ダンジョンに牙狼がいるのは間違っているだろうか   作:ザルバ

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第14話

 アイズたちとの訓練の翌日、ギルドではあることが大きく報じられていた。

 アイズがLv.6にレベルアップしたことであった。

 しかしベルには関係なく、リリのレベルアップも兼ねてダンジョンに籠っていた。

「はっ!」

 ベルは十階層でインプにバットパッド、オークを狩っていた。数は大けれどベルの敵ではなかった。

「数だけは多い……ねっ!」

「頑張ってください、ベル様!」

 リリは少し離れた所でボウガンを手に援護射撃をする。

「あのリリの嬢ちゃん、大分腕を上げてきたな。お前と一緒ならレベルアップもするんじゃないのか?」

「どうかな?リリ次第だとっ!思うよっ!」

 ベルはモンスターたちを倒しながらザルバと話す。

 しばらくして群がってきたモンスターを倒し終えると、ベルは牙狼剣を鞘に納める。

「リリ、お疲れ。」

 ベルはリリに労いの言葉を掛ける。

「疲れましたよ、ベル様。」

 リリは地面に尻餅を着いてそう話す。

「魔石やドロップの回収手伝うよ。」

「そんな!ベル様がしなくてもリリがします!」

 リリはそう言い立ち上がる。

「ありがとう。でもこれだけの魔石やドロップアイテムをリリ一人に任せるのはちょっとね。だから手伝うよ。」

 ベルはそう言うとドロップや魔石を拾い始める。

 二人でドロップアイテムと魔石を拾っている中、リリが話しかける。

「ベル様。」

「なに?」

「ベル様はどうしてあの鎧を出して戦わないのですか?」

 リリは素朴な疑問をする。ベルの実力を知っている上であの鎧の防御力。二つを掛け合わせて戦えばダンジョンでは敵無しとリリは考えた。

「ああ、それ?ちょっと理由があるんだ。」

「理由……ですか?」

「そう。牙狼の鎧は確かに防御力はあるよ。でも無限ってわけじゃない。ある程度の攻撃を受けると自動的に召還されるんだ。それにこれは俺の個人的なもんなんだけど、傲り高ぶらないためってこともあるかな。」

「傲り……ですか?」

 ベルのことを知っているリリからは想像もつかないことであった。ベルは修業を欠かさない。だからこそ傲りをするとは到底思えなかった。

「俺もさ、人間だ。自分が強いって思うかもしれない時がある。でも上には上がいるし、俺には目標がある。だから奢らないように日々気を付けてるんだ。」

 ベルのその言葉を聞いてリリは驚かされた。ベルは常に上を目指し、日々精進していることに。そんな時ふと疑問に思った。

 一体何を目標にしているのかと。そしてリリはベルに尋ねるとベルはこう返した。

「誰よりも先に脅威に立ち向かった、初代牙狼を超えること。」

 

 翌日。ダンジョンに籠るのを午後に控えたベルはオラリオを歩いていた。

 そしてベルは町を歩いていた。

「やっぱ、レベルの差を付けられたってのは意外と来るんかもね。」

「かもな。」

 ベルの言葉にザルバが相槌を打つ。すると突然ベルにシルが駆け寄って来た。

「ベルさん!」

 突然腕に抱き付いたシルにベルは戸惑う。

「助けて欲しいんです!」

 突然のことにベルは首を傾げた。

 

 豊饒の女主人の内にある水場。そこには山積みにされていた食器がベルの目の前になった。

「サボって貯めた仕事があるから片付けて欲しいと?」

「えっと…はい。」

 シルはそう答えた。

「……ま、いいですよ。此処にはおいしい料理を振る舞ってもらいましたからね。」

 ベルはそう言うと椅子にコートを掛け、腕まくりをし、皿を洗い始める。

「お願いしますね、ベルさん。」

 シルはそう言うと接客の方へと戻って行った。

 ベルがしばらく皿を洗っていると従業員の一人が近づいて来た。

「この量は流石に至難だ。手伝います。」

 そう言ってきたのはリューであった。

 ベルが食器を洗いリューが水で流し水気を拭き取る。二人の共同作業であった。そんな作業をする中、ベルはふとあることを尋ねた。

「リューさん、二ついいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「リューさんはもしかして冒険者だったのですか?」

「何故そう思ったのですか?」

 リューの問いにベルは答えた。

「身のこなしですかね?ウェイトレスとは思えないほど隙が無いですから。他の従業員もですけど。」

 その言葉にリューはハトが豆鉄砲を喰らった様な顔になった。

「……驚きました。ベルさんは観察眼が優れているようですね。」

「どうも。」

 ベルは軽く頭を下げる。

「もう一つ。レベルアップでどうするんですか?」

「何故そんなことを?」

「ちょっと修行をしていたアイズさんがLv.6にランクアップしたのを知ったので、どうやったらなれるのかな~って思って。」

「そうですか。簡単に言えば功績を上げる。具体的には強大な相手を打破することが必要です。」

「成程。」

 ベルはリューの言葉に納得する。

「ベルさん、ランクアップはいいかえれば冒険をすることです。貴方には貴方の冒険があります。」

「……確かに、俺には俺の冒険があります。そしてその終着点はわかっていてもいつかはわかりませんからね。」

「まるでダンジョンみたいですね。ですがそれもまた貴方の冒険です。貴方の冒険をしてみてください。」

「ありがとうございます。」

 ベルはリューに頭を下げた。

 

