『ブー!ブー!』
キラがネロスガンダムに追われるその頃、UPCの本部である『GUTSコーポレーション東京支部』では、32階のうち31階にあたる作戦室で怪獣、MSの出現による警報が鳴った。
ホットコーヒーを啜りながら一休みをしていたオペレーターのミリアリア・ハウはその警報にはじかれたようにコーヒーカップを素早く置いて、自分の席に置いてあるコンピューターのディスプレイに目を向ける。
彼女はキラやミライ、ヒイロやダイゴ達の通う高校の生徒であり、UPCの作戦室のオペレーターという裏の顔を持つ。
明るそうな見た目に気さくで皆を元気付ける作戦室のメンバーのトランキライザー的な役割を持つ。
そんなほんわかとしている彼女だが、16歳という齢でUPCのライセンスを収得している才女だ。
「東京の品川区のに複数の高熱源反応を確認!
MS5機に怪獣らしき熱源反応を1体です!」
同じくその警報を聞いて作戦室に向かった司令部の部長であるブライト・ノアもその情報を聞き入れた。
「場所は?」
「場所はG地区にある森林公園です!」
「それにこの怪獣に相当する熱源反応はブルーZECTのロシア支部を襲ったものと同じ個体かと思われます!」
オペレーターかつ未確認生命物体の分析を担当するクゼ・テッペイが続いて報告した。
クゼ・テッペイはとある大病院の御曹司であり、東京の医大に通いながらUPCの仕事に就いている。
『ブラッディ・インパクト』の出来事を見て「地球を守るために自分も何かしたい」という思いでUPCのオペレーターを担っている。
ただし親には内緒である。
ブルーZECTロシア支部襲撃をした地底怪獣の熱源のデータは事件の報告書で解析されたデータに登録されている。
今テッペイのディスプレイに表示されている熱源反応はそれと同等のものだ。
「例の地割れ事件を起こし続けている地底怪獣か…!
藤原チームは?彼らは何処にいる!?」
「事件の跡地の1つである奥多摩の第二採石場で事件の調査に行ってます!いまから現場に急行するとしても2、3時間は掛かります!」
「今からだと難しいか…!よし!ここはGUYSのアイハラチームに任せる!
アイハラチームは総員直ちに戦闘態勢に入り、シャーロックとデ・ラ・ムで現場に急行!
G3マイルド部隊も出せ!」
「「了解!」」
ミリアリアとテッペイはそれに敬礼で応答し、アイハラ班に出撃要請を出した。
ブライトは指揮を出す中、この状況を1人分析した。
ブライト・ノアは、『ブラッディ・インパクト』を境に怪獣、怪人、MSが頻出度が大きく増してくる前からUPCの作戦指揮を執った歴戦の指揮官であり、今では各地で配属されているチーム全体の作戦を指揮する役目を担っている。
最近からずっとこうだ。
怪獣、怪人、MSが人を襲うのは人目が付かないところで起きるのが多い。
自分達の警戒を地球人に緩めるために当然といえば当然ではある。
しかし最近ではそれが毎日のように事件が頻繁に起こるようになっており、手掛かりも
ブラッディ・インパクトの時から怪獣、怪人、MSの頻出度が上がっているのは知っていたが、このようなケースは稀なものだ。
その長年磨いてきた彼の観察眼から只ならぬ予感を感じざるを得なかった。
(何故だろうか…。これは何か1つの始まりのような気がする…。)
今まで戦場で生き抜いて培った軍人の勘なのか、あるいはただの直感なのかブライトは只ならぬ気配をその中で1人感じた…。
「ギシャアアアアア!」
「うわあああ!」
キラは傷付いてる少女を抱きながら、グドンとジンの追っ手から必死に逃げていた。
