インフィニット・ストラトス 夜明けを告げるもの 作:びーびー
「今日はありがとうございました」
「いや、こちらこそ」
突然現れた少女に学園を案内することになった遥は少女に学園内を案内し終え、今は彼女を見送りに校門まで訪れていた。
IS学園の見学をしたいという少女だけあってかISに関する知識は相当なものであり、また彼女が紹介者である新堂に聞いたのか遥が研究者だということは把握しており一時は見学そっちのけでIS談義にも興じていた。
学園に入ってからは周りは多少の知識はあれど遥ほどの知識を持たないものばかりだったので、久しぶりにISのことについて語れる人間に出会えた遥はいつも以上に饒舌になっていた。
「それでは、失礼させていただきます」
「あぁ、気をつけてね」
言葉を交わし、少女は遥に背を向け校門から外に出る。少女が校門から出たのを見送り遥もまた研究棟に向けて歩き出す。今にして思えば不思議な少女であったと遥は彼女のことを思い返す。
今の時代、ISで宇宙に行きたいなどというと大半の人間は鼻で笑う。それはISが兵器として認識されているという証であり、束が当初提唱した宇宙開発用のマルチフォームスーツとしての役割はほとんどの人間から建前として扱われていた。
しかし少女は遥の夢を嗤うことはなかった。
「宇宙、ですか」
「そ、宇宙。こいつ(暁)と一緒に行きたいのさ、宇宙に」
遥はそう言って待機状態であるネックレスの暁に触る。
少女はふと考え込むようにした後、遥に顔を向ける。
「今の世界ではそれはとても難しいことだと思うのですが、それでも本当にそう願っているのですか?」
「ま、簡単にいったらつまらないだろ。でも難しいで諦められるほど軽いもんでもないからな」
そう言って空を見上げる遥を少女は探るように見つめ、そして口元に笑みを浮かべる。 少女が笑みを見せたのは一瞬のことで遥が視線をもとに戻した時には彼女は視線を正面に戻していた。
その後の会話は再びISの機能だったりといったものに戻ったが、自分の夢を嗤わないという点において少女はこの世界では珍しい部類の人間だった。
「あー、もう一夏の試合終わっちゃったかな。悪いことしたな」
そんなことをつぶやきながら頭を掻く遥の背には少女の視線が突き刺さっていた。
「まずは謝罪を」
セシリアは土煙の中で動かない一夏に向けて、油断なく視線を向けながらポツリとつぶやくように言葉を紡ぐ。
「一次移行もしていない機体でここまでの動き。あなたは決して凡夫などではありませんでした」
「へぇ、ならそっちもそろそろ本気を出してくれるのかい?」
「……気づいていましたの?」
「ついさっきな」
一夏の言葉通りセシリアは本気では戦っていなかった。それは一夏をなめているということではなく初心者に対して全力をだすことを彼女のプライドが許さないことからくるものであった。
彼女の機体の代名詞であるビット兵器を使わず、またワルツのリズムを刻むように一定の間隔でしかライフルを撃ってはいなかった。それでも普通、初心者は手も足も出ないはずなのだが、一夏はそれを覆した。
一夏の言葉にセシリアは軽く目をつむり、次の瞬間彼女の機体から蒼い雫の名を冠するビットが4機離れ、機体の周りを旋回し始める。
それと同時に土煙を突き破り一次移行を終えた一夏の白式が姿を現す。
「認めましょう、織斑一夏」
いたるところに傷があった一夏の機体から傷は消えており、彼の手には光り輝くエネルギーブレードが展開されていた。
彼はそれを両手で握り、その切っ先をセシリアに向ける。
「貴方は……私の、敵です!」
「行くぞ、白式!」
瞬間、一夏ははじけるようにセシリアにむかい飛び出し、彼女のビットは一夏を包み込むように展開する。
「うおぉぉ!」
「動きが先ほどより直線的ですわ」
セシリアの言葉通り、一夏の機動は一次移行より直線的だった。それは先ほどよりはるかに増した白式の速度を一夏が扱い切れていないことが理由だった。
当然速度が上がったとはいえ直線的な動きでは先ほどより射線が増えたセシリアの攻撃をかわしきることはできず、一夏は被弾を重ねていった。
「その程度ですか?」
「まだだ!」
そう言いながらも一夏は着実に減っていくシールドエネルギーと近接武器しかないなかでセシリアに近づくことができない現状に焦りを覚える。
雨のように浴びせられるレーザーに揺れる機体を必死に制御しつつ、一夏は打開策を探す。そんな中、その声が聞こえたのは偶然なのかもしれない。
「信じろ!」
ISのハイパーセンサーが偶然拾ったのか、それは一夏もわからなかったが、彼の耳に飛び込んできた箒の声に一夏は特訓中の一幕を思い出す。
それは特訓のメニューに剣道という近接戦闘の訓練しかなく射撃戦について箒に確認したときのことだった。
「銃器の訓練などISがなければ出来んし、一朝一夕では当たるようにならん。それならば多少見込みのある剣にかけた方がよい」
「向こうは撃ってくるんだろ?」
「銃弾なんぞ切り捨ててしまえ」
「無茶言うな!」
一夏はそう言ったが、箒は至極真面目な顔で説明を始める。
曰く、銃弾は直線の軌道しか描かないため銃口の先に剣を置けば勝手に切れる。ISならばそのハイパーセンサーで生身の時より詳細に銃弾の軌道がわかるため切りやすくなる等と言い、挙句の果てに一夏の投げたボールを竹刀で叩き落とし、こうだと言い放った。
箒の声でそのことを思い出した一夏は、再度セシリアに向けて飛翔を始める。風を切る音さえも置き去りにして飛ぶ一夏は視覚だけでなく白式のハイパーセンサーに意識を集中させる。
右上からの反応。雪片をハイパーセンサーの描く予想軌道をなぞるように振り上げる。
雪が解けるように消え去ったレーザーにセシリアは目を見開き、刹那、動きを止める。
その刹那があれば一夏がセシリアを自身の間合いに捉えるには十分だった。
「疾っ!」
振り上げた雪片は、一夏が吐く息とともに振り下ろされる。
決まったかに見えた一閃は先ほどの一撃が脳裏に残っていたセシリアがわずかに身を引いたため、その機体の表面を撫でるにとどまる。
自らの機体が告げるダメージリポートにセシリアはその表情を凍らせる。かすっただけの一撃はセシリアのブルーティアーズのシールドエネルギーのおよそ3分の1を削り取っていた。
彼女の目の前ではすでに一夏が振り下ろした雪片を振り上げようとしていた。
決まった
一夏や観客席のほとんどの人間はそう思ったのかもしれない。
事実この体勢では一夏に攻撃を当てようとも雪片の一撃の方が早く、また避けるにもその機を逃していた。
「っぐ!」
「何!?」
しかし振り上げた雪片の先にセシリアはいなかった。
「自分を撃ったのか!」
彼女の下にいたビットが放った一撃は正確に彼女の足を打ち抜いており、その衝撃で彼女は一夏の必殺の圏内から離脱していた。
本来なら一夏はここで追撃をかけ無ければならなかったが、大きく雪片を振りぬいた一夏の体勢は崩れきっておりとても追撃ができる状態ではなかった。
そして一夏が体勢を立て直した瞬間、彼にレーザーの雨が降り注ぐ。
「……くそっ」
アリーナに試合の終わりを告げるブザーが鳴り響く。
それをかき消すかのような歓声がアリーナを埋め尽くす。それは勝者を、そして敗者の健闘を讃えるものだった。
一年一組クラス代表決定戦
勝者 セシリア・オルコット