うみねこのなく頃に《虚無の魔導師》   作:蛇騎 珀磨

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第一の晩

第一の晩(1)

 

 

 

 白い部屋...。何もかもが白い部屋。

 この場所に留まり続けて、人間の寿命の100倍は余裕で超えた。もう《死神》でいるのは疲れた。

 今まで訪れた『世界』の数々。それのどこかにヒントがあった筈なのだ。

 

 もう一度訪れてみよう。

 俺が死ねる条件を探しに......。

 

 どこがいいだろうか。

 んー...。とりあえず、あそこにしよう。

 綺麗に咲く薔薇がある庭園。黒魔術かぶれの老人が住む屋敷。そこで起こる惨劇を笑う魔女がさまよう島。

 

「六軒島。場所は、薔薇庭園」

 

 俺の声に反応して、白い部屋に白い扉が現れる。

 やけに古びている取っ手を持つとギシギシと軋む。...やべ。壊れないように、そっと引き開く。その先の薔薇庭園に足を踏み入れると、物語は始まった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 雨が降っている。風も強い。周りにある木々がしなり、ザワザワと音をたてる。そんな中でも、ここの薔薇庭園は美しく思えた。

 

「もう少し前の方が好きだったかな。ま、これはこれで...」

「おい!」

「それにしても、風が強いな。せっかくの薔薇がなぎ倒されなければいいんだが...」

「おい! 聞いてんのか!」

 

 五月蝿いな。今は薔薇を見て楽しんでるんだ。邪魔するな。......でもまぁ、ここで返事をしないと話が進まないんだろうな。

 

「つかぬ事を伺うが、あんたは右代宮の人間か?」

「お前は誰だ。黙秘は認めねえ」

「俺は、金蔵とベアトリーチェが招いた客だよ。ほら、これがその招待状だ。危険物は入ってない。確認してくれ」

 

 懐から取り出した封筒をひったくられた。

 乱暴だなぁ。昔の俺だったらキレてるところだ。

 ちゃんと封筒には、右代宮家の証である《片翼の鷲》が描かれている。封蝋の印も、当主の指輪によるものだ。これらは全て本物。【赤】で宣言しても問題無い。

 

「確認は終わったか? じゃ、屋敷に入ろうか。いつまでもこんな雨の中に居たんじゃ、風邪を引いてしまいかねん」

「──お前、本当に何者なんだ?」

「ふっ...。お前と同じ右代宮の人間だよ。──留弗夫」

 

 右代宮 留弗夫。金蔵の二人目の息子。

 おーおー。驚いた顔は金蔵とよく似てるな。

 屋敷に戻ったら詳しく話すことを約束し、俺たちは薔薇庭園を後にした。

 

 

 

 

 屋敷の扉をくぐった先は、昔と変わらない景色だった。

 壁も天井も床も...。昔と変わらず豪華な装飾で彩られている。

 

「懐かしいなぁ」

「......」

 

 この屋敷に来るのは何年ぶりだろうか。そんな風に懐かしんでいると、横からタオルを差し出される。

 

「源次か。ありがとう」

「ようこそ、おいでくださいました」

 

 タオルを受け取り、深々と頭を下げた男の名を呼ぶ。

 こちらの様子を伺う留弗夫の視線が気になるが、俺は「今、屋敷内にいる全員を呼んでほしい」と源次に使いを頼む。一人一人に説明するのが面倒だ、と付け足すと、源次は深々と頭を下げて踵を返す。

 

「俺からも頼むぜ源次さん。皆には、“19人目がいた”と伝えりゃいい」

 

 留弗夫の付け足しに源次は再び頭を下げ、短く返答する。その、一つ一つの動作には隙が無く綺麗だと関心させられた。階段を駆け上がって行く源次の背中を見送り、再び留弗夫と2人きり。空気が張り詰める。

 

「............寒っ」

 

 長く雨に打たれたせいだろう。全身の毛穴が縮こまり、体をブルブルと震わせる。濡れた髪や体を拭い、雨をたっぷり吸い込んだ上着も脱いだ。ミシ......と右肩の“接続器具”が少し痛んだ。直に慣れるといいんだが...。

 

「お前、その腕は...」

 

 留弗夫が、俺の腕を見て声を詰まらせる。

 驚くのも無理はない。俺の右腕は偽物...義肢だ。それにしても、初めて見る奴は同じ反応をするんだな。若い頃の金蔵を思い出す。あいつも、目を丸くしていたな。留弗夫と一緒で、人に指差して。