グドンは7、8mという巨体であるにも関わらず、恐竜映画で人を襲って来るティラノサウルスの如く物凄い勢いで走り出し、両腕の鞭でキラ達を捕らえようとするが、キラは自身の瞬発力を最大限に生かして身を屈ませながらそれらを避ける。
だがそれだけは済まず、先ほどからジンの群れが自分達を追っかけ回すように銃で威嚇射撃をしてくる。
「うわあ!」
「オラオラ!ちゃんと避けねえと嬢ちゃん諸共蜂の巣になっちまうぞぉ!」
「ぎゃははは!」
「ギシャアアアアア!」
ジンの群れがキラ達をせせら嗤い、追い打ちをかけるようにグドンが鞭で嬲りかかろうとした。
しかし彼等が狙っている少女がいるからか、ただキラを追いかけるように襲ってくるだけさ。
さっきからそうだ。
自分達を捕まえようとすればすぐ捕まえられるのに、自分の手の中で気絶している少女がいるとは言え、ジンのアサルトライフルの銃先が自分の足元を追っかけるように足元近くに撃ったり、グドンはその長い鞭で足を引っ掛けたり、逃げる自分達を弄ぶようかのように鞭を右往左往から飛び出してくる。
まるで猫に追い回される鼠みたいだ。
実際、逃げ回っている鼠もこんな気分なのだろうか…。
キラは恐怖で背筋に恐ろしい戦慄が走ったが、それでもなお逃げ続けるに専念した。
自分達が生き残るために…。
しかし逃げる途中、キラはずっと不思議に思う事があった。
なんでこんな儚気で年端もいかない女の子をロボットの軍団や怪獣を持ちいてまでも追いかけるのか?
女の子が抵抗してるとはいえ、捕まえるだけで武装したロボットを何体か連れて、怪獣を呼び出すのはいくらなんでもやり過ぎであろう。
彼女は武装してない。むしろ弱りかかっている状態なのに…。
そして先程から自分の体に違和感を感じるのだ。
ここから家まで2、3km離れているのに少女の声が聞こえいた。
いくら深夜が閑散としていても普通の人間でそんな事は不可能だ。
それに自分はさっきから少女を抱えながら走っても息切れしない。
自分は体力も運動神経もそこまで良い方ではない。むしろ走るとすぐ息切れするし、運動センスもそんな無い。
なのに自分は怪獣の鞭やロボットの射撃をこんな難なく躱し続けても息切れしない。
正直自分でも信じられないぐらいだ。
一体こいつらはなんなのか?
何故こんな娘が狙われなければならないのか?この娘はなんなのか?
自分は何故普通の体じゃなくなったのか?
キラは疑問を抱えれば抱えるほど、ワケが分からなくなってきた。
そもそも今の自分はこんな非現実的な状況をすんなり受け入れるほどの余裕が無かった。
だがその時だ。
そんなこんな考えている内にジンの一体がアサルトライフルと同時に持っていたバズーカ砲『キャットゥス 500mm無反動砲』を構えた。
ジンはそれを躊躇わず発砲した。
「うわあああ!」
キラはなんとかそれを避けたが、地面に直撃したため、大きく吹っ飛んだ。
それによって勢いよく地面に叩きつけられたキラだが、なんとか少女を地面に叩きつけられないよう自分の体でガードした。
少女の体はそこまで重くたくなくむしろ軽いのだが、少女の体が負荷となり、おまけに自分の体を強く打ったためキラの体に激痛が走る。
キラは激痛で顔を苦しみで滲ませたが、ネロスガンダム達が近付いてきたため、痛みで苦しみながらも彼女を庇うように体を張った。
「へへへ、やっと追い詰めたぞ…!手こずらせやがって…!さあ早くその女を渡しな!」
「くっ!」
キラはそれを聞いて苦悶の表情を浮かべた。
四方八方にジンが滞空しており、まさに四面楚歌という状況であった。
自分達はこれで終わりなのだろうか…?