 そして午後、ベルはリリとダンジョンの階段を下りていた。

「ベル様、今日はどこまで潜りますか?」

「十二階層辺りかな?リリのレベルアップにもあそこまで行こうと思うから。」

 ベルはそう言いながら階段を下り、九階層に入った。

「ん?」

「どうかしましたか、ベル様?」

 突然足を止めたベルにリリが尋ねる。

「リリ、少しおかしくないか?」

「おかしい……ですか?」

「ああ。静かすぎる。」

「そう言われれば……」

 ベルの言葉にリリは納得する。どの階層でもベルに向かってくるモンスターは多い。だがいつもよりも静かすぎた。

「ちょっと静かにしててね。」

 ベルはリリにそう言うと耳を澄ませる。すると微かではあるがうめき声が聞こえた。

「っ!リリ、付いて来て!」

「は、はい!」

 走り出すベルにリリは必死について行く。ベルが声の方へと辿り着くとそこには重傷を負っている冒険者二人がいた。

「おい、しっかりしろ!何があった!」

 ベルは冒険者に耳を傾ける。

「強化……ミノ…ロス…」

「強化ミノロス?」

 ベルは聞きなれない言葉に疑問を抱くがその疑問をリリが解いた。

「もしかして……強化種のミノタウロス!」

「強化種?」

 ベルはリリに尋ねる。

「はい。その名の通り通常のモンスターを強化したタイプです。ベル様、ここから―――」

「……悪い、リリ。どうも相手は許してくれないみたいだ。」

「—――え?」

 ベルが向く方には左右対称的に角が折れている強化種のミノタウロスが二体、大剣を手に迫ってきていた。

「……リリ、鞄を置いてそこの二人を上の階層にまで逃がしてくれ。」

「ベ、ベル様はどうするんですか!」

「ここで食い止める。ま、倒すつもりだけど。」

 ベルはそう言いながら牙狼剣を抜刀する。

「ベル様はバカですか!どうした見ず知らずの他人まで助けようとするんですか!」

「そうだな。冒険者としては失格かもしれない。けど―――」

 右の角が折れているミノタウロスが右手に持つ大剣を振り下ろして来る。ベルは鞘で受け止めると持ち手の腕を斬る。ミノタウロスは大剣を手から落とす。

「人として、失格になりたくないからな。早く行け!」

「……わかりました。でもちゃんと生き残ってくださいね!」

 リリは救急道具を入れた小さいポーチを装備して冒険者二人を担ぎ、その場から去る。

「さて……ちょっとヤバイな。」

 ベルは手を斬ったミノタウロスを見る。ミノタウロスの手の傷は塞がり、何事もなかったかのように大剣を片手に持っていた。

「ちょっとは出来るみたいだな。相手してもらおうか!」

 ベルは牙狼剣を構え、強化種のミノタウロスに向かい走り出した。

 

 リリが冒険者二人を担いで上の階層へ向かっていると遠征をしているロキ・ファミリアと出くわした。誰よりも先にリリの存在に気付いたのはリヴェリアであった。

「ん?あれは……っ!」

 リヴぇリは急いでリリの方へ駆け寄る。

「君、仲間は大丈夫か?」

「あ、貴女はロキ・ファミリアの…」

「そんなことはいい!君の仲間は大丈夫なのか!」

「べ、ベル様はこの冒険者を助けるために一人で……」

「「えっ!?」」

 後からリヴェリアに追いついたアイズとティオネが声を上げる。

「ともかく、治療が優先だ。君、応急処置の道具は持っているか?」

「は、はい!ここに!」

 リリはポーチを見せる。

「よし。事情は治療しながら聞く。話してくれ。」

 リリはリヴェリアと共に冒険者二人の応急処置をしながら状況を話した。

「なに!ミノタウロスが出ただと!」

 リリの話にベートが喰い付いた。

「間違いないです。ベル様は一人で二体の強化種を相手にしていました。」

「まさか、あの時の生き残り?」

 ティオネが先日の遠征での一件を思い出すとリヴェリアが否定した。

「それは無いだろう。あの日以降、ミノタウロスの目撃情報は上がっていない。」

「でも彼なら大丈夫よ。だってあの鎧があるのだもの。」

 ティオネがそう言うとリリの表情が曇ったことにアイズは気づいた。

「何か知っているの?ベルのあの鎧について。」

 リリは答えるかどうか迷ったが、名高いロキ・ファミリアなら信用できると思い話した。

「ベル様の鎧は確かに強固です。ですが……一定のダメージを受けるとその鎧は解除されます。」

「「っ!?」」

 リリの言葉を聞いたアイズとティオネはベルの元へと駆け始める。

「ちょっとアイズ、ティオナ!遠征の途中よ!」

「アイズ!」

 二人を心配してティオナとベートが後を追いかける。

 

