リリが正式にヘスティア・ファミリアに入った日の昼、ベルはギルドに向かっていた。
「ザルバ、ソーマを説得してくれてありがとう。」
「気にするな。それに俺の力じゃなくてガジャリの力だからな。」
「ガジャリ?」
ベルはザルバの言った言葉が気になる。
「いいか、ベル。この世には神がいる。だがそれは一般の人が知っている神だ。だが神ですら恐れる存在がこの世に入る。それが神の力を持っていても恐れる存在だ。それがガジャリだ。」
「どういうこと?」
「ガジャリに勝てる者はいない。神ですらそう公言する存在だ。最も、古い知り合いじゃないとそのことは知らんがな。ガジャリは人間の味方でも、神の味方でもない。自分が気に食わない奴がいればその存在ごと消す。そんな奴だ。」
「その口調からしてきっとそんな神や輩がいたんでしょ?」
「その通りだ。」
そうこう話している内にベルはギルドに着いた。
「そういやベル、なんで逃げるように去ったんだ?」
ザルバが教会でのことを思い出した。
「なんか…あの状況に文字通り板挟みになるのが嫌で…理由はわからないけど。」
(それはお前が原因だ。)
ザルバはベルに対しそう思った。
「ま、まあそんなことは部屋の片隅にでも置いといてエイナさん委報告しておかないと。俺の担当でもあるし。」
「……そうだな。」
ザルバは呆れながら答えた。
「エイナさんはっと……」
ベルがギルド内を見渡していると受付でない所にいるエイナの後ろ姿があった。
「あ、いた。でも今取り込み中か。」
ベルは後にしようと思っとき出会った。エイナと話していたアイズがベルの存在に気付いた。
「ベル!」
「えっ!ホント!」
「あ、ベル君だ!」
「あの人が…」
アイズの付き添いで付いて来たティオネ、ティオナ、レフィーヤもベルに気付いた。
ベルは一礼すると近づく。
「今いいですか、エイナさん?」
「ええ、問題ないわ。」
何故かエイナも同席の下六人は席に座る。
「おい、あそこにいるの戦姫じゃないか?」
「ああ。それに大切断もいるぞ。」
「怒蛇も一緒だ。」
「千の妖精もだぞ。」
「ちょっと待て、よく見たら二つ名の無いLv.5もいるぞ。なんなんだあの状況?」
ベルの今の状況を見て冒険者たちは小声で言う。
(なんか周りが騒がしいけど、気にしないでおこう。気にするだけ無駄だろうし。)
ベルはそう思い回りを無視する。
「あ、あの……」
「ん?」
レフィーヤがベルに何か言おうとする。
「せ、先日は助けていただきありがとうございました。」
レフィーヤは頭を下げる。
「ああ、あれ?別に気にしなくてもいいよ。俺が勝手にやったんだし。」
ベルがそう言うとエイナはクスクスと笑った。
「そ、それで聞きたいんですけど……どうして助けたのですか?」
「……は?」
ベルはレフィーヤの言葉に魔向けな声を出す。
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「だって冒険者ですよ。他人ですよ!ダンジョンでも人を助けるなんてばかみたいじゃないですか!」
「あ~。」
レフィーヤの言葉でベルは納得した。エイナの時に受けた講習でダンジョンでは他人を助ける人は大抵見返りを求める場合が多い。所謂ギブアンドテイクと言うものだ。だがベルはあの時、躊躇わずにハイポーションを使った。しかも知りもしないレフィーヤにだ。レフィーヤにはその意味が分からなかった。