「俺の要望を断って手を煩わせたお前はタダじゃおかねぇ…!やれ!」
ネロスガンダムがジンの軍団に指示すると、ジンはアサルトライフルの照準をキラに向けた。
正直今から逃げようとしても間に合わない。
もうダメかと思いキラは反射的に目を瞑った。
だがその時だ。
「撃てえ!」
「っ?!ぬわあああ!」
何処の方から銃撃が飛び出し、その攻撃がジンの背部スラスターに直撃して、直撃したジンは地面に墜落した。
「何!?何処からだ!」
何処から放たれたのか、全員撃ち出してきた方向に目を向けるが、今度は大きなカプセルのような弾が投げられそこから煙幕が出てきた。
「ぬぅ!?煙幕弾だとぉ!」
「さあ!こっちへ!その子も!」
「へ…?」
「我々は君達を保護する!さあ速く!」
「うわぁ!?」
キラは動揺するが、ヘルメットを被った男が急かすようにキラの腕を引っ張り、何処かへと引き連れ出していった。
「あ、あなた達は一体なんなんですか!?」
「安心しろ。俺達は君達の味方だ。君達を助けるためにやって来た。」
「え…?」
暫くすると煙が晴れ、ネロスガンダムは煙幕弾が飛ばされたであろう方向にガンを飛ばす。
「ちぃっ…!何者だ!」
「そこまでだ!MSと怪獣共!俺らはUPC所属のGUYSでアイハラチームだ!
直ちに戦闘行為を停止して投降しろ!」
そこには8、9人に黄色いスーツとヘルメットを着用した人が銃を構えており、メカメカしい戦闘服にロボットのような仮面をつけた戦闘員がバイクに跨っていた。
その先頭に立っているのは、UPCの特捜チームの1つ、GUYSのアイハラチームでリーダーを務めるアイハラ・リュウである。
勝ち気そうな目をしており、仲間から熱血バカと言われるほどに熱くなりやすい性格だが、齢21歳という若さながら部下の皆を引っ張り上げていく小隊のリーダーだ。
リュウは携帯銃であるトライガーショットを構えてネロスガンダムに撤退を急き立てたが、ネロスガンダムはもちろんそれに応じることなくリュウを睨みつける。
「こんな子供を追い回しやがって!この腐れ外道供が!
もう一度言うけど、さっさと投降しろ!」
「あぁん?てめえ誰に口聞いてんだぁ?ふざけんのも大概にしろ!俺は星間連合の幹部の一人、マスターガンダム直属の部下のネロスガンダム様だぞ!てめえら如きじゃ相手にすらならねえんだよぉ…!行けえお前ら!女以外全員皆殺しだ!」
ネロスガンダムがそう指示するとジンとグドンがリュウ達に襲いかかった。
「よし、先ずは俺達GUYSはグドンを叩くぞ!G3マイルド部隊はジンの部隊を叩け!ユナは少女の手当てを頼む!」
「はい!さあ、君もその少女も怪我を早く診せて!」
「は、はい…!」
キラはユナと呼ばれる女性隊員に引っ張られ、近くにあるカマロをベースとした特捜車『シャーロック』と4WDタイプの軽装甲車『デ・ラ・ム』の影に隠れた。
「GUYS!sally go!」
『GIG!(了解)』
リュウの指示を受け、キラと少女の手当てをする女性隊員のユナ以外のリュウ達GUYSチームはグドンに向かっていき、G3マイルドの部隊はそれぞれの愛機でもあるガードチェイサーで滞空している3体のジンに向かっていった。
ジン3体は近付かせまいとアサルトライフルを発砲し牽制攻撃を行う。
G3マイルド部隊はその銃撃をバイクを駆使して避け、ガードチェイサーの左ハンドル下部分のスペースに搭載されている小型銃GM-01『スコーピオン』を取り出しジンに向けて撃つ。
だがジン達は滑り込むようにスラスターを使って飛びながら避け、1体が左腰に装備されてある近接格闘武装『重斬刀』を取り出して1人のG3マイルドに接近し、他のジンも2人のG3マイルドにそれぞれ1人ずつ向かった。
接近戦を挑まれたG3マイルドはガードチェイサーから降りて左ハンドルの下にスコーピオンを収納すると、すぐさまガードチェイサーの後部左のトランクに搭載されている折りたたみ式超高周波振動ソードGS-03『デストロイヤー』を右腕に装着してブレードを展開した。
デストロイヤーはブレードの部分を振動させる事で鉄骨を切断出来るほどの威力を持つが、その分反動が強いため生身の人間が扱う事が出来ない。それはスコーピオンにも言える事である。
そのためのG3マイルドだ。
G3マイルドは怪獣、怪人、MSに対抗するために造られた戦闘用パワードスーツである。