「くっ!」

 ベルは左の角が折れたミノタウロスの攻撃を正面から受け吹っ飛ばされていた。ベルは土煙を上げながら着地するとそこへ追撃するかのように右の角が折れたミノタウロスが大剣を振ってくる。

「ちぃっ!」

 ベルはナイフをミノタウロスの目に向け投げる。ナイフはミノタウロスの目に当たり、ミノタウロスは目を抑えながら叫ぶ。

「はぁああああああ!」

 ベルはミノタウロスの方に跳ぶと牙狼剣を力強く振り、ミノタウロスが体験を持っている右腕を斬り落とした。だがその瞬間、左の角が折れたミノタウロスが巻き込む形で大剣を縦に振って来た。

(まずい!)

 ベルはその場からすぐに跳び、避ける。左の角が折れたミノタウロスによって右の角が折れたミノタウロスは重傷を負うが、斬り落とされた腕以外の傷はすぐに修復されていった。

「こいつは厄介だな。腕を斬り落としたまではいいが、もう一体も倒さないといけねぇ。」

「どうする?鎧の召喚はしたいと思うけど…それじゃあ意味が無い。」

 ベルとしては鎧を召喚したくなかった。自分が目標としている人へ追いつくためにも、自分自身のためにも。

 右の角が折れたミノタウロスはクラウチングの態勢から一気にベルへ突進を仕掛けてくる。ベルはきりもみ回転をしながら宙を舞い回避するとミノタウロスの背中に取り付き、牙狼剣を心臓部に突き刺した。ミノタウロスは苦しみ、悶えるがベルは牙狼剣と手を放さなかった。

「うぉおおおおおおおおおお!」

 ベルは力強く捻る。するとミノタウロスは爆散するように消滅した。ベクが着地した後にはミノタウロスの角だけが残っていた。

「後は……あいつだ!」

 ベルは肩で息をしながら左の角が折れたミノタウロスに剣先を向ける。

 

 アイズとティオナは少し離れたところでベルの戦いを見ていた。ミノタウロスはアイズでも魔法を使って倒せる相手。ティオナもアマゾネスの身体能力の高さを利用して倒せる相手だ。

ましてや強化種ともなればそのレベルは上がる。それに加え二体と来る。一人ではまず勝てない状況だ。

なのにベルはその状況に立ち向かい、今一体を倒した。

(すごい……ベル。貴女はどうしてそう強うなれるの?)

(ベル君すごい……どんな状況でも諦めず戦う英雄みたい……この胸の傷といい、その戦いぶりといい……どこまで私の意識を向けさせてくれるの!)

 ティオナは先日ベルにやられて胸を押さえながらそう思っていた。

「おい、アイズ!ティオナ!勝手に…」

「……嘘。いくらLv.5って言ってもまだダンジョンに籠って一か月くらいでしょ?なのにもう倒したって言うの!」

 後から来たベートとティオネはベルの実力に驚きを隠せなかった。

 

 ミノタウロスは雄叫びを上げながら剣を振るってくる。ベルは左に受け流しながら逆手に持ち替えるとミノタウロスの脇を斬る。一瞬だけミノタウロスの動きが止まるとベルはすかさず順手に持ち替え牙狼剣をミノタウロスの胴体に後ろから突き刺した。

 しかしそれではミノタウロスは消滅しない。それはベル自身も理解していた。

「はぁああああああ!」

 ベルはミノタウロスの背中に両足を付け思いっきり蹴り、距離を取る。

「ザルバ!」

「あいよ!」

 ザルバは口を大きく開け魔導火を牙狼剣の刀身に纏わせる。

「うぉおおおおおおおおおお!」

 ベルはミノタウロスに向かい一直線に駆け出す。ミノタウロスはカウンターの一撃を食らわせるように構える。そして両者が剣を振り抜き、背中同士を見せ合う。

 しばらくの沈黙。誰一人として喋る者はいなかった。

 先に動きがあったのはミノタウロスの方であった。ミノタウロスの着られた口から魔導火が出てミノタウロスを燃やしていった。ミノタウロスはドロップアイテムと魔石だけを残して消滅した。ベルは刀身に付いた血を振り払うように剣を振る。刀身に纏わり付いていた魔導火も消えた。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 ベルは肩で息をする。

「これで…っ!?」

 終わったかと思った瞬間であった。突然後ろから来る殺気にベルは直感で剣を後ろに構えた。刹那、ベルの剣を構えている剣に別の剣がぶつけられる。

『っ!?』

 その場にいたアイズたちや後から来たフィンにリヴェリア、リリも驚きを隠せなかった。そしてベル自身も驚いていた。

「ほぉ……やはり牙狼の後継者だけはあるな。これくらいは防いでもらわないとな。」

「お前は……」

「こいつはとんだ災難だな。」

 ベルもザルバも驚いていた。

 目の前には過去から現在に至るまでに牙狼に倒された者たちの怨年の集合体である、ザジであった。

 

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