 とはいえ、この腕を失った経緯を話すつもりはない。『こことは違う世界』で失くしたと言ったところで、誰が信用するというんだ。

 

「昔、事故でな......」

 

 伏し目がちに告げると、留弗夫もそれ以上は追及しようとはしなかった。

 ふと視線を外した先に、小さな女の子がいた。確かあの子は...。その子に話し掛けようと近寄る。留弗夫の静止を強要する声は無視した。親族たちが集まるまでの暇潰しにするだけだ。

 女の子も俺に気付いたらしいが、その表情は強ばり、子供らしい無邪気さは感じられなかった。俺の動作に一々反応して、体まで強ばらせる。そのビクビクする姿は、ドSの本能をくすぐられる。...だから子供は好きなんだ。

 

「こんにちは、真里亞。俺は《森の狼さん》...ベアトリーチェの友人だ」

「!? ......うー。マ、ママが知らない人とお話ししてはイケマセンって言った...」

 

 んー...。

 真里亞と会うのは初めてじゃないんだがなぁ。覚えてないか。

 

「なら大丈夫。俺は《狼さん》だから、楼座には叱られる事はない。......だが、もし叱られそうになっても、俺が魔法で止めてやろう」

 

 『魔法』と聞いて、ようやく真里亞の顔が上がった。その表情は、驚きつつも嬉しそうに目を輝かせている。

 

「狼さん、魔法が使えるの!?」

「ベアトリーチェの友人だと言ったろう。忘れたのか、俺とは以前にも会ったことがあるぞ。《原初の魔女 》」

 

 そこまで言ったところで、上の階から人の群れが駆け下りて来た。地響きのような足音が鳴る。

 顔ぶれは、やはり右代宮家の親族たちだ。

 

「19人目がいたって本当なのっ!?」

「真里亞ちゃんの側におる奴がそうか!」

「ま、真里亞っ! その人から離れなさい!」

 

 ──絵羽、秀吉、楼座。

 

「貴方は、一体...何者ですか?」

「あれは......義手? あれに刻まれてるのって...」

「あいつが...あいつが嘉音くんと父さんをっ!」

 

 ──夏妃、霧江、朱志香。

 

 発言した順に名を上げるなら、こんな感じか。

 あと、驚いて声にならない様子の青年が2人。戦人と譲治だ。これで全員?......何人か足りないな。

 

「源次。これで全員か?」

「はい」

 

 ......なるほど。第一の晩は終了したのか。

 源次の説明によれば、ここにいない人間は7人。金蔵と蔵臼の他、使用人の熊沢、紗音、嘉音、郷田。金蔵の主治医の南條。

 ──さて。睨んでくる親族たちに説明するとしようか。

 

「俺の名は、右代宮 狼銃。金蔵と魔女ベアトリーチェの友人だ。言いたい事か聞きたい事があるなら、順番に頼む。一応、全員の顔と名前は覚えているつもりだが、一人一人確認させてもらう」

 

 勝手な事を言っている自覚はある。

 おー。皆、怖い顔してるなぁ。

 

「最初の確認だけど、貴方、本当に右代宮家の人?」

「ああ。あんたは霧江...だな?」

「あら、本当に知ってるのね」

「一応は、な。因みに、アンタは留弗夫の後妻なのも知っている」

 

 冷静を装っていた表情が崩れる。が、一瞬で元に戻る。ドS仲間。......そう思っているのは俺だけだろうな。

 

「それで? 貴方が右代宮の人間である証拠は?」

「この義肢を見ればわかるだろう」

 

 俺は右腕を前に突き出す。義肢に描かれているのは《片翼の鷲》。右代宮の人間である証拠だ。

 

「それだけじゃ納得いかないわ!」

「絵羽か。...なら、どう証明したらいい?」

「っ...! そうだわ、お父様の碑文。お父様の友人なら、あの碑文の事は知っているはずよねぇ?」

 

 碑文。碑文ねぇ...。あんな言葉遊びが、碑文。

 ──笑える。

 それを黄金の隠し場所を示す鍵にする金蔵も、未だに解けずにいるコイツらも。──笑える。いや、我慢だ我慢。

 

「お安い御用だ。そんなものでいいなら、いくらでも」

 

 

