インフィニット・ストラトス 夜明けを告げるもの 作:びーびー
「なぁ遥、俺って負けたんだよねな」
「あぁ。映像を見たけど初起動であそこまで動けるのは驚いたよ」
「負けたのは変わらないからなぁ。褒められても……じゃなくて!」
一夏はのんきに笑う遥に対して突っ込みを入れて、食堂に掲げられた垂れ幕を指さす。
「「「「「一夏くん、クラス代表就任おめでとう!」」」」」
現在、食堂の壁には一夏のクラス代表就任を祝う垂れ幕が飾られ、1年1組だけでなく多くのものが食堂に押しかけていた
「なんで負けた俺がクラス代表なんだ?」
「そりゃお前、一夏が男だからだよ」
「は?」
訳が分からないという顔の一夏に遥は新しい料理を取りながら答える。
「世界で二人しかいない男だ。世界中がそのデータを欲しがってる。ならデータ取りの機会が多くなる立場に男をつけろって声は大きいだろうさ」
「でもこの学園は外からの影響は受けないんだろ?」
「建前はな。まぁ表立ってはないだろうが、それはそれだよ。あそこの代表候補生にもそういう連絡が言ってるはずだよ」
そう言って遥が示す先には飲み物を片手に一夏たちの方へ歩いてくるセシリアの姿があった。その隣には同じく飲み物を持った箒の姿があり、二人は楽しそうに何かを話していたが遥達がセシリアの方を見ていることに気づくと会話をやめ不思議そうな顔をする。
「どうしましたの?」
「一夏がなんでクラス代表になれたのか不思議がっててね」
「あぁ、そのことですのね」
納得するように頷くセシリアに対して一夏は不満そうに顔を曇らせる。
セシリアは一夏の顔を見て一夏の気持ちを察したのかクスリと笑う。
「気になさらないでください織斑さん。あの戦いで貴方の意志と力を見せていただいた私に否はありません」
「む、イギリスの代表候補生にここまで言わせたのだ。胸を張れ一夏」
セシリアの言葉に頷く箒はいまだ納得がいっていない顔をする一夏に言葉をつづける。
「納得がいかないならば納得ができるまで強くなればいい。周りにわからせればいい。織斑一夏は男だからではなく実力で代表の地位にいるのだと」
「箒……そうだな。ありがとう、箒。これからもよろしく頼む」
「あぁ。幸いISの貸し出し許可も下りたし、セシリアも特訓を手伝ってくれると言ってくれたからな。今まで以上にいい特訓ができるぞ」
一夏は箒の言葉に嬉しそうに顔をほころばせ再び箒に、そしてセシリアに感謝の言葉を述べる。
そんな三人の姿を見ていた遥の瞳にいたずらを考え付いた時の怪しげな光がともる。
「いやはや一夏、美女二人と特訓なんて両手に花だね」
「何言ってんだ、遥。特訓にはお前も参加するだろ?」
「は?」
想定外の一夏の返しに一瞬にして遥は固まる。
固まってしまった遥に構わず一夏は箒やセシリアに同意を得る。二人は特に否定することなく同意を示す。
(いやいや、オルコットはともかく箒さんは普通二人きりでとかって思うんじゃないのか?いやでも訓練の環境としては素晴らしい。でも研究もあるしな……)
「まあ遥も研究とかあるだろうから毎日じゃなくてもたまにはいいだろ?」
これが毎日であったなら遥も断っていた可能性があったが、そうではなく遥の任意に代表候補生と訓練ができるという内容に遥もすぐに頷くこととなった。
「……悪いが、よろしく頼む」
「あぁ、歓迎するぜ」
「はいはーい、新聞部でーす!」
男二人の握手というIS学園ではめったに見られない光景にフラッシュをたきながら新聞部の部員である黛薫子が現れる。
「織斑君、何か一言ください!」
「え、一言?」
「そそ、クラス代表就任に際して一言!」
ひたすらに押してくる薫子の圧力に一歩引く一夏だったが、すぐに思考を切り替え表情を引き締める。
「……ありがとうってことで」
「その心は!」
「特訓に付き合ってくれた箒に、戦ってくれたオルコットに、そしてこうやって祝ってくれたクラスのみんなにありがとう」
「オッケー!それいただき!」
そう言って薫子は手元のメモ帳にメモを取り始める。しかしその量は一夏の言葉をはるかに超えてメモ帳のページはどんどんめくられていく。
「ひどいな、一夏。俺には感謝はないのか……」
「いやいや、(女子だらけのところに)遥がいてくれて本当に感謝してるよ」
一夏の一部を省略した問題発言に食堂の一部が盛り上がる。軽い冗談のつもりの言葉で一部を喜ばせてしまった遥は苦虫をかんだような顔になる。
「一夏、お前そういうこと言ってるといずれ刺されるぞ」
「ん?何がだ?」
「わかんないならいいよ」
首をかしげる一夏の後ろでは箒が深く溜息をついており、セシリアがその箒の肩に手を置き同情するような顔をしていた。
「よーし、じゃあ写真撮るよー。まずは代表の座をかけて争ったオルコットさんと織斑君から!」
「写真ですか?」
「はい並んだ並んだ!そうだなー、とりあえずシャルウィダンス的なノリで!」
そう言って急かされた一夏は困惑したような顔でセシリアの方を見る。セシリアは慣れているのか薄く笑みを浮かべ一夏の方に片手を伸ばす。
