インフィニット・ストラトス 夜明けを告げるもの   作:びーびー

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序章

「っ……」

 この日、大学の講堂で開かれた学会では異例の事態が起こっていた。

 本来ならば厳粛な空気で満たされているはずのその場所は、今はそれとはまるで異質な嘲笑、失笑があるだけだった。

 しかし、その中に一人だけ周りの人間とは別の感情をあたりに振りまく少女がいた。少女はたった今まで壇上において自身の発明を発表しており、その最中の表情はどこか他者を見下すような様子はあったものの、「花のような」という形容がよく似合う笑顔を浮かべていた。

 しかし今、彼女の花のような笑顔は影を潜め、彼女の美しい顔が浮かべる表情はこの世の全ての憎悪を集めて凝縮してもまだ足りないほどに黒く濁っていた。先ほどまで休むことを知らないように動き回っていた口は苦虫を噛み潰したように食いしばられ、手はきしむ音が聞こえてきそうなほどに強く握りしめられている。

 そんな少女の様子に気づかないかのように嘲笑を浮かべていた一人が、その口を開く。

 

 「それで、ドクター篠ノ之。私たちはいったいいつまでこのSF映画の設定を拝聴してい ればいいのかね」

 

 慇懃無礼という言葉がそのまま人の形をとったかのような態度で男性は少女、篠ノ之束に声をかける。するとその男性に賛同するかのように周りからも笑い声が起きる。もはやこの場所は学会という体をなしておらず、ただ一人日本からやってきた少女をいたぶる公開処刑場となっていた。

 止まらない笑いの中で束からは先ほどまでその顔を埋めていた憎悪の表情が消え、一瞬完全な無表情になる。そして刹那の間をおかず、壊れた機械のような笑みをその顔に張り付けていた。

 突然、不気味に表情を変えた束の様子に一瞬その場は静まり返り、静かになった会場に束の愉快そうな声が響き渡る。

 

 「そうだね、束さんがどんなにわかりやすくかみ砕いて教えてあげても凡人には荷が重 かったか~」

 

 先ほどまでと違い明らかに自分たちを馬鹿にした言葉に、笑っていた者たちは顔色を変える。しかし、そんなものを気にしないかのように束は言葉を続ける。

 

 「いくら束さんが天才とはいえやっぱりできないことがあるんだね。いやいや今回は勉 強になったよ」

 

 そう言いながら彼女は弾むような足取りで壇上を降り、出口へと足を向ける。彼女の背には再起動した者たちからの憎々し気な視線や舌打ちが浴びせられるが、彼女がそれを気にする様子はない。そして出口の前までたどり着いた彼女ははじかれたように会場に振り返る。

 そんな彼女が浮かべる表情は笑顔でありながらおよそ同じ人に向けるものではない侮蔑に満ちたものであり、その笑顔を正面から見た者達は冷たいものを背中に差し込まれたかのようにその動きを止めた。

 

 「ばいばい」

 

 底冷えのするような声を残して彼女はその場を後にした。

 

 

 その日は本来なら人類にとって大きな一歩となるはずの日だった。

 人類は宇宙への翼を手に入れ、その可能性を大きく広げていくその始まりとなる一日となるはずだった。

 しかしとある少女が思い描いたそんな未来はとうになくなり、かくして歴史の流れは本筋へと集約する。

 

 「すいません、ドクター篠ノ之。少々お時間よろしいでしょうか」

 

 ……多少のずれを生じさせながら。

 

 

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