インフィニット・ストラトス 夜明けを告げるもの   作:びーびー

4 / 10
短めです。


1年1組

 

「以上です!」

 

 なりふり構わず打ち切られた自己紹介に遥のみならず、彼の回りにいる少女達も肩透かしをされたように目を白黒とさせる。

 打ち切った当の本人である少年、織斑一夏は彼の姉でありクラス担担任でもある千冬と会話をしており周りの様子に気づいた様子はなく、周囲の少女達は気を取り直したかのように二人の会話に耳をそばだてている。

 その中には副担任である山田真耶も含まれており、その様子に遥は今日何度目になるかわからないため息をそっとこぼした。

 

 

 

 

 

 ISを起動させてから遥の周囲はにわかに忙しくなった 。とは言ってもほとんどの案件は研究所の所長と両親の手によって片付けられており、彼が一番苦労したのはやたらごつい検査器具を持って追いかけてくる研究所の仲間から逃げ回ることだった。

 そしてしばらくして研究所暮らしになった彼に与えられたのは一足早い春休みとIS学園へ入学する権利(強制)だった。

 

 

 

 

 

 

「倉田だったよな」

 

 世界でたった二人の男性搭乗者、イギリスの国家代表候補生、篠ノ之束の妹とバラエティに富んだ自己紹介も何とか終わり、休み時間になると周りの視線から逃れるように机の上の参考書を眺めていた遥に声がかけられる。

 遥が視線をあげるとそこには疲れきった様子の一夏がすがるような目をしながら歩いてきていた。

 

「あぁ、倉田遥だ。織斑……でいいか?」

「一夏でいいよ。織斑だといろいろややこしいだろ」

「違いない。まぁ俺の方は好きに呼んでくれ」

「じゃあ、遥って呼ばせてもらうよ」

 

 そう言って一夏は一度言葉を区切り、辺りを見回す。

 

「しかし、本当に女しかいないんだな。わかってはいたけどこれは……」

「俺はこの視線の方がつらいけどね。言葉通り視線が突き刺さってたら俺は今頃針ネズミだな」

 

 遥が嫌そうに首をふると一夏はその様子に苦笑いを浮かべる。

 今は休み時間であるためクラスだけでなく廊下にも野次馬が詰めかけており視線の圧力は授業中の比ではなかった。

 

 

「せめて知り合いでもいれば少しは楽なんだが」

「あぁ、知り合いなら……」

「少し、いいか」

 

 一夏の言葉を遮り一人の少女が二人に声をかけてくる。

 背中まで流れる黒髪を頭の頂きで一纏めにしており、鋭く整った容姿と背筋に芯が入ったような立ち居振る舞いがある種の気品を感じさせる、そんな少女であった。

 一夏は彼女の顔を見るとその顔に笑みを浮かべる。

 

「箒、でいいんだよな?」

「あぁ、久しぶりだな一夏」

 

 久しぶりとなる幼なじみとの再会に少女、篠ノ之箒もまた華のような笑顔を浮かべるのだった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ篠ノ之さんは」

「あぁ、私のことも箒で構わない。私のほうもいろいろと、ややこしいだろう」

 

 そう言って小さく笑みを浮かべる箒に遥は苦笑いを浮かべながら「了解」と返す。

 あれからすぐに授業が始まってしまったため三人は一旦それぞれの席に戻り、そして昼休みになったところで遥達は連れだって食堂までやって来ていた。

 はじめは幼なじみの語らいを邪魔することを遠慮をした遥だったが、一夏が半ば強引に遥を誘い、箒も喜んで同席を許可してくれたことから三人はこうして同じ席を囲んでいるのだった。

 

「じゃあ箒も束さんの居場所とかわからないのか」

「あぁ、たまに姉さんから連絡は来るが、その度に場所が変わっていてな。つい最近も赤道一周をしたかと思ったら次の時にはフランスと世界をふらふらしているらしい」

「はー、初めて会った時も思ったけどやっぱりだいぶ自由な人なんだな」

「まぁ、自由が人の形をとったのが姉さんだからな」

「ははは、確かに束さんは嵐のような人だよな」

 

 最初は一夏や箒の空白を埋めるような会話から始まり、遥の過去の話そしてその後共通の知り合いであることが分かった束の話題へと会話は移っていった。

 彼らの周りには多くの生徒が会話に混ざろうとしていたが互いに互いを牽制し合い、また束の話題が出てきた際にはあまりの大事に会話に混ざるタイミングを失ったまま昼休みの時間は過ぎていった。

 

 

 

 

 

「あぁ、そうか。クラス代表を決めなければな」

 

 昼休みが終わり始まった授業で教壇に上がった千冬は思い出したように言葉を始めた。その後千冬が続けた説明によると、クラス代表とは学級委員としての仕事のほかにクラスの代表として他クラスの代表とのリーグ戦を行うこととなる。

 その結果として成績に準じた特典がクラスに与えられることになるが、この説明の時点でクラス内のボルテージは否が応でも上がっていた。

 ましてこのクラスには世界でたった二人しかいない男性搭乗者

 

「他薦、自薦は問わん。あぁ、ちなみに拒否権はないからそのつもりでな」

 

 説明の最後に千冬が言葉を発した瞬間クラス内からは待ってましたとばかりに推薦の言葉が乱射された。

 その大半はやはりというか一夏と遥が推薦され、三分の一ほどがイギリスの代表候補生のセシリア・オルコットが、そしてわずかな人数が箒を推薦していた。

 

「先生」

「なんだ、篠ノ之」

 

 名前が挙がった人物がホワイトボードに列挙されきった時、箒が右手を上げ千冬に対して声を上げる。

 

「私は諸事情であまり目立つようなことはできないはずですが」

「あぁ……そうだったな」

 

 千冬は箒の言葉に手元のファイルをめくり何かを確認した後でホワイトボードにかかれた箒の名前を消す。

 

「あ、先生。俺も研究所の仕事で放課後とかはちょっと難しいんですけど」

「……山田君」

「あ、はい。わかりました」

 

 千冬の言葉に真耶が次は遥の名前を消す。つまらない雑用から解放された遥は内心でガッツポーズを決め、やや優しい目で一夏の方を見る。

 一夏はというと恨みがましい目で遥の方を見ながら自身の頭を回転させ代表から抜け出そうとする。

 

「残ったのは、ふむ。織斑とオルコットか」

「先生、よろしいでしょうか」

 

 本日三度目となる挙手に千冬は眉をピクリと動かすがそれ以上は表情を動かさず無言でセシリアに発言を許可する。

 発言の許可を受けたセシリアは普段であれば貴族然とした澄ました顔を内側からあふれる怒りに歪ませていた。

 美人の怒り顔は恐ろしいとよく言うが、彼女の様子はその言葉に深い納得を与えるものであった。

 両親を失い、幼いながらもその身一つで貴族である家を守ってきた彼女はその過程で海千山千の化け物たちと戦ってきた。

 そこで彼女が身に着けたポーカーフェイスさえも今は忘れ、彼女は怒りにその身を任せ、しかし、優雅な動作で彼女は椅子から立ち上がる。

 そして、真一文字に結んだ口を開き、氷のような冷たい声で告げるように言い放つ。

 

「納得、いきませんわ」

 

 

 

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