『懐かしき、故郷を貫く鮎の川。

 黄金郷を目指す者よ、これを下りて鍵を探せ。

 川を下れば、やがて里あり。

 その里にて二人が口にし岸を探れ。

 そこに黄金郷への鍵が眠る。

 

 第一の晩に、鍵の選びし六人を生贄に捧げよ。

 第二の晩に、残されし者は寄り添う二人を引き裂け。

 第三の晩に、残されし者は誉れ高き我が名を讃えよ。

 第四の晩に、頭を抉りて殺せ。

 第五の晩に、胸を抉りて殺せ。

 第六の晩に、腹を抉りて殺せ。

 第七の晩に、膝を抉りて殺せ。

 第八の晩に、足を抉りて殺せ。

 第九の晩に、魔女は蘇り、誰も生き残れはしない。

 第十の晩に、旅は終わり、黄金の郷に至るだろう。

 

 魔女は賢者を讃え、四つの宝を授けるだろう。

 

 一つは、黄金郷の全ての黄金。

 一つは、全ての死者の魂を蘇らせ。

 一つは、失った愛すらも蘇らせる。

 一つは、魔女を永遠に眠りにつかせよう。

 

 安らかに眠れ、』

 

 

「───我が最愛の魔女ベアトリーチェ」

 

 一言半句、間違いは無い。

 俺の隣りで、小さな手で拍手をする真里亞以外は、“絶句”という言葉が似合いそうなほど呆然と立ち尽くしていた。

 

「納得していただけたかな? 次は、俺からの質問だ。──他の奴らはどうしたんだ?」

 

 ただの確認のつもりだったんだが、彼らには違うように聞こえたらしい。俺の質問をかき消す勢いで、少々口が悪い声が「ふざけんな」と割り込んだ。声の持ち主は少女。名を朱志香という。

 

「お前が、父さんと嘉音くんを殺したんだ!」

「何の話だ。俺は客として来ただけだぞ。よかったら話してくれないか──」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「──ベアトリーチェ」

 

 視界が変化する。

 目の前に広がっているのは玄関ホールではない。俺の居た世界によく似た白い部屋だ。

 久しぶりに会う友の名を呼ぶと、そいつは嬉しそうに駆け寄って来た。

 

「ロー! ローではないか!」

 

 俺を「ロー」と愛称で呼ぶのは彼女くらいだろう。

 彼女の名は、魔女ベアトリーチェ。金髪に蒼い目。真紅のドレスを身にまとっている。

 

「元気だったようだな。順調か?」

「うむ。だが、やはり奴の魔法を否定する力は侮れん」

「それはそれは...やりがいがありそうだな」

 

 ベアトリーチェが視線を移す先に、今にも襲いかかって来そうなほど睨んでいる人間──右代宮 戦人の姿があった。

 やはり、戦人は金蔵の若い頃によく似ている。ただ違うのは、魔法を否定している事だけだろうか。

 

「ゲーム盤の外で会うのは初めてだな。右代宮 狼銃こと、ローガン・R・ロストだ。好きに呼んでくれ」

 

 左手を差し出す。が、弾かれた。

 拒絶。嫌悪。疑念。不信。その全ての感情をごちゃ混ぜにしたような眼差し。その手に握られているのは、子供むきの髪留め。

 

「......ゴアイサツ、だな」

「うるせぇ。俺は、魔法も魔女も信じねえ。お前は誰だ!!」

「そう興奮するなよ...。ちゃんと答えてやるから」

 

 俺はその辺の椅子に腰を下ろす。少し腰をズラして、背もたれに寄り掛かって足を組んだ。ベアトリーチェが続き、ようやく戦人も腰を下ろした。

 独りでに現れる紅茶や菓子を手に取りながら、俺はもう一度名乗った。

 

「...俺はお前を知らない」

「そりゃそうだ。この『世界』では、お前と俺は過去に出会った事はない。むしろ、イレギュラーは俺の方だ」

「お前、どっち側なんだ?」

「中立だ。どちら側の味方でもない。目的の為に、この『世界』に来た。...まあ、《虚無の魔導師》なんて呼ばれてはいるがな」

 

 他にも、《死神》だの《狭間の住人》とも呼ばれていると伝える。戦人の眉間のシワがより深くなるが、嫌悪は薄まった気がする。

 

「......単刀直入に言うと、今回のゲームは俺が引き継がせてもらう」

「はあ!?」

 

 当然の反応だな。ベアトリーチェとのゲームは始まったばかり。そこに急に現れた部外者に、ゲームを乗っ取られでもしたら...。こんな心境だろうか?