G3マイルドはまだ試作段階量産型パワードスーツだが、一応Gシリーズの武器を扱い戦闘出来るところまでは達している。
1体のG3マイルドがジンを迎え撃つためにブレードを構えた。
ジンは重斬刀をG3マイルドに叩きつけるように斬りつける。
G3マイルドはデストロイヤーで受け止め、両者の間に激しい火花が飛び散る。
だが重斬刀の方が上なのか、ジンの方がG3マイルドを押している。
G3マイルドは負けじとデストロイヤーでジンの重斬刀を押し返そうとする。
「地球人が!そんななまくら刀で勝てるわけ無えんだよ!」
しかしジンは重斬刀で力を更に込めて、デストロイヤーはミシミシ音を鳴らしながら刀身がなかばから砕け散った。
「っ!?」
「脆いんだよ!」
デストロイヤーの刀身を叩き折るとジンは下から入り込むようにデストロイヤーが付いてる右腕を関節部分から薙いだ。
「っ!?ぐあああああああ!!」
右腕を切り落とされたG3マイルドの装着員は激痛のあまり、喉が壊れんばかりの叫び声を上げた。
その叫び声と同時に夥しい量の血を撒き散らし、返り血となってG3マイルドの銀色のボディが赤黒く染められていく。
G3マイルドの装着員が悶え苦しもうが、ジンは容赦無くG3マイルドのと胸にアサルトライフルを0距離射撃で連射した。
それを食らった1人のG3マイルドは膝をガクンろ力なく落とし、糸の切れた人形のようにずっと倒れ伏せたままピクリとも動かなかった。
「「桃井!?」」
「おっと!余所見は禁止だぜ!」
2体のジンは仲間の死に唖然とする2人のG3マイルドにお構いなく、生き残っているG3マイルド達の周りを囲むように飛び回り、マシンガンを駆使して2体に肉迫する。
G3マイルド達は警察の特攻隊などが持つライオットシールドを小さく似せたシールドで自分の身を庇いながらながらジンに向かってスコーピオンを連射する。
ジン達は軽やかな動きでそれを空中で躱し、スラスターを全開にしながら目にも止まらぬ速さでG3マイルドの1人の懐に近づき、空かさず重斬刀を取り出してG3マイルドの胴体を切り上げる。
「ぐわあ!!」
「っ!?」
ジンの斬撃を食らったG3マイルドの1人は胸部のボディに激しい火花を飛び散らせ、大きく吹っ飛んだ。
斬撃を食らったG3マイルドはそれによって受けたダメージが深かったため、苦しそうに胸を押さえて呻いている。
「ぐぅ…!」
「川嶋!ぐわああ!?」
「余所見してんじゃねえって言ってんだろ!」
もう1人生き残っているG3マイルドが苦しく呻いている仲間に気を逸らしている隙に、ジンの一体がアサルトライフル を連射してG3マイルドの体のいくつかの箇所を弾丸で嬲り続けられる。
「ぐわああああ!」
「終わりだぁ!」
動きを止められたG3マイルドは弾に嬲られるがままの状態となり、ジンは背部スラスターを急加速して一気に嬲られ続けるG3マイルドの懐に入り込み、重斬刀を横に薙いで首を切り飛ばした。
頭部はそのまま吹っ飛び、頭部を失ったG3マイルドの胴体はそれが致命傷となり、糸の切れたマリオネットのように力なく倒れ力尽きた。
「日村ぁぁぁ!」
「次はてめえだ!」
「がはぁ…!?」
まだ生き残っているG3マイルドがまたもや死んでいく仲間の死を直視して信じられないような思いでいる事に構わず、彼に取り付いたジンは容赦なくその腹部に重斬刀を突き立てた。
それを食らった最後のG3マイルドは力尽きてそのまま事切れた。
G3マイルドはジン3体になす術ものなく、あっという間に全滅させられてしまった。
「川嶋!?日村!?桃井!?ぐわああ!?」
「おらおら!てめえは人の心配をするほど余裕があんのかぁ…?」
リュウは仲間3人の死を見て動揺し、それを見逃さないネロスガンダムはリュウを蹴り飛ばした。
リュウ達GUYSはグドンとネロスガンダムを相手にしていたが、こちらも苦戦を強いられ4人はグドンの攻撃で重傷を負い戦闘不能になって倒れ伏している。
中には死んだ者もいる…。
リュウもネロスガンダムの蹴りが効いたのか、立つ事も出来ない。
GUYSのスーツは身体能力のパワーアシスト機能と生命維持機能を持つが、痛みまでは防ぎ切れず身体中に焼き付くような激痛があちこち走る。
GUYSもG3マイルドもほぼ壊滅状態であった。
「クソッタレが…!」
「ははは…!てめえらとの遊びもここまでだ!
