インフィニット・ストラトス 夜明けを告げるもの   作:びーびー

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二人目

 「俺も、インフィニット・ストラトスに乗って宇宙に行きたいです!」

 「は?」

 

 目を輝かせながら声を上げる少年に対する答えは冷たい視線と不機嫌さを隠そうともしない声だった。

 少年はそれにもめげずに目の前の相手、篠ノ之束に対して敬意が込められた視線を送り続ける。少年の傍らには少年の父親らしき壮年の男性が立っており、彼は直前まで自分と話していた少女と自分の息子のやりとりをほほえましそうに眺めている。

 束は他人とのコミュニケーション能力が壊滅的であり、自身が認めた人間以外には誰に対しても冷酷と言っていい態度をとるため、大抵の人間は一度会話をすると必要のない限りは束に話しかけることはなくなる。

 

 「無理に決まってるでしょ。ISは君みたいな餓鬼の玩具じゃないんだよ」

 「じゃあ、大人になったらできますか?」

 「そういうことじゃないよっ。束さんは忙しいんだから邪魔しないでよ」

 「どうすれば、宇宙にいけますか?」

 「聞いてない!?」

 

 つまり、束には妹や親友の弟以外のめげない少年への対処法がわかっておらず、その結果、彼女の親友が見れば「珍しいものを見た」と後で散々からかわれるだろう光景が展開されていた。

 

 「篠ノ之博士!」

 「っあー!じゃあPICはわかるの?コア・ネットワークは?シールドバリアは?」

 

 突然束の口から飛び出した専門用語に少年は目を白黒させる。

 

 「そんなこともわからないでISに乗ろうなんて戯言もいいところだね。束さんに話しかけたいなら少なくとも今日配ったの資料くらいは完璧に理解してから来なよ」

 「……」

 「ふんっ」

 

 そもそもそれらを理解するには物理学などの学問を高い基準で理解してなければならないがそれを気にせず束は少年に対して平然と無茶を言ってのける。

 やっと静かになった少年に満足したのか束は少年達に背を向け会場を後にしようとする。

 

 「……束さんの力を見せてあげるよ」

 「息子ともども楽しみにしています」

 

 柔らかな笑みを浮かべる男の言葉に、束は右手に持った男から渡されたディスクを示すように軽く上げ、足取りも軽く歩き出す。

 束の背を見送る少年の頭に男の手が置かれかき回すように乱暴に少年の頭をなでる。くすぐったそうに男の手を払いのけると、はじかれたように一歩踏み出し、束の背中に向けて少年は大きく手を振る。

 

 「今度会う時までに勉強しておきますから、その時はよろしくお願いします!」

 

 少年の声に束が反応を返すことはなかった。

 歩いていく束の表情は相変わらず張り付けたような笑顔だったが、その瞳は本来の彼女のものであろう光を宿していた。

 

 

 

 

 

 

 「んっ……」

 今まで静寂を保っていた室内に甲高い電子音が響き渡る。

 その部屋は壁一面が本棚となっていて、本棚の中には宇宙関連の本に交じって小難しい専門書や学術書がところ狭しと並んでいた。一見書斎と見まごうばかりの部屋だが電子音に反応してもぞもぞと動く布団がその部屋に人が住んでいることを証明していた。

 

 「朝か」

 

 布団から手を伸ばし目覚ましを止めながら少年、倉田遥はぼそりとつぶやく。

 久しぶりに見た昔の、少年の夢の出発点を懐かしそうに思い出しながら手を動かし身支度を整えていく。

 

 「あれからもう11年か」

 

 当時は4歳だった少年も今では15歳となりその容貌は大きく大人へと様変わりしていたが、一つだけその瞳の中にある光は変わらずに輝き続けている。彼はあの日から夢への道をただひたすらに邁進していた。彼の部屋の本棚はその努力の形の一つである。束により目標を与えられた彼はそこに向けて努力を始めた。

 研究者であった両親譲りの彼のスペックは学び続けることによって着実に彼を目標に近づけていった。

 着替えを終えた遥はふと机の上に置かれた1冊の資料に目を落とす。

 

 「インフィニット・ストラトス」

 

 束が学会でそれを発表してから1年後、『白騎士事件』と呼ばれる事件によって世界は突如大きく揺らいだ。

 

 ある日、全世界のテレビ放送やネット放送がジャックされた。

 画面は海の上に浮かぶ白い装甲をまとった騎士のような機械を映し始めた。後に束本人から白騎士と発表されたそれは突如空を飛び宇宙を目指し始め、そしてついには大気圏を越え、宇宙空間に到達した。