「ぶっちゃけ言うけど、そんなこと普通聞く?」
「そ、そんなことって!」
「だってそうじゃん。人を助けるのに理由が無ければいけないなんて誰が考えた?よくいうでしょ。考えるよりも先に動いた。それはその一例に当てはまってる行動をしただけで、それで十分じゃないか。」
「でもわかりません!」
頑固なレフィーヤにベルは頭を悩ます。
「じゃあ……もし目の前に迷子の子がいたら助ける?」
「助けます。」
「怪我人だったら?」
「助けます。」
「何故?」
「困っているからです。なんですか、そんな当たり前のことを聞いて?」
レフィーヤは自分が試されているような質問について問う。
「簡単に言えば、俺がさっき言ったことを貴女は聞いた。」
「っ!?」
レフィーヤは自分がベルに聞いたことをそのまま返されたことに今気づいた。
「それに、人に助けられたことに理由を求めるのはよほどのバカだぜ。お嬢ちゃん。」
ザルバがそう口にするとアイズを除いた四人がザルバに視線が集中した。
「ベル君、今指輪が喋らなかった?」
ティオネがそう言うと三人は頷く。
「ザルバ……その癖治せない?」
「すまんな。これは長年染み付いたもんだから抜けない。それと嬢ちゃんたち、俺はこいつの相棒のザルバだ。よろしくな。」
ザルバが軽い挨拶をすると四人も挨拶をする。
「そういやさっき冒険者の連中が名の無いLv.5って言ってたが、どういう意味だ?」
ザルバが問うとエイナが答えた。
「実は三か月に一度、神会と言うのがありまして、そこには各ファミリアの神が集まってLv.2になった冒険者の二つ名を決めるんです。さっきアイズさん達が言われていたのがいい例ですね。でもベル君だけはまだ決まってないんです。」
「ロキが言うにはどれもしっくりこないそうだよ。」
エイナの説明にアイズが補足する。
「そうなんですか。」
「それより何か用があったんじゃないの?」
ティオナがベルに尋ねるとベルは思い出し、エイナに言った。
「そうだった。これはヘスティア様が書いた書面なんですけど、正式に元ソーマ・ファミリアのリリが正式にうちのファミリアに入ったのでその報告をしておかないとって思って。」
ベルはそう言うとコートの中からヘスティアが書いた書面を取り出し、エイナに渡した。
「……確かに、これは神ヘスティアが書いた書面ですね。分かりました。担当の者に報告しておきます。」
「じゃ俺はこれで。」
ベルはそう言うと席を立とうとする。そんなベルをアイズは止める。
「待って、ベル。ベルに頼みたいことがあるの。」
「俺にですか?」
「うん。ベルにしかできないこと。」
アイズの言葉に四人は反応する。
「私たちは今度遠征に行く。それまでの間に訓練に付き合って欲しいの。」
アイズの言葉にティオナとティオネ、レフィーヤは驚く。
「いいですけど……ファミリアの人は?」
ベルが尋ねるとアイズは首を横に振った。
「ベルの場合、剣の扱いや体術も心得ていると思う。同じ剣を使う者として色々学びたいって思ってる。」
「成程……ザルバ、どう思う?」
「そうだな……嬢ちゃんの言葉は一理ある。だが俺から一つ条件がある。」
「なに?」
「遠征の前日は必ず一日休みを入れろ。でないといざと言う時に戦えなくなる。」
「……わかった。」
ザルバの条件を承諾するアイズにレフィーヤは頬を膨らましザルバを睨んだ。
(なんなんですかあの指輪は!指輪のくせに生意気です!)