くたばれぇ!」
ネロスガンダムは右足を後ろに勢いよく引いてリュウに蹴り付けようとした。
リュウは反射的に目を瞑る。
「っ!隊長!ぐはあああああ!」
「っ!?渡辺ぇ!?」
1人のGUYSの隊員はリュウの危機を見て飛び出し、身を挺してネロスガンダムの攻撃をその身に受けた。
蹴りをまともに食らった隊員は近くに駐車してあるシャーロックとデ・ラ・ムのところまで大きく吹っ飛ばされた。
「本当に彼女は大丈夫なんですか!?」
「静かにして!彼女は衰弱して危ない状態なの!今は私を信じて!」
シャーロックとデ・ラ・ムの置いてある駐車場ではキラと少女が女性隊員に手当て受けていた。
女性隊員は少女の体に所々血が流れている傷口に薬を付けて包帯で押さえている。
キラは少女の体を押さえて包帯を巻かせたり、水を少しずつ飲ませるなど手伝いをした。
先ほどまで弱りきっていたが、今は女性隊員による手当てなどでさっきよりはマシな状態になっている。
しかし油断は出来ず、こうやって彼は看病し続けている。
あとはこのまま彼女が元気になって欲しい…。
どうかこれ以上何事もなく彼女を元気にしてくれ…。
キラは少女の回復をただただ祈った。
その時、近くで何かがシャーロックにぶつかる音が大きく聞こえた。
何事かとキラと女性隊員は物音がした方に駆け付ける。
そこにはシャーロックにもたれかかるように血を吐きながら倒れているGUYSの隊員がいた。
さっきキラ達を助けにいった隊員であるその人だ。
キラはその光景に目を見張らせながらも隊員ところまで駆け付けた。
「大丈夫ですか!?しっかりして下さい!」
「逃げ…て…早く…みんな…逃げ…るん…だ……がはっ!」
「なっ!?もう喋らないで下さい!これ以上はあなたの体が…!」
隊員が血を吐いて眼の下が暗くなっていき、瞳孔が段々と薄く閉じていく様を見て、キラは隊員に死が迫る予感を感じさせ身体中に寒気が走る。
「頼む………。お前達…は…生きて…くれ……………」
隊員はそう告げると手をだらんと伸ばしたまんま、そのままピクリともせず目を瞑ったまんまであった。
「そんな……しっかり…!しっかりして下さい!しっかり!」
キラは何度も隊員の体を揺するが、何度やっても返事も反応も来ない。
その隊員はしばらくして息を引き取ったのだ。
「う、うわああああああああ!!」
キラは悲しみと恐怖のあまりに思わず叫んだ。
「てめええええ!」
「うるせえ!」
「グハッ!」
リュウは仲間を殺したネロスガンダムに激怒しトライガーショットを構えるが、ネロスガンダムはリュウを鬱陶しそうに蹴り飛ばし、リュウはそれを受けて気絶した。
キラは1人のGUYSの隊員のあっけなくなく朽ち果てた姿に目を大きく見開いたまま体を震わせた。
人が死んだ。
自分の目の前でなんの意味もなく無残に死んでいった。
彼だけではなく、ジンに殺されたG3マイルドの遺体などが目の前で転がり、GUYS隊員の何人かも倒れて伏したまんまピクリと動かない。
キラは初めて見る生々しい人の死に言葉が出せず、身体中の血の気が引いていく。
なんでこんな簡単に人が死ぬ?