 宇宙空間においてそれはまるでSFのように自由な軌道を描き隕石やデブリを回避するなどしてその進路を月へと向けた。

 世界はこの時点ではほとんどが疑いの目を向けていた。そもそも単独で大気圏を突破し宇宙空間にというのはまさにアニメやSFの世界の出来事であり、また近年のCGの進化がそれを助けていた。

 しかしこの認識は大きく覆されることになる。

 突如画面に警告音とともにゲームのようなブリーフィング画面が現れ、電子音声でデブリが国際宇宙ステーションに対して直撃コースを取っていることが説明されたのだ。さらに白騎士がこのデブリ迎撃ミッションを行うことが説明され、そのミッション中の様子がまさに映画のような様子で画面に映し出され、宇宙空間で次々とデブリを破壊していくその様子にそれが事実だと知っている一部の人々は大きな衝撃を受けた。 

 しかしそれで終わりではなかった。デブリ破壊後、地球の太平洋に帰還した白騎士を待っていたのは武装解除命令と国籍不明という艦隊であった。後に艦隊指揮官の命令無視での暴走とされた戦いは白騎士が武装解除命令に従わず艦隊に背を向けた瞬間に発射されたミサイルにより幕を開けた。

 戦いは一方的であった。ミサイルは白騎士をとらえることなく、すべて切り裂かれる。艦隊から発艦した戦闘機の機銃は回避され、また戦闘機自体もISの機動性についていくことはできなかった。あしらうようにISはその空域を離脱し、海中にその姿を消した。

 そこで画面は一度暗転し、そして再び画面が明るくなった時そこには篠ノ之束の姿が映されていた。彼女はそこで改めて『インフィニット・ストラトス』の発表を行い、今回の事件について宇宙空間での機動実験中に察知したデブリ接近に対する人道的な救助活動と発表した。

 彼女を知る人間からすれば人道的という言葉に疑問符をもってしまいそうになること間違いなしな説明であった。

 それに対してアメリカ・日本がいち早く感謝の意を表明したことにより世界は映像が真実であったことを知り、世界は大きく揺れた。

 この一連の騒動は『白騎士事件』と呼ばれ、この事件を契機にISは表世界にて脚光を浴びることになる。

 しかしそれは宇宙空間で活動可能なマルチフォーム・スーツとしてでなく、戦闘機を越える機動性を持ち、ビーム等のかつてない破壊力を持つ兵器としてであった。

 

 

 

 

 

 

 

 「おはようございます」

 

 遥の声に室内の何人かが挨拶を返す。中学生最後の3学期の始まりに遥は卒業後すぐに両親も勤務する源技術研究所に就職したいという願いを親に一蹴されていた。

 国内でも倉持技術研究所に匹敵する研究所に勤める両親は研究所の生活がいかに偏ったものかを理解していたため彼が幼くして研究所に勤めることをよしとしなかった。

 彼がその右手に持った研究所所長の「中卒でもおk」というふざけた推薦文も彼の両親には一切通じず、彼と両親の話し合いは一昼夜に及んだ。

 しかし彼は諦めず、ごねにごねた結果として彼は近くの高校に通いながら、研究所にアルバイトとして時間制限をつけてならば通って良いという結果を勝ち取ることに成功していた。

 季節は冬、一般的な受験生なら受験勉強に精を出しているところだが、遥はその成績の良さから近所のそこそこの高校に早々に推薦で合格を勝ち取っており、そのため朝も早くからこうして研究所に足を運んでいられるのだった。

 

 「はる君早いねー」

 「いえ、昨日いいところでタイムリミットになっちゃったんで気になっちゃってて」

 「あぁ、えっと足は飾りじゃないってやつね」

 「いやいや、その略称やめてくださいよ。慣性による推進剤削減についてって名前があるんですから」

 

 遥の最近の興味の対象は手足を振ることによって発生した反作用により姿勢制御を行う際、プログラムの補助を行うことでさらに推進剤を削減するというものであった。いかんせん名称が長いため周りの研究員からは某ロボットアニメの名台詞を引用して「足は飾りじゃない計画」などと呼ばれている。

 とはいっても本来は宇宙空間での使用が想定される技術のため地上でのデータ集めは困難を極めておりこのままではお蔵入り間違いなしの研究でもあった。

 

 「宇宙、行きたいな……」

 「だよねー」

 

 遥のつぶやきに答えたのは先ほどから遥の話し相手になっていた新堂咲というまだ20代前半の女性だった。

 彼女は根っからの火力バカであり、地球上では使えないような超火力の兵器も宇宙ならいいよねという極めて不純な理由でこの部署に席を置いていた。彼女以外にも遥のつぶやきに頷くものは多かった。何せ遥も席を置くこの部署はISで宇宙に行きたいと考えるものが多く集まっており、宇宙空間でのISの運用を主とした研究を行っているという現在のIS社会から見ると極めて異質な部署であった。