「エスコートをお願いしてもよろしくて、織斑さん」
「お、おう。オルコットは慣れているんだな」
「代表候補生ですから、たまにこういった撮影の仕事もあるんですの」
「そっか。……手を取ればいいのか?」
困惑した表情でセシリアの手を取る一夏だが、容赦なく薫子から笑顔が硬いという指摘が飛ぶ。
「織斑さん、あまり緊張なさらないで、試合中のように力を抜いて下さい」
「あ、あぁ」
ふとセシリアの言葉に一夏は試合の最中のことを思い出し、よくあそこまでできたものだと自分のことながら感心し、緊張を忘れる。
硬さのとれた一夏の表情は元の容姿も相まって写真映えのするものとなっていた。
「俺のことは一夏でいいよ」
「あら、それでは私のこともセシリアとお呼びください」
そう言葉を交わした後二人は小さく笑い合う。その瞬間シャッターを切る音が聞こえ、あたりは映画のワンシーンを見ているかのように静まり返る。
「おっけぇ!じゃあ次は織斑君と倉田君のツーショットで!」
「また俺?」
「おっと、用事を思い出した」
嫌がる一夏と返ろうとする遥はまんまと捕らえられカメラの前に立たされ、肩を組まされる。
カメラの前から外れたセシリアは一人膨れっ面をしている箒の横によって行く。
「よろしいのですか?」
「何がだ」
「何がでしょうね」
「むむ」
箒はからかわれていることを自覚し、一つ咳払いをして心を落ち着ける。
そんな箒の様子に優しく微笑みセシリアは箒の背を押す。
「行ってきなさいな。一夏さんなら喜んで一緒に映ってくださいますわよ」
「そんなことはわかっているが……その、恥ずかしいではないか」
「3歩後ろを歩くのもいいですが、あの方はそれでは気づきませんわ。わかっているのでしょう?」
慈母のようなセシリアの微笑みに箒はぶすっと黙り込む。へそを曲げた子供に困る母親のように首を曲げ、しかし次の瞬間笑みを深くしセシリアは遥を呼び寄せる。
「どうしたの、オルコットさん?」
「折り入ってお願いがありまして……」
そう言いながらセシリアは遥の耳元に口を寄せる。最初は驚いていた遥だったが、話が進むにつれいたずらを思いついた子供の様に歪んでいく。
話が終わった時遥はセシリアに握手を求め、セシリアもまた強くその手を握り返していた。
「任せてくれ、オルコットさん」
「セシリアでよろしくてよ」
「遥と呼んでくれ、同志(セシリア)よ」
そんな言葉を交わす二人にハトが豆鉄砲を食らったような顔をした箒を置き去りに話は進んでいく。
「おーい、一夏」
「ん?どうしたんだ遥?」
そうこうしているうちに遥は一夏を呼び出す。
一夏は首をかしげながらも遥のもとへ歩いてくる。
「一夏、感謝の気持ちってのは言葉だけじゃなくて行動に示さなくちゃならないもんだ」
「おう、そうだな」
「わかっていながらお前は!一番感謝すべき人はそこにいるだろ!」
そう言って遥が指さした先にはセシリアに背を押された箒が固まっていた。打ち合わせ通りの展開に遥とセシリアは目と目でアイコンタクトを交わし、心の中でガッツポーズを決める。
「あぁ、箒には後で部屋に戻ってからにしようかと思って……」
(同志セシリア!今こいつとんでもないことを!)
傍らで聞こえてきた一夏の言葉に遥は一瞬固まった後でセシリアに助けを求める。しかしそれに対するセシリアの答えは作戦続行の一言だった。
「でも記念ですから、写真を撮ってもらってはいかがですか?」
「それもそうだな。箒、いいか?」
「あ、あぁ。よろしく……頼む」
一夏はセシリアの言葉に少し照れくさそうに箒に手を伸ばす。箒も俯きながら一夏の手に軽く指先を乗せる。
薫子は先ほどからシャッターを切り続けており、その枚数はすでにSDカードを1枚使い切ろうとする勢いだった。
セシリアは満足げに頷き、遥はクラスメイトからブラックコーヒーを手渡されそれを一気飲みしていた。
その後、一夏と箒の部屋で何が行われたかを知るのは本人たちだけだったという。
一夏がクラス代表になり、授業に苦労し、放課後の特訓に苦労し、たまに無意識に箒といちゃついている中で季節は五月、初のクラス代表戦が間近に迫っていた。
「どうよ、一夏。代表戦が近づいてきたな」
「おう。どうなるかはわからないけど自信はあるぜ」
「今の一夏なら今年入った新入生に負けることなどないだろう。自信を持っていい」
「箒やセシリア、遥が手伝ってくれたおかげだよ」
そう言って三人が話しているところにセシリアが近づいてくる。
「2組の代表は専用機持ちではなかったはずです。まず間違いなく勝てると思いますわ」
「いーちかっ!」
近づいてくるセシリアの影から彼女を追い抜かすように小柄な人影が一夏にむかって地を駆け、その背中に向かってダイブを決める。
ダイブを決められた一夏は驚きながらも、聞こえてきた声と自身の背中に張り付く小柄な体躯に覚えがあり、驚いたようにその名を呼ぶ。
「鈴?鈴か?」
「久しぶりねー!元気だった?」
彼の背中に張り付いていたのは一夏と中学で同級生だった鈴こと鳳鈴音であった。