何故彼らはこんな非業の死を迎え入れなければいけない?
自分達を守ろうとしたからなのか?
なんでこんな意味も無く人がいっぱい死ぬんだ…?
キラの心は理解出来ない理不尽な人の死にやり場のない悲しみと怒りを不意に感じた。
だがそんなキラの心境など知る由もなく、ネロスガンダムやジン、グドンがキラ達を囲んで立っている。
「へへへへ!こんなところに居たのか…!」
「止めなさい!この子達に近付いたら撃つわよ!」
「やれグドン。」
「ギシャアア!」
「がはぁ…!」
ネロスガンダムに指示されるが否や、グドンは腕の鞭を女性隊員に叩きつけ、それを食らった女性隊員はシャーロックのドアにぶつかって気絶した。
「ユナさん!」
「これでてめえを守るものは無くなった!さあ、さっさと死にな!」
ジン達はアサルトライフルの銃口を一斉にキラに向けた。
絶対絶命。
キラの頭にはこの言葉が脳裏に浮かんだ。
自分達を守ろうとした人達は死に、自分は今まさに殺される一歩手前である。
キラは先ほどの隊員の死ぬ光景が蘇り、背筋に冷たいものが流れるだけで身動き出来ない。
死ぬのか?
自分も…?
このまま少女も守れずに無碍に死んでいくのか?
何も出来ないまま死ぬのか…?
……そんなのは嫌だ…!
こんなところで何も出来ないまま死にたくない。
それに自分にはまだ果たしてない事がある。
後ろには今も怪我で苦しんでいる少女がいる。
自分が死んでこの子を奴らに奪われたら彼女はもっと苦しむかもしれない。
キラはそれが何よりも嫌であった。
力が……力が欲しい……。
今ここを切り抜ける力が……後ろにいる少女を守る力が何よりも欲しい………。
「くっそおおおおおおおおおおお!!!」
キラは渇望にも似た思いが胸の中で高まり、声の限りに叫んだ。
だがその時不思議な事が起こった。
キラの叫びに呼応するかのように、キラの周りからでてくる眩いばかりの光が彼を包んでいく。
キラはその眩しい光に目を瞑った。
暫くして目を開くとそこには何もない白い空間で目の前に広がっていた。
どこを見渡しても辺り一面の白で埋め尽くされている。
ここは一体どこなんだ…?