 

「安心しろ。俺が引き継ぐのは出題者の方だ。このゲームに勝てたら、ベアトリーチェに勝ったのと同じにしてやるよ」

「ほ...本当かっ!? 俺は帰れるんだな!」

「ただし、負けた時は俺の言う事を聞いてもらう。...どうだ? 悪い話じゃないだろう?」

 

 手に取った紅茶を飲み干し、戦人の返事を待つ。俺にとっては、勝っても負けても同じ事。迷う必要はないと思うんだがな...。戦人は、何を迷う?

 三杯目の紅茶を飲み干したところで、戦人の答えは出た。

 

「そのゲーム、受けさせてもらう」

 

 決意が浮かぶ眼差しに、口の端が上がった。

 戦人は、手に持つ髪留めに「もうちっと、待っててくれよ」と小さな声で囁いた。

 

「じゃあ、俺のゲームを始める前にこれまでの出来事を説明してくれ。頼んだぞ、ベアトリーチェ」

 

 気合いが入った返事をしながら、ゲーム盤上の指し手を巻き戻す。

 一手目、六軒島。薔薇庭園にて、ゲームの開始を告げる。

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

第一の晩 (2)

 

 

 

 

 1986年10月4日。六軒島、薔薇庭園。

 

 港から続く小道を駆け上がる影が4つ。先陣を切って薔薇庭園に足を踏み入れたのは、最も幼い少女だった。

 

「うー! 真里亞がいっちばーん!」

 

 その後ろから年頃の少年少女、最後はやや太り気味の青年が遅れて辿り着いた。更に、その後ろから大人たちが続く。久しぶりに会えてはしゃぐ子供たちに、それぞれ思い思いの言葉を口に出していた。

 そんな彼らを出迎えるのは、薔薇庭園と1人の使用人。華奢な体格の少年。その少年が頭を垂れ歓迎の挨拶を済ませると、ただ1人首を傾げた少年に、真里亞が紹介を始めた。

 

「戦人、戦人。嘉音だよ」

「へぇ。嘉音くん、っていうのか。俺は戦人。よろしくな」

「はい...よろしくお願い致します。では、僕は他に仕事がありますので失礼します」

「あ、おい......」

 

 戦人の呼び止めに応じることもなく、嘉音は足早に去って行く。横から、少女...朱志香がフォローするくが、戦人は気にしていない様子で諭した。

 それからは、子供たちと大人たちで分かれて行動する。数年参加していなかった戦人は、真里亞と一緒になって走り回った。そこで紗音とも再開し、雲行きが怪しくなってきた為にゲストハウスへと引き上げたのだった。

 

「あれ? 真里亞は?」

 

 ふと、後ろを振り返ると真里亞の姿が無かった。

 きっと母の楼座の所だろう、と結論が出て、再びゲストハウスへと足を運んだ。

 

 

 

 

 数時間後。雨風は激しくなり、窓の外は真っ暗だった。

 ゲストハウスにある通称いとこ部屋には、戦人、朱志香、譲治の3人が居た。カードゲームで戦人が1人勝ちしている真っ最中だ。

 

「紗音ちゃんも嘉音くんも来ればよかったのにな」

「無茶言うなよ。今年は使用人が少なくて手が回らないんだ。紗音も嘉音くんも遊んでる暇は無いってさ」

「確かに、今年は少ないね。以前は、あともう3、4人はいたと思うよ」

「ふーん...」

 

 ──コンコン。

 ノックの音に返答すると、扉の向こう側から嘉音の声がした。食事の用意が済んだ為、本館の食堂へ来てほしいとの事だった。3人が支度を始めると、扉の向こう側にいた嘉音が顔を覗かせ、キョロキョロと辺りを見渡す。どうしたのか尋ねると、少し焦りを見せた。

 

「真里亞様は、御一緒ではないのですか...?」

「いいや。俺たちは楼座おばさんと一緒にいると思ったから」

「楼座様が、皆様と一緒だろうから...と」

「なんだって!?」

 

