこちらの勝ちなのだ。そんな考えで、彼らはフロアを探索する。

 

 

 「一応後ろの警戒だけ頼むな、耳郎。視認でいいから。俺は前方を注意しとく」

 

 

 築久はそう言ってガンガンと進んでいく。角からの奇襲にはしっかりと注意をし、障子がいないことを確認出来たところで、耳郎に報告をする。

 

 

 「前方オッケー。後ろはオッケー?」

 

 

 しかし返事は聞こえない。築久は少し戸惑い、もう一度声を掛ける。

 

 

 「……?おい耳郎、返事くらい───」

 

 

 そこには、

 

 

 「───耳郎?」

 

 

 彼女は、いなかった。

 

 

 





オールマイトは脳筋だからね。索敵なんかしないもんね。

更新ですが、一週間に一話ペースで進めたいと思ってます。
この作品を読んでくださる方は気長にお待ちください。
誤字脱字報告や、ここなんかおかしいよってところあれば報告お願いします。
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