キラが素朴な疑問を持ったその時であった。
呼んで……。
何処からか女の声がした。気のせいか、今さっきまで自分が守ろうとした女の子の声と同じだ。
呼んで……。あなたの祈りを……あなたの望むもののために今欲している力の名を………。
さあ…………。
少女が何を言っているのか詳しくは分からない。
でも何故だか知っている気がする……。
彼女が自分に求めるその名を………。
そして今自分が欲している物はなんなのか……。
だから声に出して叫ぼう………。
「キラ・ヤマト………!」
キラは天井を突き刺すように、右腕を伸ばす限り上に伸ばした。
それはずっと前から知っているような気がするほど、懐かしいものであった。
「フリーダム…ガンダム…!」
そして声に出して叫ぼう…。
自分の今欲する力の名を……。
「行きます!」
そして彼の体にもう一度光が纏わり付き、先ほどより眩いばかりの光が解き放たれた。
「うわあ!な、なんなんだ一体!?何がどうなってやがる!?」
ネロスガンダム達の目の前には眩しい光の塊が夜空の雲を突き抜ける宇宙まで届きそうなほど高い光の柱となっていた。
光の柱は眩いばかりの光を放ち、ネロスガンダムは目を塞ぐ。
暫くすると光が晴れ、そこにはキラではない何かが立っていた。
それは輝くような白い四肢をし、ボディはグレイと青のツートンで纏められ、巨大な翼を背中に有している。
そして頭には角にも似た4本のある特徴的なアンテナが付いていた。
その姿を見てネロスガンダムは驚きのあまり目を瞠る。
そう…この姿はまるで……。
「なにぃ!?奴もガンダムだとぉ!!」
そう…そこには6枚の翼を持った天使、フリーダムガンダムが立っていた。
キラの欲しがった思いは夢で見た戦士の1人『ガンダム』となって、キラの力となったのだ。
こればかりはネロスガンダムも侮る事が出来ず、焦った。
ジンもその姿を見て震え出し、グドンも少しだけ尻込んでしまっている。
「え〜い!何を怖気付いているんだてめえら!敵はたったの1人だけだ!早く向かえ撃てぇ!」
ネロスガンダムがそう言うため、止むを得ずジン達もアサルトライフルを撃った。
しかしフリーダムガンダムは微動だせずにその場で立っていたままだった。
当然、アサルトライフルの弾はフリーダムガンダムに到達し直撃する。
だがフリーダムガンダムは全弾食らっても毛ほどのダメージも食らってないかのように変わらずその場に立っている。
それを目にしたジン達は目を疑いたくなった。
「なっ…!?なにぃ!?」
「無傷だと…!」
「くっ…!アサルトライフルがダメならこれでも食らえ!」
一体のジンがフリーダムガンダムに向かってキャットゥス 500mm無反動砲を構え、それを発射した。
それは見事にフリーダムガンダムに直撃し、爆煙がフリーダムガンダムを覆った。
キャットゥスを撃ったジンはやったなと確信する。他のジン達も同様に思った。
だが次に目したものは彼らの予想とは180度違うものだった。
煙が晴れた先には無傷のまま左腕を前にして防御体勢のまま立っていたフリーダムガンダムがそこにいた。
「バ、バカな…!直撃だぞ…!?」
「奴は化け物か…!」
ジン達は信じがたい思いでそれを見つめる。
フリーダムガンダムの装甲のあまりの頑丈さに恐れおののき、戦慄感を覚えた。
ジン達の攻撃を受け何もしなかったフリーダムガンダムは、今度は自身の6枚のウイングバインダーを広げて空に飛び上がり、ジン達に接近し始めた。
「ひぃ!こっちに来る!」
「怯むな!撃て!撃ち尽くすんだ!」
ジン達は恐怖で声を滲ませながらアサルトライフルを連射した。
その攻撃が無駄だと分かっていても敵が自分達に接近して来るため、恐怖と焦りから反射的にアサルトライフルを撃ち続けるしかなかった。
だがフリーダムガンダムは重量や空気抵抗が存在してると思えないように錯覚してしまうほど砲撃を躱していく。
フリーダムガンダムは右腰のサイドスカートに装備されてある円筒形状の突起物取り出し、一方の端から光の刀身をした武器『ラケルタ・ビームサーベル』を展開して2体のジンに迫る。
白い疾風が駆け抜けたかのように、フリーダムがバレルロールしながらサーベルを振り回して通り過ぎていった。