 互いに顔を見合わせ、最悪の事態を想像してしまう。

 急いでゲストハウスを飛び出し、全員で真里亞を探し回った。その際、同じく真里亞を探す楼座と会い、最後に見たという薔薇庭園での捜索が始まった。

 数分後、白い傘をさす真里亞を見つける事が出来た。

 真里亞曰く、傘はベアトリーチェから借りた物であるらしい。嬉しそうに話す姿を見ながら、戦人も朱志香も譲治も楼座も、本気にはしなかった。

 

 

 

 夕食が済み、食後のお茶を楽しむ皆を凍りつかせたのは、真里亞が取り出した一枚の封筒。それには《片翼の鷲》が描かれ、当主の指輪の封蝋が押されていた。誰が尋ねても、真里亞は「ベアトリーチェに貰った」と答えた。いくら聞いても埒があかない、と秀吉の提案で手紙の内容を読み聞かせてもらうことになった。

 

「じゃあ読むね、うー!

 

『拝啓、右代宮家の皆々様方。

 私、右代宮家 顧問錬金術師を務めますベアトリーチェと申します。長年、契約の下 右代宮家に仕えて参りましたが、先刻 金蔵様より契約の終了を受け、これを受理致しました。

 よって契約に従い右代宮家の財産や家督は全て回収させていただきます。右代宮家の全財産は私の物となるのです。

 ですが、金蔵様は皆様にもチャンスをお与えになりました。内容は以下の通りです。

 

【契約条項】

 六軒島のどこかにある隠し黄金を探し当てた者を次期当主と認め、ベアトリーチェは財産を回収する権利のを失う。

 

 隠し黄金の在処は、我が肖像画の碑文にて記してあります。

 では、今宵がいい思考論争の夜になることを祈って。

 

追伸

 明日、客人を招いておりますので手厚い歓迎をお願い致します。

 

《黄金のベアトリーチェ》』......」

 

 スラスラと文章を読み上げた真里亞が満足気に顔を上げた。誰かが噴き出したのをきっかけに、その場にいる全員が笑い声を上げた。手紙の内容と、それを信じる真里亞の幼さを嘲笑う。

 

「手の込んだイタズラだな。誰が思いついたんだ? どうせ、戦人なんだろ?」

「何言ってんだよ親父。俺たちは真里亞を探すまでずっと3人でゲストハウスに居たんだぜ? 親父たちの誰かじゃねえのか?」

「馬鹿言え。こちらとちゃ、兄弟仲良く話し合いの真っ最中だったぜ。親族じゃないとなると...使用人の誰かじゃねえのかい?」

 

 名乗り出る者はいない。全員が顔を見合わせて、首を傾げる。

 

「......え?」

「お、おいおい。全員違うって言うつもりかよ」

「もしかして...じい様、とか? ......なあ、真里亞。俺にもその手紙をみせてくれよ」

 

 この場に居る者じゃないとすると、残っているのは未だに書斎から出て来ていない金蔵のみ。真里亞は、大好きなベアトリーチェから貰った手紙を快く戦人に渡す。その内容が変わるわけもなく、金蔵の筆跡かどうかを確認したいと騒ぐ大人たちに手紙を奪われた。

 封筒も封蝋も、金蔵が使用する物と同じであると確認され、筆跡は違うと分かり、大人たちの顔色はしだいに悪くなる。

 

「この、客人てのは何なんや。蔵臼義兄さんは知ってはるんでっか?」

「分からん。だが、これは早急に親父殿に聞かねばなるまい!」

 

 大人たちは食堂を飛び出して行く。出遅れた楼座と子供たちと使用人が取り残された。静かになった食堂は、その広さ故にガランとして更なる沈黙を醸し出している。楼座は、戦人たちにゲストハウスへ戻るように告げ、他の大人たちの許へと向かった。

 ゲストハウスへの向かう道。浮き足立って歩く真里亞に、不思議そうに戦人が声をかけた。

 

「どうしたんだよ。やけにご機嫌だな」

「まだ内緒。明日になったら分かるよ! きっひひひひ...」

「へ、へえ...」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 10月5日。

 

 外は相も変わらず曇天。やや小降りとはいえ、雨は止む気配さえない。そんな早朝の風景を眺めながら、夏妃は溜め息を吐いた。

 廊下に出て、違和感を感じ取る。

 いくら早朝とはいえ、静か過ぎた。使用人たちは何をしているのか...。夏妃の眉間に深いシワが刻まれる。

 

「まったく......」

 

 昨夜の手紙の件で寝不足気味。無理矢理付き合わされた使用人がいたのかもしれない。だが、そんなことは関係なく突っついてくる者もいる。この親族会議の日は、いつも以上に気が抜けないというのに...。

 

「おはようございます、奥様」

「源次ですか...。何かあったのですか? 他の使用人たちはどうしたのです?」

「それが......どこにも姿が見えません。旦那様と南條先生もいらっしゃいませんでした」

「主人もですか!?」

 

 こんな早朝からどこに?