そんなレフィーヤの視線を無視してベルはギルドを後にする。
「さて……あそこに行くか。」
ベルはバベルへと向かった。
「いや~、あってよかったよかった。」
ベルはヴォルフが作った短剣を購入し、オラリオを歩いていた。
「しかしそいつの武器をえらく気に入っているな。」
「使いやすいし、手に馴染むからね。」
ベルがそう話しているとある人物が話しかけてくる。
「お~い、そこの白髪に白いコートを着た少年。ちょっとええか~?」
ベルはキョロキョロすると自分を指さす。
「そうや。自分以外おらへんやろ。」
ベルに話しかけてきたのはロキであった。その隣にはリヴェリアがいた。
「貴女はロキ・ファミリアの主神、神ロキですね。はじめまして、ベル・クラネルです。」
ベルはお辞儀をする。
「おお、これはご丁寧にどうも。改めてウチはロキや。」
「私はロキ・ファミリアのリヴェリア・リヨス・アールヴだ。先日はレフィーヤを助けてくれて感謝する。」
「ウチからもありがとうな。」
二人から礼を言われるベルは少しばかり戸惑った。
「大したことじゃないですよ。それに、俺はあの場で自分が正しいと思ったことをしたまでですから。」
ベルがそう言うとロキは微笑む。
「面白い子やな、そんな正直言う子は始めてや。ちょっとそこでお茶しようや。」
ロキに誘われベルは二人と店に入る。オープンテラスでコーヒーを飲む三人。その姿に待ちゆく人の視線を集める。
「しっかし、まさかお前さんみたいなもんがまさか牙狼とはな。驚いたわ。」
「ご存じなのですか?」
「まあな。」
ロキはそう言うとリヴェリアを見る。
「牙狼にはパートナーがいると聞いているが、紹介してもらえるか?」
「ええ。」
ベルはそう言うとザルバを見せる。
「相棒のザルバです。」
「どーも。」
「ほー、こいつが逸話に出てくるパートナーか。よろしゅうな。」
「私からもよろしく頼む。」
二人はザルバに挨拶する。するとリヴェリアが唐突にあることを聞いた。
「ティオネから聞いたのだが、君はまだ自分から牙狼とは宣言していないようだが、その理由を聞いても構わないか?」
「ええ、いいですよ。」
ベルはリヴェリアの言葉を承諾する。
「牙狼の鎧はソウルメタルという特殊金属を使ってます。これは心で操る金属で、長い修行をしてやっと扱えます。」
「武器もそうなのだな?」
「はい。でも鎧は誰にでも身に着けられるわけではなく、鎧が使い手を選びます。」
「つまり君は牙狼に選ばれたというわけだね。」
リヴェリアの言葉にベルは頷きながら「そうです」と答えた。
「しかしそれで何故君は自ら未熟者と言うのかね?」
「それには理由があります。騎士には皆、内なる自分と対面するときがあります。」
「内なる自分?」
「そうです。己の影を映し出す内なる闇と対峙する。俺はそこまでしか聞かされていませんがそれを乗り越えた時に始めて俺は牙狼と名乗れます。」
「成程な。」
ベルの言葉にロキもリヴェリアも納得した。
「しっかし内なる自分か……なんか怖いな。ベルは他に怖いもんはないんか?」
ロキが問うとベルは顎に手を当て考える。
「怖いとなると……あれですかね?」
「あれってなんや?」
「ザジと呼ばれる存在です。」
「ザジ?」
ロキは聞いたことのない名に首を傾げる。
「牙狼は初代から俺に至るまで、数々のモンスターや悪魔と呼ばれるものを斬ってきました。そしてその者たちの怨や念と言った邪気を集めてしまいます。そんな邪気の集合体、それがザジです。」
「でもベルは過去の人間やないやん。」
ロキがそう言うとベルは言った。
「そうですが、俺が牙狼としている限り、牙狼と言う存在がいる限りザジは何度でも蘇り、牙狼の血を絶やそうとします。」
「君はそのザジと戦う覚悟はあるのか?」
リヴェリアが問う。
「あります。俺はその話も聞かされた上で牙狼になる事を決めましたから。」
ベルの真っすぐな目を見てロキは微笑んだ。
(ホンマ真っすぐな瞳しとる……こんな純粋な奴、見たことあらへんわ。)
リヴェリアもロキと同じ心境であった。
「それじゃあ俺はこれで失礼します。」
ベルはそう言うと三人分のお代を置いてその場を去った。
「律儀な子やな。ホンマあのドチビには勿体ないわ。」
「勿体ないかはさておき、我が主神よ。間違っても変な二つ名を付けないでくれよ。」
「ママからそう言われるとは……こら気を付けんとな。」
「そうしてくれ。それと誰がママだ。」