その直後、2体のジンの手足が吹っ飛んだ。
フリーダムガンダムは目に止まらぬ素早い速度でまずは右のジンの右腕、右脚を切り飛ばし、次に左のジンの左腕、左脚を切り飛ばしたのだ。
2体のジンはバランスを崩し、一瞬にして戦闘不能となった。
「「ぐわああ!」」
「こ、この野郎…!ナメやがって…!これでも食らえ!」
残り一体のジンは重斬刀を抜刀し、フリーダムに接近した。
ジンはすかさず重斬刀を大きく振りかぶる。
だがそれもフリーダムガンダムにあっさり躱されていく。
ジンは負けじと重斬刀を遮二無二になって振り回すが、フリーダムガンダムに軽い動作で悉く避けられる。
そしてジンの重斬刀を躱したその後、フリーダムは重斬刀を突き出した右腕の下から懐に入り込み、ビームサーベルで重斬刀を持つジンの右腕を切り飛ばした。
切り飛ばされた右腕を見て信じられないかのように目を見開いたその次の瞬間、フリーダムは目に止まらぬ速さで左腕と両脚をビームサーベルで薙いだ。
両腕、両脚を捥がれたジンは自身の胴体を支えるものがなくなり、呆気なく地面に落ちてしまう。
最後に残ったジンも戦闘不能になって、ジン部隊は壊滅となった。
「ぐわあ!くっそおお!」
「ギシャアアアアア!」
今度はグドンがフリーダムガンダムに戦闘を挑み、両腕の鞭で彼の両腕を縛り付けた。
グドンはこのままフリーダムガンダムの両腕を締め潰そうと鞭に更に力を込める。
グドンは両腕の塞がっているフリーダムガンダムに何も出来ないと思い自分の勝ちを確信する。
だがフリーダムガンダムの両腰にマウントされてあるサイドスカートが変形し、折り畳まれた2つの砲身が形となった。
フリーダムガンダムの兵装の一つ『クスフィアス・レール砲』である。
フリーダムガンダムはすぐさまクスフィアスレール砲を発砲し、グドンの両腕に当てた。
それを食らったグドンの両腕の鞭に相当する部分は胴体から千切れ、フリーダムガンダムの両腕は自由となる。
「ギ、ギシャアアアアア!」
グドンは激痛のあまり、高らかに吠えた。
「グルル…!ギシャアアアアア!」
しかし腕を取られた事を怨み、グドンはフリーダムガンダムを睨みつけて突進していく。
もちろんフリーダムガンダムも迎え撃った。
そしてフリーダムガンダムはグドンとすれ違いざまにビームサーベルを右に振り上げ、通り過ぎていった。
両者の間に暫く沈黙が続く。
沈黙を破ったのはグドンであった。
グドンは膝からガクンと落とすと、その胸にはフリーダムガンダムがビームサーベルで切り付けた痕が残っており、グドンは力なく倒れ尽きた。
そしてグドンが倒れた次の瞬間、グドンは爆発しその体を四散させていった。
「な…!?あのグドンまでやられただと…!?
くっ…!あのガンダムの戦闘力は分からねえ上にこれ以上の損害を出させるわけに行かねえ…!退却だ!」
ネロスガンダムは手榴弾のようなものをを投げ出すと、煙幕が噴出され辺り一面が白い煙で覆われた。
フリーダムガンダムは左腕で顔を覆う。
煙が晴れるとそこにはネロスガンダムと戦闘不能になったジンはいなかった。
ネロスガンダムはこの煙幕弾を使って、生き残った部下を引き連れ撤退したのだ。
フリーダムガンダムはそれを追う気はしなかった。いや、『出来なかった』のだ。
フリーダムガンダムはまた眩い光に覆われていった。
光が晴れるとそこにはフリーダムガンダムではなく、先ほど眩い光に包まれる前のキラ・ヤマトが立っていた。
初めての戦闘で疲れたのか、キラの体は汗ばみ目眩もしていた。
すると間も無くしてキラは倒れ、そのまま深い眠りについた。
誰もが倒れ伏していた。
中には気絶している者がおり、死んでいる者もいる。
だがその中で先ほどまで怪我で苦しんでいた少女が完治しており、倒れているキラに近寄り座り込んだ。
その寝顔を見つめながら、少女は無表情ながらも子供の頭を撫でるようにキラの頭を撫でた。
夜空の風が彼の短いピンク髪を軽やかに凪いでいた。
誰も今知らないであろう…。
キラが新たなガンダムとなった事を…。
そしてこの少女が完治した事も…。
こうしてキラの平凡な日常は人目の届かない時間帯で崩壊し、それと同時に新たな始まりを意味していた…。