 夏妃の疑問に答えるように、源次は屋敷中を見回ったことを告げる。そして、礼拝堂に不思議な魔法陣が描かれていたことも...。

 

「あの礼拝堂は、お義父様が造らせた大切なものと聞いています。誰の仕業なのかは分かりませんが、これはお義父様への侮辱に値します。──それで...中は確認したのですか?」

「礼拝堂には鍵が掛かっておりましたので、使用人室のキーボックスを確認したところ、このような物が」

「これは!?」

 

 懐から取り出されたのは、昨夜の手紙と同じ物だった。違うのは手紙の内容。

 

 『我、少女の籠の底にて眠る。』

 

「何ですかこれは。少女とは、誰のことです?」

「少女なら、朱志香ちゃんか真里亞ちゃんじゃなぁい?」

 

 癖のある話し方、声。夏妃の頭痛が酷くなる原因の一つ。絵羽の嫌味混じりの挨拶を受け流し、夏妃は手紙を見せた。

 

「昨日の手紙と同じ物みたいね。...やっぱり、本人たちに確認するべきだと思うわ。特に、真里亞ちゃんはね」

 

 絵羽の言う事に同感する。

 真里亞は一度、ベアトリーチェを名乗る誰かに手紙を貰っている。もしかしたら、その時に鍵を貰っていたかもしれない。

 

「源次。人手を集めて礼拝堂へ向かいなさい。私は、ゲストハウスに行って確認してから行きます。絵羽さんも、同行をお願いできますか?」

「ええ」

 

 源次は、秀吉を引き連れて礼拝堂へ。

 礼拝堂の扉には、落書きにしては程遠い魔法陣が描かれていた。

 夏妃は、絵羽と共にゲストハウスへ。

 既に起床していた楼座、朱志香、譲治、戦人に事情を説明し、真里亞を起こして確認する。真里亞は、満面の笑みでそれを肯定した。

 

「うー!真里亞、手紙持ってるよ! ベアトリーチェがね、言ったの。明日、誰かが取りに来るから持っていなさい、って。はい!」

「同じ手紙...」

 

 その中身は、一本の鍵。まさしく、礼拝堂のソレだった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「なるほど。そこで、6人の死体を発見するに至る、と...」

 

 いつもの空間。ゲーム盤を前にして、ベアトリーチェ、戦人、俺の3人で囲む。

 

「因みに聞いておくが、6人は...蔵臼、南條、熊沢、紗音、嘉音、郷田、でいいんだよな?」

「妾に復唱要求か?」

「正しくゲームを進めたいなら、応じた方が身のためだと思うがな」

 

 『こんな世界』で死にたくはないだろう?

 そんな俺の微笑に、ベアトリーチェは苦笑で返す。

 戦人は不思議そうに首を傾げた。

 

「よかろう。応じようぞ。

【礼拝堂の6人は、蔵臼、南條、熊沢、紗音、嘉音、郷田である】」

「礼拝堂の中を確認したのは誰だ」

 

「【源次、秀吉、絵羽の3人だ】

夏妃は、蔵臼の死体を見た後ずっと泣き続けておったわ」

 

 ふむ。なんとなく見えてきたな。

 何故、留弗夫と霧江は参加しなかったのかが気になるところだが...。

 

「[青]を使用。

[死体発見時、留弗夫と霧江は参加していない。理由として上げるなら、6人を殺害後その場に留まり内側から鍵を掛け、死体発見の混乱に乗じてその場に紛れた]」

 

「残念でしたあ!

【留弗夫と霧江は、死体発見時までずっと自分たちの部屋の中にいた。】

妾の施した結界によって、留弗夫と霧江は部屋から出られなくなっていたのよ!」

「あっそ......」

 

 ま、そうだろうな。結界云々は無しにしても、【赤】で言った事に偽りは無い。【赤】は真実のみを語る、だ。

 さて、この後から俺がゲーム盤を引き継ぐわけだ。

 どんな盤上にしてやろうか......。

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