 

 「地上でリミッターつけていくら実験したところで私の理想には程遠いってのに上の連中は……」

 

 ISの宇宙空間での稼働は今のところ許可が下りていない。それはISが宇宙で活動できるかという問題以前に何処もISを失うことを恐れて許可を出さないというモノであった。そもそもISの重要な部分であるコアは束以外いまだ作成どころか分析にも成功しておらず、そしてだいぶ前から束はコアの作成を行っていないためISはその絶対数が限られていた。実験の許可が下りないのはこのことからくる弊害であった。

 これらの事情によりこの部署で行われている研究は普通なら予算など出るはずもないものであったが、実際の所この部署は研究所でもかなりの予算を自由にできていた。

 それは研究所の所長がかなりの宇宙好きで、研究所自体も宇宙開発が目的で設立されたものであるという点が一つ。

 そしてそれ以上に大きな理由の一つが、

 

 「諸君!研究ははかどっているかね!」

 「所長、やっぱりこの間の実験リミッターなしでやり直しましょうよ!」

 「……いやいや、君のビームバズーカはリミッター付きなのに目標を消し飛ばして大爆発起こしていたからね。あれぶつけたらISも消し飛ぶからね」

 「じゃあ俺の新型ブースターのテストを……!」

 「君のは速すぎるんだよ!あんなのに人を乗っけたらいくらISでもパイロットは潰れるからね」

 

 作るものがかなり、変態的に高性能なものばかりなのだ。

 あるものはトリガーを引くたびに「私は帰ってきた!」と声が出つつ目標を焦土と化すバズーカ(クリーンなエネルギーです)を作ってみたり、あるものは「速さが足りない」と言って機体の制御ができなくなるほどの高速度を実現するブースターを作ってみたりしている。

 もちろん全部が壊れた性能を持った物というわけではなく、10個に1個は普通に高性能な物ができている。そんな功績からかこの部署には潤沢な予算のほかにかなり貴重なISコアが1つ与えられている。

 その上で彼らに与えられた課題が第三世代機の開発であった。

 先ほどまで話に出てきた壊れ性能のパーツはすべてこの機体のために作られた物であった。

 

 「とにかく、諸君らが手掛ける第三世代機『暁』は日本の次世代量産型として期待されているのだ。ぜひとも頑張ってほしい」

 「でも所長、次世代量産型は倉持さんのとこの打鉄二式さんでほぼ決まりって話を聞きましたけどー」

 「あぁ、倉持技研は打鉄の開発を一時的に凍結するらしい」

 

 所長の言葉に研究室内にいた全員が首をかしげる。打鉄二式はすでに70パーセントほど完成しておりそれを凍結することが理解できなかったせいである。

 所長は研究員にオフレコだと前置きを置いてとんでもない爆弾を落とす。

  

 「倉持技研は世界初男性搭乗者である織斑一夏の専用機の作成に専念するらしい」

 

 その言葉に研究所内は凍り付いたかのように静かになる。

 ISの唯一の欠点であった女性しか乗れないというその一点が覆されたゆえの驚きであった。

 それを理解した瞬間、遥ははじかれたように研究室中央に置かれたIS『暁』に向き直る。

 一度は砕かれた夢がまた現実となって表れたそのことを理解したとき、遥は自分でも無意識に暁に向かって手を伸ばしていた。

 

 「あぁ、でも乗れるのはなぜか織斑一夏だけらしい。すぐに周りにいた男性がチェックしたらしいが他の男性にはうんともすんとも言わなかったんだってさ」

 

 遥が暁に触れた瞬間、澱みが澄んでいくように世界の色が変わる。

 温度が急激に下がったような冷たさが全身を覆い、ISが遥を待っていたかのようなそんなイメージが脳裏によぎる。

 

 「諸君は余計なことに気を取られずに開発に専念してくれよ。特にヒューイ、どうせ君も乗れないからISに触ろうとするんじゃなくてキーボードを触ってくれよ」

 

 遥の眼前に映し出されたインターフェースには一つの言葉が浮かび上がっていた。

 それを見て遥もその表情をほころばせる。

 

 「どうした、ヒューイ。返事がない……ぞ……」

 

 『共に、宇宙に』

 

 一瞬の静寂が再び研究室を覆ったのちに、今度は超新星爆発でも起きたかのように研究室内が騒がしくなる。

 

 「あぁ、よろしく頼む。『暁』」

 

 世界で二人目の男性IS搭乗者が生まれた瞬間だった。

  

 




金ぴかじゃありません。
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